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シナリオ詳細

<マナガルム戦記>ヴェアヴォルフ・ラメント

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――鉄帝が一角、ハウランド地方。
 山を一つ抜けた先にある盆地の隅に一つの村があった。
 ハスペンと呼ばれる其処は寒村と言って差し支えない程に小さな小さな村だ――交通の便も悪く、行商人が通る事も稀。それでもこの地を生まれ故郷としてずっと住み続けている者達がいれば村は小さくとも続くものである。
「が、今年はかなり寒いからか農作物の収穫が上手くいかなかったらしくてな……」
「なるほど。それで――この分の食料を届けに行くって訳だね」
 その山中を突き進む影があった。
 馬車だ。引いているのはベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)であり、彼の言に対して返答したのはハンス・キングスレー(p3p008418)か――『黒狼隊』と呼ばれる彼らは、この先にある村から依頼を受けて荷を運んでいる真っ最中であった。
 理由はハンスらの会話の中で出たように食料を届ける為。
 寒村であらば一度何か困難が発生すれば外に助けを求めざるを得ない事態に発展する事もままある――故、今回は黒狼隊へとその白羽の矢が立った訳だ。大量の食糧を荷として積んで、辛うじて道と言える道を進んで往くもの。
 が、まぁその道のりはあまり早くはない。
 空からは雪が降り注ぎ、地はあまりの寒さに凍結している所もあるのであればどうしても慎重になってしまうものだ……馬が滑りて転落してはまずいと。まぁ村の方も明日に餓死してしまう程に切羽詰まっているという事でもなければ、少しばかりの遅延など問題なく――
「おっ? 見ろよ、この先から煙が上がってるぜ――もしかして件の村がもう近くか?」
「……んっ。いや、でも何か妙な気が……あれは、黒煙……?」
 瞬間。前方の方から何やら煙が立ち上がっているのを秋月 誠吾(p3p007127)が確認した――が。よくよく見据えれば何かおかしいとマルク・シリング(p3p001309)が訝し気な表情を醸し出すものである。
 この寒い時期だ、焚火をしているのでもあれば生活の端で出る煙ぐらいはあるだろう。
 ――しかし妙に『黒い』
 マルクが感じたように黒煙と言っていい程に。
 あれは暖炉から出る煙程度で生じるモノではない。あれはもっと……別の……!
「ご主人様、これはともすれば――」
「ああ。少し急ぐぞ。これは……まずいかもしれん!」
 故に。リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は主へと言の葉を紡ぐものだ。
 不測の事態が起きている可能性が非常に高いのだと。
 恐らく、家が燃えている。その原因は魔物か、それとも――


 悲鳴が轟く。
 扉は破られ雪崩れ込むは悪意の笑み達。
 何とか今を凌がんと微かに残っていた食料は根こそぎ奪われ。
 亡き妻の形見たる指輪も――金になりそうだと強奪される。
 抵抗せんとした若き男は刃に一閃。倒れ伏した所を二閃、三閃、四に五に六に……
「けっ! よえぇ癖になーにを粋がってやがるんだか! 胸糞わりぃ……燃やしとけ、んな家!」
 動かなくなっても尚に切り刻むは――賊だ。
 抵抗した事そのものが気に入らないと。
 骸となった男に蹴りをくれながら、木で出来た家の隅にあった薪へと火種を一つ。
 ――燃える。生活の跡も、住民が生きていた証もなにもかも。
 そしてこの光景は此処だけではない。周囲に存在する他の家でも同様であり……
「ぐ……はぁ、はぁ……貴様……一体何者……」
「――わりぃな爺さん。アンタらに恨みはねぇが、俺らも生活があるんでね」
 その中でも少しだけ大きな家の中にて。
 息も絶え絶えな老人がいた。右肩から左腰へと深い傷が刻まれており、命の灯が尽きんとしている――その老人は今でこそ一線を退いているが、かつて鉄帝の軍にも所属していた古強者であった。
 賊の襲来を感じ取り古き剣を手に取って戦いを挑んだのである。
 ……しかし敗れた。
 如何に年を取ったとはいえ只の賊如きに遅れは取らぬと思っていた――のに、だ。
 目前には、かの老人を打ち破ったと思わしき壮年の男が一人。
 ……こいつは只の賊ではない。明らかに確固とした実力のある者――
「貴様ら、まさか、噂のラド・バウ崩れ……」
「アンタには関係のねぇ事さ――それよりもこの剣、結構なモンじゃねぇか。古ぼけてて実用的じゃあねぇが……こういうのこそ好むマニアってのがいるんだよ」
 そいつらに高く売れそうだな――貰っておくぜと。
 強奪したその男の名は、フィー・ビィーズ。

