シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>稀有なる縁を辿って
オープニング
●Patch4.0 ダブルフォルト・エンバーミング
それは終わりの始まりを知らせる告知。世界を絶望に塗り替えるデータ。崩壊の為に組まれたプログラム。
砂嵐の南より現れた凶悪なモンスターたちは瞬く間に人々を蹂躙し、恐怖へと陥れた。逃げ場なんてないのだと思い知らせるには十分で、このままであればネクストへコピーされた原罪のコピー『イノリ』とマザー(クラリス)の兄『クリスト』の思惑通りであっただろう。
しかしこのままではマザーが防御限界を超えて飲み込まれ、彼女が管理するセフィロトもドミノ倒しのように崩壊していく。一勢力と認められるまでの練達が崩壊するとなれば、その被害は目を瞑る訳にもいかない。
それに――未だR.O.Oに囚われ、ログアウトできなくなっている仲間たちもいる。このまま<ダブルフォルト・エンバーミング>のイベントを見逃すことは、彼らを見殺しにするにも等しい。
そして運命はまだ彼ら(特異運命座標)を見放さない。R.O.Oに生きる人々が、NPCが立ち上がり始めたのだ。これさえもイベントの一環と言われてしまえばそれまでだったが、イノリとクリストからすれば終焉に立ち向かうなど『望まない出来事』のはずである。
プレイヤーたるイレギュラーズたちの活動と、そこで結ばれた縁が、ゲームマスターの思惑さえも乗り越えんとしているのだ。
●稀有なる縁
「やあ」
「……っ」
軽い挨拶に、『踊り子』ローズマリー(p3y000032)はばっと勢いよく振り返る。黄金色の瞳に映った彼は、こんな時だと言うのに相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。同じクエストに向かおうとしていたコーダ(p3x009240)が反射的に拳を繰り出し、良い所に入る音が響く。ヴォルペがうっと息を詰まらせた。
「ヴォ、ヴォルペ」
「はは、大丈夫さ。それよりもこの前はありがとう。おにーさん、助かったよ」
以前ローズマリーへ教えたクエストの件か。しかし今はそれも、R.O.Oにおけるヴォルペについても後回しだ。時間がないし、コーダが二発目を繰り出しそうである。
「それだけなら悪いけどまた――」
「ああ、待って。君達に有用な情報があるんだから」
彼が指さしたのは伝承より西、今も終焉獣たちが暴れる砂嵐だ。つられて指さす方を見たローズマリーは、続きを促すようにヴォルペへ視線を向ける。
「リンガイという街に向かうと良い。そこで君そっくりなNPCが、2人の魔法使いを連れて暴れているからね」
「そっくりなNPC……ってことは、ねーちゃん? パラディーゾってやつ?」
ルージュ(p3x009532)の言葉にヴォルペはそんな名前だったかもね、と首を傾げながら返す。
「街はもう間に合わないかもしれないけれど、君達ならできるはずだよ」
何が? 他の街を、砂嵐を、世界を――護ることが。
さあ行った行った、時間がないんだろうと急かすヴォルペにローズマリーたちはサクラメントまで連れられる。ここから一気にその街まで飛べるはずだと告げる彼に、ローズマリーはサクラメントに手をかざしながら視線を向けた。
「……アンタ、何者?」
これがヴォルペだと言われてしまえば、深く彼を知らないローズマリーからすれば納得するしかないのだけれど。そんな彼女にヴォルペは小さくウィンクをしてみせて。
「『最初』にも言っただろう? おにーさんはおにーさんであって、おにーさんではないからね――」
その瞬間、サクラメントが起動し、ローズマリーたちは別のサクラメントへ飛ぶ。誰もいなくなったサクラメントを見て、ヴォルペは小さく笑った。
「――水先案内人に護ることはできないんだ。頼んだよ」
一気に砂嵐まで飛ばされたローズマリーたちは砂の上に着地した。むわりと熱気が辺りを満たす。街というには随分と静かだと一同は周囲を見渡した。
「……皆、後ろ下がって!」
不意にローズマリーの鋭い声が飛び、一同は砂を蹴る。直後、サクラメントが謎の光に呑まれた。
「あれ? 随分早かったんだな、ルージュねー」
その光を放った人物――ルージュと瓜二つのNPCが、ルージュを見つけておーいと大きく手を振る。しかし振り返すような間柄では決してない。
「この前の決着を付けに来たぜ、ねーちゃん!」
負けられない妹勝負。今回こそ勝負に終止符を打とうではないか。
くすくす、くすくす、アハハハハハ。
不意に笑い声が聞こえて、ルージュ以外の一同は周囲を見渡す。砂の上を滑るように移動する子供――だろうか。しかし顔が見えるはずの帽子の下は黒一色で気味が悪い。ローズマリーは剣呑に眉を顰めた。
「終焉獣……?」
かのモンスターには様々な姿かたちがあると言うが、人に似たモノもいるのか。それにしたってあの笑い声、悪寒を感じさせるものがある。
