シナリオ詳細
満ちるténèbres
オープニング
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よお、サンディ!
聞いてくれよ、新しくテネーブル遺跡が見つかったんだ。俺はこれからそこに行ってこようと思う!
え、どんなところかって? 調査も全然進んでないような場所だからわからない部分も多いが……そうだな、『暗い』らしいぜ。
灯りをつければって? それがそう簡単にもいかないのさ。あそこの暗闇はちょいと特殊だ。
普通のランタンや……そうそう、発光できるヤツとか。そういう光源がほぼ使い物にならないのさ。光が消えるわけじゃないから全くってほどでもないが、手元が見えるくらいかね。遠くを見通そうったってそうはいかねぇ!
それにあの遺跡には何かがいるぜ。どんなヤツがいるかはっきりとはしてないが、音を頼りに動いていると見た。
何、俺様の敵じゃねえさ! そんなもの軽々避けて、お宝を頂いてきてやるよ!
ま、順調にいけば年の暮れには帰ってくるさ。そうだ、忘年会しようぜ、サンディ! 俺が奢ってやるよ!
それじゃ来たばかりだが俺は行くぜ。誰が先に入るか分かったもんじゃない。1番に乗り込むのは俺様だ。
そういうわけだから――年末の予定、ちゃんと空けておいてくれよな!
●
「うーーん……」
とん、とん、とん。
サンディ・カルタ (p3p000438)はこめかみを指に当て、記憶を遡っていた。目の前のジョッキに満ちた酒はまだ飲まれた様子もない。
彼の背後にあるテーブル席はどこも満席で、年の暮れに賑わいを見せている。対してカウンターはサンディのように静かに1人で、という者が多いだろうか。
「やっぱり、遅いよなぁ」
「――何がだい?」
応えの声に小さく肩を跳ねさせ、サンディはパッと振り返った。シキ・ナイトアッシュ (p3p000229)はやあ、と片手をあげてサンディの隣に座る。
「マスター」
早々に飲み物を注文し、シキはサンディへと視線を向けた。
「随分と唸ってたじゃないか」
「いや……うーん、まあ」
シキの前にグラスが置かれる。2人は軽くグラスを掲げ、一口含んだ。それを嚥下してサンディは口を開く。
「ベンタバール、最近見ないなと思ったんだよ」
「ああ、彼か。また遺跡に?」
頷くサンディ。ベンタバール・バルベラルがいつものように飛び出していったのは、1ヶ月以上も前の話だ。大体1ヶ月もすればこの酒場に戻ってきて飲んだくれている男なので、もう戻ってきておかしくない時期なのである。
遺跡荒らしなんていつ命を落とすとも限らない。サンディもそれは承知の上だろうが、ベンタバールは知り合いだ。死人で見つかるようなことがあれば寝覚めも悪い。
「今回はどんなとこに行ったんだい? 気になるなら見に行こうよ」
私も一緒に行くからさ、とシキはグラスを煽る。氷がカラン、と崩れた。
「まあ、このままじゃ気になって仕方ないしなあ。どうせ何かに巻き込まれてるだろうし、ユリーカに依頼として出してもらって仲間を募った方が良さそうだ」
「わかった。じゃあまずはローレットだね」
何事もなければ良い。その時はベンタバールに忘年会を……いや、帰ってくる頃には新年会か。依頼を受けたメンバーに奢ってもらうとしようじゃないか。
- 満ちるténèbres完了
- GM名愁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年01月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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足の裏に柔らかな砂の感触を覚える。頭上から降り注ぐのはからりとした太陽の日差し。ここ、ラサの砂漠は晴れていれば冬でも比較的過ごしやすい。
とはいえ、それを堪能しているような暇もなく、イレギュラーズたちは砂に足跡を残しながら件の遺跡へと向かっていた。
「それにしてもさぁ、サンディ君。君の友達、迷子になり過ぎじゃない?」
「懲りねぇ奴だよ」
呆れ声の『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)。それでも絶交はないんだろう? と『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はくすくす笑う。その愉快さと怯まぬ勇気、憎めない性格がサンディと彼に今なお繋がりを持たせているのだろう。
「遺跡荒らしの方なのですよね。奥へ進む理由は分からなくもないのですが……救出する側としては、相当手間ですね」
一体どこまで進んでしまったのか。帰らぬ男に『砂上に座す』一条 佐里(p3p007118)は小さくため息をつく。少なくとも、普通の者が踏み入れるより奥まで進んでいるのだろう。依頼を受けた以上は頑張るしかない。
「忘年会おごってくれるんでしょ?」
「もう新年会だな。派手にやらせたろ」
サンディの言葉を聞いてシキが嬉しそうに万歳する。実はここまでの道すがらでお腹ペコペコなのである。たっぷり奢ってもらおう。他人の金で食う肉は美味いと決まっているのだ。
