シナリオ詳細
<Jabberwock>アイソスタシー不成立
オープニング
●
天に聳える。
ソレは『怪竜』と呼ばれし存在。数多を凌駕する竜の一角。
その周囲には奴めに付き従うが如くワイバーンの群れがいる。
……或いは奴から逃げる様に、だろうか?
飛翔せし災厄が目指すは遥か海の先――練達なる国家。
誰が止めれようかその進撃を。
誰が阻めようか竜の息吹を。
人の構築せし小さな抵抗なんぞ押しのけ、彼らは到達する。
ある『意志』によって。混沌の世界法則に挑まんとする者らの集まりへと――
さすれば出てくる彼らの守護者が。
――ドローン。練達の開発した技術が一つ。
しかしそんなモノが放つ一撃など、蚊ほどの痛みすら感じえない。
強靭なる肉体。
精強なる魂。
超常の領域に達するが『ソレ』らの証足れば。
「――滅びよ」
たった一撫でで、全ての決着は着くものだ。
ドローン達が文字通りに薙ぎ払われていく。時間稼ぎにもなろうものか。
或いは、これらであっても『亜竜』の枠組みであればまだ対抗出来たかもしれないが。
不可能だ。
その『更に上』の存在には一切合切通用せぬ。
――我は竜。
『Jabberwock』と共に至りし災厄が一角。
――疾く死せよ。小さきなる者達よ。
●
練達全域にアラートが鳴り響く。
あらゆる地域で発令されし危険信号――直後、遠からぬ場所で爆発音が一つ。
まるで先日解決した筈のダブルフォルト・エンバーミングの再来の如く。
……しかし今回は電子空間からの攻撃ではない。
それは現実的脅威として練達に襲来している――『Jabberwock』
混沌世界最強と称される竜種が一角である。
「が、それだけじゃあない……! 『Jabberwock』は亜竜をも引き連れてきているんだ!
大量の亜竜が練達の防衛線を突破して首都に雪崩込んできている……!
R.O.Oの事件の爪痕が残っているというのに、厄介なタイミングだよ!」
同時。再びどこかで生じる爆発音と衝撃に耐えながら叫ぶのはギルオス・ホリス(p3n000016)である。『Jabberwock』――それは練達が観測していたある竜の事であり、R.O.O事件の際に、マザーの不調も伴って観測をロストしてしまっていた存在だ。
やがてR.O.O事件が解決し、各地のリソースが復旧され始められれば『Jabberwock』を再び捉える事も出来たのだが……捉えたと同時に練達は驚愕した。
なんと首都セフィロトに向けて『Jabberwock』が進撃してきているのである。
最早接敵まで猶予はなく、急ピッチで防衛線が構築された――が。
ダブルフォルト・エンバーミングの影響もあり練達の防衛機能は未だ万全とは言えない。
統括するマザー自体、まだ万全ではないのだ。彼女の兄と言える存在であるクリストがマザーの懇願もあってバックアップに回っているが――しかし混沌世界の強者たる竜種らの襲撃による圧は想定を遥かに超えている。
「だから練達上層部からも正式に依頼があったんだ。
『Jabberwock』並びに、『Jabberwock』が引き連れてきた存在達を止めてくれってね!」
「……全く。ついこの前大きな事件が解決したかと思いきや、またも異常事態か」
「竜が攻めてくるなんて、ね。本当にこれ以上ないっていうタイミングだよね――」
そしてギルオスが語り掛けているのはブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)やЯ・E・D(p3p009532)らである――練達でも特に名声高き者達を中心として声が掛かっている様だ。
オーダーはとにかくこの事態の打開。
最早被害をゼロにすることは不可能なれど――少しでも被害を留めてほしいと。
「このままじゃあ一区画はおろか練達全体が蹂躙されちゃうからね……!
君達にはセフィロト内部に侵入してきた竜の迎撃に出向いてもらう!」
「分かった……んっ、いやちょっと待て。『亜竜』の間違いだよな?」
「いや君たちに担当してもらうのは――『竜』だ!」
はっ?
ギルオスの言を聞いていた誰かが呆気にとられたような声を零した――
竜? ワイバーンなどの亜竜ではなく『竜』なのか?
それは何かの間違いではないかと――しかしギルオスは。
「『Jabberwock』が引き連れてきたのは亜竜だけじゃあない。
一部には竜も混じっているんだ! 『Jabberwock』に比べれば小型だけど――
その反応は亜竜ではないと既に練達によって調べがついている……!」
「……いや待て。竜の迎撃などと簡単に言ってくれるが、こんな少人数でなんとかなるのか?」
「勿論ただ真正面から戦うのであれば無謀だろうね――
だけれども今回は幸か不幸かセフィロト内部での戦いだ」
つまり練達からの特別な支援があるのだと頭を抱えそうなブレンダへと言を紡ぐ。
まず今回、イレギュラーズ達の支援の為に大量のドローン部隊が配備されている。彼らは銃撃や、イレギュラーズの治癒行動を行うなどの支援を齎してくれるだろう……勿論ドローンで竜種を止めれれる訳もないが少しばかり、気持ちばかり、多分、その、欠片ぐらいは楽にはなる筈だと。
とはいえドローンは本命ではない――本命の支援はもう一つ。
「偶然だが、近くに巨大な発電所があるんだけれど――ここを『使って』もいいらしい。
具体的に言うと現在『爆破』準備が進められている」
「――建物を壊してもいいの?」
「ああ……正直、この辺りを支えている発電所らしいから使わずに済むならそれに越した事はないそうだけど、多分無理だろうっていう事でね。ドラゴンを誘き寄せるなりが出来れば――このスイッチで起爆していいらしい」
そう言ってЯ・E・Dは一つの……スマートフォン型の起爆装置を手渡された。
簡素な画面だ。ロックを解除すれば画面に映っているのはただ一つ――『Ready?』という文字のみ。誤動作防止の為にダブルタップしなければ作動しないようにされているらしい。
とにかく――発電所そのものを巨大な爆弾に見立て、竜種への撃と成す。
巨大な爆破が起こるだろう。ただ、爆破の方向性を調整しているとの事で、発電所の敷地内だけに爆破や爆風が集中するようになっているらしい――つまり発電所の敷地から確実に出ていれば巻き込まれないだろう、という事だ。
ただし注意点も存在する。