 ――元々はラド・バウの闘士でもあった男だ。

 それなりに将来を有望視されていたのだが、試合中の事故により甚大な怪我を負って以降は引退を余儀なくされる。この村を襲撃した賊にはそういう『崩れ』共がそれなりに所属している連中だったのだ。
 全員ではなく、実力は玉石混合な所だが、一人でも強者がいるかいないかで脅威は天と地。
 ……彼らと戦わんとした男は殺され。そして。
「おぉい! 女子供が立て籠もってる場所を見つけたぞ! 早くブチ破れ!!」
「まだ火を放つんじゃねぇぞ! 金品まで燃えちまったら意味がねぇからな!!」
 戦う力がない者達の命も――最早、風前の灯火であった。
 扉を破らんとする音が響くたびに中からは悲痛な叫びが聞こえてくれ、ば。
「はぁ、はぁ、やめろ……女子供にまで……手は出すな……」
「そいつは負けたアンタがどうこう口出し出来る事じゃねぇだろうよ。
 ――この国がどういう国か、今更知らねぇとは言うまいね」
 フィーもまたそちらの方へと向かわんとするものだ。
 老人が最後の力を振り絞り足を握りしめ、時間を稼がんとするが――彼の目に迷いはない。
 ……強い者が生き、弱い者が静かに息を引き取るこの国では強さが無くては生き残れないのだ。
 弱い事こそが罪であると言わんばかりにフィーは老人に冷たい視線を向ける。
 ――そうだ。この国で弱者とはそれだけで罪である。
 かつてラド・バウで輝いていた筈の己も、負傷により弱者と転じてからは……

