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シナリオ詳細

<ディダスカリアの門>天狼のユースティティア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天狼のエリザ
 キシェフが授与されるたび、誇らしい気持ちが湧いてくる。
 こんなあたしにも、できることがあった。
 他人の足を引っ張るばかりのお荷物で、どうしようもないゴミみたいだったあたしは、頑張ってみれば、ここでなら。役に立てる命だ。
 なら、あたしが生きた意味がある。
 命に価値が出たみたい。
 価値を勝ち取った。
 泣いて助けを待ってても、助けはこなかったけど。剣を取り、戦うことであたしが生きる意味ができた。
 大切なその感覚は、胸の奥で燃えている。
 その熱さを感じると、ああ、生きてるってこんなことなんだってあたしは思った。それは、すごく大事なことなんだ。だからあたしは朝起きて、自分が燃えているかを確認して、燃えながら日を過ごす。燃え尽きるその日まで、この熱がなくならなければいい。
 ああ――神様。
 今日も、鐘が鳴っています。神様。

「姉ちゃん、見回り交代!」
 やんちゃな弟分のティグルが石造りの階段を何段か飛ばして駆け降りて、じゃれるように抱き着いた。頷いた傭兵部隊『オンネリネン』天狼小隊リーダーのエリザは、微笑んで優しくゆっくり、頭をなでる。
 家族のような仲間。
 それは簡単に失われてしまう体温で、だからこそ大切なのだとエリザは最近、よく思う。

 そして、思い出すのだ。
 エリザが奴隷になる前、とても小さくて何もできない頃。
 エリザには、似たような存在が――『兄たち』がいた。

 あの頃わからなかった事が、今ではわかる。
 孤児ばかりが自然と集まり、いつしか生きるために罪を重ねて『盗賊団』もどきになった。エリザと兄ジェラール、そして2人と特別仲が良かったケヴィンは、その中で生きていた。

 冬の風はエリザに裏切りの痛みを思い出せる。
(あたしを見ていて。あたしをひとりにしないで。あたしをいなかったことにしないで)
 ――行かないで、置いていかないでと言ったのに。
(あたしを捨てた。あたしは、捨てられた)
 兄とケヴィンは、病気のエリザを置いて行った。
(そして、あたしは奴隷として売られた)
 ショートソードの柄を浅く握り、エリザは都市をぐるりと見渡してから、仲間たちを見た。
 歌が上手で、夜に眠れないと泣くちびっこミリーの手を繋いで優しい声を響かせるお兄ちゃんのエド。ウォルカはその隣で布切れを木っ端に被せて、人形みたいに揺らして「いつかもっといい人形作るからな」と語り。
 アイナはお花が好きで、野花を見つけては同い年のミラルカと一緒に髪に飾って、ルドルフとテリミオスはライバル同士で、お互い「あいつは嫌いだ」というけれどいざという時は率先して相手を思いやり、助け合う。アナトスは内向的であまりしゃべらず感情表現が下手だけど、本当はとても優しいってみんなが知ってる。

 ――あたしは、裏切らない。最期まで。

 エリザは神聖な気持ちですこしの間、目を閉じた。
 胸の奥に意識を向ける。心臓がとくんとくんと脈打っていて、そのあたりに燻り猛る炎みたいな熱がある。

 生きている。
 今日も、あたしの正義は揺らがない。熱が消えて、動かない肉の塊になるときまで戦ってみせる。
 ……だから、神様。

 ただ、見ていて。
 あたしたちの生を。


●連携攻略『ディダスカリアの門』
 幻想での『奴隷事件』を経てからオンネリネンの子供達による活動が全国的に見られるようになり、アドラステイアの活動が活発的になっていることが観測された。現在でもアドラステイアに対しては下層への潜入しか出来ていない。
 数人のイレギュラーズが予測する『聖獣の正体』や『精神への汚染』を考えるに、早めに対処を打っておきたいところだ。
 探偵サントノーレ&ラヴィネイルと協力し、ローレットはアドラステイアの中層へと進む手立てを考えることとした。

