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シナリオ詳細

これから『狩り』の話をしよう

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●狼の族長
「ヘルニール。狼の同胞よ。
鉄を打つというなら、惜しみない援助はしよう。
だが、ワシらの一族には、もう戦う気力はない。かつてのようには……。
ワシらが守れるのは、ワシらの一族のみ。降りかかる火の粉を払うだけで、我々は精いっぱいだ」

 腑抜けが、とヘルニールは吐き捨てた。
 地に響くケニングの雄姿も堕ちたモノだ。
 何処までも続くかに見える氷原が、眼前に広がっている。それは大人ですらも易々と命を失う。何人も飲み込んできたノルダインの深い渓谷であった。
 近くに寄ってみれば道は不意に途切れ、獣の口のようにぱっくりと口を開けている。
 谷間に横たわった氷河が、人の目には感じられぬほどに、気の遠くなりそうなほど長い時間をかけてゆっくりと滑り落ちていく。
 切り立った崖を、いかにもわが物とばかりに角のある山羊が勇ましく駆けている。
 転々と現れる灰色の毛皮はうまく氷の崖に紛れるが、目を凝らせばうごめいているのがわかる。
 巨大な戦斧を背負った男と、どこまでも影のような獰猛な狼が一匹、それをただ睨みつけていた。

 鉄帝北東部の大森林地帯『ヴィーザル地方』。
 この大地で、動物が穏やかに老いていくことはできない。

 山羊の群れの、体力のない一体。よろよろと上っている一体がいる。
 あれは渡れまいな、と、ノルダインの男。ヘルニールは確信する。
 脚を滑らせ、谷底に落ちていった。

●灰色の毛皮と青色の毛皮
『連合王国ノーザン・キングス』。
 鉄帝国の覇に異を唱え、剣を取る者達の総称である。

 ヴィーザル地方ノルダインには、狼とともに生きる一族がいた。
 かつての英雄の名を受け継ぎ、アイデの一族と自称していた。
 一族は多かれ少なかれ狼とともに生きるものであり、あるものは勇敢な兵士となり、あるものはそりを引いて荷運びの役につくものだ。

(ケニングの連中との同盟の話はうまくいった、んだな? にしては、親父殿の表情が険しいな……)
 アイデの族長――ヘルニール・アイデは手に持った肉を嚙み切りながら、己の息子に語りかける。
「ラグナル。最近は、よそ者どもとつるんでいるようだな」
 射貫くような目。ラグナルの肝はひやりと冷えた。盗賊に村の者がさらわれたときに、手を貸してくれたのがイレギュラーズである(『シナリオ『仔狼の足跡に惑う』)。それ以外にも様々な助力を乞うている。
「やっぱ、親父殿は俺のやり方が気に入らないか?」
 だが賊ごとの殲滅を命じた族長の言葉に逆らったことになる。しかし、交渉をうまい事おさめたのだから、文句は言わせるまい……そう思っていたのだが文句ひとつ言われなかった。はん、と鼻で笑われたのみだ。その方がブキミでもあるのだが。
「まあ、いいやつらですよ。手を貸してくれますし……」
「底抜けのお人よしども、ということか?」
「いやいや。そんな簡単な連中でもありませんよ。
時折、首筋に刃物でも当てられてるような気にもなりますけどね。
でも、下手な真似しなきゃあ味方であるといわれているような気もします。
不思議な感覚です。まあ、親父殿は気に入らないでしょうけれど」
「なぜそう思う?」
「よそ者が嫌いでしょう。親父殿にとっちゃあ、鉄帝も、その連中も同じ」
「違いはある。憎たらしさの違いだ」
「親父。俺は一族をでかくするのには賛成だ。まとまって身を寄せないと暮らしていけないだろ。それに、鉄帝に対抗するには大きな群れを作らないとならないし。それはわかるんだ。でもさ……」
 言いかけるラグナルに味方するように、狼たちがじっとヘルニールを見た。しかし、ヘルニールが食器を持ち上げると、狼たちが一斉に……。ベルカ、ストレルカも即座に石像のごとくびしりと固まる。
「ラグナルよ。話がしたいのなら、まずは戦果を挙げて見せろ。お前の兄は、お前の年にはギガースの一体も仕留めていたぞ」
「いや、無理だって……」

