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シナリオ詳細

霊喰集落アルティマ・ホワイトホメリアより

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●亜竜ホワイトライアー
 ズ・ベルドラ坑道が大量の魔獣によって占拠され、亜竜種坑夫たちが大勢取り残されたというニュースが舞い込んだ。
 坑道でとれる白鉄や虹銀といった貴重な鉱物が供給されなくなるというだけでもダメージが大きいが、貴重な坑夫が失われればそれどころでは済まされない。
 坑道警備を担当していたラ・イワンはすぐに出立できる部下たちを連れ坑道へと入った。
「暗いですね……明かりはどうしたんだ?」
 部下の一人がランタンをつけ、洞窟を照らす。
 坑道といっても古くから使われ拡張が進んだ坑道だ。俗に言うブランチマイニング方式がとられ、広く長いまっすぐの主幹トンネルに無数の枝のように横穴があくという形式になっている。
 それゆえ主幹トンネルには入念な補強がなされ、等間隔に明かりが置かれているはずだ。
 今部下が掲げたランタンのように、火を使わずに光を放つ鉱石ランタンなる道具でだ。
「全て壊されたんでしょうか」
「わざわざ等間隔につるしたランタンをか? なぜそんなマネをする」
 ラ・イワンは坑道に現れるモンスターには詳しいほうだ。土の中を泳ぐように移動するサンドワームや、モグラのような亜人種族であるゲラモスなどがよく坑夫を危険にさらすからだ。そのたびに彼は出動し、そして少人数で難なく撃退できていたのだが……。
「こんなことは初めてです。記録にだってない」
「……いや」
 部下の言葉に頷きかけて、イワンは固く唸った。記録には……ある。厳密には、古い文献にかろうじて残ってたというものだ。
「『ホワイトライアー』かもしれん」
 その単語を聞いて、部下達は首をかしげる。ピンときていないのだろう。聞いたこともないと言う者もいるようだ。
 とはいえイワンも確証があって言っているわけではないようで、それきり同じ言葉をだすことはなかった。
 ……そうして、部下と共に坑道を進んでいくと……。
 アッ、という声がかなり奥の方でした。
「誰かいます。きっと坑夫たちですよ! おーい!」
 暗い洞穴のなかやっと人の気配がしたからだろうか。部下のひとりが手を振りながら走って行く。
 そして。『ぱきゃり』という音と共に彼の声と足音が止まった。
 鋼の鎧を着込んだ亜竜種の戦士だ。そう簡単に死ぬはずはない……と思いたかったが。
「ごきげんよう~。ごきげんよう~。劣等種族のみなみなさまあ~」
 まるで気の抜けたような、くねくねとした壮年女性の声がした。
 と同時にずる、ずる……という何かを引きずる音。
 思わず短剣を構えたイワンは、目の前の光景に唖然とした。
「おかわりを、ごちそうさまですう~」
 先ほどの部下を、頭からくわえ、上半身まで既にくわえ込んでしまった巨大な白蛇がそこにいた。
 イワンは咄嗟に門の緊急閉鎖を示すシグナルを叩くと、部下達全員に戦闘の構えを取らせる。大蛇は鋼の鎧を着込んだ戦士をちゅるんと吸うように飲み込み、そしてぺろりと舌を出した。
 部下達が勇敢にも飛び込み、一斉に斬りかかる。
 数多のモンスターを屠ってきた強力な斬撃が、集中する。
 ……にもかかわらず、まるで霞をきるかの如く剣はすかすかとすり抜けていった。
 額から生えたねじれた角。霞のように剣が空振る、白い鱗の大蛇。
「亜竜ホワイトライアー……なのか……?」
「だ~いせ~いか~い」
 大蛇は、ホワイトライアーは笑ったような声を出して……そして迫った。
 それだけである。それだけで、イワンの生涯は幕を閉じた。

