シナリオ詳細
<Scarlet Queen>Tip or Life?
オープニング
●
この世の中には。
優しい人間と暴力的な人間がいる。
優れた人間とそうでない人間がいる。
足が速いのと遅いのと。手先が器用なのとそうでないのと。
体重が重いのと軽いのと身長が高いのと低いのと――
「けれど。どれだけの人間がいても、どれだけの命があっても皆最後は死ぬのよぉ」
紅い血を零して。
それだけは世に蔓延る等しき法則だと――語るは女だ。
紅き衣を身に纏い、その手にはワイングラスを抱いている……
彼女の名は『赤の女王』ルベル・ゼノ・ドラクルート。
この世の外より訪れた旅人であり――海洋の領域において自らの王国とも言うべき大型客船『スカーレッド・クイーン』を所有する者でもある。その船では大規模なカジノが開かれており……連日において賭けが行われる盛況ぶりがあるものだ。
――しかし。その『賭け』とは何も『マトモ』なものばかりとは限らない。
「駄目よぉ。それでは駄目……決して人の奥底が見えたりなんてしないものぉ」
ポーカー? ブラック・ジャック? ルーレット?
ああ素晴らしいゲームの数々だ。吐息を零す程惚れ惚れとする。
――だがそれでは彼女の欲は満たせない。
それでは決して辿り着かないのだ。
人の奥底より湧き出る……『絶望』の色は。
●
「皆様――本日は当船スカーレッド・クイーンにお越しいただきありがとうございます。
当船の『ゲーム』に参加するプレイヤーとして皆様を心より歓迎いたします」
海洋東部ヘルベス海域。
その海域は海洋首都リッツパークより大分離れており、そして『スカーレッド・クイーン』は――暗闇の静寂の中に存在していた。周囲に航行する他船も見当たらなければ、例え大声が発されようとも誰も気付く者などいまい――
だからこそここでは『ゲーム』が行われるのだ。
外より訪れる釈迦の糸など決してない……命を懸けたデスゲームが。
「さて。それではお集まりの皆様へ、本日のルールをご説明させていただきます。
皆様が行うべきはただ一つ。『チップ』を集める事――これだけで御座います」
そして。そのスカーレッド・クイーンの船内の一室にて。
件のゲームの主催者側と思わしき仮面をつけた人物が説明を始める――
男の声だ。『彼女』の声ではないと『ある人物』は気付いたのだ、が。
騒ぎ立てはしない。今暫く様子をみようと耳を澄ませて……
「ご覧ください。こちらのチップ……実際に本船で使われているチップでございます。なんらかの賭け事の際の通貨として使用したり――或いはチップを消費する事で特別なサービスを受け取る事も可能になっている代物です。これらを最低一枚以上お集め下さい――その後はどの段階でゲームの終了を選んでもらっても結構。チップをお持ちの方は『上』へとご案内させていただきます」
男の指先には一つの金属製チップがあった。
中央には……トランプの『クイーン』を模したような絵柄が掘られている。それがこの船内での事実上の通貨となっているのだ――このチップは換金する事が出来たり、他、船側からなんらかのサービスを受け取る事も可能なのだとか。
――まぁチップの使い道に関しては、少なくとも今はいいだろう。それよりも。
「チップを集めるとは……どうやって?」
「方法は『幾つか』あります。
その内メインとなる集め方ですが会場に――特別に今回、配置しております。それは箱の中であったりするかもしれませんし、部屋の隅に無造作に置かれていたりするかもしれませんね。とにかくそれを探し出すのが一点。まぁ……他にも、チップを持っている参加者から話し合いをするなどと言った手段もあるかもしれませんね」
「――集めたチップはそのまま自分のモノになると考えても?」
「勿論です。そのチップは今後『上』の方でも使用する事が可能となりますよ」
『プレイヤー』と例えられた者達……それは、スカーレッド・クイーンの船底側に集められていた。どうもこの船底側を探索すれば――チップを手に入れる事が出来るそうだ。