●一番じゃなくても俺はいいかな
 アイデの集落で、小さな宴が行われるらしい。
 そして、今まで世話になった礼を兼ねて、イレギュラーズたちを招待したい……というのである。最初こそは、どこかよそよそしかった集落の者たちも、好奇心が旺盛な幼子を中心にわあっと駆け寄ってくる。
 ずいぶんと打ち解けてくれたものである。
「ああ。つーわけで、まあ。狩りっつーか、余興みたいなのがあるんだけどな。……適当にやってくれればいいからさ。食べ物をとってくるだけだし……」
 と、ラグナルは腑抜けたことを言っていた。
 事情は分からないが、彼にはっぱをかけてやるもいいだろう。手本を見せてやるのもいいだろう。
 それか、そんな目先の勝負しか見えていない彼に、教えてやるといい。

GMコメント

布川です!
何かが起こる気配があります。見なかったことにすればそれですみはします。

●目標
・狩猟大会で勝つ
または
・よそ者を助ける
後者の場合は、狩猟大会での成績は少なくともよくはならないでしょう。

●登場NPC
ヘルニール・アイデ
アイデの一族の族長です。勇猛な戦士です。
強者に敬意を払いながらも、鉄帝のものを見る目は非常に冷たいです。ただ、そう事を構えることでもないようですが。

ラグナル・アイデ
アイデの一族の族長の息子です。
狼使いでありますが、戦死した兄と比べられるのがちょっとコンプレックスなようです。
リーダー格の狼はベルカとストレルカ。

●その他
・つつがなく宴が終わるとは思えない。
ただし、ヘルニール・アイデが裏で糸を引いているわけではない。
ただ、事態の進行を黙認しているだけである。
一族ではないものは家族ではない。

・狩猟大会のさなか、天候は急激に悪くなりそうだ。

・ギガース(巨人)の足跡がいくらか見つかる。
ギガースは巨体を持つ巨人の魔物である。知恵はないモンスターだ。

・アイデの友好氏族、ケニングの一族が別の氏族に嫁ぐらしい。
ちょうど近くを通りかかるという。
シルヴァンスの盗賊がいたとしたら、格好の的だろう。
ただし、そこはアイデの守るべき土地ではない。
狩猟大会は、定められた獣でなければスコアには入らない。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • これから『狩り』の話をしよう完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月10日 22時22分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

