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シナリオ詳細

<ディダスカリアの門>狂乱道中ダンスール

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●新しいお友達を探して
「はぁ……困りました。ほとほと収支が合わぬものです」
 マザー・エクィルは困っていた。ほとほと、困り果てていた。
 彼女は子供達が大好きで、自分が教えずともアドラステイアの教義を全うする子達は特に大好きであった。自分達の言葉を1つ聞いて10に変え、望み通りに働いてくれる。そんな子供が好きだった。
 だからこそ、嘗て招き入れた『穢れた女の娘』ミサ・ブランという少女は優秀であったと認識している。誰に聞くでもなく魔女裁判に立ち会い、仕損じた子供達を差し出して己を守り、それが正しいことであると強く主張する、その浅ましいまでの生への執着。死した親を恨むこと無く、己の価値基準のみで狂うことのできる人格。それは非常に得難いものだった。
 だからこそ、イレギュラーズに非ぬ教えを説かれ説得まがいの行為を受けて他者の戯言を吸収してしまったことは口惜しいと言わざるを得ない。あのまま彼女が人の形を残したままであれば、オンネリネンの子供達を超え、そして――。
「お呼びになりましたか、マザー・エクィル」
「ええ、待っていたのですよアルブレヒト。『プリンシパル』になったあなたのことを、わたしはとても嬉しく思っています」
「…………ありがとうございます」
 聖銃士達のなかでも優秀な『先生候補』、『プリンシパル』アルブレヒト。幼さの抜けぬ顔立ちでありながらも、取捨選択を着実に行える彼の優秀さはミサのそれをも上回る。
 経緯もかの少女と似ていた。穢れた男に蔑ろにされた女の肚から生まれた少年。不遇にあった彼、それを解放できず縋るしか無い母という名前の肉を動かぬ肉塊に変えて救い出してやったのだ。
 やや言葉に硬さと、口ごもるような素振りを見せる以外は優秀そのもの。反転したミサにも並びかねぬ実力者だ。
「オンネリネンの子から幾人か選抜し、あなたとわたしで新しい子供達を探しに行きましょう。あなたとにた境遇の子らを救うのです」
「それは――素晴らしい試みです。マザーの導きとあらば、子らも喜びついてくることでしょう」
 無表情の帳に僅かな笑みの綻びをみせ、アルブレヒトは手を叩いた。
 彼は従順で助かる。腹になにかを抱えているようだが、それを差し引いても優秀だ。

 斯くして、やや数を増やしたオンネリネンの子供達を連れ、両者はアドラステイアの外郭部へと足を踏み出した。
「それ以上先は行き止まりですよ」
 ……その爪先に突き刺さる一撃は、マルク・シリング(p3p001309)のはなったもの。
 見れば、そこには人の顔を覚えるのが苦手なエクィルですら十二分に理解できる顔がいくつか。
 邪魔者の代表格、ローレット・イレギュラーズ。待ち構えていたのか? 或いは……。
「下がれると思っているなら、思い上がりを改めろマザー・エクィル」
 怒気を隠しもせず拳を構えるエッダ・フロールリジ(p3p006270)。
「お久しぶり。幻想にまで子供を派遣したのよね? もう二度と出来ないようにしてあげる」
 そして、笑みを浮かべつつ目に激しい感情を漂わせるタイム(p3p007854)。
「……なるほど。あなた達の『顔』は覚えていますよ。そろそろお別れしたいと思っていたところです」
「マザーに不忠義を隠さぬ無礼者に災いあれ。子等よ、私とともに」
 ひくりと表情を動かしたマザーの気配を敏感に察し、アルブレヒトは前に出る。
 子供達は更に前へ。人の壁はただ分厚い。
(千載一遇の好機が、陽動でも構わない……この人を倒せるなら)
 マルクの目に決意の光が灯る。