「――なるほど。たしかに、この国はそういう国かもしれないな」

 刹那。老人にトドメを刺さんとしたその横から――一つの影が襲来した。
 ほぼ反射的にフィーは斬撃の軌道を塗り替える。影より至る殺意か闘志へ反応したのだ。
 ――交差。激しき金属音。
 影は跳躍。家の壁を再度蹴りて、地へと着地した――その人物は。
「……テメェ何者だ? この村の奴じゃあなさそうだな」
「そうだよ。通りすがり――と言えばいいのかな。まぁアンタには関係ない事だよ」
 シオン・シズリー(p3p010236)だ。彼女は此処に向かってきている黒狼隊と関係……は『無い』
 完全に別件である。彼女がこんな辺鄙な寒村近くにいた理由、それは。
「オイオイ関係ないってんなら、邪魔をする理由はなんだ?」
「それもアンタの知った事じゃない」
「けっ。腕っぷしに自信はあるみてぇだが……小娘如きが俺に勝てるとでも思ってんのか?」
 フィーには語らぬし語る事でもないが……
 実は彼女はふと噂を耳にしたのだ――この近辺に現れた『ある男』がいたと。
 それは彼女の父の特徴に似ていた。行方不明になった、己が血族。
 ……彼女は恨みを抱いている。
 貧しさに喘いでいた自分たちに何もしてくれなかった鉄帝という国。
 ひいては戦いに興じるだけの闘士。
 故郷の村が滅んだ一端となった幻想、自分を追い出した家族や行方不明の父――
 あらゆるモノに。
 普段は別に、殊更にその感情を曝け出したりなどせぬが。ふと耳に入ってきた情報の一つは。
 彼女の心の背を撫ぜた。
 ……だからだろうか? その憎悪の一端たる『男』の微かな痕跡があるかもしれぬと、足が向いていた。
 その心中を渦巻くは何か――いや勿論ただ少しばかり耳に挟んだ程度の情報であり、本当に父かは知れぬ。違うかもしれない。
 ……しかし真実どうこう以前に辿り着いてみれば、そこは村ごと焼き尽くさんとしている賊の群ればかり。
 これではあの男の手がかりが本当にあったとしても残っているかどうか――
 ああ。この馬鹿共は、本当に余計な事をしてくれた。
 憎悪の向きが変わる。ただただ暴を振るうコレらも、彼女にとっては気に食わぬ一端であると――その時。
「フィーの兄貴! ここに今女が一匹逃げ込んできやせんでしたか!」
「あの野郎俺たちを切りつけやがって……あ、いやがった!」
「……ああ本当に苛立たせてくれるよね……誰も彼も」
 外で油断していた馬鹿な賊二名が乱入してくる。彼らはシオンに強襲され、傷を負っている者達だ――まだ戦う力が残っていたのか。しかし背後を取られたまま戦う事もあるまいと、一端再跳躍。
 力をただ思いのままに振るう、鉄帝国らしい賊の馬鹿共め。
 シオンはとにかく苛立っていた。それが憎しみより至る波の一端なのかは、さておき……
「――さぁ。始めようか」
 精々、せめてこの気の高ぶりを解消させてもらおうかと。
 ――『餓狼』の戦いが始まらんとしていた。

GMコメント

 リクエストありがとうございます――以下詳細です。よろしくお願いします。

●依頼達成条件
 敵勢力の全ての撃退

●シチューエション
 鉄帝の中でも山一つ越えた先にある盆地――ハウランド地方と呼ばれる一角です。
 そこに『ハスペン』という村があります。
 辺鄙な場所にあり、交通の便も決して良いとは言えない寒村です。しかし昨今の寒さで食料が付きかけているらしく、黒狼隊の皆さんは村に荷を届ける依頼を受けていました……が。偶然にも賊の襲撃が行われてしまった様です。
 既に犠牲者も出ており、このままでは残った生存者もどうなる事か。
 至急村へと駆けつけて賊達を撃退してください――!

 なお。黒狼隊の皆さんはハスペン村までまだ若干距離があります。即座に辿り着く事は出来ず、恐らく数ターン程度は最低でもかかる事でしょう。(ただし機動力に優れていれば話は別かもしれません)

 シオン・リズリーさんだけは状況が別で、村の中。既に交戦状態からスタートします。
 シオンさんを追わんとしているのが後述するフィーを含め三人。
 その他のメンバーは生存者が立て籠もっている倉庫を打ち破らんとしてるようです。

●フィールド
 ハスペン村。いくつかの家屋が点在し、後は畑がある程度の寒村です。
 既にいくつかの家には火が放たれており、黒煙が上がってもいます。
 無事な家もある様なので、そういった家などは障害物としても使用できるかもしれません。なお、生存者は村の中の一角にある倉庫に立て籠もっている様です。ただ、賊に扉を打ち破られようとしています。

 時刻は昼なので灯りの心配などはいらないでしょう。

●敵勢力
●フィー・ビィーズ
 山賊団の中でも主力たる実力を持つ壮年程度の男性にして、元ラド・バウ闘士です。
 元々のランクは不明ですが、若い頃はそれなりに実力のあった闘士の様でした。しかしながら戦いの最中に甚大な負傷を負い闘士引退を余儀なくされます。その後は『弱くなった』として散々な扱いを受けたようで、紆余曲折の末に賊へと身を落とします。

 過去の怪我が原因で長時間の戦闘が出来ないようです。
 戦闘が長期化し始めると段々と能力値が低下していきます。(逆に言うと短時間であれば能力値の低下などはなくフルで戦ってくるという事でもあります)