そしてそのチップがあればこれより『上』……本格的なカジノの場でも使用できる、と。
――しかしただチップを拾うだけのゲームなどが行われる筈もない。
プレイヤーの中には噂に聞いている者もいる筈だ……
デスゲーム。
所謂かな命を懸けて挑むゲームが此処では開かれていると。
――つまりチップを探す過程で『何か』があるのは明らかだ。
そしてそもそも『何枚配置されているのか』が言われていないのもキナ臭い。更にはプレイヤー同士での話し合い? 金にも成るそのチップを他人に渡す者がいるのか? いやそれよりなにより……
「あ、ちなみに。皆さま……ご存じの方もいらっしゃるとは思いますが。この船を『降りる』際にはチップが必要になりますので、最低一枚以上は持っておいてくださいね」
乗るには何もなかったが。降りるにはルールがあるこの船で。
……殆どの客は早々に上の方へと上がっていった。いやむしろ彼らは『招待』されたと言うべきか――つまりは正規の『客』だ。恐らく初めからチップが手渡されている、或いはなにがしかのルートで手に入れている存在達。ゲームを観戦する側の存在。そしてこちらは見世物側、と。
……だがいずれにせよ『彼ら』はこの船で動かねばならない。
その為に来たのだ――彼らイレギュラーズは。
この船を統括する『オーナー』の素性を――探る為に。
故に。命賭けのデスゲームを演じなければならない。
チップが多ければオーナーと会う事も、オーナーと勝負する事も出来るのだとか。
いずれにせよ彼女に直に対面する為にはこの場を生き残らねばならないのであれば、さて、はたしてどう動いたものか……
「……ルベル」
瞬間。ヴァイオレット・ホロウウォーカー (p3p007470)は呟く――
オーナーであると噂される。鮮血の如き紅のドレスを身に纏う少女の顔を。
知古の顔を想起するようにしながら……
- <Scarlet Queen>Tip or Life?完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年12月31日 23時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
漣すら耳に届かぬ。
ここがスカーレッド・クイーンの一室。
ここが命を代価に遊ぶ……いや『遊ばれる』地か――
「……風の噂で聞いたことがあるぞ。
どっかの豪華客船で闇カジノが行われてるって噂をよ。
まさか自分がそこに来る機会があるなんざ、思ってもいなかったがな――」
『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は呟くものだ。
この場に、この船に渦巻く……『裏』の雰囲気を感じ取りながら。
そして何より――
「……スカーレッド……傷と赤……鮮やかな緋に扮した鮮血を表す名。
どこか、感じられますね……この名を使い、斯様なゲームを行う者の事を……」
その名にニコラス以上に反応せしは『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)だ。デスゲームだけならば。或いはスカーレッドの名だけでも『そう』は思わなかったかもしれない――だが二つが重なり、なにより己が直感が告げていたのである。
これはワタクシの知る『彼女』が――奥底にいるのではないかと。
もし、そうだというのならば。ワタクシは……
しかし。思案している暇なくば、今は前を向こうか。
真実がどうであるにせよ――今はただ『上』に往かねば何にもならぬのだから。
「さ、チル様。御手を」
故に『決死防盾』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)と『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)も動き出す。まずはともあれチップを探さんとする訳だが……故、なるかな。
――盛大な『茶番劇』をはじめましょうか?
