シナリオ詳細
再現性東京2010:うしろのおんなのこ
オープニング
●『うしろのおんなのこ』
ねえ、知ってる?
これは友達から聞いた話なんだけどね。
……部屋に窓ってある? うん、道路が見える窓なんだけど。
友達の部屋はそう言う窓から外を見ると電柱が一本、あるんだって。電気が照らしてて、目立つよね、電柱って。
その下にさ、女の子が立ってるんだって。
ぽつんと。何かしてるわけでもないよ。ぼーっと電柱に立ってるらしい。
電気で照らされてるから、黒髪の女の子なんだなーって思うんだって。
誰だろなあって気になるけど、まあ、良いじゃん。知らない人だしさ。
で、次の日も、その次の日も。雨の日も。その子がそこにぽつんと立ってるんだって。
……気味悪いよね。それで、どうしたんだろなあ、ってその子を見てるとさ。
目が合ったんだって。そのこ、笑ってた。
ごめん、友達から聞いたってのは嘘。
……ごめんね。誰かに言わないと、さ。ほら、来ちゃうかも知れないし。ね。
●
「――って話をクラスメイトから聞いたんだけどさ。気味が悪いよね?」
そう口を開いた『凡人』越智内 定(p3p009033)へと綾敷・なじみ(p3n000168)は菓子を囓りながら何気なく返した。
「それ、多分。聞いたら伝染(うつ)る系じゃないかなあ。
だってさ、誰かに言わないとって言ってる時点でそのお友達は誰かから聞いたんでしょ?
なら、定くんはその友達に怪異を伝染させられたってワケだ。で、今、なじみさんに伝染(うつ)った」
「うわ!」
僕としたことがと叫んだ定になじみは興味もなさそうにストローでぐるぐるとレモネードを混ぜ続ける。手持ち無沙汰になった彼女の横顔を眺めながら定は「なじみさんは怖くない?」と問いかけた。
「うん。怖くはないよ。なじみさんはオカルト研究会の優秀なる部員(計1名)だからね。
だから、現場に直行してその子に会ってみたくもあるよね。ちょっと、最近、そんな気分なのさ」
「気分で怪異に会いたいとかあるんだ?」
「大ありだぜ、定くん。オカ研の基本は『おばけに会う』『おばけのレポートを纏める』『皆に信じられない』って事だから」
「最後、寂しくない? 必要なさそうだぜ?」
「いやいや、胡散臭いがオカ研なのだよ。定くん。オカ研究レベルがまだまだ低いですなあ」
軽口を叩くなじみの横顔をちら、と見遣った定は「どうすればいい?」と問いかけた。
「その女の子に会いに行こうか。夜妖だと思うし。説明は、そうだね、今晩。なじみさんの家の近くで」
――綾敷なじみは希望ヶ浜に住んでいる。公営団地に挟まれた小さな児童公園で彼女は待っていた。
金色に染まった瞳が楽しげに細められている。普段の彼女の若葉の色はどこへやら、猫のように気まぐれに彼女は微笑んだ。
「こんばんは。来てくれて嬉しいよ」
首をこてりと傾げた彼女は普段の『綾敷なじみ』ではない。
「私に違和感を覚えたんだったら、君は私が好きなんだね。
最近『異世界になんか出入りしてた』せいかな。なじみが時々、譲ってくれるんだ。からだ」
にんまりと微笑んだ彼女は「私は猫鬼だよ。なじんでない方のなじみさんさ」と微笑んだ。
「それで、私が出てきた理由だけど。君たちは『うしろのおんなのこ』の話を聞いたんだね。
うんうん。聞いちゃったなら仕方ない。もう迎えに来ているからね。あれは夜妖だけど、残滓みたいなものなのさ。
なじみさんも『異世界』に遊びに行ってたから良く分かる。そこから零れたモノは武力で撃退できないし、朝まで自由気ままに動き回って、朝が来れば消滅するんだ」
なじみの言葉に定は「ん?」と首を傾いだ。
「『迎えに来ている』?」
「うん。ほら、後ろ」
振り向けば、公園の時計の背後に影が見える。黒髪の少女だろうか――その顔は……。
驚愕に見開かれ、今にも恐ろしい表情をしている。ぞう、と背筋に走った嫌な気配に定が一歩後ずされば、猫鬼はくすくすと笑った。
「――――――――」
背後に立っていた『おんなのこ』はゆっくりと此方に迫ってくる。
「まあ、要するに。あの夜妖は『祓えない』系だから――まずは逃げようか」
走り出したなじみは楽しげに笑った。朝になれば、屹度彼女も観念して帰るから。
朝まで恐怖の鬼ごっこを楽しもうではないか。
- 再現性東京2010:うしろのおんなのこ完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月23日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