 各地で捕えた聖銃士とかオンネリネンの子供たち曰く、アドラステイアの中層は嘗てはこの場所に存在した都市『アスピーダ・タラサ』をそのまま使用しているらしい。
 『アスピーダ・タラサ』は海沿いに存在することから、鉄帝『不凍港ベデクト』へと対抗するべき港湾の警備隊が設置されていた。
 それ故に、アスピーダ・タラサに関する情報は天義にも数多く残っている。此度の状況から聖騎士団には情報提供を依頼し、アスピーダ・タラサの構造地図はある程度得ることが出来た。
 だが、問題は中層に繋がる扉である。
 どうやら、通行には『通行証』が必要となるようだ。
 そして其れ等は全て、中層の『プリンシパル』が管理しているらしい。
 『プリンシパル』は、居場所は分かっているが中層へは潜入する必要がある。
 そこで、ローレットは作戦を打ち出した。

 下層や外部で囮として戦闘を行い意識を逸らす先導班。
 その隙に中層潜入する潜入班。
 この2種類のチームによる連携攻略だ。

「ちゅうわけで、先導班に参加してほしいんです」
 野火止・蜜柑(p3n000236)が手短に状況を説明する。
「俺は新米情報屋の野火止です。やる事はシンプルで――大切な仕事です」
 蜜柑は机に地図を広げて、アドラステイアの一角を指した。
「下層で暴れてください」
 givenが地図を覗き込むと、そこには『エリザ』という単語が書いてある。

「エリザちゃんって名前のリーダーが率いる傭兵部隊『オンネリネン』天狼小隊の子供達が守ってる区画です。天狼小隊は12人。彼女らを引き付ければOKですが」
 敵は、10歳~15歳の子供達。士気は上々、戦意も高い。そして、『ローレットはきょうだいや家族を捕まえて皆殺しにした悪者』と教育されている。彼らは基本的に説得には応じず、アドラステイアのきょうだいや家族のために、死ぬまで戦うのだ。
「敵意が高いですし、子供やし。後味悪い仕事になりそうですかね。士気も高いですからね……それと、リーダーのエリザちゃんなんですけど」
 蜜柑は、マルク・シリング(p3p001309)とアーリア・スピリッツ(p3p004400)に視線を向けて、数瞬迷った末に打ち明けた。
「例の商人さんの妹さんです」
 2人は先日、縁を結んだ商人から聞いた話を思い出していた。報告書にはその話の全てが詳細に記述されてはいないが、その話をまとめると以下となる。

 商人ジェラールは昔、孤児だった。
 孤児達は生きるために徒党を組み、盗賊まがいの悪事も働いた。
 ジェラールには、とても小さな妹エリザがいた。
 ある時、妹が病気になり、ジェラールは友人ケヴィンと貴重な薬を盗む計画をした。
 現場に行ってみれば他の盗賊により周囲一帯が荒らされ、猟奇的な手口での大虐殺がされていた。現れた騎士団は居合わせた2人が犯人だと誤解し、2人は逃げた。
 その後なんとか盗賊のあじとに戻ってみれば妹はいなくなっていて「死んだ」と言われた――2人はそれを信じた――そして、盗賊仲間が裏切り、追ってきた騎士団に2人はまとめて突き出されかけた。
 ケヴィンはそのとき咄嗟に機転を利かせ、一人ですべての罪をかぶり大罪人になった。

 情報屋いわく、その話の裏取りと興味本位での調査を重ねていたところ、盗賊団が嘘をつきエリザを売ったことがわかり、エリザが売られた先を調べていくうちに、やがてアドラステイアに辿り着いたこと。天狼のエリザが似た境遇を語っていたことが判明したのだという。
「状況が状況、説得は無理そうやさかい。わざわざ報せるのもどうかと思ったんですが。知らないでやるのと知った上でやるのと、どっちがよかったです? いや、もう教えちゃったんですけどね」
 蜜柑はそう言って申し訳なさそうに手を合わせ。
「こほん、話が逸れました。えぇと、彼らはですね、地形を活かして戦うのが得意なんですよ。皆さんがおつよいのをわかった上で、建物の中や入り組んだ道に逃げ込んだり、剣持ちが命を捨てて味方の斜線におびき出したり組み付いて動きを止めて弓手の命中に貢献したり。そんな連携を得意とするようです。全員、都市への忠誠心もめちゃめちゃ高い覚悟完了メンバーや。もうお互い止めずに命捨ててかかってきます」
 控え目な少年の声がおずおずと全員を見て、givenの目を見て止まった。
「今回は、あくまで『下層や外部で囮として戦闘を行い意識を逸らす』のがお仕事です。派手ですが言うなれば潜入班を助ける縁の下的な働きになります。とても大切なお仕事だと、俺は思います」

