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シナリオ詳細

混沌解明冒険記~KING Baumkuchen~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――キングバウムクーヘン?」
「そう。名前の通り……と言っていいのか分からないけれど。
 つまりはバウムクーヘン型の生物さ。超巨大ビックサイズの――ね」
 バウムクーヘン。それは中心にドーナッツ状の穴があるケーキの一種だ。しかしローレットの一角でギルオス・ホリス(p3n000016)が語るのは、そういった文字通りの意味でのお菓子ではない。
 『生物』の事だ。いや或いは魔物か精霊かもしれないが、とにかく。
 ――無垢なる混沌。
 フーリッシュケイオスとも呼ばれるこの世界には様々な存在が『在る』ものだ。
 人種、動物、魔物、精霊、妖怪、その他なんかよくわからないもので溢れたこの世界には未だ解き明かされていない謎、浪漫、奇跡もまた在ろう。そして件の――キングバウムクーヘンもまた、その一角である。
「まず、説明しよう――バウムクーヘンと言えば樹木に偽造する性質を持っている生物だという事は、皆も当然知っている事かと思う」
「樹木に偽造する性質」
「そう。そしてキングバウムクーヘンとは、その中でも特大サイズの個体の事を指すんだ」
 それは一見すればまるで大樹の如くに聳えている――
 深緑にある迷宮森林の中のどこかにそのキングバウムクーヘンは『いる』とされていた。しかし小型バウムクーヘンはまだしも、大型バウムクーヘンは最早伝説上の存在とも言われる程に目撃証言が今まで一切なかったのだ……
 只の御伽噺の中の存在であるかの様に。しかし――
「だけど先日……目撃されたんだよ」

 深緑の迷宮森林の中で噂の――キングバウムクーヘンが。

 ソレは遥か彼方。しかし巨大な影が確かに目撃されていた。
 大樹が立ち並ぶ中を動く影。正にあれこそ伝説のキングだと、偶々見かけた幻想種は確信した――のだが。
 更に近くで一目見んと近付いてみれば、忽然とキングは姿を消したのである。
 どれだけ探しても見つけられなかった。甘い匂いは確かにしていたというのに……
「そういう訳で依頼が舞い込んだよ――そう。キングの実在を証明してほしいそうだ」
「証明とは……具体的には?」
「まぁキングの『住処』と思わしい場所に赴いて、実際にキングを見つけ出してほしいそうなんだよ。細かな場所と実在さえ分かれば後は依頼人が後から赴いても良い訳だしね――あとは、物のついでにキングの体の一部を切り取って持って帰ってきてもいいかな?」
 成程。伝説とされるキングバウムクーヘンの『住処』を見つけ出せ、と……
 あとはモノのついでにキングの体の一部も回収出来れば万々歳だ。
 ……あ、そうそう。それと、伝承によるとキングバウムクーヘンは通常クーヘンを遥かに凌駕するぐらいとってもとっても美味らしくてね――
「なんなら君たちもちょっと食べてきてみたらどうだい? まぁでもカロリーが尋常じゃなくヤバすぎるらしいから、あんまり食べると体重計の数値が凄い事になるらしいけどね――」
 その言葉が聞こえたかどうか。分からぬ程にギリギリのタイミング、しかしながら素早く動いたのは――エクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)に橋場・ステラ (p3p008617)か!
「ふふ、クーヘンと聞いて大人しくしている暇はありませんね……行きましょうエクスマリアさん!」
「ああ。しかし、森の奥に、そんな生物がいるとは……世界は、広いな」
 さぁいざ往かん迷宮森林の深奥へと。
 キングクーヘンが目撃された場所は分かっている……あとはその地に赴きキングクーヘンの足跡(?)なり生活の痕跡(?)を探っていけば――見つけることが出来るかもしれないだろう。奴めも樹木に偽装が得意な生物とはいえ、やりようはある筈だ……!
 なにより。こんな珍妙な生物がいると聞いて――黙っていられようか!
 この物語は、奇々怪々なる混沌を知り尽くそうと日夜走り回る愛すべき馬鹿野郎共の記録である……!
 狩れ、キングバウムクーヘンを!! 明日のカロリーは気にするな!!
 全ては――混沌世界解明の為に!