 イレギュラーズがアドラステイアへ接近するより時間はしばし遡る。
 ローレットは、オンネリネンの子供達に代表されるアドラステイアの活動の活発化に際し、受け身であることの危険性を鑑み、さらなる攻勢に出る決断を下した。
 それは、探偵サントノーレとラヴィネイルの手引、そして捉えた子供達の証言に従ってのアドラステイア中層への突入である。
 嘗てはこの場所に存在した都市『アスピーダ・タラサ』をそのまま流用しているこの地は、天義国内にも構造図などの情報が残されているのである。
「中層そのものの情報は掴めたのですが、問題は潜入方法です。今回はその協力者……『新世界』の構成員『ミハエル・スニーア』との接触のために中層に向かうことになります。……それで、皆さんに頼みたいのがその陽動。外郭や下層で騒ぎを起こし、中層への潜入者から目を逸らすことになります。さいわい、外郭に姿を見せるであろう相手の情報は掴めていますので」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)はそう告げると、2名のアドラステイア構成員の顔写真を差し出した。
 一名はそれなりに見たことがある者が多いであろうマザー・エクィル。もう一名は、ほぼ誰も知らぬ少年である。
「『プリンシパル』と呼ばれる構成員のひとり、アルブレヒト。彼の実力は聖銃士の中でも際立って強く、オンネリネンの子供達との連携を加味すれば魔種と並ぶほどになる、とも考えられます。加えてマザー・エクィルを足止めしつつ被害を与えなければいけないのを考えると容易な話ではありません。十分に注意の上、対処をお願いします」

GMコメント

 アドラステイア中層に行く前にある程度なんとかしないといけない奴が『来ちゃった♡』しましたね。

●成功条件
 アルブレヒト、およびオンネリネンの子供達の撃破、およびマザー・エクィルへの一定以上の打撃
(オプション)マザー・エクィルを20ターン以上撤退させない

●マザー・エクィル
 拙作『収穫祭』から幾度か登場していますが、現時点までで積極的な戦闘を行っていません。
 今回は戦闘開始後3ターン目から戦闘に介入してきます。
 神超域の各種BS付与スキル「黒き祈り」他、高命中デバフ型であるような素振りをみせます。
 割とガチでやらしい戦い方をしてきますし、本人もかなり強いと言えます。色気を出さなければ足止めは可能と思われます。

●『プリンシパル』アルブレヒト
 聖銃士のなかでも特に強力な一人。用兵術にも長け、彼の号令はオンネリネンの子供達の戦力大幅増強をもたらします。
 怒り無効。単体攻撃が多めですが、どれも攻撃力が高くイレギュラーズ側の連携妨害を主体とします。
 攻撃力が総じて高く機動も高め。戦場を引っ掻き回す能力です。

●オンネリネンの子供達×15
 ある程度の戦闘経験を積み、それなりの戦闘力を持つ子供達。耐久力もそこそこ高く、感情を抑える術を心得ています。
 攻撃は全体的に前のめりであり、BSより威力、といったところです。アルブレヒトの用兵術により本来の実力以上の動きを見せています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <ディダスカリアの門>狂乱道中ダンスールLv:35以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年01月24日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