 その戦闘スタイルは前のめりな近接戦闘型です。
 我流の剣術を用いてめまぐるしい勢いで攻めたてる流れを得意とします。
 尤もその戦闘スタイルは怪我による短時間戦闘が故もあるかもしれませんが……

●山賊団メンバー×9
 剣や槍、弓などを携えた賊のメンバーです。
 先述のフィーも合わせてつまり全部で10名の敵戦力がいます。
 普通の賊に関してはさほど強くはないのですが、この中にはフィーと同様になんらかの理由で元々ラド・バウ闘士だった者もいます。闘士崩れとはいえ、それなりの実力はある様で、全体的な強さは玉石混合と言えます。
 ただ基本的に全員攻撃型の様で、治癒魔法の類を扱える者はいないようです。

 内二名はシオンさんの強襲(OPより)により体力が低下したメンバーもいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <マナガルム戦記>ヴェアヴォルフ・ラメント完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月30日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ


 凍える様な風が全身を撫ぜる。
 これが鉄帝の冬だ。春の穏やかさは遠く、冬の将軍が跋扈する――その中で。
「ベネディクトさん、ハンスさん、先行を頼みます。
 ……あの煙は異常だ。村に、良くない事態が起きている可能性が高い」
「ああ。任せろ――先行する。
 ハンス。状況は不明。あらゆる事態を想定し、事の対処に向かう。やれるな?」
「ああ勿論――やれるよ。じゃあ、オーダーはとりあえず最速で。持ち上げるから掴まって」
 言の葉を交わす。マルク・シリング(p3p001309)が『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と『運命射手』ハンス・キングスレー(p3p008418)へと――
 勘付いた村の異常があらば、そこへと最速に至らねばならぬ思考が過るものだ。
 故に取る手段が、神速の翼を宿すハンスにベネディクトを託す事。
 さしもにこの場全ての面々を背負うのは無理だが、一人ぐらいであれば容易いものだ。卓越した運搬の要領に加え、彼の飛翔する力が数多の木々を乗り越えて現場へと飛来せん――
「如何なる事態が生じている事か……急がねばな」
 更にはベネディクトが超越の領域へと達する加速の加護を振るえば。
 音の壁を感じる感覚をも得るものだ。一刻も早く。一秒でも早く、と。
「よしよし。急ぐと寒いからな……此処で大人しくしててくれよ?」
 同時。ハンスはマルクより預かったシマエナガ型のファミリアーを懐に仕舞うものだ。
 この子を用いてマルクらとの連絡を成そう。『チュリ?』と首を傾げるその子の首を撫ぜながら、冷気より避けるべく懐へと仕舞い込んで。
「よし……ハンスさん達はひとまずこれでいいとして、僕達も急ぎましょう」
「だな。マルクさん、リュティス。しっかり捕まっててくれな――
 荒くなるかもしれないけど、少しばかりの辛抱だ……!!」
 そして彼ら二人が彼方へ先行すれば『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)は馬を急がせるものである。
 ――冬を乗り切るための物資を届けるのが今回の仕事だった。
 だというのに目的地そのものに異変が起きるなど冗談ではない。
 焦燥。手綱を握る手に滲む汗が、その感情を駆り立てるものだ。

 もしや――今から行っても手遅れなのではないか――?

 どうしてもそのような『最悪』が彼の脳裏に思い浮かんでしまうものであり。
「――出来る限り迅速に行動いたしましょう。まだ『間に合わない』とも限りません」
 されど『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は言を紡ぐ。
 まだ『最悪』だとは限らぬのだと。この一歩一歩がその回避に向かっているかもしれぬと。
 ……早々に火事など起きないとは思う。
 厳しい環境が周囲にひしめくが故にこそ略奪者が現れても不思議ではない――
 けれど、今はただ前に進むのだと。
 全力で駆け抜ける馬には、急かして悪いとは思うが――今暫く全霊を賭してもらおう。