GMコメント

 リクエストありがとうございます!! バウムクーヘンと言えばチョココーティングされたのが大好きです。ううっ、食べたくなってきた……という訳で以下詳細です!!

●依頼達成条件
 キングバウムクーヘンを……狩れッ!!
(※狩れとは言ってますが、ぶっちゃけ探し出すだけで依頼成功です)

●フィールド
 深緑。迷宮森林の一角です。
 周囲では動物や鳥の鳴き声が溢れ。更に深い、深い森を只管突き進んだ場所に――キングバウムクーヘンの『住処』があるとされています。周囲は深い自然に囲まれ、天にも連なるが如くの大樹で満ち溢れている事でしょう――
 しかしこの中のどこかにはキングクーヘンが紛れ込んでいます。

●キングバウムクーヘン×1……?
 謎のバウムクーヘンです。バウムクーヘンだけど生物か魔物か精霊です。多分。
 キングバウムクーヘンだと長いので『キング』とか『キングクーヘン』とかも略される存在です。

 バウムクーヘンと言えば樹木に擬態する生物であり『クーヘン!』と鳴く存在というのは皆さま当然ご存じかと思いますが、キングはその中でも特級にデカいサイズ――そう正に『キング』の呼び名に相応しい生物なのです!

 今回は皆さまにキングを探してもらいます。
 ……ただし一筋縄ではいきません。キングの周囲では『甘い香り』が段々と匂ってくるらしいのですが――この匂いがどこから発されているのかはどうにも不思議と分からないらしく、嗅覚だけでの探知は困難です。
 むしろ匂いを嗅ぎ続けていると只管お腹が空いてくるかもしれません……
 空腹に耐えながらなんとかキングクーヘンを探し出してください――!

 またキングクーヘンは穏やかな性格をしているらしく、攻撃されるまで反撃してきたりなどはしないようです。ていうかその『攻撃』も、かなりの量の身を刈り取ろうとしない限り攻撃された判定には入らないぐらいデケーです。
 もしも攻撃状態になった場合の攻撃方法は不明ですが、巨大な身を利用して押しつぶしてこようとしてきたり、皆様ご存じクーヘンビームを撃ってきたりするんじゃないですかね……? あの、親しい者と決して結ばれない『バームクーヘンエンド』の幻覚を見せてくるビームを……!! 突然、非常に仲が良かった人物の結婚式のスピーチした後の帰り道とかを幻視したりするんだ。タブン。

 あととっても美味らしいです。でもカロリーがマジでホントに尋常じゃないくらいヤベーらしいですが。
 うっかり食べ過ぎない様に気を付けてください。明日の体重計がこわいぞ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBaumkuchenです。
 何が起こるのかはBaumkuchenのみぞが知ります。ご武運を!

  • 混沌解明冒険記~KING Baumkuchen~完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
※参加確定済み※
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
※参加確定済み※
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ


 バウムクーヘンが、生物……!?
「御存じ――ないのですか?
 樹木に擬態? 当たり前じゃないですか、野生のバウムクーヘンですよ?」
「ステラさん、ステラさん。その発言こそ大丈夫ですか? バウムクーヘンですよ?」
 え。だからバウムクーヘンの話ですよ――?
 なんだかずっと『斬城剣』橋場・ステラ(p3p008617)の様子がおかしい気がするが、いや、まぁしかし……以前にもよく分からない生き物に逢った事もありますし私が知らないだけかもしれませんねと『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はちょっと納得しかけるものである。なんだかバウムクーヘンは動く気がしてきました。
「そうだ、ぞ。通常のバウムクーヘン種自体、樹木へ擬態するという極めて隠密性の高い生物故、知名度と反比例するかのように、発見例は多くないと、聞く。その中でも、キングバウムクーヘンともなれば、お伽噺に出てくるような、実在を疑われるレベルのもの、だ。まさか、依頼とはいえ、そのキングと出会える縁が、結ばれようとは……」
「いやあの。なんかさも当然のようにキングバウムクーヘンのことを言っていますけど初めて聞きましたからねキングバウムクーヘン。どうしたんですか皆さん? 大丈夫ですか!? なんかもうバウムクーヘンからの攻撃受けてるとかじゃないですよね!?」
 深く思考に身を委ねる『……私も待っている』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の言動に、もう我慢できず『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は言うものだ――いやだっておかしいじゃないですかどう考えてもー!
 慟哭。おかしいのは果たしてどちらなのか――!
 非常に判断がし辛い所ですが、ともあれ皆さん深緑にやってきました。
 迷宮森林の中を歩くのです。エクスマリアは聞き耳を立てながら周囲に不審なバウムクーヘン音が響いてないか確認し、ステラもバウムクーヘンの足跡がないかファミリアーの鳥とウサギで探っていく――なんです? 自然な事ですよ?
「しかし、せっかくだもの。皆へのお土産も兼ねて沢山持って帰りたいのだわよ!
 だから皆お願いね? キングを探し出してくるのよ? よしよし、いいこいいこ」
 そして『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)もまたファミリアーの術によって召喚した子達――複数の鴉や鳩の首筋を撫でながら指示を出すものである。
 見つけたら一緒にバウムクーヘン食べましょうね、と。
 まず探るは甘い匂いがどこから出ているか――四方に飛ばして様子を見れ、ば。
「これはクーヘンではない……これもクーヘンではないです……
 むむむ。クーヘンは一体どこに潜んでいるのです……!?」
「焦ってはダメなのよ! 大丈夫、甘い匂いがもっとしてきてからが本番だわ!」
 同時に『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は周囲の木を一本ずつ確認する。もしかすれば既にクーヘンが紛れているかもしれぬのだから――適当にマークを付けて探っていれば『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は甘い匂いがしないか嗅覚を頼りにするものである。
 ――どことなく近くからあまーい香りはするものだが。
 さてどの辺りの距離に果たしてキングがいる事やら……!
「はっ、そうだわ! ねぇねぇみんな、この甘い匂い出してるキングクーヘンさん知らないかしら? 探してるんだけどかくれんぼ上手で中々見つからないの――見つけたら教えてね?」
 さすれば更に捜索の手を増やそうと、自然や精霊と意志を交わす術をもってしてキルシェは探るものである。ふふ。不審な樹木があれば彼らならすぐに気付く筈だわ――!
「キングバウムクーヘン……サイズは巨大で味も極上。
 なんでも太古の事態には乱獲の対象になったとか、そうでないとか……
 何としても探し出して、確かめないとだね。味を」
 そして絶対に味を確かめたい『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)の目は既にバウムクーヘン色に染まっていた。じゅるり。
 彼女は天へと飛翔する――背の低い樹よりも上に出て、周囲を見渡すのだ。
 何か特徴的な大樹はないかと。
 少なくとも大樹と言われている以上、背が低い事は無い筈だ……
「うう。この匂い……段々とお腹が空いてくるな……」
 しかし、この甘ったるい匂いは食欲をそそるものである――
 はっ。まさかこれも……バウムクーヘンの、攻撃!!?
 いかん。一刻も早く見つけねば皆が危険だ――!
 擬態しているであろうキングを看破する事を急ぐべく彼女は行動する。
 どれだ? どれがキングだ? 齧ったら美味しいだろうか? 齧ってみてもいいだろうか? あっ、だめだこれは普通の樹木だった、くそう――!


