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シナリオ詳細

太陽と月のメシェ・ティランジェ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『太陽と月の市』
 ――風が新しい年の始まりを言祝ぐように吹き抜けて。
「紅茶を探してほしいんです」
 依頼がひとつ。
「其処では、とても沢山の品物が売られているようです。探してきてくださいますか?」

 其処は――、
「わあ、すごい……!」
 艶めく清銀の髪を揺らしてスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が「お店がいっぱいー!」と声を華やがせた。
 明るく透き通る青空の下で少女が一歩踏み入れるのは『太陽と月の市』スーク・ル=ジュムアの太陽通り。混沌各地を巡る商人たちが自慢の品を持ちより、常駐店子に委託して商品を出している市場だ。
「いらっしゃい! 珍しい品物見てってよー!」
 アーチ状の天井は空を透かす透明の窓が左右対称に並んで明るい陽射しに人々と品々を照らしている。通路に点在する雪だるま型の魔導人形は冷気や暖気をふわり漂わせ、過ごすひとにとって心地よい体感温度を保とうとしているから、歩む人々が寒すぎたり暑すぎたりすることはない。
 優しい蜂蜜色の光沢を放つ古代樫の柱には文字や人物柄の織物がめぐらされ、様々な生地が売られる店の売り子が布をひろげてアピールしている。点描柄のルースコスタは雪空と天突く木を描いていて、寒い地方の文化を思わせ。草木染料の糸を使った植物や動物模様のイカットが揺らめけば、大地の息吹に触れた心地。豊穣産と思われる綸子や縮緬といった和装束向きの生地もある。
 布の海を越え、一息ついて見上げれば、夜を照らすためのペンダントライトが今は出番なくぶら下がるのみ。柱と柱の間には国の旗が垂れてゆらりひらり裾を揺らして、賑々しい空間に燥ぐ民の笑顔を歓ぶみたい。
 視線を落として進むうち、左に聳えるのは衣装が展示されるスペース。衣桁やトルソーに架けられた衣装に背高衣装棚に並ぶ色布の群れ。首を後ろに倒してめいっぱい見上げて、綺麗な衣装に目を凝らす。
「んん、棚の上の方が高くて届かない……」
「気になる装束があれば取ってあげるよ」
 ケバヤにケンテ、ラクス・シャルキのピップスカーフにヴェールにハーレムパンツ。店員が可愛いお嬢さんにここぞとばかりに衣装を勧めて、一瞬でも足を止めれば周囲の店も黙っちゃいない。
「こっちにはお守りもあるよ」
「アクセサリー買っていかない?」
 月の雫みたいな銀縁に飾られ深い藍色と白を艶めかせるナザール・ポンジュウ。黒い板を引き立て役に、まるで夜空から滴る星の涙滴めいた煌めきを放つ首飾り。瑠璃や翡翠、珊瑚に真珠、初恋色の石英に遊色鉱石、様々な宝石を連ねたブレスレット。簡易テーブルには伝承物語の一幕を煌びやかに糸で描くテーブルランナーが広がり、分厚い本と古びた何処かの地図、作者不明の絵画が並ぶ。
「ドリンクあるよー「ソフトクリームあるよー「クレープあるよー!」競うように声を張る店員たち。
「大切なお友達に贈り物もいかが!」
「安らぎや癒し、時には刺激。あなたの夜を彩る光を選びませんか」
 凍て氷が夢の花を萌し咲くような青水晶の鉱石ランプに温かみのある暖色で揺籃の微睡みを包み込むような色彩光を約束するソルトランプ。伝統模様のモザイクガラスが華やかな夜を彩るトルコランプ。
「本を読むのが好きなあなたに。物語を愛するきみに」
「綺麗な食器で特別なティータイムを!」
 物語をひとつひとつ知るこれからを想って幻想的な文様を描かれたメープルの栞。上品で華麗な食器や、可愛らしくカジュアルな食器、びいどろの涼やかな豆皿や酒盃まで。
 ふわり、香りに誘われて見れば瓶入り香水の棚。虹色光沢や優しい色合いのベイビーピンク、夢の世界へいざなうようなトワイライトアメジストの煌めく器にリボン付き真珠色のキャップ。雰囲気が似た棚には練達産のアロマやコスメが並んで、「何か買ったらぬいぐるみもおまけでつけちゃう」「ええっ」――この空間に居るだけで女子力があがっちゃいそう!
 手下げの皿に九杯の茶を乗せた配達茶屋がすれ違って、茶屋はあっちだよと教えてくれる。多彩なスパイスや果実が並ぶ道を通り過ぎようとすれば、左右から皿が差し出されて。
「ベリー、ベリーベリーだよ!」
「ひとくちだけでも食べてミテヨ!」
 黄色い皿一杯に乗せた売り子が試食を勧めるのは、フードカラーリングペンで花や動物の絵が描いてある小粒のチョコにエディブルフラワーが咲くドーナッツ。中でも橙色の花弁を飾りチョコとフードペンでファンシーな顔を描いた一品は「ライオンドーナッツ」と呼ばれているみたい。甘味に気を取られた隙に勧められるのは、あたたかみのある水彩の絵葉書。
「お友達に絵葉書を書いてみない?」
「こっちも見て! 寄ってって!」
 果実や野菜、植物を売る声も溢れている。山盛りオリーブが日差しにきらきら輝いて、宝石のよう。春が訪れたような満開の花々や多肉植物が所せましと飾られる植物店。呼び込み声、笑い声、触れ合う肩、すれ違う笑顔、色と香りと声が混ざって、きっと誰もが心躍らせ財布のひもを緩めずにはいられない――此処こそが『太陽と月の市』、スーク・ル=ジュムアの太陽通り!