●霊喰集落よりの使者
 ここは亜竜集落ペイト。岩で出来た建物の中に、生真面目そうな亜竜種の男とローレット・イレギュラーズたちが集まっている。
 高いテーブルに坑道のマップを広げ、チェスのようなコマを置いて説明をしているところだ。椅子はあるにはあるが、誰も腰掛けてなどおらずマップを覗き込んでいる。
 武闘派が多く住まうペイトらしく、生真面目そうな男も屈強な体つきをしていた。彼は眼鏡をついっと中指であげて語る。
「……このように、警備隊は全滅。かろうじて第一門を閉じていますが、破られるのは時間の問題でしょう。現在緊急封鎖プロトコルを実行中です。この封鎖が完了するまでの間、ホワイトライアーの侵攻を阻止して頂きたい」
 このペイトのことだ。里の亜竜種たちが突撃していって時間を稼ぐこともできなくはない、だろう。
 だが彼ら亜竜種と友誼を結ぶべく『覇竜領域トライアル』に挑んでいるローレット・イレギュラーズとしては、このくらいはできなくては彼らと付き合っていくことはできないということだ。
 そして戦う相手が、亜竜ホワイトライアー。
「ホワイトライアーという亜竜は、かなり古くからこの地の文献に残っていました。
 霊喰集落アルティマという場所からやってきたと記されていますが……そのアルティマなる土地がどこにあるのか、我々は知りません」
 この口ぶりからして、そしてローレットもそんな情報を一度も聞いたことがない所からして、おそらく覇竜領域のどこかにあるのだろうが……。
 肝心なのはそこではない。
「やるべきことは単純です。時間が来るまでのあいだ耐え続け、時間が来れば撤退して頂きます。それ以前にホワイトライアーを倒すようなことがあれば万々歳ですが……我々としてはそれは難しいと考えています」
 そこで一拍おいた男は、ローレット・イレギュラーズの顔ぶれをそれぞれ見る。
「我々にとって竜種は脅威ですが、亜竜とてその限りではりません。今回のホワイトライアーは古くから語られる強力な個体。坑道はいずれ取り戻すにしても、これ以上の侵攻はなんとしても食い止めなければならないのです」
 どうぞよろしくお願いします。と、男は深く頭を下げた。

GMコメント

●オーダー
 あなたは覇竜領域の里ペイトにて、亜竜ホワイトライアーとその眷属たちを食い止めるオーダーをうけました。
 完全封鎖プロトコルが完了するまでの一定時間(具体的にどの程度かは不明)を耐えきることが役目です。最悪重傷者が多数でても時間さえ稼げれば成功条件は満たされます。逆に全滅してしまったら失敗です。

●ホワイトライアーと眷属
 巨大な蛇型亜竜ホワイトライアーは『物理攻撃』を無効化する能力を発揮しています。これがどういう絡繰によるものか判明していないので(強力な個体へのブレイクを狙うのはかなり難しいので)常時かかり続けているものと考えて対処しましょう。
 主に人を丸呑みしていましたが、一旦霊体の拳でボコボコにして全身の骨を柔らかくしてから咥えるという習性があります。ジッサイ問題、飲み込まれるときは死ぬときなので、戦闘に関してはこの霊体の拳(×沢山)を相手に戦うことを考えましょう。

 また、現場には眷属となる白蛇型のモンスターが多数出現しています。これらを倒していかないと回避ペナルティ等の影響から極めて危険な状態に陥るでしょう。

●戦場:坑道
 トラックが余裕で通れそうなくらい広い主幹トンネルと無数の人間サイズの横穴で形成されています。
 主幹トンネルを向こうからホワイトライアーがずいずい迫ってくる一方、掘り進んだであろう横穴から蛇眷属たちが湧き出てくるという状況を想定して下さい。

 詳しく言うと、今現在封鎖している第一門が破られると同時に戦闘を開始。はるか後方での完全封鎖プロトコルが完了するまで時間を稼ぎます。
 時間になったら確実な方法で知らされるので、撤退は問題無く可能であるものとします。(例え戦闘不能になっていても今回は撤退できるものとします)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 霊喰集落アルティマ・ホワイトホメリアよりLv:30以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年02月15日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ

●ズ・ベルドラ坑道の惨劇
 等間隔に明かりの灯った通路を進む。
 土に石を埋めただけの階段が下の階層へと続き、この先が坑道になっているという。
 幾度かの折り返しを過ぎたところで、先頭でランタンを掲げていた『不殺の狙撃手』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)がぽつりと呟いた。
「遭遇した坑道警備隊は全滅……したんだったよな」
 巨大な蛇が何人もを丸呑みにしていくさまを想像して、顔をしかめる。
 反射的に自らの腕のあたりに手を触れた。
「生きるために食うんだったら理解はするが……それにしたって、なあ」
「アルティマの亜竜さんっていうのは、みんなそうなのかしら」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はいやだわと呟いて目を閉じた。
 日頃から通行のある階段だからか、その横幅は広い。転落を防止するためのバーが等間隔に据えられ、それを掴みながら降りていく。
 いつもは頻繁に人とすれ違う場所らしいが……今は誰もない。降りていく自分達だけだ。
 上ってくる人間がいないのは、皆食われたからだ。
(本当は『私達が倒すから大丈夫』って言えたらよかったけれど)
 それはこの里のドラゴニアたちも同じ考えだったのだろう。彼らは倒す事をもとめなかったし、こちらも不用意にできるなどとは言わなかった。
 安堵させることは意味があるが、ありもしない期待で油断させることはそのまま滅びに繋がる。
 ただし、情報共有をすっかり終えた仲間内でなら別だ。
 『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が小さな身体でアーリアの肩にとまり、蝶のような翼からこもれびのごときぬくもりと光を放った。
「まかせて! みんなまとめてちょいちょいと足止めしちゃうわよ、悪戯は得意なんだから」
 首元に温かさを感じながら、アーリアは小さく笑う。
 そうだ、するべきことは決まっている。戦えるのも、戦わなければならないのも、自分達だけではない。
 今まさに緊急封鎖を行っているドラゴニアたちを信じ――。
「すべき事は単純。時が満ちる迄、持ち堪える事。……言うは易く行うは難しというやつですわ」
 皮肉げにいう『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)に、『銀雀』ティスル ティル(p3p006151)は『だいぶ酷い状況ね』と苦笑を返した。
 それが苦々しくても、笑えるというのは大事なことだ。
「単純な数でも負けているし、おそらく倒しても倒してもきりがないんでしょうし……」
「しかし、耐えきるのみに注力するならやりようはありましょう」
 『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)の言葉は、他の誰もが言おうとしたことだ。共通認識ともいえる。
「倒せない敵でも、倒しきれない数でも、耐えるという一点のみならば達成はできます。無論『容易に』という言葉はつきませんが」
 何人かが酷い怪我を負うだろう。最悪誰かが死ぬかも知れない。
 普段の戦いで人死にが出ないローレットといえど、警備隊が全滅した今自分達だけが死なないなどという保証はないのだ。一方の事実として、死んでいったローレットの仲間は少なくない……。
 暫く階段を下っていくと、扉につきあたった。
 固い岩盤に埋め込んだような扉だ。おそらくガスや粉塵が扉を通して通路に入らないようにするためのものだろう。
 『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は小窓を開いて中を確かめ、あえて扉を叩きつつまだエネミーサーチに反応がないことを確かめる。
 この場所まで至っていたら色々とおしまいだ。まだ大丈夫ということだろう。
「準備はいいか。アーリアたちは可能な限り眷属の蛇たちを倒し陣を埋め尽くされることを防げ。オウェードたちはホワイトライアーに密着し進行を防ぎ続けろ。私とオデット達はその支援をする」
 ゲオルグの確認に、『真竜鱗』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が深く頷く。
 相手は倒す事もままならぬほどの強敵だ。攻撃を永遠に防御し続けるなど、治癒でダメージを100%カバーし続けるなど、あるいは一方敵に攻撃をさばき続けるなど極めて困難だと考えてよい。たとえばオウェードひとりがどんなに頑張ったところで、1分もたたぬうちに腹に収まってしまうだろう。警備隊もそうして死んだのだろうから。
 ゲオルグはそっと扉を開き、手招きするとその肩にオデットがとまる。
「まずは通路を埋めているであろう蛇たちを倒し、道を開け。エンゲージから10秒以内だ。そうしなければホワイトライアーの進行を止められず陣が崩壊する。できるか?」
「まっかせて!」
 ややくい気味に言ったオデットは胸を張り、翼の光をすこしだけ強めた。
 ゲオルグとオウェードは頷き合うと、坑道内を照らしながら走り出した。

