PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Sprechchor op.Ⅱ>カワイイボウヤ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――魔種『煮え炎の殺生石』が出現してから、3ヶ月が経過しようとしていた。
 自ら攻撃を行おうとしない奇癖を持つ魔種の討伐は決して難しいことではなかったが、魔種が討伐に向かった者を通して吐露した情報、そして遺体から判明した事実はローレットにとって非常に厄介な要素を孕んでいた。
 ひとつ、魔種となったもと貴族の少女は常軌を逸した肉体改造の果てに反転に至った経緯があり、その肉体改造には他種族の肉体が使われていた、ということ。
 獣種、飛行種、海種。様々な種族から切り取られたであろう肉体を惜しみなく使われた事実は、魔種となった少女以外にも多数の犠牲者の上に成り立っていることが窺える。
 幻想王国でそんなものを調達する手段などそうそう考え難い。……となればこれを成し遂げたのは『奴隷』に関わるなにかであることは予想できる。
 ふたつ、下手人達(ここでは魔種となった『エイリス・ヴェネツィーエ』の誘拐と改造に関わった者達)はとある旅人と関わり、幻想にそぐわぬ医療技術と魔種に対する無意識の信奉を植え付けられたことが明らかであること。
 魔種に対して信奉を募らせることは(珍しいが)類例がないわけではない。ないのだが、それを旅人が植え付けたこと、自然発生ではなく自ら生み出そうと動く者の存在の2点に於いてその危険度を大いに異にする。
 果たして、武器商人(p3p001107)の情報提供を以て、『原罪のシュプレヒコール』を名乗る旅人の追跡調査、ひいてはその絶命がローレットが目指す小目的のひとつとして設定され、少数のイレギュラーズを幻想と近隣諸国へ派遣。各国での彼の足取り、及びシンパ達を引きずり出すべく情報収集を開始した。

 幻想では、佐藤 美咲(p3p009818)が目をつけていた北方貴族『イーノ・ミステ男爵家』を調査した結果、貴族家の炎上のさなかに『正義巛巛亜心』の介入を捕捉。怪王種および複製肉腫の群れと交戦。
 赤羽・大地(p3p004151)とグリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は『肉体の一部を盗む猟奇殺人犯』の噂を聞きつける。
 海洋では、アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と冬越 弾正(p3p007105)が海洋からラサへと向かう奴隷船の航路を発見。その際『『毒の乙女』レイラ』と接触。
 彼らが調べた航路によれば、奴隷船が海洋から直接ラサへ――陸路でネックとなるバルツァーレク領を回避する形で――輸送されていることが明らかとなった。
 それに先立ってシグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)が聞き出した情報が正しければ、奴隷船には海洋貴族の食い詰め者達が載せられた可能性が浮上する。
 夜乃 幻(p3p000824)ら5名ほどが人体改造に知見のある怪しい医者を特定し、これと接触するも『杉田玄黒』なる外科医の名前を引き出した段階で対象が外的要因により自爆。
 武器商人、ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)を中心とするラサ調査隊は奴隷たちの増加傾向とその内訳に不審なものを感じ取り、聞き取り調査を重ねるが複製肉腫集団に襲撃を受ける。そこに現れた鵜来巣 冥夜(p3p008218)の兄『鵜来巣 朝時』の口からシュプレヒコールとの関連性、そしてその足取りを追う為には『ヴィジャ盤』を完成させねばならぬことが告げられたのだった。

 そして、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)とエル・エ・ルーエ(p3p008216)は、深緑にて弾正の弟『秋永 長頼』に怪しい動きありとの情報を入手するのだった。
 斯くして『二つの占い』に導かれしスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)を含めた面々は、各国に現れると目される『シュプレヒコールの配下』の調査と撃破へ向かうこととなる。