 そんなこんなで探し始めて約一時間。甘い匂いが近づいてきている気がする。
 本来ならば散開して探すのも手なのだろうが……遭難もまた怖い所。
「うーん、精霊さん達から情報を仕入れた所、この辺りで目撃されたとの事なんですが」
「ふむ……やはり一筋縄ではいきませんか。もう少し時間をかける必要があるかもしれませんね……この甘味の匂いがする中で行動し続けるのは、いろんな意味で厳しいものがありますが」
 いませんねー? と言うはステラだ。その隣には捜索に当たっていた瑠璃もいる。
 ステラは陸鮫に乗りながらキングを探している――キングはデカイが故に特徴的だ。『この辺りでクーヘン! って鳴くのを見ませんでしたか?』と言ったらなんか心当たりのあった精霊が多かったぐらいである。クーヘン!
 でも見つからない。くっそーどうしてだ!
 こちらの違和感を見破る力よりもキングの隠蔽能力の方が優れているとでも……? それはそれで流石伝説に謳われるキングのクーヘンだとは思いますが。しかし瑠璃の擁する絡繰仕掛けの黒貂人形も駆り出しているのだが、中々見つからない……
 どうしたものか。思わず吐息を零してしまう程。
「うーむ。少しアプローチを変えてみましょうか……バウムクーヘンはバウムクーヘンです、植物ではありません。ええ。バウムクーヘンはバウムクーヘンです。なので温度があったりすると思うんですよね――」
 大事な事なので二度言ったシフォリィもまた、周囲を探る。
 その瞳は周囲の温度を知覚する術に満たされている。
 そもそも本当にいるのか疑わしい所でもあるのだが、まぁそこまで疑っても仕方ない――どこかに妙な温度を持った大樹がないかと探し続け、同時に地図も作成しておこう。だって迷宮森林ですよ? 帰り道が分からないとキングを見つけても我々が帰れなくなると困りますし……
「ううっ。本格的にお腹が空いてきたのよ……ちょっと誤魔化そうかしら。
 ほら、お姉さんたちも舐める? 深緑ミルク工房で作ってもらったキャンディなのよ!」
「ほほう、これは、美味なるモノだな…………んっ?」
 と、その時。
 捜しても見つからぬキングの香りによる腹の鳴き声を抑えるべく、キルシェが皆にキャンディを振舞えば――エクスマリアが気付いた。
 そのキルシェの背後にある木が、動いたと。
 ――まさか。
「キ――キングだ」
 であれば。オニキスの目にはソレがハッキリと看破出来た。
 馬鹿な。こんな近くで見据えるまで気付かなかったとは――
 見れば確かに地面が重みでへこんでいる場所がある。

『――クゥーヘン』

 これが――これがキングクーヘンか――ッ!
「な、なんて大きさなの……! 戦闘!? 戦闘になっちゃうのかしら!?」
「待ってください――ここはゆっくりと身を削っていくとしましょう。
 バウムクーヘンお得アソートです。お土産に出来そうですね」
 咄嗟の事。眼前のキングの質量に慌てる華蓮だが――シフォリィが制して少しずつ削らんとする。そう、あまり深く刺激しない様に……ちくちくちくちくと斬っていくのだ。
 そして情報通り当のキングは気付いてもいないのかゆっくりと進み続けている。
 これならば大丈夫か――? 華蓮もまたちょっとずつキングの身を持ち出して。
「ふむ――枝一本とか食べてみたくありませんか? まるまる採ってみたいですね」
「むしろ折角なら丸ごと持って帰りたいのでして! え、だめ?
 ていうか流石に持って帰れない? ちくしょーなのです!」
「ああ……待ってください、ダメですよ……もう少し、もう少し観察の暇を……
 伝説をこの眼に……! ハッ! こ、これは依頼主さんへの報告の為であって!!」
 さすれば瑠璃やルシアも参戦するものだ。本来なら丸ごと持って帰りたい所なのだが……無理に倒す方針でなければ魔砲を放つ事もない、か。なお、近くでステラがじっっっくりとキングを観察する態勢に入っているが、どうしたのだろうか。クーヘン切れかな?
 ともあれキングは情報通りあまり他に頓着がない様だ。
 このままであれば適度に回収して帰る事が――と思った、その時。

『クゥーヘン?』

 あれ、キングがこっちに気付いた? もしかして何度も攻撃してたら痒かった?
 分からぬが――刹那。キングの身が光り輝く。
 クーヘンの魔力が収束し、放たれるは一筋の光。

 噂にあったクーヘンビームの煌めきであった。


 ――オニキスは見る。それは、人と結ばれる事が『無い』一時の夢。
 ……人間と結ばれることはないことは分かっていた。
 どれだけ想っても。どれだけ心の内から湧き出るモノがあったとしても。
 私たちは人間を守るために作られた、機動魔法少女だから。
『だから――』
 だから私は明日からも戦い続ける。
 みんなと、あの人たちの幸せを守るために。
 あの人たちの笑顔を。私が隣にいない笑顔を――守るために――

