PandoraPartyProject

シナリオ詳細

とっとこ遊ぶポメ太郎。或いは、駄菓子300G以内最強ビルド決定GP…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●バナナはおやつに入りますか?
 風は冷たい。
 なれど、太陽の光は暖かい。
 幻想のとある河川敷。
 金の髪を風に揺らす偉丈夫が、川の流れを何とはなしに見下ろしていた。
 片手にスコップとズタ袋、もう片手には赤いロープ。
 普段の鎧は身に付けておらず、護身用の槍だけを腰に下げた休日ファッション。
 地味な服だが仕立ては良い。
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は、散歩の途中なのである。

「あぉん!!」
 よく響く鳴き声は、河川敷を駆ける小さな犬の発したものだ。
 ふさふさとした茶色い毛並み。
 円らな瞳に、形のよい黒い鼻。
 タタタとリズミカルな足音を立て、ベネディクトの元へ駆け戻って来た犬の名はポメ太郎。
 かつてベネディクトが練達で保護したポメラニアンである。
「戻ったか。まったく、見えないところへ行っては駄目だとあれほど……ん?」
 尻尾を激しく振り回すポメ太郎へと手を伸ばし、ベネディクトは「おや?」と小首を傾げて見せた。
 ポメ太郎が口に何かを咥えているのだ。
 ほのかに甘い香りが漂う。
 黄色い皮に、ほのかに弧を描いた果実。
 まさしくそれはバナナであった。
「わん!」
「ワン、では無いが……どうしたんだ、それは?」
「あう!」
 ベネディクトの手にバナナを置くと、ポメ太郎はくるりと身体を反転させる。
 タタタ、と数歩前に進むと脚を止め、ベネディクトを振り返った。
 付いてこい、とそう言っているかのようだ。

 ポメ太郎の後について辿り着いたのは、いかにも寂れた古めかしささえ感じる路地だ。
 木像の小さな家屋が隙間なく並び、そこには錆びた看板で「駄菓子」の文字が掲げられている。
 店の先には酒瓶の詰まった木箱。
 そこに座った老婆が1人、ポメ太郎を撫でている。
「……ここは?」
 こんな場所があったことを、ベネディクトは初めて知った。
 否、よくよく思い返してみれば、此処に至るまでの道のりが不明瞭なのだ。
 まるで記憶に霞がかかったように……。
 その解に至った瞬間、ベネディクトは腰に下げた槍へと手を伸ばした。

●古い記憶の小道
 遠くで鐘の音が響く。
「物騒なものは仕舞っておくれよ。あたしゃただ、悠久の時間をのんびりと過ごしているだけさね」
 ポメ太郎の顎を撫でつつ、老婆はしゃがれた声で言う。
 一瞬、顔を顰めたベネディクトだが、ポメ太郎の様子を見て槍から手を離した。
「ご婦人。ポメ太郎が世話になったようだ。礼を言わせてもらいたい」
「礼なんていいのさ。たまの来客をもてなすぐらいしか、婆にはもう楽しみが無いからね」
 そう言って老婆は、ふわりと柔く微笑んだ。
 優しい笑みだ。
 しかし、その笑みの中には幾ばくかの寂しさが滲んでいた。
「ご婦人。ここは一体?」
「さぁてね。忘れっちまったよ。あたしも、他の何者もね。誰もここを覚えちゃいない。通りの名前も、あたし自身の名前も」
 いかにも不可思議な話だが、老婆の言葉に嘘は無さそうだ。
 小道の名前は忘れ去られた。
 おそらく、ただ1人の住人である老婆は、自身の名前さえ忘れてしまっているという。
 一体、どれだけの間……老婆はその状態でいるのか。
 否、果たして彼女は本当に生きている人間なのか。
「誰かがここを訪れるとね、少しだけ何かを思い出せそうな気がするんだよ。昔はね、もっと大勢の人がいて、笑い声の絶えない場所だった……そんな気がするんだ」
 けれど、と。
 声を落として、老婆は視線を地面へ向けた。
「ここから帰ると、皆何もかも忘れちまう。ここに2回も来たのは、そこの犬ちゃんだけさね」
「ご婦人は、それでいいのか?」
「そうだねぇ。本当は、皆の笑顔をもう1度見たいね。賑やかなのが好きなんだ。そうしたら、何かが1歩、進む気がする」
「そうか。だったら……」
 微力ながら手を貸そう。
 
