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シナリオ詳細

13枚銀貨と騎士の誓い。或いは、古城の騎士競技…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●13枚の銀貨
 鉄帝。
 とある古城に住み着いたのは、銀の鎧を着込んだ8人の騎士たちだった。
 古城の正面はなだらかな丘、裏手には広い湖と、人の踏み入らぬ森がある。
 澄んだ空気と小鳥のさえずり。
 人が足を踏み入れる事など、年単位で無かっただろう静謐とした土地である。
 
 古城の一室。
 8人の騎士は円形のテーブルを囲む。 
「思えば長き旅路であった」
 騎士の1人がそう言った。
 兜でくぐもったハスキーな声。
 しかして、それは確かに女性のものだった。
「古い砦や古城、遺跡を幾つも巡った。数年にわたる旅の果て、しかし我らは遂にこの地へと至った」
 無言のまま、残る7人の騎士が首肯する。
 剣や槍、盾といった彼女たちの武器はどれも古く、傷だらけだ。
 しかし、見る者が見れば、しっかりと手入れをされた上等な武具であることが分かるだろう。
「我らの先祖は遥か昔に各地へ散った。しかし、我らは今、こうしてこの地に再び集った」
 そう言って、リーダー格だろう騎士は空いたままの5つの席へと視線を向ける。
 かつて、円卓を囲んだ騎士は13名。
 彼らは城が墜ちた際、己の武具と名の刻まれた1枚の銀貨を手に各地へ散った。
 いつかの再会を約束して。
 そうして、長い長い時が流れ……彼らの祖先は、かつての城へと辿り着く。
「生憎と5つの席が空いたままだ。城も荒れ果て、仕えるべき主君も兵士もいない」
 静かな、けれど寂しそうな声音である。
 城が荒れ果てるほどの時が流れたのだ。
 既に城の名は失われ、13人の騎士たちのことを覚えている者もいない。
 栄光の時代はとっくの昔に終わった。
 13人の騎士の物語は、誰の耳に届くこともないままに歴史の一部に消えたのだ。
 だが、しかし。
 こうして、8人の騎士は……正確には8人の騎士の子孫たちは、何の因果か再会し、城へと辿り着いたのである。
「我々の再会にはきっと何かの意味がある。この場にいない5人の騎士は、砂漠の国で忠義の果てに散ったというが……ならば、彼らの想いを継ぐ者たちを新たに迎え入れれば良い」
 騎士とは血でなく、想いや誇り、矜持といった在り方によって成るものだ。
 忠義の果てに散った5人の騎士たちは、己が信念を貫いたのであろう。
 彼らが砂漠で散ったのならば、それはきっと、彼らにとって正しいことだった。
 偉大なる騎士に敬意を表し、その遺体や遺品を探し出すことはしない。
「ただ、彼らの席を空のままに残しておくのも悔やまれる。そこで、どうだろうか……かつて13人の騎士を選出したという、騎士競技を開催してみないか?」
 彼女の放ったひと言に。
 残る7人の騎士は、力強い足踏みでもって「是」と返す。
 
