シナリオ詳細
再現性東京202X:慕う色は白よりも
オープニング
●白い想いに滲む黒
世界は白きものに地を覆われる日々を迎え、過ごす事が増えていく。
窓から雪原を眺めながら、少女は息を吐く。一瞬で曇る窓の一部。
外を見つめる彼女の視線の先にはまだ踏み荒らされていない雪が煌めくばかりで、それを見つめる彼女はうっとりとしている。
白は良い。何者にも汚されない純粋な色だから。
故に、それを踏み荒らす輩には嫌悪感を覚える。
何も知らぬ汚れなき雪原につく足跡が嫌い。
また、それを壊す輩も許せない。
あの汚れなき白を手折ろうとするなど以ての外だ。
少女はもう一度窓に息を吹きかけ、範囲を広げる。
曇った窓に指先を滑らせて、綴る。
慕う者の名を。
誰にも奪われたくないと願う、彼女が想いを寄せし者は……。
●果たして灰色は戻るか進むか
希望ヶ浜学園に通う生徒達の間に、とある噂が流れていた。
『机に造花の白百合が置かれた生徒は数日の内に怪我を負う』。怪我の程度は様々、対象は初等部から高等部までと幅広い。一見すると脈絡が見えない。
が、彼らには共通点が一つだけ存在した。ある女生徒に接した、というだけ。それも、立ち話や複数名での買い物という些細な接点で。
当の女生徒は挙げられるような問題がある者ではない。校則に違反するような風貌でもなければ事件も無く。かといって美少女という程の可愛さを有している訳でもない。
セミロングの艶やな黒髪を後ろで纏め上げ、化粧っ気の無い整った素肌にパッチリした目。平均的な顔の少女は、誰にでも優しく微笑み、困っていれば迷わず手を差し出す、聖女のような生徒だ。
そのように優しい彼女であるからこそ、憧れとしての対象に据えられる事も多かった。
如何に彼女が礼節と慈愛に篤き者であろうと、あらぬ噂と避ける人々が増えれば感情に陰りが見えるのも必然。
そんな彼女を、怪しい笑みとともに見守る影がひとつ。
「もっと、もっと孤独になって……だぁれも居なくなったら、あたしだけを見てくれるよね?」
孤独であってほしい。私が彼女に近づけるように。触れられるように。
近くまで、『堕ちてほしい』のだ。
だから教も彼女は、白百合の花を手に歩く。
●色の観測者はヨルとなり
再現性東京202X街・希望ヶ浜学園。ローレット・イレギュラーズはこの学園に於ける生徒もしくは教師として日常を演出している。
彼らが事件の解決に乗り出すときは、カフェ・ローレットで、もしくはaPhoneによって、情報屋から依頼を受けた時である……然るに『噂だけでは動かない。当人の依頼がなくば』。
「助けてほしい」
簡潔に告げた依頼主――百々瀬 合子(ももせ あいこ)の憔悴しきった顔に、『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)は制服のスカートを直しつつ席に付き、彼女と向き合った。周知の事実であるが、ほむらは男だ。合子はその点を理解しており、あらためて己の護衛を依頼したいと告げる。
「噂は聞いてるよ。合子さんに近付いた人を狙ってるから、自分も危ないってことだよね。……うーん……」
「なにか?」
考え込むほむらの顔を覗き込む合子。何事か、自身とは違う結論に達したのだろうほむらの目に憂いの色を覚えた合子に、しかしほむらは深く告げずに立ち上がる。
「とりあえず、依頼は受けるよ。私の考えが正しければ今日には犯人に会えると思う」
首をかしげるばかりの彼女を連れ、ほむらはイレギュラーズとともに護衛という形で彼女の周囲についてまわることとなる。……つまり、合子と彼らの接する時間が長いということだ。
「ほらね、この通り」
「え……っ、どういう事ですか?! 私の近くにいたのは皆さんだけじゃないのに、寧ろ私へじゃないなんて」
当日放課後。相談を受けたのが昼として、半日経たずに投げかけられた『犯行声明』を前にほむらはしたり顔で、合子は動揺露わに問う。
「つまり犯人は合子さんに近付いた相手が許せないんだよ。その時間が長いほど優先度が増す。親しい相手を遠ざけたい……だから、そう」
ほむらが何度か頷きつつ説明をして、合子を置いて廊下に出る。正解は、彼らの目の前に。
「下賤な輩が百々瀬さんと仲良くしてるなんて! 許さない!」
ボブカットをした黒髪にシンプルなカチューシャをつけ、校則に則った丈のスカートを履いた、一見真面目そうな少女の姿。高等部の人間なら、白木某という特徴のない女生徒であることが分かろうか。傍らに双子のような、しかしカマキリの手をした人影を携えた姿があるのを見て取れば、夜妖憑きであることは明白だ。
