シナリオ詳細
何も知らない蝶よ花よ
オープニング
●秘匿事項
ラサ傭兵商会連合の領内、夢の都と称される『ネフェルスト』。『強欲情報屋』マギト・カーマイン(p3n000209)は、とある依頼人と顔を合わせるためにその都に訪れていた。
依頼人は、顔合わせの場所に高級クラブ的な酒場を指定してきた。後ろ暗い取引を行うにはぴったりな個室を提供してくれるその店で、マギトは強面の護衛2人に店内へと案内される。
案内された場所は、VIP専用であろう豪奢な作りの室内で、部屋を仕切る透かしのカーテンの向こうには、人影があった。護衛の男たちは、カーテンの向こうに近寄らないようにマギトを促す。
顔を見せることのない人影は、マギトに向けて言った。
「早速だが、依頼の件はどうだ?」
その声色から、相手が中年の男らしいことは把握できた。
自身の素性を秘匿する目の前の依頼人に対し、マギトは恭(うやうや)しく言葉を選ぶ。
「骨董商のガンダーという男を、強盗に見せかけて殺すこと――それがご依頼の内容でしたね」
マギトの言葉に相槌を打ち、依頼人は続ける。
「私は商人同士の人脈を広く駆使しているのだが……このガンダーというクズの話を耳にしてね」
依頼人は何やら不快感を露わにし、ガンダーの殺害を望む事情を語り出す。
「ガンダーは某貴族の邸宅に出入りしていたのだが、そこで働くメイドにゲスな関係を迫っている」
『ゲスな関係』を強調する依頼人の口調から、マギトは多くを察した。
『エルム』というメイドは、ガンダーが主人のために届けた品物を、誤って破損した。しかし、ガンダーはエルムをかばって新たに新品の品物を届けさせた。そのガンダーの行動に裏があるとは知らず、エルムは相応の見返りを求められることになる。
次第に怒りに声を震わせる依頼人に対し、マギトは共感を示す。
「――ケダモノ以下ですね、そいつは。破損した品物の代金の代わりに、体を差し出せとは。
ガンダーを告発したところで、公正な裁きが下るとも限りませんわなぁ。それで――」
依頼人のある事情を汲んだマギトは、依頼を引き受けることを承諾した。
●乙女と父親
「何も難しい依頼ではありませんよ。骨董商のガンダーという男を、強盗に見せかけて殺してほしいというお達しです」
マギトはローレットの片隅で、招集されたイレギュラーズに向けて、ガンダーの悪行、依頼の概要を一通り説明した。
「それで、依頼人とエルム殿の関係ですが……エルム殿は依頼人の隠し子らしいです」
マギトの話によれば、依頼人であるエルムの父親は、人脈を駆使してエルムのことを常々探らせていた。エルムがガンダーからセクハラを受けていることを知り、激怒した訳である。
マギトはエルムの父親が抱える事情について続ける。
「依頼人は自ら配下を差し向けてガンダーをぶち殺すこともできるほどの人物ですが、どうしてもエルム殿に実父である自身の存在を知られたくないようです」
天涯孤独のエルムは、父親がいることなど夢にも思っていないらしい。
敵も多く後ろ暗い商売をしているような父親の人生に、娘を巻き込みたくはない。配下にガンダーを殺害させることで、父親とのつながりが露見することは避けたい。そのために、ローレットに依頼を持ちかけたのだ。
ガンダーは夜の王都の片隅に馬車を乗り付け、そこにエルムを呼び出すつもりでいる。少数の護衛を連れ、自ら人気のない場所に向かう標的――ガンダーを暗殺するには絶好の機会である。
「くれぐれも、エルム殿の父親の存在を悟られないようにお願いしますよ?」
そう言って、マギトは念押しした。
強盗を装いガンダーらに接触するとして、どのタイミングでエルムを引き離すか、あるいは接触させないように動く必要がある――。
●夜の王都――
幻想領内――夜の王都の人気のない場所に、武装した傭兵を引き連れて向かう馬車があった。
「ガンダーの旦那。人払いは済ませました」
