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シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>再現性東京2010:障翳

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラジオの電波は混在している。お気楽なミュージックを流して気を和らげようとする局に、災害的状況に陥った再現性東京(アデプトトーキョー)の実情を伝える局、それから――『セフィロト』について伝えるアナウンサーの声だ。

 ――『ドーム』の機能は完全に停止、研究者の避難命令が出ました。
 ――『再現性東京(アデプトトーキョー)』各地からの移動エレベーターは電力が停止し……。

 ありありとその現実を伝えてくるラジオを聞きながら音呂木 ひよのは困ったことになったと呟いた。
 再現性東京2010街は『外』とは隔絶したような街の形態を保っているがセフィロト・ドームの一角だ。
 此れまで彼女が真性怪異の対峙に訪れる山や海、そうした地区さえも練達の叡智によってそうであるように見せかけられていたのだ。
 旅をするための新幹線や電車を思わせた『移動エレベーター』で各階層を移動し、それらしく思わせる。
 ……それだけの、仮初めの生活が脅かされている。
 ずっと続くと思っていた平穏に罅が入るのは何時も突然だ。ひよのは『外』を学んでいるが故に恐ろしくはない。
 だが――

「そ、空が……光ってる……」
「助けて、助けて……」

 市民はそうも行かないか。喧噪の最中に、綾敷 なじみはひよのの傍らで黙した儘にその状況を眺めていた。
 初めはロボットなどの暴走からだった。次にIoT機器に異常が発し、電話回線やインターネット回線の混雑が。天候システムの不具合に続き、天井モニターは空を映すことが出来なくなった。
 ひよのは外での避難誘導をイレギュラーズに願い出てからこの場所でなじみと合流するに至る。
「ひよひよ、なじみさんたちは、どうするべきなのかな……。
 私たちは再現性東京って呼ばれた箱庭でずっと生きてきた。今更、この場所を捨てることなんて、屹度できないよ」
 呟いたなじみは転んだ子供に「痛くないよ」と微笑んだ。ぎこちない笑顔は、困惑を滲ませている。
「そうですね。ですが、今は生き延びなくてはなりません。……R.O.Oで、いえ、セフィロトでは友人が頑張っているでしょう。
 其れを信じなくてはなりません。一先ずは皆さんを助けましょう。此処で野垂れ死んだり被害が多ければ彼女達が悲しい顔をしますから――」

 ――――バチンッ。


『いきなりの電話申し訳ありません。R.O.Oでもお忙しいかと思うのですが……少しだけよろしいでしょうか』
 澄原 晴陽からの連絡は緊急用非常回線によるものだった。現状はセフィロトからの退避命令が出ており、研究員が退避を続けている。
 彼女達、希望ヶ浜の市民は各区画に設置済みのシェルターへの避難を行っているらしい。
 その一つである澄原病院は医療の核でありながら、避難シェルターを兼ねた『地下講堂』を有している。
 晴陽は院長室でその状況を確認しているのだそうだ。そんな彼女の私用のスマートフォンへと入ったショートメッセージはイレギュラーズへと即刻伝えなくてはならないことであっただろう。
『中央市街に『きぼうモール』と呼ばれたショッピングモールがあります。
 ええ。簡単に言えば服飾店から雑貨、家電量販店にレストラン街、食品売り場などが一同に介する場所ですね。
 そちらに音呂木さんと綾敷さんが避難誘導に赴いたのですが、内部でセキュリティシステムが誤作動し、脱出できなくなったようなのです』
 ひよのやなじみは晴陽と共に避難誘導に走り回っている。希望ヶ浜内では皆が大忙しの有様だ。
 セキュリティシステムの誤作動がある事を見越してひよのたちは内部から抜け出す非常口をチェックしていたそうだが、どうやらそちらも使用不可となっている。
『きぼうモールの外部にはロボット達がセキュリティシステムの誤作動を察知して集まってきています。
 其れ等を退け、二人と、彼女らが救おうとしていた市民を近くのシェルターにまで誘導しては下さいませんか?』
 巫女としての力を有し、夜妖のプロフェッショナルであるひよのと猫鬼が憑いたなじみであれば窮地を乗り越えられる可能性はある。だが、あくまで可能性だ。数が多すぎれば、彼女らとは此処で今生の別れになってしまう可能性さえあるのだ。
『申し訳ありませんが―――』『先生! 急患です! シェルターへお越し頂いても!?』
 通信越しに、晴陽を呼ぶ声が聞こえる。喧噪に嘆息した彼女は『それでは、失礼します』と通信を切断した。
 場所はアデプトフォンを使用すれば直ぐに分る。セフィロトも大忙しだが、希望ヶ浜もその一部……。
 さて――どうするか。
 貴方の選択は。