「…………はっ、なんだ今の」

 が。その夢も一瞬の事。感覚的には二時間ぐらいの映画を見たような気分だが。
 これが――クーヘンビーム――?
 バウムクーヘンエンドなるモノを魅せるモノとは聞いていたが、しかし。

「ああ――そうなのね。その道に行ってしまうのね、レオンさん」

 同時。華蓮もまた一つの夢を見ていた。
 それは――一つの『終わり』の境目たる出来事の夢。


 ……ずっとずっと好きだった……誰にも負けるつもりなんてなかったのだわ。
 それでも……もしも誰かに負けるのなら、それはきっと『あの子』だろうって思ってた。
 だから、私は納得している……そう、納得しているのだわ。

 ――遠くで聞こえる鐘の音が、一つの終わりを告げている。

 ずっとずっと、レオンさんの弟子という私には行けない場所に居たあの子。
 寿命の差だとか難しい事は多いけど、あの子とならレオンさんもきっと幸せ。
 私だってあの子の事は好きよ、だから二人が幸せで私は嬉しい。

 だけど、そこにだけはいけないから。
 今日と言う日だけは――会えないから。
 だから、音色だけを耳に残して祝福しよう。

 ……美味しいだわね、このバウムクーヘン。
 きっと、良い所の物なのだわ。
 とっても、とっても、美味しい――

「…………はっ! なんて夢なのだわ……!? くっ、これがキングの力……!?」
「なんです? 今何が起こってるんです??」
 恐ろしい。これがクーヘンビームの力だというのか、恐ろしい――!!
 どうやらシフォリィなどの様に躱せた者もいるようだが、他に犠牲者は――!?


 瑠璃は見る。瞼の裏に蕩ける日々を。

 ――長らく憧れの方でした。見ているだけで幸せでした。

 傍にいるだけで満たされた気になっていました。
 そのぬるま湯がとても心地よくて。
 だから――貴方の事を聞いた時にはどんな表情をしていたでしょうか。
 ……行動一つ起こせない自分には資格はないと知っていましたから。
 友人代表のこの席に、不満はなかったはずなのに。
 けれど。言の葉を一つ絞り出すだけでも。
 こんな気持ちになるとは知りませんでした――