「ボウヤ、ボウヤ、ドコニイルノ」
 『それ』は子供を探していた。失った子供、可愛い子供。たくさんの子供を愛せるようにその身を変えてきた『異形の母』は、いつしか母というには理解し難い外見へと変化していった。
 その有様、その末路をシュプレヒコールはくすりと笑って愛でた。
「正直、『魔種には興味がない』のだがお前は別だ。反転した後に相当に穢れを溜め込んで悪化したとはな? 『君』みたいだと思わないか」
「魔種のまま狂っただけの代物と妾を一緒にするとは、蒙昧極まる見識よな。いま一度その戯言を妾に向けて吐いたら、あとは分かるな?」
 シュプレヒコールの傍らにいる『それ』は彼の言葉にひどく心証を害したように顔を顰める。その可愛らしい所作ですら、まともな者が浴びれば形を保っていられまい。
「そう機嫌を損ねるな。私にとっては興味深い話なんだ。私も彼が気になるが、今は顔を出す時じゃない。……正義巛巛と鵜来巣も動いてくれているのなら、なおさらね」
「ボウヤ、ソコニ」
 ……ソコニイルノカシラ。
「それで、此奴は好きにさせておくのか? 聞くに、此奴は『御主の小鳥』と縁浅からぬ手合いであろ? 待てばそのうち逢えるであろうよ」
「私もそこまで莫迦ではないよ。彼が穢れて弱って疲れ切ってから、特異運命座標なんかなったことを後悔する程に痛めつけて、それで形を保っていられるかが私のみたいものなんだ」
 『ボウヤ』を求めて彷徨う異形は、唐突に姿を消した。……思念体か、或いは幻影投写の類だったのだろう。本体は別の場所を闊歩しているはずだ。
 古めかしい声音の女は、呆れたように「ほほ」、と笑い去っていく。
 残されたシュプレヒコールは、くつくつと笑いながら。
「出来れば直接逢いたいのだけれど、そうしたら彼らの調査を皆が邪魔した甲斐がない。何しろ大貴族を欺いてまで『材料調達』をしていたのが無駄になるからね。なに、反転も勿論だけど君にも興味が尽きないんだよ。膠窈(アウスグライヒ)」
 シュプレヒコールは笑っている。気まぐれな娘が戦場を引っ掻き回すその可能性を。


「大丈夫かい、小鳥? 最近は一段と……ああ、顔色が宜しくないようだけど」
「大丈夫だよ紫月、ちっとも――つらく、ない」
 武器商人(p3p001107)に支えられながら歩いてきたヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)の目は酷く虚ろな様子をしていた。見るからに気力が減退している、睡眠不足が続いている、とは周囲に漏らしていたが、シュプレヒコールに関する調査からこっち、それが更に悪化していることは誰の目から見ても明らかであった。
(最近、また『あの夢』を見るようになった……随分昔に見なくなったと思ってたんだけど)
ヨタカが不眠を患っているのは、シュプレヒコールの記憶以外にも理由がある。ここ数日、ずっと悪夢を見続けているのだ。
 それは初めての出来事ではない。過去に見た『親を装った親ではない何か』の夢。その背後に見え隠れする異形に、彼は悩まされ続けたのだ。
「大分やられてるようだね……相当タチの悪い相手に目をつけられたのかな」
「確か、傭兵で似たような事例が起きているんだった……か? そちらにあたってみるつもりなのだろう?」
 赤羽・大地(p3p004151)とシューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は前回の調査で2人と別行動を取っており、幻想の事情は心得ている。が、ラサでの出来事は伝聞と報告書の情報に留まっており、且つ報告書でも触れられぬ異常には明るくない。頼りになるのはヨタカの証言だが……。
「皆さん、こちらにいらしたのですね。少しお時間を頂戴しても?」
 そこに顔を出したのは、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)。さきのイレギュラーズの調査結果を受け、追跡調査を行っていたのである。こころなしか慌てた様子は、ヨタカの顔を見て落ち着いた様子でもあり。
「日高の方、慌てすぎじゃないかい?」
「それは、まあ……ヨタカさんの『悪夢』の話を基に調査を進めたら、過去の幻想と現在のラサで似たような事件が散発的に起きていたので……」
 武器商人の訝しむ言葉に、満は肩をすくめて応じた。4人の空気が一気に引き締まったのは明らかだ。
「詳しくはこの調査報告書を。現在、特に衰弱が激しいラサの被害者の子達を一箇所に集めるよう手配していますが、行方知れずの子供も大勢おります。今までの事例を鑑みるに魔種の仕業でしょうから、十分に注意してください……それと、ヨタカさん。貴方は『あの男』のターゲットですから、依頼に介入がある可能性が十分考えられます。ご注意を」