 長い時間、ベネディクトと老婆は言葉を交わした。
 しかし、小道を出て、河川敷に戻る頃には彼は何も覚えていなかった。
 老婆の顔も、どんな話をしたのかも。
「わん!」
 ポメ太郎が、ベネディクトの手を叩く。
 そうされて初めて、ベネディクトは何かを握りしめていることに気づいた。
「……これは」
 それは1枚の古びた紙片。
 記された文字は「駄菓子300G以内最強ビルド決定GP」。
 何かのタイトルだろうか。
 下にはルールらしきものが羅列されている。
「俺の字だな。いつ書いたんだ?」
 思い出せない。
 けれど、この文字は何か重要な意味を持っているような気がしてならない。
「おやつは300円まで。数名の仲間を集め、ポメ太郎の導きに従え? 何だ、それは?」
「わん!」
「……300円で最も豪華な菓子を揃えた者の勝利?」
「あおん!!」
「ピンボールやベーゴマ、おはじきもあるよ? 何だ、それは?」
 分からない、と。
 ベネディクトは首を傾げる。
 しかし、ポメ太郎は尻尾を振っていかにも楽しそうにしていた。
 つまり、メモの内容に従うことに何ら危険は無いということだ。
「バナナはおやつに入るのか?」
「……わん」
「そうか。バナナは駄目か」
 ふむ、と。
 首をひとつ傾げたベネディクトは、ポメ太郎を抱き上げる。
 ポメ太郎が、これほど愉しそうにしているのだ。
 ベネディクトは何も覚えていないけれど、きっとこれは楽しいことだ。
「ふむ……誰を誘おうか」
 詳細は不明。
 ただ、300Gというごく少額で最も楽しんだ者が勝者であるという。
「ふふ、詳しくは覚えていないが心が躍るな。明日はもっと楽しくなるかな……な、ポメ太郎?」
「あおん!」

GMコメント

※こちらのシナリオは部分リクエストシナリオです。

●ミッション
駄菓子300G(税抜き)以内最強ビルドGP優勝者を決定する。

●ターゲット
・幻想小道の老婆
年老いた老婆。
古びた通りに1人だけ。
彼女の営む駄菓子屋にて買い物をすることで“目的”が果たされるらしい。
老婆は自分の名前も、通りの名前も覚えていない。
今回、小道を訪れることでそれらが思い出されることもあるかも知れない。

・駄菓子その他
1つ辺り数十G~100Gほどの安い菓子。
中には当たり付きのものも含まれている。
※当たりが出たら、もう1つ貰える。

そのほか、ベーゴマやピンボール、おはじき、メンコといった遊具も売られている。
※こちらは駄菓子に含まれない。


●フィールド
幻想小道。
人気の失せた寂れた通り。
古めかしい木造の家屋が並んでいるが、開いているのは老婆の住んでいる駄菓子屋だけ。
狭い店内には棚が多数並んでおり、そこは駄菓子で埋め尽くされている。

買った駄菓子は、外で開封するのがマナーであるらしい。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • とっとこ遊ぶポメ太郎。或いは、駄菓子300G以内最強ビルド決定GP…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年12月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
……私も待っている
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
特異運命座標
※参加確定済み※
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