皆、気を付けて――ローズマリーがそう言うまでもなく、一同は武器をとった。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>稀有なる縁を辿って完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月07日 22時26分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「『最初』にも言っただろう? おにーさんはおにーさんであって、おにーさんではないからね――」
その続きが、あったように思う。
「おにーさん案内せんきゅ! さっさと世界を救っちゃおうね!」
『グリーンガール』きうりん(p3x008356)が声と共にその姿を消していく。きっと、自分もそう。
だから、次に会う時までは聞けないのだろう。
(アイツ絡みというのが気に食わないが……今はまだ、放っておくさ)
役割は鎖だ。縛られている間ならば、害は少ないだろうと『狐の尾』コーダ(p3x009240)は目を閉じ、そして感じた風に目を開く。
「……皆、後ろ下がって!」
『踊り子』ローズマリー(p3y000032)の言葉に後退し、先ほどまでサクラメントがあった場所を『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)は見つめた。
トモダチそっくりなNPC。本質的には違うが、それでも彼のガワを被っているのだ。きっといつか、イレギュラーズたちが知る形となる『やんちゃ』をするのではないだろうか。
似た姿と言えばここにもう1人――。
「何を言いかけたかも知らんが、クエストを受けた以上は逃げるつもりもな……うわっ」
ため息交じりのコーダは縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧と見つめ合ってしまい、びくりと肩を跳ねさせる。仲間だというのはわかっているが、これはどうしようもないというか。どうしてこんなに苦手に思うのか。
「おいおい、嬢ちゃんとはまた会っちまったなぁ」
「あれ? 随分早かったんだな」
ルージュねーににーちゃんに、と『バンデッド』ダリウス(p3x007978)の言葉にイレギュラーズを見渡すのは、『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)とそっくりな少女――『天国篇第二天 水星天の徒』ルージュ。
互いを姉と呼び、自身を妹と称す矛盾の2人。今度こそ、どちらが真の『妹』なのかを決める戦いである。
「ぜってー負けないかんな!!」
「オレも! これだけはルージュねーに譲れないぜ!」
そっくりな顔、そっくりな声音。しかし偽物には負けられないと自身の力を高めていく。
(どちらも妹と言い張る双子……パッと見は、ですけれど)
この街の惨状さえなければ可愛く思えたかもしれない。『クマさん隊長』ハルツフィーネ(p3x001701)は小さく眉根を寄せた。
「悪い年下の子を躾するのも、クマさんの役目」
ですよね? と神々しいクマさんの輝きを身に纏うハルツフィーネ。大事そうに抱えていた大きなテディベアを使役する彼女は、先ほどから不気味な笑い声をあげている子供たちのようなものへ視線を向けた。
「ローズマリーさんはあちらをお願いします」
「分かった」
「……こちらはこちらでやる事は沢山ありますから、無理はしないでくださいね」
ハルツフィーネの言葉にローズマリーは金色の瞳を瞬かせ、小さく笑って頷いた。そして終焉獣『ホロウ』たちの方へとナイフを両手に向かっていく。
「さぁやろうかルージュくん! 飛び込んでおいで!!」
両手を広げるきうりん。その傍らで『ノー・マーシー』ディリ(p3x006761)もロイヤルガードをオンにする。
「俺たちがお前の相手になってやる。来るといい、チビ」
「チビじゃねーもん!」
憤るパラディーゾに向けて地へ刀身を走らせる。パラディーゾが建物の屋根から飛び上がるも、起こった雷撃は彼女を逃さない。パラディーゾは足を取られながらハンマーをしっかりと構えた。
『水底に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)はふわふわ、ふよふよと漂う小さなクラゲを周囲に纏わせる。
「さぁさぁ、こっちにおいでぇ」
風に乗って彷徨うはくらげを模った火の粉。ぱちん、と片方の前で弾け、ホロウはのけぞった。その顔がエイラの方を向いた――気がする。影しかない彼らはどんな表情をしているかも、痛みを感じているのかもわからない。ただ分かるのは、背中を氷が滑るような、あるいは生暖かい風を受けているような、不気味な笑い声。
あは、アハハハ、キャハハハハハ!!