GMコメント

 <Sprechchor op.Ⅱ>(シュプレヒコール:オーパスツー)、いよいよ開始です。
 こちらはふみのがひとりで回すと軽く命に支障をきたすので気鋭のGMの皆さんとの散発依頼となりますのでよろしくおねがいします。

●成功条件
・『異形の母』20ターン以内での撃破or撤退
・(上記ターン経過時)『異形の母』撤退以上、『アウスグライヒ』相手に5ターンの間、過半数の重傷を免れる
・(オプション)『ボウヤタチ』の可能な限りの生存

●異形の母
 『色欲』の魔種。もと人間種。
 発生時期は定かではないが、シュプレヒコールの興味が薄い点から推察するに彼が反転に興味を見出すより前であると思われる。つまりかなり前。
 人間だった時の記録は残っていないが、幻想およびラサに於いて『複数の手による握り込んだ痕』『母乳に親しい液体の付着痕』などを持つ子供の死体が過去から複数報告されていた。
 ほか、詳細不明であるが長きに亘って存在していたことにより「理解不能なほど広範への精神干渉、および干渉対象の位置特定」が可能であるようだ。
 精神干渉の影響として見る夢の確度によって異形の母が対象を辿りやすくなり、『可愛がろう』とした結果殺害してしまっている、と推察される。
(ヨタカは過去に干渉を受けていた際『シュプレヒコール事件』、そして召喚を経ているが、現在また干渉を受けていた様子である)
 4mもの巨体であるが動きは素早く、多数の手により連続行動を可能とする。
 現実に干渉するほどの強固な魔眼(神超単)、腕を伸ばしての薙ぎ払い(物中扇)、声による精神干渉など多彩な攻撃手段を持つ。
 『ボウヤタチ』全滅後数ターンで撤退する。

●ボウヤタチ×15
 異形の母の精神干渉により洗脳された身寄りのない子供たち。これは『知られざる航路』で連れてこられた奴隷達も混じっている模様。
 ゆえに種族はさまざま。戦闘能力は洗脳によりリミッターが外されているためそれなりに強いが、神秘や戦闘技術の心得は非常にバラつきがある。
 耐久力はブーストされてはいるが子供相応であることに注意されたし。

●アウスグライヒ
 詳細不明。PL情報としていくつか開示されていると思うけれどもそれを差し引いても謎が非常に多い。
 高圧的な口調で話す。20ターンもの間強力な魔種と立ち会ったあとに戦闘に持ち込んでいい相手では(本来は)ない。

●戦場
 夜の砂漠。周囲に街やオアシスはないため子供達を生かした場合の搬送手段も要検討である。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <Sprechchor op.Ⅱ>カワイイボウヤ完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年01月23日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
雨宿りの雨宮利香
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸の魔術師
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
ノブレス・オブリージュ
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
ラムダ・アイリス(p3p008609)
咎人狩り