●苦い諦念と雪
「ヴィーザル地方か……」
『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、堅い雪に足跡を付けている。
「人の気配だ」
『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は風の奥にある気配を察する。
 ここに踏み込めば、彼らは既に来訪を知っていることだろう。
「幾度か足を運んだ事はあるが、変わらず人が生活をするには厳しい土地だ」
「……。そうだね」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は枝を払って先へと進んだ。
「ヘルニール殿、ラグナル殿。この度はお招きいただきありがとうございます。私はシルヴァンスが一部族、ニヴルヘイムのヘルミーネと申します。以後お見知りおきを」
『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)の挨拶に、族長は頷いた。
「シルヴァンス……ニヴルヘイムの者か。歓迎しよう。見事な狼だ」
 その褒め言葉は、アイデの一族にとっては最上級の敬意を示す。
「光栄です」
「それと、『怪人H』か」
「把握されていたんで?」
『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)は、どうやら、先の活躍で名を覚えられていたらしい。……見えない表情の下、不敵な笑みを見せたはずだ。
(いや、まぁ、力を示せってのは分かりやすいっちゃそうなんだが。
なんともまた、複雑そうな部族サマたちだこと)
 値踏みするような視線を感じ、サンディは肩をすくめる。
(この厳しい寒さの中、生き抜くには強さを持たねばならぬというのは理解できる
武力もそうだが、精神的な強さとでも言うのかな……)
 油断すると、心が凍えてしまいそうだとベネディクトは思う。
「俺はベネディクト、宜しく。ラグナル」
「ああ、よろしくな。ベネディクト。……アンタは、いい奴みたいだな。狼が嬉しそうだ」
「おう、久方ぶりだなラグナル。怪人Hだ。
狼達も元気にしてるか?」
 耀や見知った仲間たちの声に、狼たちはピンと耳を立てる。
「仕事中か。忙しそうだな?」
「ふふ、偉いわね。おつかれさま」
『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はふわりと微笑んだ。
「改めて、招待してくれてアリガト!
皆と仲良くなれて嬉しいわ、子どもたちにも後で冒険のお話を聞かせる約束をしたの♪」
「宴とか言って呼びつけておいて、結局は体よく食料調達じゃねぇかよ。人使いが荒ぇなおい」
『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は息をついた。
「悪い、コレで勘弁してくれ」
 ラグナルが温かい飲み物を入れる。
「足りるか。まあ、それが依頼なら仕方ねぇ」
『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)に、子供たちがおそろい、と鎖爪かんじきににたかんじきを見せてくる。
「あ、いいですね! ここはもうちょっとこうしてこうかなあ……」
「! すごいや、ぴったりだよ」
「器用だなあ、リュカシス」
「なんとなくわかります。ぴったりのパーツは! 身体になじむんです。コツはですね」
「いいよいいよ、俺が聞いても仕方ないだろ?」
 どことなく投げやりのラグナルである。
(ラグナル様ってば、なんだか元気が無いよね)
(だな……)
 族長のところからもどってきた耀が隣に座り、肩を組む。
「なんだ、いつも以上にしょぼくれたツラしやがって。なんかあったのかよ?」
「いや、別に。ま、適当にやればいいからさ、テキトーに……」
「適当にやれば良いなんて言っちゃダメですよ。狼さん達も心配そうなお顔をしてます!」
 リュカシスの期待いっぱいの表情はずいぶんまぶしかった。