 マルク、誠吾、リュティスは急ぎつつも足並みを揃えて村へと向かい。
 ハンスとベネディクトは三人よりも急ぎ先行して村の入り口を目指せ――ば。

「まあこんな事だろうと思ったけど……はぁ。やっぱり……だよねぇ」
 遂に見えた。ハンスの目に。
 略奪され恐怖の渦の中に叩き込まれている――村の姿が。
 ……弱気は喰らわれ強者の血肉に。
 そんな理屈がまかり通るからこの国は――大概気持ち悪いんだ。
 勿論。そのような暴虐を振るう者達ばかりではないと分かるが、しかし。
「――むっ。ハンス! 二時の方向を見ろッ!」
 と、その時。
 素早く村の各地の状況を瞳に捉えていたベネディクトが――言を飛ばす。
 そちらに在るは戦場の光景。

 一人の少女が賊と相対する――現場であった。


 剛撃。『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)の一撃には憤怒の色に染まり往く。

 ……ああ、苛つくぜ。

 力を振りかざし他者を蹂躙し。
 勝利の美酒とやらで喉を潤した気になってる――バカ共を見た所為でな!
「ハッ! その程度かよ。大口叩いた割に、盗賊なんぞやってるのも納得だな!
 結局テメェらは弱い者いじめしか能がねぇのさ。
 相手を見て選んでからでないと喧嘩も出来ねぇかクズがッ!!」
「この、生意気な小娘がァ! ちょろちょろとうざったらしいぞッ!!」
 跳躍。賊が振るう剣の一筋を潜りて躱し。
 体を捻りて刃を天へ。先に負わせた傷口を更に抉る様に解き穿ちてばまるでそれは獲物を喰らう顎の如く。されど尚に彼女は止まらぬ。
 追うてくるもう一人をも狙うのだ。突き放たれる槍の一閃を上に跳びて、槍の柄を足場に。
 一歩で翔けて――叩き込む蹴りが顔面を鼻先から砕こう。
 さすれば、豚の様な間抜け声が響き渡るもの。
 いてぇか? ああ、どうなんだよ?
「これが好きなんだろ? 痛みなんてのは――お前らの好きなこの国の名産物だぜ?
 ――なぁ! お望み通り殺してやるよ! 『力が正義』なんだろ!」
「ったく。いっちょ前に言いやがる嬢ちゃんだぜ」
 が。先んじて疲弊させていた二人はともかく。
 恐らく熟練されているであろう技量を持つ――フィーだけは油断ならぬ。
 シオンに叩きのめされ悶える賊二人を尻目に、高速で接近する彼の一撃は鋭く、重い。
「だが調子に乗りすぎだな。多対一でずっと勝ち続けられるとでも思ったか?」
「当たり前だろ。どこに負ける要素があるんだよ」
 鍔迫り合い。
 弾きて距離を取るシオン――も、言の葉は只の挑発の類であり理解はしている。
 対多数を続けるのは不利だ。
 この状況に脳髄が煮え滾る様な感情を抱きつつも、しかし瞳は状況を冷静に見据えている。極端な話、賊が全てこちらに赴き周囲を取り囲まれれば、如何なシオンと言えど窮地に追い込まれるだろう。
 ――故に無理はせぬ。適当な空き家に飛び込み射線を区切れ、ば。
「ハッ。逃がすかよ――とぉ!!?」
 間抜けめ。と言葉を零してシオンは壁を透過する術をもってして逃走を試みるものだ。
 一方で敵の状況は壁を透視し、掴もう。常に有利な状況を己が保持し続けて。

