シナリオ詳細
霊喰集落アルティマ・ブラックブライアより
オープニング
●亜竜ブラックアイズ
大空が黒雲に染まり、岩石が打ち砕かれた。
ひとつや二つではない。見回す限り全ての岩石が大小問わず一斉に打ち砕かれ、荒れ狂う漆黒の雷の向こうに巨大な影が見えた。
黒い雲にまぎれて見えないそれに亜竜種の戦士リ・カトゥが目を細め、持ち前の超人的視力を働かせる。
そしてびくりと肩を震わせると……大きく目を見開き凍り付いた。恐怖からだと明らかに分かる震えと汗。
己の恐怖を払うようにつばを飲み込み、震える手でその方向をさした。
「『ブラックアイズ』だ」
「「――!?」」
周囲の亜竜種戦士たちもまたびくりと震え、同じ方向を睨む。
そしてひとりが反射的にか背後の虚空を振り返る。否、虚空ではない。自らの故里の方向を見たのである。
「あっちはフリアノンだ……い、いかせるわけには……」
震える声に、勇気の光が灯る。
戦士リ・カトゥは剣を抜き、巨大な黒い影へと走り出した。
カトゥは魔法と剣の才能に恵まれた戦士であった。圧倒的な攻撃力と機転の利く立ち回りから里に重宝され、探索チームのリーダーを務めることも多い。彼が走ったのは蛮勇からでも恐怖の反動からでもなく、これまで蓄積した経験から判断してのことだ。
「総員戦闘態勢! 亜竜ブラックアイズを叩く。せめて時間を稼げ!」
そう叫ぶカトゥは馬の扱いに長けた戦士にだけ里への伝令を任せ、残る全員でブラックアイズへと挑みかかった。
杖や魔道銃を構えた戦士がまず40m距離から一斉砲撃。
炎や雷や呪力の塊がブラックアイズへと集中する。直撃――したはずだが、なんの痛痒も感じているようには見てなかった。
「カトゥ、どうする!?」
「どうするもこうするもあるか。たたき込むんだよ、全力で――!」
剣に真っ赤な魔力を宿らせ、振り込むことで発射したエネルギー体はカトゥのもつ最大の必殺技である。これまで多くのモンスターを一撃で屠ってきたこの技に信頼をおき、そしてだからこそ……。
「な……」
変わらなかった。
直撃したはずのブラックアイズはなんの痛痒も感じる様子もなく、カトゥたちの頭上まで至る。
「亜竜種どもよ。無駄なあがきをするな」
優しい老夫のような声が、空気を大きく振動させた。ブラックアイズの声だろう。
頭上に止まったブラックアイズ……その姿は、巨大な鴉に似ていた。
ねじれた角を頭の両サイドから生やした巨大な鴉。しかし目は一つしかなく、真っ黒で大きな目がカトゥたちを見据えている。
「時は来た。魔の時代の幕開けは既に」
漆黒の雷が暴れ、カトゥたちが飲み込まれていく。
その様子を遠隔から観察しながらも、伝令役はフリアノンの里へと馬を加速させた。
●霊喰集落よりの使者
巨大な竜の骨とモンスターの革で出来た天幕には、長い髭をはやした老人とローレット・イレギュラーズたちが集まっていた。
老人は眉の毛すら長く表情を伺うのが難しいが、ムウと唸る声からあは焦りや不安が感じられた。
それは里の危機に対するもの……かは、少し分からない。
強力な戦闘能力をもつ亜竜たちの里を暴力によって制圧することは非常に難しいからだ。
であればなぜ?