 ――頼まれてくださりますか?
 蜜柑はそう締めくくり、頭を下げた。

GMコメント

おはようございます、透明空気です。
今回は『アドラステイア』の全体依頼となっております。
※アドラステイアについての説明ページはこちら(https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia)

●オーダー
・下層で囮として派手に立ち回り、戦ってください。

●舞台
都市内部での戦闘になります。
現地はスラムのような街です。
不揃いな建物がごちゃついて建ち並び、傾いた建物や木が目立ち、倒壊寸前のものを棒を立てて支えていたりします。建物どうしの間隔は疎らで広かったり狭かったり、慣れた者でなければ迷ってしまう場所もあるかもしれません。壁にはしごがかけられていたり、階段があったり。
屋根は三角屋根もあれば平な水平板の屋根もあり、木の棒が地面に突き立てられて縄で木どうしを括り、洗った衣類や布を干していたりします。
地面は溶けかけた雪交じりの砂利や木っ端、ゴミが目立ちます。

●敵
主な敵は傭兵部隊『オンネリネン』の天狼小隊。人間敵ですが、アドラステイアの性質上、彼らは誰かを蹴落として生きてるでしょうし(魔女裁判など)薬漬けになってる(イコルや神の血)可能性もあります。
・リーダー『エリザ』……15歳の少女です。武器はショートソードで、機動力が高めで敵を攪乱する戦い方をしますが、イレギュラーズであれば1対1で後れを取ることはないでしょう。
・エリザの過去について
孤児が集まってできた盗賊団の出身です。ただし、盗賊団にいた頃はとても幼く、面倒見の良い年長者(兄とその友人)によって養われていたようです。
ある時エリザが病気になり、面倒を見ていた2人が貴重な薬を手に入れる計画をしてエリザを置いていなくなりました。
面倒をみていた2人が不在になった隙に盗賊団はお荷物でしかなかったエリザを奴隷商に売りました。奴隷となったエリザは皮肉にも治療にありつけて命をつなぎ留め、数奇な運命の果てに都市アドラステイアの大人に保護されて、オンネリネンとアドラステイアの仲間たちのためにその身を捧げる誓いをしました。
なお、兄と友人はエリザのことを「死んだ」と聞かされて信じており、エリザが生きているとは思っていない状態です。

・ティグル……8歳の少年です。武器はショートソードで、機動力が高めで敵を攪乱する戦い方をしますが、イレギュラーズであれば1対1で後れを取ることはないでしょう。戦災孤児で、小隊の中でも特別エリザに懐いており、本当の姉のように慕っているやんちゃな子です。積極的にエリザを庇ったり、捨て身の戦術を選びます。

・他
 剣持ちX3人……13~15歳の年長組。男の子ばかりです。名前だけ判明しており「エド」「チャック」「ウォルカ」。武器はショートソードで、命中が高いです。
 弓手X7人……7歳~12歳の年少組。女の子と男の子が半々程度。名前は「ミリー」「アイナ」「ミラルカ」「シフォナ」「ルドルフ」「テリミオス」「アナトス」。武器は弓で、よく訓練されていますが命中は低め。距離を取り、物陰から物陰へと移動しながら年長組が作ったチャンスを活かそうと一生懸命撃ってきます。

※OPの「例の商人さん」について
(知らなくても大丈夫ですが、知っておくとよりプレイングの幅が広くなる参考情報です。)
「例の商人さん」とは、マルク・シリング(p3p001309)さんとアーリア・スピリッツ(p3p004400)さんが前回参加したシナリオ(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7086)で知り合った商人さんです。敵のリーダー「エリザ」は彼の妹のようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

以上です。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

  • <ディダスカリアの門>天狼のユースティティア完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月24日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
浮遊島の大使
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
竜剣
ゼファー(p3p007625)
狼子
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
イズマ・トーティス(p3p009471)
憤怒の道を断つ
滋野 五郎八(p3p010254)
鶏ライダー

リプレイ

●天仰ぐ開戦の時
 敵襲に地を駆け。

 都市の上空を敵が飛翔している。天狼小隊を呼び爆音轟かせ光りを放ち。
 『美しき』住処を破砕し、アドラステイアを脅かさんと「俺達はローレットだ」――悪逆のギルドが暴れている!
「隠れても無駄だ。潰されたくなければ出てこい」高所から降る声のなんて憎らしい事か!
「そっちこそ降りて来い!!」