飛行種の男の1人が停車した馬車に近づき、中にいる雇い主に声をかけた。すると、小太りの中年の男――ガンダーは内側から窓を開けて周囲を見回す。落ち着きなく周囲を眺めるガンダーは、「いつまで待たせるんだ」と渋い表情を見せると、
「おい、娘を迎えに行け。屋敷を出たかどうか確かめてこい」
ガンダーの指示に従い、3人の男が屋敷の方角へと向かった。
己の欲のために、まだ若く初々しい娘を手込めにする気でいるガンダーは、誰よりも下卑た笑みを浮かべていた。
- 何も知らない蝶よ花よ完了
- GM名夏雨
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年12月08日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
ランタンの灯りで周囲を照らす傭兵たちは、停車した状態の馬車を囲むようにしてガンダーの警護を行っていた。
ガンダーの馬車の存在を認めたイレギュラーズは、ガンダーらを強襲するために秘かに行動を開始する。
ファミリアー――鷹型の使い魔を使役する『孔雀劫火』天城・幽我(p3p009407)は、使い魔を通して周辺の地形を把握する。
物陰からガンダーが乗る馬車を一瞥した幽我は、心中でつぶやく。
――セクハラ常習犯だなんて、男の風上にも置けないね……。
エルムが平穏な生活に戻れることを願いつつ、幽我は使い魔を駆使してエルムがいるはずの邸宅付近の様子を気にかけていた。
1人家屋の屋根へと上り、『脚を愛す大百足』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)はガンダーの馬車を見下ろせる位置についた。
――単に暗殺っつー事は、始末した後は好きにして良いんですよねー? 護衛諸共脚頂いちまって構わねーんですよねー? フフフフフ……。
ピリムはそんなことを考えつつも、表情ひとつ変えずに屋根の上から飛び降りようと踏み出した。
一方で、『こそどろ』エマ(p3p000257)はエルムの安全を確保するために、エルムがいる邸宅を目指してやって来た。
――強盗に見せかけて。手っ取り早くてよい事です。ひっひっひ。 じゃあお仕事しちゃいましょうね。
エマは難なく裏門から侵入を果たし、広い敷地内に宿舎のような建物を見つける。その建物の玄関付近を見張っていたエマは、狙い通りエルムの姿を見つけた。
エルムはどこか人目を気にするように、夜の宿舎から抜け出そうとしている様子だった。
「ねえ、ちょっと。こんな時間にどこへ行くの?」
エマはその邸宅のメイドになりすまし、何食わぬ顔でエルムに声をかけた。
「この近くで強盗騒ぎがあったそうよ、今夜は外に出ない方がいいわ」
エルムはどこか沈んだ表情で生返事をし、宿舎へと引き返していった。
ひとまず時間稼ぎを終えたエマは、再度裏門を抜けて通りへと出た。すると、まるでエマを待ち構えていたかのように3人の男が現れた。
「お嬢さん」
「あんたがエルムか?」
武装している飛行種の男たちの風貌からして、傭兵であることはすぐにわかった。どこからか裏門を見張っていたのだろう。
傭兵たちが自身のことをエルムと勘違いしていることを踏まえて、エマは適当に話を合わせる。
「……どちら様?」
そうエマが尋ねると、傭兵の1人は「ガンダー様の使いだ」とどこか高圧的にエマに詰め寄った。
「わかってるだろうな? 面倒な真似をするなよ――」
完全にエマを侮っていたその傭兵は、エマからの不意打ちをまともに食らう。
目で追えないほどの速さで振り抜かれたエマのナイフは、相手の肩口を深々とえぐった――。
目には見えない存在の精霊が、人知れず別行動中のエマの様子を監視していた。それは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が事前に召喚していた精霊だった。世界にエマの状況を伝えるため、精霊は人知れず動き出していた。