リプレイ


「まさかまた彼女に夢を乗っ取られるとは……はは、どうやら物好きなようだ」
「害虫めが。懲りずにまた集ってきたか」
「死霊術師としちゃア、幻想のスラムで聞いた話……身体の一部が無ェ死体に興味が無い訳じゃあないガ……こっちの方ガ気がかりダナ」
 『断片の幻痛』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)は陸鮫に体を預けるようにして、なんとか砂漠を進んでいた。夜の砂漠。冷徹と静寂の間にあるこの地は、睡眠不足で歩むには過酷にすぎる。『闇之雲』武器商人(p3p001107)もずっと体調が優れぬ彼の身を案じ、『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)――『赤羽』の側も、個人的興味を差し置いて先ず付き合いの長い仲間の安全を優先するのは、至極当然の情動といえるだろう。
「謎は解きたいけれど、それ以上に、皆に悪い事が起きなければ良いが」
「今回の依頼でシュプレヒコールの勢力をそぐことが出ればいいのだが……とはいえ、無理をして全滅しては元も子もない。とりあえず今は異形の母にはその場を去ってもらうとしよう」
 大地の言葉に、『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は静かに頷きつつ眼前の、砂漠の奥から漂う異様な気配に顔を顰めた。情報は聞き及んでいるが、魔種としても異様といえる姿に変わった相手を思えば、倒そうだの勝とうだのと望みを振りまいてはならぬと感じた。最優先は生存。そのうえで相手の撤退、あわよくば撃破。シュプレヒコール一派の介入は避けたい気持ちが最上段に控えている。
「ボウヤ……カワイイボウヤ……」
「私から特に貴女にかける言葉は、ありません。ただただ、哀れですね……それだけです」
「……本当に悪夢のような造形だな。自分が愛したいだけで子供のことなど見てもいないように見える」
 悪夢的な巨腕を背負い、全身の目がくまなく周囲を見張り、複腕が伸び上がり宙を掻く。ヨタカの方をみているようで、その実何処を見ているのかすら定かではない。胸に垂れ下がった肉塊を乳と呼ぶのは憚られよう。『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は、その哀れすぎる姿に思う処などない。哀れな姿には哀れな末路が似合いであろうとは、思ったが。
 『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)もまた、その姿に驚きというよりも純然たる嫌悪を向ける。愛を与えるだけ、見返りを求めない。それは美しくおもうが、単純に双方の求めるものを度外視して伸ばされた手が何を為すか、まるで考えていないがゆえの死体の末路だったのだろうと推察するのは容易であった。
「オカアサン」
「ドコニイルノ」
「イヤダヨ」
「子供を洗脳するとか質が悪いね……やりづらいったらありゃしない」
 夢を侵され心を呑まれ、子供達は『ボウヤタチ』となった。『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)はその姿に強い嫌悪感を示す。示さぬ道理が果たしてあろうか? きっと彼らは、洗脳が解けても帰る家がないのかもしれないのに。よしんば彼ら彼女らの家が割れても、先方が受け入れるとは言い切れない。『そのための奴隷だとすれば』なおさら。
「可哀想な可愛そうなおかーさん。子供が沢山取られてしまう。大好きだったのにね、大切だったのにね? 私達はきっとあなたからは赦されないのでしょうね」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は謳うように異形の母の不遇を嘆き、弄ぶようにその嘆きを受け容れる姿勢をみせた。魔種に対して強い憎悪、或いは英雄的な敵意を持ち合わせる大半のイレギュラーズに反し、彼女は魔種に対して際立った敵愾心を持ち合わせていない。心変わりの果てに『そのまま』ではいられなかっただけの哀れな相手。愛すべき隣人『だった』相手。今での手を差し伸べられると信じている者の目で、異形の母を見ていた。
「彼らは……俺と同じ、物心をついた時に親から愛を貰えなかった子供達だ。しかし彼らは何も悪くない、操られているだけだ。出来れば多くの子供達を助けたい」
「その通りだ。あんな化け物にまだ未来のある子供たちを殺させるわけにはいかない」
 ヨタカは弱々しい声でこそあれ、明確な決意を隠すことがない。純然たる犠牲者である子供達をあの手から引き剥がす。それはイレギュラーズの総意と言えよう。シューヴェルトも彼の言葉に同意を返し、正面に居並ぶ彼らに憂いを含んだ視線を送った。
「……ボウヤ、コッチヘオイデ。ワタシノボウヤ」
「──貴様のボウヤじゃない、我(アタシ)の小鳥だよ。その腕、全て炭にされたくなければ口を噤め」
 異形の母の声に、武器商人は激しい憎悪を籠めてそれを睨んだ。その敵意を嗅ぎ取ったのか、異形の母は髪を振り乱し殺気を膨れ上がらせる。子供達も各々、拙い手付きで武器を手に取り、じりじりと一同と距離を測る。
 4分あまりの間に全員を倒し、魔種を撃退し撤退する。簡単とはとても言えまい。
「まったく、ボクも甘いね?」
「哀れな子らを寝かしつけるのが大人の役目です。『そんなもの』ですよ」
 背後に控えさせたゴーレムを一瞥し、自嘲気味に呟いたラムダに利香はいたずらめかして返した。
 いたずらでは済まぬ末路に至った相手を、止めるために。