「……ハハァ。折角俺達が勢ぞろいしてんだ……ひっくり返そうじゃねぇか、盤面を。
領内、隣接領の情報、全部寄越しな。
コイツらが分析してくれるぜ。あ、俺はコーヒー飲む係だ」
「コーヒーな」
「なんだ、ただの給仕係か?」
「俺もなあ、アンタらのことは信頼してるけど。ぜんぶ知ってるってわけじゃないんだぜ。
親父殿は俺にはなかなかムズカシイ話もせん」
「ハッ、テメェに自信がねぇ。明日が見えねぇ。膝に力が入んねぇ。
そんな時、どうして欲しいか……アンタはよく分かってんだろ?
見栄、張れや。俺らは“アンタの”力になるぜ」
「……」
「その為にもいい所をしっかり見せなくっちゃね
ホラホラ、適当に、なんて言ってないで、コツを伝授して頂戴な!」
「ジル……」
「ね、今回は族長様やアイデのみなさんをアッと驚かせるためにも一番でっかい獲物を狩りましょう。ギガースとか。ギガースとか!」
「冗談だろ?」
「大きければ大きいほど良いです。分かりやすさはシンプルに力ですから。
……ラグナル様がすごいって事、何度だって見せつけてやろうよ」
●狩猟大会とその裏の思惑
「わっはっはっー! 狼を友とする一族が居ると聞いてヘルちゃん参上なのだ! 狼好きに悪い奴はいないのだ!」
「あれ? え? はじめまして?」
 族長の前で完璧な挨拶をしたヤツと同じなのだろうか?
 ラグナルは首をひねっている。
「何をいうか。さっきも話したのだ。相棒の魔狼のガルムちゃん共々仲良くしてほしいのだ!」
「まあ、悪い奴じゃないのは狼を見れば分かる。よろしくな。ベネディクト。アンタも獣に好かれるだろ」
「……そうだといいな」
「はあっ!」
 リュカシスが消えた、かと思うと大きく飛び上がって鳥を落としている。鳥を? ……飛び道具を使ったようには思えない。ジャンプで仕留めるとは。
「まずは一匹!」
 マンモスの上にドスドスと載せていくリュカシス。
「それ、満杯になるまで狩るつもりか?」
「当然です。でもギガースは重いでしょうから、引っ張っていくとして……」
「やっぱホンキなのか?」
「はいっ! 見てください、この足跡。あっちにもあるらしいですよ!」
「これだな」
 と、サンディが巨大な足跡を見つけていた。
 思った以上に山での行軍になれているな、というのがラグナルの感想だ。
「……風、強くなりそうね」
 ジルがこぼした。おそらく当たる。精霊の声を聞き届けるジルの感覚はとても鋭い。
 ばちん、と音がして、サンディのしかけたトラップが、イノシシをとらえていた。
「うわ、大物」
「別に生業ってわけじゃねーが……ま、召喚前にゃ猛獣対策なんてのは自前でやってたからな。
この手の生き物の動き方の予想とか、足跡のありそうなところはざっくり分かる」
「……とんでもねぇな、イレギュラーズってのは」
 と、そのときだった。
「! 待て」
 ヘルミーネが警戒して武器を構える。ただ、目当てではなかったらしい。そこへ現れたのは、大柄な男性である。
「なんだ?」
「おーい、撃つなよ。敵じゃねぇ」
「ああ、……知り合いだ」
 くるりと帽子を回したのは、ベンタバール・バルベラル。にかりと白い歯を輝かせて笑う。
「この先の遺跡を調べてたんだ」
「またろくでもないモノを見つけたんじゃないだろうな?」
「とんでもない。ギガースの痕跡があったから撤退してきたところだぜ」
「それ、詳しく聞かせてくれ」
 地図を片手に話し合う二人。
「ヘルミーネ君」
「? どうかしたか?」
 マリアに呼び止められ、ヘルミーネが振り返る。
「獣というか、ずっと人を探しているみたいだった。……何か気になることがあるんだね?」
「うむ。婆ちゃんがいっておった。最近、盗賊の動きが活発だと。
このあたりに盗賊が出るらしいのだ。同じシルヴァンスのモノとして、ヘルちゃんとしても放ってはおけないのだ」
「なるほどな……。このあたりの民の安全も守られるだろうしな」
「そのとおりなのだ! 見かけたらついでにとっちめてだな……こうしてこう!」
(マジかよ。びびるそぶりもないな……)