●『メシェ・ティランジェ』を探しに
 その旅のきっかけは、ひとりのハーモニアの女性だった。
 とある貴人の邸宅で働く縁を結んだばかり、という彼女は、名を「マリエラ」と名乗り、依頼した。

 ――あるはずなんです。今回の市に、有名な茶商が訪れていると聞いたんです。ですから。

 ――『クイン・ブレンド』を1つ、買ってきてください。

 ――それさえしていただけたら、あとは『太陽通り』で自由に過ごしてくださって大丈夫ですから……。

 その紅茶のブランド名は、『メシェ・ティランジェ』。
 生活のあらゆるシーンに寄り添うバリエーション豊かな紅茶ブランドだ。

 ブランド銘入り缶入り茶葉商品は、ノスタルジックなデザインのデザイン缶。
 定番のダージリン、セイロン、アッサム、アールグレイ。高貴な方に捧げるため生み出された『クイン・ブレンド』、香り高くモルティーな『ブレックファスト』、冒険心をくすぐるエキゾチックなフレーバード ティー『ドレイク』、白花と果実の優しいハーブティー『大樹のささやき』、赤い果実と少しスパイシーで甘やかな香りが刺激的な『ティー・フォー・ティーンズ』。
 『紅茶の絵本』という特別商品もある。
 本の装丁めいたお洒落なボックス入りティーバッグセットは、書物のようにページをめくるたび左側のクリアファイルページにティーバッグが入っていて右側にそのお茶にまつわる小話が綴られる絵本だ。
 蜂蜜瓶や焼き菓子、可愛いティータオルやティーキャディというったティーグッズ、鮮やかな色の砂時計……。

 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が彩の異なる瞳をきらめかせ。
「紅茶を探す旅、出発だね!」
 旅のはじまりに微笑んで、自由の風に背を押されるようにして歩き出す――「いざ、太陽通りへ~!」明るい声響かせる旅立ち。気づいたギルドメンバーは微笑ましく手を振り、その旅立ちをあたたかに見送っていた。

GMコメント

 透明空気です。いつもお世話になっております。
 今回はスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)さんのアフターアクションから発生したエンジョイ系シナリオです。
(アフターアクションを送ってくださり、ありがとうございます)
 舞台は大陸西部ラサ傭兵商会連合の『太陽と月の市』となっております。