周囲を警戒していた傭兵たちだったが、異変は唐突に訪れた。
初めは雹(ひょう)のようにバラバラと降り注いできた無数の鉄塊の星が、いん石のように地上目がけて飛んでくる。
予期せぬ天変地異によって、傭兵たちは大いに浮足立った。『訊かぬが華』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が発揮した能力に加え、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)の行動はガンダーたちの動揺を一層引き起こす。
クーアは馬車に向かって火炎瓶を投げつけ、後輪付近に引火させた。ガンダーを乗せた馬車に対する破壊工作は次々と続き、ピリムは馬車の屋根を突き破るようにして、ガンダーの目の前に飛び降りてきた。
凄まじい破壊音と共に、ガンダーの絶叫が響き渡る。ガンダーを刺し貫こうと、空中で刀を構えていたピリムは、ガンダーの左膝の付け根当たりに刃を突き立てていた。
ピリムが飛び降りた衝撃によって、馬車につながれた2頭の馬は激しくいななく。『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はピリムの大胆な行動に感心し、馬のいななきに混じって声を上げた。
「ヒューッ! こりゃあワイルドだぜえ! まさに幻想スタイルってヤツ?」
ピリムが刀を引き抜いた途端、ガンダーは転がるように馬車の外へと逃げ出す。必死に足を引きずりながら、ガンダーは傭兵らに指示を出す。
「お、お前ら! はやく私を守れ!!」
ガンダーは傭兵たちにイレギュラーズの相手を任せ、馬の影に隠れた。
スカーフを覆面の代わりに巻きつけて姿を現した『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は、強盗然とした口調で言った。
「随分な護衛を揃えてんじゃねーか。中にゃあさぞ豪勢なお宝を――」
そう言いかけて、ことほぎは破壊されてボロボロになった馬車とガンダーを見比べると、
「ンだよお宝なんてねーじゃねーか!」
強盗目的であることを印象づけるため、理不尽な理由で憤慨してみせることほぎ。
「狙われるような感じのお前らが悪いんだぜ、身ぐるみはいでやんぞこらー!」
更に理不尽なことをまくし立てる秋奈により、一層不穏な空気が助長される。その間にも、怯え切った2頭の馬は、車輪止めにつかえている車体を激しく揺らす。ガンダーはその馬を逃走のために利用しようと、近づいたが――。
「ぐへへ、こいつもありがたくもらってやんよ!」
秋奈は瞬時に馬のそばに近づき、自身の刀で馬具を切り離す。馬たちはガンダーが止める間もなくその場から逃げ出し、ガンダーはにやにやと笑みを浮かべる秋奈と向かい合う。
「ふざけやがって! 仕事の邪魔すんじゃねえ!」
青筋を浮かべんばかりに怒鳴り、リーダーの傭兵らしい男はホルスターからリボルバーを抜き出した。
いよいよ盛大に燃え上がる馬車の残骸が周囲を照らし、幽我はリボルバーを手にしたリーダーの姿を捉えることができた。瞬時に術式を展開する幽我は、その手を掲げた先に魔法陣を重ねて発現させる。重ねた魔法陣を照準器のようにして、幽我はリーダーに向けて魔力の波動を放つ。
煙管をくわえたことほぎも、多くの傭兵たちの動きをかき乱そうと行動する。紫煙を吐き出すと共に力を引き出すことほぎは、自らの歌声に呪力を込め、内側の精神から相手を脅かす。
どことなく心をざわつかせることほぎの歌声が一帯に響く間にも、エクスマリアは圧倒的な速さで攻めかかる。傭兵の1人――傭兵Aは、ガンダーに接近するエクスマリアを阻もうと動く。鋭く振り抜かれたエクスマリアの斬撃は、その刀身を捉えることを困難にするほどのスピードを見せた。進路上に踏み込んだ傭兵Aに対し、エクスマリアはその一瞬で複数の裂傷を刻んだ。