その答えは、老人の次なる言葉で明かされた。
「ローレットの諸君。君たちは、竜種とも……戦った経験を持つ、そうじゃな?」
言葉を選びながら述べている雰囲気だ。おそらくは絶望の青にてリヴァイアサンと戦った経験のことなどを述べているのだろうが、全員が全員そうであるとは限らないと考えてのことだろうか。それとも、リヴァイアサンの話自体を若干疑っているからか。なぜなら遭遇するどころか生きて帰った時点で奇跡中の奇跡だからだ。
「ならば、戦闘にも優れた能力があろう。そこでじゃ、今回は……フウム、強力な亜竜と戦って貰いたい」
そう言って老人が広げたのは、巻物だった。古い絵や象形文字で描かれたもので、それなりの学があるならまあまあ読めるというものだ。
そこには一つ目の巨大な鴉が描かれ、その名を示すところに『ブラックアイズ』と書かれている。
「どこにあるかはわからぬが、覇竜領域に『霊喰集落』と呼ばれる場所がある。
悪しき竜とその眷属たちが住まう土地といわれる場所じゃ。
その地より現れた亜竜は強力で、特にブラックアイズと呼ばれた個体は多くの同胞を殺したと伝えられておる」
方角とフリアノンの場所を示した地図を床に置き、老人がもう一度唸る。
「此度現れたのは、それじゃ。御主等に……これを退治してもらいたい」
もし退治に失敗すれば、フリアノンの民に少なからず被害が及ぶことだろう。
だがこの依頼群(別名:覇竜領域トライアル)はそもそも、亜竜種族がローレット・イレギュラーズと友誼を図るためのテストでもある。
強い危険のある戦いによってこちらを試すからには、自分達も相応のリスクを負うという覚悟を老人は示したのだ。
「倒しきれるならば、喜ばしい。倒しきれずとも、追い返せるならばそれに越したことはない」
最悪なのはローレット・イレギュラーズのチームが全滅し、そのまま里まで突破されてしまうことだろう。
そうならないように『退治』することが、此度かせられたオーダーであった。
「ゆめゆめ、英雄をもとめ命を無駄にするでないぞ。我々が求めておるのは、あくまで友」
同胞の命が既にいくつか失われていることをふまえて、老人は最後にそうとだけ言った。
- 霊喰集落アルティマ・ブラックブライアよりLv:30以上完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年02月15日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ブラックブライアよりの使者
「他に生き残りはいないのか? 攻撃した際の様子を確認したい。些細なことでもいい」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は里の医療施設で治療中の伝令兵のところへやってくると、カーテンを引くと同時にがしりと彼の肩を掴んで問いかけた。
看護師らしき亜竜種がぎょっとした様子で駆け寄ってくる。
「例えば、目や角が光ったとか異音が聴こえたとかだ。そこを潰せば神秘攻撃が通るようになるかもしれん」
「やめろ! 俺に聞かないでくれ!」
対して、伝令兵の様子は乱暴なものだった。
思い出したくないことを聞かれたのだろうかと訝しむエイヴァンから、悔しげな顔で目をそらす。
「俺は戦いが始まった時にはもう騎乗亜竜を走らせていた。戦いには……加わってない……」
彼の様子は、『生き残りなどいない』という様子がひしひしと伝わってくる。
自分一人だけが戦場から逃げ出したかのような罪悪感が、彼にのしかかっているのだろう。必要な役目だったとはいえ、戦友を想って苦心しているのだ。
「そうか……だが、生き残りがいるなら保護するつもりだ」
「ああ、頼むよ……」
伝令兵はエイヴァンへの非礼をわびると、顔を伏せた。
カーテンの裏で腕を組む『魔法騎士』セララ(p3p000273)。
こうしている時間も惜しいという気持ちがほんのわずかにでも表情に浮かんだが、一方で情報収集は大事だという肯定的な気持ちも浮かんでいた。
ただ、これでハッキリした。伝令兵からの情報は漏らさずこちらに伝わっているということがだ。
「フリアノンの皆とも仲良くなったし、友達だっている。
ドラゴンが彼らを脅かすなら撃退しなきゃだね」
名のある亜竜『ブラックアイズ』へと戦いを挑んだ亜竜種の戦士を想って、セララは目を閉じた。
「行こう。戦士達が全滅したなら、この里へ至る前に止めなきゃいけないわ」
医療施設の外にとめたムーンリットナイトが鳴いている。『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)はそれに答えるようにして歩き出すと、四肢に格納していた武装を展開した。
