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シナリオ詳細

ドラらんぼう

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 切り立った山脈は雄大な景観なのだろう。
 じぐざぐの尾根を横切るのは、鳥はでなく亜竜だ。
 二匹のワイヴァーンだと思うが、青空を悠々と羽ばたいていた。

 足元は硬く乾いている。ここは前人未踏『だった』荒野――覇竜領域デザストル。
 巨大な竜骸に抱かれた亜竜種達の集落、フリアノンの一角だ。
 亜竜というとモンスターで、亜竜種といえば人類だから、ちょっとだけややこしい。
 考えながら窓から外を眺めると、細い谷があり、その先に小さな洞窟がぽっかりと口をあけていた。
 仕事中に見るのなら殺風景でも、遊びに来たのだったら絶景にだって見えるかもしれない。
 けれど今日のイレギュラーズはここで依頼人と待ち合わせの約束をしており、つまりは仕事の方だった。

「やあやあやあ、やあやあ!」
 そう言いながらどたどたと走ってきたトカゲづらの男は、待たせた非礼を「面目ない」と謝罪すると、イレギュラーズ達へと向き直った。頬の鱗を爪でかりかりとかいている。かゆくなるのかな、そこは。
「私が依頼人のラニハです。ローレットの皆さん、遠路はるばるようこそおいでくださいました」

 初対面から、さっそく遅刻してきたこのおっさんの名を、ゲ・ラニハという。トカゲのように見えるが、れっきとした亜竜種だ。集落フリアノンの通路を歩きながら自己紹介をしあったが、このトカゲ野郎――じゃないラニハは、三児のパパでもあるらしい。別に、そんなことを質問しに来た訳じゃあないけれど。
 なんだかのんびりしたトカ……亜竜の人だなあと感じる。寒いからかな。

「あ、我が家です。どうぞどうぞこちらへ」
「おじゃましますー」
 リビングダイニングっぽい所に案内され、椅子に座るとお茶が出てきた。
 気立のいいお母さんだ。顔立ちはちょっと車っぽくて。
 それはともかく、お礼を伝えたらウィンカーっぽく片目をぴこりと閉じた。
「それでは本題なのですが。本題は、ええと……ですな……」
「……?」
「あーいや、その……でして。本題は……」
「どうしたんですかー?」
 言葉をにごすラニハに、『旅する乙女』セスカ・セレスタリカ(p3y000197)が首を傾げて問いかけた。
「いざとなると、なかなか言いにくいこともありまして」
「ははぁー」
 なんだろうと思いつつもお茶に手をつければ、心地よい渋みと、いい香りに包まれる。
「竜禅草のお茶です!」
「おいしいですがー、本題はー?」
「あー……」
 トカゲづらの表情を読み取るのは難しいけど、きっとこのお茶よりもずっと渋いに違いない。
 だっていかにも、そんな口ぶりなのだから。
「実は息子――長男なのですが。その部屋に、このようなものがありまして……」
 ひどく言いにくそうにしながら、ラニハは机の上にゴトリと置いた大きめな木箱を、かちゃりと開く。
 長男関係あるのかな。
「んー?」
 出てきたのは、一冊の薄い本だった。
 タイトルは『ドラらんぼう』。すみっこに全年齢とか書いてある。

 セスカは薄い本を手に取り、ぱらぱらとめくってみた。
「ちょっとですね、その。そういうのは、女性の方にはあまり、その」
 ラニハが慌て、セスカは首を傾げる。
 一通り流し読みしたけれど。なんか、なにこう、その……まだ全然ピンとこない。
 セスカは本を閉じると、隣のイレギュラーズに「どうでしょうー?」と手渡してみる。

「――ああ……そんな。まさか……全部読んでしまわれるなんて」
 がくりと崩れ落ちるラニハ。顔を両手で覆っている。
「まさか、練達の車(女の子として書かれている)を好きになった一匹のドラゴン(女の子として書かれている)が、学校(!?)帰りに車へ告白するが、盛り上がって勢い余って壁ドンしたら、車のドアに小さな傷を残してしまう。ふたりだけの、はじめてのきずあと――といった感じのえっちなえっちな内容の本を、まさかまさか全部読んでしまわれただなんて」
 ちなみに絵柄は、かなりリアル指向だ。絵の擬人化要素は一切なし。
 カップリングは、自動車とドラゴン。
「いや、そのー。これが、どうされたのでしょうー?」
 依頼内容と本には、いったい何の関係があるのだろうか。
 亜竜達と交流をはじめたイレギュラーズは、この地域になれるため、また親交を深めるため、亜竜種達から依頼を受けるようになった。本件もその一つだったりするのだけど。