●依頼内容
 『太陽と月の市』で紅茶ブランド『メシェ・ティランジェ』を探して『クイン・ブレンド』を買ってきてください。

●『太陽と月の市』
 OPにあるようにアーチ状の屋根付き商店街となっています。世界各国の色々な商品が所せましと並べられ、客引きも活発です。
 紅茶のお店は『太陽通り』にあるようです。
 なお、『太陽通り』はその名の通り日中限定。夕暮れと同時にすべての店が閉じ、『月光通り』が入れ替わるように開店する仕組みとなっています。今回は『太陽通り』限定のお仕事となり、『月光通り』に行くことはできません。
 想定されるトラブル要素としては、「紅茶店が見つからない」「スリ被害に遭ってしまう」「お店の人や他のお客さんと喧嘩してしまう」「大切な商品をうっかりあれこれしてしまう」「こんなところに迷子の子供が……!」「人混みに寄ってしまう」などなど……です。
 みなさんは今回ここで「紅茶を買う」以外に自由に行動をすることが許されています。OPに出ているお店や商品を見て楽しみ、自分用やお友達用に買ってもよいですし、「OPに出ていないけどこんな店・こんな商品があった」とプレイングに書いてもOKです。だいたいあると思います。
 紅茶を探す途中で買い物を楽しむのもOKですし、仕事を終えた後の自由時間で楽しむのもOKです。
 お店を巡ったり買ったりする側だけでなく、お店を出したい人もOKですが、紅茶を買ってお仕事を終えた後になります。
 アイテムの発行はありませんが、「このシナリオで買った」という設定でご自身でアイテムを創る分には自由です。

●『メシェ・ティランジェ』
 生活のあらゆるシーンに寄り添うバリエーション豊かな紅茶ブランドです。
 ローレットの冒険譚や世界情勢に感化されてブレンドティーの新作を作り続けているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 以上です。
 それでは、どうぞ楽しい時間をお過ごしくださいませ。

  • 太陽と月のメシェ・ティランジェ完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い

リプレイ

●金赤
 ――光咲き溢れる、真昼の市。

 硝子を透かした陽光が燦燦と天から降り、互いの髪に跳ねてきらきらしている。眩さに眇める片薄水青が視線を落とす床のタイルは、よく見れば1枚ごとに色合いを違えていて、影が安らぎの象徴めく墨色を落としていた。『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)には賑わう世界が能く視える。
「太陽と月の市、ですか」
 声が掻き消されてしまうようで――喧噪と活気の内に居るのだと淡く息を呑む。線を引くならば、常は外側に己を置くけれど。今微かに青翼の先を揺らして呟くのは「面白いですね」と。

 ――夜になればこの眩さが如何なる表情に変わるのか。

 賑わう市はラサの魅力の一つ。
 柔らかく視線をあげれば、天真爛漫に無垢な笑み咲かせ応えるのは『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)。
「凄い賑わいだね、それに珍しい物がいっぱいあって目移りしそう!」
 清涼な風めいた聲を耳にすれば、心軽やかに浮き立つ心地がして『ラストドロップ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は風に背を押されるように歩みを進ませる。ひらり、穏やかな森色のマントを揺らして。

「太陽と月の市……すげー賑わってる場所だなーっ!」
 素直な想いが聲に乗る少年の声色は『ドキドキの躍動』エドワード・S・アリゼ(p3p009403)。破顔するのは、同じ『はじめて』に肩を並べる大好きな薄鈍色に。その綻ぶ口元に。
「わ、凄い賑わい……だね」
 『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)が琥珀糖の瞳で市を見渡して微笑んで。エドワードがぐいぐいとその手を引っ張る。少年の手はあたたかで、嬉しさと楽しさが溢れている。声は元気一杯で、裏も表もない真っすぐな心根をありありと伝えて。
「チック、あれ見てみよーぜっ!」
「……ん。今日はおつかいの『手伝い』、する為に。此処に来た。だからまずは、そっちを第一に」
「おう! 初めは紅茶探しだな! よっし」
 ジョシュアも、とエドワードが振り返る。

 ――僕が入ってもいいんだろうか。

 チックを見上げるジョシュアの瞳は雨に煙る森のよう。優しさと奥ゆかしさ、そして不安を湛えて揺れている。優しく首肯すれば安心するだろうか。繊細な精霊種へとチックは淡く眦緩ませた。
「うん……。一緒に、行こう」
「わくわくするよな!」
 エドワードがお日さまめいて笑って当たり前みたいに手を引く姿が好ましい。思い出を共有する温もりを識っているから、友を包み込むよう囀ろう――楽しい気持ち、恵縁言祝ぐ優婉な歌を。