●蛇
 エネミーサーチをはしらせるまでもなく、皆の目にそれは明らかだった。
 土色の坑道主幹トンネルに照らした光によってぼんやりと見える闇の中で、白くうねる『群れ』があった。
 オデットたちは発光しながらも距離を整え、そして――先陣を切ったのはやはりオデットだった。
「えぐい蛇ねっ。まずは挨拶代わりに――みんな、行って!」
 翼を大きく広げ空中で制動をかけたオデット。ビッと両手で前を指し示すと、小さな蝶の形を成した光の低位精霊たちが一斉に蛇眷属の群れへと飛び込み、そして次々に爆発を始めた。
 熱を帯びた奔流となって暴れる精霊たち。攻撃力に特化したオデットならではの暴力的なファーストインパクトである。
 とはいえ、それによって眷属達を一撃で葬れたかといえば、ノーだ。
 逆に言えばオデットの力をもってしても一撃で葬れないほど眷属達の体力が高いということだ。
「全て倒しきる必要はありません。まずはホワイトライアーへの道が開ければいいのです」
 正純は一度目を閉じ、そして開く。
 目の中に生まれた星の輝きが暗い坑道内をまるで星明かりに照らしたかのように明瞭とした。こちらを察し次々と飛びかかろうとする眷属の群れだが、防御も回避もしない。
 正純は下げていた『天星弓・星火燎原』を素早く構え、星の力を宿した矢をつがえた。
 引き絞り、狙い、左右から回り込み一斉に飛びかかる蛇たち――を、オウェードが手にした武器によって無理矢理払い落とした。
「ワシらを覆い尽くすつもりじゃったのかね? 残念じゃったのう!」
 次々と横穴から眷属が湧き出し取り囲もうとするが、縦横無尽に走り回るオウェードによって正純に触れられる眷属はいない。
 正純はオウェードに防御を完全に任せ、威力に全集中した矢を放った。
 ドッと眷属に刺さる矢が、そのまま貫通し次の眷属を、そのまた先の眷属をと次々に貫き、そしてホワイトライアーへと突き刺さった。
 巨大な蛇の顔面が、くぱりと口を開く。
 霊体でできた半透明なの腕が次々に生え、うち一本が頬に刺さる矢を引き抜く。
「こんばんわ~。下等生物のみなさん~。またおかわりですか~?」
 凄まじい破壊力をもった正純の矢を受けても、この態度。
 正純はそれまで乱れなかった表情に、すこしだけ険しさを増やした。
 ズッと首を動かす。身体をくねらせているのだろう。キャタピラのように動く腹部が地面をかみ、凄まじい速度で正純たちへ距離を詰めよう――としたその時。
「それ以上は進ませませんわ」
 真っ白い影が闇の中を駆け抜け、跳躍し、そしてホワイトライアーの顔面へと剣をたたき込んだ。
 彼女がさげた飾りが輝き、彼女を中心として光が広がる。
 それによって露わとなったホワイトライアーの顔は、今にも人間を丸呑みにしようとするようなおぞましいものだった。両目の間にたたき込まれた剣が、霊体化したホワイトライアーをすりぬける。
 両目を寄せるようにして玉兎を見たホワイトライアーは、開いた口を僅かに動かす。笑ったかのような表情だ。
「いただきま~す~」
 間延びした口調でそう歌うと、霊体化した腕が大量に拳を作り玉兎へと殺到。
 蛇はえものを丸呑みにする前に全身で締め付けて骨という骨を折るというが、ホワイトライアーは霊体の拳で骨を折り尽くすというのだろうか。
 繰り出された拳を防御する玉兎――だが、四方八方から撃ち込まれる拳を防御しきれるものではない。たちまちのうちに宙を踊らされる。
「もう暫く耐えてくれ」
 ゲオルグはポケットから白いグレネード弾のような物体を取り出すと、玉兎めがけて放り投げた。
 回転して飛んでいくそれがゲオルグのなかでスローとなり、世界から音や光がうすれていく。
 引き延ばされた時間の中で大型拳銃の狙いを付けたゲオルグは、玉兎にグレネードがぶつかる直前でそれへ銃弾を撃ち込んだ。
 パッと弾ける魔法の光。膨大な治癒の魔法が玉兎へと降りかかり、複雑に歪みそうになっていたボディが再生される。