「このえっちなえっちな本を私の妻――母に見つかってしまった息子が、家を飛び出してしまったのです」
 車っぽいお顔の母上が、発見して学習机の上に整理整頓したらしい。
「それはー……お父様も息子さんも、偏差値高いですねー」
「へんさち?」
「いえ、なんでもないですー」
「しかし、どうして私の息子は、こんな。その……えっちな本を……」
 飛び出した先は、集落の外。
 というか、さっき眺めた洞窟に居るらしい。
 いつ危険な亜竜が現れても不思議ではない。というか、さっき飛んでたし。
 何をのんびりしているのか、このトカゲ野郎のおっさんは。
 だからドラ×車オリジナル百合同人誌は気になるけれど、すぐに助けにいかなければ。
 知らぬ間に性癖を曝露された息子さんが、あまりにつらい。

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。
 集落を飛び出してしまった息子さんを助けてあげましょう。

■依頼達成条件
 集落を飛び出した息子さんを救出する。
 魔物(亜竜とか)が出たら、逃げるか撃退か討伐する。

■フィールド
 近くにある洞窟の中に息子さんが居るようです。
 フリアノンから洞窟までは、幅10メートルほどの谷になっています。近接戦闘なら2~3人ほど横に並べます。足場や光源などは問題ありません。
 一応は比較的安全なルートらしいです。
 でもよく凶暴な亜竜アイスワイヴァーンのつがいが姿をみせるとか。

■敵
 亜竜アイスワイヴァーン×2
 二匹で前後からの挟み撃ちが得意。
 爪と牙と、氷のブレスで攻撃してきます。
 氷のブレスは遠貫と、中扇の二種類です。
 獲物を見つけるまでは飛行していますが、降りて襲ってきます。
 セスカは「助けた帰りに出くわすより、先になぐって追い払ってしまったほうがー」とか言っています。

■息子さん
 ゲ・ホルク君。十五歳。シャイで内気な少年です。
 えっちな本(全年齢)をベッドの下に隠していたのですが、親に見つかり集落を飛び出しました。
 今は集落近くの洞窟の中に居り、絶望的な気持ちで一杯になっています。家には帰りたくありません。説得でも力ずくでも大丈夫。ただの少年なので、ぜんぜん強くないです。

■同行NPC
『旅する乙女』セスカ・セレスタリカ(p3y000197)
 世界中を旅して占いなどをしている魔法使いの女の子。
 旅の路銀も少ないため、もっとギルドに顔を出そうと決意した。
 適当に参加します。指示があれば聞きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 全年齢の本なのに、お父上はどうしてえっちな本だと思ったのか、わかりません。

  • ドラらんぼう完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護

リプレイ


 人が最果てを求め、やがてたどり着いた時。
 なおも広がる果ての向こうを目指すのか、それともまた別の何かを見いだすのか。
 どちらの自由も許され、けれど迷い選び成長する。
 この物語は、そんなお話なのかもしれない――

「ドラゴンと……車?」
 頭の上に疑問符を浮かべた『淑女の心得』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)は村の外れにある渓谷へと足を踏みいれる。
「ドラゴンカーセ……いえ、青少年の心はもろく崩れやすいもの」
 前方に居る『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は首をぶんぶんと振って隣の『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)に振り返った。
「どうにかして丸く収まる形で、迎えに行ってあげたいものですわね」
「世の中には色んなあれそれがあるんだね……。でもそれは仕方ないことだと思う! 皆自由でいいんだ! そうだよね! ヴァリューシャ!」
 曇りなき眼で同意を求めるマリアに大きく頷いたヴァレーリヤ。
「もちろんですわ!」
 拳を高く空に掲げてヴァレーリヤは笑顔でそう答えた。
「内容は良く分かりませんが、危険な場所に行ってしまった息子さんを助けなければですよね!」
 ジュリエットの言葉にうんうんと頷くのは『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)だ。
 飛び出して行った少年の事が心配でオロオロとしている。
「ワイバーンの出てくる危険なところにいってしまったなんて、とても危ないよ……でも、なんでそうなっちゃったんだろうね?」
「いや、それは流石に長男でも耐えられんだろう」
 真顔で言い放ったのは『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。
 おそろしい。次男ならばどんなことになっていたか!
「さておき。先に脅威を排除できるというのなら、そうした方が賢明だ。さっさと片付けて迎えにいくとしよう」
 イレギュラーズは、ちょっとした事情から、亜竜種の集落フリアノンを飛び出してしまったゲ・ホルク少年の救出に向かっていた。
 危険が多いと言われており、ワイヴァーンの出現が予測されている。