「なんで私達を襲うのかな? 念の為聞いてもいいかな」
「百々瀬さんが汚れないように守る為よ!」
『ねえ、罰を与えちゃう? 教室の中のあの子にも』
「だめよ『風切り』。百々瀬さんは傷つけちゃだめ。この人達を排除すれば、あの人はまた白く輝くの」
ほむらに激昂とともに応じた白木は、傍らの夜妖、『風切り』と呼ぶそれに恍惚とした様子で告げる。『風切り』はその狂気じみた言葉に笑みを返すと、両腕の鎌を振り上げ、風と共にカマキリの幻影を数体生み出す。
『ワタシは切るのがだぁい好き。アナタ達と「百々瀬サン」の縁も切ってあげるぅ』
「……だってさ」
風切りの口ぶりに呆れたように、ほむらとイレギュラーズは得物を構える。白木もまた、懐からカッターナイフを取り出し両手で握りしめた。
窓を締め切った廊下に風が舞う。これから始まる騒乱をより激しくするかのように。
- 再現性東京202X:慕う色は白よりも完了
- GM名古里兎 握
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月21日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
夕刻を示す橙色が廊下を染める。
窓を閉め切った中で起こる風が、イレギュラーズと合子の頬を撫でた。
廊下の奥には白木という名の女子と、風切と呼ばれた夜妖、それから夜妖の分体であるカマキリ達。
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は結界を展開させると、連れていたジャイアントモルモットに合子と共に居るようにと話す。
「合子お姉さんは教室の中にと、リチェと居た方が安全だと思うのよ。
だから、出来るだけそこから出ないようにしてほしいわ」
念押しの言葉に頷くのを確認して、キルシェは仲間との距離を確かめる。自分の支援範囲に仲間達が居る事を確認し、いつでも傷を癒やせるように準備する。
ジャイアントモルモットのリチェが合子に寄り添う。キルシェが一人と一匹の前に立ち、その横に並ぶようにして『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)がも立った。巨大なメイスを両手で持つが、その先端には砲撃する為の口がある。カマキリ達へと狙いをつけたまま様子を見るブランシュ。
まずは、数のある分身体にとイレギュラーズの内数人が動き出す。真っ先に口を開くは、『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)。
「フェルディン・T・レオンハート! 騎士として夜妖達を討伐させてもらう!」
カマキリ達の視線が彼に向き、同時に白木や夜妖も視線を向けるのだが、その中で白木だけが顔を曇らせる。
「何それ。コスプレ?」
両手で持つ仰々しい大剣に、意匠を施した鎧。この地の人々から見れば騎士のコスプレと思われても仕方ないが、今はそれに反論する余裕は無い。
彼女の動きがカマキリ達に最悪のものをプレゼントする事を、カマキリ達が実感するのはもう少し後の事。
『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)が矢を放ち、カマキリ達の進もうとする動きを一時の間制止する。出鼻をくじかれたカマキリ達が忌々しげに手足をすりあわせ、不快な音を奏でた。
イレギュラーズ達へと害をなす不協和音。実際、意識が朦朧としそうになるのも何名か居て、様子に気付いたキルシェが祈りの雨を注ぐ。
突然降り出した雨に、合子だけでなく白木も目を見開く。
「何なのよ、それ……!」
「精霊たちはどこにでもいるのよ」
白木の漏らした声に、『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は返す。自身の胸元に無限の紋章を、口元に不敵な笑みを浮かべて一歩を踏み出す。それから、楽しげな声を響かせた。
「さぁ、新年早々ひと暴れしちゃいましょ!」
廊下の奥から向けられる敵意。夜妖と同等かそれ以上の殺意を孕んだ白木の視線は、オデットから『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)へと移っていた。