エイラはものともしないが、人によってはキツいだろう。これは人の精神を蝕むものだ。
それとはまた別種の、恐怖を与える悍ましき姿――縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧にとってもその浸食に例外はなく、話に聞く『石花の呪い』についてもまた然り。耐性は人一倍だが、それでも用心するに越したことはないと彼らから距離をとる。
『パライソ 性質 面白い』
パラディーゾ、と言いたいのだろう。ひとつの眼が仲間たちに向かっていくパラディーゾへと向けられていた。
(全く新しい誰かではなく、既存の誰かへのコピー。ヒヒ、興味深いね)
彼らを作ったのはアリスとピエロだったか。彼らやクリストの技術的な問題であるのか、意識外の制約なのか定かではないが、だからこそ気になるというもの。
しかして、まずはこの終焉獣をどうにかせねばならない。子供の形をしているが、その本質はモンスターと同じだ。あの笑い声も実際は『鳴き声』と言うべきだろう。
(俺の柄じゃあないんだがな)
コーダは苦々しい表情を浮かべて、切り替えるようにふっと息を吐く。
「さあて……、俺と遊ぼうか!」
彼の言葉にエイラが引き付けたホロウの片割れが振り返る。かと思えば突進してきた小柄な影を、コーダはひらりと半身ずらして躱した。
ヒャヒャヒャヒャ! ふふ、あははは!
肌を撫でる笑い声。ハルツフィーネがむっと小さく眉根を寄せると、テディベアの爪がにゅっと伸びる。
「その笑い声はめっ、とクマさんが言っています!」
ドールズマスターの指示に従ってふわふわ可愛らしいテディベアが爪を振り下ろす。魔力を帯びた飛ぶ斬撃にホロウたちは防御する間もなく飲み込まれた。
「あらぁ、こっちはまだ動けそうかなぁ?」
エイラののんびりとした声が響く。仲間たちの邪魔をさせないようにくらげ火を飛ばす彼女はあくまで自分のペースを乱さない。
「皆もホロウの声にぃ惑わされないよう、気を確かに持つんだよぉ?」
「こいつら動き始めるぞ。気を付けろ!」
被るようにコーダの声が飛び、ほぼ同時にホロウたちは動き出した。軽やかな足取りで駆けまわり、笑い声をまき散らしていく。時に建物に隠れ、別の場所からひょっこり顔を出して。
どこへ向かうのか。
どこで止まるのか。
そのタイミングは唐突で、ホロウたちが留まると同時に暗く光る魔法陣が空へ浮かぶ。あふれ出した光はその周囲であったり、その直線状にいた者を焼いた。同時に周囲にあった建物などを粉々にして、先ほどより視界が広くなる。
「あの範囲ばかりは予測できないね」
再びコーダとエイラが引き寄せたホロウへローズマリーがナイフを滑らせる。忌々しい笑い声といい、厄介な怪物だ。
幸いにもここにはイレギュラーズしかいないため、死に戻りが出来ない面子は存在しない。しかし不幸な事にここには『試薬』がない。石花の呪いにかかったら最後、離れたサクラメントから全力で戻らなければならない。
軋む音が小さく響く。花が揺れて――砕け散る。そこに死体など残りはしない。
(厄介な呪いだ……それに砂嵐だぞ、ここは)
それを横目に見て、ディリは顔を顰めた。
あの呪いは翡翠由来のものであるはず。決して遠い場所ではないが、それでも国境を越えてまで侵攻してくるとは。
けれども改めて考えてみると、この終焉獣たちは別に翡翠から現れたわけではない。この呪いもまた世界の起こしたバグか、あるいは終焉獣たちへ呪いをかけるデータを植え付けたのか。どちらにしてもクリストとこの世界のイノリが関わっているのだろう。
「にーちゃん、よそ見厳禁だぜー!」
パラディーゾの元気な声にはっと視線を巡らせれば、振り下ろされるハンマーは近く。咄嗟にガンブレードを滑り込ませたものの、その身は後ろへと弾かれた。