リプレイ

●開ッ幕ッッ!! 駄菓子300G以内最強ビルド決定GP、開幕ッッ!! 
 駄菓子。
 それは、茶の席や贈答にも使われる高級菓子に対し、主として子供向けに製造販売される、安価な菓子のことを指す言葉だ。
 当然、時代と共に数を増し、時として形を変えながら、多くの子供に愛され、親しまれてきた歴史を持つ。
 味も、見た目も、食感も多種多様なれば、その楽しみ方も人によってそれぞれだ。
「駄菓子屋だ〜、なっつかしいなぁ〜!」
 棚に並んだ多様な菓子を睥睨し『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)は瞳をキラキラと輝かせている。
「駄菓子ってしにゃあんまり食べないんですけど、たまに遊び感覚で買うのは楽しいかもしれませんね!」
駄菓子に慣れている風な京に対し『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)はどうやらそれに不慣れなようだ。棚に並んだ色も形も多様な菓子を1つひとつ手にとっては興味深そうに眺めている。
「ふむ、アタリ付きとな? つまりこれはアタリ入りの駄菓子を当てて量を水増しするのが最強なのでは……!?」
 透明なガラスケースに詰まったガムや飴玉を見て『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)は顎に手を添え思案する。
 本日の趣旨は、300G以内でいかに豪華な駄菓子を揃えて見せるかというところにあるのだが、そこでネックとなる点の1つが割り当てられた低予算だ。
 駄菓子1つの値段は大したものではないが、300G以内となるとなかなかどうして難しい。当然と言えば当然だが、量の多い菓子や味の良い菓子ほど、値段も相応に高くなるからだ。だが、アタリ付きの菓子ならどうだ? 「アタリ」とはつまり「0Gで駄菓子が1つ追加される」ということにはならないだろうか?
「……レギュレーション違反かの? っと、エクスマリアはもう揃えたのか?」
 思案するアカツキの後ろを、小さな籠を手に下げた『……私も待っている』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が通過する。
「あぁ、これがマリアの厳選した、最高のセット、だ」
 いつも通りの無表情。
 なれど、どこか得意げに。
 エクスマリアは、手にした籠を掲げて見せた。
 【笛ラムネ】【舌が青くなるガム】【スーパーでっかいチョコ】【トンカツもどき】【煙草っぽいチョコ】【粉末ジュース】
 以上がエクスマリアの揃えた“最高に冴えた駄菓子セット”なのである。
 
 時間は暫し、巻き戻る。
 所は幻想。
 どこかの通り。
 ポメ太郎に導かれ、小さな路地を訪れたのは都合8人のイレギュラーズたちである。
 どのような道を通って来たのか、記憶は定かではないが、ポメ太郎の様子や、出迎えてくれた老婆の表情から、その場所が危険でないことだけは理解できる。
「ポーメたろっ! おりゃおりゃ、招待してくれてありがとねぇ。んふふ、ベネディクトさんも!」
「ポメ太郎~~! かわいい~~~~!!!!」
 道中の記憶も定かではなく、また小路から帰還すれば早々にこの場所の記憶さえも失われるという異常な場所だが、案内して来たポメ太郎はと言えば、そのようなことを一切気にした風もなく『運命射手』ハンス・キングスレー(p3p008418)や『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)と戯れていた。
 尻尾をぶんぶんと振り回し、非常に楽しそうである。
「よもや、幻想で駄菓子屋を訪れる事になるとは。色々と聞きたい事はあるが、それは横に置いておくとしようか」
 そう言って『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、ポメ太郎の飼い主にして、此度の催しを企画した男、『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)へと流し目を向けた。
 うん、とひとつ頷くとベネディクトは徐に皆の前へ出る。
「付き合ってくれた皆には感謝を。折角此処まで皆で来たんだ、めいっぱい楽しんで帰りたい」
「うむ! ミッションスタート! なのじゃ!」
 ベネディクトの宣誓にノッたアカツキは、空へと拳を突き上げた。
 それに追随するように、ポメ太郎もまた前肢をひょいと持ち上げる。

