PandoraPartyProject

シナリオ詳細

”Gluttony” Crime

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 此処から始まる、救済の輪廻。


 その憲兵の男は、突然背後から襲われ、頭部への激しい衝撃から気を喪った。
 意識を取り戻した時、彼は小汚い小屋の一室に監禁されていた。
「寝覚めは如何ですか、≪我が友人≫」
 憲兵は肩を振るわせながら、その声の元へと顔を向けた。
 それは此の部屋の出入り口。扉の向こうの明るい日差しが逆光になって、直ぐに目の慣れない憲兵には、其処に立っている筈の誰かの貌は、認識できなかった。
「此処は何処だ、そしてお前は何者だ?」
「まあまあ、落ち着きましょうよ」
「俺をどうする心算だ!?」
 憲兵の怒気を孕んだ問いに、声の主―――貌の見えない男は、唇を結んだまま、くつくつと笑い声を漏らした。
「そう慌てないで、≪我が友人≫。君にはきちんと、そう、重大な役割があるんだ」
「役割?」
 訝しんだ憲兵の眼前に、べちゃりと湿った重量物が投げつけられる。
 憲兵は思わず短く息を吸った。
 それは、貌の見えない男が投げた、生肉の塊だった。
「食べなさい、≪我が友人≫」
「は?」
「―――食べなさいと言っている」
 パン、と云う大きな炸裂音に、憲兵は声を上げて驚いた。
 貌の見えない男の手に在る拳銃から放たれた銃弾は、憲兵のすぐ傍に着弾していた。
「それが君の役割だ。良いね? 食べ続けなさい。
 食べられなくなったら、ジ・エンドさ。
 ―――君の命は無い」
 「グラトニー!」貌の見ない男は続けてそう言うと、もう一人の男が部屋に入ってきた。
「こちらが、お前が拉致してきた≪我が友人≫だ。
 何時も通り、後は≪我が友人≫に肉を与え続け、食べ続けさせなさい」
 グラトニーと呼ばれた大男が憲兵の前まで歩いてくる。
 醜悪な容姿。鼻を塞ぎたくなる悪臭。
 大きなボーリング球が歩いているかのような、巨漢だった。
「あい……」
 グラトニーは野太い声で短く返答すると、床に落ちている肉塊を、憲兵の口に押し込む。
「や、やめ……!」
「ぐえ……」
「やめ……!」
 憲兵が必死に抵抗するが、グラトニーの異常な力に負け口へと肉塊を押し込まれていく。
 その様子に再度くつくつと笑った貌の見えない男は、
「ここで失礼します、≪我が友人≫。
 ―――良い夜を」
 そう言ってばたん、と扉を閉め、その場を後にした。

 薄暗い部屋に残された憲兵はその後四日経って、多数の肉塊に埋もれたまま内臓破裂と窒息により死亡しているのを、別の憲兵に発見されることになる。


 ≪幻想≫(レガド・イルシオン)のある街で、一件の殺人事件が起きた。
 一見異様なその犯行内容に、街人が恐怖を抱き始めたのは、同様の事件が三件連続して発生した時だった。
 被害者は全員、内臓がはち切れる程に口から食べ物を詰め込まれ、その死体は肉塊の中に棄てられていた。
 管轄貴族は憲兵に厳戒命令を発令し、街中を厳重に警備していたが、先日四件目の事件が発生してしまった。

 一人目は農夫。
 二人目は主婦。
 三人目は大衆定食屋の店主。
 そして四人目は警戒に当たっていた憲兵の一人であった。
 全員に共通しているのは、その異様な殺害状況。
 そして、皆、肥満体型の人間種であった、ということだ。