それに気付いた『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)が小声で彼女に問う。
「あなた、彼女に何かしたの?」
「ちょっとした秘策が当たったようなのです」
「……そう。狙われる役を担うのはいいけど、無茶はしないでね」
神妙な顔をして頷くノリア。
実のところ、秘策というよりは逆手に取った策を講じたものだ。『秘密を分け合う』というその策は、白木のような相手には効果的であった。
どんな秘密を分け合ったかは、後ほど判明するので今は割愛するとして。
キルシェが後方を見やる。ジャイアントモルモットであるリチェと共にいる合子――――を見る振りをして、イレギュラーズの遙か後方に位置する『至天鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)の姿を視界に捉え、いつでも攻撃を放てる準備が出来ている事を知る。
ェクセレリァスの狙いは本体である風切だ。その邪魔にならぬよう気をつけなければならない。
合子とリチェを巻き込まぬように動きを調整しなければ、とキルシェは拳を強く握って前方と後方への注意を払う事に意識を向けた。
散開し、イレギュラーズに向かうカマキリ達へ、レオンハートが切り込む。
「このフェルディン・T・レオンハートに挑むか!」
二度目の名乗りを上げた彼へと注意を向けた一体に、大剣を振るう。
カマキリの体の動きが鈍くなるのが見えた。回避しようとした様子だがそれは適わず、剣撃をその身に食らう。片腕を切り落とされたカマキリの口から金切り音がした。
ステップを終えたヴィリスが冷ややかに見つめる。少し特殊なブーツにてステップを踏んだ踊り子の演目は、カマキリ達に贈る呪いのタランテラ。
他にもいるカマキリを含め、次に彼らを襲うのは熱砂の嵐。オデットが巻き起こしたそれは、範囲の端の方とはいえ、白木や夜妖にも累は及び。
「きゃあ!」
突然の嵐に見舞われてもなお、カッターナイフを落としはしない。敵意の強さを見せる彼女の手からそれをはたき落とすは誰の手か。
嵐によって舞い上がり、天井に叩きつけられたカマキリ達は、下降してくると空中でゆらゆらと揺れる。
やられてばかりではいられぬ。
そう言わんばかりに、カマキリの一体が突風を起こす。
イレギュラーズがそれ以上近付くのを阻もうとした風は、事実、足止めの役割を果たした。
レオンハートが後退し、突風を起こしたのとは別のカマキリが彼に襲いかかろうとするが、叶わず。
何故ならば、ブランシュの持つメイスから放たれた無数の弾丸が廊下を縦横無尽に跳ね回ったからだ。
あちこちを飛び回る様は嵐のよう。それはカマキリ達の体や刃を傷つけていく。
クルルが放つ弾幕も加わり、カマキリ達に襲いかかる。
「悪いけど、倒させてもらうよ」
「そうですよ! 邪魔はさせないのです!」
クルルの言葉にブランシュも言葉を重ね、カマキリ達への攻撃をやめない。
弾丸の嵐が収まった後に残るのは満身創痍のカマキリ達。
後方からェクセレリァスの狙撃が当たる。
「なかなかしぶといわね」
ヴィリスが零し、光を放つ。如何に素早く動けるカマキリといえども、満身創痍にまで追い込まれては動きも鈍くなる。狙いを外す事なく、神聖な光がカマキリ達を焼いた。
裁きを受けたカマキリ達が消える。
『あらぁ』
風切が両手を擦る。
『面白くないわねぇ』
表情に嫌悪を滲ませて、イレギュラーズを睨む。
奇しくも、隣に立つ白木も同じ表情をしていた。
●
イレギュラーズから相当の距離を取ったェクセレリァスは手に持つ武器を構え直す。一応擬態人化状態ではあるが、その身は空中に浮かんでいる。
遙か先に見える、女性にカマキリの手をつけた夜妖の姿。隣に立つ同じ顔の女生徒。
「一方的に押しつけるのはちょっとね……」
それは愛ではない。愛であればもう少し他者を思いやれるはずだ。
つきたくなる溜息を堪え、ェクセレリァスは前方を睨む。
今はあの本体の夜妖を叩くのが先なのだ。
後方をもう一度見やったブランシュは、百々瀬の無事ならびに、彼女とリチェが一緒に居る事、そして更に後方にェクセレリァスがタイミングを測っている事を確認する。そして再び廊下の奥を見る。
白木と同じ顔、同じ表情でイレギュラーズを睨みつけてくる風切。
ブランシュがその手に携えた武器は夜妖の方を向いている。
(どうして彼女は百々瀬さんに近づいた人を襲うですよ……? 何の関係性も無かったですよ?)