「青少年なるものはとても難しい年ごろがあると聞きます」
『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の髪が渓谷の風にぶわっと膨らんだ。
「其れは如何な世界、国、文化、時代を問わず共通なのでしょう」
 今度は上から吹いてくる風に髪が下方向へ流れる。
「ゲ・ホルク君もまた、そのひとり」
 ワンピースも同じように渓谷の風に煽られてハラハラと揺れた。
「我々がケアを誤れば一生ものの傷を残すことになるかもしれませんね……なので、確りと。年上として役立つアドバイスをしていくべきかと」
 年上! この愛らしい見た目で年上! とても可愛い!

「それでどうしますかー? 先にやっちゃいます? ワイヴァーン」
 のんびりとした口調で強風で煽られる帽子を押さえながら『旅する乙女』セスカ・セレスタリカ(p3y000197)が問いかける。
「ここは助言通りに先にアイスワイヴァーンを追い払っておくか」
 セスカのアドバイスを受けて『竜剣』シラス(p3p004421)が頷いた。
「そうだな。少年を連れ戻す前に亜竜は撃退しておこう。流石に守りながらは難しいし、竜のブレスから庇えない可能性もあるからな」
 肩を竦めた『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は周囲を警戒しながら進む。
「ああ、谷の先の洞窟を目指しながら亜竜をさがそう。まあ、向こうから見つけてくれそうなものだが」
 シラスは注意深く辺りを見渡し、そしてバっと顔をあげた。

「――来るぞ!」
 油断なく待ち構えるイレギュラーズへ向けて急降下してきたのは、つがいのワイヴァーンだ。


「来ましたわね! 少年を迎えに行く前に、敵を追い払ってしまいましょう!」
 ヴァレーリヤはシラスと共に仲間の背面を守る形に布陣する。
「シラスと私が後方からの攻撃を防いでいる間に、他の皆で前方の敵を倒してもらう作戦でしてよ!」
「敵がつがいで襲ってくるなら連携も取れてるだろう。最悪なのは範囲攻撃のブレスを重ねられることだ。だから先ずはその連携を崩してやる!」
 ヴァレーリヤの「どっせえーーい!!!」という雄叫びが渓谷に響き渡る。
「ほらほら、あまり私達の後ろにばかり構っていたら、ドラゴン料理になってしまいますわよ?」
「そうだぞ! こっちだ!」
 シラスとヴァレーリヤの二人で片方を引きつけている間に、仲間は前方のワイヴァーンを叩くのだ。

「空から降りてくる、というのはこれだから厄介なものです」
 アッシュは上から急降下してきたワイヴァーンを睨み付ける。
「ぼくたちが相手だよ」
 リュコスはアッシュの背後から飛び出して、近づいて来たワイヴァーンの顎を叩いた。
 悲しみと怒りがカタチとなったリュコスの声は、ワイヴァーンにかなりのダメージを与える。
「逃げるならそれ以上は追わない。でも逃げないなら……ごめんね?」
「片方が傷つくことで退いてくれれば、重畳。番を失う前に其の牙を収めて欲しいものです」
 リュコスの声に怯んだワイヴァーン見上げるアッシュ。
 初手からの痛打は亜竜にとってイレギュラーズが脅威であると認識させるには十分なものだった。
「集中攻撃です!」