「よりにもよって……マザー・エクィル!」
「こんな場所でお会いするなんてね、マザー・エクィル。あなたのその張り付いた笑顔、忘れてないわ」
「わたしは今ほど、『忘れる』という行為が人間の持つ優秀な機能なのだと強く理解したことはありません。それほどに、あなた達の顔を覚えていることが不快でなりません」
 雲が流れ、鉛のようなそれを押しのけて日差しが漏れる。およそ感情というものを感じさせないマザー・エクィルの表情は、しかしそう吐き捨てた瞬間、陽光の眩さで視認できなくなる。
 マルク・シリング(p3p001309)と『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)はその隠された表情の裏にどれほどの感情が渦巻いているのかを知っている。だからこそ、努めて穏やかに振る舞うその姿の歪さを理解し得るのである。
「話通りの、度し難い方とお見受けしました。……あまり、かかわり合いになりたくないタイプですね」
「アドラステイアに来る時はいつも思うけど、どうせ殺せない心を殺したフリでやり過ごすなんてつまんないね」
「不道徳に染まった心が、道理の為に殺せるわけもなし。マザーの侮辱に終始するならそれもよし。私が貴方がたを殺すまでだ」
 『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の率直な感想、そして『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)の感心を失ったかのような物言いは、どうやらアルブレヒトの感情を逆なでするものだったらしい。彼の言葉と抜かれた剣の振りひとつで隊列を組んだオンネリネンの練度は間違いなく高いのだろう。だが、シキの言う通り、そこには感情というものが全く感じられない。
「プリンシパル、それにマザーが一人。相手にとって不足は無しと言った所か、騎士としてお相手願おうか」
「出掛けを襲う無頼の民が騎士を名乗るか。イレギュラーズ、噂以上の恥知らずとみた」
 『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の宣言に、アルブレヒトは吐き捨てるように返す。ベネディクトを軽んじている……というより、騎士を名乗る立場にあって、不意打ちに近い格好で相対したことへの苛立ちというべきか。アルブレヒト自身が騎士であるからこその反応、というには過激すぎるが。
「お話は聞いてたけど、本当にルシェと同じくらいの子供が戦わされているのね……」
「聞くと見るとじゃ大違いだな、胸糞悪いぜ」
 『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)と『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)の両者は、子供達の様子、こと練度の高さに些か以上に不愉快なものとして映ったに違いない。ミヅハは過去にオンネリネンと交戦しているだけに、余計に。戦いに染まった日々、敵意を向け続けた結果生まれた姿は健全な心を持っている……とは言えまい。
「『そちら』の価値観に立脚した否定は我慢ならない。イレギュラーズ達が起こした戦争、その結果行き場を失ったこの子達に差し伸べられたのはファルマコンの寵愛だった――それを否定できるのですか」
「……お前は意見しないのか、マザー・エクィル。また逃げるのか。そうして果て無き怨讐をまた子らに植え付けるのか」
 アルブレヒトの反論を半ば無視する格好で、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の挑発に、しかしマザーは表情一つ変えることがなかった。反論の言葉が無いのは、沈黙の価値を重んじているからか、若しくは激昂を抑えているからか。後者であれば、表情をおくびにも出さぬ胆力は凄まじいもの。
「貴方は」
「莫迦の一つ覚えか、小僧。滅びるを待つばかりだったこの国から病巣を取り除いた際、肉が削げ血が出るのは当然だろうが。鉄帝(てきこく)の人間相手に戦争の悲劇が悲しいから守ってくれた兵士の首を掻き切りますと胸を張って言うつもりか」
「…………!!」
 なおも口を開こうとしたアルブレヒトは、エッダの硬い言葉に歯ぎしりし、獣のような唸りを漏らした。それでいい。敵なら敵らしく理屈をごねずに向かってこい。
「あまり、この子を虐めるのはおやめなさい。それとも、『また殺すのですか』」
 く、とエクィルの口角が上がったように見えた。
 喉奥からせり上がった獣のような怒気を押し留め、眼光鋭く相手を見やるエッダは、完全なる臨戦態勢。
 それを見たエクィルが何を思ったのかは問うまい。魔種にも届く、魔種をも屠る。掲げた剣を振り上げ、真っ直ぐ突きつけたアルブレヒトの素振りひとつで、子供達は前進……せず、まず彼を中心に馬蹄形の布陣を取り、イレギュラーズを迎え撃つ姿勢を取った。半数が銃器、半数が近接武器。やや散会して戦場を広く使おうということか。
「感情に呑まれるなかれ。君達の敵は神の敵だ。憎しみではなく義務にて相手を見極めよ」
「残念ですが」
「そう悠長に見極めさせるほど、俺達は暇ではないんだ」
 アルブレヒトの指揮下で統制のとれた動きをみせた子供達は、次の指示を即座に理解し、判断し身構える。だが、更に言葉を重ねようとした彼の胸骨にヘイゼルの魔弾が突き刺さり、ベネディクトが高らかに名乗りを上げたことで子供達の敵意を引きつける。
 射程外にあった子らは冷静に銃を構え直し、ミヅハやキルシェに――戦意旺盛ながら隙を見出した者達へと銃を向けた。