「えぇ、ヴィクトールさま。オーダーです、ぼくを守って」
「心得ました。存分に」
「――主よ、人の仔よ、今こそは愛してくれますか」
ヴィクトールが従者の様に。そして未散がまるで主の様に。
振舞うその様の意味を――他者からは理解しうるまい。『それ』でいいのだ。
そして。似たような事をしているのは……
「全く、どうして私がこんな血生臭い所に来ないといけませんの。
――さぁしっかりと働いて下さいましね。それが貴女の役目でしょう?」
「へいへい、こんな温そうな嬢ちゃんと組んで大丈夫かよ……
報酬はガチで折半だからな。分かってんな?」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)の二人もだ。まるで周囲からは『組んでいる者』としか見えないだろう――
そう。イレギュラーズ達は幾つかのコンビに扮して紛れ込んでいるのだ。
他の参加者からの警戒を薄める為に。少なくとも八人で纏まって行動するのは悪手だと判断しうる……それほどの大人数でチップを求めて動けば要らぬ敵を作らぬとも限らぬのだから。
――故に動き出す。
歩を進め、船底の部屋を見ていくのだ。
……尤も。この先にあるは栄光と金貨溢れる黄金部屋でなく。
欲望渦巻く死の匂いであれば――奥の奥まで踏み込む気はないのだが。
それでも。己らが目的を果たす為に……その虎口へと歩みを、一つ。
●
――デスゲーム。
その仔細を『死地の凛花』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は聞いた。
命をチップとするゲーム。命を弄んで、楽しむ遊戯。
……命は何よりも尊いものだというのに。
斯様な出来事を楽しまんとする者がいるなど――信じがたい。
「……とはいえ、この手の事件に国家が動いてくれるとは思えない」
国家が動くのであればとうの昔に動いている筈だ、と。
裏で手を回しているのか巧妙に隠れているのか知らないが。
――だったら主催者に直接会ってやめさせる。
「澄恋さん――今回はよろしくお願いしますね」
「ええ。ココロ様よろしくお願いします……か弱いわたしに命賭けの罠攻略などは向いてなさそうなんですけどねぇ。まぁちっぷは他人から奪……んん゛っ分けていただく形で参りましょうか」
……なんだか今ちょっと不穏な言葉が聞こえてきた気がするが。しかしパートナーたる『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)と初めて組むココロは、彼女の心が如何な所にあるのか――興味は尽きない。
ともあれ澄恋と共にこの船底を進んで行こう。
他の皆も同時に動いている筈だが……さて。
「――ココロ様、お待ちを。周囲で助けを求める『声』があるようです」
瞬間。澄恋が動きを制止する――
『声』とは何も生の声とは限らない。彼女は周辺で助けを求める感情の声が響いていないか常に探知の術を巡らせていたのだ――なぜなら。もしも反応があれば『罠』の存在が近いという事。
……どれほどの損傷を受ける罠があったのかは知らぬ、が。
「ココロ様、どうやらあちらの様です。」
「ええ、私も見えました――大丈夫ですか? 傷を負っているのですね、見せてください」
「う、うぅ……? アンタは……?」
「眠らされてこんな場所に連れてこられてしまった者です……わたしは医者なので、みなさんが傷つくのが忍びないです。治療してほしい方は仰ってください。あまりに深すぎない傷ならば――この場でも何とかなる筈です」
彼らの警戒を解く為にも、ココロは医者として名乗りでる者だ。
半分は嘘、半分は本当。ファーストエイドキットを開きて傷の治癒を試みよう――
彼女の宿す医者としての技量があらば医者であるというのは真実『本当』であるのだから。
「貴方、私を上まで連れて行ってくださいませ。チップはどうしましたの――?