●騎士競技
「ぬぁー……困ったっす。面倒臭いっす。騎士ってのは、誰も彼も誇りだ規律だ栄光だってので頭いっぱいなもんなんっすかね?」
 うろうろ、うろうろ。
 往来の隅を右へ左へ彷徨いながら、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は目当ての人物が通りかかるのを待っていた。
 ことの起こりは、数時間前。
 各地を巡る旅……或いはそれを放浪と呼ぶ者もいるだろう……の途中、知り合いになった騎士たちから、イフタフは1つの依頼を受けた。
 実力が高く、誇りある者を数名ほど寄越してほしい。
 それが彼らの依頼であった。
「うぁー。荒事ならなんでもござれ、なんて言うんじゃなかったっす。想定していたのは盗賊やら魔獣の退治であって、新人騎士の選抜なんてのは門外漢もいいところっすよ」
 まず“誇りある”というのがなかなか厄介だ。
 誇りの有無とは、何を持って判断するのか。
 例えば、他者から見れば呆れるような悪党が、己の行為に誇りを持っていることだってあるだろう。
「……明確じゃないってことは、適当にそれっぽい人を放り込めばいいんっすかね? やるのは馬牽き戦車と、宝物を使った模擬試合ってことっすから、たぶん何とでもなるっすよね?」
 ねぇ、と。
 足を止めたイフタフは“あなた”の方へと顔を向ける。
「人助け、好きっすか? 戦うの、得意っすよね? ゲームは? 危険なことは無いかって? 無いことはないっすね。【必殺】とか【崩落】とか【移】とか【怒り】とか【ブレイク】とか、それなりに厄介そうでしたっす」
 どこか疲れたような口調で、イフタフは“あなた”に依頼の内容を説明した。
 曰く、8人の騎士が模擬試合の相手を求めているのだ、と。
 嘘は言っていない。
 微妙に“伝え忘れたこと”はあるかもしれないが、依頼の内容には関係の無い部分である。
「競技の内容は、2つの陣営に分かれて冠、笏、オーブの3つを奪い合うというものっす。騎士たちは城の正門に、こちらは城から200メートルほど離れた丘の上に、それぞれ陣地を設けるっすよ」
 騎士の陣地には笏を、イレギュラーズの陣地にはオーブをそれぞれ配置する。
 そして、両陣営の中間地点の平原には冠が設置されている。
 その3つを先に陣地に揃えた陣営の勝利となる……と、競技の内容はそういうものだ。
 要するにレガリアの奪い合いである。
「各拠点と平原の真ん中には、木と岩で組まれた高さ10メートルほどの塔が設置されているっす。レガリアはそこの一番上に配置する決まりッすね」
 また、各陣営にはそれぞれ5台の馬牽き戦車と馬が用意されている。
 いわゆる、チャリオットと呼ばれる乗り物だ。操縦にはそれなりの腕が必要だが、機動力といった面では多くの場合、走るよりも速いだろう。
「後は平野の西側には小規模な林、東側には墓地らしきものがあるっす。何でも競技は、伝統的にこの場所で行われているそうで……誇りに殉じた騎士達の墓前で卑怯な真似はできないから、とかそんな理由みたいっすね」
 もっとも、長い時間が過ぎる間に墓地はすっかり荒れ放題。
 今では、草原と区別も付かない有様である。
「それじゃあ、よろしくお願いするっすよ。私はあと数人、人を集めてくるっすから」
 なんて。
 不自然なほどに急いで話しを切り上げて、イフタフは“あなた”の前から立ち去っていく。

GMコメント

●ミッション
古城にて行われる騎士競技に参加し、騎士達に実力や矜持を認めさせること

●ターゲット
・8人の銀騎士×8
銀の鎧を纏った騎士たち。
着ている鎧も手にした武器も古いものだが質は良い。
まだ若い騎士のようだが腕はなかなか。
得物は剣や槍が主。2名ほど盾を持っている者がいる。

騎士の矜持:物近単に大ダメージ、必殺、崩落
 誇りや矜持を込めた武器による攻撃 

ジョスト:神中単に中ダメージ、移、怒り、ブレイク
 裂帛の気合いを込めた飛ぶ斬撃。チャリオット騎乗時に限り命中率と威力が上昇する

・イフタフ・ヤー・シムシム
情報屋。
騎士たちから受けた依頼を斡旋した若い女性。
競技の説明と現地への案内を終えた後、早々に姿を眩まそうとしている。

●フィールド
鉄帝。
とある地方の古城跡地。
古城の正面に広がる平原が主な戦場となる。
平原の距離はおよそ200メートルほど。
平原の両端(古城門前と丘の上)、および平原中央には高さ10メートルほどの塔が建っている。
塔の最上部には冠、笏、オーブがそれぞれ設置されている。
自陣営の塔に3つのレガリアを揃えることが勝利条件。
なお、平原の西側には小規模な林、東側には荒れ果てた墓地が広がっている。