「精霊達、一緒になりましょう。私とひとつになって踊りましょうね♪」
 フルールの言葉にあわせ、その全身は焔に包まれる。ひと呼吸の間に赤熱の異形へと姿を変えた彼女から、破邪の閃光が放たれ、子供達の意表をついた。
 続けざまに放たれたアネモネの幻影は、数名の子供の希望を花のように摘み取り、動きを鈍らせる。大地は術式が通ったのを確認すると同時に、着弾寸前に範囲から逃れた者の姿も見逃さない。
「子供だけに、すばしっこいな……猫みたいナ動きしやがル」
「操られているだけあって常軌を逸した動きだな。長期戦になったら彼らの肉体も危ういか」
 赤羽の舌打ちを耳にしつつ、シューヴェルトは冷静だった。子供達の動きを把握し、飛び退った子供の着地点目掛けて呪詛の刃を振り抜いたのだ。態勢を崩し蹈鞴を踏んだ少年をすりぬけた斬撃は、そのまま異形の母の肉も切り裂く。威力は相応、一瞬の暇を作るには足りたか。
「ウウ」
 僅かな痛みに苛立ちを覚えた異形の母の眼光が、シューヴェルトを射抜く。憎悪を形にしたような一撃を正面から受け止めた彼は、異形の母に対し強烈な敵愾心を揺さぶられた。
 続けざまに放たれた異形の咆哮は、すわ攻撃かと身構えた者達の意表を突き、有意な傷や被害を生み出さない。が、子供達の眼光により強い願望、あるいは敵意が生まれたのを見逃す者はいなかった。
「異形の母……貴女は俺の母上じゃあない。君達だって、その人は母親じゃあないんだ」
 ヨタカは陸鮫から身を持ち上げ、ヴィオラの弓を操っていく。異形の母の咆哮を中和するかのように流れ出す調べは、避け遅れた子供の膝をつかせ、一歩の歩みすら制限する。鈍った動きは、そうすぐには回復しないだろう。
「アア、ボウヤ」
「その腐った目で小鳥を見るんじゃないよ、長虫」
 ヨタカに改めて視線を向けた異形の母の前に、武器商人が立ちはだかる。少し前までは飄々とした姿勢を崩さなかったその目には、いま煌々と怒りの炎が灯っている。或いはその身に宿した某かの意思か。視線を切って正面に踏み込んだ姿は、無視できぬ威圧感を湛えている。
「夢ならば、私も見せてあげられますよ?」
 そして、両者の動きが止まった一瞬に潜り込むように歩を進めた利香の声が、異形の母の周囲の子供、そして本体の耳朶に滑り込む。呼気とともに吐き出された魅了の魔術は、周囲の者達に抗いきれぬ敵意の亢進を促した。少なくとも、最大の脅威をいっとき足止めすることに成功したと言えるだろう。
(全くの無意味にはなりませんか、助かりました……けれど、油断は禁物ですね)
(雨宮の方が作った時間は無駄にしたくないねぇ。でも、私(アタシ)はこの虫を逃さないことに注力しないと負けかねないか……?)
 利香に激しい憎悪を向ける異形の母の攻撃は、なんの工夫がなくとも苛烈であることは目に見えて分かる。そして、それを凌ぐ利香の実力が度し難いものであることも、長らく戦いをともにしてきた武器商人にありありと伝わってくる。であるからこそ、僅かな切掛で均衡が崩れかねないことが理解できた。
「……甘く熱く、そして昏い悪夢を」
 利香の負の夢魔術が向かってくる子供達に突き刺さり、動きをなお単調に、且つ鈍くさせる。それでも倒れないのは恐らく、洗脳されながらも距離をとり、仲間達に術式を振るう飛行種の少女の存在があるからか。貴族の仕立てであろう衣類は煤けて汚れ、目には光のひとつもない。だが、鼻血を垂らすほどに身の丈に合わぬ魔術量で以て仲間を助けようとする姿は、洗脳によるものだけとは考えたくない。