 派手な破壊音は、半分以上が偽の音。『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)のフォルテッシモ・メタル、響音変転だ。絶妙な力加減の響奏撃を下すイズマが身に纏うホワイト・シンフォニーには中距離圏を飛ぶ『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)への恩恵がある。


 この日、下層各所で騒ぎが起きていた。


 惡臭が鼻腔に底を淀むような陰気を伝える。其処は。
「どの国も掃溜めは変わらねえな」
 『竜剣』シラス(p3p004421)はスラム出身の勇者として広く知られる存在。敵が身を隠す場所なんて無限に想像出来た。
(街を把握してるガキ共は相当危険だ。油断は出来ない)
 東階段上にいる弓手を見て、視線をすぐ下へ。透かし視るのは、潜む別の弓手。迷彩襤褸を冠り布の隙間から天に弓引かんと構える手。
「敵ッ!」
 報せると同時、右腕を横凪ぎにアクセルカレイドの熱狂放ち、薙ぐ勢い乗せ間近に揺れる洗布を手繰り振る。暴れ布が廻り絡め取りしは暗殺を試みた剣手の小刃。読んでいた。ひと呼吸の攻防一体。物干棒が穿たれて干されていた布が乱戦に舞い遠隔射手から守っている。『ぼんちゃんといっしょ』滋野 五郎八(p3p010254)の支援狙撃だ。
「もう1人!」
 十字射矢を誘うように、シラスは跳ばずに体勢低く地を転がる。空からはモカの問いかけが響いていた。
「あなたたちは、大切な友人を蹴落としてキシェフを得る人生に疑問を感じないか?」
「ゆうじんをけおとす?」
 敵の年少が首を傾げる。年長組が悪魔の囁きだ、聴かなくていいと取りなした。

 空気は乾燥していて、冷たい。
(アドラスティア……なんて悲しいところ……)
「感傷にひたってる場合じゃないよね、ぼんちゃん」
 狙撃手五郎八は軍羽梵天丸と共にマントを翻し、姿勢低く移動する。味方に近く、足場の確かな高所へと。


「俺はチャック。天狼の牙は、仲間のため、都市のために……」「チャックね」――瞬間記憶する。【キールで乾杯】 アーリア・スピリッツ (p3p004400)は耳を澄ませ、小隊員を1人残らず記憶しようと決めていた。
「俺が抑えるから撃て!」マルクにぶつかり抑えようとする敵の後背に機を狙う矢鋼、陽光にギラリと煌めいて、それが彼に当たる軌道と気付いたマルクは迷わず敵の肩を抱く。その手に暴れる凶刃に脇を裂かれながらも射線から逃して諸共に大地に転がり、「マルクさん!」アーリアが放つ光は懸命で、優しい。「大丈夫」敵の無事に笑み、意志の強さを窺わせる瞳で頷いて杖を拾う。数よりも手のひらが熱い。

「誰かの役に立って認められて、生きる意味を勝ち取る。命を燃やして戦い、生きてる実感を得る。そうやって生きる君達の姿を、『見ているよ』」

 イズマが語りかけていた。
「だけど、命は捨てないでくれ」

「今、俺は、君達が死ぬのを許さない」
 そうだ、と。ある者が頷いた。またある者は前を見た。

「俺達は、『美しい死』の否定から始める」


●時遡り、地上
 開戦前。
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は目を眇めるように都市を見た。
 なるほど、聞きしに勝る様相だ。
 全く、言いたいことは色々とあるが――
「まずは、仕事を確りとこなさんとな?」

 倒すのは弓手からと決めてから。
「小さな子から狙う、っていうのは胸が痛むけれど……早く気を失った方が、怖い光景も見ないで済むもの」
 アーリアはことさらに明るく繕った。
「生きているならやり直せるの。私はそう願っている。だから、囮として思い切り暴れつつお土産にかわいこちゃん(エリザ)を持ち帰っちゃいましょ!」
 繊細なアーリアは、場の空気と人の感情によく気を配る。自分が与えられたい気持ちを知るから、他人に与える。時に献身的、健気に過ぎるほどに優しい心根は、彼女が友人達に愛される理由のひとつだ。
 『雪風』ゼファー(p3p007625)は迷い鳥の樊籠解き放つが如く清冽な響きを風と遊ばせた。
「何も悲観することはないわ。こうして縁を繋いだことで、水面の月が手に届くものになったんだもの。絶対に届かなかったものが、手を伸ばす意味があるものに変わったんだから大違いよ」