ガパッと音を立てて開いた腕のスリットから流れ出た白い流体が意思を持ったかのように全身へ至り、そして顔面までもを覆っていく。
竜骨を意識したその鎧は、鉄帝の英雄『ヴァイスドラッヘ』と呼ばれる姿である。
施設の外へ出ると、愛馬ムーンリットナイトの左右に『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)と『永訣を奏で』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が待っていた。
出立の準備は整ったといった様子だ。
アリアの方はと言えば、目を閉じてどこかの方角へと祈るように手をあわせていた。
(ここに海はないけれど、今でも時折あの歌が聞こえる……。
あの時のような恐怖はないけど、あの時と同じく覚悟を持ってこの場所にいる)
アリアが何を思っているのか。『誰』を思い出しているのか。レイリーにはよくわかる。
「さて、行こう! みんな!」
クラリーチェは頷き、そしてブラックアイズが侵攻してきているであろう側の空を見上げた。
遠くに真っ黒な雲が見える。きっとあの下が戦場になっているのだろう、と。
「覇竜領域に住まう人と手を取り合えるかのトライアルとお伺いしました。
何らかの試練を課されるのかと思っていたら、実戦だとは……」
だが、迫る脅威を払うことでこの里を守れるというのであれば、何も異論は無い。
「ローレット。新たなる友よ」
そう声をかけてきたのは、依頼の説明をしてくれていたあの老人亜竜種だった。
その後ろには完全武装の戦士団が集結し、騎乗亜竜の上でこちらに顔をむけている。
亜竜種用にと個別に作られたであろうフルフェイスヘルメットのスリットの奥からは、こちらを観察するような、あるいは見定めるような視線が感じられた。
といっても好意的なもので、共に戦える戦士かどうか、あるいは共として戦場に立って死なせてしまうことはないかという心配のまなざしでもあった。
戦士の一人。竜のようないかつい兜をした女性が声を発する。
「もし負けても、命を賭けようなどとは思わないでくれ、新たなる友よ。
我々が控え、もしものときは交代し出撃する手はずになっている。これ以上……墓を増やしたくはないんだ」
その言葉に、クラリーチェは頷いた。
「ありがとうございます。必ずや」
あなた方と共に戦えることを、と。
それから、暫くたって。暗雲の真下へ至った『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は、遠くの空に見える大鴉の軍勢に目を細めた。
特別な視力がなくてもわかるほど、大鴉は黒い塊となって空を埋めている。
懐から出した式符の枚数を確認。どれも神秘攻撃力に依存した術が込められているが、あの大鴉たちを打ち破るには問題ないだろう。
心配なのはその主力であるブラックアイズにだが……。
「相手は神秘を無効化するとはいえ絶対とは限らない」
ぎゅっと決意を込めて握り、そして懐へと式符を戻した。
「そういえば、知っているか? 俺は召喚されてすぐの頃にリヴァイアサンと戦ったんだ。それが、亜竜の集落に来るまでになるとは思わなかったな」
「そうか……僕自身は戦ったことはないのだが」
『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はラサでの戦いを思い出しながら呟いた。
「ラサのファルベライズ遺跡群で水晶偽竜と戦ったことがある。今思えば、あれは亜竜のアンデッドといったところなのだろう」
事実、水晶偽竜ライノファイザ・エクスはかつて全盛期の強者であったギルド長レオンが挑みそして敗れたというライノファイザの死体から作られたとも聞く。
そして実物のドラゴンは練達を容易く滅ぼしかねない存在として出現し、ローレットの精鋭チームが挑んでも滅ぼすことが叶わないという怪物中の怪物であった。
強さで言うならば、魔種を越える存在といえるだろう。
「ブラックアイズとやらが何で攻めて来たかは知らないが、ここまで来た縁だ。……撃退させて貰う」
「ああ」
『撃退』という言葉に重きを置いた錬に、シューヴェルトが強く頷いた。
そんな彼らと共に進み、そして足を止める『黒鉄の愛』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)。
予定していた迎撃ポイントに到着したことを確認してのことだが……どこか渇いたまなざしで天を仰ぐ姿には、何か違う意図があるようにも思えた。