「エッダ、タイム、マザーは頼んだよ」
「僕達は子供達を止めるよ。だから、絶対に……!」
「任せといて! わたし達を甘くみるとどうなるか教えてくるわ!」
「言うに及ばず。あれは殺すに十分な理由がある相手であります」
 シキとマルクはベネディクトによって陣形の乱れた子供達、その間合いに踏み込み、違いの技量によって子供達へと仕掛けていく。斬撃と光の乱舞は、鍛えられた子供達をして痛打たらしめるものだ。不調を来さぬとは行かずとも、それで立っている子らが異常なだけで。両者が投げかけたエールは2人の背を確かに叩き、しかしその鼻先に銃弾を見舞う。簡単には近づけさせないとでも言いたげだ。
「みせてあげなさい、アルブレヒト。あなたにはそれが出来るでしょう」
「身に余る御言葉に、ただ感謝を」
 エクィルは動かない。アルブレヒトの価値を見極めるかのように真っ直ぐに立ち、笑みを消すこと無く見守っている。一足で踏み込むには遠い距離から、しかし声を届かせたか。
「会話ができる程度には余裕がありますか。余裕がありますね」
「度々、同士達を打ち据えてきた貴方がたを相手に余裕? ……冗談ではない」
 ヘイゼルはアルブレヒトに棒切れをつきつけ、出方を窺う。彼はヘイゼルの初手でやや呼吸が乱れているが、それだけで己のテンポを崩すことはない。剣を鋭く突き込み、彼女の逃げ場を阻むと、横薙ぎに切り払う。合わせるように一発の銃弾が飛んで来れば、並の手合いには躱せまい。……不幸なのは、相手がヘイゼルであった、そのただ一点に尽きる。
「ルシェは弱くて守られてばっかりだけど、その分みんなが全力で戦えるように支えるんだから! だから、それくらいの攻撃なんてことないの……!」
 キルシェは己が狙われることは多少の覚悟を決めていた。だからこそ、ちょっとやそっとの弾丸に怯えたりしない。逃げ惑ったりしない。突き出された手、そのブレスレットが輝きを増し、ベネディクトを、仲間達を癒やしていく。苛烈な攻撃の波濤からすれば『完全』とは言うまい。されど『十分』。イレギュラーズが倒れず、勝利への道筋を導き出す程度には。
「向かってくるってんなら、相手になってやるぜ!」
 銃弾を受け止めつつ、ミヅハは突っ込んでくる子らとの間合いを図る。あと数歩……あと一歩。槍を手に踏み込んだ子は、途端に鈍った己の動きに動揺の呻き声を漏らす。ミヅハによる罠の術式。相手の動きを限りなく遅滞させるそれは、戦闘準備で短縮、ないし予め起動させることは不可能だ。だが、だからこそ効果は大きい。術式に巻き込んだ子らは、立ち回ることこそ出来ても、十分な動きは到底かなうまい。
「俺を相手にこの数で倒せると思っているのか? もう少し本気で来い、でないと到底倒せはしないぞ!」
 数で優勢を取る子供達に対し、足を止め声を張り上げるベネディクト。できるだけ多く、少しでも長く。己を的にかけて戦うさまは、成程、数滴劣勢を容易に覆しうる。
 他方、正面切って魔弾と刃の鬩ぎ合いを繰り広げるヘイゼルとアルブレヒトとは、その地力の優劣がはっきりと出始めてもいる。一騎打ちの格好になれば、当然といえば当然だが……それでも、単調な攻撃でなおその心胆を寒からしめる威力を秘めているのは、『プリンシパル』らしいといえばそうか。
「子供達のお守などよりも、私と踊ってくださいな」
「人に見せるような踊りを、するつもりはない」
 目を離せば不善を為す。目端が届かなければオンネリネンの規律は守られない。それはつまり、敗北への道をひた走っているということでもあり――。
「アルブレヒト。努力はしたようですが、それだけですね。残念です」
 それはつまり、マザーの歓心を失うことを意味する。背筋の凍るような声は、ヘイゼルに対する対抗心や、それまでの心身の乱れ全てを削ぎ落とす。と同時に、別人のような活力を生み出そうとも、していた。
「戦士として立ち向かってきた少年を嘲るな。お前のような病巣が」
「前に会った時みたいな、か弱い女のままじゃないわ……少しだけ付き合ってくれないかしら?」
 だからこそ。
 そのタイミングで横合いから突っかかってきたエッダとタイムの一撃は、確かにエクィルの身を打った。ただ祈りの姿勢のまま立っていた彼女の身を叩いた。
 タイムの魔弾とエッダの夢想の拳。それはエクィルの感情を明らかに、2人へと指向させた。
 ――だからこそ。
 彼女から吹き上がった敵意の奔流は、ただそれだけで2人の足を止めた。吹き飛ばした。比喩ではなく、物理現象として。
 身動ぎひとつしないエクィルが、どのような攻撃を――神秘の類を――編んだのかはわからない。
 だが、それは彼女にとって『ただの攻撃』であることは明々白々。
「何度と無く、あなたたちには邪魔をされたのでしたね。それで――見れましたか?」
「何をだ」
「幻想(ゆめ)をですよ。たった2人で、英雄ごっこをするという幻想を」
 エクィルの声が、半笑いを湛えたそれではないことに気付いただろうか。
 今までほぼ為し得なかった一手の代償に、その感情の一部を引き出したのと引き換えに得た、これから2人が背負う重みに。


「……1手で、動きが変わった……!?」
 ベネディクトは決して敵を甘く見た覚えはない。高らかに名乗ることを、それだけで子供を引き寄せられるほど安直ではないと理解している。
 だから追う、だから引き込む。だから立ち回り、的確に動こうとした。