起爆の際に発電所内に残っていた場合、確実にイレギュラーズも巻き込まれる。パンドラを有するイレギュラーズであれば命は助かるかもしれないが、その時点で戦線に残り続けるのはまず無理になるだろう、との事だ。そしてそんな重傷を負った状態で戦闘に巻き込まれれば……死ぬかもしれない。
また――発電所の爆破に竜だけ上手く巻き込めたとしても。
「それで倒すに至るとは限らない」
あくまでこれは超常の領域にある竜種への攻撃支援程度。
倒すを確約するものではなく、どれほど効くかも未知数。
それでも何をしないよりもマシだと。
「かなり厳しい戦いになる筈だ。
だが竜種を相手に『こうすれば確実に勝てる』などという安牌はない――
……簡単な言葉しか言えないが、皆、頼んだよ」
そして――必ず生きて帰ってきてくれ。
●
倒壊する。家屋が、ビルが、何もかも。
いずれもが人の身を遥かに超えた建造物だというのに――保ちもせぬ。
『ギ、ガガガ……適性対象確認。迎撃シマス』
『距離50、距離40、距離30……Fire!!』
渦中。空を舞うは――大量のドローン達。
ダブルフォルト・エンバーミングの影響により平穏だった練達時代と比べてその数は減っているものの、国家の一大事にかき集めてきた残存戦力達だ――距離を算定し、眼前に在る『対象』へと一斉射撃を開始する。
――だが。
刹那の後にそのドローン達がいきなり『地上へと叩き落された』
何者かが触れた訳ではない――しかし急速に、地面へと落下する様に。
『ガガガ……エラー、エラー。飛行困難。飛行困難。異常重力を感知――』
そのまま、まるで上から『何か』に押さえつけられているかのようにドローン達の身は損壊していく。鳴り響く金属音。悲鳴の様にエラーを吐き出しながら、やがて沈黙していく――その中で辛うじて身を保つ一体のドローンが検知したのは『重力異常』
人体すら破壊しうる程の圧が周囲を根こそぎ破壊している事を感知したのだ。
――それは眼前にある存在が行っている攻撃行動。
ビルとビルの間から姿を現し、ビルに爪を立てる巨大なる存在。
『適性対象確認! 適性対象確認! 『竜種』確認! 応援必須、応援必須ッ――!』
「煩わしい」
一睨み。それだけで、先程の数十倍の極点重力がドローンへと降り注いだ。
それはその竜種が宿す属性が一端。
重力を操る権能を持つドラゴン――
『薄明竜』クワルバルツ。
さぁ人類よ絶望せよ。
恨みも怒りも貴様らにはない――せめて苦しませずに滅ぼしてやろうではないか。
- <Jabberwock>アイソスタシー不成立Lv:50以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2022年02月01日 22時15分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
竜種。
この混沌世界の頂点に座す彼らが六匹も訪れるなどこの世の破滅であろうか。
――かつての滅海竜が竜種の中でも更に上澄みの存在であるならば。
此処に訪れた者達はソレよりは幾段存在として『下がる』のだとしても。
人々にとっては絶望の象徴に変わりなく……
「けど絶望なんてするもんか――! 皆、いくよ!
リヴァイアサンだって倒したんだ……今更臆す必要なんて、どこにもない!」
故にこそ。『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は立ち向かうのだ。
見上げねばならぬ存在――それが竜種なのだとしても。
彼女の瞳には戦う意志が宿っている。
数多の衝撃を遮断する加護を自らに齎し、かの竜が暴の嵐を吹かす場へと跳躍一閃。
「――小さいな。人よ」
瞬間。竜の瞳が彼らの姿を捉えた。
……クワルバルツは言う。お前達は『小さい』と――しかしそれは背丈の話ではない。
力量。或いは魂そのもののを見ているのだ。
どれほどの力を精神を有しているのか……
万象薙ぎ払う重力の槍を放ちながら。
「おいおいおいこれが竜のプレッシャーって奴かよ……やばいな!
まァでも今更逃げる訳にも、そんな余裕もねぇだろうし――やるしかねぇな!!」
「全く。本当、冗談じゃない相手だ……ただ、まぁ。
此処まで行くと『ソレ』が過ぎて妙に心が落ち着くよ――」
建造物が崩れる――その渦中にて『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)と『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は駆け抜けるものだ。時間があれば罠の設置でもミヅハは試みた所なのだが……既に襲来せしめてこれ程に暴れているのであれば仕方ないか――
いずれにせよやる事は変わらないのだから。
周囲を俯瞰するような視点にて状況を確認しながら、ミヅハは奴を件の『発電所』へと向かわせる為の仕込みを開始せん。ラダもまた、周囲の建造物を盾にするが如く常に立ち位置を調整しながら銃撃一つ。
響き渡る。大嵐の様な銃声が――
さすれば着弾。彼方より飛来するその銃撃の一閃はクワルバルツの身を抉……
「――堅いな。これほどか」
らない。頑強なる外皮に阻まれ、如何程の衝撃が奴の身に伝わった事だろうか。
思わず感情が一周回って笑みが零れてくる程である。ああ――
「――あーやだやだ。こんな案件、絶対三桁人で対応する件だろ……
何これ? 死ねって言ってるようなモ……あーもうやだやだやだやだ。はぁ」
けれども、我々がなんとかしないと全てを失う人がいるんだろうなぁ。
吐息一つ零すものの『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)の顔は常に前を向いている。こんな依頼を出してくれた練達上層部には言いたい事が山の様にあるが――まぁもう仕方ない。
「ヤるぞ! ああヤってやろうじゃないか!」
何時も通りの依頼を。
何時も通りにヤるだけだ。
――接近する。クワルバルツの領域へと。
とにもかくにもあの竜に好き勝手させればこの辺り一帯更地になってしまうのだ――
それを防ぐためにも奴の気を逸らし続けてやろう。
全霊をもってして、丁寧に払う横薙ぎの一閃が竜の一角へと放たれる。
破裂する様な音と光が轟いて……
『――疾く去りなさい、傍若無人な竜よ。
貴方達は一体、如何なる義を以ってこの大地と数多の命を侵そうというのか?