「ご家庭の事情とは言え、自然界の生き物を手にかける様で申し訳ないですが」
 ジュリエットは星のタクトで虹の魔法陣を作り上げる。
「こちらも人名救助ですものね」
 独特な術式はワイヴァーンの視界の外から光を降り注ぎ、ビリリと電気を走らせた比翼を絡ませて大きな身体で落ちてくる。
「セスカさんもこちらのワイヴァーンに集中攻撃をお願いします!」
「分かりました!」
 ジュリエットは攻撃を行いながらも後方のシラスやヴァレーリヤの様子を気に掛けていた。
 まだ問題無いが、いざとなれば彼らを守るのは自分の役目なのだ。

「どっせえーーい!!!」
 後方から聞こえてくる大切な人の声にマリアの闘志が燃え上がる。
「いくぞー!」
 ヴァレーリヤが頑張ってくれているのだ。自分も目の前の敵に集中しなければ!
 バチバチと放電したマリアは一気に踏み込んでワイヴァーンの喉元に食らい付く。
「マリア!」
「分かってるよ!」
 超電磁加速状態のマリアを後ろから呼ぶのは汰磨羈だ。
 汰磨羈の射線を上手く躱すように、マリアは空を駆け抜ける。
 空中戦は相手の土俵なのだ。ここは素早くガっと行ってゴってしてシュっと帰って来るに限る!
「寒いのは大の苦手なのでね。その口は閉じておいて貰おうか?」
 マリアの電撃が炸裂した直後、汰磨羈の炎翼姿がワイヴァーンの視界に映し出される。
 水行のマナを凝縮・縮退させ、手の形にしたものが空を駆け抜けワイヴァーンに叩きつけられた。
「グギァアア!」
 ワイヴァーンは一際大きく雄叫びを上げてイレギュラーズを振り払うように翼を広げる。
「今度はこっちだ!」
 汰磨羈の攻撃を受けてグルグルとうなり声をあげるワイヴァーンをゲオルグが捉えた。
 極限まで高めた魔力を手に、至近距離からワイヴァーンの顎に叩き込む。

 渓谷に響き渡る雄叫び――
 後方のワイヴァーンは心配そうに様子を伺っている。
「気になるんですのね! ほら、ぐずぐずしてると倒されてしまいますわよ!」
 ヴァレーリヤの叫びに後方のワイヴァーンはたじろぎ後退った。
「尻尾を巻いて逃げるなら今の内だぞ」
 シラスはこの状況を的確に見抜き、ワイヴァーンへ撤退を促す。
「そうですわ! 今の内にひいておかないと……大切な人を失いますわ。引くというのなら私達は追いかけたりしませんもの。それに私達は貴方達を殺そうとここへ来たわけではありませんわ。少年を探しているだけなんです。だから引いてくれると助かるんです」
 ヴァレーリヤの説得に「グルルル」と相方へと鳴いたワイヴァーン。
 前方に居たワイヴァーンもそれを聞いて、翼を畳み戦意が無い事を示した。

 イレギュラーズが自分達を殺そうとしていたわけではないのだと分かってくれたのだろう。
 ジュリエットとゲオルグは傷付いたワイヴァーンに回復を施し、飛び立つ彼らを見送った。
 無益な殺生をせずにすんだと、誰もが胸を撫で下ろした。



「さてと……亜竜は去ったな。息子さんを探しにいこうか」
 汰磨羈は戦闘で着いたホコリをパッパッと払って仲間の方に顔を向けた。
「まぁ、一本道の洞窟なら、探すのはそう難しくはなさそうだが」
 汰磨羈が仲間の方から洞窟の中に視線を移すと、入口からこちらを伺うようにトカゲっぽい顔が見える。
「見つけた」
「わぁー! もう見つけたんですか? はやい。流石汰磨羈さんですー!」
「いや、入口に」
 セスカがわーっと抱きついてきたので、汰磨羈は彼女の顔をぐいぐい押し返して洞窟の入口を指差した。
 そしたら、シャイで内気な少年のゲ・ホルクはぴゅっと顔を引っ込めてしまった。
 逃げてはいないようで尻尾がぴろぴろ見えている。
「……うむ、どう説得したものか」
「力づくで行きますかー?」
「それは最終手段だな。出来れば心を開かせた上で連れていきたいが……」
 汰磨羈はホルクに近づいて優しく手を広げた。
 その後ろからぴょこっと顔を出すリュコスは説得しなければと頑張って考える。
「あのね! 本よませてもらったよ……」
「……………………え!? ドラ×車オリジナル百合同人誌を!? 読んだの!?」
 ゆであがるという言葉通り、ホルクの緑色の鱗が赤くなっていく。
「ぼく、頭よくないからよくわからなかったけど……好きなものなんだよね?」
「ちょっと、あの……なんで」
「好きなものから逃げるほうが、もっと好きなものにわるいと思う!」
 あたふたするホルクへリュコスはずいと顔を寄せて説得をする。
 リュコスは幼さと純粋さのため、ホルク少年の持っている本の内容は見たけどさっぱり理解できてない。えっちもよくわからない。
 ――リュコスの純真な瞳が突き刺さる!