(ああいう『いい子』を見ていると苛々しますね。誰かを見ているようですし)
 お行儀がいいのに、やっていることが無意識と悪徳に根ざしている。利香はそういう手合いに少しだけ敵愾心を覚え、すぐに思考から振り払った。
「皆、ボクが治すから気にせずやって! ボクだって自分のことくらい守れるさ!」
「大丈夫だ、癒し手は自分が守る。気にせず治療に専念してほしい」
 治癒術を振るい、次々と仲間に増えていく傷を癒やすラムダの負荷は相当なものだ。それでも足を踏みしめ、向かってくる子供達を前に身動ぎせず構える姿は確かな矜持を感じさせる。グリムはラムダを守るように立ちはだかると、光の翼で以て癒やしと痛打を兼ね備えた術式で子供達を迎え撃つ。
 1人ふたりなら、いい。15人もの子供達が、場合によっては治癒術すらも使いこなし、恐れも知らず波濤の如く押し寄せる。
 殺さぬ決意の下に振るわれる技量は決して拙くはないが、それでも子供が傷つく姿は本物だ。
「考えても見ろヨ。心から子供を慈しむ母ガ、抱き締めるための腕で子を絞め殺したりなんかするかヨ?」
「可哀想ね。そんな愛し方しかできなくなっちゃったなんて。でも大丈夫、この子達は私達が連れ戻すのだから」
 赤羽の諭すような声は子供達にはとどかない。響くのは彼の放つ幻影術式ぐらいのもの。けれど、それは確実に子供の動きを止め、洗脳から解放する力を持っている。フルールの放つ術式とて同じだ。子供のなかに治癒の心得がある者が控えているなら、それごと愛の鞭で叩き伏せ、連れ帰るしかないのだ。
 時間が流れる。無情に吹く砂漠の夜風は、イレギュラーズも、魔種も子供達も等しくその体力を削り取る。シューヴェルトの陸鯱が倒れ込んだ子供を拾い上げると、大地の移動図書館とラムダのガルガンテュアとの間を行き来しながら回収する。その姿に、異形の母が怒りを覚えぬ筈がない。加速度的に苛烈になる攻め手を凌ぎ、捌いた武器商人は膝を屈し倒れ落ち……る、直前。操り糸で引き上げられたかのように起き上がり、異形の母に掴みかかる。
「紫月!?」
「どうした長虫。お前の子供は居なくなったぞ」
 身を削って、運命に頼らず立ち上がったその姿は何度見ても心がざわめく。ヨタカの叫びに応じるように、煮えるように吹き上がった焔の如き一撃が異形の母の腕一本を引きちぎる。それは度重なる利香の術式が打ち込まれた場所であり、武器商人が確りと確認していた部位である。
 欠損は治らない。再生能力にさほど秀でていない異形の母ならなおのこと。
 人の言葉を解する能力を失ったソレであっても、周囲の子供達が、『ワタシノボウヤ』が、ひとり残らず消えている事実を認めるのは厳しい。
 イレギュラーズの多くは相応の治癒術を受け、立つだけの力が残っている。ややもすれば、この異形を制するだけの余力はあろう。だが、武器商人もヨタカも、そして異形の母ですらも、何かの気配を察している――目に見えぬ距離で用いられたスキルの残滓。砂漠の静寂を割いて近付く気配、禍々しい悪意。
「ヒ――」
 それに対し、劇的な反応を示したのは誰あろう異形の母。イレギュラーズの追撃で更に腕、そして尾や乳房をちぎり取られた痛みや屈辱を差し置いて、それは砂漠からの逃走を図ろうとした。
「いかんのう、御主はシュプレヒコールから『あれ』を授かっておろう。その腐り落ちた母性でも忘れてはおらなんだろ?」
 遠くから聞こえた童女の声が響くのと、異形の母の全身に賽の目のような筋が走り、刻まれたのとはほぼ同時であった。