その行いは其方の矜持に誇れるものであるというのか?』
刹那。夏子の撃に次いでクワルバルツの脳髄へと響き渡るのは――テレパスであった。
その念話の主。語り掛けているのは『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)である。気配を押し殺し、足音をすら消失させる足運びで少しでも近寄らんとした彼女は、クワルバルツへと言を紡ぎ続ける。
決して譲れぬ彼女の矜持があるのだ。
強靭な肉体は超常の領域? それは確かにそうでしょう、ええ大いに結構。
『ですが驕る事は決して許さない』
例えどれだけ強くても。例えどれだけ貴方達が高尚だろうが。
『精強なる魂――それだけは、決して其方だけの物ではないのだから!』
「薄明竜!! この街にはまだ民間人が多数残っているんだ。
貴方が聡明な竜であるなら――どうか民間人は見逃して欲しい!!
彼らは戦う力もない者達だ! そんなものを狩るのが貴方の誇りの内か!!」
同時。『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)もまた奴へと言の葉を一つ。
Я・E・Dが言うのは戦場の片隅で動く影を見据えての事。
――人だ。恐怖しながら走っている人の影が確かに見えて――
(――まぁ嘘なんだけどね)
が。それはЯ・E・Dの技能にて作り出された動く幻影であった。距離があり、そして人を見下す――つまり人に興味がないクワルバルツであれば早々にバレはせぬと踏んでいる、が。
その上でЯ・E・Dの言一つ一つにはまるで『真』であるかの様に力が籠っているものだ。
……まぁそれも嘘、というか演技なのだが。しかし真だろうが嘘だろうが、要はクワルバルツの意志を逸らせるかが重要で。
「滑稽な。強き言の葉を述べようが、弱きを見逃せと言うも結構だが。
脆弱なる者の呟きなど、風に蕩けて消えてしまうものだぞ」
瞬間。クワルバルツが目を高速に動かす――
上下左右。隅から隅まで……
さすれば視線がЯ・E・Dのみならず陰に潜むリディアを捉えて。
「私の言葉に感ずる所があるのであれば貴様らも私の領域へと上がって来ればよいのだ」
直後。重力の刃――否。銃撃の如き雨を其方へと振らせる。
が、リディアにしろЯ・E・Dにしろ既に行動を開始しているものだ。
テレパスを打ち切り翠色の闘気を此処に。神速の如く振り絞る剣撃が重力弾と交差し――直撃する。Я・E・Dも降り注ぐ雨の様な重力弾を掠めながらも辛うじて直撃は躱し、周囲の味方へと恐怖を打ち祓う光を齎すものだ。
……だが、やり辛いものだ。
ラダの一撃も、夏子の一撃も、リディアの一撃も――全て奴の『重力』によって射程が縮んでいる。より近づかねば奴へ攻撃が届く事すらないが……しかし下手に近付けば今度はあの巨体にそのまま押しつぶされる危険もあろう。
「……だが。結局離れれば離れる程にこちらの取れる手も少なくなる」
「ったくよ。なんでこんな竜が押し寄せてくるんだかな――!」
それでもと。更に立ち向かうは『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)に『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)の両名だ。翼宿す飛行種の二人であるが、今はまだ地上にて奴の周囲に位置している。
ただ真正面から衝突すれば恐らく叩き潰されて仕舞であろう。
故にこそカイトは策の一環として――幻影を練り上げるものである。
「さ。頼むぞ――奴がこれに引っかかってくれればいいいんだけどな」
移動は極力クワルバルツに気取られぬ様に。
気配を殺しながら移動し――動く幻影をもってして奴の注意を引かんとするものだ。
全ては、かの地へ誘導する為に。
一分で消える幻影。消える瞬間、生み出す刹那が目撃されぬ様に気を付け配置。
徐々に発電所側に逃げる様な挙動を取らせんとして……
「……天地を定める重力の竜よ。そも、何故『怪竜』と共にある?」
そしてレイヴンはリディア同様に念話による通信を試みるものだ。
そもそも疑問があるのだ。なぜ竜がいきなりに襲い掛かってくる?
更に言うならば練達がようやくにも危機を脱したこのタイミングで。
「何の目論見があって人の大地にわざわざ姿を現したのか――」
「我らの事柄を貴様らが理解する必要はない。疾く、死ね」
が。『対等に話してやる』必要などないというかのようにクワルバルツは傲慢にして不遜だ。クワルバルツの瞳がレイヴンの姿を宿し――直後に至る重力の槍が時空を捻じ曲げ飛来せん。
故、レイヴンもまた動く。魔力を収束させ撃を放つように。
応酬するのだ。全霊を賭して、竜の息吹に。
……掠めるだけでも死の雰囲気を醸し出すが、それでもイレギュラーズも歴戦の強者達。
絶対の警戒と共に立ち回り、そして。
「――よし。少しずつだが、動き始めたぞ」
『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は見た。クワルバルツがイレギュラーズ達の攻撃によって少しずつその場から移動しつつあるのを。
――そう。イレギュラーズ達の目的は奴を発電所へと導く事だ。
かの地を用いて竜へと衝撃を与える事が最大の目的。
テレパスによる会話も、数多の攻撃も全てはその為に……
「すまんが――非常事態なのでな。少しの被害は目を瞑ってもらおう!!」
直後。ブレンダが狙うのは、ビルだ。
数多を粉砕する破壊の一撃を紡いで倒壊を促し――竜への被害を成すのである。
ビルなどの建造物であれば一撃では破壊とはいかぬが、しかし。上手く倒れればクワルバルツへのダメージともなろう。それに、奴自体が周囲を圧し潰さんばかりに重力を加えているのだ……元々損壊激しいモノであれば不可能とまでは言えず――
直後。クワルバルツの身へと飛来するのは……一筋の『蝶』
『お願い――ボクの声を、聞いて!』
それは『不墜の蝶』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)の宿す祝福の一端だ。
会話をする意志がなくたって聞いて欲しい声があるのだ。
もしも。どうしても貴方が殺す気で来るならボク達だって殺す気で戦うしかない。
……だけどそれは『殺し合い』だ。
殺し合いは憎しみの種が増えるだけだと――聡き竜である貴方なら。
『気付かない筈はない……!』
だから。願いを込めた蝶を飛ばしたのだ。
妨害と、ほんの少しの期待を込めて。
たった一筋でも希望が紡がれれば、それで――
しかし。
「痴れ者が。これが戦いだとでも思っているのか? 殺し合いだとでも?」
クワルバルツはアイラを見下ろす。
嘲笑する様な、視線と声色を向けながら。
「私は蹂躙するだけの事だ――あまり図に乗るなよ人間が」
同時。二つの巨大な重力球体が――天へと出現した。
●
連星ブラックホール。
二つの巨大な重力球体が連結しており……そしてそれがそのまま。
『堕ちて』きた。
「くぅ! この辺り一帯を纏めて押しつぶす気ですかッ――!」
「流っ石にまずいねこいつは――躱さないと! リディアちゃんこっち回避ぃッ!」
素早く反応したのはリディアや夏子である。重力槍も危険であったが……イレギュラーズ達の動きすら縛り得るこの超重力帯の発生には更なる危機を抱かざるを得ないものだ。
直撃する前から既に各人へと『圧』が掛かる。
それが足を鈍らせ、その上で撃を叩き込んでくるなど。
「もう一度だけいうぞ。疾く、死ね」
人間、と。
――直後に重力球体が地上に落下した。
爆発音が生じる。ガス管か何かが叩き潰れたか――?