 と、頷くベネディクトらを見てラグナルは思う。このまま優勝できるんじゃないか、と思えてきた。
●二者択一
 一行は、目撃証言のあった遺跡近くにたどり着いた。
 一吠えをして、ルナが駆けていった。獲物を見つけたのだろう。
(相変わらず、あんな、ただの割れ目を登るかよ……)
 ほどなくすると、ずしんずしんと地響きが鳴り響きはじめた。
「群れだ」
 ベネディクトは立ち止まり、仲間を振り返った。
「ええ、そうみたいね」
「……あれを全部相手にすることはないだろう」
 風下を意識しながら、獲物を追い詰めるルナのそれは、狩人の天性のセンスと言えるだろう。足場を確保する。近づいたところで、サンディがそっと石ころを飛ばす。からん、と音がして、複数が振り返った。
 息を殺す。まだ、気がついていない。……そして、来るのは一体のみだ。
「今だ」
 サンディが合図をすると、リュカシスが思い切り縄を引っ張った。
 罠が発動し、ギガースがこける。
(もしかして、ホントに……ギガースを)
 倒せるんじゃないか。
 そう思った、そのときだった。
「……っ、大変よ」
「やっかいなことが起きてるみてぇだな」
 ジルが足を止める。精霊が異変を伝えてきたのだ。
 英司もまた、それを聞き届けたようだ。
「落ち着いて聞いてちょうだい。これは……誰かの悲鳴と血のにおい……集落の子たちに何かあったのかも!」
「いや、この方向は……知らない匂いのようだ」
 ヘルのガルムが小さく吠えている。
「まさか、ケニングの……」
 どうやら、友好氏族が襲われているようである。
「そいつら、本当に自分の身は自分で守れんだろうな?
俺には関係ねぇことだがよ」
「くそ、こんなところで」
「二手に分かれましょう」
 ジルの言葉に頷き、ベネディクトはファミリアーを呼び出す。小鳥だ。それと交代するように、リュカシスのリスが、ベネディクトの肩へ。
 隠密に徹していたサンディは、すでに意図を察していた。
 二手に。なら、と、即座に作戦を組み立て直す。あえて飛び出し、巨人の注意を引きつけていく。大ぶりの拳の一撃を、拳の上に乗り、それを蹴ってかわす。
「どちらの班で行動されるかはラグナル様の意志にお任せします!」
「あれは……正確には救う義務はない一族だ」
「それは、誰の言葉なの? ラグナル」
 ジルの言葉は、責めるようじゃない。ただ、落ち着かせて確認するようなものだ。
「違う一族?
守るべき土地じゃない?
そんなの――特異運命座標(アタシたち)には関係ないわ。
何度だって言ってあげる。アンタはアンタよ、他の誰でもなく……アンタ自身を信じなさいな」
「人助け、だ」
「そうか。それが心底の決断だってならいい」
 英司が言う。
「そこそこに済ませて、そこそこに撤退。まあ、簡単だろうな」
「……」
 見抜かれている。戦いたくないのだと。
「アンタはどうしたい、ラグナル。
嫁入りのお隣さんに、手土産にギガースの一匹でもくれてやるか?
てめぇで狩れねぇ、つぅーなら、ベルカかストレルカを貸せ。代わりに狩ってきてやるよ。こいつらがつけた傷がありゃ、アンタの手柄にできんじゃねぇか? なぁ」
 ルナの言葉に、ラグナルは燃える。
「ふざけるなよ。俺だって、叶うなら……」
「叶うなら、どうする。
そいつらを信じて、背伸びしてみるか?」
「どっちを選んだって後悔させないわ」
 ラグナルは決断する。狩りを続けると。
「今だけは従ってやる、うまく扱えよ」
 そう言うと、ルナの姿はみるみるうちに変化していき……黒獅子が姿を現した。
「ルナ……」
●ギガース退治
「でやああああーーーっ!」
 リュカシスの一撃が、ギガースをぶちのめした。ギガースは、巨大な口でリュカシスを噛もうとするが、欠けたのは巨人の歯のほうだった。鉄鋼千軍万馬を引き抜いて、リュカシスは反動を付けた。
「やーい! のろまなやつ! 悔しかったらこっちだ!」
 追いかけるギガースを、死角から打ちのめしたのはサンディだ。