 だから、子供達は的確に彼から距離を起き、射撃一辺倒で制圧にかかったのだ。
 射撃技術に通じたもの全員を彼に当て、彼との連携の為に集った相手に速度に長けた子をけしかける。ユヅハの術式で足を止められた者は堂々と切って捨て、死力を尽くすよう声をかける。今倒せぬものは切り捨てる。倒せる相手に矛を集める。『覚悟』が決まっている者を、徹底的に無視しにいく。
「ベネディクト……大丈夫かい?!」
「ルシェの回復だけじゃおいつかなさそうなのですよ……!」
 マルクとキルシェはこの異常に敏感に反応し、マルクは集中砲火に巻き込まれぬよう離れ、キルシェ共々彼の治癒に手を伸ばした。だが、問題は彼以上に、守りの浅い周囲の仲間だ。どちらを癒やし助けるかは一瞬の判断が死活を分ける。
「俺のことはいい、数を減らすことを最優先に! ヘイゼル、アルブレヒトは」
「足止めをする分のは問題ありません。ですが、感情的であっても指揮を執ってるようで……声もなしに」
 ヘイゼルはその言葉通り、確実にアルブレヒトの肉体を、そして剣術や術式を編む魔力を削り取った。肉体へのフィードバックを考えれば、きっと彼は長くあるまい。それでも手を振り、僅かな息遣いで指示を飛ばす姿は異常だ。それを読み取る子供達も。
「殺す気はねえんだ、無理に向かって来るんじゃねえ……!」
「少し痛むけど、絶対に殺さないよ。……絶対にだ」
 ユヅハとシキはそれぞれ、己に言い聞かせるように技を行使する。負けぬために、でも殺さぬために。連携の道筋を絶ち、孤立させ、ベネディクトの優位につなぐ。
 1人倒れ、ふたり倒れ、アルブレヒトも膝をつく。……それでも時間が、まだ足りない。
「倒れてなるものか。もっと治癒を寄越せ」
「余力はわたしが作るから! 今までの分も纏めて全力で殴って! 大丈夫、エッダさんに不調なんてひとつもないから!」
 エクィルは両手を下ろした、何も構えていないぞと、戦う姿勢ではないぞと言いたげに。或いはそれが、怒りに感情を支配された彼女の戦い方なのか。
 1歩踏み込み、2歩進み、2人を後ろへと……戦場へと押し戻す。
「後ろで守られているのっていいわよね。自分は傷つかないんだもの……だからわたしは戦い方を変えた。あなたはなにも思わないの?」
「わたしが、守られるために後ろにいると本当におもっているのですか? それは思い違いです、耳長の異人の子」
「口を開くな。逃さん。逃さん。断じて、貴様を逃さん」
「ああ、なるほど。わたしをここに釘付けにするために、あなた達は死ぬ気で堪えていたのですね。いじらしい……思いも自由にできず、指先のひとつ動かすのも億劫なこの状況も、すべてあなた達の努力なのですね」
 エクィルは、笑みを浮かべた。
 それは最初の作り笑いではない。獰猛な獣が、兎を狩るときのそれだ。指先で摘んだ胸元の何かを握り潰す。それは、人形の腕のように見えた。直後、その左腕、肘から先が弾けとんだ。エクィルのものが、だ。
「――――何をした」
「なんっ」
 エクィルの目に理性が戻り、重い足取りに活力が戻り、何もかもが戻っていくのを2人は理解した。
 それと同時に、両者同時に、紙一枚で耐えていた体力をえぐり取られるかのような衝撃に襲われたのを理解した。
 膝をついた2人は、まだ立てる。否、つつけば倒れる体力で、決して高くはない確率を引き当てたのだ。
「ああ、こんなことになっては戻らなければなりませんね。アルブレヒト、あなたはもう立てませんね。そのまま命を絶ちなさい。最後くらい、わたしを心から笑わせてね」
 エクィルは、エッダとタイムに目もくれず、否、『心からの憎悪』を向けて去っていく。
 時間をもたせた。敵をほぼ倒した。エクィルに痛打を与えた。これ以上の成功が、どこにあろうか?

 ――視界の端で彼女の腕の切断面が蠢いたように見えたのと。
 アルブレヒトの死に際した最期の悪あがきが、少年数名を道連れにイレギュラーズを傷つけたことが惜しむべきところではあるが……。

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
タイム(p3p007854)[重傷]
女の子は強いから

あとがき

 MVPは、単独でアルブレヒトを抑えたあなたに。
 ぶっちゃけ怒りがなくてもサシでは到底勝てませんでした。

 だからこその用兵術といったところです。軸となる人間を敢えて無視する、強い弱いの脅威度ではなく倒せる順に、とかは敵も使ってくるのです。……それはそれとしてマザーめっちゃ削られた……。

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