 止まらない連続狂気事件を前に、管轄貴族はローレットへとその解決を託すことに決めた。


●ローレットへの依頼
「五人目の行方不明者が発生した」
 そう切り出したのは、件の所轄貴族。場所は、ローレットだ。
「今朝方から、一人の男が”すぐ戻る”と所用で家を出て以来、帰って来ていない。
 我々としては既に、例の連続怪事件に巻き込まれたものと推測している。
 早速だがイレギュラーズ達の力を貸して欲しい」
 具体的には、何軒かの家屋に犯人及び行方不明者が潜伏しているのではないかという所までは掴んだが、過日の”憲兵殺し”も相まって憲兵達の士気が大きく下がっており、イレギュラーズ達に最後の詰めを一任したいと云う。
「多数の憲兵の警備にもかかわらず、犯行を完遂する能力……、恐らく只の変質者では無い筈だ。
 実は、公にはしていないのだが、殺された憲兵以外にも、何名かの憲兵は怪我を負わされているらしい。
 腕の立つ殺人鬼か、あるいは魔物の類かもしれぬ。気を付けて対処に当たってくれ」
 管轄貴族は不安げな面持ちで、頭を下げる。中々、≪幻想≫の貴族に出来る事では無い。
 「あと」と貴族は頭を上げて続ける。
「この事件、単なる単独犯ではないような情報も得ている。
 可能であれば、もし背後に何かの手引きがあるのであれば、その情報も得てきて欲しい」
 貴族の懇願に、イレギュラーズ達は大きく頷いた。
「……しかし、妙に残酷な殺害方法であるものだな。
  ”暴食”は大罪の一つとされるが―――」

GMコメント

●依頼達成条件
・『グラトニー』の撃破
・『五人目の被害者』の救出
・『貌の見えない男』の名前を聞きだす。


●情報確度
・Bです。OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、ここに記されていない追加情報もありそうです。


●現場状況
・≪幻想≫内の街。時刻は昼間です。
・憲兵達の調査により、それぞれ互いに近接した家屋である、下記三つの家屋の何れかにグラトニーと被害者、そしてグラトニーの配下が潜伏しています。いずれも数Tで内部を見て回れる広さとします。互いの家屋への移動についても数T消費するものとします。
(1)屠殺場
(2)廃墟
(3)教会の地下


●敵状況
■『グラトニー』
【状態】
・醜悪な容姿の巨漢。実体は人間種を寄生虫(魔物)が蝕んでいるものであり、只の人間体ではありません。PCは、事前に管轄貴族または憲兵からそれをにおわす様な調査情報を得ており、初見で異変に気づいて良いものとします。
・人間体の息の根を止めることに依り、寄生虫も討伐できるものとします。
・イレギュラーズは、当該寄生虫により寄生されるリスクは無いものとします。

【傾向】
・寄生虫(魔物)に支配されており、感情、思考能力は極めて低いです。

【能力値】
・寄生虫(魔物)の支配前と比較して、大きく身体能力が向上しています。
・特に攻撃・防御に類する能力値が高めです。一方で、俊敏性は低いでしょう。

【攻撃】
・殴る様な行動
・突進する様な行動
・食べる様な行動
・口から酸液を振り撒く行動


■『グラトニーの部下』
・通常の人間種で、六名居ます。
・銃や短剣で装備しており、戦闘については幾らか経験がありますが、グラトニーと比べてステータスはかなり低めです。


■『貌の見えない男』
・本件の首謀者と思われる男。


●味方状況
■『五人目の被害者』
・古書店を営む肥満体型の中年男性です。
・過去の被害者同様、既に多量の肉を無理やり詰められており、大きく疲労しています
・ある程度到着タイミングが遅れても救出可能です。


皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • ”Gluttony” Crime完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月29日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
アレクサンダー・A・ライオンハート(p3p001627)
百獣王候補者
ノブマサ・サナダ(p3p004279)
赤備
星影 瞬兵(p3p004802)
貫く想い
飛騨・玲(p3p005496)
悪食女(グラトニー)