――私に違和感を覚えたんだったら、君は私が好きなんだね。
「べべべべ別に好きとかじゃないし!?」なんてことももう言えやしないと『凡人』越智内 定(p3p009033)はにんまりと微笑んだ猫鬼をまじまじと見つめていた。違和感なんて、誰もが気付いている。屹度、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)や『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は『彼女』とも付き合いがあったのだ。彼女の瞳が金色に輝いていることだってとっくに気付いている。
(――それでもさ、僕が気にしていない人相手に違和感に気付く事なんてありはしない。
少なくとも、いつの間にか、大切になっていたのだろう。それがどういう意味でなのかは、まだ分からないけれど)
まじまじとなじみを見つめる定に愛無は「猫鬼君とは縁があるな」と呟いて。それは愛無が事の発端であった『異世界旅行』でもなじみ――否、猫鬼と同行したことに起因しているのだろう。何にせよ懐かしいとさえ思えるが、腐っても真性怪異。畏れ入ったと両手を掲げたいほどである。
空の色が変化する。希望ヶ浜県東浦区白真砂通りはとっぷりと真夜中に沈んでいるようで妙な明るさに包まれる。此れが『まともな空間』ではないことを感じ取り愛無はやれやれと肩を竦めた。
「最近はしょっちゅう『こっち』に来ている気もするが。バカンスには向かない土地だ。さっさとケリをつけるとしよう」
そう簡単にいかぬのが真性怪異というモノか。欠片だけでも此れだというのだから触らぬ神に祟りなしという言葉そのもの。余計な手出しは言語道断、ひよのが毎度の事ながら物理介入を厭うわけである。汰磨羈は猫鬼に「戦うなというのは忠告か?」と問いかける。
「うん。『祓えない』からね」
「……では、忠告通りに逃げるとしよう。素直に、そして懸命にな」
逃げなくてはならないらしい。その理由が『イレギュラーズは獲物』で『猫鬼は横取りをした』相手だからだという。その事情からしても「はいそうですか」と納得できないのは当たり前。『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)はまずはターゲットを分散しようと二手に分かれるが為に、立ち位置を変える。
「全員で集まって逃げるのは流石にねえなナンセンスだぜ。四時間フルで猛ダッシュなんてやってられっかよ」
そんなブライアンの側で「やだぁ!ㅤ走りたくない!!ㅤ会長ログアウトしたばっかなんだよ!!」と叫んだのは『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。
「まだリハビリとかしないといけない人なんだよ!ㅤ多分!! 日の出まであと4時間……今日が会長の命日かもしれねぇな……!」
鍛え上げていた(筈の)足腰が弱った気がする。ネトゲ廃人此処に極まれり。足腰の負担になるレクリエーションはご遠慮頂きたい茄子子に「レクリエーション、なあ」と呟いたのは『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)。
「あの時は捕まっても大丈夫だったが今回は捕まったらアウトか。かはは! ひりつくねぇ。……じゃ頑張って逃げるとするか」
「やだよぉ!」
いやいやと首を振る茄子子と同じように「イヤだ」と叫んだのは『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)の片割れ、こと、稔であった。
『夕日をバックに海辺で可愛い子と追いかけっこしたい……なんて言ったことはあるけどさぁ』
「夢が叶って良かったな」
『全然良くねーーーよ! 何がどうしてこうなった!?』
こんなのは夢が叶ったとは言えない。しかも可愛いと言えないと叫ぶ稔に虚は「顔を見たこともないくせに」とぼやいた。
『見たら脚も竦むじゃん!? 怖いらしいじゃんんっ!?』
稔の叫ぶ声を聞きながら『竜剣』シラス(p3p004421)はちら、と後方を見遣ってから「そろそろか」と呟いた。
少女が立っている。黒髪の少女が此方を向いている――俯いているのか顔は見えないが体の向きだけで此方へと歩き出しそうな気配は感じられた。