そして後に残るは何もかもが押しつぶされた跡のみ。
……全てが規格外だ。どの攻撃も強烈であり、そして竜の身はあまりに堅牢。
直後。周囲に展開されていたドローンがクワルバルツへと攻勢を仕掛ける。
数多の銃弾。只人であれば蜂の巣になっているであろう程の量が――
しかし、それでも揺らがない。
「くッ……薄明竜ッ……!
平和に暮らしていた人々の営みの証になんてことを……!」
同時――奥歯を噛みしめる様に言の葉を零すのはЯ・E・Dである。
奴に説得は通じなかった……奴は民間人や、ましてや民間人の住まう建造物など見向きもしない。その事による落胆の感情の色を浮かばせているのだ――演技の一環として。
「絶対にあの竜を基地に近づけちゃ駄目だ!! 此処で食い止めるんだ、絶対にッ!!」
「おおッ! やってやろうじゃねぇか――もうこれ以上誰も傷つけさせたりしねぇぞ!!」
そのままЯ・E・Dはクワルバルツが見ていないであろう頃合いを見計らって再度動く幻影を齎すものである。同時、カイトもまたその動きに呼応するように幻影を紡ぎ出す――
それだけではなく、その幻影たちが正に生きている者達であるかの様に。
二人はクワルバルツへと立ち塞がる。
Я・E・Dは連星撃による影響を即座に排すべく力を振るい。
次ぐカイトは万全をもってして己が羽根を天の覇者たる竜へと振るう。
それはまるで竜巻の様に火災の旋風がとぐろを巻く様に絡みついて――
「ドローンにも攻撃を引き続けさせる! 後退しつつ、事を成すぞ!」
「あの二つの重力には注意して……! 一度鈍ったらそのまま引きずり込まれるよ!」
更にラダがドローンに指示を出しながら銃撃を繰り出し。スティアは治癒の術を振り絞りながら、見極めた連星ブラックホールの範囲から散開する様に注意喚起するものだ――発電所まであと少し。このまま奴を引き続けてみせる――!
「散開しながら一斉射撃! 攻撃のタイミングを合わせろ――破損したら下がるんだ!」
『ガガッ……了解……』
放つラダの銀弾。同時に、空を舞うドローンも銃撃を連打する。ドローンもまた散開させながら、攻撃のタイミングを合わせて一斉射撃させているのである。この頃にか、クリストが『やる気』を出したのか――ドローン達の動きも良くなっていた。
劇的に攻勢の圧が変わった訳ではないが、しかしラダ達の意志を反映しやすくなっていると言った所だろう。故に、発電所がまるで『発進の為の基地』であるかの様に見せる為に――かの地に帰投、別けて発進させるような挙動も取らせれば自然の如く。
――さぁ面倒くさがれよ、天に座す竜の一族よ。
その歩みを向けよ。自然と……
「小蠅め……そんなもので何をしようと言うのだ?」
ただ。あくまでもドローンはドローン。
クワルバルツが睨めばそこへと――重力の雨が降り注ぐ。
さすれば損壊する個体も多々。竜にとってみれば文字通り『小蠅』と変わらぬか――
「それとも私を愚弄するか? こんなもので刃となるとでも?」
「お気に召さなかったかな? しかし此方も唯々全てを賭しているだけでな」
未だ崩れるかもわからぬ程に余裕を携えているクワルバルツ――をレイヴンは魔砲による引き撃ちをしながら徐々に引き付けるものだ。視線に入る様に。覇竜の導きの輝きを魅せながらに言を交わす――
飛んでくる重力の刃は致死ばかり。ああ全く、死線を幾度躱す必要がある事か。
……だがその最中にもレイヴンは竜を見据え続ける事を決して忘れぬ。
奴は一度にどれだけ動けるのか。射程は。攻撃に前兆はあるか――可能であれば重力を操作する器官があらば看破したい所だが、魂に宿す権能の一種であれば『何処』と特定するのは難しい以前の問題だろうか?
「誰だって――明日を願っているから、今ここにいるんです」
そして、同時。クワルバルツの連星撃の影響を退ける為にアイラが動く。
紡ぐは花。幾度倒れようとも立ち上がる姿を想起し紡がれる一つの花弁――
傷を癒して負を払おう。何度傷つこうとも、踏みつぶされようとも。
その相手が例え――竜であろうと。
「明日を奪おうとする貴方には、負けません……!」
彼女は見据える。或いは、暴虐の主をにらみつける様に――さすれば。
「ああ――一応今は騎士を名乗っている身でな。それこそ、退けんよ」
「狩人としていずれ、とは思ってたんだ……やってやるよ、最後までな!」
次ぐ形でブレンダの一閃が建造物を打ち壊し、クワルバルツへと直撃する様に。
更に倒壊するその影から至るのは――ミツバの一撃だ。
仕掛けたトラップを起動させ竜を穿とう。建物を遮蔽物にしながらでも……とにかくあらゆる攻撃を想定しつつ彼は動き回り続けるものだ。元々一切油断できぬ相手であれば、どれだけ備えても足りないという事はないッ――!
地道であろうともダメージを蓄積させ続ける。
それがやがては――竜の首に届くと信じて。
「健気だな」
しかし。
「そうしていればいずれ私を倒せるか――?