※各陣営には5台の馬牽き戦車(&馬)が用意されている。1人乗り。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 13枚銀貨と騎士の誓い。或いは、古城の騎士競技…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人

リプレイ

●銀貨13枚騎士団
 罅割れた鐘の音が鳴った。
 広い平原に相対するは、8人の騎士と8人の挑戦者たち。
 冷たい風が吹き抜けて、湿った空気を何処かへ運び去っていく。けれど、いかに冷たい風であれ、騎士たちの胸に滾る熱を冷ますには至らない。
 鐘の音が13回。
 鳴り終えれば、それが開戦の合図であった。
 8人の騎士が怒号をあげる。5騎の戦車がゆっくりと前進を開始した。
 これは古の騎士競技。
 銀貨13枚騎士団への入団試験も兼ねるという伝統あるその模擬試合へ、図らずもイレギュラーズは参戦する運びとなった。
 そして、その様子を物陰から見る人影が1つ。
「あわわわ……遂に、遂にはじまってしまったっす」
 彼女の名はイフタフ・ヤー・シムシム。
 イレギュラーズが騎士競技へと参戦する原因となった者である。

 馬の蹄が大地を抉る。
 戦車を牽くために鍛え上げられた逞しい馬だ。戦場の喧噪を恐れず、剣戟に気圧されることのない勇猛果敢なる5頭の軍馬は、主たる騎士を戦場へと引き立てていく。
『RAAAALaLaLaLaLaie!!』
 怒号を上げる5人の騎士。手には剣や槍を備えた若き彼らもまた勇猛。
 数多の苦難と、長きにわたる険しい旅を超えた先に、先祖が栄華を極めたこの地へ辿り着いた猛者たちだ。実践経験に乏しかろうと、まさしく彼らは騎士である。
「来なさい! その突貫、正面から打ち破りましょう!」
 5機の突貫を真正面より迎え撃つのは、戦車に騎乗した『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)だ。戦車の立てる砂煙の中でさえ、彼の瞳が獲物の姿を見失うことはない。手にした長剣を右手で構え、左手では馬の手綱を握るその姿はまさしく騎士のそれである。
 
 騎士競技のルールは至極単純だ。
 戦場に設置された3つの塔と3つのレガリア。冠、笏、オーブを奪い合い、自陣営に揃えた側が勝者となる。
 戦車と戦車が激突し、剣戟の音を響かせた。
 まずはひと当て、オリーブと騎士の1人が互いに1撃を叩き込み、両者ともに姿勢を崩した。その真横を、残る4機が駆け抜けていく。
 どうやらまずは、中央に設置された冠を奪取する作戦のようだ。
「まぁ、それが定石ってやつだろうな。うちの作戦は連中からすりゃ邪道だろうよ」
「持ち運び禁止といったルールは無いでありますからな。さて、では行くとしましょう。騎士などと云われて黙ってはいられないであります」
 戦場中央、塔の付近で合流したのは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)と『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)である。
 馬に騎乗したエッダは砂煙の中へと駆けていき、それを見送る世界はパチンと顔の横で指を弾いた。
「矜持とかそんな面倒なものは生憎持ち合わせていないんで、俺はやりたいようにやらせてもらうぜ」
 ごうと魔力が渦巻いて、世界は精霊を呼び出した。

 戦場の中央を行く女が1人。
「単騎強襲とはよい度胸だ。さぁ、貴様の力を見せよ! 矜持を示せ!」
 彼女の接近に気づき、戦車の1つが速度を緩めた。
 一見して、戦場の似合わない少女ではあるが、どうにも視線が離せない。得体の知れない怪しさと危うさを感じ、騎士は少女へ槍を向けた。
 直後、戦車の前方で爆音と煙が撒き散らされる。
 それは世界の精霊爆弾によるものだ。馬が嘶き、戦車が止まる。
 衝撃で騎士の身体が投げ出され……着地と同時に、背後で戦車が白蛇によって粉砕される。
「実力? 矜持? どっちもウチにはない物だね。騎士なんて柄じゃない。病みさ」
 淀んだ気配を纏った少女……『死にながら息をする』百合草 瑠々(p3p010340)は自虐的な笑みを浮かべてそう告げる。
 