リプレイ


 小さな黒猫が嘶き、毛を逆立てた。それは、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の異能により発現した幻獣である。
 一回の鳴き声でも二階の鳴き声でも無い。だからこれは、廃墟と屠殺場での異変を知らせる動作では無い―――『百獣王候補者』アレクサンダー・A・ライオンハート(p3p001627)の鋭く獰猛な瞳が、階下の空気の淀みを睨みつけた。
「成程、拙者らは一発的中でありますか」
 『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)の顰めた声に、後ろを行く『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)と『貫く想い』星影 瞬兵(p3p004802)が無言で頷いた。―――此処が、第五の犯行現場であった、ということである。
 レジーナの使い魔はすぐさま翻し、階上へ駆けあがって飛び出していく。屠殺場へと向かっているレジーナ始め『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)、『赤備』ノブマサ・サナダ(p3p004279)そして『悪食女(グラトニー)』飛騨・玲(p3p005496)らへと報せるためだ。
 埃臭い階段を下がると、一つの扉がある。静かに中を見遣ると、其処には二名の男が卓に付いている。幸い、此方の動きには気が付いていないようだ。ルル家がその場へと押し入ろうとした、その時、
「―――何をやっている」
 最後尾のスティアが振り返る。視線の先には、拳銃を構える一人の男。訝しげにイレギュラーズを見遣る視線には、明確な敵意が込められている。
 がちゃり、と扉が開けられる。先の二人の男も武器を構えてルル家の前に立った。
「ピンチ、って奴だよね、これ」
 挟撃される形になった瞬兵が頬を掻きながら云うと、スティアが「そうとも云うわね」と返す。
「まさか、何の用も無くこんな所に来た訳でも無いだろう?
 詰まりは、俺達の事を何となしに感づいている奴等って訳だ」
「ああ。―――グラトニーに差し出すには細身過ぎるな。
 何れにせよ、無事には返してやれないが」
 湿った笑みを浮かべる男達は、そう言って各々の得物をイレギュラーズ達へと向けた。
「いやはや、むしろこれは有り難い。―――手間が省けて、助かりますからね」
 ルル家が肩を竦めると、アレクサンダーが「ああ」と吠え。
 ―――同時に弾ける。ルル家は階下の二人に、アレクサンダーは階上の一人へと肉薄した。


 勢いよく自らの元へと帰ってきた黒猫の様子を見て、レジーナ達は、教会で戦闘が発生していることをすぐさま理解した。
「急ぎあちらへと向かうとするかのう」
「はい。実力はともかく、数の面では不利ですからね」
 ゲンリーの言にノブマサが頷く。廃墟に向かわせていた使い魔と共に黒猫を回収したレジーナも彼らの背に続くが、ふと屠殺場を振り返る。其処には何も無く、ただ食用肉を加工する為の工場に過ぎないが―――。
 妙に湿った器具が目につく。
 殺害現場に残された不自然な量の肉塊。
 其の調達源は? それは、何の肉だ? それは、何処で仕入れた?
「―――"暴食"は大罪のひとつ、ねぇ」
 レジーナが口の端を歪め、翻す。
 答えは全て、張本人に問い質せばいいのだから。