ああ幾重にも繰り返せばいつかは望み通りなるやもしれぬ」
しかし――それらはクワルバルツの攻撃を常に凌ぎ続ける事が出来れば、の話だ。
奴が放つ重力の撃が段々と精密さを帯びてくる。
小さいモノに当てるのは勝手が違って面倒なのだ――そう言わんばかりに。
「づぉ……! ったく、留まり続けるのはキツいね……! あ~ばよッと!」
「ドローンも限界点が近い――くっ。これ以上は保てんぞッ!!」
さすれば。竜が何かしようとするたびに引き付けんとしていた夏子の身が抉られ。
ドローン達に指示を出していたラダにも大きな被害が及び始める――一端後方に大きく跳躍し、即座に治癒の力を宿す神秘の霊薬を口にする夏子はまだ戦う力を宿しているが、しかしこれからも永遠にとはいかぬ。
この霊薬を呑んだ以上、後はもうない。倒すか倒されるか、どちらが早いか……
他の面々にも傷が増え始めるものだ。スティアやアイラの治癒の力がなくば既に脱落していた者がいたかもしれぬ程に。このままではすり潰されてしまうだけか――?
だが。
散開していたイレギュラーズ達が集い始める。
ある開けた場所に。それを見据えたクワルバルツ――は。
「どうした。威勢が消えたな……ではそろそろ仕舞と行くか?」
「……勝ちを確信するのは結構だがよ、御大層な竜様に一つ……言っておくぜ?」
刹那。重力槍の一つに貫かれたミヅハ、が。
吐血しながらも言の葉を紡ぐ。
――狩りをしている時に一番危険なのは。
「自分だけが狩人と思い込む事さ」
「何――?」
釣り上げる口端。それは、奴が遂に。
――『罠』の領域へと足を踏み入れたからである。
数多の誘導。此処を護らんとする動き、此処が人間どもにとっての基地であるかのような欺瞞。
全てが連なりて――最早竜は逃れられぬ。
「来ました……奴が発電所に入りました! 今です、スティアさん――!」
『外も完了だ――竜に眼に物を見せてやろう。今こそ時は来た!』
同時、リディアが叫び。レイヴンがテレパスにて伝える。
それは『起爆』の合図――竜に対抗する為に練達が用意した特大の贄。
「この地に住んでいる人達からの……プレゼントだよ!」
この国を舐めるな。人の大地を舐めるな。
直後。施設諸共吹き飛ばす程の衝撃が――辺り一面に炸裂した。
●
想像を絶する爆発が生じる。
起爆信号を受け取った爆薬は一斉に……数秒に渡り続く音の連鎖が、まるで大滝の様な音色を奏でるものであれば。
発電所へと足を誘導されていたクワルバルツを呑みこんだ。
「この瞬間しかないんだ」
同時、スティアは皆を守護する領域を展開する。
自らは物理も神秘も遮断する障壁にて備え、念じるは唯々――誰も欠けさせぬ祈り。
――皆が信じてくれた。
竜を誘導する為に命を懸けてくれた。小さくない傷を背負いても、尚に。
その信頼に今応えるべきだからと。
「私が皆を護るからッ……!」
施設が倒壊する程の爆発。伴う爆煙が視界を覆い尽くす――
イレギュラーズ達は起爆前に発電所の外か、或いはスティアの周囲へと集まっていた。それが故に爆発による被害はなかったようだ――万一に備えてЯ・E・Dやブレンダなどは目と耳を塞ぎ、口は開けて舌を出し爆発音と生じる衝撃波に備えていた訳だが。
しかし見えぬ。爆煙の所為でクワルバルツがどうなったか、一切。
「――竜は、クワルバルツは……!? どうなった!?」
故にブレンダは思わず叫ぶものだ。
……こちらのジョーカーを切ったのだ。練達の一角の生活を担う発電所まで使ったのだ。
ならばせめて効いてくれていなければ――全てが無為すぎる。
一秒ですら永遠にも感じるその刹那に目を凝らした、その時。
「――それが健気だというのだよ、小さな者よ」
刹那。
スティアの障壁が貫かれた。
その一撃はまるで針の如く小さな、そして鋭い重力の槍。
肩の少し下――恐らく肺を貫いている。
「スティアさん!!」
気道を埋めんとする血液――の流れを即座に塞いだのはアイラの治癒だ。
青き鳥との絆を形として顕現させたソレが命を繋ぐ。誰ぞが被害を受けてもいいように事前に周囲に治癒の力を齎していた甲斐もあってか――一撃での致命には至らず。
……だが、まさか障壁を貫くとは。
重力の槍には『槍』のタイプには障壁や加護を打ち消す効果がある様だ。ただ幅広く穿つ『銃撃』の様なタイプにすると劣化するのかその効果はない様だが……しかしこの瞬間にスティアを狙い撃ちするとは。
それほどに此処までの戦いにおいて撃を無効化する動きを見せていた彼女を警戒したか? 故に、爆破前に見えた、中央にて備える彼女を狙い撃ちに……いや、それはともかくとしても――
「成程な。このような仕掛けを用意していたとは……が。私を打ち倒すには足りんな」
「おいおいおいおい! これで効いてないなんてふざけた結果はノーセンキューだぜ!
どういう事だよ! 平然と動けるなんてのは流石に無しだろうよ、オイッ!!」
「――いや、違う。攻めろ。今しかないッ! 勝機は今この瞬間だけだ!!」
クワルバルツが、生きている。
発電所の起爆を受けてもなお倒しきれぬというのか――!? 負傷個所を抑えつつ叫ぶミヅハがクワルバルツの無事な姿を確認してしまう……が。奴を優れた三感覚と共に常に観察し続けていたレイヴンは気付いた。
クワルバルツの動きに――違和感があると。
痺れ? それとも痙攣? が、確かに見えたのだ。
正確な所は分からぬが奴は無傷ではない。まるで余裕そうに『振舞って』いるだけだ!
「震える姿を見せぬは己が誇り故か――? 自然力の具現たる力を宿せど、生命は生命か!」
重力を紡いだ攻撃を成す事は出来ても奴自体の動きが鈍いのであればッ――!
彼の即座なる指摘を皮切りに最後の攻勢へと移る――竜を打倒する為の!