 一方その頃、平野での戦闘を横目に林を進む影がある。
「誇りや矜持なんざ自分本意なモンさ。誰かに定められるモンじゃあねェ。そうだと言やぁそうなる。薄汚れててもな! だろう、サンディ?」
 荒れた地面をものともせずに、素早く林を進んで行くのは暗緑色の肌をしたゴブリン……『UQ外伝』キドー(p3p000244)である。
 ギドーの先導に従って、林の中を馬車が進む。
 馬車の1つを操って『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)はにぃと口角を上げて笑った。
「ま、折角だし『新時代の騎士』っぽくやってやるとしようぜ。サンディ・ナイト(夜)ならぬ、騎士(ナイト)・サンディだ!!」
「……うぅん? 微妙に情報屋さんに騙された感がありますが、まぁ今は良いでしょう」
 鮫に騎乗した『竜眼潰し』橋場・ステラ(p3p008617)がサンディの後に続く。先行させた鳥の目を通し戦場を観察する彼女の視界には、慌てた様子のイフタフの姿が映っていた。
 キドー率いる林を進む一行は、いわば本隊と呼ぶべきものだ。
 オリーブたちが敵を惹き付けている間に古城正門の敵本陣を急襲する手はずとなっている。
 無論、容易な手段ではない。
 敵本陣には、リーダー格らしき騎士が1人と盾持ちの騎士が2人控えているのだから。
「何にせよ負けるつもりはねぇ。精々気張るとするか」
 そう言って『新たな道を歩み出した復讐者』國定 天川(p3p010201)は腰にさげた2本の小太刀へ手を伸ばす。
 敵本陣まであと数十メートルほど。
 開戦の時はすぐそこだ。

●誇りと矜持の名のもとに
 湾曲した葉状の刃が盾を打つ。
 ギドーの振るうククリナイフの一撃は、盾持ちの騎士に阻まれた。
「全員出払ってたらいいんだが……と思うがそうはいくめェな!」
「こいつ、いつの間に……どこから出て来た?」
 盾の影から槍を突き出し騎士は問う。
 キドーは肩を刺されながらも、転がるように後ろへ下がった。1歩、追撃しようとした盾持ちを、剣を手にした騎士が制止する。
「待て! 他にもいるかもしれん!」
 女の声だ。
 騎士たちのリーダー格なのだろう。盾持ちにキドーを警戒させたまま、彼女ともう1人の盾持ちは、塔を守るように1歩下がった。
「思ったより冷静だな。うし、まずは守りを崩しちまおう」
 キドーがそう告げた瞬間、彼の周囲を囲むように水の柱が噴き出した。

