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シナリオ詳細

空駆け、眼下に旧き戦跡

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●発掘現場を襲う影
 傭兵領、古戦場発掘現場の夜は決してにぎやかとは言い難い。地質学者や考古学者らが詰めているその地は、人口こそ『それなり』であるものの酒場に積極的に出入りする者は然程でもなく、せいぜいが街の守りに詰めている兵士達やその家族ぐらいのもの。学者肌の者達は寝食を多少なり犠牲にして研究に励んでいるので、夜の街というやつには耐性がない、というのもあるだろう。
 だからって、たまさか気まぐれに外に出た研究者が災難に遭うなどと、誰が想像できるだろうか?
「そっちへ行ったぞ! 追え!」
「待ってくれ、あのカバンには私の大事な商売道具が!」
 考古学者が叫び声を上げる中、兵士達は統率された動きで影を追う。すでに何度か被害が出ているのだろう、対応速度は存外に早い。
 早いのだが、しかし結果に結びつくかというと否だ。『それ』は考古学者の鞄を持って兵士の腕をすり抜け、頭を踏み台にして屋根に飛び移ると、新たに現れた影とともに鞄を投げあってパスしながらあちこちへと駆けていく。
 他方、兵士達は複雑に入り組んだ路地を走り回ることになるため、必然的に小回りがきかない場面が出てくる。
 奇妙な『鳴き声』を響かせるそれらは、夜の闇を切り裂いて逃げていく。
「災難でしたねぇ先生、彼奴等は最近この辺騒がせてる……猿? 猿なのかぁ、あれ? まあそういう連中でさぁ。俺達も流石にこのままやられっぱなしじゃ洒落にならねえってんで網を張ってるんですが、まあどうにも逃げ足が早いわ身軽だわで……」
「俺達に手が負えねえとなっちゃ、もうアレか? 領主サンに相談かァ……?」
 途方に暮れた考古学者を見て、自分達の無能ぶりに堪りかねた兵士達は恥を忍んで領主への直談判を相談し始めた。
 ……よもや、それがローレット・イレギュラーズの面々を巻き込んだ大捕物になるなど、とは。


「ここが問題の発掘現場であるな! 兵站はしっかりしており備蓄もあり……よき場所ではないか」
「はい、発掘現場という手前、十分過ぎる程度には栄えていると思います。もう少し賑わいがあってもいいので、商業的な面が課題でしょうが……」
「でも、発掘現場ならそんなもんだよ。あの辺の人達は研究に全振りしてるから生活が……みたいなところもあるし」
 咲花・百合子 (p3p001385)は発掘現場をかぶりつきで観察してから、改めて少し物々しい空気が流れる発掘現場の街を見回した。領主である蓮杖 綾姫 (p3p008658)は悩ましげに俯くが、三國・誠司 (p3p008563)はあっけらかんとそれに応じた。何しろ『これから』の領地なのである。伸びしろは大きいだろう。
「トラブル続きとなると研究者の方々の足が遠のいてしまわないか心配ですね。その解決に私達が来たのですが……」
「そのためにわたくし達が呼ばれたのよね? オイタする連中はまとめて捕まえましょうね」
「綾姫さんの領地を荒らすなんて許せねえなあ? 私にかかればそんなクソアニマルふんじばってポイですよポイ! 丁度このバッ……」
 トラブルが及ぼす影響を心配する橋場・ステラ (p3p008617)であったが、メルランヌ・ヴィーライ (p3p009063)とウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)は自分達が来たのだから安心とばかりに胸を張る。なにしろ百合子の頼もしさ(圧)がすごい。そうでなくとも熟練の面子揃いなのは、なんの冗談なのか。余裕綽々に手にしていたザックを振って「こうしてこう!」を実演しようとしたウィズィは、手に帰ってくる筈のバッグの消失感にたたらを踏んだ。
「……あれ?」
「で、出たぞあいつだ!」
「野郎共出会えー! 奴ら真っ昼間にも出やがったぞー!」
 きょとんとしたウィズィの肩を踏んづけて跳躍したのは、腕が異常に長く、足が折りたたまれて跳躍向けの、あたかも逃げ回ることに定向進化したかのような猿であった。
 兵士達の騒ぎ超えに合わせるように、屋根伝いに次々と仲間たちが現れ、ウィズィの鞄をパスしていく。
「あーっ! 待てこの猿ゥ!」
「ウィズィ君から鞄を奪って逃げ回るなんて、すごい腕前だね。連携もしっかりしてるし……」
「言ってる場合かよ!? あいつらがこの辺騒がせてる窃盗団だな! 俺達も屋根を」
 マリア・レイシス (p3p006685)がどこか感心した様子で頷くが、シラス (p3p004421)はそれどころじゃないと彼女の背を軽く叩いた。
 屋根に飛び移り、いざ向かおうとした面々はしかし、兵士に「お待ちを!」と呼び止められる。一刻を争う状況なのになにを、と反論仕掛けた一同は、然し続く言葉に息を呑んだ。
「このあたりはスラムだった建物を改築してなんとか保たせている家もいくつかありますので、ひと駆けで一気に距離を詰めようとすれば屋根が崩れます! 猿めらが行うように飛び跳ねるのも良策と思いますが、そうなれば重装備では厳しくございます! 地図ならこちらに!」
 なるほど、制約が沢山あるというわけか。一同は一刻を争う事態ながら思案を始めた。何が最善か、を。