GMコメント

夏あかねです。
<ダブルフォルト・エンバーミング>、どうやら現実も大忙し。
 時系列は、お茶さんシナリオ(<ダブルフォルト・エンバーミング>再現性東京2010:Real)で皆さんに避難誘導をお願いした後!です。

●目的
 『きぼうモール』からの脱出

●『きぼうモール』
 希望ヶ浜の中央市街に存在する大型ショッピングモールです。三階建て。フロアは広く、映画館なども有する商業施設です。
 ひよのやなじみは三階の東側、角に存在する映画館に一般市民と共に、立てこもっています。
 ショッピングモール及び外にはロボット達がうろうろと歩き回っており、唯一『包囲網』が薄いのは西側駐車場出口。

 西側駐車場は立体駐車場です。二階の入り口のみ扉が開いているようです。
 その他入り口は防衛システムにより突入不可能です。
 駐車場内にはロボットが溢れていますが、二階まで上がり、それらを退け、モール内部へと突入して下さい。
 モール内部にはロボット達が歩き回りセキュリティシステムの発令によって、動く存在を捕縛しようとしてきます。
 つまり、西2Fから東3Fまでを移動し、映画館へと辿り着き、彼女らを連れて脱出するのが目的です。

●敵勢対象:ロボット ????体
 様々なロボット、ドローン等などがモールを歩き回っています。殺しはしませんが皆さんを無力化し、捕縛を狙っているでしょう。お気を付けて。

●一般市民 10人
 ひよのとなじみが助けた逃げ遅れた市民です。彼らは皆、災害を思わせるこの状況に絶望しきっています。

●音呂木ひよの
 音呂木の巫女。皆さんの先輩。希望ヶ浜学園の学生です。巫女としての補佐等を行う事が出来ます。
 彼女は茶零四SD(<ダブルフォルト・エンバーミング>再現性東京2010:Real)で皆さんに避難誘導をお願いしてからなじみと合流し、現在に至るようです。
 基本的に気丈で理知的。冷め切った雰囲気ですが、イレギュラーズには入れ込んでいるようです。

●綾敷なじみ&猫鬼
 夜妖憑きである少女。オカルト研究部の可愛いおともだち。ひよのと共に避難誘導を行っています。
 危険が及んだ際のみ猫鬼に身を譲り、皆さんとの共闘を行います。猫鬼が表に出れば其れなりに戦うことが出来ます。
 が、猫鬼が『前面に出る』事でのデメリットは彼女しか知りません。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>再現性東京2010:障翳完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月07日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀焔の乙女
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
澄恋(p3p009412)
花嫁キャノン
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
リチェと一緒

リプレイ


 頭を抱えて怯え竦んだ一般人の背を撫でて綾敷なじみは「大丈夫だよ」と何度も口にする。それが唯の気休めであると認識されても仕方が無いとしりながら、彼女は何度も繰り返す。
「ひよのん、連絡って……」
 aPhoneに表示された『圏外』の文字列を眺めてから「大丈夫ですよ」と音呂木ひよのは『敢えて』嘘を吐いた。