 激しい水流が盾を打つ。
 次いで、無数の魔弾が盾持ちの騎士に襲い掛かった。
 ククリナイフを指揮棒のように振り回し、キドーは呵々と笑ってみせる。
「貴様、俺たちを馬鹿にするのも大概に……」
「あぁ? 認めてんだぜ、これでもよぉ。アンタらはきっと強ぇんだろ。だったらこっちも、打てる手は何でも打たなきゃ失礼ってもんだ? なぁ、サンディ!!」
 怒り心頭といった様子で盾持ちの騎士が前へ出た。
 直後、林が大きく揺れて1台の戦車が木々を薙いで飛び出した。
「おぉ! 気合で!!! 駆け抜ける!!! しっかり捕まってろよお前らっ!!!」
「っ!? 林を戦車で抜けて来たのか!」
 驚愕は当然。
 咄嗟に盾を構えた判断の速さも上々だ。
 掲げた盾を馬の蹄が踏みつける。姿勢を崩して倒れたうえをサンディの乗った戦車が駆けた。
「サンディさん! レガリアは塔の最上部だけど……どうするんです!?」
 戦車に牽かれる陸鮫の背で、ステラが叫んだ。
 倒れた騎士へ向け手を翳す。
 指輪を中心に展開された魔法陣から、黒い魔力の渦が溢れる。
 撃ち込んだのは黒き魔力の奔流だ。獣の顎のようにも見える魔力の濁流が、盾持ちを飲み込みその意識を奪い盗る。
「突っ込めれば早いと思うんだ! 多分!!」
 サンディは戦車の速度を緩めない。
 まっすぐに塔へ向かって突っ込んで行く戦車の前に、もう1人の盾持ちと、剣を構えた騎士が割り込む。
 サンディの突撃を正面から受け止めるつもりのようだ。
「行かせん!」
 馬の突進を盾持ちの騎士が受け止める。
 次いで、暴風のごとき斬撃がサンディの乗る戦車を粉々に撃ち砕く。
 衝撃で、サンディの身体が宙を舞う。ついでに陸鮫とステラも飛んだ。
 ただ1人、咄嗟に跳んだ天川だけが盾持ちの騎士を回避する。
「実力はともかく矜持か……自分で全部捨てておいて今更ってのはある」
 天川の刀と、騎士の剣が交差する。
 火花が散った。
 衝撃に、天川の腕骨が軋む。
 2度、3度と続けざまに刃を交わす騎士と天川の実力は拮抗しているようにも見える。否、鎧の防御力を加味すれば騎士の方が幾分有利か。
 互いの肩が衝突し、姿勢を崩したのは天川だ。
 大上段から振り下ろされた一撃が、天川の肩から胸を斬り裂いた。
「愚直な男だ。迷いがあるならそれも結構。人とはそう言う生き物だ! その迷いごと、私が断ち切ってやろう」
「はっ……若い女に諭されるとは俺もヤキが回ったもんだ。だが、こう見えて負けず嫌いでな! 勝たせてもらうぜ!」
 血の雫を散らしながら、天川は一気呵成に斬り込んでいく。
 そんな2人のすぐ横を、ステラの小鳥に先導されたキドーが駆け抜けた。

 空が青い。
 頬の痣と、斬られた肩と、強打を受けた腹が痛んだ。
「なぁんもねぇや」
 ポツリ、と。
 吐血と一緒に言葉を零して、瑠々はゆっくりと立ち上がる。
 髪は乱れて、肌には細かい傷だらけ。
「ヘイヘイ騎士様。小娘一人くらい殺して見せろよ。模擬戦だから殺せない?」
 どこかぼんやりとした視線のままに瑠々は告げる。
 相対するは2人の騎士だ。
 傍らには車輪の砕けた戦車が2台。
 槍と剣とを手にした騎士は、困惑した様子で瑠々の足元へ視線を向けた。
 流した血は多い。
 既に1度は戦闘不能にしたはずだ。【パンドラ】を消費して戦線復帰を果たした瑠璃だが、騎士の斬撃を受け止めるには些か相性が悪すぎる。
「人を殺す時もきっとあるだろう。だが、我らは騎士だ。好んで人を殺すものではない」
「はぁ……つまんねぇの」
 血混じりの唾を吐き捨てて、瑠々は前へと歩み始めた。
 溜め息を1つ、零した騎士は大上段に剣を構える。
「誇りも矜持も持たぬ者が戦場に立つべきではない」

 空が青い。
 音が遠い。
 騎士の矜持に似合う精神は持ってない。
 死んでも立ち上がることは出来るが、それは騎士の言う実力の範疇だろうか。
「誇りも矜持も持たぬ者」と騎士は確かにそう言った。
 だが、それは違う。
 安っぽくとも誇りはあるのだ。
 負けっぱなしで、言われっぱなしで終わることだけは許されない。
「だから……ウチ以外の7人であんたらを全員ぶっ飛ばす」