●すべての駄菓子よ、安くあれッッ!!
 棚に並んだ駄菓子の1つひとつを手に取り、京はどこか懐かしそうに瞳を細めた。
「いやー。うちって結構、裕福だったんだけどさー、父ちゃんお医者さんだしクソ兄貴もガッコーは特待で入ってたし……」
 京の言葉を、老婆は黙って聞いている。
 静かな時間だ。
 不思議と心が穏やかになる感覚に、京の口も思わず幾らか軽くなる。
「でもさー、母ちゃんがめっちゃ怖くてさー、めっちゃ怖くてさー! お小遣い少なかったから、オヤツはもっぱら駄菓子だったのさー!」
 今は遠い、在りし日の記憶。子供の時分においてはなんてことのない日常の一幕でしかない出来事で、ともすれば小遣いの少なさに不満さえも覚えていたのかもしれない。
「男の子達と一緒に入り浸ったもんさー、元気かなー、あの駄菓子屋のばっちゃん!」
 右手には薄っぺらいカツレツ、左の手には小さな即席麺。
 少ない小遣いでどちらを買うか、何分間も悩んでいた日々が懐かしい。
 年齢を重ね、身体も大きくなった。自分の食い扶持は自分で稼ぐことが出来る今となっては、駄菓子程度なら幾つだって買うことができる。
 そんな京の様子を、老婆は黙って……けれど優しい瞳で眺めていた。
 そうして悩むこと暫く。
 【カツレツのオヤツ】【ミニ即席麺】【蒲焼きの駄菓子】【キャンディーガム】
 京の選んだ駄菓子のセットは、以上のようなものとなる。
 数は少ないが、1つひとつの単価が高めの布陣となっているようだ。
「もう決めたのか? 早いな」
「ん? そう言うベネディクトさんは全然選んでないじゃんか」
「あぁ、普段はあまりこういった物を買わないからな」
「まずは妾の好物でもあるきなこ棒じゃろ。べー君とポメ太郎も一本どうじゃ?」
 京の隣にやって来たのはベネディクトとアカツキだった。
 悩むベネディクトに対し、アカツキはというと手慣れた様子で次々と菓子を籠へと放り込んでいく。
「アカツキに勧めて貰ったきなこ棒は買うとして、後はこの当たり付のチョコというのも気になっている」
 そう言いながらベネディクトは【ミニ即席麺】を手に取ると籠へ納めた。
金の髪に碧い瞳の美丈夫が、駄菓子を前に真剣な顔で思案している様子がいかにも不似合いで、京は思わず肩を揺らして笑ってしまう。
 それから、ベネディクトの籠へ【人参を模した袋入りのポン菓子】をそっと追加する。おすすめ、ということなのだろう。
「ぷぴー♪」
 3人の背後で、エクスマリアが【笛ラムネ】をひとつ鳴らした。見た目はドーナツ型をした小さなラムネなのだが、不思議となかなか良い音が鳴る。
「……あれも買うか」
「おすすめ、だぞ。耳でも楽しめる菓子、という世にも珍しい逸品、だ」
 ひとしきりラムネを吹いて遊べば、次は味を楽しむ番だ。

 会計を済ませたアカツキは、籠一杯に詰まった駄菓子を満足そうに見下ろすと、にぃと口角を吊り上げ笑う。
「ふふふ、これで完璧なのじゃ……若干偏った気もするが!」
 【きなこ棒】【ミニ即席麺】【干しイカ】【アタリ付きミニ即席麺】【ラムネ菓子】【うまいスティック詰め合わせ】。
 以上がアカツキの選んだ最高の布陣である。
 ちなみに300Gを幾らかオーバーしているが、そこはうまいスティックを数本除外することで調整する算段であった。
「後は……はっ、駄菓子屋と言えばスーパーボールやメンコもあるのかのう。妾、やったことないので興味あるのじゃ!」
 遊具の類を興味深げに眺めていると、ひょいと覗き込んだ白髪の美しい顔。
「む、メンコをやるのか? それの遊び方なら、私も教えられるぞ」
 そう言って汰磨羈はメンコを一束、纏めて手に取ったのだった。

 小路の路地に子供たちが屯する。
 メンコやベーゴマといった遊具で覇を競い、時には喧嘩をすることもある。
 そんな在りし日の光景が瞼の裏に一瞬浮かんだ。
 しかし、老婆が瞼をひとつ擦ると、かつての情景は幻のように掻き消える。
 そこに子供たちの姿はない。
 白い髪に猫の耳を生やした女性が、仲間たちを前にメンコの投げ方やルールについて説明していた。
 あぁ、そうだ。
「私はこの猫の絵が描かれたメンコを使うとしよう。さぁ、勝負だ!」
 新しく仲間に入った子供に、遊び方やルールを教えるのは年長者の役割だ。

 厚紙1枚にすべてを賭ける。
 メンコとはそう言う勝負なのだ。
 勝てば相手のメンコを得て、負ければ自身のメンコを失う。
 弱肉強食。
 つまるところ、人生の縮図といっても過言ではないだろう。
 メンコを制すものこそが、駄菓子屋を制すとも言える。
 そして汰磨羈の説明にもあった“反転させる”という単語。正直、良い思い出は無く、それゆえかハンスは、不自然なほどに背筋が凍える感覚に苛まれていた。
「俺はこの狼の絵が描かれたメンコにしよう」
 静かな声にハッとする。
 相対するはベネディクト。気を散らしたままで勝てる相手ではない。
「……角度、速度。その全てを計算し、負けられない戦いに挑まなくては!」
「いざ、尋常に勝負。負けても買っても恨みっこなしだ!」
 2人の間には地面に広げられた複数枚のメンコ。
 先制はハンス。
 鷹の描かれたメンコを片手に、角度や風向きを調整する。指先に力を込め、腰を捻って腕を後ろへと退いた。
「あおん!」
 リュコスに抱きかかえられているポメ太郎が吠える。
 そして、それが開始の合図となった。
「僕のターン!」
 抉るように。
 地面に設置されたメンコの真下へ滑り込ませるように。
 手首のスナップと指先の力で角度を調整。
 今だ。
 これ以上ないベストなタイミングを狙い、ハンスはメンコから指を離した。