 空と呼ぶべきその場所は、無機質に点滅を繰り返す。雷鳴と称するべきか、大型ディスプレイが作り上げていたはずの空に、空調管理システムのエラーによりスプリンクラーが誤作動し雨が降り、去って行く。気候も景色も何もかも『管理されていた』この場所は時の経過と共に大きく姿を変え続ける。作り物で、紛い物。それでも、そうではないと信じる者達の箱庭(らくえん)が此処にはあったことを『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はよく知っていた。
「――この世界とは思えない再現性東京というセカイ。
 ですが彼らにとってはこの世界だけが『現実』で……それがこうなってしまっては」
 それはどれ程までの恐ろしさであろうか。辿り着いたショッピングモールには所狭しと防犯用防衛システムによるロボットが蠢き回る。最短ルートは『外』からのモニターで知り得た場所だ。映画館に取り残されて居る『要救助者』の元へと、至急の任務に僅かに気が急いた。
「こういう時にこそ正常に働くべきセキュリティが、この有り様では話にならん。全く、災難という言葉では済まんぞ?」
 嘆息する『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は『この有様』になったのが練達全土に起きた大規模な災害であるならばクレームの先さえ検討は付かないと肩を竦めるしかない。
「クラリスお姉さんも助けたいだけど、その前に怖い思いしてる人達助けないと!」
 建物の地図はaPhoneに澄原晴陽から送っておいて貰ったホームページで確認が可能であった。吹き抜けのある大規模なショッピングモールは常時ならば人が溢れ、賑わっていることが良く分かる。屹度、リチェルカーレにもぴったりなアクセサリーも売っているのだろうと『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は考えてから首を振る。
「リチェ、お姉さんたちのペースに合わせてね」
 キィと鳴いた相棒の頭を撫でたキルシェがお姉さん達と呼んだのは前を進む『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)である。前線の索敵を担当する汰磨羈の耳を頼りにしながらアルテミアが駐車された儘の車の影に身を隠した背をキルシェは追いかけた。
「順調……とは言わなくとも、避難が進んでいると思っていたけれど、まさかひよのさん達が取り残されているなんてね。
 あの二人には“あの件”で何度も助けられているから、今度は私が救う番。他の民間人も含めて、絶対に助け出すわよ」
 あの件、と彼女が称した事件には『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)も縁がある。あの時に顔見知りになった二人は美少女だ。つまり、可愛いものが大好きなしにゃこにとっては優先事項なのである。
「美少女が困っているならしにゃの出番ですね! 可愛いの損失を防ぐのが美の化身しにゃの役目!」
 立体駐車場の中でも一番警備が手薄な場所へとずんずんと進むしにゃこの背後で『世紀末の勇者』金枝 繁茂(p3p008917)は周囲を見回した。此れが、希望ヶ浜と言う安寧の揺り籠が害された結果だと思えば痛ましい。
「日常が壊れるときの恐ろしさは私にも経験があります。
 今苦しんでいる方達や彼らを案ずる者達の為にも、私たちが希望になれるように、今できる事をしましょう」
「はい。私はアバターを持っていない身ですので、せめてこちら側で力になれることがあれば」
 頷く『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)はR.O.Oでの活動を行っていない。敵は電脳世界にあり、などと言われても太刀打ちするための体(アバター)を有さぬならば現実世界での救援を――そして、現実世界で起きる凶行を多く食い止める為に奔走すればよい。

 ――ピーーー……敵勢反応を察知しました。防衛システムを展開します。

 広範囲に広がっていたロボットのセキュリティセンサーが作動した音声を聞きながら『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)はにんまりと微笑んだ。
「ショッピングモールに多くの敵がいるとかショッキングモールじゃないですか!
 ――愛(ぼうりょく)と勇気(はかい)をバーゲンセールしていきますよ〜!」
 おっかない程に凶暴な正義の味方が『きぼうモール』へとやってきたのだ。