 マルク・シリング(p3p001309)の使い魔と式神による索敵情報を汰磨羈の広域強俯瞰が補足する。
「西、倒壊寸前の家と家の間。北西、三角屋根の上。南東細い通路、東の石階段の上」
「あらまぁ、かくれんぼねぇ?」
 透視俯瞰が情報を足す。弓手が屋根にいる家屋の隣の建物内、窓辺に弓手。南西の小屋、と。


●地上の底
 モカが語り掛けている。
「魔女裁判の話は後ろ暗い話なのかな?」
「そんなことない。告発は正義だ!」
 エドが哮声放ち届かぬ苛立ちを晴らすように、或いは魔女の声を掻き消そうとするが如く飛び出した。制止しようとする者、カバーに動く者、数人を相手と決めて。
「纏めて遊んであげるわよ、ガキ共」
 足元に張られた罠縄をひらりと飛び越え、ゼファーがハイヒールの音高らかに名乗り上げれば娘が弾丸めいて詰めてくる。

「ローレットの『雪風』ゼファー」
「オンネリネン『天狼』エリザ」

 槍をくるりと廻せば感情を煮詰めた釜が沸騰するような名乗りが返される。敵視。殺意。憎悪。恨み。怒り。蔑み。悲哀。
「力を手にしたことで生きる意味を見出したか。それとも、強くなることでしか生きられなかったか」
 使い込まれた剣が鈍く陽光を反射する。
「わかったような口を……!!」
 秘めやかに笑む。

 ――ええ。少し分かるわよ。
 だからこそ、手折ってやりたくなるわね。
 貴女には、貴女も知らない帰る場所があるのだから。

 東側で駆けているのは、シラス。戦いの余波に倒壊する家屋の影から弓手の手を強引に引いて一緒に転がり出て、跳ねるように起き上がる。負傷しながらも不敵な笑みは余裕を伝える。
「こそこそしてるんじゃねえよ、ファルマコンの加護はどうした?」
「あんたを道連れにできない俺に、加護は相応しくないってことだ」
 シラスの『戦乙女』の呼び声が傷を癒していく。名前も知らない少年は地に唾を吐き、温さに殴りかかった。シラスが左に身を逸らせば腕は虚空を過ぎて、行き場を失う勢いを地に押し込めるように背中に肘打てば、ずしゃりと音立て地に倒れ込む。その手が土を掻く。意識を失う直前、怨嗟めく唸り声。灰色の冬の匂い。
「神様だって寵愛する奴を選ぶんだよ。それも、他人を蹴落とす奴を。そんな奴をクズだと思っちまう魂が汚れた俺は加護に値しないってよ。胸糞悪ィ、クソみてえな奇跡――」
「子供騙しだぜ」
 消えた声を拾い上げる。もう聞いていないだろうが。矢の気配に気付き、倒れた彼の背を爪先で転がしてから枯れた色の剥がれ屋根板を側に立て掛けて。
「すぐに終わらせる」意識はないだろうが。呟いて、また駆ける。

 怒りに押し出されたように声が響いていた。幾つもの声が。

 崩された連携。焦燥を浮かべるティグルは罠縄をひらりと飛び避ける汰磨羈に切り掛かる。
「俺は、天狼ティグルだ!」
 一撃が邂逅し、鋼同士が打ち合わされる澄音が高く響き渡った。
「御主は狼を名乗るのか」
「応! そうともさ!」
 プロトコル・ハデスを付与済の汰磨羈は妖刀『絹剥ぎ餓慈郎』を敢えて分かり易い軌跡で奔らせる。右腿を狙う敵の薙ぎ小閃を綺麗に払い、手首を返し。
「死にたくないだろう? ならば、上手く受け止めて見せろ!」
 慌てて剣先を持ち上げる少年は、歯を食いしばり防ごうとするも、時を独り占めするような自由自在の刀捌きに押されるのみ。手加減されているのがわかる。少年とて我流ながら日々鍛錬し剣の腕を磨いているのだ。それがこの麗人に児戯と呼ばれるレベルだと自覚して、胸に敗北感と――何かが湧く。
「今のはなんて技なんだ」
 無様に地に尻をついてから、思わず問うていた。高嶺の月めいた瞳が寸瞬少年を見て告げる。
「無現斬・厄狩厄式という」
「厄狩……」
「御主、先刻死にたくないと思ったな?」
「う」
 天狼は、死を恐れないのだ。少年は決まり悪く口ごもる。かけられる聲は涼やかだった。