「シュプレヒコール奴(め)、とんだ詐話師よ。何が『哀れで醜い私の小鳥』か」
 宙に引っ張り上げられた異形の母が寸刻みに、宛ら数多の肉賽子になるのはほぼ一瞬のことであった。一連の出来事の間、声の主である娘が行ったのは無手にしか見えぬ左手を2度、前後に振っただけの雑な所作だ。結果だけを見ればそれどころではない数多の動きが介在している筈だが……。兎角、あれは危険だと思わせる存在感がある。
「のう、小僧っ子。御主が小鳥……ヨタカというたか。そうであろ?」
「口を開くな異形。その形でなんだその有様は」
「新手ですか。ここは私が引き受けましょうか」
 膝立ちで荒い息を吐くヨダカに語りかけたそれの言葉に、武器商人と利香はどちらともなく前に出る。片や倒すために、片や逃がすために。
「まだ、名前も聞いていなかったのに……」
「このタイミングでお出ましとはナ。少し急かしすぎだロウ」
 フルールは細切れにされた異形の母の姿に愕然とし、新手の娘を睨みつける。赤羽は興味深げな言葉を餌にしつつ、移動図書館に視線を向けた。早すぎる。回収は終わっているが、撤退までの暇乞いができる相手だろうか?
「全く、御主等は、むしろ近頃の特異運命座標とやらは手が早く堪忍袋が小さくてならん。妾はそこな母性くずれが約定違いをせなんだか、そして御主等が此奴を退けられぬ『足らず』でないかを見極めにきたのだ。何方も違えれば寸刻みにするつもりであったのだ。ほれ、」
 娘が小指を軽く引くと、肉塊から石片らしきものが引きずり出され、放り投げられる。それは、死闘の末に立つ力すら乏しいラムダの足元に転がった。
「御主、魔力の流れをみるに治癒師であろう。小僧奴等が地を舐めず立ち果せたのはその手練か……退屈な者よな。その石塊、『ヴィジャ盤』というたか。その破片をくれてやろう」
「何のつもりだ。シュプレヒコールの名前を出すくらいなら、君は僕達の敵なのだろう」
「話を聞いておらなんだか優男。妾は賞罰相等しく在るべきと考えておる。『足らず』でないなら妾が午睡を楽しむ合間くらいは生きる価値を見出しても佳い。それにあの詐話師が少しくらいその面を崩すのを見るのも一興よ」
 娘はシューヴェルトの問いに肩をすくめて返すと、不満をぐちぐちと漏らす。やれ旅人は反転せぬ、やれ特異運命座標は我の手に従わぬ……と。
「用はそれだけですか? 私達、そろそろ帰りたいんですよ寒いので。名乗りもしない人の相手をするほど暇じゃないです」
「おお? 名乗り忘れておったか。妾はアウスグライヒ、御主等の言葉に倣えば『傲慢の膠窈』である。要件はそこの虫めの不始末の片付けと、もう一つ。ほれ小僧、取り落とすなよ」
 娘――アウスグライヒはそう告げ、極めて軽い所作でなにかを放った。利香が前に出ていたのは幸運だった。彼女でなくば、その戯れに放られた結晶体に体を貫かれたであろうから。尤も、彼女であってもその掌を半ばまで貫かれたのだから威力たるや凄まじいものを秘めている。
「水晶……ダウジングストーンですか?」
 なんのために、と口にするより早く、アウスグライヒは姿を消していた。利香の手の中で水晶が、そしてラムダの眼前ではヴィジャ盤が、それぞれ怪しい輝きを放っている――。

成否

成功

MVP

ラムダ・アイリス(p3p008609)
咎人狩り

状態異常

シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)[重傷]
ノブレス・オブリージュ
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)[重傷]
孤独の雨

あとがき

 今回獲得したアイテムはそれ自体に効力はありませんが、今後重要な役割を担います。忘れずに取っておきましょう。
 アウスグライヒの登場は今回の『条件クリア』時の方がやや獲得情報は少ないですが、それでもべらべら喋ってる感がすごいありますね。果たして今後どんな展開を迎え、どのような着地点に至るのか……どうぞお付き合いいただければ幸甚です。

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