「猫鬼。あれが?」
「うん」
シラスはオバケ如きが倒せないというのもイレギュラーズらしからぬと呟いた。ニコラスはじりじりと後退する。嫌がっている時間もなさそうだと茄子子の肩をぽん、と叩いて。
「――にしてもこいつが真性怪異の残滓かよ。しぶとい奴だな、本当によ。ま、これできっかりしっかり滅してやるよ。俺たちはただ逃げるだけだけどな!!」
●
チームを分けたのは一塊で居るだけで休まず相手が追いかけ回してくる事から休息をとれないと考えたからだ。別々に班を分ければ体力の温存も適う。
「折を見て狙われる班を切り替えて行くべきかね?」
問うた汰磨羈にシラスは「上手くいくならね」と頷いた。aPhoneを繋ぎっぱなしにしていれば通話口から『やだ~~!』『こんなの夢じゃないー!』という騒ぐ声が聞こえてくる。顔を出した怪異を適当に『どつ』いて移動して『うしろのおんなのこ』に備えなくてはならないが……。
「この騒がしさでアッチに食い付いたりするかな」
「可能性はあるな。声を出せばそれだけあちらも聞いている可能性がある。まあ、この手の夜妖はルールに沿って行動してきそうな気もするが。
情報が少なすぎてルールも予想がつかんしな。こんな事なら水夜子君あたりに事前に聞いてくるべきだった」
そう呟いた愛無に「ルール?」と問うたのは定だ。例えば、『階段の上り下り』の仕方や声のかけ方。そうしたトリガーが存在すれば追いかけてくる可能性もある。愛無はそうしたことに造詣が深い『専門家』達の言葉を聞けばヒントを得られただろうかと考えたのだ。
「ああ、そうだ。猫鬼君は此方に従ってくれたまえ。しかし、しばらくはこの手の怪異が増えるのだろうかな。……まぁ、練達が無事ならという前提にはなるだろうが」
愛無のその言葉に猫鬼はぎこちなく肩を竦めた。練達が無事であるかどうか、それは尤もたる前提だ。「まあね」と囁く彼女の横顔を見つめてから定は敢えて「なじみさん」と呼んだ。
「なじみさんも異世界に遊びに行っていたって言ってたよね。それって、僕たちと行った時とはまた別の時なのかい?」
「どうしてだい?」
「……もしそうならなんでそんな危ない事をしているのか、聞きたいだろ。猫鬼さんが関連するのか、どうかとかさ」
彼女の昔話は聞いた。猫鬼という存在が危険因子であることもまた然り。それでも彼女が事あるごとに救援になるのもまた事実。
定はだからこそ、僕はまだ猫鬼さんの事を嫌いきれずに居た。なじみを思えば、猫鬼は嫌うべきなのかも知れないが――
「さあ、どうだろう。なじみが教えたがるかどうかだけど、そうだね。私には屹度関係あるよ。
私は呪いみたいなモノだから。もしも、私を祓いたいなら『呪いは返さないと』いけないよね?」
「呪い……」
「ほら、そんなこと言ってる場合じゃなさそうだ」
電話口から「あれっ!?」と声が聞こえてからシラスは振り返って――「走るぞ」と囁いた。
「『うしろのおんなのこ』……!」
走り出す定の背を追いかけてシラスは「全くもって嫌になるぜ」と毒吐いた。怪異だかおばけだか知らないが祓えないし倒せない。
「これは――何だかイレギュラーズになる前に戻った心地だな」
シラスだって『昔は非力』だった。怪物を自力で打ち倒せるなんて考えてもみなかった。寧ろ、搾取される側だとさえ思っていたというのに。
(すっかり忘れてしまっていたよ。俺の生まれ持った武器は他人の懐を狙うこの指と――逃げ足だ)
あんな腐った場所で育ったのだ。それ位技能は磨いてきた。街中を衛兵と犬に追われて丸一日中逃げ切った。こんな『お上品』な鬼ごっこなら――
「上等だ、いくらでも付き合ってやる」
●
「あっちに行ったか」
広域の俯瞰と暗視。祖梳いたことで索敵するブライアンは相手の『顔』を見ないようにと注意を配っていた。勿論、広域から眺めると言うことはリスクが大きくなると言うことだ。
「些細な違和感でも仲間と共有しておけば、頭のキレるヤツが何とかしてくれんだろうしな、多分。
――ま、本気で危うくなったら班のメンバーを囮にしてコッソリ逃げるくらいの心積もりはしておくけどよ!」
「ひえーん!?」
茄子子に「ジョークだ!」とブライアンはからからと笑った。横腹が痛すぎて千切れてしまう気がすると自分自身を回復(無意味)していた茄子子は「プラシーボって凄いよね!」と興奮した調子である。
「あっちが逃げ出した物音は聞こえるけどよ……『今、何があってあっち』に行った?」