彼女の言葉の意味も分からない。人の思いは計り知れない、と聞いた事はあるが、未だによく分からないのだ。
それを知る為に、ブランシュは走る。夜妖に一撃を与え、一刻も早く白木と話をする為に。
風切が応戦すべく両手の刃を振るう。衝撃が空を裂き、先陣を切っていたレオンハートやブランシュがそれを受け、腕や足に傷を負う。鮮血が勢いよく吹き出し、それを見たキルシュが二人を癒やす。
そこへ飛ぶェクセレリァスの一撃。風切を狙って撃ったそれは、彼女の脇腹に当たる。
顔をしかめる風切の横を通ろうとノリアが動く。彼女を通すまいとする風切の刃を阻止する剣の靴。ヴィリスは風切を冷ややかに見ながら思いを吐き出す。
「恋する女の子を唆すだなんて許しておけないわ。人の恋路を邪魔する輩はプリマの義足で蹴り飛ばしてあげる!」
『やってみなさいよぉ』
嗤う風切。
その刃はヴィリスの腕を狙う。
かろうじて掠った程度で済んだ彼女の横から、ェクセレリァスの一撃が飛んで、風切の右手に当たる。刃先が折れ、舌打ちする風切。
残った左手がヴィリスへと振るわれようとしたが、それは今度はクルルによって阻まれた。
気力体力共に十分な彼女は弾幕を展開する。終わらざりし進撃のそれは風切を執拗に狙う。
『ちぃっ』
忌々しげに呟く風切の横を、ノリアとレオンハートがすり抜ける。
ノリアが向かうのは白木の所だ。当の白木はノリアに向ける敵意を弱める事もなく、むしろカッターナイフを握り直してノリアに応戦しようとしている。武器だけ見ればレオンハートの方が危険なのだが、彼女にとってはそれよりもノリアに対する殺意の方が高いらしい。
(思った以上、です……!)
彼女が先程ヴィリスに端的に伝えた秘策は、予想以上に白木からのヘイトを集めたようだ。
秘策といっても、単純な事。百々瀬合子と、とある秘密を皆に隠れて共有する。それだけ。 その秘密について判明するのはもう少し後だ。
共有する事で親密さはより醸し出される。その様子を放課後までに周囲へ見せつけてみたのだが、白木はそれを見たのだろう。
「百々瀬さんに近付くなんて……」
歯ぎしりしそうな程に顔を歪ませ、白木はカッターナイフを振るう。
動きは素人そのものであり、それをかわすのは訳もないが、ノリアはそのまま進んだ。水の球体に包まれた彼女は容易に触れれば反撃が来る。
現に、白木が振るったカッターナイフが球体を傷つけると、棘状の反撃となって白木に跳ね返った。短い悲鳴を上げて後ずさる白木の腕には棘で生じた裂傷が走っている。
「風切! こいつらを何とかして!」
『悪いけど、こっちはこっちで精一杯なのよ!』
白木の命令に対し、風切は余裕の無い声で返す。
夜妖の方はヴィリスとクルルへの対応で一杯のようだった。合間にェクセレリァスやブランシュの一撃も来るのだから面倒な事この上ない。
口から吐き出した息で刃を作り、空中に舞わせてイレギュラーズを傷つけるも、すぐに仲間が癒やす。そうしている間にも連携を取って風切を追い詰めにかかってくるものだから、次第に劣勢へと追い込まれていく。
「さっきまでの余裕は無くなったようだね」
後方から一撃を打ち込むェクセレリァスが呟くが、それは前線に届く事は無い。
隙を見て、もう一撃。
風切と呼ばれた夜妖の命は、風前の灯火となりつつあった。
近くでそれが見えているのか、白木が焦った声を出す。
「なんでよ! 風切は強いんじゃないの?!」
「何にだって限界はあるんだよ」
レオンハートが冷静に返す。
殺意の高い彼女へ剣を振るおうとするのをノリアが手で制する。
何か策があるのかと手を止める彼の前で、彼女は白木と対峙する。真剣な目で見つめつつも、隙だらけのような様子に、白木はカッターナイフを再び構えた。
ノリアが動く。それは攻撃ではない一手。