 ――引出物のバウムクーヘンはスラムの子供たちにあげました。
 長らく募らせてきたこの思いの締めくくりを。
 甘いケーキの味でまとめたくはありませんでしたから。

 末永く続くようにと祈った言葉は嘘になってしまいました。
 置いてきた連絡先に、彼からの言葉を期待しています。
 例え資格がないのだとしても。

 あのぬるま湯からはもう――出られないのですから。

「――――なんて『そんな夢』がクーヘンビームですか」


『クゥーヘン……』
 瑠璃の意識が現へと戻ってきた時――キングは再び動き出していた。
 まるでそれは逃げる様に。ゆっくりとゆっくりとどこかに向かっていて……
「待て――逃がさないぞ、キングよ」
 しかしエクスマリアが追う。逃がさない。絶対に逃がさない。
 今見逃せば二度と会えぬかもしれぬ……それは許容できないのだ。
 このままでは終われない。きっと、きっとまだどこかに何かのフラグがある筈だ。
 特異運命座標ならば、きっとできる。でなければ、何のためにマリア達は。
「星の数にも届くほどの可能性を集め、束ねてきたというのか――
 今、この時に、キングに手を伸ばせずに、何のための特異運命座標か――」
「そんな一シリーズのクライマックスみたいな事情がありましたっけ?」
 エクスマリアの内に籠る熱量に、シフォリィ困惑。少なくともバウムクーヘン喰う為にパンドラ集めてた訳でないのは確かである! まぁとにかくクーヘンビームで一時混乱が巻き起こったが――せめてもう少しクーヘンを回収するとしよう。
 深手を負わせすぎない程度に肉を回収。
 ここか? この脇腹(?)っぽい辺りが恐らく美味か――?
「では」
 いただきます。
 ――その時エクスマリアに衝撃が走る。
 まろやかな味わいが舌の上で蕩けて消えた。
 これは、王ではない。これは――例えるなら、そう。
 『悪魔』
 これが、キング。頂点の味わいだというのか――
「……そんなに美味しいのか? なら、そうだな、持って帰ってと思っていたが私も一つ」
「えっ! でもカロリーが気になるのでして! カロリーも悪魔的という話でして!」
「え、ああ――カロリーなら問題ないよ、ロボだから」
 オニキスは言う。どれだけ摂取しても所詮余剰エネルギーとして排出可能だと――……あれ? なんだか周囲の視線が途端に険しくなったような……どうして? んぐぎーなのですよ!
「はぁ、はぁ、でも大丈夫なのです! カロリーが大変でも……
 この、ルシアの魔砲トレーニングがあれば楽々なのでしてー!」
「魔砲トレーニング……!?」
「そうなのです! 実は、魔砲はカロリーを沢山消費するんでしてー!!」
 が。ルシアだって大丈夫なのである! カロリーは採取しても消費すれば問題ない。
 そう――ルシアは魔砲トレーナーの異名(称号)を持つ人物でもあるのだ。
 ついにこれを使う機会も出来たのだと感極まっており……あっ!
「いやいや今はそういう場合ではないのでして!
 とにかく――魔砲一回で相当のカロリーを使うからこの状況にピッタリですよ!
 魔砲が使えない人もその場限りの訓練魔砲もあるから大丈夫でして!」
 だから皆さん一緒に魔砲の虜に、あぁキングが行っちゃうのでして――!! きゃっきゃとはしゃいでしまっている内に、遠くまで行ってしまっていたキング。というか訓練魔砲ってなんだろう……? いや世の中は広い、そういうのもあるかもしれない……!! が、ともかく。
「――あっ!? ちょ、ちょっと待つのだわ! あ、あれは一体……!?」
「ま、まさか……通常クーヘンの、群れ……!?」
 刹那。キングを追いかけていた華蓮とステラは――見た。

 キングの向かう先に、大量の通常クーヘンが列を成して待っている光景を――ッ!

「ああ、これが――キングのカリスマ、か」
 同時。エクスマリアも見据える――バウムクーヘンたちの……行進を。
 キングに付き従うクーヘンたちの堂々たる進軍。
 ――遊楽伯のアトリエにもあるとされる絵画『クーヘンの黎明』そのものではないか――
 まさか――生きている内にクーヘンの大行列を見れるとは――
 涙する。自然と、涙が零れて止まらない――
『クゥーヘン……』
「――バイバイ! 沢山貰って、ごめんなさいね! また逢いましょうね!」
 美味しいバウムクーヘン……沢山有難う。
 キングの鳴き声に応える様に、最後にキルシェが治癒の術をキングへと掛ければ。
 一度だけキングがこちらの方を――振り返った気がした。
 ……彼方へ消えていく。クーヘンの一族が。
 彼らはどこに行くのだろうか。

 分からないが、クーヘンの一族は今日も確かに――存在しているのであろう……

「――いやちょっと待ってくださいよ。なんですかこの流れ!!? ていうか何度でも言いたいんですがバウムクーヘンが動くっておかしくないですか!!? というか言語体系違うじゃないですかキングは共通語なのにバウムクーヘンは鉄帝系じゃないですか! 深緑系ですらない! そうですよね!? ね!!?」

 後方。遂に我慢できなくなったシフォリィが叫ぶ。
 なんですかこの仕事!? と。
 ――だがそれは誤りだシフォリィ。ここは混沌世界……

 バウムクーヘンが動くことだって……偶にはあるさッ……!

成否

成功

MVP

キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

状態異常

なし

あとがき

 ?????????????????? うん、よし!
 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 皆さんはバウムクーヘンを持ち帰り、キングの実在を証明したのです――クゥーヘン!!
 MVPは悩んだのですが、クーヘンを治癒し、友好の縁を紡いだ(???)貴方へ……
 ありがとうございました!!!!!

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