シナリオ詳細
壊滅都市のサンディ・カルタ。或いは、アルカヤの子供たち…。
オープニング
●“COPPELIA”
天義。
アドラステイアから幾分離れた廃墟の街。
立ち並んでいた家屋のほとんどは、踏みつけられたみたいに砕け、潰れて倒壊している。
僅かに残った家々も、亀裂が走っていたり、傾いていたり、焼け焦げていたりと散々な有様である。
かつて、大規模な戦闘が行われた結果がそれだ。
小さな街は、一夜にして地図から消えた。
その隅にある小さな教会。
清貧、されど活気にあふれた孤児院があった。
孤児院を管理するのは、腰の曲がった1人の老婆だ。
名をカーネイション・カーネイジ。
別名“マザーデイ”ともあだ名されるアドラステイアの幹部である。
彼女の元には、戦火に追われ父母を失い流れ着いた孤児たちが、都合10人ほど暮らしていた。
日々、アドラステイアの教えを学び、教会の裏手で栽培した作物を糧とし生きている。
健康で、頭が良く、才能の豊かな子供たちばかりが揃っていた。
「さぁ、皆。もうすぐ“卒業”の日が来ます。ここを離れることを寂しいなんて思わないでくださいね。皆はこれから、世のため、人のために戦うのですから」
礼拝堂に集った10人の子供たちへ、カーネイションはそう語る。
優しく、慈愛に満ちた声。
朗らかな笑顔に、ほんの少しの寂しさが滲んでいるようだ。
子供たちは皆、真剣な眼差しでカーネイションの話に耳を傾けている。
礼拝堂の片隅で、肩を並べる2人の男女。
白い帽子を被った女……ウェスティ・カルートは眉間に僅かな皺を寄せ、カーネーションの話に耳を傾けていた。
「よく言うわ。世のため、人のためだなんて……」
なんて。
吐き捨てるように告げた言葉は、ウェスティの隣に立つ青年、サタディ・ガスタにしか聞こえないほど小さな声量である。
「上の指示を遂行しているだけだ。カーネイションも、俺たちもな」
「そうかしら? あれはカーネイジ(大虐殺)よ? 嬉々としてアレに加担し、こんな場所へ放逐された女よ?」
「だとしても、だ。既に事は済んだ後で、子供らの行く末は俺たちには何も関係ない。ただ“出荷”の日を待って、無事に子供らを“運送屋”に引き渡すまで護衛を果たして、それで終わりだ」
考えるな、とサタディは言った。
そう言う割に、眼差しや口元には隠し切れない苛立ちが滲んでいることにウェスティは当然のごとく気づいていた。
気づいていたが、何も言わない。
結局のところ、自分たちには何も出来ない。
そんな現実を、2人は理解しているのだ。
●“connector”
「廃都アルカヤについての話をしよう」
オレンジ色に染まる部屋。
“C”と名乗った男性は、静かな声で言葉を紡ぐ。
ある寒い日の夕暮れ。
サンディ・カルタ (p3p000438)の元に届いた1通の手紙には“C”という署名が記されていた。
その名は以前、アドラステイアの廃船島で出会った男のものに違いない。
罠を警戒しながらも、サンディは手紙に記されていたある廃屋へ足を運んだ。
「あぁ、やっぱりサンディ君も呼ばれたんですね。しかし、随分と来るのが遅かったみたいですけど」
割れた窓からオレンジの光が差し込む廃墟の一室に、集っていたのはサンディを初めとした見慣れた面々。
真っ先に声をあげたのは、明るい髪色をした小柄な男性、ベーク・シー・ドリーム (p3p000209)である。
「……送られてきたのは、場所と時間だけ書かれた手紙だぞ? 罠かと思って、そりゃもう慎重に慎重を重ねて来たっつーの」
はぁ、と盛大な溜め息を零したサンディは、ベークへ向けてじっとりとした視線を送る。
一方、ベークはと言うとそんなサンディの苦労など一切知らぬといった様子で、こてんと小首を傾げて見せた。
結果として、廃墟には罠の1つも仕掛けられていなかった。
要するに、サンディの取り越し苦労と言うわけなのだが、もし万が一、罠があったのだとしてもベークであればきっと難なく踏破したであろうことは想像に難くないのである。
見た目こそ華奢なベークであるが、その実、イレギュラーズの中でも特段耐久性に優れた1人であることはサンディも良く知っている。