同じく足を止めたシューヴェルトたちの視線をうけて、『なにも』と苦笑を浮かべるヴィクトール。
「いやあ、それにしても多すぎませんか、あれ。倒しきれますかねえ」
場の空気を軽くするような事を言って、ヴィクトールは自らに守りの魔法をかけた。
赤い、沈む暁のような色をした微光が彼の全身をうっすらと覆う。
「ボクは……」
これまで幾度となく呟いてきたであろう言葉を口に出しかけてから、沈むように口を閉ざした。
ボクは何だろう。
ボクはボクを知らない。
知らないのに。
深く深く息を吸えば。
なぜだろう。なつかしい匂いがした気がして、愛しさがわくような気がして、しょうがないのだ。
「きっと、よくないことなのでしょうね」
●大鴉
天空へと飛び上がり、深く呼吸を整えるセララ。
靴から羽ばたく魔法の翼は、かつての世界で普段からふるっていた力のそれを越えているようにも思えた。
けれど、どこへ行っても自分が変わる気はしない。
かつての友達の言い方をするなら『きっとどこかで誰かを笑顔にしているでしょ』である。
そして今も、芯はそこだ。
「インストール――『セラフィム・パラディン』!」
剣と盾を構え、自らに聖なる力を付与すると、白銀の鎧が輝きをもった。
義翼によって羽ばたくエイヴァンが隣に並び、『摧波熊』と『白狂濤』という彼のトレードマークにすらなりつつある斧と盾を構えた。ジュッと音を立てて広がった蒸気が固まり氷の盾を形成し、片手で操作した斧が魔法の光を放つ。
「カトゥたちが戦ったのは、この先か……もしブラックアイズを撃退できたなら、そこへ向かって彼らの状態を確かめないとな」
「うん。そのためにも――!」
1mかそれを越えるサイズの大鴉たちが戦闘可能圏内へと突入。先手を打ったのはエイヴァンだ。
羽ばたきを持って集団へ突っ込むと、斧を思い切り振り回した。
直撃を受けた大鴉が凍てつき、すぐに砕け散る。だがそれだけではない。力を奮ったことによっておきた冷気の波紋が球状に広がり周囲の大鴉たちを次々に凍てつかせていく。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
そこへ飛び込むセララ。エイヴァンの攻撃をなんとか回避した大鴉めがけ繰り出された剣は、まるで相手をプリンのように切断してしまった。
破壊された大鴉が複雑な軌道を描いて落ちていく。
周囲の大鴉たちはエイヴァンとセララを標的に密集するが、それこそ狙い通りだ。二人は大きく降下し地面すれすれを飛ぶと、凹凸の激しい岩場の間を飛ぶ。
そこへ同じく割り込もう――として大鴉めがけ狂乱の音波が叩きつけられた。
ズドンと表現すべきか、ギギギと表現すべきか、聞いた者の思考を破壊するかのような音の渦が大鴉たちへと直撃し、それを受けた鴉たちは飛行能力を狂わせて周囲の岩へと激突。
岩陰からそれを確認したアリアはよしっとガッツポーズをとった。
「こんな雑魚で私達が仕留められるなんて思ってないよね!!」
が、大鴉たちもそれなりの感知能力を有していたのかそれとも群れの集合知か、アリアの存在を見つけ出して一部の集団が密集しはじめた。
ハッと見上げたアリアの頭上。ホバリングをかけた大鴉たちは一斉に鳴き声をあげ、黒い雷雲を召喚した。
標的はもちろんアリア――だが。
「あぶないっ」
ヴィクトールがアリアを引っ張り、場所を自分と交換した。
空いた手を天空に掲げ、無数の花びらのような赤い魔力障壁を展開する。
荒れ狂う雷の殆どは障壁に阻まれるが、元々の数が多いせいだろう障壁は徐々に削られ、最後には砕け散って黒雷がヴィクトールへと直撃した。
苦しげな声を出すヴィクトール……だが、後ろに庇ったアリアを晒すことはしない。
と同時に、ヴィクトールの影からちらりと小柄なクラリーチェが顔をのぞかせた。
なんと、ヴィクトールは彼女までもを同時に庇っていたのだ。
「ありがとうございます。庇って頂く分、しっかり務めを果たしてみせますね」
「いえいえ、お気になさらずクラリーチェ様。これがボクの仕事ですから」
ヴィクトールは美しい笑顔を浮かべ、その頬にクラリーチェの指先がそっと触れる。
クラリーチェから伝わった白い魔法の光は、ふわりと何かの香りを伴って広がった。
まるで花のつぼみが開いた瞬間のように、どこか甘くうっとりとするような香りである。
であると同時に、土の下の冷たさや納骨堂のような静けさをヴィクトールに感じさせた。
それはつまるところ、クラリーチェが元々有していた力の反転であるように思えた。