「うん――だろうね。
竜(あなた)に正気で勝てるわけが無いと判ってるよ。
だから、ああ、貴方には立て直す暇すら与えない」
「思い知れ! これが、貴方が小さき者と愚弄した者達の力だ!
小さき者達が見せる――魂の意地だ!!」
さすれば往く。Я・E・Dにリディアが。
散開しながら竜の下へ。元より生きている事自体は想定していたのだ――故に既に動いていた。爆破の直後から駆け抜け、竜が態勢を整え直す前に全霊を注ぐ! 最終戦争の閃光の輝きを此処に集約し、Я・E・Dは撃を成すもの……
見据えるは。竜にあるとされる逆鱗。喉の辺りか――?
仮にそこに当てれば死する怒りに触れようとも。勝利に必要ならば臆す暇もなし。
収束の力を高めた砲撃が――貫き穿つ!
「ぬ、ぅ、ぐ――ッ! 欺瞞なるロキめが、鬱陶しいッ――!! むっ!!?」
そしてリディアもまた、全力だ。事此処に至って二の足を踏む様な真似など出来ぬとばかりに……奴の死がどこぞにないかを見据える。殺人の極意を身に宿し、直死の一撃を壮大なる竜へと齎そう。
最早ここまで至れば肉体の強靭さの違いなどどうでもいい。
魂と魂のぶつかり合いに――勝利するまで!
衝突。激突。衝撃音。
爆煙は未だ晴れぬが今はこの一時すら惜しいのだ。
攻め立てろ。攻め上がれ! 奴を休ませるな、進めッ!
「だが踏み込みすぎるな――奴はまだ切り札を持っているはずだ」
「おおよ当然だろうな! つっても此処を逃したら、もう後がねぇってのも、な……!!」
同時。レイヴンとカイトもまた往く。
レイヴンは己が身に『執行者』たる姿を投影すれば竜の爪が如き斬撃を現へ。
「虫の一刺しで痛い目を見ることもあると、知れ。巨象すら打ち倒す刃を持たぬと驕るなよ」
例えどれ程其方が『矮小』と呼ぼうが、虫の強さを無視していれば痛い目を見ると。
次いでカイトは己が全霊の飛翔と共に――速度をもってしてクワルバルツへと斬撃数閃。
だが、その攻勢の中でも常に警戒している動作があった。
それはクワルバルツの権能の中でも究極の出力を誇る一撃……まだ『上』があると推察できている以上――レイヴンの目は常に警戒の色に染まっていた。
だけれども退けぬのだ。
「ヒトを信じてくれた、水竜さまが助けてくれたこの生命――
今度はこの街を守るために使うんだ。
掴んでくれた生命でよ。もっともっと繋いでいくんだよッ――!」
カイトは尽くし続ける。己が力を、心の底から。
徹底的に抵抗してやる。負けるわけにはいかねぇんだよ!
例えお前がどれだけ偉かろうが――知ったこっちゃねぇ!!
これが最後の攻め時だとばかりに彼は活力を満たすパンを口にすれば、駆け抜けて。
「くたばれクワルバルツ! 此れが俺の全力だ!
穿て――神矢ミスティルテイン! 神だろうが竜だろうが貫いちまえッ――!」
「ヤるんだよォ! 徹底的にィ――ッ! ここで行けなきゃ、永遠に行けないぜッ!!」
直後。ミヅハと夏子もまた力を振り絞りて死線の先へと踏み込むものだ。
ミヅハより投じられた矢は伝承上の魔剣の形成。数多を貫く一撃こそ――彼の竜狩りに込められる闘志の結晶か。狩りの正念場であると彼は全身に伝わる痛みの全てを無視して弓を引き絞り上げれば。
――狙え削れ斃せ死角に回れ。止まるな動け腕を振るって足に力を籠めろ。
夏子もまた、脳髄が煮え滾る程の熱量と共に、竜へと攻勢を仕掛けていた。
女の子が死ぬぞ。今ここでぶっ倒れる訳にはいかないんだよ。
後の事なんてどうでもいいんだ、今、動かなきゃ、ならないんだよッ!!
「ッ、ぅ……! まだだよ、私だってまだ戦える……!
仮にもドラゴンが、か弱いヒーラーである私を倒せないとは言わないよね!」
「ええい……倒れ伏しておけばいいものを。
私の前に出るという事が如何なる意味を持つか分からんか!」
「さぁ――どうなんだろうね! でも仕方ないよね。
立てるんだ。歩けるんだ。私はまだ戦えるんだ!
――皆と一緒に!」
更に、アイラと自らの治癒が間に合ったスティアが戦場に復帰する――
口端にへばりつく血を手の甲で拭えば……精神が死んでいない事が瞳から窺えるものだ。それに敵の攻撃の種類も観察し続けていれば少しずつ分かっても来るものである……どれが躱すべきか、どれが受けとめても良いものか。
再び貼る障壁と共に彼女は往く。仲間の為に、皆の為に!
「こんな所で……折れてやるもんですか!」
そしてスティア同様に強い心を――アイラも抱いていた。
昔だったら分からない。もしかしたらと思う事もある。
けれど、もう皆の帰りを待つだけのボクじゃない。
「ボクだって」
大切なひとを、場所を、守るための力を持っているんだ。
薄明を、黎明を望むから。
――明日を見たいと願うから。
「だからもう、ボクの前で誰かの帰る場所を奪わせたりなんかしない!!
どこまでもどこまでも奪おうとしたって――戦い続けてみせる!!」
願いても必ず奇跡が起こる訳ではないが。
しかし、彼女達の決意の高さは――確かに竜へと抗う原動力となっていた。
彼女の紡ぐ勇気の魔法がイレギュラーズ達に最後の力を振り絞らせる。
満ちる活力が更なる一撃を――紡がせよう。
……肉体の限界を超えている者もいる。けれど皆が生きている。
臆せば死ぬ。引く足あらば、それは地獄へと引きずり込まれている証だ。
――だが誰もが戦い続ける。
明日を夢見て。それが皆の生に繋がっており――クワルバルツへと傷も刻んで。
「おのれ痴れ者共が……! 貴様ら如きの信念なんぞという御託で私を倒せるかッ!!」
刹那、咆哮。
クワルバルツが苛立っている。虫けら風情が天に仇名すかと――
なんなんのだこいつらは。頭がおかしいのか、ふざけるなッ!!