相手の鮮血を散らすエクスマリアにも怯むことなく、傭兵たちは正面からイレギュラーズに挑む。
クーアはわずかな隙も逃さず、傭兵らに対して雷の力を駆使して臨んだ。
「身ぐるみ剥いで、焼いてやるのです!」
クーアが地面に向けて放った雷の奔流は傭兵Bを捉え、更に焦げ臭い臭いを充満させた。
ピリムは秋奈に煽られ張り付かれている状態のガンダーに迫ろうとしたが、傭兵CとDがピリムの進路を阻む。しかし、ピリムは傭兵らの存在を問題とせず、勢いのままに刀をさばく。
一瞬ピリムと斬り結ぶ傭兵Cだったが、ピリムの太刀筋を完全に受け流すことはできない。ピリムの卓越した刀さばきに傭兵Cの動きはついてこれず、幾度も反撃の瞬間を潰され押し込まれた。
ピリムらがガンダーをかばう傭兵たちの防衛を切り崩そうと動く一方で、幽我はリボルバーを構えるリーダーに向けて連続で魔力を打ち出す。リーダーは果敢に銃撃を繰り返すが、幽我はそれを上回る連射で相手に報いる。飛行種でもあるリーダーは、幽我の攻撃から最大限身をかわそうと、翼を利用して宙高く体を踊らせた。
ワイヤーアクションの如く躍動するリーダーだが、正確に対象を捉える幽我の攻撃にはギリギリの対処を強いられる。どうにか利き腕をかばいつつも、体をかすめていく幽我の攻撃に翻弄される。
相手から幽我と同様に距離を取る世界は、ひそかにリーダーを狙う。世界は宙に白蛇の魔法陣を描き、その白蛇を具現化させた。音もなくするすると地面を這う白蛇は、着地した瞬間のリーダーの足首に絡みつく。幽我に気を取られているリーダーは蛇の存在に気づかず、蛇はその牙から痛みを与えることなく毒を仕込む。
世界は何かの気配を感じて振り返る。精霊と意思疎通を交わす世界は、エマが置かれている状況を察知した。
「てめぇ……!」
エマに斬りつけられた傭兵Gは、傷口を押さえながら瞬時に飛び退く。
一様にナイフを振りかざす傭兵たちを相手取り、エマは機敏な動きで次々とナイフをかわす。エマのその身のこなしから、ただのメイドではないことは明白だった。
「お前、誰だ?! エルムとかいうメイドじゃねえのか?!」
そう喚く傭兵Hに対し、エマは「えひひ」とごまかすように笑った。
「知ってどうするんですか? ここで死ぬ以外の選択肢なんてないと思いますよ? えひひひひ……」
表向きは強がるエマだったが、内心では事前に示し合わせていた世界の合流を強く待ち望んでいた。
「オラオラー、かかってこいやー!」
秋奈は逃げようと必死になるガンダーの進路を阻み続ける。
リボルバーによる反撃を物ともせず、秋奈は容赦なくガンダーを殴り飛ばして後退させる。
リーダーは幽我からの攻撃を掻い潜る中で、秋奈への銃撃を試みる。しかし、秋奈は機敏な動きで反応し、リーダーの妨害に臆することはなかった。更にピリムは傭兵Aを即座に斬り払い、邪魔な傭兵たちを退けようとする。
「あのデカい女を止めろ!」
リーダーはピリムのことを指して言った。特に勢いの目立つピリムの刀さばきは、傭兵たちを寄せつけない。
積極的にガンダーを狙うピリムを押し留めようと傭兵Bは動くが、クーアがそれを許すことはなかった。
傭兵Bの隙を突くクーアは、その体を突き上げるようにして鋭い蹴りを放った。自らの魔力を引き出すクーアは、恐ろしいほどの速さを見せつける。
宙に浮き上がった傭兵Bに対し、クーアは次々に追撃を叩き込む。更に宙高く上った傭兵Bを勢いよく蹴り落とし、地面に叩きつけた。すでにクーアによって、幾度となく血反吐を吐かされた傭兵Bが起き上がることはなかった。
更に傭兵たちを一掃しようとするエクスマリアは、無数の鉄塊の星を再度降らせる。降り注ぐ凶器によって、傭兵Cは頭部への打撃を防ぎ切れずに倒れ伏した。
傭兵らを圧倒するピリムは、ガンダーに向けて言った。