全く。使えないお人で御座いますわね……こんな薄暗い所にいつまでも」
「はぁ!? なーにぬかしやがる手伝えや、手分けしてやるっつー約束だろぉ!? なぉ、そこのアンタどう思うよ。これで報酬折半とかねぇよなぁ? ただでさえ全然見つけられてねぇのによぉ」
「イヤですわ、死体転がしなんて仕事は貴方に任せますわよ」
同時刻。イーリンとコルネリアのグループは澄恋達とは別方面へ。
互いに、付かず離れず仲が悪そうなやりとりをしながら行うのは――死体漁りだ。
まだそうそう『死人』が出る領域ではないが。迂闊に罠へとかかった間抜けなる者がいれば、奪うなど他愛もない事である――痛みに慣れていないが故か、ほんの少しの傷で気絶している者もいるぐらいであれば。
同時にコルネリアは愚痴を吐くようにしながら、隣を進んでいた他参加者へと言を。
「あ、あぁ……そうだな、酷いもんだと思うぜ……へへ」
「ったく、可愛くねぇお嬢様だよなぁ……っとぉ。罠があるぜ、踏むんじゃねーぞ」
「誰に言ってますの? こんな程度の罠に私が掛かる訳ないではありませんか」
それでもあくまで演技であれば互いにカバーできる距離を常に保つ。
そっぽ向くのは只のフリ。別方面の警戒を成しているのだ――
「――火を」
と、その時。イーリン達とすれ違ったのは――未散だ。
チップを集めんと周辺を回りながら……彼女は透視の力をもってして効率的に部屋の中を調べている。チップの在りそうな場所がどこか。罠が仕込まれていないか。瞬間的に記憶し……そして仲間と出会えばハイテレパスで言ではなく意志を直接交わすもの。
――情報を直接やり取りしているのだ。
そして情報を受け取った暁にはヴィクトールに合図を送る。『火を』との短い一声で。
「……チル様。先程から少し、煙草の吸いすぎでは? 臓腑に宜しくないですよ?」
「ヴィクトール様、心配して頂けるのですか?」
「勿論」
求められし火に、焔を灯せば。同時にヴィクトールは身をも屈めるものだ。
背丈による差異がそのままによる世界の共有を許さぬのでは、仕方がないから。
――おっと。お話の途中ですが、罠に腰が引けているお歴々がいらっしゃいますね。
「もし。どうされました……? あぁこれは失敬。私、ヴィクトールと申します。
麗しき花がしぼんでいる様子を見るには到底耐えきれませんでして……」
であればと。臓腑から煙が出てきそうな睦言でも吐くものだ――
少しは口説かれてくれる方もいるんじゃあないでしょうかね?
彼らもそこそこ歩いたのなら、情報を宿しているかもしれませんし……
と、その様子を未散は『つまらなさそう』に見据えるものだ。
「…………失礼。そろそろ行きましょうか。我々も、先を急がねば」
「――おやチル様、もう少しお話があったのですが」
「火!」
「チル様、誰とも接触していませんが」
煙草の吸いすぎ? 気のせいでは!!
それより早くさっきの人が落とした情報の報告をお願いしますよと――彼女は紡ごう。
揺蕩う煙の果てに。ヴィクトールの端正な顔を、見据えながら。
●
各地で情報の収集。チップの回収と簒奪が繰り広げられている――
どうにも。凶悪な罠が増えてくれば参加者同士の奪い合いも苛烈となる様だ。
――その影で暗躍するのはヴァイオレットだ。
薄暗き、闇の中を彼女は往く。
己が気配を極力殺し。まるで漆黒の魂を宿しているかのように……
「……ふむ。ひとまずチップ自体は幾らか入手する事が出来ましたね。
尤も『予想通り』と言いますか……十分な数ではありませんが」
「そうそうゲームを降りさせないって事かね――いや『上がらせない』って表現の方が正しいのか? まぁいいさ。一枚でもあれば上に履は行けるんだろ? ――じゃそっちは任せたぜ」
次会う時はスイートルームに案内してやるからよ――紡ぐのはニコラスだ。
ヴァイオレットから更に渡されたチップを用いて、彼は一早く上へと往く。
そう多い数ではないがしかし、ある程度の動きは出来ると目して……
しかし――主催者側は何も言っていなかったが、浅い部屋ではチップがほとんど見つからないものだ。ヴァイオレットにとっては『この船の所有者が想像通りの人物なら』――そういう事をするだろうと踏んではいたのだが。
「……やはり、ルベル……貴方ですか?」
虚空へと、呟くものだ。天を見据えるようにしながら……
……尤もそれも一瞬の事。
それよりも『急がねばならぬ』という確信もあった。
誰ぞから収奪してでもチップを最低限確保しておく。
恐らく『奥に行き過ぎてはダメなのでは』ないかと――思うから。
「やめてくださいまし! 不遜なる手で触ろうとするとは、何を考えているのですか!」
直後。言を放ったのは――イーリンだ。
他の参加者から襲われる様な形になったのか。迎撃の為にその者を吹き飛ばしていて。
「今のが本気だと思う? 思うのであれば――もう一度向かってきて御覧なさい」
「おっと、待ちな待ちな。お触りはそこまでにしといてくれや、な?