 それでも完全な治癒とは言いがたいが……。
「それにしても、立派な白蛇ですこと。皮を全て剥いで金運上昇を希えば、大層ご利益が期待出来ましょうね」
 玉兎はそんな風に言える程の余裕を取り戻せていた。
「下等生物ぅ~」
 対するホワイトライアーの態度もまた余裕そのものだ。
 こちらを完全に見下し、食べ物で遊ぶ子供のように声をはずませている。
「HPの六割程度で交代する予定ではいたけれど……集中攻撃をされるとダメージが激しすぎる。交代するラインを考え直した方がよかったか?」
 アルヴァは魔力宝珠に力を込め、治癒の魔法を唱える。
 玉兎に流れ込んでいくことで、それまでゲオルグが浴びせた治癒の光と反応して強力な治癒力となって玉兎の肉体を更に再生させていく。
「ったく、物理攻撃が効かないとは厄介なものだな。こちらの手札も縛られる」
 そういいながら、宝珠の力を流し続ける。
 アルヴァが流しているのは治癒の魔法だけではない。眷属達を発見した時から発動を始めていた自らへのクローズドサンクチュアリ。玉兎を含む全員を範囲に収めた際に放ったオールハンデッド。そして今、玉兎を対応範囲に収めてパッシブ効果をもたらす『クェーサードクトリン』の特殊能力である。
 そこまでの支援効果をもってなお、ホワイトライアーの(厳密には無数の霊体拳の)集中攻撃は厳しすぎる。ここに眷属達まで群がってしまった場合、たちまち味方を食い破られるだろう。
「眷属を減らせ! 残せば死ぬぞ!」
 ほぼ無尽蔵に沸いて出るであろう眷属達をどれだけ減らし続けられるか。あるいはゼロにし続けることができるかが、この勝負の分かれ目となるはずだ。
 アーリアとティスルは了解の返事をしようとしたところで、彼女たちのはるか後方から強い敵意を察知し振り返った。
「オデットちゃん、横穴から離れて!」
「――!?」
 ホワイトライアーから魔法による射撃が可能な限界まで距離をとっていたオデットは、左右や更に後方から湧き出る大量の眷属たちに気づき慌てた様子で振り返った。
 眷属はおそらくホワイトライアーの『食事』を助けるためのもの。であるならば、逃げ道を塞ぐ役割も当然こなすということだ。
 動くことが遅れたオデットに大量の眷属が飛びかかり食らいつく。それらを全てなぎ払うにはオデットごと爆破するしかない――かに思われるが。
「アーリアさん併せて!」
「まかせてティスルちゃん」
 ティスルは翼を広げ飛び上がると、低空飛行状態のままオデットから20mほどの距離をとって宙へ浮かぶと、『メルクリウス・ブランド』を指輪から展開。
「手数で攻める戦い方なのは貴女たちだけじゃないのよ?」
 もう一方の手に『メルクリウス・ダーツ』を抜くと、それを思い切り放った。
 オデットへ突き刺さるかと思われた寸前。ダーツが無数に分裂し『オデット以外』を撃ち抜いていく。
 一方でアーリアは地面にぺったりと黒い手袋をつけ、流し込んだ魔力をオデットの真下で解放。
 吹き上がった橙色の糸群が周囲の『眷属のみ』に絡みつき締め付けていった。
 全く同種の攻撃によって眷属達は血を吹き、そしてのたのたと地面に転がる。オデットはオウェードによるカバー範囲に入れるように移動すると、ゲオルグの頭の上に着地して『ふう』と胸をなで下ろすように息をついた。
「食べられちゃうかと思った!」
「確かに、危ないところだった……」
 ゲオルグはそんなオデットに治癒の魔法を直接かけ、そして周囲へ視線をめぐらせる。
 アーリアとティスルもゲオルグのそばに寄り、周囲の眷属たちへと構えた。
「孤立するのは危険ね。眷属一体一体にブロックされたら身動きがとれなくなるわ」
「むう……」
 仲間が危なくなれば庇いにいくつもりでいたオウェードも、その言葉には唸るしかない。近くへ駆けつけられなければ、味方が蹂躙されるさまを黙ってみているしかできなくなるのだ。
 が、こうして集まっていればその限りではない。
 問題は、この状態を一体どれだけ続けていられるか……なのだが。