「そうそう、よそ見は厳禁だよな!」
声と共にパラディーゾへと黒靄の蛇が尾を振るう。回避しようと赤のマフラーが揺れて――衝撃波はそれを追随するように軌道を逸らした。
「わっ!?」
「へいへいお姉ちゃんどうしたんだ? 年上なんだからもうちっとしっかりしてくれよなぁ!」
からかうダリウスにパラディーゾルージュがぷすんとふくれっ面になる。言いたいことはわかる、だからこそ言っているのだ。
そうしてダリウスたちに翻弄される最中、不意にパラディーゾへ影が差す。突如として現れた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はルージュへ向かって攻撃を仕掛けた。
「……っ!」
『終焉獣 カタチ ルージュ 趣味?』
ホニャホニャと呟くそれは、テレパシーで意思を伝えてくるモノ。聞いてみたいのだというそれを仲間が伝えれば、パラディーゾは応戦しながらも首を傾げる。
「趣味……うーん、それはアリスねーちゃんたちに聞けばいいんじゃないか? オレは生まれた時からオレだからな!」
あくまでその姿を選んだのは彼女らである、ということか。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧のまなこが興味深げにパラディーゾを凝視する。
「ってぇ、ねーちゃん容赦ねえな!」
「だーかーらっ、オレは妹だぜ! そこんとこ間違わないでくれよな!」
ダリウスに言い返し、パラディーゾは間髪入れずハンマーを振り回す。愛の光を受け流し、受け止めつつイレギュラーズたちは一歩も引かない。
「――皆、ホロウが動き出したぞ!」
ガンブレードを薙いだディリは不快な笑い声に警戒を呼び掛ける。こちらへ向かってくるそれから離れるように動けば、こちらへ釘付けなパラディーゾが「もっと遊ぼうぜ!」と寄ってくる。
(しかし、これまでの射程を考えると……一体どこまで行けばいいのやら)
ディリはホロウたちをちらりと見やる。それなりに広範囲への攻撃を仕掛けてくる以上、大きく移動すれば安全ではあるだろう。近くのサクラメントを破壊されてしまった以上、可能な限りは生き残りたい。
「ねーちゃんはねーちゃんだろ! 少なくとも、オレにとってはそうだぜ!」
ルージュはマザーハンマーを構え、愛の力を放つ。
周囲の兄や姉が守ってくれるから、彼女だけに集中できる。前も今もそんな仲間がいるということをルージュは忘れない。
放たれた愛の力はぐねりと曲がり、パラディーゾの身を逃さず飲み込む。ルージュはそれを見て得意げに笑った。
「どうだねーちゃん! ご自慢の身軽さも関係ないぜ!」
「い……ってぇ。けど、オレだって負けられない……!」
受け身を取り、素早く立ち上がるパラディーゾ。きうりんはしつこく一撃を浴びせ、徐々にその体力を吸い取っていく。
「勝てるものなら勝ってみなよ! 何度でも立ち上がってみせるけどね!」
しぶとい雑草根性である。しかし実際、きうりんは傷つくたびに驚異的な再生力で持たせていた。
不意に、笑い声が小さくなる。視線を巡らせた一同は、倒れたホロウの前へ立ちはだかる大きなテディベアを見た。
「……妹のお供にしては、悪趣味だと思うのですが」
ハルツフィーネはそう呟いて、残されたホロウへと視線を向ける。あの片割れももはやジリ貧だろう。数名は石花の呪いに巻き込まれたが、それもじきに――終わりだ。
●
「チッ……俺はちょいと抜けさせてもらうぜ」
ダリウスがパラディーゾから興味が外されたタイミングで一度後退する。そして残った盾役がいない方から不意打ちで斬撃を繰り出した。
「とっておきだ。返品は受け付けてねえよ!」
「ご自慢の素早さも無意味だな」
すかさずディリがその刀身でパラディーゾを捉える。必中攻撃であればちょこまかと動くその身にも届くのだ。