纏わりつく蠅を払うかのように重力を叩き落す――が。それでも!
「鱗まで無傷とは限らん……どこかにダメージが残っている筈だ!
探せ! 食い千切って、そこから『芯』へと届けてやるんだッ!」
「クワルバルツ! 貴様の暴虐は、許されざるものなのだ!!
折角にも泰平が刻まれんとしているこの国に余計な事をしてくれるな――
私達が打ち倒してくれるッ!」
終わらぬ。決して彼らの歩みは。ラダが残存のドローンも全て投入し一斉砲撃。
爆発の影響による傷跡を抉る様に集中させれば、ブレンダも此処が決め時と確信していた。
――故に大剣と共にクワルバルツを襲おう。
やっと……やっと平穏を取り戻そうとしているこの国を害するな。
そんな権利がお前にあるのか。そんな事すらも分からぬというのなら。
「その首、貰い受けるぞッ!! ――竜殺しの誉を戴こうじゃないか!」
正に全身全霊。
如何なる堅牢であろうと破壊せしめん程の力を秘めた、ブレンダの全てが投じられた一撃が。
見事に――首に直撃し――
「煩わしいのだ――砕け散れェッ!!」
だが破れない。
首は絶てず心の臓には一歩届かず。
クワルバルツは――其処に健在している。
……刹那。紡がれるは二つの重力球。連星の輝きが周囲を襲いて薙ぎ払い。
『ガガガ、行動不能! 行動不能! 撤退推奨、推奨シマス――』
さすれば。イレギュラーズの治癒に当たっていた最後のドローンも押しつぶされた。
――倒れ伏す。竜に対し、苛烈に戦い続けていたイレギュラーズと言えど。
重力の槍に穿たれ。連星の撃が天より襲来すれば、まるで地上に縛られる様に。
そして奴が尻尾を振るえば――それだけでも脅威。
建造物の壁へと吹き飛ばされる。
……此れが竜か。
リヴァイアサン程ではないにせよ、しかしこれが……混沌世界の……
「おっとぉ……それでも、させる訳にはいかないねぇ……」
刹那。満身創痍の身で――しかし立ち上がったのは夏子であった。
う……! ごッ! けぇえ!
戦う力はなくとも彼の意地にて立ち上がる――ああ奴を放置していればきっとトドメの一撃を指してくるだろう……だがさせぬ。
先程の爆煙の際の一撃目、アレは完全に見えなかったが二度目はない。
女の子の身は――次は必ず庇ってみせると。夏子が代わりに撃を受けんとして。
「……ぐッ、アレは」
「とっておきをここで出してくるというのか――」
しかしレイヴンやブレンダは見た。
クワルバルツが――飛翔するのを。その巨体を天に戻すのを。
……同時に。その更に上で展開している深淵の球体も。
本能が理解する。あの、巨大な暗闇こそが奴の最大の出力――
究極の重力領域。グレート・アトラクター。
――それはきっと万物を圧し潰そう。
直撃すれば死ぬかもしれぬ……いや『死ぬ』一撃だと夏子の直感は未来として感じていた。元より誰もが奴にとっての全力は躱すべきと思案していたし注意もしていたが、この満身創痍の状態の折にだしてくるとは……
「逃げるのか! 人を恐れて空へと戻るのか! 自らの安息の地へ!
――それで勝利宣言のつもりか、クワルバルツ……!」
「勝利も何もない。言った筈だ。これは戦闘でも殺し合いでもなく、私の蹂躙であると」
ラダが最後の力を振り絞って銃を構える――届くか? 重力の領域に阻まれるが、しかし己が射程であれば辛うじて届くかもしれぬ距離で奴を留まっている……ただ、最早一撃で倒せる様な状況でもなければ、ああ、くそ。
「だが。誉めてやろう小さな人の子らよ。
――お前らがその小さな命を賭して私に挑んできた事は認めてやる。
先のは効いたぞ。久方ぶりに『痛み』を感じた――多少だがな」
「ぐ、ぅ……褒められている気が、全くしませんね……!」
「ああ……殺せないのが残念。もう少し、後もう少し――あれば」
収束。収束。収束――
巨大な深淵の球体が小さくなっていく。消えるのではなく、縮小し洗練されているのだ。
リディアとЯ・E・Dはその様子を見据えつつ、しかし生存を諦めている訳ではない。
足に力を。立ち上がり、クワルバルツを見据え。
グレート・アトラクターが放たれる瞬間を見据え躱さんと――備えるものだ。
……勿論、疲弊限界の状態である。動くもやっとだがそれでも。
「させ、ない……護る、んだ……私が、皆を……! 誰も、奪わせ、なんて……!」
「――小娘が。次は死ぬぞ、貴様。痛みが好みか?」
最後まで己が身命を賭そうと、スティアはクワルバルツを見据える。
これが最後の障壁。そして最後の治癒術。
科学の街の中で紡がれる魔力の残滓が純白の花弁を形成し、周囲に力を……
喉に絡みつく血が彼女の言を枯らせる。けれど、痛みをどれ程受けようと立ち上がる。
その様子にクワルバルツは興味深そうな視線を一瞬向けるが――しかし。
それも本当に一瞬の事。
収束し終えたグレート・アトラクターを動かさんとして……
「来いよ。逃げてなんかやらねぇ――受け止めてやるよ」
「男の意地か」
「ああそうだよ。君に分かるかな? 女の子を護るってのはね、命よりも大事なのさ。
男は爆死でウケるけど、女性の爆死は笑えないんだ。
――分かる? 分かってほしいなぁ」
さすれば夏子は軽口を叩くものだ。限界近いが、しかしせめてと。
「さっぱり分からん思想だ。まぁいい、ならばその意思に殉じるがいい」
「おいおい――そんなんじゃ女の子にモテないぜ」
紡ぐ言葉――で、あれば。
「…………貴様ら。どうにも勘違いがある様だから、一つだけ言っておくが」
一息。
「――私は女だ」
直後。超重力が夏子達――の。『近く』で炸裂した。
●
「おぉいいたぞ! こっちの瓦礫の下だ!」
「大丈夫ですか! 今掘り出しますよ――!」
声が聞こえる。どこからだ……かなり近い様である、が。
「づぅ……?」
……生きている?