ヴィクトールの身体に走った痛みや傷は、そのひとつだけでたちまちの内に治癒される。
「この力は……」
「あまり何度も使える力ではありません。戦いが長引かぬようにお気をつけを」
クラリーチェはそう言うと、それまで治癒につかっていた力を破壊へと転じた。
ここにきてやっと気付いたが、彼女の持つブーケのような鐘が鳴らされたことで力は発動し、周囲を囲む大鴉たちを冷たい死の香りが振り払っていく。
「この量、やはり分散して正解か」
レイリーはムーンリットナイトから飛ぶと、高い岩場へと着地。
大鴉たちがその姿を視界に収めるや、流体金属を固め剣と盾を形成した。
「白騎士ヴァイスドラッヘ、只今見参!」
大見得をきったレイリーに、いくつかの集団が急カーブをかけて密集。
レイリーの肉を食いちぎらんと鋭いくちばしを開いて迫る。
一部の個体は待ちきれないとばかりに近くの味方へ食らいつくといった混乱も生じる有様だ。
よし、と小さく呟くとレイリーはその場から大きく飛び退いた。
追いついてきた大鴉のくちばしを盾によって防御。押し倒され着地を失敗するも、無理矢理転がることで地面に激突するレベルで突っ込んできた鴉たちの食いつきを回避した。
転がる勢いで起き上がり、未だ食らいついている鴉を剣で払いのけながら走る。
注目を集めるだけ集めて逃げ出すのは、仲間が範囲砲撃をする隙を作るためである。
「いいぞ、その調子だ」
錬は式符を投げると大砲を鍛造。大鴉が密集した所からレイリーが無理矢理抜け出したそのタイミングを狙って発射した。
砲弾が走り、爆発が起き、そして大鴉たちはたちまち炎に包まれて地面へと墜落していく。
「そのまま動き続けてくれ! 立ち止まったら巻き込んでしまうからな!」
錬の呼びかけが通じているらしく、レイリーは小さく盾を掲げてそのまま岩と岩の間を抜けるように走って行く。
ピィっと小さく笛の音がして、追いついてきたムーンリットナイトへと跨がり加速した。
「なるほど。これなら空高くへ飛び上がらなくても近接攻撃がしやすいな」
シューヴェルトは感心したようにレイリーの様子を観察し、そして自らは厄刀『魔応』を鞘に収めた。
グッと身を沈めるような姿勢から脚に呪いの力を集中させていった。
走り、飛び、そして凄まじい蹴り技が大鴉へと直撃した。
あまりの衝撃に大鴉はサッカーボールのように飛び、岩にぶつかりはじけ飛んだ。
力をかなり消費するために連発は難しい技だが、十発近くは打ち続けることができるだろう。
はじめは空を飛ぶ敵にこちらもなんとか飛行するなどして対抗せねばならないかと覚悟し、場合によっては相手の翼を重点的に攻撃するなどして地上での戦いに持ち込む作戦も考えていたが、どうやらこれらは杞憂に終わりそうだ。ならばよし、である。
「この調子で、一体ずつ確実に仕留めるとしようか」
ちらりと見ると、錬が深く頷きを返してくる。
シューヴェルトは再び跳躍し、新たな大鴉を蹴り殺した。
●ブラックアイズ
時間というものは、時として早く過ぎ去るものである。
「亜竜種どもよ、いや……違うな?」
天空を震わせるような声が、暗雲の下に響いた。
優しい老夫のようなその声に、びくりとアリアたちは身を震わせる。
なぜならば、大鴉を7割ほど倒せた頃になってその声が響いたためだ。
「まだ倒し切れてないのに……」
見上げれば、それまでの大鴉が小さな虫に見えるほど巨大な鴉型亜竜ブラックアイズが雲を突き破り現れた。
錬は大砲を新たに作り出し、セララたちへと呼びかける。
「大鴉はこっちに任せろ! それに……クラリーチェ!」
呼びかけに応じて、クラリーチェは頷いて走り出した。
八人である程度の余裕をもって対処可能だった大鴉も、回避ペナルティ目的で密集されてはこちらの致命傷になりかねない。
ヴィクトールとアリアもそれに伴って走り、クラリーチェはもう何度目かの神気閃光を解き放った。
その間にブラックアイズと戦うのは、セララたちの役目だ。
「ボクは魔法騎士セララ! ブラックアイズ、勝負だよ!」
セララはまるで放たれた矢のように豪速でブラックアイズへ迫ると、全力のギガセララブレイクをたたき込む。
「フリアノンの皆を守る。これ以上、キミに殺させはしない!」
「フリアノン? あの者ども、異種族を雇ったか」
「個の力じゃ勝ち目はないけど……ふふーん、イレギュラーズの集合力を舐めちゃあだめなんだよ!」
セララの剣とブラックアイズの激しい雷が激突する中、アリアの必殺技とも言える『アネクメーネ』が炸裂した。
あの大鴉たちを狂乱させた音の爆発がはじける。結界によって衝撃自体は防がれるものの、音に込められた弱体化の力は無力ではないらしい。