「『ルージュ』が相手かぁ。強敵だねぇ」
ホロウの相手を終わらせてきたエイラがふよふよとやってきてルージュを庇う。完全一致ではないが、それなりに似たところの多いパラディーゾだ。敵としての彼女であれば、恐らく自身とハルツフィーネが良く知っているのだろう。
「でもだからこそぉ……ルージュが味方である心強さもぉ知ってるんだぁ」
愛の力の流れ弾を受けるエイラ。その身を自己再生させ、エイラはにっこりを笑みを浮かべた。その背後からルージュが飛び出し、上空からハンマーを振り下ろす。それを柄で受け止めたパラディーゾは、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の攻撃に飛び退いた。
『ここ 選んだ 兄 姉 言われた?』
「いいや、オレの意思だぜ?」
どうして、というように首を傾げる。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧も同じように首――がどこかいまいちわからないけれど――を傾げるような仕草をした、ような気がした。
その背後から蔓が伸び、パラディーゾを捉える。植物からはきうりんの声がした。
「はい捕まえた! ご飯の時間だよ! 今日のご飯はお姉ちゃんだよ!! さぁ召し上がれ! さぁさぁ!!」
蔓を外そうとするパラディーゾ。そこへコーダが拳を握りしめる。次いでハルツフィーネの操るテディベアががおー! と咆哮の衝撃波を浴びせかけた。
「私の妹になりたいのであれば、最低限の礼儀としてクマの格好はして頂きたいですね」
「クマ!?」
「色はピンクで、語尾はクマーでお願いします」
「ピ、ピンク……クマー」
ハルツフィーネの妹像にパラディーゾは神妙な表情を浮かべる。世の中には色々な妹の属性があり、ルージュたちは永遠少女型ボーイッシュタイプであるが……クマ。クマはちょっと初めて聞いたかもしれない。パラディーゾにとってもルージュにとっても。
「……っとぉ!」
「あ、残念」
一瞬考えこんだ隙にローズマリーが肉薄するが、あわやのところでパラディーゾは仰け反る。その背中にダリウスの斬撃がぶち込まれ、側面からコーダが殴り掛かった。
「お姉ちゃんと一緒に大地に還元されようね……私達は姉妹なんだから、ずっと一緒だよ……」
「悪いけど、オレはまだ一緒にいけねーんだっ。というかねーちゃん復活できるじゃん!」
「あ、バレた?」
てへ、というように蔓がふよふよと揺れる。その間にもディリに攻め立てられ、パラディーゾが逃げ道を探すように視線を巡らせたとき、同じ姿の彼女と目があった。
「ねーちゃんができて、姉妹みたいで楽しかったぜ。けどな、おれはマザーを助けるために、ここで止まれねーんだ」
だから、とルージュはハンマーを構える。
「――だから、この一撃に、妹力の全てをかける!!」
「ルージュねー……」
目を瞬かせたパラディーゾは、ディリのガンブレードをはじき。ルージュと同じように構えた。
「そうだな……オレも止まれねえ。オレは、オレたちは世界を破壊しなくちゃいけねーんだ」
彼女は今、1人。複数人で殴り掛かられるのは分が悪い。本来ならば引くべきだっただろう。
けれども、バグデータだったとしても、譲れないと思うものがあるのだ。
「オレはにーちゃんもねーちゃんも、ルージュねーも全員倒して世界を壊す!」
「そんなことはさせねー! オレは世界を救う妹だぜ!」
ルージュの愛の力が放たれ、イレギュラーズに殴り掛かられていたことにより数瞬遅くパラディーゾのそれが放たれる。
「パラディーゾもエイラ達もぉ。互いにいい妹を持ったよねぇ」
その攻撃を受け止めたエイラは、小さく笑って。
(本当なら、一生ないはずだった姉妹喧嘩に……決着をつける!)