 The Joker。それは一枚の切り札。ジョーカー・ハンドが綱を切る。遺跡にあったものを再利用した罠だった。リュカシスならば避けると判断していた。無論だ。
 がらがらと落石が崩れ落ちていく。その先をルナが走り、リュカシスが飛び乗り、そして、逃げに転じずパンチをかました。
「おい、見てなかったか? デカブツ」
 暗黒の鎧をまとった騎士がそこにいる。英司の一撃は、因果を曲げる。圧倒的な体格の差を、ほとんど感じさせないほどに。
「次は、ちゃんとみとけよ」
 ラグナルは、弓を構え、矢を放つ。
 風の音が聞こえる。サンディの言う風を受けて、矢は恐ろしく飛距離を伸ばす。
 そして、空中でその矢をもぎ取ったのがリュカシスだった。
「でやああーーっ! 食らえ!」
 目玉に向かって、思い切りたたき付けた。
「ルナ。今だ!」
 吠えるように黒い獅子が舞い、喉笛を食いちぎった。
●同盟者
「ベネディクト君! こちらはこちらで頑張ろう!」
「ああ! 急ごう」
 リニアドライブの力を得て、マリアはグングンと飛び上がっていく。
 ヘルを乗せ、ガルムはどんどんと地面を駆けていく。さらに、ガルムはゆっくりと飛び上がった。ソリを引くような、冬の夜空を駆ける。
「……いた」
 豪華な調度品を持っている馬車が、武器を突きつけられている。
 稲妻が落ちる。あそこだろう、とベネディクトとジルは察する。木々をもいだような大きな雷鳴。
「なんだ……何が起こった!?」
 盗賊の一体が矢を射かける。マリアに突き刺さったかに思えたそれはドリームシアターの生み出した幻影に過ぎない。
 そして、マリア・レイシスは弾丸となった。
 白雷。
 何が起こったかもわからぬままに、盗賊はなすすべなく吹き飛ばされた。襲われている方も事情はわかっていない。
 天災かなにかに違いないと思っていた。
「その狼……あなたたちは」
「うむ、見ての通りだ」
 間違ってはいない。「友好氏族のアイデが自分達を守ってくれる」ということにしておけば安心感もいくらかはあろう。襲いかかってきた敵が、見えないロープに足を取られてしたたかに頭を打った。
「同じ英知の一族として盗賊行為なんて非道な行い、見過ごせないのだ! 反省するのだ!」
「! シルヴァンスか……」
 竪琴の音色と、美しい香り。ふわりとやってきた気配は間違いようもなく味方だと告げている。
「さぁ、此処からは俺が相手だ! それとも、臆して戦えないか?」
 ベネディクトの金色竜爪が、敵の妙な武器を弾き飛ばした。
「危なかったわね。大丈夫? どこか怪我してないかしら?」
「俺達は特異運命座標、あなた達を助けに来た。自分達の身を守る事を優先に動けるか?」
 ベネディクトは身を挺して女性を庇う。
 吹雪が巻き起ころうとするさなか、天候は何度も塗り替えられている。
 まずは熱。ラサを思わせる熱砂の嵐が、雪を溶かして盗賊に吹き付ける。
「ねぇ、《リドル》」
 ジルのチャーチグリムがそれに応える。
 そして、それから。
 マリアの雷。
 雷装深紅をまとった弾丸が跳ね回る。それは、避けるという次元ではない。ただ、攻撃が当たらないように神に祈るしかない。
「っ! ぐあっ!」
 マリアが狙ったのは、膝関節。とどめを刺す攻撃ではない。隠した凶器がばらばらと落っこちる。
 そして。
 一瞬にしてあたりが氷に閉ざされる。一族の名を冠した氷魔法の奥義。凍り付き、なにも動くことが出来ないほどの。呼吸をすれば息すらも詰まり、うごけない。
「ヘル・エーリヴァーガル」
 ヘルミーネが告げる。
 息をすればするほどに、寿命が縮んでいくようだった。怒っている。
(……婆ちゃん! これが、シルヴァンスの意地なのだ!)
 歴代の巫女、神楽・ニヴルヘイムであればなんと言うだろうか。
「うむ、それでこそ我が弟子にして義孫。実にいい子じゃ!」
 と、言うに違いない。
 敵が、機械仕掛けの盾を持ちだした。向こうには二人。
「ここはっ」
「まかせたよ、ベネディクト君!」
 絶刺黒顎。槍が突き出され、鋭い踏み込みから道を切り裂いた。
 天候の最後。空気をまるごと巻き込んで、そこにはただの晴れた空間があった。