 並ぶ品々にスティアと代わる代わる「わぁ」「うわぁー♪」歓声をあげて。
「それじゃ張り切って市場探検いってみよー♪」
 燥ぐ声を重ねる『甘いかおり』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)に、過去に遭った気難しい茶商との思い出に愁眉を寄せる『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が続く。アッシュの茫漠の眼のうちに案ずる気配を見て、ミルキィは溌剌と両手を振り、幸せ零す満開の花のような笑顔になり。覗き込む瞳は夜明けに似た色合いで、明るい予感を感じさせた。
「アッシュちゃん、手つなぐ? 大丈夫だよ。変な茶商さんでもみんなで挑めば怖くないよ!」
「怖がっているわけでは、ありません」
「うん、知ってるよ! 慎重なんだよね」
 砂糖菓子みたいな微笑みが咲いて、スティアが「目利きなら任せて!」といつ買ったのか分からないぬいぐるみを手に「負けないっ、がおー」と燥ぐ。
「「勝つぞー!」」
「勝負……?」

 大地の贈り物と称する荒く削り出された神秘の石が鈍い輝き放ち、可能性を感じさせる未知の薬草が並んでいた。
(ここは誘惑が多いな)
 『ヒュギエイアの杯』松元 聖霊(p3p008208)は白帽子を深くかぶり直して道塞ぐように売り子が広げた天鵞絨をひょいと持ち上げ、仲間達をくぐらせて。
「ありがと! こういう時は人に聞いて探すのが一番無難かな?」
 ミルキィが片手を瞼の上で傘のようにして「だーれーにきこーうかなー♪」と歌えば。
「有名な茶商が来ているなら、噂になっているでしょうか」
 衣装屋に少年と間違われたチェレンチィが冷えやかな流し目を返答代わりに送ってから、仲間に提案をする。
「ボクもちょっと探してみたいものもありますし、色々見て回ってみましょうか」


●緑青
「腕章をつけた人がいます。エドワード様がお探しの管理人かもしれません」
「ジョシュアすげぇ! あんな遠く視えるんだ!」
 スリに備えてお財布を自分の前側で持つジョシュアは目印探し遠方まで目を凝らしてから目を擦り。
「……大丈夫? 疲れる……しちゃった?」
「いえ、大丈夫です。少し情報量が多くて」
 エドワードが人数分の冷たいドリンクを買ってきて、ぴとりとジョシュアの頬に押し付けて。
「ひゃっ」
「へへ! 差し入れ!」
 誼譟の中、ミルキィがライオンドーナッツを取っ手付きの紙箱に入れて貰いながら手を振り叫んでいる。
「これ、お茶請けに~! よさそうだよ~っ!」
「お茶請け……おれも」
 チックが買ったのは、カスタネットみたいな2枚のバタービスキュイが色彩豊かなクリームを挟むスタンドビスキュイ、チョコムースを優しい酸味のベリーでコーティングした艶やかな紅色のムース。
(紅茶と一緒に……お客さんや、友達に振る舞う……してあげたいな)

 スティアも「教えてくれるなら何か買っても良いんだけどなー?」と情報を聞き出しながらクッキーの詰め合わせに手を伸ばしている。可愛い缶、と呟き買うのは四角いデザイン缶。ぐるりと描かれる牧歌的な世界画は空の水色と緑の木々と赤や黄色の花々、草を食む葦毛の馬に青い鳥、遠き山々に家族の象徴めいた可愛い三角屋根の家……。
「こっちは、チョコ?」
 試食を勧められたのは、白いハート型のチョコレート。ヴァニラとカスタードを合わせたクリームとスモーキーなフレーバーのフロマージュブランムースで包まれた可愛らしくも贅沢な一品。
「べ、別に遊んでるだけじゃないんだからね! ……変わったフレーバーのお茶とかもチェックしておかないとね」
 ――情報収集だから!
 仕方なーく買ってるだけ、と言いつつ増えていく荷物。珍しい紅茶、お茶請け……その魅力には抗えないっ!