「食べたいものとかあったら、今のうちに考えておいてくれよな」
「うーん……水炊きですかね」
その言葉に佐里はぽつり。この場所だからそこまで寒さも厳しくないが、世界的には冬である。鍋の美味しい季節だ。
「あら、見えてきたんじゃない?」
『雪風』ゼファー(p3p007625)の言葉に一同が視線を向けると、砂上に建築された建物――テネーブル遺跡が眼下に姿を現す。周囲はお椀のように盛り上がっていて、イレギュラーズたちはその縁に辿り着いたようだ。
「こっちから下れそうだ」
「ゆっくり行きましょう」
緩やかな坂を見つけた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に佐里は頷く。ショートカットするなら崖とも呼べるような縁から飛び降りることだが、遺跡に入る前から怪我は避けたいもの。救出対象の事を思えば時間が惜しいが、自分たちまであの遺跡に取り残される訳にはいかない。
「調査隊は帰ってきてるんだよな?」
「うん。地図は貰って来たよ」
シキから羊皮紙を受け取ったサンディはサッと目を通す。いくつかに分かれた道とその先に続く小部屋。内1箇所に階段があるようだ。サンディの経験からしても、この見取り図だけであればそこまで特殊な遺跡ではない。しかし。
「光の墓所……光が通らない、暗闇に満ちた遺跡か」
かつん、と靴が砂ではなく石を踏む。イズマは大きく口を開いた入口に顔を上げた。
日差しは僅かに傾き、遺跡の中を照らすように差し込んでいる――そのはずだというのに。遺跡の内部はようとして知れない。まるでそこに闇色の壁でもあるかのようだ。
かつん、かつん、かつん。幾人もの足音が遺跡の玄関に小さく響く。イズマだけではない、他の面々も闇の特異さを目の当たりにしていた。
「……ベンタバールさん、無事だといいな」
「だな。まあ、1階の探索は地図もあるから難しくない。本格的な捜索は『この下』だ」
サンディがぴっと足元を指す。階段は地下へ向いているという。ベンタバールも宝を求め、そちらへ向かったはずだ。
「ベンタバールさん、階段の小部屋にいると思うな。そうでなければ……もう死んでしまってるか」
セーフティポイントの話を思い出す『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)がそう呟く。特殊な状況下、モンスターもいるとなれば安全地帯に逃げ込まない限り長くは生きられまい。
とはいえ、ベンタバール自身もそれなりの実力があるはずだ。行って帰ってこれず、生きているのならば、負傷しているか想定より敵が強かったのか。
「急ぎましょう。行方不明のご友人を早く見つけ出さなければ」
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)に頷くイレギュラーズたち。順に踏み込んでいけば、まるで外界と隔てられたかのように闇と静寂が彼らを包み込む。
(心を削ぎ落としていくような……冷たい気配)
『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)はその空気に知らず知らず息を詰めた。窒息してしまいそうな窮屈さ。心を確かに保っていなければ呑まれてしまいそうだ。
足を忍ばせ、ゼファーはその最前列を進む。普段なら関わり合いになりたくない場所だが、仕事となれば仕方がない。後ろに控える仲間たちのためにも、帰って来られなくなっている不憫な男の為にも、1枚脱いでやろうじゃないか。
その傍でイズマは暗視を用い、狭い道を見渡す。今のところモンスターらしい姿もなく、罠らしい罠もない。2人で安全を確認すると、ゼファーは振り返りながら静かに手招きした。
『ここまでは問題ない。ついてきてくれ』
同時にイレギュラーズたちの脳内へ声が響く。実際に空気を震わせているわけではない。想いを直接届けるイズマの術だ。彼はその力を用いて柱などの障害物についてもガイドする。
(この部屋にはいない、か)
最初に辿り着いた小部屋はからっぽだ。部屋がそこに存在しているだけで、物のひとつも置いてやいない。こんな浅い階層はあっという間に遺跡荒らしが持って行ったか、調査隊が回収したかのどちらかだろう。シキは地図にバツ印を付ける。
(……それにしても、ランタンがこんなに暗いなんて)
本来ならば光源であるはずなのに、それは蛍の光より弱々しい。ランタンぎりぎりまで近づけて、どうにかその周囲が見えるという程度だ。1歩離れてしまえばそれすらも危うい。暗視の力を持ち主が多いことが幸いだ。
(光の墓所、かぁ。面倒そうなところに入り込みやがって)
入ったなら出てこいよ、と思ってしまうのは仕方ないことだろう。ひたり、ひたりと足音を忍ばせながらサンディは耳を澄ませる。
ひたり、ひたり。かつん。
小さな物音も、この遺跡ではずいぶん響くようだ。床や壁が反響する材質なのだろう。
佐里の広域俯瞰は狭いながらもまっすぐ進むイレギュラーズたちの姿を捉える。とはいえ暗がりに変わりはない。周囲にモンスターらしき存在は見当たらないが。
(静かに近寄ってくるなら、ネズミやコウモリではない……?)