「うむ。種族は違えど、百合が好きなのだろう」
 汰磨羈は分かるぞとホルクへとウィンクをしてみせた。
 ホルクにはそうした共通項で攻めて会話を弾ませてみるべきか。
 ――弾みで、新たな扉を開く可能性はあるがな?
 どんな新しい扉か、そこんとこ詳しく教えてください。ねぇ。お願いしますよ! 私が気になります!

 赤くなったり青くなったりしているホルクをジュリエットが遠巻きに見つめる。
「何やら長男さんは帰るのを嫌がっておられますが、ご両親は貴方を痛く心配しておられましたよ?」
 両親が心配しているという事実にホルクはションボリと肩を落す。
 こんな所に隠れているのは不毛だと薄々気付いて居るのだ。だが。
「私にはあの本のどこが隠していたいほど、恥ずかしい本なのかが良く分かりませんでした……」
「君も読んだの!?」
 キラキラしたお姫様のジュリエットがあの同人誌を読んでしまったという事実が暴れ出したいほどに羞恥をそそるものだった。
「全年齢とは皆読めるものなんですよね? 勉強不足なのでしょうか? 混沌には、まだまだ私の知らない事が沢山あるのですね……」
「いや……ちがうじゃん、なんで読まれてるの。もしかして、ここに居る人全員……!?」
 申し訳なさそうに首を縦に振るジュリエットを見て、少年は地面に伏して拳をバンバンと打ち付けた。
「アアアアーーーー!!!!」
 知らぬ間に性癖を暴露されている、いたたまれなさ。

「それは恥ずかしいことじゃないんだよ……。人間なら誰しもがそういう欲望はあるものさ」
 包み込むような真っ当なマリアの言葉がホルクのHPを削っていく!
「ヒィ!」
 優しさは時に防ぎようのない凶器となる。
「個性の内ということだね! 年頃だし気まずいのは分かるよ……でもお母さんを責めないであげてね」
 どうしてこんな事になってしまったのだとホルクは地に伏しながら口を開けた。
 恥ずかしさが有頂天で、今すぐ爆散してしまいたい。
「大丈夫、そんなの全然恥ずかしいことではありませんのよ」
 マリアの隣で腕まくりをしたヴァレーリヤが仁王立ちをしていた。
「私の腕を見て下さいまし。北の方には、私のような機械が暮らす国がありますの。だから世界的に見れば、むしろ一般的な嗜好でしてよ!」
「そうなの……?」
 世界はもっと多種多様な嗜好が満ちあふれている。ヴァレーリヤがこんなに自信満々に胸を張っているのだからきっとそうなのだろう。ホルクはとても素直だった。
「だから一緒に帰りましょう?」
「そうだよ。ここは危険だ。早くお家に帰ろう」
 ここはワイヴァーンが飛び交う渓谷にある洞窟の入口だ。
 割と危ない。ホルクは自分がとんでもない場所に来ていたのだと改めて認識しぷるぷると震えた。