「よぉ、うちの仲間が世話んなったな。それじゃ、次は俺の番だ」
「……女の次は優男か。だが、貴様だな……戦車を破壊したのは」
「あぁ? あぁ、そうだな。厄介だろ、あれ? それで、どうするんだ? 騎士様方がまさか挑まれた戦いに背を向けるなんてことはしないだろうな?」
 にぃ、と口角を吊り上げて世界は問うた。
 騎士は剣と槍を構えることで答える。
 交戦の意思はあるということだ。
 ならば結構。
 これで舞台は整った。
「それじゃ、やるか」
 パチン、と。
 指を1つ鳴らせば、騎士の背後に白蛇が数匹、現れる。

 鋼鉄の手甲が騎士の剣を受け止めた。
 金の髪が暴風に泳ぐ。
 表情1つ変えないままに、エッダはカウンターを繰り出した。
 手にした小盾でエッダの拳を受け止めて、騎士は目を丸くする。いかにも小柄なメイド1人が、どういうわけか打ち倒せない。
「何だ、このメイド……向こうの女や優男もだが、妙な連中揃いだな」
「騎士。騎士(メイド)でありますし」
「ぬ? だから、メイドだろう?」
「否であります。メイドじゃねえからな。騎士(メイド)なんでそこんとこよろ」
 外見もそうだが、言動も妙だ。
 今ひとつ会話が噛み合わないが、腕は確かなことに間違いはないだろう。
 構えた剣は業物だ。その刃が欠けていることからも、エッダの装甲が厚いことは理解できる。
 一撃、横薙ぎを叩きつければ身体を半身に逸らしてそれを受け止めた。
「さて、騎士の何たるかという規範を一々語る口は自分、持ち合わせてないであります」
 閃光。
 次いで、数度の殴打が騎士の胴を打ち抜いた。
 ここに来て、様子見の一撃を見舞ったことが騎士の敗因であっただろう。彼が行うべきは、逃走か、或いは一気呵成に全力の斬撃を見舞うことだった。
 衝撃。
 内臓が悲鳴をあげる。
 鎧を纏った巨体が浮いた。
「ば、かな」
「貴方がたの定義に依らずとも自分は既に、フロールリジの騎士として常在戦場の心持ちであります」
 淡々と。
 言葉を紡ぐエッダの瞳には、確固たる意志の光があった。
 何者にも砕けぬ強い意思。
 己の腹に括った1本の強い信念が折れぬ限り、彼女の歩みを止めることは叶わない。
 なるほど、彼女は確かに騎士なのだろう。
 それも、守るべき誰かのために戦い続けた歴戦の……。
「あぁ、我々もそうありたいものだ」
 殴打のラッシュが、腹を、胸を、顎を打ち抜く。
 肺の空気と血を吐きだして、騎士は意識を失った。

 並走する2台の戦車。
 騎乗する2人の騎士。
 騎士とオリーブの背格好は似通っていた。
 扱う獲物は共に長剣。
 何度も打ち合い、何度も斬られた。
 鎧の隙間から血を流し、もはや両者とも気合だけで戦線を維持しているような有様だ。
 騎士と聞いて思い浮かべるようなスマートさはそこに無い。
 あるのはただの意地ばかり。
 つまりこれは意地の張り合いだ。
 男が2人、斬り合って……さぁ、どっちが強いんだ? と、そんな疑問に答えを出すための競り合いだ。
 大上段より振り下ろされた一撃が、オリーブの肩を激しく叩いた。
 オリーブの繰り出す鋭い刺突が、騎士の眉間、喉、腹部の3か所を貫いた。
 戦車同士がぶつかって、両者の距離が一瞬離れる。
 空いた距離を詰めるべく、騎士は手綱に手をかけた。
「おぉ! これで、終いです!」
 一瞬の判断。
 綱渡りのような攻防を制したのはオリーブだ。
 戦車を蹴って、オリーブは跳んだ。
 大上段に構えた剣に跳躍の勢いを乗せて振り下ろす。
「馬鹿な! 距離が離れすぎて……っ!?」
 気づいた時には遅すぎた。
 元より、オリーブの狙いは騎士の身体でなく……叩きつけつように放った一撃が、戦車の車輪を真っ二つに砕き割る。
 