(闇に適応して、牙を持っていて、足が遅い……なら、コウモリみたいなタイプか、目が退化した爬虫類みたいなタイプ?)
佐里とЯ・E・Dはこの遺跡に住み着くモンスターについて考える。ある程度仮説を立てておけば、いざというときにも対処しやすい。
無闇に敵を引き寄せないよう、一同は一言も発することはない。何かあればイズマを経由してハイテレパスという手がある。
サルヴェナーズは後方に何の気配もないことを確認し、イズマの方へと視線を向けた。若干暗がりが強いが、それでもどうにか視認できる。
正純は隣を進む彼女の様子に、大丈夫そうだと視線を前へ戻した。基本的には後方警戒のみで、主体的な探索は仲間任せだ。サンディたちとは経験値が違うのだから、同じようにというわけにもいかない。
(任せる分、後方からの不意打ちは絶対にさせない)
最後尾を預かる者として、それは絶対だ。理想としてはそもそも出くわさず、この階層の探索を終えることだが――。
『イズマ、何か向かってきてる』
ぴりっとした感覚。シキはイズマへハイテレパスで伝える。それを受けてゼファーはぴたりと足を止めた。
(やり過ごせるかしら)
イレギュラーズたちの仕事は遺跡に潜り、負傷していると思しき対象を連れ帰ること。できる限り戦闘は避けたい。
しかしてモンスターたちは願い虚しく、こちらへ近づいてきているらしい。階段のある小部屋に向かうならこの道を通らなければならないが、十中八九鉢合わせるだろう。
皆が武器に触れかけたその時。サンディが静かに何かを懐から引き抜いて掲げた。発生源として指定するは分岐した道の、さらに奥。
――かつん、かつん、かつん。
遠くから小さく、複数の足跡が聞こえた。皆が固唾を飲み込む中、モンスターたちはそちらへ向かって方向転換する。
『リピートサウンドか』
『ああ。でもカード切れだ、同じ手は使えない』
イズマからのハイテレパスにサンディはひらりとカードを振る。ここで録音しようとすれば敵を呼び寄せてしまうし、わざわざ再録音のために入口へ戻るのも馬鹿らしい。
(敵の姿は……見えなかったか)
イズマはモンスターたちが向かっただろう方を見やる。のちの参考になると思ったが、見えなかったものは仕方ない。
階段のある小部屋――セーフティポイントへ辿り着いた一同にシキは休息を提案する。1階層にベンタバールがいない以上、必然的に下層へ潜る必要がある。より集中力の必要な階層となるだろう。気を張り詰めてばかりではいられない。
それならば状況をまとめようとゼファーは壁に寄りかかりながら告げる。この1階層だけでも床の段差や壁の出っ張りなど、意図的に音を出させようという箇所があった。都度イズマと皆に知らせていたからどうにか防げたものの、厄介なことこの上ない。
(作った当人だって、ロクに管理できてなかったんじゃないかしら)
そもそも作ったのは誰なのか知らないが。
●
多少の休憩と情報共有を挟み、一同は階段を降りる。ここからは未知の領域だ。
(星の声は……遠いですね)
導きが得られないかと正純は気配を探るが、地下に降りたからか、それとも周囲を取り巻く闇のせいか。さらに瞬く煌めきの声は遠く霞む。
せめて、同じ道を通らないようにしなければ――小さく頭を振った彼女の脳内に、ハイテレパスの伝令が伝わった。
視線を巡らせれば、サンディが小さく首を振る。避けるためのカードはすでに、無い。更に言えば彼らの立つこの場所はただの一本道。逃げる場所もなければ隠れる場所もないのである。
こうなってしまえば戦うだけだとЯ・E・Dは手をかざす。その指先から幾重もの糸が紡がれ、淡く光りながら前方へと拡がった。遺跡のそこかしこへ張り付いたそれがごく僅かな範囲を照らし、暗視の力を持つ者たちはモンスターの全貌を目に映す。
(あれは……なんでしょう)
激しく瞬く光を起こす佐里。その瞳に映ったのはネズミでもコウモリでも、爬虫類ですらない。
強いて言うならば汚いスライムと言ったところか。悪臭こそしないものの、濃い色の何かを纏ったそれはヘドロにも見える。鋭利な刃物らしい箇所は見当たらない。目も耳も、手だってどこにあるのかわからない。
しかし、佐里の目の前まで音なく迫ったそれは『ぐわりと口を開いた』。前も後ろもわからぬような表皮が、裂けるように内側を晒した。周囲の闇よりもっと濃い、虚無の深淵にひゅっと喉が鳴る。
次の瞬間、ゼファーの槍が翻った。その乱撃が今にも襲い掛かろうとしていたモンスターの群れを僅かなりとも押し返す。
(手間をかければかけるほど、ややこしいことになりそうな敵だこと!)