(……まぁ、わしらの生活のように、生きるためならともかく、食べれないものを食べさせようなんて、洒落にもならん。
 食べて満腹になれば、腹が減るまでは、もう食べる必要もないのじゃからな―――)
 アレクサンダーは、男から自らを目掛けて放たれる銃弾四発に目もくれず飛び掛かった。
「くっ!」
 敵は猛然と喰らいつくアレクサンダーの様子に後退する。一方、階下では、
「喧嘩殺法なり!」
 ルル家が二名の男を相手取り体術を仕掛ける。可憐な容姿からは想像もつかない鋭い攻撃に、聊か油断していた敵も面食らったかのように一瞬怯んだ。そのまま後退し室内に入っていく彼等を見遣ると、
「わしが殿を務めるのじゃ。先に行くがいい」
 アレクサンダーが吠える。スティアが「分かりました、お気をつけて!」と頷くと、彼に療術を施し、瞬兵、ルル家と共に先へと進む。
(グラトニーと被害者は……)
 瞬兵が辺りを見渡す。一つの鉄扉だけが、最近新たに設置されたかの様に、周囲から浮いている事に気が付く。
「恐らくあそこが、彼等の居場所に繋がっていますね」
 スティアが瞬兵の視線に気が付き言った。瞬兵も「だね」と頷く。
 対してルル家は二名の敵を相手に攻撃の手を緩めない。
 一人の男が短剣を振り被ると、ルル家は寸での所でそれを躱す。ついで、響き渡る銃声がルル家の肌を掠め血線となり、軌跡と成る。
「ふむ、素人では無い様子! しかし、此処で手間取ってる暇はありません!」
 ルル家が一人の男の懐へと近接する。そのまま打撃で吹き飛ばすと、そのまま躰を柔軟に捻りもう一人へと蹴りを放つ。
「くそっ!」
 打撃を受けた方は意識を喪った様だ。残り一人の男は悪態を付く。
「悪足掻きしない方が、貴方の為だと思うけど……」
 スティアの声に、男は顔を歪めた。
「ふざけるな……っ!」
 最早捨て身となった体勢で男はルル家に突っ込む。その攻撃は躱され、そのまま―――。
「―――っ!」
 ルル家の動きが途中で不自然に止まり、急遽後方に逸れる。その理由を、後ろに居た瞬兵は理解していた。
 その視線は、先程の男の背後―――今は開いている、鉄扉の前に立つ巨躯に向けられている。
「うるざい……」
 漂う腐敗臭。
 響くノイジーな声。
 認識可能なその姿は―――猟奇事件の犯人、グラトニーその人。
 異様なその姿の後ろには、更に三名の男達が控える。雑魚はともかく、グラトニーに関しては要注意だ。
(無理に突っ込めはしませんか)
 そうルル家が思案した瞬間、
 ―――彼らの傍を一瞬で横切る、“赤影”。
 直後、響く男たちの悲鳴。
 部屋に舞った血飛沫。
「此度の事件、何らかの邪悪な意志を感じざるをえませんが、さて真実は如何なものなのでしょう。
 ―――気にはなりますが、まずはボクたちの仕事を片付けましょう」
 ノブマサがランページを振り払いながら告げる。
「おまえらば……」
「お主か、紛らわしい殺し方をする輩とやらは。
 体型が標的の条件なら、儂も対象に入るのかもしれんが、如何かな?」
 玲、レジーナに続いて部屋に入ってきたゲンリーが、グラトニーを直視して問う。
「全く、≪狂騒劇≫(サーカス)が終わったばかりだというのにキナ臭いわね。
 ―――しかし、ええ。
 “大罪女王”と称された≪我≫(わたし)には……、皮肉な程ぴったりな依頼ね」
 レジーナの不遜な言葉が室内に響く。後ろからはのそり、とアレクサンダーがやってくると、これで全員が揃った。
 グラトニーがその焦点の合わぬ目で周囲を見渡す。ぼとりと口腔から湧き出る体液を隠しもせず、彼は口を開いた。
「邪魔もの……排除ずる……」
 ―――その愚鈍さからは推し量れない程の殺意と狂気が、彼の躰から放たれていた。