「十全な警備が、こういう形で仇になるとは……ままならんものだ」
 この世界に於いて、最も科学的発展を行っているのはこの小規模な都市国家練達である。その中でも構築された再現性の都市の『当たり前に存在する警備』が斯うして人類の脅威になるとは汰磨羈は嘆息せずには居られなかった。
 索敵を行う汰磨羈の傍らではリンディスがモールの地図を確認しながら仲間達を統率し続ける。映画館への到着を最速にしたい。とは言えど眼前に迫り来るロボット達の数は大きな障害だ。
「全く以て、皮肉な話ね。ひよのさん達ならば無事でしょうけれど、一般人が一緒となれば……」
 彼女達だけでは守り切れない可能性もある。アルテミアは急ぎ、地を蹴った。ロボットを吹き飛ばす剣戟に併せ、壁や施設の保護を行ったグリーフはその秘宝種の肉体を活かして前線へと飛び出した。闇を統べたその肢体を包み込んだ強者の気配。
「此の儘押し切りましょう。漏電や崩落、ガス漏れにも気を配った方が良いでしょうか」
 自身は『人間』ではない『人形』の体だ。故に、グリーフはそうした影響を受けにくい。偵察にはもってこいだというように前を進んだグリーフに頷いた繁茂は合流を急いだ。
 懐中電灯を手にして、停電中ならば流石に暗いと呟いた澄恋はぽつぽつと存在する非常灯だけでは心許ないかと周囲を見遣る。自身を理想の近似解と定義した彼女は素早くも掛けだした。
「中々に距離はありそうね……!」
 息を切らせるキルシェに頷いた汰磨羈は「そうだな」と呟いた。ロボット達を退け続けるだけでも骨が折れるが広々としたモール内を走り続けなければならない。
「ぜーーぜーーー!!」
 息を切らしたしにゃこに「あと少しだよ!」と声を掛けたキルシェの側でリチェルカーレが「乗る?」と問うような視線を向けている。
「……は、走ります」
「ええ。あと少しです。……が、最後の関門らしきロボット達の集結を一度退けましょうか」
 リンディスのペンが描いたのは其れに見合う戦略。紅き羽筆が描いたのは何時か刻まれた物語達。
 リンディスの言葉に頷いてしにゃこがパラソルを開けば、極まった美少女力が不意に叩きつけられたドローンの腕を避ける。お返しと言わんばかりの鋼の驟雨。
 その下をすり抜けたグリーフと繁茂の支えを得て、アルテミアは剣を振り下ろした。

 ――か。

 どこからか、人の声が聞こえた気がしてなじみの猫耳はぴこりと揺れ動いた。「ひよひよ」と呼んだなじみにひよのは小さく頷いて。
「ひよよんお姉さんたちいますかー?」
 それはキルシェの声だ。「助けにきましたー!」と快活な声を響かせた彼女にひよのは「此処で待っていてください」と一般人達を振り返った。
 なじみと共に、ゆっくりと施錠した扉を開く。最初に覗いたのはキュィという可愛らしい鳴き声と――
「ぎゃおー!モンスターですよ!! なんちゃって☆
 ……場を和ませる小粋な美少女ジョーク炸裂です! あ、うわお前かよって顔しましたね!?」
 ばばーん。そんな効果音をも響かせそうな勢いで登場したしにゃこをじとりと見遣ったひよの。その様子を眺めたリンディスはくすりと笑みを漏らす。
「しょーがないじゃないですか越智内さんはどうしてもこれなくてしにゃにお願いして来たんです!」
「定くんが?」
「はい。私たちは皆さんから色々と言い含められているんですよ」
 リンディスは肩を竦める。怯えた一般人達に「映画のアトラクション気分で来て下さい。私たちは添乗員ですよ」と彼女は宥めながら、殿に付こうとするひよのを真っ直ぐに見つめた。
「ついてきてくだされば大丈夫です。必ず、守り抜きます――映画はハッピーエンドが楽しいものでしょう?
 勿論、ひよのさんも、しっかり皆さんについてきてくださいね。此処には来れませんでしたが……花丸さんも、"こちら"で戦いながら、待っていますから」
「……帰って来たのですね」
 彼女に声を掛けなかったのはその帰還を心配しての事であったと告げるひよのにリンディスは友人の存在を思い浮かべて苦い笑いを浮かべた。屹度、彼女ならば此処に直接助けに来てあげたかったのだろうが緊急事態だ。そうも言っては居られまい。
「よく頑張りましたね、わたしたちが来たからにはもう大丈夫!」
 母親の包容力を見せた澄恋は穏やかに微笑んだ。幼い子供を抱き上げて「此れはヒーローショーなんですよ。今から敵をやっつけますから、是非、その声で応援して下さいね!」と日常を壊さぬように気を配る。
「甘い物食べると落ち着くのよ! 急にこんなことになってびっくりよね。でも大丈夫! ルシェたちちゃんと守るから!」
 キルシェが配ったのはひとつぼしの菓子折。お水を配り、心を落ち着けようと気を配るキルシェは後ろで怯えて涙を流し首を振り続ける一般人と目を合わせた。
「大丈夫――これは全部夢。だから、怖がらなくって大丈夫よ。ね? 安心して」
 その魔的な気配を湛えた瞳がまじまじと見つめる。そうすることで体の力が抜けた一般人をなじみが慌てたように支えた。
 此程にのんびりとした再会を果たせるのも出入り口で防衛を行う繁茂のお陰である。鬼人種、それも大男ともなれば驚かせて仕舞う可能性があると直接的な救出は仲間に任せて繁茂は出入り口での警戒を担当していた。勿論、怖い顔をしないようにと気遣う彼になじみは「帽子あげる~」とにんまり笑顔でニット帽を分けてくれたのだった。
「私達にとってひよのさんとなじみさんも救助対象です、決して無理はさせられません。お二人を護らせていただきたいのです。どうぞ、後ろに……」
「私も、」
 己の中には『闘える存在』がある事を知るなじみが一歩踏み出すが首を振った汰磨羈は肩を竦める。
「ロボットは私達で対応しきってみせる。ひよのとなじみは、一般人のフォローを宜しく頼む――猫鬼の手を煩わせる訳にもいかんしな?」