 アッシュはお小遣いと相談して甘やかな香りのデザートティーを選んでいる。バニラ、ピオーネ、カカオにペパーミント……。肌に薔薇色燈り「あ、」と見開く瞳が見付けたのは。
「デカフェのチョコレートヘーゼルナッツ……」
 白い指先が文字の上、触れるか触れないかで止まって、購入を決める。優しい頬の輪郭に仄かな喜びを浮かばせて。

「あまぁい。甘い物には財布の紐が緩むけど、それ以外だとしっかり考えて買うんだよボクは♪」
 茶器並ぶ店ではミルキィが品定めして――「これは偽物☆ 似たデザインだけど、本物は3枚葉で筋が左右に5本ずつあるから」

「茶商はライバルだけに詳しそうですかねぇ」
 チェレンチィが螺子巻玩具の陳列棚の向こうに茶商を見て、聖霊が頷く。
「なぁ、メシェ・ティランジェって知ってるか?」
 エドワードが市を管理してる人に人懐こく声を掛けているのが遠目に視えて。
「そこに行きてぇんだが――ん?」
 言葉を止めて周囲を探り、雪だるまの隣で座り込んで泣いている長耳の女の子に気が付いた。
(ははーん。さては迷子だな?)
 仲間達も集まってくる。近付けば、女の子は雪だるまにしがみつき、身を固くした。聖霊はつば広のウィザードハットを脱ぎ、同族の耳を晒した。
「どうしたよ、お姫さん。硝子の靴でも無くしたか?」
 軽口を叩きながら怪我の手当をしてやれば、このお兄さんは怖くないのだと、肌から耳朶から染み込むよう。女の子は少しずつ警戒を解いて、ちいさく打ち明けた。
「ぉか、さん……、っ、ぃないぃ……」
(一人ぼっちで……不安だと思う)
 チックが憂愁の波紋の中、刹那想うは星の綺麗な晩に姿を消した片翼。エドワードはそんな友の声を捉えて駆けつけ、心配そうな顔をした。
「お兄さんたちは……?」
「俺? 俺は通りすがりの魔法使いのお兄さんだ。南瓜の馬車はねぇが絶対親御さん見つけてやるから安心しな」
「……大丈夫、おれ達に任せて。必ず、君の家族の元へ……連れていくから」
 一行は女の子の親を探して市を彷徨った。るるら、るりらとチックが囀る詞の無き旋律に励まされて女の子が歩を進めて、人助けセンサーが軈て親子を引き合わせる縁結びとなれば、お母さんと一緒に沢山お礼の言葉を返して。
「お礼にあちらのカフェでご馳走させてください。あちらのカフェで」
 一行は、カフェで束の間の休息を取ることにした。
「休憩だー!」
「休憩だー♪」


●群青
 割れと反りが散見されるチーク材のテーブルは古めかしく、暖かみがある。

 目の前で透明な湯が注がれる。こぽこぽと湯音と湯気立ち、ガラスポットが内側上部を曇らせる。底に溜まっていく湯と葉は瞬きする間に色滲ませて。気泡が上目指す中、透明感を増す茶湯の中でくるくると紅葉が躍っている。ふわゆら、ゆるり。上に浮かぶものと下に沈むものと。勢いは見る見るうちに緩慢に変じ、微睡みを誘うように静かに鎮んで。
 食い入るように見つめていたアッシュはカップに茶が注がれてハッとした。
「いつでも、どこでも見られるものではありませんゆえ、つい見入ってしまいました……あつ、……ふうふう」
 カップを傾けて猫舌には熱い温度を持て余し、頬を上気させて。
「こういうのもいいな」
 同じく見慣れず見応えがあると告げる聖霊が首を縦に。言葉は返さぬものの無意識に唇を共感の笑みで薄く彩るチェレンチィはカップを口元に寄せた。香りが柔らかに花開くようで、自然と肩の力が抜けていく。程よい熱さの中に感じるのは、口腔を清めるような清廉さ。渋みは軽く、香りを裏切らないコクのある実りの味。舌に躍り喉を過ぎて胸に淑やかに広がる温――心をぽかぽかと潤される心地。