「……命までは取りはしないけどな!」
 幻視の魔狼の牙の一撃が、砕け散った幻を見せた。
●目指すモノ
「やりました、ギガースです!」
 リュカシスがガッツポーズをしている。
「信じ、られねぇ……」
「別に長が誰だっていいが、「聞く耳を持たない」のは別の話だよな。
ここは孤島じゃねえんだ、今まで知らねぇ風なんか幾らでも吹くもんさ」
 サンディの言葉が、心を軽くする。
「今から戻れば、間に合うかも知れません!」
「行くんだろ」
 ルナの背にラグナルは乗った。
「戻るか?」
「いや、加勢に行く」
 天候は少しずつ吹雪に変わっている。
「いいんだな」
 ラグナルも、彼らが負けるとは思ってはいなかった。だが、後から現れて心配するだけでは、良いリーダーにはなれないと思った。
(どう動くにせよ、誰かが道を示さねば意味が無い。
狼の集団を統率するには強いリーダーが必要だ、さてどうなるか)
 ベネディクトは吹雪の奥を見つめている。
 ルナの背で、ラグナルは弓を構える。吹雪の中、敵は見えづらい。
 しかし、匂いが。
 ジルの匂いが方向を示している。
「来い」
 というベネディクトの言葉。
 ヘルミーネの助力で、吹雪が少し止んだように思える。あの時を思い出せ、とラグナルは狙いを定める。サンディの助力を思い出し、放つ。それは木に盗賊を縫い止める。
「やったな」
 マリアが言う。
 多分外しても、彼らがなんとか……してくれたように思うのだけれど。
「天候が回復するまで休んでいきましょ」
 ヘルミーネの天使の歌と、ガンダルヴァの調律がゆっくりとハーモニーを奏でている。
 ギガースを倒したことを聞いて、ジルは微笑む。
「フフ、ラグナルも皆に聞かせてあげられる武勇伝ができたわね?」
「寒いか」
 ルナが、凍える女性を庇うように隣に立つ。
 内心、盗賊に襲われた一行の安否が気になっていた。だが、狩りの方に向かったのはラグナルの客だからだ。
「人生の一大事に、こんなことになって大変だったな。ああ、コレは気にしなくていいんだ。盗ってきたやつだ」
 サンディが毛布を渡して、微笑む。
(アイツの今後のことを考えれば、族長の心証も考える必要がある。甘さや優しさだけじゃ、部族は守れねぇ。力を示せっつーのは当然のことさな)
 吹雪が止むまで、寄り添い合うのだった。
「なぁラグナル」
「……ああ」
「兄貴ってのは、敵わねぇもんだよな。
だがよ、同じ土俵で競う必要なんざねぇんじゃねぇか。
まして、いない相手なんだろ。
俺ァ、アンタ自身が戦士として腕っ節をあげなくてもいいと思うぜ。そいつらがいんだからよ」
「……ありがとう」
「ラグナル」
「これで、……何か変わるかな」
「ラグナル。言ってやれ」
 英司の言葉に、ラグナルは姿勢を正すと、ケニングの一族に手を差しのばした。
「俺たちは厳しい土地に生きる同盟だ。俺がお前たちの領地を守る……つもりだ、多分」
「おい」
「協力してくれる奴らもいる。困ったときはお互い様だ」
 狩猟大会の会場に戻ってくると、宴はすっかり終わっていた。けれどもケニングの一族を送りとどけ、また、盗賊をとらえたことは驚きを持って迎えられたようだ。
「どういう意図だったんだい?」
「気がついていたとでも?」
 マリアはひるまず、族長を眺める。
「家族以外に、差しのばす手はない」
 けれども、ケニングの一族は改めて傘下に入ることを了承した。
「親父。全てを切り捨てていかなきゃいけないこともあるだろうさ。力を示すってこういうことだろ」

成否

成功

MVP

ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

状態異常

なし

あとがき

宴のあと……となったようですが、ラグナルはとても満足しているようです。
お疲れ様でした!
温かいところで温かいモノを食べてくださいね。

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