ブラックアイズは『む』と小さく唸ってアリアをにらみ付ける。
が、彼女を庇うようにヴィクトールが立ち塞がった。
長い髪の間からちらりと見えたヴィクトールの視線に、ブラックアイズが目を見開いた。
「貴様、黄金の――」
言いかけた所でシューヴェルトとエイヴァンが飛びかかった。
「弱点と呼べる部位はないか。神秘攻撃を無効化する結界を解くような部位は――」
エイヴァンは注意深くブラックアイズを観察しながら斧を叩きつけ、シューヴェルトもまた『飛竜さえも地に堕とす』といわれる蹴りをたたき込む。
その一方で、錬は残った大鴉たちに『式符・炎星』の狙いを定めていた。
大鴉の動きはそれまでのバラバラなものとは異なり、ブラックアイズを補佐するようにセララやエイヴァンといったメンバーに密集し回避能力を激減させるように群がっている。それゆえ、下手に範囲攻撃を使えば仲間を巻き込むのだ。
そこへ勇敢にも挑みかかるレイリー。
「さぁ、かかってらっしゃい、黒の亜竜よ! それとも、竜の真似事をする人が怖い?」
フェイスガードをかしゃりと開いて不敵に笑ってみせるレイリーに、ブラックアイズはククッと笑い声をあげた。
「よかろう、異種族の民どもよ」
ブラックアイズは咆哮し――そして全てを破壊し始めた。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
――ブラックアイズの撃退に失敗しました。
――ただし、保険として配備されていたドラゴニア戦士たちの助けもありフリアノンは守られました。
●戦果報告
ブラックアイズとの戦闘は熾烈を極めた。
仲間は一人また一人と倒れ、それでも戦い続けようとするイレギュラーズたちに……ある言葉が脳裏をよぎる。
――もし負けても、命を賭けようなどとは思わないでくれ、新たなる友よ。
――我々が控え、もしものときは交代し出撃する手はずになっている。
――これ以上、墓を増やしたくはないんだ。
悲痛な、しかし決意に満ちた言葉は……増援の声によってかき消えた。
「退くんだローレット! よく持ちこたえてくれた! ここよりは我等が!」
騎乗亜竜に跨がりかけつけた亜竜戦士の一団であった。
彼らによって一時的に庇われつつ撤退するローレット・イレギュラーズ。
それから暫くして、亜竜種戦士たちはボロボロの状態で戻ってきた。
「君たちがブラックアイズにダメージ与え、厄介な大鴉眷属たちを倒し尽くしてくれたおかげで新たな死者を出さずにすんだ。深く感謝する」
破壊されたかぶとをおろし、戦士が深々と頭を下げた。
ブラックアイズはこれ以上のダメージをおそれてか撤退を選択したらしい。
どうやら、皆の戦いは確かにフリアノンの里を守ったようだ。
「しかし、ブラックアイズがこれほどに強力だったとは。里の守りをより強固にしなければならないな……」
戦士はつぶやき、そして医療施設へと歩いて行った。
GMコメント
●オーダー
皆さんは覇竜領域の集落フリアノンへ訪れ、強力なネームド亜竜の退治をオーダーされました。
殺し尽くすことができるならそれに越したことはありませんが、撤退させることができれば充分というものです。
●エネミー
ブラックアイズはいちど先行して亜竜戦士たちの探索チームを壊滅させましたが、里へ侵攻するにあたって同種の大鴉型モンスターを多数したがえています。
皆さんが迎撃ポイントに到着する頃には、まずこの大鴉たちを相手にすることになるでしょう。
大鴉は飛行能力が高く、対地攻撃に優れています。
逆に高高度での空中戦を挑むと若干楽という性質があるので、もし飛行戦闘が可能ならその選択をしてみるのもいいでしょう。
戦闘に時間がかかりすぎるとブラックアイズも戦闘に合流してしまうので、大鴉をできるだけ手早く倒してしまう必要がありそうです。
ブラックアイズは伝令役の情報によると『神秘攻撃』を無効にする結界をもっているようです。パッシブ能力なのかは判別できていませんが、ブレイク(≠クリーンヒット)するのがかなり難しいので常時ついているものと考えて対応するのがよいかもしれません。
●戦場:岩場
ごつごつとした岩場です。高低差が激しいため、最初に遭遇する大鴉へは跳躍して近接攻撃を仕掛けるなどの工夫をつかって遠距離攻撃なしでも戦うことが可能です。
ですがブラックアイズが到着すると周囲をまっさらに破壊してしまうので、高低差が使いづらくなるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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