解いた変化。人から人魚へ。水の球体の中で漂う、尻尾はつるんとしたゼラチン質のもの。
「は……?」
驚く白木。後方に居る百々瀬は逆にその姿に困惑する様子は無かった。
ノリアが百々瀬と共有した秘密が、これだ。ノリアが人魚であるという事。
イレギュラーズであれば周知の事実であるが、この地で暮らす人々には馴染みが無い。意表を突くのに成功する確率は高く、実際、有効であった。
「白木さんも、これが、食べたかったんですの……?」
彼女の質問に対して困惑気味の白木の隙を突き、レオンハートが剣を振るう。慈悲の一撃により、彼女の命が奪われる事は無く。
冷たい廊下に倒れる白木。
時を少し置いて、風切の心臓をヴィリスの剣先が貫いた。
●
廊下の一角で、キルシェが展開した保護結界が解除される。
変化で人間体になったノリアを含めたイレギュラーズと百々瀬、それから戦闘を傍観するしかできなかった『性別に偽りなし』暁月・ほむら(p3n000145)が白木を囲む。
彼女が負った傷はキルシェが癒やした。傷も見えない程に治癒された女生徒は、程なくして瞼を震わせながら目を開いた。
「大丈夫?」
ほむらの問いに対し、白木は目を見開くとすぐに距離を取ろうとするが、それを背後からオデットが捕獲する。
「逃がさないわよ。あなたとお話したいから」
「話なんてする理由が無いわ」
「あら。さっきので少しは頭が冷えたと思ったけど、そうじゃないのかしら」
オデットの言葉に押し黙る。あれほどの強さを見た事で、逆らおうとは思えなくなったようだ。
「ちっ」と舌打ちする白木の前に、ヴィリスが顔を覗かせて、気になっていた事を問う。
「あなたの下の名前、教えてくれる?」
「……花、よ。白木 花」
「花さんね。私はヴィリスよ、よろしくね」
「はぁ……」
生返事をする白木だが、構わずに次の人物が彼女に話しかけていく。
「白木ちゃんはさ、百々瀬ちゃんの事が好きなの?」
直球な疑問をぶつけてくるクルルに対し、白木は顔を赤らめる。
「そうよ! 変?」
「変とかそうじゃないよ。ただ、白木ちゃんのやってる事って、百々瀬ちゃんが喜ぶような事なのかなって」
「えっ……」
首を傾げるクルルの目は純粋な疑問を浮かべていた。
返答に窮する白木へ、ヴィリスが声をかける。
「そうね。私もクルルと同じ意見よ。
好きな人に振り向いてもらいたいのは分かるけど他の人に迷惑がかかるやり方じゃダメでしょう?」
諭すような言葉に、白木は反論せずに目を伏せる。
白木を励ましたいのか、ブランシュが彼女の前にしゃがんで言葉を紡ぐ。
「何か思い詰めているのなら、攻撃なんてしないで話して欲しいですよ。ブランシュ達もご相談に乗るですよ。
何人もいれば、解決策の一つや二つ見つかるはずですよ!」
「そうだな。ところで、貴女は、そのとても強くて美しい想いを、きちんと合子さんに伝えたことはあるだろうか?」
横からレオンハートが問う。
その質問に対し、白木は首を横に振る。
「では、もう一つ質問を。彼女に害する事が貴女の本当の望みなのだろうか?」
再び、首が横に振られる。
その答えに、レオンハートは微笑む。
「なら、彼女を堕とすのではなく、君が昇っていけばいい。
さぁ、勇気と共に口に出すんだ。キミの本当の想いを」
背を押されるように顔を上げる白木だが、見上げた先で見えた百々瀬の困惑の表情を見て、再び俯く。
「白木さんの気持ち、少しだけ分かる気がするですの」
ノリアの呟きに、視線が集まる。
彼女もまた視線を落とし、胸に手を当てて拳を作った。
「好きなかたが、どなたかと、懇意になさっているときの、心のざわめき。
だれかに、邪魔してやれと、ささやかれたら、わたしも、絶対に聞いてしまいたくならないとは、断言できませんの。
ですけれど……それは、大切なはずの人を、かなしませてしまうと、知っていますから。