「だけどさ。一人では疲労もあるよね――手伝うよ」

 けれど。その時、シオンに対し紡がれた言葉があった。
 斜め後方より。言の葉と共に放たれるは全てを収奪せしめん蛇の牙。
 ――ハンスだ。生存者のいる建物を、包囲している賊へと成す強襲が誰しもを襲いて。
「――なんだ、アンタら」
「失礼。どうやら、先んじて村を守ってくれていた様だな。感謝する。
 ――俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム。
 村に物資を運んでいるのだが賊の狼藉も見過ごせなくてな――共闘出来るか?」
「お嬢さん……んー、乗り掛かった船ってやつ? とりあえず僕達は賊じゃないよ」
 直後には賊らに混乱が巻き起こるものだ――横から殴られるとは想定していなかったか? その隙にベネディクトとハンスはシオンへ共闘を持ちかける言を飛ばすものである。
 この状況においてシオンの目からは彼らが味方か敵かは分からぬであろう。
 故に賊へと撃をまずは成した。
 万の言葉よりも――一つの行動が雄弁にこそ語るものであるから。
「――好きにしな。だが、即興で連携なんてのは期待するなよ?」
「無論だ。互いが敵でないと分かればそれで十分だろう――では往こうか」
 故に。シオンも彼らの素性を全て理解した訳ではないが。
 少なくとも敵でないのならば十分と短い言の葉を交わすものだ。
 さすればベネディクトは前に出る。賊らの注意を、此方に引く様に。
「我が名は特異運命座標が一人、ベネディクト。
 これ以上、この村を荒らさせる訳には行かない――
 未だなお無辜なる民へ暴を振るいて我欲を満たそうとするならば、覚悟せよ!」
「と、特異運命座標……!? だが、二人加わった程度で何が変わるかよ!」
 名乗り上げるものだ。さすれば賊らは一瞬動揺するも――しかし強襲して来た戦力は少ないと、武器を構えて彼らを襲う。たかが数人。打ちのめしてしまえば同じだと……しかし。
「おいおい。村を襲うのには慣れてても、殴られるのには慣れてないのか――?」
「全くハタ迷惑な連中だよね、こういう手合いは、さ」
 数刻、タイミングがずれた上で更なる援軍として訪れたのは誠吾やマルクらであった。
 機をズラした事が波状攻撃の様な形となりて効果的と言えたか――マルクがファミリアーを随伴させており、村の状況を後発組にも共有できていた事も大きな要素である。
 誠吾の剣撃が賊を穿ち、マルクの治癒術がベネディクトら先行組を癒すもの。
 直後には気配を極力消していたリュティスが、主たるベネディクトへ襲い掛からんとしていた賊を――打ち倒す。死の舞踊が如く、彼女の手刀が賊の首筋を狙いて衝撃を加えれば。
「お待たせしましたご主人様。これより私も露払いを――そちらの方は?」
「ああ、彼女は賊ではない。賊を打ち倒さんとしていた者だ。共闘の旨を承諾してくれている」
「成程、承りました」
 それでは、当てにさせて頂きましょう――と。リュティスはシオンの存在と立ち位置を把握する。敵でなくば問題なしと、紡ぎあげるのは光の刃。
 敵を。賊のみを穿つその羽根の如き閃光の刃が周囲へと降り注ぐ。
 宙を穿ちて身を切り裂き。主への狼藉は許すまじと、その身を支えんばかりに。

「チッ。どういう事だよコイツは……
 たった数瞬の間に何が起こったんってんだ?」

 さすれば――賊の一人たるフィーは後頭部を掻きながら状況を見据えるものだ。
 小娘が一人乱入して来ただけの筈だった。その程度であれば遊んでやるか、と思っていたのだが……いつの間にやら敵の数が増えている。しかもソレがイレギュラーズ達、だと?
「何の冗談だよこりゃあ」
「冗談でもなんでもねぇよ――コイツがお前達の現実だ」
 理不尽。お前達が他者に振るっていたソレが、遂に牙を剥いてきたのだと。
 シオンは言うものだ。
 さぁ――お得意の力とやらで何とかしてみたらどうだ?
「なんとか出来るなら……なっ!」
 剣撃一閃。交わる刃の衝突が――激しき金属音を齎していた。