確かな生の感触をミヅハは感じていた。
どうなった? 先のクワルバルツの一撃、死んだかと思ったが一体……
――やがて彼の顔に光が差し掛かる。
どうやら練達の救助隊が――己らの上に伸し掛かっていた瓦礫を退けているようだ。
「くそ。ああ――くそ。思い出したぜ」
刹那。カイトもまた意識を取り戻し、そして記憶が蘇る。
クワルバルツの最後の一撃は、イレギュラーズ達の奥にあった――建造物を狙ったものだった。それによってこの地域一帯がほぼ破壊しつくされた状況であり、またその際の衝撃によってイレギュラーズ達も戦闘続行不能なったのだ。
そしてクワルバルツは――そのまま天を飛翔し、退いたのか。
見逃したのか。それともこれにて死んだとでも思ったのか。
それは分からない。ただ……
「これが――竜か」
覇竜の領域に住まう者達の力か。
ブレンダは見据える。周囲の状況を。廃墟と化さんばかりに撃を受けた――街並みを。
敗北した。しかしこの戦いが無駄であったかと問われれば、これだけは断言できる。
――NOだ。
イレギュラーズがクワルバルツの損耗させていなければ、奴は絶対に『この区画』だけでは終わらなかった。発電所を起爆し、総攻撃を行い。奴の言う『小さな者』であったとしても痛みを与える事が出来るのだと思い知らせていなければ。
奴はこのまま練達に刻み続けていた事だろう。
竜の恐怖を。竜の暴力を。
……彼らが何故練達へと訪れたのか。
それ自体はまだ分からぬ。ジャバーウォックの戦場の方もはたしてどうなったのか――?
ただ、今はこの一時だけは身を休めるに専念するとしよう。
戦いは終わったのだ。練達には明日にも朝日が――昇るのだから。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れ様でしたイレギュラーズ。
残念ながら区画の損耗率が激しい結果となりましたが、竜を止めるというは非常に厳しいオーダーですので、お気になさらず頂けますと幸いです。むしろ竜と戦闘し、生きて帰れるという事はこの上ない以上の成果であるとも言えます――
また竜と戦う事自体が大きな勇気であり、そのため失敗と言う形ではありますが名声は増加しています。
ありがとうございました。
GMコメント
この依頼はベリーハード依頼です。
非常に、非常に難度の高い依頼となり、また死亡判定もあり得ます。
ご参加の際はお気をつけ頂きます様、よろしくお願いします。
●依頼達成条件
1:竜種の撃破
2:『発電所』を爆破、或いは損壊させずに竜種の撃退を果たす
3:戦闘区域の建造物などの損害率が80%を超えない事(発電所の損害率は除く)
いずれか一つを達成してください。
なお1や2が達成できた場合、3が果たせなかったとしても依頼成功となります。(例えば戦闘区域の損害率が100%になったとしても、ドラゴンを撃破出来たなら依頼成功になります)
いずれか一つを達成するだけでもVERYHARD難易度です。
ご武運を。
●フィールド
練達セフィロト内の一角です。
ビル群が立ち並んでいる場所で、本来は人が大勢いるオフィス街との事です。尤も、一般人などは避難済みなので誰もいませんが。
ジャバーウォックと共に攻め込んできた竜の一角を皆さんには担当してもらいます。
味方戦力としてドローンなども布陣しておりドラゴンに対する銃撃を行っています。
……尤も、それがどれだけ効いているかは不明ですが。
ビルなどの大きさで初めて障害物足りえる事でしょう。
●発電所(爆破予定地点)
ドラゴン対策の為に施設諸共爆薬として扱う予定がある施設です。
シナリオ開始時、東側方面に存在しています。爆薬が上手い事設置されている様で、爆風や爆熱が全て施設内で完結する様にセットされています。上手い事ドラゴンを引き込むことが出来れば大きな衝撃を与える事が…………出来るかもしれません。
爆破のスイッチはイレギュラーズに託されています。
この施設を使うか使わないかは作戦次第です。
●『薄明竜』クワルバルツ
強靭な肉体。大空を自由に舞う翼。精強なる魂――
全てを宿す竜種が一角です。
重力を操る権能を有している様で、周囲の建造物などを捻じ曲げる事が可能な様です。
また、それは攻撃行動にも使用可能な模様です。
一応飛行可能なのですが、基本的には地上に降り立っています。
高度な知能を有していると思われますが対話が可能か……というよりも対話する気があるのか不明です。
・『重力槍』(A)
重力を槍の様に集め放つ一撃です。
恐ろしい貫通能力を持ち、ビルすら耐えられません。
威力を小さくして複数の展開し、銃撃の様に降らせてくる事も可能です。
・『連星ブラックホール』(A)
域攻撃です。
攻撃前に、まず範囲内にいる対象には機動力・反応・回避にマイナス補正が付与されます。
特殊なBS扱いで、BS解除系スキルか、ターンが経過する事によって解除されます。
・『グレート・アトラクター』(A)
直撃時、多分死にます。
頑張って躱してください。直撃でなければ生き残れると思います。
・『空間歪曲』(P)
クワルバルツへの攻撃は、全てレンジが-1されます。(つまり超遠距離(R4)攻撃は、遠距離(R3)範囲内からでなければそもそも攻撃が届きません。また、至近(R0)攻撃には影響はありません)
・他スキル不明。
●味方戦力
・ドローン×30
セフィロトからの支援部隊です。皆さんの援護に努めます。
しかしダブルフォルト・エンバーミングの影響から満足な数は配備されていないかもしれません……銃撃などをドラゴンに対して行っている様です。また一部のドローンは治癒薬を宿している様で、自動的にイレギュラーズの回復行動を行う個体も存在しています。
彼らは基本的に自動AIで動いていますが、簡易であれば指示も可能です。
(例えばドラゴンを右から攻撃して! 程度ぐらいであれば)
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●重要な備考
これはEX及びナイトメアの連動シナリオ(排他)です。
『<Jabberwock>死のやすらぎ、抗いの道』『<Jabberwock>金嶺竜アウラスカルト』『<Jabberwock>アイソスタシー不成立』『<Jabberwock>灰銀の剣光』『<Jabberwock>クリスタラード・スピード』『<Jabberwock>蒼穹なるメテオスラーク』は同時参加は出来ません。
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