わたしが、正気であるうちは、けして、その選択肢は、とらないでしょう」
「好きな人にって気持ちもわからなくはないけどねぇ。
ただそんなことしたら絶対嫌われるだろうから……」
続けて言われたオデットの言葉に、白木の顔が曇り、それに気付いたオデットが慌てて言葉を重ねる。
「でも、これからどうしたいか、その為に何をすべきか。それを考えるのが必要だと思うわ。
だから、聞きたいの。あなたはこれから何をしたい?」
優しい声で問われて、少女は口をつぐむ。
唾を飲み込み、そして、顔を上げて合子に向き直ると頭を下げた。
「ごめんなさい」
その謝罪に、イレギュラーズの一部がホッと胸を撫で下ろす。
「百々瀬さんが、好き、なの……。誰にも渡したく、なくて……」
「そう……」
合子の返事は何かを迷っているようにも聞こえ、ェクセレリァスが問う。
「白木はどうしたいんだ?」
その質問に、合子は少しの間考え込む姿を見せて、口を開いた。
「今まで怪我させた人に謝って欲しい。
それから、白木さんを好きになれるかはわからないけれど、良ければ仲良くなりたいとは、思うわ」
彼女の答えに、白木の目が見開く。
白木の背を一度だけ軽く叩いて、ヴィリスが小声で囁く。
「大事なのは好きな人に自分を好きになってもらう事。まずはお友達からでも頑張りなさい」
小さく頷く白木。
良かったと、空気が和らぐ。
友人としてなら、と手を差し出した合子の手を取って、白木が立ち上がる。
キルシェが念押しするように言う。
「ケガさせたり、怖い思いさせた人達にも謝るのですよ」
「ええ……あなた達も、ごめんなさい」
「いいのですよ」
笑った顔を見せて、ようやく白木に口元にも笑みが浮かぶ。
そこには暗さも無い、年相応の少女の笑顔があった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
白木に対して意外と気に掛けてくださる方が多くてありがたかったです。ありがとうございます。
GMコメント
某GMに「業の深い片想い百合」と言われました。やったね!
おかしい、新年早々&復帰第一弾に自分は何を……?
あれやこれやはさておき、以下は情報となります。
●目標
・夜妖『風切り』と幻影カマキリ数体の撃破
・白木を不殺にて撃破
(オプション)
・百々瀬を無傷で護る
●百々瀬 合子
特に目立つ事のない、平凡な、誰にでも優しい少女。
白木と特に親しかった事もなく、今回の事件に対して大いに困惑している。
逃げる事もせず、事件の顛末を見届けるべく踏みとどまる勇気はある。
●白木
百々瀬を異常なまでに慕う少女。夜妖である『風切り』を使役している。
カッターナイフを所持しているが、身体能力は一般人並の為、脅威とはならない。
●風切り
白木と契約している夜妖。両手がカマキリの手である以外は白木に似た風貌をしている。
HPと反応が高い。
全ての攻撃に【流血】を伴う。
紋(神・近・域):かまいたちのような衝撃波の刃を両手から放つ。一度に二つ放たれる。
羽(神・近・範):口から吐き出した空気で刃を作り、範囲内にて踊らせる。
刃(物・至・単):カマキリの手で直接斬りつける。相手が傷を負えば負うほど風切りは興奮し、キレが良くなる。
●幻影カマキリ×数体
『風切り』が生み出したカマキリの幻影。大きさは白木の1/5程度。
特殊抵抗と回避が高いが、HPは低め。
音風(神・近・範):カマキリの手を擦り合わせて鳴らす不協和音。【混乱】を伴う。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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