 一先ずなじみの猫耳をもふりと触っておいた澄恋は案外気持ちの良い猫耳であることを確認した心地になった。
 キルシェは「ひよよんお姉さんと猫耳お姉さんははみんなの事お願いしても良いかしら?」と一般人を二人に任せ、妖精の木馬と共に進み行く。
 ロボットが動くものを捕捉する『目』を持つならば、幻影を見せれば隙が出来るだろうかと勘案する少女はKirschblüteを飾った腕をしゃらんと鳴らした。
「皆、いっぱい襲ってくるのは嫌になっちゃうわ!」
 歩を御膨らませたキルシェに「ええ、ええ」と頷いたのは澄恋。護衛として動く事になる澄恋は事前に戦闘を開始するグリーフやアルテミアの背を眺める。
 アルテミアは外に人間が逃げているかのような幻影を作り出し出来るだけの戦闘を避ける細工を行っていた。
「此の儘外に向かいたいけれど……最短ルートはやっぱりさっきの道ね」
 ロボットをある程度排除しておいたことにより他フロアから『増援』は来ていない。何より幻影に翻弄されている隙を付いて一気に走り抜けるだけだ。
「ひよのさん達は後ろから付いてきてね。先は任せて頂戴」
 するりと引き抜いた瀟洒な細剣は暴力性を宿した剣戟としてロボットへと叩きつけられる。アルテミアの伸した長い髪を照らした非常灯がぱちりと音を鳴らす。
「ロボも包囲網も絶望も、我が女子力でぶち壊していきますよ〜!」
 背後でしゅっしゅとシャドーボクシングを繰り返す澄恋の逞しさはHPという名前の包容力から来ているのだろう。
 汰磨羈は引き続き護衛として市民達を護りやすいように時を配る。
「本当に、大丈夫なんでしょうか……ヒーローショーという言葉を信じて、その……子供達は喜んでいるのですが……」
 巨躯を持った繁茂へと「がんばって」「まけるなー!」「やっつけろー!」と声を掛けた少年の母親は青ざめていた。
 その不安は良く分かる。「大丈夫だ。全員、無事に脱出させてやるからな」と説得を何度も何度も、その声で行っていた汰磨羈は肩を竦めた。
「不安だろうが、此処は私たちに付いてきて欲しい」
 微笑んだ汰磨羈の目の前ではアルテミアとしにゃこを支えるべく、支援を行うリンディスの姿が見える。
 そのペンが宙へと綴った英雄譚がしにゃこの力となる。可愛らしくスカートを揺らして、ロボットを排除するしにゃこのaPhoneは通話状態が続いている。
 グリーフが淡々とした様子でしにゃこの『指示』を聞きながら、自身を見つめてから不安げな顔をした女に「大丈夫です」と一声かけるのみだ。
 そう――グリーフが危惧したのは暴走するロボットと無機質な備忘を持つ己が『イコール』になることだ。ロボットへの畏怖や秘宝種への嫌悪が彼女達にはないとは限らない。出来るだけパニックを避けて、その堅牢性をアピールした上で仲間達の指示下にある事をしっかりと伝えておく。
「私たちは不思議な外見をしているが……今は我慢をしてくれ」
 そう告げる汰磨羈は、前行くしにゃこの尾が揺らぐ様子を眺めていた。
 アルテミアとリンディスが前を切り開き、しにゃこが複数を纏めて打ち払う。その弾丸の雨より逃れた存在を受け止めた繁茂。そして愛と勇気と包容力で受け止めてみせる澄恋。この世界には様々な人種が居るが、この再現性では受け入れられないことを汰磨羈も、そしてイレギュラーズも知っていた。
 それが彼らにとっての平穏を脅かすからだと知っている――今、拘っては居られない現状に一般人の女は「よろしくおねがいします」と頭を下げた。