この嬢ちゃんを怒らせるとめんどくせぇからよ……なっ?」
同時。コルネリアは銃口を相手の腹へ押し付けて――脅す。
これ以上関わってくるなと。チップが欲しいならゴミ箱でも漁ってろ。
――一方で澄恋達の方は参加者を助ける方向に動いていた。
ココロは先程と同様に傷を癒し、澄恋もまた――
「――危ない! そこには罠がありますよ!!」
「う、うわぁ!! や、槍が……槍が俺が、さっきまでいた所に……!」
身を呈して、助ける様に。
助け切れぬのは仕方ないが。それでも間に合えばと――往くのだ。
その献身こそが参加者たちより信を得て情報を齎すもの。
――恩を売って他罠の位置や『上』の事、船の行先等の情報やちっぷを得たいですし、ね。
「いえいえこの程度大丈夫ですよ……お気を付けくださいね」
「――澄恋さん、腕の所から流血していますよ。治癒しますのでこちらへ」
「おっと。掠めていましたかね……有難うございますココロ様」
そして。余程の危険な傷でなければ――ココロの治癒が行き渡るものだ。
道具のみならず技能をももってして。治癒の術が降り注ぎ……傷を癒せば万全となろう。
――勿論、油断はしていない。
敵対者がこちらにいないか。助けた人物達も恩を仇で返さぬとも限らぬから。
……例えば。盆面の悪い方や所謂クジラにまで容赦など必要ない。
「ちっぷは一枚だけ残して差し上げましょう。後は――分かりますね?」
無闇に突っ張って死にかける三下には、帰りの切符一枚で充分でしょう?
それを奪わぬ事は慈悲だと、澄恋は思考するものだ。
言葉が駄目なら態度を物理的な撃をもってして。
今この場で死札にしてやると――笑顔を浮かべて優しく説得を。
「あなたの命を以って、船名に相応しき鮮紅の花を咲かせるなど……とても素敵だと思いませんか? ええ。主催者の方々もきっと――ご納得いただける事でしょう」
「わ、分かった待ってくれ! これ、これをやるからよ……!」
故に油断せず。ココロは敵意を感知する術を張り巡らせて――と?
――う、うわあああああ!! た、助けて! 狼が、狼が――ギャ!!
その時だ。遥か奥の方から――悲鳴が聞こえた。
同時。ココロの敵意を感知する術に……強烈な意思が見つけられる。
魔物の出現だ。これまで歩まなければ作動しなかった罠と異なり。
明確に。殺意を持った――主催者側からの刺客が起動する。
「やれやれ……こうなりましたか。ヴィクトールさま、チップはありましたね?」
「勿論ですよチル様。では、参りましょうか」
故に。イレギュラーズ達の行動も決定するものだ。
――あんな魔物と戦う必要? そんなものはない。
愚かな者が地獄の釜を開いたからといって、己まで手を伸ばす必要はないのだから。
故に未散とヴィクトールは踵を返して『上』を目指す。
「おーう、おいでなすったねぇ、ってことはこっからが本番だな。こっちまで来てもらおうか」
「さて――もう少し猫もかぶっておきましょうか。あれに皮が剥がされても良いように、ですわ」
「マジ? オーライ、じゃあ嬢ちゃん、前に出たりすんじゃねぇぞ――てっなぁ!」
だが。元より戦う事すら視野に入れていたコルネリアとイーリンだけは別だ。
扉から出てきて纏まっている瞬間に銃器を振るう。
着弾時に炸裂し狼らを薙ぎ払って――同時、イーリンはチップの下へと。
掴めるだけ掴み取って――離脱を試みよう。
魔物の到来により全ての区画が危険に。阿鼻叫喚の地獄絵図。
が。ヴィクトールらを始めとし次々と上を目指すものだ。
幸いというべきかなんというか。参加者の数がまだまだいたために……狼達の牙はそういった弱者に向く。その隙に。
「ほらヴァイオレット私のお嬢様っぷりの感想は? 結構いいもんだったでしょ?」
「お嬢様にしちゃ随分お転婆だと思ったけどね、イーリンお嬢様。
ま、とりあえず取れる分はぶんどって来たわ――これだけあれば十分でしょ」
「ええ。お二方とも、苦労を掛けました……ありがとうございます」