窮地においては、ベークを盾に戦場を駆け抜けたこともあるほどだ。
「何の話をしている? これは、仕事の依頼なんじゃないのか?」
2人の会話に首を傾げて、マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)はそう問うた。
「……マカライトもか。傭兵ってのは、もっと用心深いもんじゃないのか?」
「用心をしていないわけではない。もしも罠だったり、敵対する者が現れれば、即座に適切な対応をとるつもりでいるさ」
そう言ってマカライトは腰の機械剣へ手を触れた。
いざという時、頼りになるのは己の頭と得物だけ。
心配し過ぎて前にも後にも動けなくなるぐらいなら、罠でも跳び込み事態を動かすという心算だろうか。
なるほど、それは確かに傭兵らしい考え方である。
「今更罠ってこともないでしょう。私たちと“C”の関係を知る者なんて、当事者以外に居ないわけだし“C”にしたって、私たちを消す理由はないはずよ」
バサリ、と。
風を打つ音がして、窓の枠に小柄な女性が降り立った。
彼女の名はティスル ティル (p3p006151)。
4人の男女が集ったところで、サンディも幾らか落ち着いたらしい。
イレギュラーズが4人も揃えば、多少の窮地も乗り越えられることだろう。
4人が集って暫くの後、ローブを纏った男が1人現れる。
名を“C”というその男の素性は不明だ。
しかし、マカライトを除く3人は以前、彼に逢ったことがある。
その時はアドラステイアに、何かの調査に赴いていたはずだ。
「廃都アルカヤについての話をしよう」
挨拶もそこそこに“C”はとある滅んだ都市についてを語る。
今から数年ほど前、その都市では大規模な戦争が起きた。
否、それは戦争というにはあまりに惨い大虐殺だ。
街に潜んだ“旅人”を狙い、攻め込んできたアドラステイアの一団が、住人たちを手あたり次第に襲ったというのが真相である。
建物はなぎ倒され、火を放たれ、老若男女を問わず刃の錆となる。
そうして一夜、すっかり廃墟となった街は地図からその名前を消した。
「その時、アドラステイアの一団を先導していた者の名が“カーネイジ”。現在はカーネイション・カーネイジと名乗るアドラステイアのマザーだ」
曰く、カーネイションは滅んだ街の教会で、ひっそりと孤児院を開いているそうだ。
健康で、頭が良く、素直で、才能のある少年少女を集め、そして教育するための施設として。
そうしてカーネイションの育てた子供たちは、近々アドラステイアへと送り込まれるらしい。
「その後、子供たちがどういった風に扱われるかは未知数だ。しかし、きっと碌な結果にはならないだろう」
「それで? 俺たちにどうしろって?」
「別にどうもしなくていいさ。何もしたくないのなら、今日のことはすっかり忘れて、明日になるのを待てばいい。だが、件の街には君のよく知る者たちも滞在しているみたいだぞ?」
好きにしろ。
そう言って“C”は、紙の束をサンディの足元へと放る。
詳しくはそれに書いてある。
そう言い残して、それっきり“C”は立ち去って行った。
廃都アルカヤと、教会にいる10名の孤児たち。
そして、アドラステイアのマザー、カーネイション・カーネイジ。
孤児たちの護衛として配属されたウェスティ・カルートとサタディ・ガスタ。
以上の13名が、アルカヤにいる人間の全てだ。
「ウェスティは回復や補助を、サタディは手数の多い魔弾を扱う聖銃士か」
「それとカーネイションね。詳細は不明だけれど、近距離格闘戦を得意とするって資料にはあるわ。【必殺】【致命】【飛】【ブレイク】……街を壊滅させた時にも参加していたみたいだし、それなりに多人数相手でも戦えると見てよさそうね」
資料に目を通しながら、マカライトとティスルが言葉を交わす。
好きにしろ、と“C”はそう言った。
何も聞かなかったことにしても構わない、とそう言った。
だからといって、子供たちの行く末を思えば、サンディたちに廃都アルカヤへ向かわないという選択肢はない。
「ほらみろ、やっぱり罠だった」
「とはいえ好機ですよ、サンディ君。例の2人を捕えるには、アドラステイアから離れている今がベストなタイミングです」
「まぁ、なぁ……悪い奴らってわけじゃないし、できれば殺し合いはしたくないんだが」
これまで数度、サンディはウェスティ&サタディと顔を合わせている。
時に敵対し、時に協力してことに及んだ経験からも、2人が完全なる悪人ではないと知っていた。
もし捕縛できれば、アドラステイアに関する重要な話の1つや2つは聞き出せるかもしれない。
「孤児たちを奪還するついで……にはなるだろうけどな」
「そのためには、カーネイションが邪魔ですね」
「あぁ。だが、こちらもそれなりに人数がいるんだ。たぶんどうにかなるだろ?」
やるか。
なんて、面倒くさいといった態度を取りながらもサンディは軽々とした動作で歩き始めた。
「資料によると他にも4人、“C”の招待状を受け取ったイレギュラーズがいるらしい。そいつら集めて、廃都アルカヤへ乗り込もうぜ」
- 壊滅都市のサンディ・カルタ。或いは、アルカヤの子供たち…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年01月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●廃都アルカヤ
人気の失せた壊滅都市。
瓦礫塗れの大通りを1台の馬車が横切った。
町外れにある教会の前で停車した馬車から、蒼い髪の男が下りる。辺りの様子や物音を確認した彼……『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、教会へ向けて歩を進めた。
「止まれ」
イズマに声をかけたのは、白い衣服に身を包んだ褐色の男。事前に得ていた情報から、その者がサタディ・ガスタであることを知る。
サタディはアドラステイアに所属している聖銃士の1人だ。
腰に下げた魔銃に手をかけたまま、イズマへ鋭い視線を向ける。
「どこの誰だ? 目的は?」
「“運送屋”だよ。今日の荷は、教会にあるって聞いてるんだが、方向はこっちで合ってるか? あんた、関係者だろ? 初めて来る場所だから、道が分からなくてな」
そう言ってイズマは困ったような顔で頭を搔いていた。
「初めて? そいつはおかしいな。食糧やらを届ける馴染の“運送屋”が来ると聞いているが?」
「さてねぇ……俺だって急遽、駆り出されたんだ。トラブルじゃないのか? っと、そうだ。荷を取りに行く前に馬車を見てもらいたい。なにせ急ぎだったもんでな、小さいのしか用意してこられなかった」
こっちだ、と。
サタディの返事も聞かずイズマは馬車へと引き返す。
「……よぉ、何のつもりだ?」
馬車から幾らか離れた位置でサタディ・ガスタは歩みを止めた。
腰に下げたホルスターから魔銃を抜くと、左右の瓦礫の山へ向け銃口を向けた。
発射された弾丸が瓦礫の山を撃ち砕いた。飛び散る業火に炙られて飛び出して来たのは闇より深き巨躯の鎧『終縁の騎士』ウォリア(p3p001789)と、翼を広げた『潮騒の冒険者』ティスル ティル(p3p006151)だ。
「サタディ1人……いえ、各個撃破というならこれが正解かしら」
「では、作戦通り、教会へ戻る道は己が塞ぐ!」
サタディへと斬り込むイズマとティスル。
一方ウォリアは教会へと至る道を塞ぐべく駆け出した。先の銃声は教会にまで聞こえただろうか。
「お前らガキ共を攫いに来たのか? 俺はどっちでもいいんだが、まぁ任務なんでな。そう簡単に道を譲ってやるわけにはいかねぇ」
そう言ってサタディは表情を消した。
イズマの剣を魔銃の腹で受けながら、頭上より迫るティスルへと銃口を突き付ける。
「アドラステイアも一枚岩じゃねえって事か……いや、そんな気は前からしてたけどさ」
刹那、物陰より飛び出して来たのは『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)だ。緑の外套を翻し、手にした何かをサタディの射線へと投げ込んだ。
放たれた銃弾の直撃を受け、紫電に黒く焦げたそれは巨大なたい焼きである。
「またかよ……やりづれぇ」
「こっちこそ、いい加減属性弾食らうのにも飽きてきたところではあるんですが」
地面に落ちた巨大たい焼き『よく炙られる』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)。飄々とした態度で告げて、よっと身を跳ね起こす。
体表の焦げた部分が剥離して、現れたのは傷1つないたい焼きボディ。
サタディの銃撃が止まる。
魔銃は2つ。
しかし、見えているだけでも敵の数は4人。
迂闊に銃弾を撃てば、致命的な隙を晒しかねないと判断したのか。
一瞬、思案した後にサタディは瓦礫の山へ向けて駆けだした。
「世の為なら身寄りのない子供はどうでも良いってのが相変わらず気に食わんな」
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)がサタディの進路を塞ぐように物陰から姿を現した。
さらに……。
「うしろはとった、よっ!」
一条、 廃都に紫電が奔る。
四肢で荒れた地面を掴み『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が疾駆したのだ。
不意をうたれる形となったサタディは、リュコスの爪をその背に浴びて血を吐いた。
雲った空に銃声が響く。
その音に気付き、教会の庭に跳び出して来たのは2人の女性だ。
1人はウェスティ・カルート。
サタディの相棒にして、回復効果のある魔弾を操る聖銃士である。
そしてもう1人の老婆は、カーネイション・カーネイジ。教会の管理者でもあるアドラステイアのマザーだ。
「様子を見て来る」
そう言ってウェスティは教会から飛び出していった。
その背を見送るカーネイションへ『一般人』三國・誠司(p3p008563)は大砲を向けた。
教会、礼拝堂の屋根の上に陣取った誠司の存在に、カーネイションは気づいていない。
「……さあこいババア!」
空気の震える激しい衝撃と轟音。
発射された砲弾が、カーネイションを背後から襲う。
●大虐殺
機械の剣が唸りを上げる。
腰を低くし剣を背後へ振り被り、マカライトは静かに告げた。
「不条理を旅人に押しつけて満足したろ、さっさと寝ろ」
一閃。
剣を振り抜くと同時に、黒き魔力を纏った鎖が濁流のように放たれた。地面を抉り、形成されるは竜の顎か。
直撃を受けてはたまらないと、サタディは瓦礫を盾に回避を図った。
瓦礫の山を飲み込んで、鎖はサタディの腕に荒い裂傷を刻む。
直撃こそ避けたが、ダメージは残る。
だが、問題ない。
「放っておけよ。説教くれてる暇なんてあるのか?」
数発の弾丸。
マカライトへ降り注ぐ業火の礫。
剣でそれら全てを捌き切ることは不可能だろう。
「うぅん、やっぱり子供たちをどうこうってのはやっぱりあんまりいい気分はしませんねぇ。ひとつ訪ねたいんですけど、一体、どういう気持ちなんです?」
マカライトの前に割り込んだベークは、身体を張って業火の礫を受け止めた。
鈍い音が鳴り響き、その度にベークの身体が跳ねる。
業火に包まれ、地面に転がるたい焼きは、しかしゆっくりと……何てことも無いように、さも自然な動作で体を起こして立った。
当然、ダメージは負っている。
しかし、その端から負った傷が再生していた。
「やっぱり天敵だなお前! お前のような菓子があってたまるか!」
瓦礫の奥から聞こえるサタディの悪態を右から左へ聞き流し、ベークはチラと頭上を見上げた。
そこには翼を広げたティスルの姿がある。
彼女は剣を肩に腰の位置に構えると、瓦礫の影に潜むサタディへ狙いを定めた。
ティスルが急降下を開始する。
同時に動き始めた影は2つ。
1人はサンディ、もう1人はウォリアだ。
ティスルを迎撃するべく展開された弾幕。翼を、肩を、胸を、腹を、次々とサタディの魔弾に撃ち抜かれながら、ティスルはさらに加速した。
「さあ、受け止めてみせなさいな」
その動きはサタディにとって予想外のものだったのだろう。
瓦礫を跳び越え回避に移ったその直後、先ほどまでサタディのいた位置をティスルの剣が薙ぎ払う。
「ちっ……息つく暇もありゃしない」
「まだよ」
着地したティスルは、腰を捻って背面へ向け斬撃を放った。
サタディはそれを銃の腹で受け流す。
足を延ばして、身体を反転。
3度目の斬撃は、寸でのところで回避され、サタディの額を浅く斬り裂くにとどまった。
「諦めなさい。私の連撃を凌いだ先に……本命の一撃があるのだもの!」
「っ!?」
3度の斬撃を回避され、しかしティスルは笑っていた。
「逃がすわけにはいかねーな」
サタディの着地点に潜り込んだのはサンディだった。
足元を狙い蹴りを放つ。
ブーツの爪先から飛び出した仕込み刃を視認し、サタディは表情を曇らせた。迎撃も回避も間に合わない。
銃弾を放つ。
苦し紛れの一撃は、サンディの肩を撃ち抜いた。
動きを止めるには至らない。
サタディの足首に走る衝撃と鋭い痛み。飛び散った鮮血が地面を濡らす。
痛みに耐えきれずサタディは地面に倒れ込んだ。
意識を奪うべく、ウォリアが迫る。
その顔の横を、淡く白い輝きを纏った魔弾が横切った。
砲撃の音が鳴り響く。
誠司の方も戦闘を開始したようだ。
「分断……いえ、今はこっちが優先ね」
一瞬、背後を振り返ったウェスティは即座にサタディの援護へ回ることを決めた。
魔弾を撃ったウェスティの前に、イズマとリュコスが駆け込む。
回復の魔弾はサタディに届いた。
傷の癒えたサタディが姿勢を立て直しながら弾幕を張る。無数の弾幕を撃ち込まれたウォリアとサンディが踏鞴を踏んで後ろに下がった。
サタディの援護をすべく動くウェスティの眼前を、イズマの細剣が横切る。
「わっ……と」
剣の軌道に沿うように紫電が散った。
イズマの胸元へ向け、ウェスティは銃口を突き付ける。
「貴方たちの目的は何?」
ウェスティは問うた。
「アドラステイアは子ども達を使い捨てにする。未来なんて考えちゃいない。……だから黙って見ていたくない」
イズマの剣が銃を弾いた。
「子ども達には、命懸けで戦うよりも成長して未来を担ってほしい。その方が世のため人のためになるはずだ」
硬質な音が鳴り響く。
銃声が1発。
イズマの頬を掠めた弾丸が明後日の方向へ飛んでいく。
得物を弾かれた衝撃に押され、2人は体を旋回させた。
速かったのはウェスティだ。
イズマが剣を構えなおすより速く、銃口を彼の側頭部へ押し付ける。
しかし、ウェスティが引き金を引くことは無かった。
「かくほーっ!」
刹那の隙に、リュコスが動いた。
背後から飛びつくようにしてウェスティの腕にしがみつくと、深くその肩に喰らい付く。取り落とした銃が地面を転がる。
突進の勢いを乗せウェスティを押し倒すと、リュコスは彼女の細い首に手を添えた。
「ぐぬぬ……2人に加えて、おばーちゃんもいるんだよね。いつも以上にたいへんそう」
ウェスティの動きを牽制しながら、リュコスはそう呟いた。
弾幕を突き抜け、サンディとウォリアが前へ出た。
ウォリアの鎧は火炎に焦げ、サンディは体中から血を流している。
荒い呼吸で肩を激しく上下させるサタディが、2人へ鋭い視線を向けた。
「まぁ今はとりあえず、目前のモノから救いつつ、道を作るしかねーよな」
ダメージが大きいのか、サンディはその場に膝を突いた。
サタディは震える手で銃を持ち上げ、サンディの頭部へ狙いをつける。
1歩、サンディの前へウォリアが進む。
「ちく……しょう」
吐き出された言葉は短い。
放たれた魔弾は、ウォリアの鎧に阻まれた。
「生け捕りだ。本来ならば惨く殺すのがオレの流儀ではあるが、な」
振り下ろされた大剣が、サタディの肩を強かに打った。
単なる殺戮者にアドラステイアのマザーは務まらない。
カーネイション・カーネイジは確かに近接戦闘の玄人であり、虐殺を得意とする者だ。
しかし、だからといって頭が切れないわけではない。
執拗にヒット&アウェイを繰り返す敵の動きに、何らかの目的を感じ取った。
子供たちのいる建物へ向けた砲撃は1度も無かった。
護衛の聖銃士2人は出て行ったまま帰ってこない。
分断……目的の1つはそれだろう。
「そしてもう1つは子供たちの誘拐かい? 10秒だ。10秒の間に出て来なければ、まずは1人、子供を殺す。逃げても同じだ。姿を現す以外の行動は認めない」
静かな、けれどよく通る声。
当然、カーネイションの言葉は誠司の耳に届いた。
大砲を下ろし、礼拝堂の壁をすり抜け姿を現す誠司へとカーネイションはひどく悪辣な笑みを向ける。
片手を子供の首にかけ、カーネイションは告げた。
「お人好しだね。自己犠牲の精神は見上げたもんだが……ちょっと愚かしいんじゃないか?」
なんて。
嘲笑するかのようなカーネイションの言葉が耳に届いた、その刹那。
急接近したカーネイションの正拳が、誠司の腹部を撃ち抜いた。
●カーネイション・カーネイジ
「これから忙しくなりそうって時に限って邪魔が入るものなのさ。いつだってそうさ」
なんて。
往来で偶然知り合いにでも会った時のような口調で、カーネイションはそう言った。
それから彼女は、片手に引き摺る真っ赤な何かを放り投げる。
どさり、と音を立ててそれはサンディの眼前に転がった。
「……誠司?」
顔は腫れ、地に濡れたその姿が知己であると一瞬サンディは理解することが出来なかった。
「さぁ、子供たち。これから私が見本を見せてあげますからね」
なんて、言って。
カーネイションは背後をチラと振り返る。
そこにはどこかぼんやりとした表情の子供たちが並んでいた。
ティスル、イズマ、マカライト。
3方向から同時に斬り込む3人を、カーネイションは僅かな動きで翻弄してみせた。
上空から迫るティスルの斬撃を回避し、マカライトの剣を手の平で弾くようにして捌く。遅れて斬り込んできたイズマの剣は、逸らされたマカライトの剣とぶつかりカーネイションに届かない。
「できる限り捕縛を狙う……でいいんだよな?」
「まずは子供達の奪還が優先よ!」
イズマの問いに答えを返し、ティスルは翼を広げた。
しかし、広げられた翼にカーネイションの手がかかる。バキ、と鈍い音がしてティスルの羽がへし折れた。
短い悲鳴をあげるティスルの顔面へ、掌底を叩き込みながらカーネイジは1歩前進。
イズマとマカライトの懐へと潜り込むと、両者の胸部へ拳を叩き込むのであった。
「子供たちは奪わせないよ。これから働いてもらわなきゃならない」
「ぐ……ろくでなしめ」
「価値観の違いさ」
なんて。
忌々し気に顔を顰めたマカライトの腹へ、カーネイションの蹴りが刺さった。
流れるような踏み込み。
拳打が、ベークの胴を打つ。
ベークを盾に構えたまま、サンディはじりじりと後ろへ下がる。衝撃がベークを通じてサンディの腕を痺れさせた。
「っつう、痛いなぁもう……こんなことして楽しいです?」
「楽しか無いさ。あんた、どんな体のつくりをしてるか知らないが、ちっともくたばる気配がしないんだものねぇ」
カーネイションの言葉を聞いた、サンディは即座に理解した。
彼女が好きなのは“暴力”でなく“虐殺”なのだと。
地面が強く震えるほどの踏み込み。
身体を1本の杭みたいにまっすぐ伸ばした渾身の殴打が、ベークの腹へ突き刺さる。
後方へと弾き飛ばされるベーク。
サンディは前へ。
カーネイションの顔面目掛けて手刀を放つ。
直後、頬に走る痛み。
視界がぶれる。
カーネイションの顔面が裂け、鮮血が散った。
サンディが視認出来たのはそこまでだ。
【パンドラ】を消費し復帰したサンディと、戦線へ戻ったベーク、さらにウォリアとリュコスも加わった4人がかりでカーネイションを抑え込む。
動きが速く、力が強い。
カーネイションの背後に控えた子供たちを巻き込まないよう注意すればするほどに、こちらの動きは阻害される。
「……とんでもねぇ婆さんだな」
地面に倒れたままサタディは呟いた。
「よぉ、今回随分大人しいじゃんか。化け物相手なら大口たたけるけれど、マザー相手じゃいい子ちゃんか」
身を起こした誠司が問うた。
意識を取り戻したにもかかわらず、行動を再開しようとしないサタディに苛立ちを感じているようだ。
「俺の援護が必要なように見えるか? いらないだろ。“カーネイジ”1人で十分だ」
落とした銃を拾い上げることもなく、サタディは応えた。
見れば、解放されたはずのウェスティも、カーネイションの援護を行うこともないまま、曇った顔で戦況を静観しているようだ。
その様が、彼ら2人の姿勢が誠司にはひどく苛立たしいものだった。
だから、誠司は倒れたままのサタディへ手を伸ばし、その襟を掴んだ。
「だったらさっさと情報だけおいて消えなよ」
低く、冷たい声だ。
「自分に嘘ついて輪郭なくしたやつに何も変えられないし救えない! 後は僕らだけでやるからさぁ!」
サタディは何も答えない。
それが答えだ。
子供たちを利用し、使い潰すみたいなやり方を、サタディは許容できていないのだ。
舌打ちを零し、誠司はサタディを突き放す。
それから、落ちていたサタディの魔銃を拾い、彼は告げた。
「僕より強いのに、守る力があるのに……なぜお前は動こうとしない!」
リュコスの爪がカーネイションの胸を抉った。
ダメージを厭わず、カーネイションはリュコスとの距離を一気に詰める。姿勢を低くし、下段から抉るようなアッパーをリュコスの顔面へと叩き込む。
カーネイションの拳がリュコスに届く寸前、空気の爆ぜる音が響いて、細い手首が射貫かれた。誠司による魔弾の援護。それはまさしく反撃のための糸口だ。
たった1発の銃弾。
生まれた隙を突いたリュコスがカーネイションの喉を裂く。
「いま、だよっ!」
「おぉっ!」
ウォリアの放つタックルが、カーネイションを地面に倒した。
剣を振り上げたウォリア。しかし、その腕に子供たちが抱き着いた。
「やめて!」
恐怖に子供たちの身体は震えている。
けれど、瞳に宿る意思は強かった。カーネイションの目的はどうあれ、子供たちにとって彼女は育ての親に他ならない。
「お前たち、この女は……いや、言うまい。混沌に墜ちたこの身は一旅人でしかないのだから」
剣を離し、カーネイションの頭を掴む。
力任せに一撃、後頭部を地面へ叩きつけて意識を刈り取るのだった。
こうして、2人の聖銃士と1人のマザーは捕縛された。
その日、廃都から人の姿が完全に消えた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
カーネイション、サタディ、ウェスティの3名の身柄が確保されました。
また、子供たちの保護も完了しています。
以来は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
※こちらのシナリオは部分リクエストシナリオとなります。
●ミッション
カーネイションの捕縛or討伐
※サタディ&ウェスティの捕縛or撃退
●ターゲット
・カーネイション・カーネイジ
アドラステイアのマザーを務める老婆。
一見すると腰の曲がった老人にしか見えないが、一夜にして街を壊滅させた実行部隊の1人である。
詳細は不明だが【必殺】【致命】【飛】【ブレイク】の効果を伴う近距離格闘戦を得意とするようだ。
※カーネイションは子供たちに慕われている。
※カーネイションの役割は、子供たちの洗脳および教育のようだ。
・ウェスティ・カルート
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/33362
アドラスティアに所属する聖銃士の女性。
直接の戦闘よりも、魔導銃による体力、BSの回復を得意としている。
※子供たちの行く末について思うところがあるようだ。
・サタディ・ガスタ
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/33361
アドラスティアに所属する聖銃士の青年。
穏やかな気性のウェスティに比べ、荒っぽい性格をしている。
魔導銃による威力の高い魔弾の発射を得意とする。
サタディの操る魔弾には【感電】や【業炎】【氷結】の状態異常が付与されている。
・子供たち×10
10名の健康で、素直で、頭が良く、才能に満ちた少年少女たち。
近日中に、アドラステイアへ送り込まれる手はずとなっている。
●フィールド
廃都アルカヤ。
地図にない壊滅した街。
家屋のほとんどは倒壊、または燃え尽きている。
幾らか残った家屋にしても、傾いていたり、焦げていたりと散々な有様だ。
人がすまなくなって久しいため、家屋はどれも脆く崩れやすい。
そんな中、街の端にある教会だけは粗末ながらもどうにか形を保っている。
※誘き出すなどの工夫がなければ、教会で接敵することになるだろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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