イズマの鳴らすマルカートが敵を弾き、後方へと押し出す。サルヴェナーズの目元に当てられていた布がひらりと落ち、隠れし魔眼が煌めいた。
(裂けた内側……牙は見えたけど、その中の暗闇も嫌な感じがする)
シキはまかり間違っても変わらぬようにと距離をとりながら黒の斬撃を放つ。追うようにして黒き星が瞬いた。
狭い場所であるが視認できている、かつ数で優っていればそう難しい敵でも無い。問題は戦闘の音に新たなモンスターが寄せられることだ。
まだ倒れるものかと、自らに潜んだ可能性を掴み取るサルヴェナーズ。彼女のためにも長い時間はかけられないとサンディのクナイが飛ぶ。その隙に佐里から放たれた力がサルヴェナーズの傷を癒した。
彼女の舞踏のような格闘術と、正純の瞬かせる星々が相手の動きを鈍らせていく。シキの持つ得物が一閃し、道を切り開いていく。そこへ躍り出たモンスターがサンディへと肉薄するが、闇に渦巻いた風――ただの風というには荒々しい――が苛立たしいと言わんばかりに渦巻いた。立ち往生したモンスターをイズマの黒顎魔王が喰らい尽くす。
それでも残ったモンスターに、恐れや怯えの類は生まれないのか。未だイレギュラーズを喰らわんとするその口を、その深淵をゼファーの気が貫いた。
――悪いわね。
闇に溶けてしまいそうな、囁く声。いつまでも遊んでいるつもりはないのだと手にした槍を縦に薙ぐ。
「皆、退いて」
Я・E・Dの呟き。それが響くも、その後に放った魔砲には敵わない。残存していたモンスターを飲み込み、突き当たりまでぶち当たった魔砲は間もなくして闇に消えた。
周囲には一時の静寂が生まれる。しかしこれだけの戦闘を繰り広げたとなれば、音でさらに敵が現れるのは時間の問題だ。
『皆、こっちに』
イズマのハイテレパスとゼファーの先導で、一同は先へと音を立てず急ぐ。その最中、佐里は周囲をそれとなく見渡してみたものの、先程の戦闘音でベンタバールが現れるということはなさそうだった。
(まぁ、敵の性質はわかってるでしょうからね)
助けを呼ぶだけでも命取りな行為となる。彼は見つけてもらうのをひたすら待つしかないはずだ。
幸いにして接敵することもなく、何度目かの小部屋で下るための階段が見つかる。まだこの階層を全て探索したわけではなかったが、彼がセーフティポイントにいるという仮説で探索をするならば、降りた先の部屋か、降りる前の部屋にいるはずだ。Я・E・Dはこの階層にはいないだろうと検討をつける。
『ベンタバールさんが居るなら、敵が沢山集まってるかもしれない。それだけは注意だね』
『ああ、そうだな』
イズマはハイテレパスでЯ・E・Dの言葉を皆へと伝える。一同は音を立てないよう、階段を降りていった。
更に下の階層は、より濃い闇に満ちているような気がする。眉根を寄せたイズマだが、不意に肩を叩かれて振り返った。
『ベンタバールが近いぜ』
こんな場所で人助けセンサーに引っかかるような奴は、彼1人だけだろうとサンディは気配を探る。そうそうこんな場所まで、しかも1人で来るような酔狂がいてたまるものか。
サンディが感知した方角をもとに、変わらず敵の気配を探りながらイレギュラーズたちは進む。その先にうっすら見えた小部屋には、また下層へ続く階段と――1人の男が寝っ転がっていた。
『ベンタバールさん、か?』
視認したイズマがハイテレパスで問い掛ければ、その影はばっと身を起こした。その瞳は確かにイレギュラーズを捉えている。彼もまた、暗視効果のあるアイテムを持っているのだ。
『静かに、音を立てないようにしてくれ。念じれば伝わる』
『……こう、か?』
念話での会話は当然ながら慣れないのだろう。しかし聞こえた声にイズマは頷き、その間にもイレギュラーズたちはセーフティポイントへ入った。Я・E・Dが水や食料を出し、ゆっくり食べて欲しい旨をイズマ経由に伝える。
『少し休んだら、遺跡を脱出しよう』
ここまでに作成した地図があるから、行きよりも短い時間で出ることができるだろう。ベンタバールが休んでいる間にイレギュラーズたちは脱出ルートを確認する。そしてベンタバールを隊列の中央で支えると、多少の戦闘がありつつも遺跡を脱したのだった。
●
「太陽が眩しいぜ……」