「獣は生きるため牙を立てるものだ、ティグル」

 瞬きのうち、輪郭をぶらし眼前から消える武者姿。「え……?」白く流麗に流れる髪が「嘘だ」あんな場所にいるじゃないか。少年は目を疑った。汰磨羈は弓手に即応し、決河の勢いで反撃の間合い埋め雷火樅を炸裂させて「……」破竹の連撃妙技に少年は目を限界まで見開いて言葉を失い見惚れた。「どれだけ隠れようと、射る瞬間は丸見えで無防備だ。その隙を逃がす私では無い」仲間を沈める声が脳髄をじんと痺れさせる。

「か、格好良い」

 少年は、そう思ったのだ。視界の隅では、冷静さを欠く仲間が槍に翻弄されている。助けるべきだ。なのに、目が離せなかった。

 建物が吹き飛ぶ。連続する轟音、破砕音、爆音。

「派手に立ち回れというオーダーだからな」
「みんな、楽しいパーティよぉ。優しくお願いねぇ」
 アーリアが呼べば、可憐な酩酊小妖精たちが虚空からシャボン玉のようにふわりほわり現れて手舞足踏、大騒ぎ!
「じゃれているのか」
「飲み友達よぉ」

 お酒、好きなんだ。心に呟く五郎八は空の2人を視る。モカが走るように降りてくる――。

「おりてる! みんな!」
 声をあげるのは他メンバーに厚く守られ転々と移動を重ねた天狼で一番小さな弓手ミリー。駆け降りる敵がよく視えて、でも、気付けばミリーの仲間は――「みん、な?」いない。
「……」皆んながサポートできない時は、待たずに動けと言い含められている。ミリーは震える手で矢を番え、狙いを定めた。迷う暇はなかった。
「……あの弓手、狙ってる!」
 矢を番えるミリーに五郎八が気づいたのは、その時だ。こちらも、迷う暇はなかった。
「当たれ!」殺意の矢が放たれる直前、「――お願い!」あの子の体には当たらないで、と祈るようにトリガーを絞る。銃から奔る弾は真っすぐに空中を駆けた。破砕音。「キャァ!」木片、石礫、損壊破片。弾はミリーの足元の三角屋根を破砕して、小さなミリーには当たっていなかった。射る瞬間の足場振動と精神的衝撃により、放たれた矢は大きく逸れていた。見ればモカは地上で至近からの流星破撃を炸裂させて1人を沈めて一瞬五郎八を見て笑み、すぐに間近な敵に視線を移して拳と脚を舞わせるように技を練る。イズマはミリーを慎重に気絶させ、五郎八とハイタッチを交わして集う仲間のもとに合流した。

「こっちよぉ!」
 アーリアが敵を引いている。「赤風の魔女!」「あらぁ、素敵な称号」シフォナと呼ばれる弓手が釣りだされていた。赤い衝撃波で色々吹き飛ばしたの、凄かったなあ。五郎八は映画みたいな迫真の現実を思い出しながら、エリザとミラルカ2人がゼファーに連れられて中央に向かうのを援護した。
 必死で仲間を制止するのは、北側の屋根上にいるアイナ。倒木を踏み跳ぶシラスが屋根に登り、「あ……」発語より早く注意深く手加減をした手刀を入れて無力化。「よくも!」憤然と迫るルドルフを釣って、仲間の光撃へと導いた。

 マルクとアーリアがシフォナとウォルカを連れ、息を合わせて中央に神気閃光輝かせる。
 敵味方を識別する光の中、全員が自分を受け持つ敵を誘い込んで不殺のスキルを持ち寄るように合わせて戦いに幕を引く。
 光の後に折り重なるように倒れる小隊員達の姿。いずれも、息がある。

「そろそろフィニッシュね」
 ゼファーは残ったエリザの体当たりみたいな剣戟を柳のように受け流す。しゃらりと互いの髪揺れる。周囲の景色が流れるのはゼファーの体も流水のように舞い廻る故。穂先が俯き、誘うよう引くは潮の満ち引きめいて自然。突きに代わる時は切っ先昂然と上向き目が醒めるような苛烈。蒼嵐散華は鮮やかなれどゼファーに痛みを齎した。