●戦い方
 仮に、平均的な能力をもった人間がいたとして。
 短期決戦に向いたものと長期戦に向いたものでは、その能力は大きく異なる。
 正純は長くとも10ターンという非常に短い短期決戦を想定した火力特化型のビルドをした弓使いであった。少なくとも今は。
 そんな彼女にとって最も邪魔なのは、ホワイトライアーを『かばう』眷属たちである。
 総計三万をゆうに越えるダメージを、たかだか眷属一匹ずつに吸われるのは無駄を通り越して自殺だ。今この瞬間、仲間達による眷属狩りの効率が求められた。
 そして直近で求められたのは、オデットである。
 展開した光の低位精霊たち。ホワイトライアーにはべるように数匹の眷属が集まっている今。これをぶつければ眷属を効率的に排除できる。しかしそれはアルヴァや玉兎たちを巻き込むことに他ならない。
 が、迷いは一瞬。なぜなら――
「構いませんわ、やって!」
 玉兎が鋭く叫んだためである。
 オデットは強く頷き精霊を放ち、そして爆発が起こる。
 ここぞとばかりに霊体の拳を振り上げたホワイトライアー――に対して、玉兎とアルヴァは大きく飛び退いた。
 代わりに突っ込んできたのはなんとオウェード。仲間を庇う役割をはなれ、ホワイトライアーに両手をどっしりとつけて道を阻んだのだ。
「ワシごとすり抜けていくことは出来ないようじゃな!」
 その勇敢さに瞠目するホワイトライアー。大量の拳が集中しオウェードの意識を刈り取るが、アルヴァと玉兎が全く同時に治癒魔法を発動させた。清らかな月光と太陽のような光が集まり、オウェードの体力を底上げしていく。
 無論それだけではない。庇われる立場であったゲオルグが身をさらし、とっておきの『コーパス・C・キャロル』を発動させたのだ。
 吹き抜ける癒やしの風が、オデットの与えたフレンドリーファイア分をゆうに越えてカバーする。
「ハハ、そう簡単にワシを食べられると思っているのか……!」
「言っても分からんか。アンタ頭悪そうだし」
 アルヴァの挑発するような言葉に、しかしホワイトライアーは応えない。
「ど~い~……どいて!」
 強引に進もうとオウェードを更に殴りつけ、眷属達を集中させる。
 その様子には焦りすら見えた。
「貴女たちを坑道から先には行かせないわ。何のために来たか知らないけれど。今日は帰ってもらうから」
 だが、それをティスルたちが許すはずがない。
 糸切傀儡の術を用い、周囲の眷属もろともホワイトライアーへと短剣を投げるティスル。
 更に、アーリアは懐から取り出した小瓶を開きくいっと中身をあおった。
「蛇はしばらく絶食していても大丈夫なんでしょう? それじゃあ、またいつか」
 美しい赤に髪色を変えたアーリアは、突き出した手のひらから拒絶の魔法を発動させた。
 本来ならいなせるはずの衝撃は、仲間達の猛攻と大きく引き上げられた力によって、『直撃』という効果をもたらした。
「ギッ!?」
「正純ちゃん、お客様がお帰りよ」
 言われて、正純はごくごく冷静に最後の矢を放つ。
 と同時に、撤退を促す鐘が鳴った。
「さようなら。またお会いしましょう」
 手を振り撤退を始める正純たちを、ホワイトライアーは追いかけることができなかった。
 だくだくと流れる血。そして力尽きた大量の眷属たち。
「ギ、ギ、ギ……」
 ホワイトライアーは悔しげに歯ぎしりをする。それだけしかできなかったのだ。

成否

成功

MVP

星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

状態異常

なし

あとがき

 ――封鎖プロトコルが完了し、ローレット・イレギュラーズも撤退を完了しました。
 本来なら数人が倒れていてもおかしくない状況にありながら全員無事に帰ってきたことに、坑道警備隊は驚きと称賛の声をあげています。

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