GMコメント

 大変お待たせいたしました。創作でのなんかの街! ってしようとして2週間くらいかかったので領地で行こう! となりました。

●成功条件
・盗ミ猿の捕縛or撃破
・(オプション)家をできるだけ破壊しないで依頼達成
・(オプション)???:1~2体残して若干時間をかけて捕縛しようとすると自動判明

●盗ミ猿×10
 OPにある通り、飛び跳ねたり盗んだりに特化したような姿をした猿。恐らくは樹上生活特化だったのだろうと思われるが……。
 現在、ウィズィさんの手持ちアイテム(任意指定)を奪って逃走しています。
・戦闘能力は然程ではないですがHPはそれなり、抵抗が高いのでBS漬けで動きを止めるのはちょっとだけハードルがあがります。NORMAL相応ですが。
・【アクロバット】【跳躍】【エネミーサーチ】などのスキル(一例)を所持しているとみられ、逃げ回りながらアイテムを受け渡してどんどん移動します。
・非常に軽いようで、OPにあるような移動での不利益というのをこうむりません。

●戦場
 綾姫さんの領地、『古戦場発掘現場(傭兵)』。
 安普請が多いので重武装(フレーバー的に)で屋根を登ったり超機動で走ったりすると屋根が抜けます。落下します。ダメージはあんまり入りませんが、下で食事中だったりすればご飯まみれになったりします。
 みなさんのスタートは南西(右下)から。猿は最初3匹、数ターンかけて全部集まってきます。地図があるので地上からも追えますが障害物がおおいため、壁を使うなどの工夫がいります。

●特殊ルール:パルクールアクション
 このシナリオでは下記の通りにスキルの独自解釈が行われます。他のシナリオでは適応されませんのでご注意下さい。
・機動8以上、『跳躍』『アクロバット』なしで屋根を走った場合、ただ突っ走っただけとみなされ屋根が抜ける可能性が大幅に上がります。
・『連鎖行動』を持つPCがなんらかの移動系非戦スキルを有す場合、連鎖行動を行ったPCも限定的にスキルを持っているとみなされます(成功率に若干の下方修正が入ります)。
・万が一、アイテムなどでぶら下がったりなにか柱に縛ったりしてそれを経由して跳んだりした場合、安普請なので破損判定が入ります。
・また、一部アイテムの『拡大解釈(独自)』が入る場合があります。騎乗動物の場合、プレイングで指定すると自律的に行動することも。
・その他、やれることは何でもやってみましょう。結構ゆるい解釈でなんとかなります。

 皆さんのかっこいいアクションがみてみたい!
 よろしくお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 空駆け、眼下に旧き戦跡完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年12月04日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
シラス(p3p004421)
超える者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
三國・誠司(p3p008563)
一般人
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)
翼より殺意を込めて