 ――こんなものじゃないのよ。師の絶技は。

 悲鳴のような金属音。
「アァッ!」
 ――なんて威力!!
「く、ッぁ!?」
 穿たれたエリザが驚嘆と負けん気を目にのぼらせ、唇を噛んで立ち上がろうとして。
「立てないはずよ」
「……ッ」
 終に膝をくたりと折り、倒れた。これで、決着。


●底のソラ
 ――甘いと言われたって、殺したくないの。
 私の生まれた国の、これからを生きる子供達を。

 マルクとアーリアが兄の話を語っている。
「エリザ、君のお兄さん達は生きてる。君を待ってるんだ!」

 ――会わせてあげたい。生き別れているだけでも辛いのに、すれ違ったまま終わるなんて、悲しすぎるから。

 兄ともう1人の名を告げれば弾かれるようにエリザが顔を上げた。
「あいつらは、あたしを捨てたんだ!」
「ジェラールさんは、貴女の薬を手に入れに行ったの。貴女は、捨てられてなんていないわ」
「デタラメだ!」
「デタラメじゃないさ。二人は君のために留守にしたんだ。でもその不在の隙に君は売られてしまった。本人から聞いたんだ」
「今更……あたしには」
「此処の皆が家族なのも、私は否定しないわ」
「今、ジェラールさんは商会で働いている。君達も、そこで暮せばいい。僕が連れて行く」
「いやだ。あたしは騙されない。あたしの魂は、誇り高き聖戦に散るんだ。敬虔な戦士の魂を穢せると思うな!」

 説得を背景に汰磨羈は子供達に意識を向ける皆と違い再び広域俯瞰で周囲を警戒していた。
(私は私が出来る事を)
「私は撤収ルート確保と、道中で倒したのを探して抱えてこよう」


 そして、シラスは。
(生きていたか)
 板に手をかけて少年と再会していた。

 ――恵まれない環境をくんでも彼らがやってきたことは消えはしない。
 それでも殺してしまったら省みることも償うことも出来ない。……それじゃあ何かが浮かばれない。

 もうやり直せないと、汚れて漂白されようもないのだと、腐ってるんだと心の何処かで仄暗く自覚して光の外界と線引きするように影に立つ感覚を知っている。
 ――ああ、目を覚ます。
「よう、もう終わりだってツラしてんな……」
 そんな目を見せるから、陽射しを背負うような背の熱さに首を振る。そんなものは遮ってしまおうと板を投げて音がカラリと高く響けば、反吐を催す悪臭の水溜まりが跳ねた。波紋はいつも衝撃の中心から走る。胸に手を当てたのは、無意識だ。
「けれどそんなの癪じゃあないか? 散々な目に遭ってそれでも今日まで必死にやってきたんだろ?」

 死はいつだって最後の優しい隣人だ。負け犬の駆け込み寺で、絶望の井戸に垂れる蜘蛛の糸だ。

 ――自分もまあ、クソみたいな生まれだ。
 何だってやってきた。
 だから「俺は」「うん」「自分で立てる」「ああ」
(……だから、願わくば彼らにも生まれてきた理由を)

 隣人は、努力の先のゴールテープでもある。それがすぐ隣にいるから、命を燃やし賭して何処まで登れるかに価値も出ようというものだ。


●ソラを背負って
 子供達は意識のある者ない者、従順な者反抗的な者、様々だ。見つからない者もいるという。アーリアが全員の名前を呼べば驚き戸惑い、それだけで毒気を抜かれる子もいた。

 イズマは丁寧に言葉を選ぶ。
「隣の子を見てほしい。隣にいる子が死ぬのは悲しいと思うよね。隣にいる彼も君を見て同じ顔をしている。そうだよね」
 五郎八がその背中からそぉっと勇気を出した。
「この国の実情はどうあれ、家族を守るために戦うあなた達のことを、わたしは素直に尊敬します! 誰かのためを思えるあなた達は優しい子たちです……とてもすごいことだとわたしは思います。大人でもできる人はなかなかいないんですよ。
 だから、その優しさを奪われるのは我慢なりません! ええ! エゴですとも!」