放たれたルージュのそれは多少狙いに誤差があったとしても、怒りと悲しみと喜びの全てを込めたそれは迷わず届く。パラディーゾが飲み込まれる瞬間、その口元が小さく動いた。
――にーちゃん、ねーちゃん。ごめんな。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
ルージュさんの想いがパラディーゾを引き留め、撃破まで至りました。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●成功条件
パラディーゾの撃破、あるいは撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。
●フィールド
砂嵐国にある無人の街。柔らかな砂が多く、足元をとられがちでしょう。住民は逃げたか、既に死亡しています。
最寄りのすぐそばにあったサクラメントは壊されてしまったため、そこそこの距離にある隣のサクラメントが最寄りになります。
●エネミー
・天国篇第二天 水星天の徒『ルージュ』
ルージュ(p3x009532)さんのデータを模したバグNPCです。パラディーゾという団体に属しており、そこの仲間のことを兄、姉と慕っています。この状況に乗じて沢山暴れてくれば、褒めてくれるだろうからと彼女は世界を滅茶苦茶にする気満々でいます。
小柄な少女ですが、妹の力は超絶大。高い攻撃力と回避力を併せ持つ、非常に危険なエネミーです。場を利用して皆様を翻弄してくるでしょう。
手にしたハンマーを軽々と振り回し、攻撃を仕掛けてきます。また、愛の力と呼ばれる【必殺】付きの貫通攻撃を持っています。その他のBSについては不明です。
・終焉獣『ホロウ』×2
NPCルージュに従うエネミー。暗い紫のオーラを纏い、ローブと三角帽子を纏ったこどもたち。恐らく男の子と女の子ですが、その顔に色はありません。髪にも、手にも。その体は一色の黒でできています。故にどこを見ているのかなどは不明です。
一定範囲まで近づくと嘲笑うような笑い声が聞こえ、惑わそうとしてきます。
彼らは数ターンに1度、【怒り】などの何にも影響されずランダムな移動を行います。その後、立ち止まった地点からまたランダムな範囲攻撃を繰り出します。受けると【足止】【狂気】BSが付与される可能性があります。
また、彼らの攻撃全般をくらうと『石花の呪い』ステータスが付与される場合があります。(『石花の呪い』については後述参照)
●友軍
・ローズマリー(p3y000032)
踊り子の衣装を纏う女性プレイヤー。中身? 何のことですか?
そこそこに戦える近接アタッカーです。特に指示がなければ終焉獣の方へ向かいます。
両エネミーとも仕留めるつもりでいます。彼女らが撤退しようとするならば、可能な限り追撃をかけるでしょう。
・ヴォルペ
あのイレギュラーズに似ている謎の人物。リプレイでは登場しません。
●ご挨拶
愁です。おにーさん神出鬼没ですね。
ともあれ、彼のおかげでパラディーゾと早いうちに遭遇できました。
これ以上の被害を防ぎましょう!
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
●石花病と『石花の呪い』
石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。幻想種達はこれらを駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。
『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
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