遺跡の外に出ると、ベンタバールが下を向いて目を瞬かせる。かくいうイレギュラーズたちも、闇に慣れた目ではなかなか刺激が強い。日陰を見て視界を慣らし、改めてふぅと息をついた。
「……んで。この遺跡に潜った甲斐はあったのかしら」
これだけ危険を冒したのだものね、とゼファーがベンタバールへ視線を巡らせる。それを受けた彼はニィと笑った。
「おうともよ! 売っぱらえばサンディだけじゃねぇ、ここにいる奴ら全員に酒を奢って余りあるってもんだ」
「けれど、今後は十分に気をつけてくださいね? 今回は無事に見つけられましたが、次もそうとは限りませんし」
サルヴェナーズの言葉に――麗しい女性だったというのもあって――素直に頷くベンタバール。しかしサンディは知っているのだ、こいつ1ヶ月もすれば綺麗さっぱり忘れてどこかの遺跡に潜るんだろうな、と。
「それなら是非ご馳走して頂きましょうか。美味しいものが良いですね!」
「助けてもらったしな。皆でぱーっと忘年会と行こうぜ!」
「あー……ベンタバールさん。もう年は明けてしまったんだ」
イズマの言葉にベンタバールは目を見開き、あんぐりと口を開ける。
「やるなら新年会かな! もうお腹の虫が大合唱を始めそうだよ」
「そうそう。忘年会がなかったんだ、その分きっちり奢ってもらうぜ?」
お腹に手を当てるシキに、にんまり笑うサンディ。そんな彼らに佐里はくすりと笑う。
「何にせよ、ベンタバールさん救出を祝いましょう。お酒を飲まれる方はお酌しますよ?」
知らぬうちに年が明けていたことへ呆然とするベンタバールの背中を押し。一同は意気揚々と近くのオアシスへ向かったのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
ベンタバールを無事に救出しました。怪我を治したらきっとまた、どこかへ行ってしまうのでしょうね。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
ベンタバール・バルベラルの救出
●情報精度
このシナリオの情報制度はCです。不測の事態に気をつけてください。
●テネーブル遺跡
別名『光の墓所』。内部には光源の効果が非常に落ちる、特殊な闇が満ちています。
内部は軽い迷路構造であり、2人ほどが並べる程度の道幅です。ベンタバールが潜入後、調査団が後追いしており、1階の構造は把握されているものとします。1箇所、下層につながる階段が発見されています。全貌は不明です。
この遺跡は非常に音が響きます。足音、喋り声、火を焚く音。後述のモンスターを対処するにあたり注意してください。
また、階段のある小部屋はセーフティポイントのような場所であり、音を出してもモンスターは入ってこられません。ただし部屋の前には寄ってきます。
●エネミー『???』
テネーブル遺跡に生息するなにか。正体不明ですが、音に対し非常に敏感です。距離のある音も感知し、それを頼りに近づいて攻撃してきます。
静かに近づいてくることから、追いつかれるほど素早いということはないでしょう。しかし逃げるために走ると他の個体を呼び寄せる可能性があります。
調査団から2名の犠牲者が出ており、その死体はどこかしらの一部が食いちぎられたようだったそうです。
モンスターを見つけられない状態での攻撃を受けた際、【混乱】BS判定が発生します。
●NPC『ベンタバール・バルベラル』
サンディさんの関係者であり、ちゃらちゃらした雰囲気の遺跡荒らしです。彼については謎に含まれた部分が多くありますが、ナイフの腕前は確かです。
1ヶ月以上音信不通であることから、なんらかのトラブルに巻き込まれた可能性があります。どこにいるかは不明です。
光源の効きにくい遺跡へ向かうことから、暗視効果のあるアイテムを身につけていると想定されます。
●ご挨拶
愁と申します。リクエストありがとうございます。
帰ってこないベンタバールを救出しましょう。元気だったら新年会奢ってもらいましょうね。鍋とか良いと思います。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
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