 3段のアフタヌーンティーセットスタンドがテーブルを彩る。スイーツプレートに並ぶトルタカプレーゼをひとくち、味わい。
 ぼったくりのお店があったんだとミルキィが武勇伝を語る声が耳に心地よい。切り分けられたクロスタータの一片を口に運んで。
「甘い物を食べてゆっくりしたらまた頑張れる気がするー!」
 スティアが赤林檎みたいな色燈す頬を両手で抑えてニコニコしている。チックがクレープ生地と生クリームが桜色のミルクレープに飾られた8枚花弁の雪白チョコの花をフォークでつついて。食べるのが勿体ない、なんて言いながら。
「甘いものは……元気のもとの、一つ」
「わかる!」
 美味しさを分かち合うように、お気に入りをシェアして。
(ジョシュア、いま髪の色ちょっと変わった! わぁ!)
 エドワードは新しい友人が慎まやかにミルクレープを口にして髪に菫色を魅せるのを新鮮な気持ちで見ていた。
「面白いな〜〜、ははは!」

「私はストレートで飲むのも好きだけどミルクティーにするのも好きかも! 茶葉はセイロンのディンブラが好みかなー?」
 折角だし、とスティアが紅茶の話を振れば、聖霊とチェレンチィが「実はあまり詳しくない」と打ち明けた。
「クッキーにはミルクティーがぴったり!」
「ケーキにはストレートがいいね」
「なあ、リラックス効果の高い物ってあるのか? あー、出来ればカフェインレスが好ましいんだが……」
「紅茶初心者なので……ティーバッグとかあるでしょうか?」
 お店に着いたら何を買おう、なんて相談しながら――穏やかな時間が過ぎていく。


●菫蝋
 親子と別れて目的の店を見つけると、早速一行は『クイン・ブレンド』を購入した。

 ――お仕事の時間が終わったなら、次は自分の分!
(エミリア叔母様へのお土産にしようかな)
 スティアは叔母を思い、紅茶を選ぶ。ずっと献身的に愛情を注ぎ育ててくれた凛冽な黄金の優しさを想えば、2つの色宿す瞳がいっそう優しく微笑んだ。
「喜んで貰えると良いなぁ」
 呟く声は、これから未来にきっと齎されるあたたかな時間を思い描いて柔らかに。

 アッシュが以前、ダージリンのファーストフラッシュの有名園地産を買い付けに行った時は、一見さんお断りの雰囲気が感じられた。目利きを身に着けてなければ買えなかった――そんな記憶とは対照的に、目の前の老いた茶商は愛想がよかった。
「沢山の店が並ぶ市でわざわざうちを探してくださったんすか。なんてまあ、有難いこと」
 市には物が溢れている。同種の品物を扱う店も大量だ。声を張り上げ、品物をアピールして皆が懸命に客の目に留まろうと励む中で呼び込みもしていない茶商は通常なら、当然埋もれてしまう。
「アタシも若い頃には他所で散々競争してたんすよ。ぎらぎらガツガツしててねえ。……もう余生を生きるだけの蓄えはあるし、あとは細々とのんびりやろうって思ったんすよ」
 大声出そうにも、もう喉も弱くなってこれ以上大きな声は出せなくなっちゃいましたしね。そう言って茶商は笑う。
「偶然巡り合うお客様には不思議な縁を感じますし、うちの味が気に入ってきてくれるお客様は、そりゃもう神様ですよ。あなたたち皆のおかげで、アタシは今日お店を出してよかったと思えるし、またお店を出そうと思えるもんです」

(患者に出したら喜ばれそうだが……思ったより種類が多……)
 珈琲やワインならば嗜むが故にわかるのだが、と唸る聖霊は、仲間から聞いた話を思い出しながら菫の香付がされたハーブ入り緑茶が青い湯色を魅せると聞いて興味津々。