リプレイ


「私のスマホー! このクソアニ……おっと、ダメダメ口が悪い……」
「ほう! 下手人は猿であったか! 早速ウィズィ殿の荷物を盗むとは何たる迅速果断! 捕らえ甲斐があるというものよ!」
 あらん限りの罵倒を口から吐き出しかけた『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、しかしそれを中断して口にチャック、つとめて品行方正な素振りを心がけた。
 その様子を見ていた『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は猿達の手際の良さを褒め称えた上で、「猿の脳みそは美味いので捕らえたら一杯いきたいところであるな」とか捕まえた後に楽しむ気満々だった。いいのか、それで。
「任せろ、ひったくりなら俺だってプロだぜ」
「シラス君は頼もしいね! ……頼もしいんだよね? と、とにかくウィズィ君の荷物を返したまえ!」
 『竜剣』シラス(p3p004421)の言葉は字義通り捉えるなら『盗む側の手口を知っているから任せろ』ということなのだが、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は一瞬だけその言葉に逡巡してみせた。とはいえ彼女は性善説的に考える方なので、ほぼ悩んじゃいないのだけど。
「連携の度合いもいい、度胸もある。……けどよりにもよって、あのウィズィちゃんに喧嘩うるって……」
「ウィズィお姉ちゃんの物を盗るなんて許せません……」
 『一般人』三國・誠司(p3p008563)ならずとも、ローレットのイレギュラーズが軽々にウィズィ相手に諍いごとを起こすことはない。……はずだ。それは彼女自身の実力に拠るところもあるし、誠司の隣で怒りに燃える『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)を見れば明らかである。人徳というか、なんというか。
「最近の猿は全く、手癖の宜しいことで!」
「お飾りの領主とはいえ、私の預かる地でこのような狼藉……断じて許すわけには行きません!」
 『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)の呆れたような、どこか感心したような口ぶりに『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)は仲間達へとひとしきり頭を下げてから、改めて領主として理不尽に直面してる現状におかんむりである。彼女の不幸に仲間達も同情的な視線とともに、改めて周囲の建物を見渡した。……いや、安普請などとはとんでもない。普通に整備はされている。
 ここの住人が『ちょっと』住居に無関心なだけだろう。
「とにかく、二手に分かれて追いかけましょう! シラスさんには期待してますよ」
「屋根の上を逃げ回ったことはないけどな! とっ捕まえてやるぜ!」
「うむ! わかった! 最短距離でぶっ飛ばせばよいのであるな!」
「百合子さんはそれで結構です! メルランヌさんは何かあったらこの子に伝えてください!」
 わかっているようでわかっていない百合子はともかく、ウィズィはてきぱきと指示を出す。使い魔のうち一体をメルランヌに、もう一体を周辺警戒に。マリアはすでに持ち前の能力で空を舞い、引き絞られた矢の如くに合図を待ち構えている。
「ええい、あちこちから猿が増えてきているね……! このままだと荷物がわからなくなりそうだね!」
「大丈夫だよ、僕達と、皆の使い魔があることだし!」
「わたくしの鴉達が一匹残らず見つけて差し上げますわ! 覚悟なさい!」
 次々と現れる猿の姿に眉根を寄せたマリアに、誠司とメルランヌがフォローをいれる。既に『コール』と『タール』の2羽を含めた鴉達が飛び去ったあとで、相当な範囲をカバーできる状況にあった。……無論、津々浦々まで。
「では、屋根の踏み抜きにはお気をつけください! 万が一があれば私がフォローしますので……!」
 綾姫の言葉を合図に、2手に別れた面々は空を、屋根を、そして町を駆け回る。盗んだ相手が悪かった。猿達はこれから、イレギュラーズの恐るべき身体能力に翻弄され……るだけで済むんだろうか?