「己が欲求に正直なのは結構でごぜーますが、あなたは手に入れたモノを大切に扱う方には到底見えねーですー」
虎視眈々とガンダーを狙うピリムは、終始不穏な雰囲気を放っていた。
「――でも、私は違いますよー。私が今まで頂いたモノは、全てちゃあんと大切に保管してますー」
熱烈な眼差しを向けるピリムの頭の中は、常に脚への執心で占められていた。
世界がエマの下に駆けつけると、まさに獅子奮迅の勢いで傭兵3人の相手をしている最中だった。
世界はエマに加勢するため、問答無用で攻撃を仕掛ける。
「な……?! こいつの仲間か?!」
手助けする仲間がいたことに面食らいながらも、傭兵は腰元に収めていたムチを利用し、接近する2人を払い除けようとすばやく振り回す。
世界は接近戦を仕掛けると見せかけて、魔法陣から具現化した白蛇を忍ばせていた。相手を静かに蝕む毒を用いながら、世界はエマと協力して傭兵らの一掃に当たった。
一層追い詰められた傭兵たちは、切迫した状況から活路を見出そうと、息の合った攻撃を展開する。
傭兵DとEは宙にはばたく体を回転させながら、鋭くムチを振り回し続け、イレギュラーズをわずかでも後退させようとする。
リーダーは秋奈をガンダーから引き離すことに傾注し、秋奈の腕にムチを巻きつけてけん制する。秋奈とリーダーは互いに相手を引き回そうと綱引き状態になっていた。しかし、ことほぎや幽我の放つ魔弾が飛び交う中でも、リーダーは自らの飛行能力で攻撃を掻い潜った。
リーダーが秋奈に傾注している隙に、ピリムは傭兵らを抜き去ってガンダーへと接近する。
まさに傭兵らを置いて逃げ出そうとしていた瞬間のガンダーは、肉を削ぎ取る勢いのピリムの一太刀を運良くかわした。無様に地面にダイブするガンダーを見下ろすピリムは、どこかギラついた眼差しを向けて言った。
「どうでしょう? 私のモノになりませんかー? 可愛がってあげますよー? 永遠に」
涙目になるガンダーは命乞いを繰り返し、半分腰を抜かしたような状態で逃げ惑う。
一方で、秋奈は自身をマークするリーダーをけしかけるように、憎たらしい言動を取る。
「こりゃあ、退屈ですなあ。至近距離でやり合う度胸もないとか? ぶははははっ!!!」
秋奈に向けてリボルバーを構えていたリーダーだったが、頭に血が上った様子でナイフを抜き、秋奈へと迫ってくる。
すでにムチを振りほどいた秋奈は、敢然とリーダーに立ち向かう。
間合いへと飛び込むリーダーを迎え撃つ秋奈は、刃と拳を交えて挑む。互いの動きに機敏に反応し、ペースを乱されることなく攻撃の応酬を続ける両者。
リーダーのナイフさばきはその精度を一層増していくようにも見えた。だが、リーダーのナイフが秋奈の顔側面すれすれを横切った瞬間、秋奈はその腕を抱え込むようにして引き寄せる。バランスを崩すリーダーに向けられた秋奈の視線は、一瞬冷たい眼光を放ち、そのミゾオチを吹き飛ばす勢いで拳を突き放った。そのまま宙へと突き飛ばされ、地面に放り出されたリーダーは、クーアが操る電流によって意識を失った。
邸宅付近で傭兵らを排除するために奮戦を続けていたエマと世界は、目的を成し遂げた。しかし、宿舎に引き返したはずのエルムが、いつの間にか2人のいる通りに現れた。ランタンを掲げたエルムは、傭兵らの死体を見て悲鳴をあげた。
エルムに見られたことで焦ったエマは、死体を隠そうと、必死に両腕を広げてごまかす。
「ダメじゃないですか、出てきちゃ。ほ、ほらほら、何でもないから戻りましょう――」
世界とエマの様子、倒れたままの傭兵を交互に凝視するエルムはその場からゆっくりと後ずさる。
明らかに動揺しているエルムに対し、世界は淡々とエルムを促す。
「このことは誰にも話してはいけないよ?」
世界の一言と共に、エルムが手にしていたランタンの灯りが前触れもなく消える。ひそかに精霊に指示を出していた世界は、エルムの恐怖心を煽るように更に言った。