 ノブマサが一人を斬り、残りは手下三名とグラトニー。支援は瞬兵、スティア、レジーナそして玲の四名が担っており、厚い療術の体勢が整っている。これは、攻撃型のグラトニーを相手取るにあたって、極めて有効に働く編成であろう。
「撃ちまくれ!」
 グラトニー背後の三名が一斉に銃器で射撃を開始する。前衛のイレギュラーズ達は瞬く間に被弾するが、スティア、玲の療術ですぐさま体勢を元に戻す。
 だが、続けざまにグラトニーが動く。その巨体が、極めて機敏に前進しイレギュラーズ達へと突進する。愚鈍な動きとはまるで異なるその攻撃に、イレギュラーズ達の陣形が若干崩れた。
「……」
 玲の眼前にまで近づいたその巨躯。彼女の瞳が、醜悪なその姿を直視する。
(七つの大罪の一つ、『暴食』。
 飢え満たされぬモノが陥る大罪―――、私も今だ縛り付けられている、己が罪)
 玲は過去の自身を、その巨躯に投影する。
(≪暴食女≫(グラトニー)という異名に掛けて、せめて。
 同胞たる私だけでも―――その顛末を見届けなければ)
 それは同じ系統を辿る罪。赦されざる咎。
 だからこそ、この狂った歯車を、彼女は見過ごせない。
「君はどうしてこんな事をしているんだ?
 君の行動は本当に君の本心なのか?」
 その玲の問いに、グラトニーは答えない。返ってくるのは、地響きの様に響く唸り声と、
「ぐいだりない……!」
 そのままグラトニーが大きく口を空け、玲の小さな頭部ごと咀嚼しようと近づける。腐敗臭の如き吐息に玲が目を細める―――が、寸前でグラトニーの体躯が横に弾かれた。
「ぐえ……」
 グラトニーの顏が不思議そうにその衝撃の根源を見遣る。
 そこには、ゲンリーが立っていた。
「ほう、大層肉厚なことよ。まあ、待って居るのじゃ。
 お主は最後の主菜として、残しておく故にの。
 ―――まあ、そう長くは持たぬやもしれぬが」
 そうゲンリーが言い終わるのと同時、残る三名の手下がルル家、ノブマサ、アレクサンダーに蹴散らされた。
「ほれ、言わんこっちゃない」
「ぐう……」
「『五人目の被害者』の人も、助けたよ!」
 瞬兵が奥の部屋から、一人の巨漢を何とか抱えながらこちらの部屋に入ってくる。ぐったりとしてはいるが、まだ生きている様だ。すぐさまスティアが駆け寄り、反対側の肩を持つ。
 残るは、グラトニー一人。
「―――貴方はここで殲滅します、必ず」
 ノブマサがランページをグラトニーへと突きつけた。
 グラトニーは、只々張り付いた笑みを崩さない。