「ステラちゃん、左に寄って!」
「え、あ、はいっ!」
 ウィズィは持ち前の機動力で駆け、屋根と屋根の間を飛び回る。着地時に180度振り返ってステラを見ると、陸鮫の真下では今しがた夫婦げんかの最中だった。包丁の切っ先がちょっと飛び出た事実に驚愕を禁じえない。
「猿達は楽しそうに荷物を投げあってくれちゃって、ちょっと苛立ってくるな!」
「慌てず騒がず気を立てず、然らば彼奴らへの間合いなどあってなきが如し! 白百合清楚殺戮拳は歩法にこそ極致あり、である!」
 見え隠れしつつパス回しをこなす猿達を遠巻きに眺め、シラスは少しイラッとした。が、感情と肉体は別に動いていて、跳躍と着地の際、足元からはほぼ音がない。衝撃を殺す術に慣れ、軽装で立ち回っているのが幸いしたのだろう。
 それはそれとして、百合子である。本当に、美少女らしくしずしずと歩いている姿なのに、気付いたらウィズィの横を歩いている。屋根の上なのに。
「ちょちょ速すぎっす百合子さん!?」
「う、うわぁ屋根が?!」
「ごめんあさばせ! わざとではないのであるよ!」
「空を歩いてるぅぅぅゥ?!」
 隣をしずしずと抜けていった百合子は、ウィズィの制止虚しく床を盛大に踏み抜いた。踏み抜いたのだが、足を動かしたまま空中を前進し、穴の前に着地。そのまま歩いていってしまう。屋根に両足を残さぬよう歩を進めていたウィズィが唖然とする先で、彼女はその頓狂な動きに翻弄された猿をお手玉していた。殺戮拳で。
「キィィ……!?」
 猿達は困惑していた。敵を察知できる者が鳴き声で合図し、連携を取るという猿にあるまじき挙動であちこちを走る彼らであったが、圧倒的速度には、そして恐るべき実力の前にはただ無力なのである。
 荷物を持つ個体を敢えて逃がすために目立つように動いた一匹が中空に弾き飛ばされた。何が起きたのかわからぬ様子の別の猿は、驚きで周辺視がおろそかになっていた。
「ごきげんよう! 足元が疎かでいてよ?」
「キッ」
「いいのかい? そっちには私達の仲間がいるよ!」
「キキィッ!?」
 メルランヌはそんな猿の眼前に現れ、拳を振るう。軽い所作から放たれた重い連撃を耐えきったそれは身を捻って逃げに回るが、その耳にマリアの挑発が滑り込む。罠だと判じた猿は、着地予定の場所を無理やり飛越し大ジャンプを敢行した。
「あーあ、言うこと聞いてれば捕まらなかったかもしれないのにね」
 哀れむでもなく嘲るでもなく、心底残念そうな調子の誠司の声が、分厚い煉瓦の壁向こうから伸びてきたのはそんな時。
 跳躍する際の「タメ」を狙って突き出された腕は、するするとその全身を壁から引っ張り出す。首を掴まれた猿に逃げる手段はない。暴れる猿をトリモチ弾で黙らせた誠司は、地を蹴って次の標的を探すべく空を舞う。
 図書館の影から飛び上がった彼に、三方から猿が飛びかかってきたのはそのタイミングだった。想定していなかったワケではないが、いくらなんでもそんな馬鹿な。
「分かっていましたとも、そう来ることは……!」
「まったく、悪知恵ばかりは働きますのね!」
 そんな彼の頭上をとった猿の喜色は、しかし塵から次々生み出される剣を踏んで突っ込んできた綾姫と、『本当に動きが読めなかった』メルランヌの奇襲により驚愕に転じた。
 綾姫のそれは道なきところに道をつくり、瞬く間にて勢を生んで技となした奇手である。
 奇手だからこそ、不意をつけるのである。


「くっ、っとと……!」
 ウィズィは危うく踏み割りかけた屋根板を体ごと回転しつつ、所謂サイドフリップの要領でかわして着地する。踏み外すだろうと高をくくっていた猿は、その動きに唖然としたが即座に逃げに転じる、が遅い。
「待てっ……このぉ!」
 大股で数歩飛んだうえで、両足を宙に放り出して身をひねり、バタフライの要領でハーロヴィットを投げつけた。燐光を纏った得物は猿の胴に叩き込まれるとそのまま落下線を描いて壁に突き立ち、猿の逃げを封じた。
「さすがはウィズィお姉ちゃん! すごい手際でしたよ!」
「えへへ、ありがとうねステラちゃん……これで今あっちでバチバチやりあってるのと合わせて5匹? まだ半分もい」
「ないんだなこれが。今俺が1匹、マリアが1匹仕留めた。あ、これウィズィの荷物だろ?」
 ステラの喝采に照れたように頬をかいたウィズィは、シラスの言葉に顔を上げた。見れば、たしかに先程奪われた鞄であった。