 アッシュは紅茶の絵本を手に取って、最初のページをめくる。左側の頁には1ページ1種類のティーバッグがあって、取り出して紅茶を淹れれば味わえるようだった。右側には素朴な印象の絵と飾り文字で、短いお話が綴られている。思い出したのは、休憩中に聞いた相談。真面目な目が仲間に移る。
「チェレンチィさん。ティーバッグ、入ってました」
 少し、驚いたような目が一瞬返されて。
「ありがとうございます。では、ボクもこれにしましょう」
 アッシュは頷いた。役に立てたみたい、と思いながら。その距離を保つ気配に若干の共感を感じながら。
 聖霊がやりとりに目を輝かせ、絵本を手に取る。
「お、イイもんあんじゃねぇか。なぁ、この紅茶の絵本ってやつもくれ。うちには子供もよく診察に来るからな、渡してやったら喜びそうだ」

「ミザリィやエアにあげたら喜ぶかな……お土産用にも買っていってやろっと」
 お土産を選ぶエドワードは視線を移して悩む様子の新しい友人に気づいた。
「ジョシュア、どれにするか決めた?」
「この中から一つを選ぶのは難しいですね……」
「急ぐ、しないで……大丈夫。おれも、選ぶ……する」
 ジョシュアは説明を聞いたり香りを確かめて神妙な顔。チックが『大樹のささやき』を手に微笑んだ。
「雑貨も気になるよな!」
「いつか余裕ができたら、揃えてみたいですね」
「みてるだけでワクワクしちゃうね!」
 ミルキィも色々な茶葉を見比べて、ドーナツに合いそうなものを選び屈託なく誘いかける。
「買って帰ったらみんなでお茶会でも開こうか☆ さっき買ったドーナツも出せば楽しいお茶会になりそうだよ♪」
「おっ、いいな!」


 ――紅茶店を後にしたら、あとは自由に店巡り。


 チェレンチィが苦手な人だかりの中を目的の品を探して歩く。大勢の見知らぬ人がひしめき合い、騒めき、そんな中で時折見知った顔は不思議とすぐわかって、声も聞き取れる。

「カルウェットには、角を綺麗にできるアロマオイルみたいなのとかどうかなー……」
 チック、エドワード、ジョシュアの3人はアロマを選んでから、絵葉書が書けるお店に立ち寄っていた。チックが描くのは、青空と色とりどりの花。
 ――今日の楽しい思い出を、形に出来る様に。
「お手紙を、送る、……している人がいて……」
「へえ! じゃあオレも書く! ジョシュアも――ジョセも、書こうぜ!」
「僕にも……?」
 帰りにジャム屋を見かけて、ジョシュアは紅茶に合わせる甘やかなジャムを手に取る。
(お二人の雰囲気にも少し慣れてきた気がします)
 ――お礼に紅茶をお入れしたら喜んでくれるでしょうか?
「林檎、好き?」
「はい」
「エドワードとジョシュアももし、おれの住む所に来たら……淹れてあげるね」
「え、と、僕も……もしよければ」
「わ、いいじゃん! いつにする?」
 具体的に日にちを決めれば、今日が明日に続く実感が湧いてくる。楽しみだねと友が笑うから、ジョシュアは約束ですねと頷いた。

 胸いっぱいに息を吸い込めば、いろんな匂いが混ざっていて、生温い。眩暈を起こしそうなほど集まった物と人と声と笑顔と――足元には、優しく輪郭を暈した薄墨の影が揺れて、付いてくる。いつも。


 ――ああ、これがいい。
 チェレンチィはようやく見つけた猫用の餌入れに目を細めた。あの夜に拾った黒猫が食べる姿を思い描きながら。食べる時に髭が器に当たらぬ幅広で姿勢に負担がない顔の高さであることを慎重に確認して。
 ――帰ったら。
 扉を開ける前から懸命に鳴いて、開けたら顔を見上げて鳴くに違いなかった。あの小さな鼻を近寄せてにゃあと鳴き、頬、首、体を擦りつけるようにして、愛らしく餌をねだるのだろう――。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

なし

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さん。
シナリオへのご参加、ありがとうございました。紅茶が入手できて依頼人も大喜びです。
MVPはわいわいの軸になってくださったあなたに。
スーク・ル=ジュムアの太陽通りでの時間が皆さんにとって楽しい思い出となれば幸いです。

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