「ん、あいつは……なんだってこんな所にいるんだ?」
 賊との乱戦。その半ばにて、誠吾はシオンの姿を横目に捉えていた。
 彼女は――以前ローレットの依頼で一緒になったことがある。
 名はたしか……シオンだったか? 別件の仕事でここにいたんだろうか?
「たしか、シオンさん、だよね? イレギュラーズの」
「ん、あぁ――あんたはマルクか。前に逢った事があるな」
「うん。まさかこんな所で……と思うけれど、事情は後だ。とにかく援護するよ」
 同時。誠吾と同じ考えに至っていたのはマルクもである。
 彼もまた別件の依頼においてシオンと共同で動いた事がある――勿論、思い出話に花を咲かす状況でもなければ短く言葉は切って、全ての事情は後回し。まずは賊らを殲滅する。
 マルクは治癒を齎し、或いは攻勢時と見れば弱っている賊へと魔力を収束――
 砲撃が如き熱量にて全てを薙ぎ払わん。
「クソ! 魔術を使う奴から狙え!! アイツは厄介だぞ……ぐぁ!!?」
「悪いがそういう訳にはいかないな――大人しくしててくれ」
 さすれば治癒も攻撃もこなすマルクを賊側は狙わんとして。
 されど誠吾が狙いを引き絞った弓の使い手へと撃を成すものだ――
 そして生じる間隙をリュティスが攻め立てる。
 脆そうな弓兵を中心的に。隙があらば一気に踏み込んで仕留める一撃を齎さん。
「これ以上抵抗されても苦しみが続くだけかと存じますが、まだ続けますか?」
「まだ続けるか、だと――? 舐めるなよクソガキが……!」
 纏めて敵を薙ぐリュティス。さすれば憤怒する賊が彼女へと襲い掛かる、が。
「どうした、それだけの数が居ながら俺を倒すには不足か! 来い!
 お前達の不甲斐なさを受け止めてやる――真の強さを知るがいいッ!」
 その都度にベネディクトが前へと出るものだ。
 彼の強靭なる精神が数多の撃を乗り越える。そして彼は膂力を己が武器に込めるものだ。
 ……いや、込めているのは彼に内に在りし竜血の力か。
 あらゆる力を収束せしソレは数多を貫きて――敵陣を食い破る様に。
「チィ――! 迂闊に前に集まるな! 散開して連中の攻撃を散らせ!」
「さぁてさて。首魁はアンタって事でいいのかな――? ちょっとこっち向きなよ」
 思い知らせてやるからさ、と。フィーに対して言を紡ぐのはハンスだ。
 賊にしては素早いその動き。闘技崩れか何かかなぁ――あほくさ。死ねばいいのに。
 自らの力を誇示する様に縦横無尽に暴れまわるフィーへと向かわせるは、掌。
 優しく、撫ぜる様に。
 或いは愛撫の様に愛でる。それだけなのに――
「怯まないでよ」
 それとも、案外臆病なのかな?
「ハンッ――そいつは挑発のつもりか? だったらまずはお前から殺してやろうか」
「挑発? いやいやそんな高尚なつもりもなかったけれど」
「余所見とは余裕だな――オイ」
 直後。微笑むハンスの後ろから跳躍してきたのは――シオンか。
 お前以外の他の連中は崩れつつあるぞ。だから、なぁ。
「――力が全てだってんなら、その力でわからせてやるよ!」
「――どこまでもうるせぇ小娘だお前はよ!」
 お前たちの所業をと。シオンは全霊を注ぐ。
 二振りの刃をその手に抱き。
 さすれば彼女の心の動きに呼応する様に――昏き様相が淀み動いた、気がした。
 激突。交差。衝撃幾重も。
 高速の応酬が死線の領域にて。どちらが渡るか、その川を。
 ――だが、息を切らすはフィーの方が早かった。
 古き傷が。彼の弱者の証が滲み出てくるのだ。
「ぜぇ、ぜぇ……! クソ、この俺が、まさか……こんなガキ共に……!」
「運が悪かったね。或いは、日頃の行いが、かな?」
 刹那。言の葉を紡いだのは、ハンスだ。
 右腕の一角に見えた妖しき傷跡を――蹴り刻もう。
 弱きは蹂躙されるのみ、うん。確かにその通りだよ。でもねぇ……