「パス回しがうまいのはよーく分かったぜ……だから、動きも読めるってわけだ!」
 少し時間を遡る。
 ちょうど、誠司が奇襲で一匹を縫い付けたとき、シラスは道場から住宅街に逃げようとした猿達と対峙していた。パス回しをつぶさに観察し、付かず離れずの距離をとっていた彼は、待つこと、我慢することを知る男であった。然るにそれは、機を見るに敏ということで。長期戦を見越して溜めていた足を開放し、猿達の間へと飛び込んで鞄を奪い取り、いきおい、受け取ろうとした猿へと飛びかかる。相手は中々頑丈、だが一旦間合いを詰めたシラスを振り切る技能は、猿ごときにあるはずもなし。組み伏せられた個体は、観念してお縄に着いたのである。

「建物はまだそこまで壊れてないね! なんだか1匹だけ動きが変、っていうか……こっちの動きを読んでる気がするね!」
「そやつが『猿達の中で』いっとう偉いわけか。つまり」
「それを泳がせて捕まえればいいんですね!」
 マリアの声を聞き届けつつ、驚異的な速度で『歩く』百合子は役所の屋根で足を止め、問題の猿の動きに視線を向けた。どうも、バルーンに向かっているようにみえる。ステラは百合子の言葉に同調すると、己も成果を挙げんと飛び出していく。彼女らを先導するように現れた鴉のコールは、何かを見たようであった。
「ふふふ、お姉ちゃんに迷惑をかけた猿の親玉、私が頑張って捕まえますよ……!」
 親玉がいる前提のステラの目が、危険で獰猛な光をたたえていた。……大丈夫かコレ。

「手加減できなかったのは申し訳なく思いますが、盗んだあなた達も悪いのです。悪く思わないでくださいね」
「建物は無事なんだから仕方ないわ! さあ、『こっちの』残りを片付けましょう! 北の方は皆がつけているのだから!」
 綾姫は倒れ伏した猿に手を合わせると、逃げていった個体を追うべく北を見た。が、その視線の先を手で遮るようにメルランヌが声をかけてくる。どうやら使い魔越しに顛末を予想したらしい彼女は、残敵掃討をこそ提案した。
「皆さんも最大限家屋に配慮してくださっていますし……大丈夫ですよね?」
「大丈夫でしょ、とはいいたくないかな。全部倒してまだ終わってなかったら助けに行こう」
 綾姫の懸念に、誠司は素直に感想を述べた。仲間を信頼しているが、でも任せっぱなしもどうかという葛藤がそこにはあった。

「ギャアアアアーッ!」
「ウィズィお姉ちゃんの荷物を奪った罰です! そして綾姫さんの領地を騒がせた分!」
「アアアアア痛いやめて!」
 その頃。
 明らかに犯人っぽい大道芸人は、ステラの陸鮫にかじられていた。頭から。なお陸鮫は人を食わないらしい。甘噛みなのだそうだ。
「ステラちゃんその辺で」
「いや、いや! 綾姫殿の領地を猿で騒がせ、というか猿をここまで連れてきて悪さをさせるという見下げ果てた根性は噛みちぎってやるのが道理というものよ! さあもっと!」
 止めに入ったウィズィをよそ目に煽る百合子! 手には息絶えた方の猿、の生首!
「家があんまり壊れてないのも、黒幕が捕まったのもいいことだけど……どう収拾つけるんだこれ?」

「正直、今あっちに行かないほうがいいと思うわ」
 使い魔越しに顛末を見てしまったメルランヌは一同を止めた。なおマリアはあちらの班に合流してその惨状を空から見てしまっている。南無三。
「わ、私は領地の被害状況を」
「大丈夫よ、黒幕が荷物全部バルーンの中に隠してたわ。売り払う前だったようね。荷物は探しておくから」
「え、でも」
「いいから」
 綾姫はさすがに自分とこの領地なので改めて被害の試算を出さねばならぬのだが、メルランヌが使い魔で調べるからと強硬に止めた。なんとしてでも止めた。
 多分黒幕が死ぬことはないんだろうけど、仲間のあんまりにもあんまりな壊れ方を見せたくない人情というものがある。
「いや本当に何が起きてるの? 生きてる猿は綾姫さんに預けて大丈夫?」
「……百合子には見つからないところに預けましょう」
「本当に何が起きてんの!?」

成否

成功

MVP

橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

状態異常

なし

あとがき

 家が案外壊れませんでした。
 ……人様の領地をして「安普請」はないと思いました。多分それなり頑丈だったと思います。

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