「隠していたものを暴かれて恥ずかしい気持ちはわかる。だが、よく考えてみてほしい。別に誰かに迷惑をかけたわけでもないのに。そんなふうに卑屈になってしまえばそれ自体が悪いものだと囚われてしまう」
 ゲオルグは屈んでホルクに目線を合わせる。
 着流しの間に見えるふくらはぎが危うい感じがしてホルクは目を逸らした。
「バレてしまったのならば。いっその事開き直ってしまえばいいのだ。大体、私達イレギュラーズなんて
同性同士の恋愛なんて珍しいものでもないし。バイクだの、剣だの、不定形の邪神だの、人の形をしていないものなど沢山いるのだ」
「え、そうなの? 嘘でしょ? ファンタジー?」
 トカゲ顔の少年が首を傾げる。
「それに比べたら竜と車の同性恋愛なんてそれこそなんてことない。自分の好きを相手に無理やり押しつけて強要しなければ、恥ずかしがることはないと思うぞ……私はな」
 良い笑顔でゲオルグはホルクの背中を叩いた。
「理解の外にある文化ではあります……が」
「あ、うん」
 アッシュの冷静な言葉にホルクはスンっとなる。
「然し、此れは一時の気の迷い等ではないと云うことは解ります」
 儚い見た目の少女に自分の性癖を知られ、あまつ励まされるこの羞恥。
「其れなら堂々としていればいいのではないでしょうか。人は誰しも何らかの秘した一面を持っているものですから。知ったか、察したか。其の上で皆、なんともない顔で過ごしているんです」
 皆なんともない顔ですごしている。アッシュの言葉にホルクはイレギュラーズをぐるりと見渡す。
「だから、貴方もそうしていいんですよ」
 このアッシュもドラ×車オリジナル百合同人誌を読んだのかと思うと、穴を掘って埋まってしまいたいと震えてくる。
「ヒィ!」
 けれどこの感情はなんだろう。少しずつ、解きほぐされるような――きっと救いだ。
 だって誰の目も、静かであり、真摯であり、真剣な眼差しなのだ。
 心は、伝わっている。

 シラスは震えがとまりはじめたホルクの肩にポンと手を置いた。
 彼の心境は想像に容易い。羞恥心というやつだ、シラスだって持ってる。
 死ぬほど恥ずかしくて消えちまいたいと思うし胸が掻きむしられているに違いない。
 今の少年に必要なのは共感だとシラスはホルクの肩をぐっとひっぱった。
 歳も近い男の俺が分かってあげないといけない。
「あっあー……気持ちは良く分かるよ、ちょっと男同士で話しよっか」
 今日の悲劇は割と誰にでもあることだろう。ホルクだけが恥ずかしい思いをしたわけじゃない。
 シラスだってある。そういう恥ずかしい思いをしたことがあるのだ。
 だから大丈夫だとシラスはホルクを慰める。

「それとお兄さん、何か色々と凄く心配だから携帯品の本を贈るね」
 シラスがこっそりホルクに手渡したのは薄い本。
 おっぱいが大きいセクシーな女教師との誘惑ハートレッスンの本だ。
 R-18と描かれている。
 ホルクは十五歳。あと三年は読む事が出来ない。表紙に書かれたセクシーな女教師のイラストに悶々とする日々を過ごすのかもしれない。しかもこれが母親に見つかってしまえば――いや、その点は問題無い。母は父の様なトカゲ顔が好きなのだ。この表紙を見てもえっちな本だと気付かない。
 ちなみにホルク君はスポーツカーだが、父はワニ顔(車っぽい)がすきだ。
 さらに言うと、父の至高の一冊は、一般車両向けの車両運搬車(キャリアカー)が、トラックを運搬しきれないっていうもどかしいシチュエーションの心情重視大人向けプラトニック同人小説(全年齢)だ。父にとってはカップリングの片方がドラゴンは、さすがにえっちすぎで無理だった。
 でも出会ってしまったんだ。トラックみたいな顔のワニっぽい亜竜種に。それが母(車っぽいワニ顔)なのだ。
 たがいに一目惚れだったとかいうのは、さっき散々聞かされた話で、今は関係ないけど。

 おさけが好きそうなセクシーな女教師とのレッスン本をじっとみつめるホルク。
 百合。女教師。百合。女教師。セクシーな女教師……悪くねぇ。でも百合(ドラx車)も好き。
「これ読んで真っ当(?)な道に戻ってくれな」
 同人誌をぎゅっと胸に抱いたホルクは、すくっと立ち上がり空を見上げた。
 何だか清々しい気分にさせられる。
 まだまだ自分が知らない世界が広がっているのだとワクワクしてきた。
「……ありがとう。お兄ちゃん!」
 いつかこの本の中身を見られるようになったら、シラスと語り合いたいとホルクは思った。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 無事に少年を助けることができました。
 MVPは少年の性癖を新たにこじ開けた方へ。
 ただ、渡したものが本物である分、背負わねばならないものもあるのでしょう。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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