 対グラトニー戦は、手下たちとは比べ物にならない程の難航を見せた。
 グラトニーの破壊力に優れる攻撃が前衛陣を、そしてその勢いのままに後衛陣にまで被弾を齎す。振り撒いている体液には酸の様な毒性があるのか、浴びると其処を中心に皮膚が焼け、激痛がイレギュラーズ達を襲った。
「全く、見苦しいわね―――」
 レジーナが漆黒の魔術書を構え、療術式を展開する。召喚された異界の神は、聖なる光をイレギュラーズ達へと与え、その傷を癒した。
「助かります、女王ー!」
「どういたしまして」
 ルル家の礼に優雅なお辞儀を返すレジーナ。その視線の先では、アレクサンダーがグラトニーへと突進するも、彼の右腕に大きく弾かれていた。
「よくわからんが、食う必要もないのに、食わせようなんて、どうにかしておるのじゃ」
 そう呟いたアレクサンダーとは入れ替わる様に、ゲンリーが戦斧を振るう。その刃先は、グラトニーの体躯を削いでいる筈だが、彼は気にも留めない。むしろ、反撃そのまま、巨大な両手でゲンリーをばちんと強力に挟み込むと、小柄だが鍛え抜かれたゲンリーの体躯を軽々と持ち上げる。
「ぬう……っ!」
「ばはあ……」
 ばかり、とグラトニーの口が開く。グラトニーがそのままその口へと運ばれるが、両側からルル家とノブマサが挟撃する。
 ルル家が放つは、その華奢な身体を自在に使いこなす華麗なる体術の連続技。
 凄絶な攻撃が終わる前に、反対側からはノブマサの一閃がグラトニーの体躯を刻む。
「ぐが……!」
 その攻撃に、遂にグラトニーが悲鳴にも近い唸り声を上げた。思わずゲンリーを挟み込んでいた手を緩めると、其の内にゲンリーも体勢を戻す。
「ゲンリーさん、大丈夫ですか?」
 スティアが声をかけ、ゲンリーに向けセラフィムを振るう。スティア自身の高い魔力を反映し、高度な治癒能力を発現させ、ゲンリーの多くの傷を治癒させた。
 そして、喘ぐグラトニーを前に、玲が口を開く。
「背後に誰かいるのなら名を教えてくれ。私がぶっ飛ばしてやる!
 私は……、同じく≪暴食≫(グラトニー)と呼ばれている者として、もし君が本心から望んでないのなら、どんな形であれ救いたいと思っている。
 ……どうか教えてくれ!」
 残念ながら、人助けセンサーは何ら反応を示していない。即ち、高い確率で、彼は自身に忠実に凶行に走っている。―――玲はその事実を理解した上で、尚、彼に声を掛ける。
 化物に堕ちた彼を救おうとするそんな彼女の姿を、人は笑うだろうか?
(ポロっと吐いてくれるかとも思いましたが、そう上手くはいかないですね)
 ルル家も若干グラトニーから情報を得る期待をしていたが、どうやらそれは難しそうだ。
「おまえら……ごろず……」
 次第にイレギュラーズ達の攻撃が効いてきたのか、グラトニーの表情に焦りの様なものが見え始める。
 逆に言えば敵の限界は既に近づいている。
 此処を勝機と見たゲンリー達は、一気呵成に攻撃を仕掛ける。
 アレクサンダーの噛みつき、ルル家の体術がグラトニーの動きを止める。
「食事は終了じゃ―――」
 ゲンリーが戦斧を精一杯に振り被り、威力に特化した渾身の一撃を放つ。
「うが……」
 グラトニーがよろめく。その瞬間を、ノブマサは見逃さない。
(なるほど、防御が高いという情報通りの相手です。
 ―――小細工は不要。ただ、鍛錬どおりに叩き切るのみ)
 ノブマサがランページを薙ぐ。
「叩き、斬る!」
 それは裂帛の刃撃。
 吹き荒ぶ返り血にノブマサは、濡れ。
「が……あ……」
 ―――そして、グラトニーは倒れた。


 玲は救出した男に療術を施す。何とか話が出来るまでには回復したようだ。
 そして、結局は只倒すしかなかった同罪人……グラトニーの冥福を祈った。
(後で、埋葬してあげよう)
 連続殺人犯の彼は、しかし、寄生虫に支配される前も、本当に悪人だったのだろうか?
 彼は裁かれるべき者であったかもしれない。
 だが、それはこの“暴食”の罪によってでは無い筈だ。
(このような悲劇を産み出した者を……私は許さない)
 グラトニーの処理に向かう玲から被害者の男の身柄を受け取ったスティアとゲンリーは、そのまま彼から事情を聴く。
「いや、気づいたらその部屋にぶち込まれててね……」
「貌の見えない男と、会いませんでした?」
「……ああ、いたよ!
 なんか肉塊を喰い続けろだのおかしなこと言ってて……」
「その男の名などは聞いておらぬかの?」
「うーん。聞いちゃいねえな。そこのデカブツのなら聞いたけど」
 スティアとゲンリーは互いに顔を見合わせる。―――彼から名前を聞きだす事は出来なさそうだ。
 一方、部屋の隅っこでは、ルル家、レジーナ、ノブマサの三名が、生かしたまま捉えていた六名の手下たちを一人ずつ叩き起こし、同じく事情を聴いている。手法は、やや手荒だが。
「話す気がないようであれば話したくなるまで組技でえいえいってしますよ」
「や、やめてくれ、本当に知らないんだ―――あああっ!」
 ルル家に拷問を受ける手下たち。然程忠誠心が高いとも思えないが、中々口を割ろうとはしなかった。
「見上げた根性ね。けれど≪我≫(わたし)も手加減はしてあげられなくてよ?」
「くっ……!」
「ボクたちも管轄貴族から許可を得ています。
 協力して貰えなければ、その時は、気が進みませんが……」
 ノブマサがランページの刃を男の喉元にあてる。
「し、知らねえものはどうしようもないだろ!
 俺達はグラトニーの手伝いをさせられてただけだ!
 確かに妙な優男が出入りはしていたし、そいつがグラトニーを使ってた事は知っているが、それ以上は―――」