「じゃあ、進もう! 大丈夫だから」
 微笑んだキルシュがいちに、いちにとリズミカルに脚を動かして。上空できゅいん、と音を鳴らしたドローンを追撃するように汰磨羈が地を蹴った。
 プロトコル・ハデスを放つ妖刀の切っ先が、無機質な機械を切り伏せる。ターンする汰磨羈が『存在した位置』へと叩きつけられたドローンの追撃を薙ぎ払ったのは澄恋の鬼の力(およめさんぱわー)。
「拳という愛を以って皆様の壁になりましょう。誰もこの先へは通させません! 此方は勝手に進みますよ! 邪魔立てするなら許しません!」 
 憤慨する『鬼嫁』にリチェルカーレがきゅいと鳴いた。てこてこと歩いて行くモルモットを抱き上げて、なじみは「もうすぐだよね!」と声を掛けた。
 流石に慣れ親しんだ『きぼうモール』
 じりじりと前進してくる一行も『駐車場出口』に近付いてくる。
 先程侵入した道だ――其処にロボットが集まっていないと言う保証もない。しにゃこがパラソルを構え、リンディスを振り向いた。
 繁茂とグリーフは防御を固め、キルシェと澄恋が僅かに距離を詰める。
「さて」
「行きましょうか」
 声を揃えたのは汰磨羈とアルテミアか。
 最初に地を蹴り飛び出したアルテミアの剣が集合していたロボット達を一気に薙ぎ払う。その身を翻し、次いで飛び込んだのはしにゃこの驟雨。弾丸はトリッキーにラブリーに。全てを打ち払うかのように降り注ぐ。
 勢いよく注いでゆく弾丸の雨を支え続けるリンディスが「後方!」と声を掛ける。汰磨羈はくるりと振り返り、ドローンへと剣を振り下ろす。
「中々にしぶといな。だが、これだけ防犯性が高いなら安心だろうよ」
「今はそうじゃ――ないですけどー!」
 勢いよく殴りつける澄恋に汰磨羈がからからと楽しげに笑って見せた。
「此の儘脱出しましょう」
 グリーフが声を掛ければひよのは大きく頷いた。「こちらへ」と一般人を誘導する彼女は最後まで残るつもりか。
 繁茂は「ひよのさんも早く、脱出を」と誘導役を代わり、彼女をしにゃこやアルテミアが開いた退路へと向かわせる。
 走る背を眺めながらの後退。はっと気付いたキルシェが「汰磨羈お姉さん!」と声を掛ける。
「成程、それは良い案だな――!」
 体を外へと滑り込ませれば、迫り来るロボット達の緊急時のアラートが響き渡り――がしゃん、と音を立ててシャッターが下ろされる。
 開閉ボタンの場所に当たりが付いて良かったと胸を撫で下ろしたキルシェはゆるゆると座り込む。
「つ、疲れた……」
 嘆息する彼女に「それでは此の儘避難所でしょうか」と繁茂はひよのたちを見遣った。
「ええ、あと少しだけ……宜しくお願いします。皆さんを守り抜くために」
 グリーフは静かに頷く。避難所までの警護を担う繁茂の姿を『ヒーローの変身した姿』だと認識した子供達は嬉しそうに笑っている。だが、疲労を滲ませた大人達はどうだろうか。
「休まる時間を用意できないのは心が痛みます、何かできる事があれば言ってくださいね」
 穏やかに声を掛けた繁茂に大人達はゆるゆると頷いた。さあ、最大のピンチは抜けた――あとはもう一踏ん張りなのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。動乱の練達。
 ひよのとなじみ始め、一般人は無事に避難所に到着したようです。

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