そして。その出口にて――イーリンとコルネリア、ヴァイオレットは言を交わす。
最早この階層に留まる意味はないと。
やがてココロと澄恋の二人も至れば……往こう。
地獄と地の渦と化した船底とは全く異なる――煌びやかなる場へと。
「――よぉ。待ってたぜこっちだこっち。
ようこそ。欲望の坩堝、刹那の快楽に狂う『こちら』側へ」
そしてそこには――一足先に離脱したニコラスがいた。
いつの間にやらスーツを着込んでいる彼は、ルーレットの前へ。
「はっ。とは言ったが、此処は『遊び場』って程度だな。
ちょいちょい稼がせてもらったぜ。不満があるとすりゃあ……
この階層はまだダメだな。チップの取り扱いが少なすぎる」
「――より上を目指さなければならない、と?」
ああ。とニコラスはこの階層にて入手した情報をココロらへとも伝えるものだ。
オーナーはもっともっと『上』にいるらしい。
そして『上』では当然というか……更にチップが掛けられる強烈な場もあるのだとか。
――そしてオーナーが姿を見せるのはその辺りから。
船底の一つ上である『遊び場』ともいえる只の一般ルームには――ほぼ姿は見えぬ、と。
「だからちょーっと荒稼ぎさせてもらったから、よ……と、来やがったな」
「お客様。随分と、お楽しみの様で」
「はは。まぁな――と言っても、こんなん端金だけどよ」
レートの桁が足りないぜ、と。彼は訪れた主催者側の人間に――言う。
ギャンブラーとしての才知を活かす彼であればこそ荒らせる。
少なくとも、こんな『遊び場』程度であれば。
……本命は此処ではない。もっともっと別の場所だと確信しているのだ。
釣り餌に食いつきゃ上々だ。だが食い付かなけりゃ――
『お前の池は荒らされるばかりだぜ?』
そういう意志も込めて荒らしてやったのだから。
あちこち飛んでた監視の式神かなにかも妖精殺しで撃ち落としてやったしな。はは!
「なぁ――興味があるんだがよ。オーナーさんに会うにはどうすりゃいいんだ?」
「興味がございますか」
「ああたっぷりと、な」
「――ではこちらへどうぞ」
荒らしに荒らしたが故か別室へと招待される。
さて。次は一体蛇が出るか鬼が出るか……
それとも『女王』が出てくるか――さてそれはまた別の物語だが。
「ルベル……見ているのですか?」
別の場所へと案内される前にヴァイオレットはもう一度だけ上を見据えた。
そこに在るのは天井のみ、だけれども。
『ええ――見ているわよぉ』
だけれども何故か――視線が交わった気がした。
気のせいか否か。それはきっと……これより先の未来だけが、知るのであろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――ありがとうございました。
船底での選別とも言える場のゲームは、皆様の勝利に終わりました。
ただし、ここはまだ入り口とも言えるだけの段階。これより先には何が控えている事か……
リクエスト有難うございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます。
どのようなシナリオにするか思案を巡らせたのですが、今回は『スカーレッド・クイーン』における初搭乗でカジノにあって然るべき『チップ』の入手を題材にしてみました――よろしくお願いします。
●依頼達成条件
生存する事。
●大型客船『スカーレッド・クイーン』
ある人物が所有している大型客船です。
表向きはドレスコードすら存在する招待制の客船――ですが。その内部は完全なる闇カジノとなっており、中では命を賭けた様々なデスゲームが行われています。今回のデスゲームの詳細に関しては後述します。
今回、皆さんは『船底』側に案内されました。
どうやら周囲にはイレギュラーズの皆さん以外にも集められた人々がいる様です……
莫大な借金のある方――どうしてもお金が必要な事情のある方――
ただ単純に興味のあった方――その他色々理由はあるかもしれませんが。