 ぺちっ!
 軽い音が鳴り、メンコが地面に張り付いた。
 初めての挑戦ということもあり、狙ったように上手くはいかない。
 楽しそうにメンコに興じる仲間たちの様子を、リュコスは端から横目で見ていた。
 リュコスの胸に抱かれたポメ太郎は、何がそんなに楽しいのやら、尻尾をぶんぶんと上機嫌に振り回している。
「なるほど、いっこ10Gくらいで“アタリ”が出たらもういっこ……つまりあたった数だけでじっしつ使えるお金がふえてるようなもの、ってコト!?」
「運が良ければ、だ。それなりにアタリやすくはある、かな。運はいい方、か?」
 リュコスの隣に座ったエクスマリアは、幾つかの菓子を指さして言う。
「運はねー……ちょっと自信ある! たまにこけることもあるけど」
 そう言ってリュコスは、視線をエクスマリアへと向けた。
 プラプラと、煙草のようなものを口に咥えて揺らしているが、果たしてそれは何だろう?
 首を傾げたリュコスへと、エクスマリアは咥えた“ソレ”の正体を告げた。
「煙草を模したチョコレート、だ。これは形を真似たものだが、大人の気分を味わえ、子供心を擽る。雰囲気を楽しめる、良い品、だ。」
「へぇ? そういうのもあるんだねっ」
 面白いねー、とポメ太郎の前脚を持ち上げリュコスは笑う。
 そんな彼女が選んだ駄菓子は“アタリ付き”のガムや飴が大半を占めているようだ。それから【一口サイズのドーナッツ】に【瓶入りのラムネ】。“アタリ”を引いて、お得感を水増しする心算か。

 メンコ勝負の傍らで、人知れず火花を散らす女が3人。
 しにゃこの手にした細い容器には球形のガムが合計3つ。それを前に、アカツキと京は真剣な面持ちで佇んでいる。
 3つのうち、1つだけが非常に“酸っぱい”味をしていることを彼女たちは知っているのだ。
 睨み合いは数分にも及んだか。
 まず動いたのは京であった。
 ままよとばかりに中央のガムを手に取ったのだ。次いで、アカツキは少しの逡巡を見せた後、右端のガムを指先で摘む。
「ふへへ、ではいきますよー」
 しにゃこの合図で、3人は同時にガムを口へと放り込んだ。
 咀嚼すること数秒ほど。
「ぶえええー!? すっぱ!! す、すっぱいです!」
 悲鳴をあげたのはしにゃこであった。
 酸っぱいガムに当たって驚く2人の顔が見たかったのに、まさか自分が“アタリ”を引くとはどういうことか。
 そう、まさしく因果応報に他ならない。
「3分の1が当たるってどーいう事なんですか! 美少女なのに!」
「おぉ、可哀そうにな! よっしゃ、これで口直ししな!」
「あつあつのお湯を入れてプレゼントじゃ! ほれ一気にガッと!!」
 酸っぱさに驚くしにゃこへミニ即席麺を差し出す2人。
 湯は沸かしたばかり。つまりは熱々であった。
 半開きになったしにゃこの口に、嬉々として湯気を上げる麺とスープを流し込む。
「いや食べますけどちょっと熱々のまま食べさせるのぶわあああっつうー!!」
「小腹が空いた時に最適! まー、アタシとしては一個じゃ足りないんだけどねー、あっはっはー!」
「聞いてねぇぇ!! ちょっと正に煮え湯を飲まされてるんですけど!」
 凄惨な光景と悲痛な叫び。
 傍で聞いていたベネディクトは「処置無し」と視線を伏せるのだった。

●濃い味をイカせッッ!
 8人の闘士が集う。
 各々、誇りを賭けた最高の駄菓子を選び、円を組むように視線を交わす。
 いつも通りの自然体の者もいる。
 不自然なほどに交戦的な笑みを浮かべた者もいる。
 緊張した面持ちの者も、楽しそうな顔をしている者も、舌を冷ますように突き出した者もいる。
「悪いけど勝ちは貰っていくよ」
 そう告げたハンスが差し出したのは、以下のようなフルコールであった。
【プチプリン】【海賊チョコ(当たり付き)】【ミニクリーム大福】【わたがし】【梅のジャム】【サクサクスナック】。
「プリンを中心にスナックとわたがしを飾り立て、ジャムでわたがしを彩る! 大福を台座として聳え立つプリンの頂きに海賊チョコが君臨した時、駄菓子の城は顕現する!!」
 元より幼さを残した顔立ちのハンスではあるが、こうしてみるとまるで子供のようにも思える。
 なるほど、ハンスのチョイスはバランスが良い。特に、駄菓子屋でしか見られないような小粒のプリンや大福、わたがしといったいかにもなチョイスと、コンセプトの妙が際立っている。
 量が抑えめなのは、胃もたれを警戒してのことか。
「俺は……買い過ぎたかな? 少しはしゃぎ過ぎたかも知れん」
 思わず唸るベネディクト。
 否、彼だけではない。誰もがハンスの選択を「これいいな」と感じていることに違いない。
 そんな中、1人……汰磨羈は余裕の表情を浮かべている。
「私が選んだのはこれだ……【うまいスティック(サラミ味)】【梅のジャム】【ヨーグルトゼリー】【串カステラ】【あんこ玉】」
 そこまでは、特別に変わった点もないラインナップである。
 1つひとつ袋を開けては口へと運び味を楽しむ。
 それで終わりか?
 否、断じて否である。
 そこは流石の汰磨羈。
「そして……【ラムネ】だ」
 栓となっているビー玉を排し、しゅわしゅわの炭酸を口内へ。口の中に残った甘さを濯ぐことで“終”とするのか。なるほど考えられている。
 感心するベネディクトとしにゃこ。
 しかし、京とアカツキの表情は硬い。
 彼女たち2人は汰磨羈の狙いに気づいたのだろう。
 ふふん、と笑うと汰磨羈は老婆へ空のラムネ瓶を手渡す。
 代わりに、汰磨羈の手に落とされたのは10G硬貨。
「な……ん、だと?」
 エクスマリアもびっくりだ。
「ラムネのビンを店に渡すと、ビンの代金が返ってくる。これで、最後の〆を選ぶのさ」
 そうして汰磨羈は、渡されたばかりの10でうまいスティックを新たに1本、購入した。
 完食した、と思ったところにこの追撃。
 皆が全ての菓子を食べ終えた中、悠々と1人、追加のうまいスティックを齧る。
 羨望、嫉妬、驚嘆の視線がなんと心地の良いことか。
「ま、お嬢ちゃんが優勝かねぇ」
 なんて。
 老婆の放った一言により、汰磨羈の勝利は決まったのだ。

 ポメ太郎は幸せだった。
 西の空が赤に染まる。肩を並べ、言葉を交わすベネディクトたちは楽しそうだ。
 今日はたくさん遊んでもらった。
 皆の笑顔に溢れた1日だった。
 時々、皆は辛そうな顔をしていたり、怪我をしていたりすることがある。
 辛くても、退けない戦いがあるのだと。
 皆が傷を負っただけ、誰かが笑顔になれるのだと。
 ポメ太郎は理解している。
 皆はきっと、正義の味方なのだろう。誰かを助ける存在なのだ。
 けれど、しかし……。
 そんな正義の味方たちを、誰が助けてくれるのだろうか。
「今日は楽しかったよ……ご婦人、もう俺達は此処には来れないのか?」
 ベネディクトの問いに、老婆はくすりと微笑んだ。
「どうだかね。きっと、今日のことをあんたたちは忘れちまうかもしれない。でも、それでいいのさ。アタシは思い出したし、ちゃんとあんたたちのことを覚えているから」
 ポメ太郎の頭を撫でて、老婆は言った。
 優しさの中に、ほんのひとつまみの寂しさを孕んだ声音であった。
「大人には大人の、子供には子供の役割があるんだ。けど、時々には背負っているものを下ろさなきゃ、疲れて潰れちまうだろ」
 此処はそう言う場所なのさ。
 なんて。
 ベネディクトの手に「1本あたり」と書かれたアイスの棒を握らせて、老婆はそんなことを言う。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

なし

あとがき

何かに疲れて、立ち止まりそうになった時にきっと小路はまた皆さんの前に現れることでしょう。
お疲れ様です。
駄菓子300G以内最強ビルド決定GPは無事に成功となりました。

この度はシナリオのリクエストおよびご参加、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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