「例え君の知り合いのガンダーという男に、何かあったとしても――」
深い夜闇の中で、世界は竦み上がっている様子のエルムの間近へと迫って凄んだ。
「君が余計なことを話したら、殺さなきゃいけなくなる」
エルムはその一言を聞いた直後に、脇目も振らずに邸宅の方へと引き返して行った。
世界は「やれやれ」と言いたげに頭を掻きながら、
「これで自分の父親が刺客を差し向けたとは思わないんじゃないか?」
往生際悪く、地面を這いずってでも逃げようとするガンダーをピリムは見下ろす。
「フフ……振られちまいましたねー。でも、拒否権はねーですよー? 脚(あなた)は私のモノになるのですからねー」
すでに他の者と協力して傭兵DとEを斬り捨てたピリムは、ガンダーを死の淵に突き落とす。ピリムがとどめを刺す様を顔色ひとつ変えずに眺めながら、クーアは心中でつぶやいた。
――ぶっちゃけ私、アレをとやかく言えるような清いねこではない気がするのですが……私情としては、葬れて何よりです。
クーアは改めてその場の惨状を見回す。ふと気がつくと、エクスマリアは逃げ出したはずの馬1頭のくつわを引いて連れてきた。強盗らしく、自らの獲物を確保するエクスマリアに対し、ことほぎは遠慮なく死体を漁って臨時収入を稼ぐことに勤しんでいた。
秋奈はどこかそわそわした様子で、「エルムちゃーん元気かなー?」と邸宅の方角を気にしていた。
「エルムさんは無事みたいだよ」
使い魔を通してエルムたちのやり取りを把握していた幽我は、エルムの現状を告げた。
「こっちとしちゃあ、金さえ貰えりゃ文句はねーが」と内心では思いつつも、ことほぎはつぶやく。
「――にしても娘を守るのに、随分と回りくどい手を使うモンだなァ」
ことほぎの言葉を聞いて、エクスマリアはエルムの父親のことを代弁するように言った。
「親の心子知らず、という言葉もある、が。知られぬままで全てを終わらせたいのも、親心というもの、なのだろう、な」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。またどこかで悪依頼をやれたらと思います。
GMコメント
●情報屋からの挨拶
「どうも、マギト・カーマインです。
多少複雑な依頼ですが、1人の乙女を守るためでもありますからねぇ。どうかご武運を」
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『傭兵』と『幻想』における名声(2対3の割合)がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●成功条件
強盗を装い、ガンダーを暗殺すること。ガンダーを完全に取り逃がした場合、エルムに実害が及んだ場合は失敗となる。
(護衛の生死は依頼の成否に影響しません)
●戦闘場所について
大体21時頃の幻想領内。周辺には浮浪者などが入り浸る空き家が目立つ、閑散とした王都の片隅。
エルムが勤める貴族の邸宅から歩いて向かえる距離。
馬車の外を護衛たちに見張らせるガンダーは、中で待機している。ちなみに、馬車は2頭で引くタイプのもの。
●ガンダーと護衛について
ガンダーの護衛の数は9人で、全員傭兵の飛行種。
全員が、ダガー(物至単)やムチ(物近単【乱れ】)を扱う戦術を用いる。リーダー格の1人は、リボルバー【通常レンジ3】を扱う。
護衛の内、3人はエルムを馬車まで送り届けるために別行動をし、馬車から離れている。
ガンダーもリボルバーを所持しているが、ほぼ戦力とは言えない。逃走する恐れが非常に高い。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
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