とにかく皆がなにがしかの理由によってデスゲームの参加者なのは確かです。
実はこの船。存在さえ知っていれば飛び入りでも『乗るのはタダ』で可能です。
……ただし『降りる』には『チップが必要』になります。つまり招待されていない人物は乗った時点でチップを入手しなければ(つまりゲームに参加しなければ)永遠に降りれません――タダより高いモノはないのです。
ゲームで生き残っても降りる条件を満たせない人間がどうなるのかは――さて。
●『Tip or Life?』
今回の『デスゲーム』です。
船底側の各所に船で使える『チップ』が隠されています。
それを一枚以上入手すれば、後はどの段階で終わらせるか選ぶことが出来ます。
チップこの船における通貨の様なモノであり、入手できれば今後スカーレッド・クイーンにおいて色々と有利に動ける様になるかもしれません。ただしデスゲームですので……当然、ただ拾い集めて終わり――な筈はありません。
船底を探していればすぐに分かりますが、罠がこれでもかと仕掛けられています。
箱を安易に開こうとすればナイフが放たれ。
迂闊に扉を開けば魔術が発生し、炎が身を焼き尽くす事も。
更にその質と量は奥に行けば行くほどに凶悪なモノとなっていきます……
・レベル1
チップがほぼ全くない領域です。椅子や机が無造作におかれた小部屋などが中心です。
反面、罠の質も低く精々が『怪我をする』程度で済みます。
・レベル2
チップがそれなりに見えてくる領域です。少し大きめの部屋や、謎の書類が散乱した部屋などが中心となります。罠の質も高くなり始め、触れれば指を切断する糸や、槍が放たれるなど凶悪になり始めます。明確な『犠牲者』も出始める頃合いでしょう。
・レベル3
チップが大量にある領域です――最深部の、倉庫の様な一室だけの事を指します。
しかしこの部屋、開けた時点で罠が作動し『魔物』が襲い掛かってきます。ルドルが子飼いしている大狼の如き魔物です。そして一度開けると二度と閉まらず、狼達はどこまでも追撃してきます。
欲深さによる自業自得の死――それが見える領域なのかもしれません。
本ゲームにおいては暴力行為の禁止などはありません。
そう暴力行為の『禁止』はないのです。
●『赤の女王』ルベル・ゼノ・ドラクルート
オーナーとも呼ばれる女性です。
その正体はウォーカーにして『邪神と人間のハーフ』の少女です。
闇カジノを運営する人物であり人々の血と金を浴びるように愉しむ人物ではありますが、反面、勝負の勝敗には公正な態度を取る人物だそうで、デスゲームの勝利者には確かな報酬が支払われる事でしょう――
本シナリオで本人がこの場には登場するかは未知数です。この船を統括する彼女が本戦を観覧している可能性はありますのでなにがしかの反応を見せるかもしれません。
また彼女は契約書型のアーティファクトを所有しているとされますが、詳細は不明です。
この『船底』の段階では――少なくともイレギュラーズの皆さんは何も契約を結ばされてはいません。これより『先』に進もうとすれば、なにがしかの契約を結ばされるかもしれませんが、今回に関しては特に何か注意する必要はないでしょう。今回は。
●備考
なお。チップを一枚以上持っていれば、後はいつでもゲームから離脱できます。(離脱できる場所まで戻ってくる必要はあります)
『上』と称される場は――カジノルームになっており、船底とは異なり煌びやかなる場です。ドレスや仮面を着込んだ裕福そうな者の姿も垣間見えます。尤もカジノの利用などにはチップが必要であり、チップが一枚しかないのであればあまりサービス自体は受けれないでしょう。
ただ早めに抜け出し、そこで情報収集に勤しむという手もあります。
……恐らく素性を探っていく上で、もしも今後があるのなら。
この場こそがまた舞台になる可能性も――あり得ますから。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet