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シナリオ詳細

悪よ、豊穣の地に根付くを許すまじ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●宮内省にて
 高天京には『八扇』と呼ばれる8つの省庁が存在する。
 政治機関であり豊穣を治めるその組織は過去の騒動により、凄まじい混乱と再編の最中にある。
 八扇の長のほとんどが空席になり、『代行』がつき政治を行っている。
 ならば代行がいずれ卿の座につくのか?
 答えは否。政治がそんなに単純明快であれば、とっくに代行たちは代行から「卿」になっているはずだ。
 実際には各省で様々な政治的思惑が絡み合い、『候補』と呼ばれる者達が擁立されている。
 いわば神輿であるが、それぞれ神輿にされるだけの有能さを持つ者達である。
 いざ『卿』となれば自らの支持基盤を完全に土台とするべく動きかねない候補たちは、人材不足もあり各省庁から引き抜かれた者達もいる。
 たとえば……宮内省の宮内卿候補である榊 黒曜である。
 特異運命座標の影響からスーツと呼ばれる類の服装を纏う黒曜は、元は中務省。
 しかし一度八扇から離反した経緯もあり、今は宮内省に籍を置く身となっていた。
 周囲が和服を纏う中、新しき風を信条としスーツを貫くその姿から不本意にも【先触れの風】と呼ばれている黒曜だが……そんな黒曜が魔種に関わる事件をイレギュラーズと共に解決したのは、ついこの間のことである。
 これにより黒曜の宮内省での権限は僅かながら強まることになる。
 魔種に対する高天原、ひいては豊穣の地における反応は、決して過剰なものではない。
 再び魔種がこの地に根付くことを豊穣は決して良しとせず、『食の簒奪者』なる者たちもこの地から追い出したい。
 だからこそ、豊穣グルメ祭を催し魔種を表舞台に引きずり出した黒曜の手柄は評価されていた。
 しかし逆に言えば、魔種の脅威は去ったわけではない。
 かの【冥】をも動かし、ガストロリッターなる者たちも豊穣の地で活動を始め、魔種を駆逐するべく動いている。
 そんな最中……黒曜は、とある情報を掴み思案していた。
「これは……慎重に調査をする必要がありますね。しかし今の段階で私は動けない。となると……」
 黒曜の視線は、庭で洗濯物を運んでいる1人の少女に向けられる。
 実はつい最近まで名無しであったらしいことが発覚した鬼人種の少女、水無月。
 黒曜の視線に気付いた水無月が振り返ると、黒曜は警戒させない笑みを浮かべて。
「ひえっ」と水無月が声をあげたのが、黒曜には不思議でならなかった。

●宮内卿候補・黒曜からの依頼
「というわけでそのー……宮内卿候補の黒曜さまから依頼なんだ」
 ギルド・ローレットに現れた水無月は所在なさげにもじもじとしながら、そう切り出した。
「冥」とガストロリッターの手引により此処までやってきたらしいが、その彼等は今は外で警戒中の為、今は水無月1人である。
「前に皆に撃退して貰った魔種なんだけど……まだ行方が分かっていないんだ」
 魔種の佐藤 太郎。
 食という観点から世界を操り喰らい尽くそうとする『食の簒奪者』たちとの戦いの始まりであり、彼等と戦う『ガストロリッター』が表舞台に躍り出た事件でもあった。
 しかし彼等の戦いの大部分は「裏」で行われる。
 それ故に、以降の情報が出ないままだったのだが……ついにその新たな企みかもしれない事件が黒曜の耳に入ったのだという。
「比較的小さな温泉街なんだけど……どうも最近、そこがちょっとおかしいんじゃないかっていう話が出てきたらしいんだ」
 それに気付いたのは、1人の旅人。
 単なる小さな違和感にしか過ぎなかったソレを「冥」が聞きつけ、そして調査に向かったのだ。
 今のところ確信には至っていない。「冥」の調査でも、事を荒立てないという前提では限度もある。
「黒子……ってモンスターを覚えてる?」
 豊穣グルメ祭の事件に関わった者であれば記憶に新しいだろう。
 魔種の太郎の手下として働いていた「他の人間に成り代われる」モンスターである。
 そして、そこまで言われれば今回の事件についてある程度想像がついてしまう。
「その街の住人の一部が、黒子にすり替わってるんじゃないか……って懸念があるんだ」
 特に魔種の太郎の事件を思い返すに、怪しいのは料理関係だろう。
 その旅人も「店の味が少し変わったかも」という程度の違和感であったらしい。
「事態を考えれば黒曜様が動きたいってことらしいんだけど……直接黒曜様が動けば警戒されちゃうから、僕が見届け人として皆に同行することになったんだ」
 手形も預かってるよ、と着物の裾から取り出す水無月の姿は……実にやる気に満ちていた。

GMコメント

豊穣に潜む魔種の太郎の新たな企みが進行しています。
手遅れになる前に撃ち砕きましょう!

具体的には温泉街にて本人と入れ替わっている黒子(総数不明)を見つけ倒すことが目的となります。
作戦によっては1日~2日がかりの長期戦も有り得るでしょう。
旅館などを拠点にするのも良いでしょう。
ただし、その従業員が「成り代わり」ではないという保証はありません。

なお、水無月は「黒曜の手形」を所持しています。
宮内卿候補である黒曜の代理権限者としての証明であり、これがあればいざという時に多少の無理を通す事も可能でしょう。
ただし乱用すると黒曜からの好感度が下がりそうです。

●今回の舞台「モミジ村」
 山々の紅葉と温泉が名物。
 ちょうどこの季節に観光客がちょっと増える。
 寂れた温泉街です。
 名物は温泉饅頭や温泉卵を含む蒸し料理。
 そうした露店や料理屋、土産屋に旅館などで構成されています。
 一般家屋はほんのちょっとだけ。

●今回の敵
・黒子
(総数不明)
文字通り黒子のような恰好をした人型モンスター。隠密技能に非常に長けています。
また、他の人間の姿に化け成り代わることが出来ます。
成り代わった黒子は声色では判断が出来ませんが、体臭は無臭。
親しい人が見れば多少違和感を感じる程度には擬態できます。
料理などの技術もほぼ完ぺきに真似をしますが、特にその技術に対する理解があるわけではなく模倣です。
戦闘時には影を操り武器の形に変化させてきます。
なお、黒子に入れ替わられた人達は殺されて黒子の「影」に収納されています。
倒す事で本人の遺体を取り戻す事が可能です。

●今回の同行者
【水無月】
鬼人種の13歳の少女。
八扇の宮内省にて色々な雑用をこなす下働きの少女。
明るく元気な働き者で、周囲から好かれる人柄。
捨て子だった為、自身の歳と名前が分からず、付けてくれるような大人にも巡り合えなかった。
物心ついた時から近所の寺子屋(兼孤児院)で最低限の教えを受け、数えで10になった年に働きが良い労働力として引き取られて行った。
同年代の少年少女と比べ、明らかに強健な肉体を持ち、戦闘技能こそないものの病気知らずの健康体。
本人ははっきりと認識していないが、悪運の星の元に生まれたような妙な巡り合わせを持つ。
見なくてもいいもの、知らなくていいことを偶然目撃してしまうことが多く、そのせいで危ない目に会うことも何度かあったようだ。
余り人に何かを誇るようなタイプではないが、自身の艶やかで長い黒髪は密かな自慢で、大事に手入れしている。
豊穣グルメ祭の際、水無月という名前を貰っている。
今回は黒曜の代理権限者としての手形を所持しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 悪よ、豊穣の地に根付くを許すまじ完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
ミソラ・アベンチュリア(p3p010031)
新たな可能性
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ

●モミジ村の現状
 豊穣のモミジ村。紅葉を迎えるこの季節に、『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)たちはやってきていた。
「また会えたのう、黒髪の綺麗なお嬢さん。今は水無月殿といったか……良い名じゃと思うぞ! アカツキ・アマギ再び参上じゃ。此度の依頼も宜しくなのじゃよ」
「えへへ、ありがとう。よろしくね、アカツキさん」
「水無月おねえさーん!」
「うひゃあっ!?」
 自分を呼ぶ声にビックリして水無月が振り返れば、そこには『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)がいる。
「あのね、たい焼きおじさんの黒子さん倒すの目的だけど、怪しまれないように黒子さん見つけ出すのも大事なの! だから黒子さん探しながら観光しようね!」
「ふふふ、そうだね」
 こんなことを言っているが……それは、キルシェたちがいる旅館に「黒子はいない」と仮判定が出たからである。
 今回は2日間をかけた本格調査になるということで、旅館に部屋をとったわけだが……その旅館の従業員が人間と入れ替わる「黒子」でないという保証はなかった。
 だからこそ超嗅覚を使って体臭を感じるかどうか探りを入れてみたのだ。
 結果、普通に汗などの体臭を感じ……「無臭」であるという黒子ではないという仮判定が下されていた。
 そして今まさに作戦会議中というわけだった。
「人に入れ替わるモンスターですか……家族の方にしてみればぞっとするような出来事でしょうね・せめて遺体だけでも取り返せるように頑張らねばなりませんね」
『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)がそんなことを言うが……確かに家族や隣人が「全く違う何か」に入れ替わってしまうというのは恐怖以外の何ものでもないだろう。
「誰かに成り代わる魔物か……大事な人がいるヤツにとっちゃ、気が気じゃねえ相手だな。いつの間にか別のやつに入れ替わってるなんてよ。人助け……ってわけじゃねえが、他人を利用するような能力は気に食わねえ。さっさと見つけ出して叩き潰そうぜ」
「厄介極まりますわね。なんとしても、全て祓わなければ」
『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)に『神使』星芒 玉兎(p3p009838)も同意し、具体的な今後の手順について話し合っていく。
「件の魔種は「食」に執着があると聞きます。であれば、やはり食処が標的になっている可能性が高いと見るべきでしょう。ですが厨房に立った事も碌に無い身ですから、料理の事に詳しいとは言えませんわね。周辺を当たります」
「食事っていう関連から世界を牛耳ろう、だなんて傍から見れば荒唐無稽ではあるけれど……理にはかなっているのよね。満足に食べられない事なんてざらにあるもの、食事は幸せに食べられることを感謝しないと行けないの、企みなんかくじいてやるわ!」
 玉兎に『新たな可能性』ミソラ・アベンチュリア(p3p010031)が同意し、怒りを募らせる。
 魔種の佐藤 太郎。食という観点から世界を操り喰らい尽くそうとする『食の簒奪者』たちの一員であるソレの企みは、必ず叩き潰さねばならないものだ。
「調理技術ってのは伝授されたり見て盗むもんであって、殺して奪うのは違ぇんだよなぁ」
 そのことを思えば、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)としても苦言を呈さざるを得ない。
 まあ、その程度で魔種が止まれば苦労しないから、ゴリョウもこの場に居るのだが。
「とにかく、事前の打ち合わせ通りに出発するか」
「そうッスね。僕は今日は情報収集……怪しまれないように普通に観光をしようかなと」
『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)にゴリョウも頷き……そして、各自の1日目が始まっていく。

●モミジ村の闇
 玉兎は「店」自体は他のメンバーに任せて、自身はコネクションや情報網を駆使して、発端となった旅人の証言のような「違和感」の情報を集めていた。
 それは決して簡単な作業ではなかったが、ある程度の情報は集める事が出来た。
 そうして怪しい店舗を特定したら、早速その近辺で霊魂疎通を試みていた。
(命を奪われるのみならず居場所も奪われたとあっては、無念から未練を残した霊魂が存在しても不思議はございませんわ)
 たとえ肉体を隠蔽されようと、魂まではそうではないはず。
 その目論見は当たり、玉兎は早速「入れ替わり」を仕掛けられた男の霊と接触出来ていた。
「……大当たり、ですわね」
 此処で入れ替わった黒子と接触する必要はない。しかしこれは動かぬ証拠となるだろう。
 鹿ノ子も自分で言った通り、観光という観点からの情報収集を開始していた。
 観光でもっている村であれば、観光客との交流は必須。話しかけても怪しまれないということでもある。
「へー、そうなんスねー」
「そうそう、この前もねえ……」
 黒子は体臭が無臭と聞いたので、【ハイセンス】に含まれる超嗅覚で相手の匂いを探っていく。
(無臭ッスね、此処……)
 土産物と家に染み付いた匂い以外の匂いがしない。人間の匂いが、一切しない。
 エネミースキャンをかけてみれば、鹿ノ子は自分の考えが事実であると確信する。
 今のところ、向こうは何も仕掛けてこないようだが……それがまた恐ろしい。
 その事実にうすら寒いものを感じながらも、鹿ノ子は次の場所へと移動していく。
 そしてゴリョウとミソラは料理屋を中心に回っていた。
 味及び調理技術、そして『料理』スキル持ちの矜持をもって調査をするつもりなのだ。
 だからこそ聞き込みをして地元民推薦の料理屋に行き、目玉料理を注文していた。
 観光地であればそういうものがない筈もなく、そこまでの流れは非常に簡単なものだった。
 味わい、俺も料理人だとその店の料理人に自己紹介しつつ、ゴリョウはこう問いかける。
「どうやってこの味出してんだ?」
「……ハハッ、教えられねえよ!」
「まあ、そうだなあ。ぶはははっ!」
(……なるほどなあ)
 こういう場合「企業秘密」って応えるのが料理人的には正常だとゴリョウは考えている。
 そして「教えられない」と目の前の料理人は返答した、が。
 口籠ったり、沈黙したり、逆に躊躇なく答えたりしたら要チェックでもあった。
 料理人ってのは腕に誇りと自信がある。
 技術について聞かれたら即座に返答できる『当たり前』で、またその技術は簡単に一見さんに公開するようなもんでもない。
 つまり、一瞬口ごもって「反応すべき言葉を探した」のは、明らかに怪しい。
 まるで「どう答えるのが正しいか」を探したようだ。
 ……とはいえ、今のところは敵対すべき段階ではない。ゴリョウはそう自制しながらも、料理人の一挙一動を見つめていた。
 その間にもミソラは怪しまれない範囲で常連客を見つけ聞き込みを行っていた。
 常連客なら顔なじみ、味をよく知っていることもあるだろうし、顔なじみだから挨拶や世間話をすることもあるかもしれない。
 その対応が変わっていたら怪しいものだし、黒子も技術は盗んでも精神的な物はわからないという。
 まあ、料理人そのものはゴリョウに任せているが、他にも入れ替わりの可能性はある。
(もしかしたら給仕の人達も入れ替わっている可能性があるわ、料理人だけじゃなくてそっちもおかしくなっていないか聞いてみなくちゃ)
 そんなゴリョウたち同様、アカツキも料理店を巡っていた。
 ゴリョウと違うのは、アカツキは「味が変わった」と事前に判明しているお店に行っているという点だった。
 ちなみに途中でシオンも捕まえている。1人で食べて回るには少しばかり量が辛そうだったからだ。
「店員さんオススメのメニューがあればそれを頼みたいのじゃがー?」
「オススメ、オススメか」
(この程度でボロは出さんじゃろうが……ぎこちなさを出してくれることを期待じゃな)
 そんなことを思っていたアカツキだったが……どうにも挙動に多少のラグがあるように感じていた。
 熟練の人間は身体が勝手に動くというが、まるで記憶を元に動いているかのような、そんな動き。
(うーむ、これは……)
 ボロというほどではない。だが、明らかな怪しさがそこにはあった。
「ところで、最近身の回りでなんとなくいつもと違うように感じる相手がいねえか?」
 シオンは追撃とばかりにそう問いかけてみる。
(全然空振っても構わねえ。とりあえず「何かを調べてるヤツがいる」と相手に思わせて誘い出すのが目的だからな)
 本格的に敵を炙りだすのは2日目からだが、多少揺さぶっておくのもまた戦術だ。
「いや、分かんねえな」
 店主はそう答えるが、シオンは泊まる予定の旅館の名前も話の流れで適当に出していき、向こうに「襲撃しやすい」と思わせていく。
 こちらが9人いることなど、教えなくていい。女2人旅、与し易しと思わせておけばいいのだ。
 そうして出店や料理処を中心に、同じように食べて聞いて回り……ついでに水無月と呼ばれる和菓子があると聞いてお土産用に探してもいた。
「ううむ、ちょっと太ってしまいそうじゃな……」
 シオンが捕まらなければ、結構大変なことになっていたかもしれない。
 さて、その水無月はどうしているだろうか。和菓子を見つけ、そんなことを考えるアカツキだったが……こちらもまた情報収集に勤しんでいた。
 沙月、キルシェ、水無月、そしてリチェルカーレ。
 見た目にも可愛い3人と1匹は、楽しげに村を巡っていた。
「温泉饅頭って美味しいの? 食べてみたいわ!」
 温泉の熱で蒸した、ほっかほかの温泉饅頭。
 買うのはキルシェと 沙月、水無月、そしてリチェルカーレの分の合わせて4つ。
 そこら中で紅葉を迎えているモミジは美しく、沙月は流石の名物だと少しだけ心を和ませる。
 そして一口モグッと食べれば……熱々の餡子ともちっとした皮の味が口の中に広がっていく。
「ほかほか甘くて美味しい……!」
「確かに美味しいですね……」
「うーん、ちょっと役得かも!」
「ぷいぷい!」
 それぞれの感想を言い合いつつも、沙月はニコニコと笑顔を向けている店主をチラチラ見ている水無月に気付く。
 何かおかしな点でもあるのか。
 そう考え沙月は超嗅覚をフル動員する。
 温泉の香りと饅頭の香り。その濃厚な香りの中に……体臭は、ない。
(……なるほど。この蒸気の熱さの中で無臭……ですか)
 そのおかしさに気付けば、もう「理解」は出来てしまう。
 遊んでいて黒子を逃すなどあっていてはならないが、なるほど強い香りの中に紛れれば誤魔化されてしまいかねない。
 しっかりと店の場所と店主の顔を記憶しながら、キルシェたちは次の店に向かう。
「水無月お姉さんは他に気になるのある? あるなら行きましょう!」
「うーん。迷っちゃうな。沙月とキルシェは、何処か行きたいところある?」
 笑う水無月と歩きながら、キルシェは装飾品店を見つける。
 街で売っているものに比べれば大分デザインとしては野暮だが、地元の石などを使った「お土産」然としたものだ。
「あ、これ髪飾り? 記念にどうかしら!」
 沙月と水無月に似合うモノを選び始めるキルシェを見て、沙月と水無月は顔を見合わせ笑う。
「なら、私もお礼に何か選びましょう。キルシェさんは可愛らしい方ですし、魅力を引き立てる物が良さそうですね」
「じゃあ僕も……うーん。どれも2人に似合いそうだし……」
「ぷぷいぷい!」
「ふふ、そうだね! 君の分もね!」
 そうして、3人と1匹は街を巡り……全員の情報を合わせると、恐るべき事実が浮かび上がってきていた。
「これは……明日を待つ必要もねえかもしれねえな」
「可能なら、人目が少ない場所に誘い出して戦いたいところだったが……」
 集めた情報を合わせ、ゴリョウとシオンが頷きあう。
「まさか、こんな……こんなことが……」
「水無月お姉さん……」
「惨いのう。前回の事件から然程の時もたってはおらぬというのに」
 ガタガタと震える水無月の背中をキルシェが心配そうにさすり、アカツキが小さく溜息をつく。
 しかし、この調査の結果は覆しようもない。
「どういうつもりッスかね……何かの実験……? ここまでする必要は……」
 鹿ノ子も首をかしげるが、それも当然だ。
 調査の結果……このモミジ村の7割ほどがすでに「入れ替わり」の被害にあっている。
 だからこそ、今この部屋に全員が集まり明かりを消していた。
 もう寝ている、と思わせる為だ。従業員が如何に「白」であろうと、今のこの村の状況では……。
 そしてすでに鹿ノ子とアカツキの超聴覚は、此処に近づく「何か」を察知していた。
 バアン、と襖の開かれる音。なだれ込んでくるのは村人の姿をした黒子たちだ。
 表情の抜け落ちたその姿に水無月が「ひっ」と声をあげるが……即座にゴリョウが金銀蓮花の炯眼で睨み付け、鹿ノ子の猪鹿蝶が黒子を斬り付け倒す。
 黒子がぶわっと消滅すると同時に「元の人間の死体」が現れるのは嫌がらせにしても手が込んでいるが……。
「水無月お姉さん、ルシェから離れないでね?」
「わ、分かった!」
 すでにこの場にはルシェの保護結界が張られているが、それとて万能ではない。
「ここで全て祓います……!」
「料理は心よ、積み重ねた付き合いが失われたら、その料理はもうその人の料理じゃなくなってしまうんだから。決して許す訳には行かないわ!」
 玉兎の神気閃光が黒子達を貫き、ミソラのメガ・ヒールが真正面に立つゴリョウを回復する。
 そして当然だが、1人たりとて逃がすつもりもない。
 退路を塞いだシオンのH・ブランディッシュが黒子たちへと炸裂していく。
「手加減する必要なんざねえから、全力で切り裂いてやる。テメエらみてえな誰かの信頼を利用してどうこうしようってヤツはだいっきらいなんでな! さっさと消えちまいな!」
 そうして全ての黒子を倒し終わった後には「入れ替わり」の被害者たちの遺体が積み重なり……その姿に、玉兎は悲しそうな表情になる。
 魔種の太郎が何をしようとしていたかは分からないが……少なくともこのモミジ村は、そのテストケースだった可能性が高い。
「オメェさんらの技術は簒奪させねぇ。俺がしっかりと残してみせらぁ」
 その中に何人もの「料理人」がいるのを見つけ、ゴリョウが手を合わせ……その間にも鹿ノ子とキルシェが水無月を伴って旅館の従業員に話を通しに行く。
「えっと、都で宮内卿候補やってる黒曜お兄さんからの依頼なの。この村の人が魔種襲われてて、助けて欲しいって……それから、村の人全員守れなくてごめんなさい」
 水無月の持っていた黒曜の手形の力もあり、その話を旅館の従業員も疑いはしない。
 先程こちらに乗り込んできた黒子たちのことも合わせれば、何が真実かはあまりにも明らかだったからだ。
 遺体の埋葬のことも考えれば、残った村人たちを呼ぶことも大切だろう。
 観光客もいる中、このダメージは大きいだろうが……。
「あのね、帰ったら黒曜お兄さんにモミジ村に住んでくれる人探して貰えないかお願いしてみるわ! だって、ほのぼの素敵な場所なのに魔種のせいで人が減ってなくなったら勿体もの! 駄目かしら……?」
 そんなキルシェの提案を否定する者は居ない。
 黒曜とて、その願いを無下にすることはないだろう。
 魔種により1つの村が無くなることなど……宮内省としても『八扇』としても、許し難いことなのだから。

成否

成功

MVP

キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
モミジ村に潜む闇を見事叩き潰しました!

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