 被害者の男、そして手下の男への聴取は不発に終わった。
(あとは周囲の聞き込みですか)
 ルル家はこれから長くなりそうだと気合を入れ直そうとし、ふと被害者の男へと目を止める。
(寄生虫がコロコロの御仁を作ったなら、食わされた肉に寄生虫が仕込んであるかも知れません。
 念の為、対処しておきますか)
「さて、御免」
「うっ……」
 ルル家は組技で殺さないよう男の腹部を叩きつけ、胃の中身を吐き出させる。
「い、痛てぇが、大分ラクになったぜ」
 瞬兵がすぐに水をもってきて、男の口にあてがう。辺りには消化しきれていない肉塊の吐瀉物が広がり―――。
「あれ?」
 瞬兵がその吐き出された肉塊の中に、異物を見つける。それは、小さな封筒の様な物で、少なくとも食べ物には見えない。
 洗い流しながらその封筒を取り、中身を見る。
 一枚の便箋が中に在り。
 其処には、短い文章が記されていた。

『ごきげんよう、≪我が友人≫!
 これを読んでいるということは、“暴食”を贖罪してくれた訳だね。ありがとう。
 “暴食”は極めて醜悪だ。人間種と云うのは、やはり獣の如くだね。
 君達は極めて優秀だ、そう、極めて。だから、“次の贖罪”でまた会おう!
 ―――君達の友人、エヴァグリオスより』

 瞬兵は急いで階段を駆け上がり、教会の外へ出る。
 時刻は夕暮れ。赤紫色の美しい夕焼けだけが街を包み込む。
 瞬兵は視線を巡らせる。
 ―――何処だ?
 けれど、其処には彼は居ない。
 もう、彼は居ない。


 少し離れた所に街の墓地がある。
 其処で玲はグラトニーを埋葬していた。
「手伝ってくれてありがとう」
 玲が礼を言う。多くの人々に断られる中、一人の青年だけが手伝ってくれたのだ。
「どういたしまして。それにしても、とても大きな人ですね。食べすぎでしょうか?」
「……まあね」
「私達も気を付けなければ。
 人は理性を失えば、只の獣ですからね」
「……そうね」
 玲は己が過去に想いを馳せる。耳が痛い。
 その内に、「では」と青年は立ち去っていった。
 
 ―――その”青年”の貌には、これ以上ない程無感情の、冷たい微笑みが張り付いていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

 ”暴食”の二つ名を有する敵、そして彼が行っていた猟奇殺人事件のシナリオでした。 特にファミリアを有効に利用した点で、不明確であった戦場探索については優位にシナリオを進める事が出来ていたと感じます。
 また攻撃・支援のバランスもほぼ1:1と良く、攻撃型のグラトニーに対し分厚い支援により、想定していた以上に皆様にダメージをコントロールされてしまいました。
 その他の成功条件も無事満たし、成功と成りました。
 玲さんは称号と非常にマッチした舞台設定でしたね。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『”Gluttony” Crime』へのご参加有難うございました。

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