●騎士競技の決着
 きりりと弦が引き絞られる。
 サンディの放った1本の矢が盾持ちの手首を撃ち抜いた。衝撃と痛みに盾を取り落とした騎士の眼前に、滑るようにステラが迫る。
「ふ、不覚!」
「申し訳ないですが、沈んで貰います」
 開いた掌に魔力の奔流。
 放たれる黒き濁流が、騎士を飲み込み纏った鎧を噛み砕く。
「よし、2人目。キドーはまぁああいうヤツだから上手くやるだろ」
 盾持ち2人は既に倒した。
 残る1人は天川が抑えている。
 サンディは塔の上層へと視線を向けた。ひょこり、と塔から顔を覗かせたキドーの手には笏がある。
「おう、こいつを持って自陣へ帰りな!」
 キドーの投げた笏を受け取り、ステラは鮫へと飛び乗った。
 自陣へ戻るステラと、その護衛を務めるサンディ。
「待て!」
 笏を奪わせはしない……怒声と共に剣を構えた騎士が駆けた。
 しかし、その眼前でキドーの放った魔弾が落ちる。爆音と粉塵。踏鞴を踏んだ騎士の背後へ天川が迫る。
「まだ動けるか!」
「そろそろ体も暖まってきた。ここからが俺の本領発揮だ」
 額を流れる血を拭い天川は獣のような笑みを浮かべる。【パンドラ】を消費し戦線へと復帰したのだ。
 天川の刀と、騎士の剣が交差する。

 倒れた騎士と、地面に膝を突く世界。
 呼吸は荒いが、ダメージは少ない。戦闘中も自身の傷を治療し続けていたのだ。泥仕合ではあるが、騎士の2人程度であれば相手取ることも容易であろう。
「はぁ……というか、もし先祖を敬ってるってんならこんな試合するより前に墓を綺麗にしてやれよまったく」
 視界の端には、荒れた墓所。
 それを一瞥した世界は、呆れたようにそう呟いた。

 王冠を手に入れたのは騎士だった。
 しかし、その眼前にはエッダとオリーブが立ちはだかる。レガリアを手に入れても、それを持ち替えるまでは勝利は確定しないのだ。
 エッダとオリーブが同時に駆け出す。
 右から迫る剣を鎧の肩で受け止め、エッダの拳は剣で弾いた。
 しかし、手数の差は歴然。
 剣に肩を裂かれることも厭うことなくエッダは前進。騎士鎧の胸部へ向けて鋭い拳を叩き込む。
「……っぐぁ」
 よろけた拍子に喉元へ迫る長剣を、騎士は寸前で回避した。
 ダメージは少ないが、姿勢は崩れた。
 そして、エッダとオリーブの狙いはそれだ。
「さぁ、終わらせるでありますよ!」
 コツン、と。
 エッダの拳が王冠を弾く。
 弧を描いて飛んだそれを受け取ったのはサンディだ。
 次いでエッダは隠し持っていたオーブを投げる。
「っ!? 狙いはそれか!」
「えぇ、今更気が付いても手遅れですが」
 オーブへと伸ばされた騎士の手を、オリーブの剣が叩き落とす。
 オーブをキャッチしたステラは、一心不乱に陸鮫を自陣へと走らせた。サンディの持つ王冠を含め、3つのレガリアが揃ったことになる。

 決着の鐘が鳴り響く。
 その音で目を覚ました瑠々は、にぃと口角を吊り上げ笑う。
「……ざまぁ」
 彼女の零した呟きが、青い空にポツリと消えた。

成否

成功

MVP

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
騎士競技はイレギュラーズの勝利で幕を閉じました。
騎士たちにとっては悔しいながらも、満足のいく結果であった模様です。

依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

※余談
決着後、イフタフは早々に戦場から姿を晦ませました。

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