「悪意を持った強きって、何されても文句言えない隙なのさ」
「テ、メェ――」
 ふふ。ここまでだね――
 視線が逸れた一瞬をシオンは見逃さぬ。体を捩じり、回転させる様に剣撃に勢いを付ければ。
 首を――堕とそう。
「じゃあな――これでも悔いねぇなら、あの世でやってろ」
 吐き捨てる様に。シオンが着地すると同時――フィーの首もまた、地へと。
「強い者が生き、弱い者が静かに息を引き取る……だったか。
 弱肉強食。その理論が正しかったとしても――悪いが、俺達は負ける心算は無い」
 その様を確認し。ベネディクトは呟くものだ。
 決して負けぬ。理不尽なる暴虐には――決して。
 ……俺は強さを他の皆が笑える様な事に使いたい。
 昔俺が憧れた騎士がそうした様に。
 あの姿に恥じぬ――そんな使い方をしたいのだ。
 ……そして、強者たるフィーの脱落を起点として賊らの士気も完全に乱れつつあった。
「投降すれば命は取らないが……どうする? まだやるか?」
「う、うるせぇ――今更退けるかよ!」
「ならば……思い知ってもらうとしようか。村の痛みを、ね」
 狂乱せし者。戦意を喪失する者。
 様々だが、やがて誠吾やマルク、リュティスらによって鎮圧されて……
「さて。こんな所でしょうか――生き残った賊の方々には、壊れた家屋の修理でもさせましょう。宜しいですね? まぁどうしてもやりたくないというのならば致し方ありません……この場で死んで頂くだけですが」
「ひ、ひぃ!!」
 どちらが良いでしょうか? 変わらぬ表情のままに、リュティスは賊へと呟くものだ。
 ――戦いは終わった。村の入り口付近に置いてきていた馬車を回収するとしよう。
「とはいえ、人的被害も出ている……次の支援が必要だね。
 ひとまずは倉庫に立て籠もっている人達に終わった事を伝えてくるよ」
「全く、賊の所為で大変なことになったな……ああでも。まずは身体を温めよう」
 勿論。出てしまった被害もあるが、それはもう思っても栓無き事だ。
 故にマルクは生き残った村人へと声を掛けるべく赴き。
 誠吾はリュティスらと共に物資の振る舞いの為の準備をするものだ。
 ――生き残ってさえいればまた復興は、きっと出来るから。
「ありがとよ。おかげで村は……まだ無事な方だ」
「いや礼には及ばない。むしろ、もう少し早く来ることが出来ていれば……
 そういえば、其方はどうしてこの村に?」
「ん。ああ……いやちょっとした調べものがあってな」
 そして。事が収束し始めれば――シオンはベネディクトらへと声を掛けるものだ。
 ……一応、親父の手がかりが残ってないか調べたい所ではあるが。
 燃やされた様な跡の家もあれば、碌な手がかりもないだろうか……
 が。それはそれとして共闘をしてくれた彼らには礼を述べようとして――と。
「そうだ。あんたら、名前は?」
 どうにも。ローレットの一団、という枠とは別の意志の統一があると。
 そんな気がした故に――彼女は問うた。
 彼らの在り様がどこにあるのかと。さすれば。

「黒狼隊ですよ――ええ。僕達は黒狼の系譜です」

 村人の治癒をするマルクが、応えるものだ。
 黒狼隊――成程、な。
「……その内、借りは返しに行くよ」
 どうにも。この一時だけの縁ではない気がするとシオンは感じていた。
 黒狼隊。
 名を忘れぬ様に、思考の中でもう一度――その名を呟きながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 この国にはこういった一面もあるのでしょう……しかし、皆様のおかげで最悪は回避されたのです。
 ――ありがとうございました。

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