「エゴ、か」
 モカは頬を掻いて迷って、「大人はね」しゃがみ込んだ。

「大人は自分が失敗したり悲しんだ記憶がある。それで、これからを進む可能性を見た時に話したくて仕方なくなる時があるんだ」
 笑う頬に泥がついている。モカだけじゃない。皆同じ泥まみれ、服も破れて、傷跡新しく、でも心身の痛みの中陽だまりに笑っていて、とても親しみやすそうなのだ。
「子供って存在はね、悪い大人に騙されず、誰かを殺したり陥れたりを生きる代償にするのではなく、自由で気楽な存在じゃなきゃダメなんだ。
 そして、兄弟姉妹は大人になるまで一緒にいられるのが一番いい。元気で笑顔だといい。私の価値観だ」
「一緒がいい」
 1人がちいさく頷いた。
「私は……他の世界で『作られた存在』として生まれた時から、今のあなたたちよりも社会に対して酷い事をしてきた。
 その私が今では食で人々の心を潤すという人生の目標を持てた。あなたたちもきっと変われるさ」

 そうよ、とアーリアが声を連ねる。

(恨まれてもいい。
 この子達が死んでしまうのも、聖獣になってしまうのも嫌!)

「嫌なのよ。お姉さん素直に言うわ。あなた達をそのままにしたくないの。私もね、あなた達に一緒にいて欲しいの。生きて欲しい。できると思ったら、手を差し伸べたくなっちゃうの」
 それまで当たり前だった窮屈な世界がある日色鮮やかに華やかに広がる瞬間を、新しい風に触れた喜びをアーリアは知っている。

 私、素敵な物を知ってるの。
 青空を背負って胸を張って、大きな声で世界中に宣言できるわ。
「無理矢理にでも恨まれても、いい」
 絶対。
 必ずよ。


 ――風が雲を流してゆく。

 空浮かぶ雲に触れたらどんなに柔らかいだろう。子供は手を伸ばしてよく夢語る。クレアとマルクもそうだった。
「ティグル、君も聞いてくれ。君やエリザや仲間達を、殺したり奪ったり誰かを蹴落としたりではなく、誰かを幸せにして自身も幸せになるような、そんな生き方ができる世界に――」

「――僕が、連れて行く」
 薄明かりに蕩けるような蜂蜜色の髪。秋旻めく青の瞳。肩に頭を預けられた距離が幸せを教えてくれた。温かかった。
(クレア、今どこで何をしてるんだい)
 夢見る頃はとうに過ぎて、冬灰の雲は遠くなるばかり。せめて目の前の子供には、こんな想いをさせたくない。

 ティグルは――、
「俺、行くよ。みんなも行こう?」
 そう言って小隊の仲間に笑顔を向けた。


 撤収は汰磨羈のおかげでスムーズだった。

「女は根性! 撤収よぉ!」
 運ばれる者。自分の足で歩く者。最後まで抗い已む無く気絶させ運び出した者。アーリアは救い出された子供達の名を共有する。
 エリザ、ティグル、ウォルカ。ミリー、ミラルカ、シフォナ、ルドルフ、アナトス。最後の少年の名が呼ばれると、シラスはちらりとその顔をみた。

「今後、どんな未来を選ぶかはこの子達次第だが。せめて、まともな選択など出来ぬ悪徳の都からは出してやらんとな?」
「この子達は全員一緒に僕の領地で預かって、シリング商会に掛け合うよ」
 マルクがそう言った時、声がかけられた。
「まともな選択って、どんなの?」
「――ティグルか」
 少年は汰磨羈の刀に視線を向けている。
「その刀カネがあったら買える?」
「買えぬぞ」
「ケチ」
「ケチではない」
「商会って刀買ってくれるの?」
「えっと、店に売っている刀なら」
「アレがいい」
「売らぬ」

 くす、と微笑んで。

 見つからなかった子供、取り残される数人を想い敵対都市に背を向けて、ゼファーはそっと胸に再来を誓う。

 ――いつかまた来るわ。その日まで、精々私達を恨みなさい。
 幾らでも悪者になってあげるし、幾らでも嫌われてあげるわ。今はね。


 その日、風はさらりと吹いていた。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
竜剣

状態異常

なし

あとがき

イレギュラーズの皆さん、おかえりなさいませ。お疲れ様でした。
救い出された子供達はマルクさんの領地に行く結果となりました。
MVPはシナリオカラーに寄り添いつつ、世界観を自分のプレイでより自分色に染めてやるとばかりにEXプレイングで一気に情緒に訴えかけて来たあなたに。
素敵なプレイングの数々、ありがとうございました。
五郎八さんは初絵おめでとうございます。

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