問いかけたニコラスに虚は「何だろうな」と呟く。自身等が追われていたのは確かだ。ギリギリまで引きつけて、飛び降りて飛行をして追跡を躱そうと考えた虚の背後から投身してきた『うしろのおんなのこ』は鬼気迫るモノがあった。
『もう考えただけで意識飛びそう』
「言うな。怪異だと言えど真逆、飛び降りるとは思っても居なかったが……」
虚が引きつけるウチにニコラス達は別の階段を下ってくれと頼み、一度一人だけで怪異を引きつけてみたは良いが、真逆の投身。そして追従してくるのだ。だが、それでもとなんとか逃げ回っていれば『気付けば後ろから消えていた』
「消えた」と虚がニコラスに伝えれば彼のaPhone越しにシラスが来たと告げた声が聞こえてきたのだ。一体何がトリガーであったのか。有り得るならばある一定距離を逃げ切った故、かもしれない。虚が長距離を引きつけ飛行を駆使して移動したこともあり彼女が別の軸に移ったのだろうか。
「さて、奴が何処かに移動している間に休息だ」
「オーケー。会長も急速充電ってね! 脇腹ちぎり捨てそうになったよね、まったく」
嘆息する茄子子にニコラスは「捨てた方が速く走れたりしてな」と笑った。顔を見ないようにと移動しなくてはならないが、中々に骨が折れる。
他の怪異達をある程度蹴散らせるだけではなく、追っ手からの逃走をしなくてはならないのだ。全く以て疲労の色を見せない怪異を相手に簡易飛行を使用しても上下するのは中々に骨が折れる。
「飛ぶのは作戦的にアリだな。俺はその手の不思議能力には宛がねえ。次は茄子会長の付与頼りになるぜ」
「オーケー。任せて」
「……この飛行方法、墜ちねえよな……!?」
「……」
「おいおい」
攻めっけばっちりのブライアンも此れには攻められるほどに頭が茹だってはいられなかった。と、言いながらもう一度がやってくる。
「うおおおおお走れええええええ!!! あっ、嫌な感じ。近い! だるまさんがころんだ!
とまれ!ㅤ……ダメか!ㅤ振り向かないとダメなのか!ㅤ絶対見ないからな!! ――って、ぎゃああ脅かすなよ!! 今走ってるんだから! 心肺機能がマッハなんだよ!!! ブライアンくん、飛んで!」
「OH」
突如として『信頼していいのか分らない翼』を授けられたブライアン。茄子子と共に団地からスカイダイビング。その足を掴まんと追い縋るのは無数の小さな赤子の腕。ぞう、と背筋に嫌な気配が走ってニコラスは「君が悪い」と呻いた。
「逃げる! 邪魔を! するんじゃねぇ!!」
「ッ――何だアイツは!」
肉の塊を思わせた怪異が鞠のように弾んで飛んでくる。虚の言葉にニコラスはクソ、と呻いたのだった。
●
ニコラス達が追われている中で猫鬼は定と共に仲間との合流を目指していた。先の逃走劇でシラス達と怪異の手もあり分断されてしまったのだ。
「さて、行かなくてはね? 定く――……」
声を掛けた猫鬼はふと、立ち止まった定に気付く。唇を噛み、苛立ったように怪異を見据えた普段は見慣れぬ彼の姿。
『あの時』彼女は最後まで一緒に居てくれればそれで良いと言った。――クソくらえだ。
あの世界に現れた彼女が、この世界にいる彼女と同じなら、その言葉の中に僕の最後は含まれて無いじゃないか。
定は唇を噛んだ。襲いかかってくる寄る夜妖から猫鬼を護るように布陣して、分断されたチームの再合流を目指している。
(分かってる。それは僕が頼りないからだ。情けないからだ。
何時まで女の子に助けられているんだ――僕はもう、自分の足で立たなきゃならない)
彼女は屹度、一度限りは助けてくれる。それは一度『しか』か『だけ』なのか。それは彼女しかしらない。どっちだろうと問う趣味もない。
もしも、猫鬼頼れば自分は楽に此処を抜け出せるかも知れない。それでも、なじみの身に何か危害が及ぶ可能性さえある。
「いこうか。猫鬼さん。僕が護るよ」
彼はaPhoneで『B棟の入り口で』とメッセージを打ち込んだ。
――どのようにシラスが逃げ切ったのか。それは簡単な話だ。先に汰磨羈と愛無を通し、猫鬼と共に走り来る定を通し終える。
そして迫り来るうしろのおんなのこを分断するために勢いよく防火シャッターを下ろしたのだ。がしゃん、と音を立てて挟まれるうしろのおんなのこに「おばけでも挟まるんだな」と呟いた彼は走り出す。先に猫鬼を逃がしておいた汰磨羈と合流し、地を這いながら出てきたうしろのおんなのこを引きつけながら逃げ回ったのがつい先程まで。
「これで今、何時?」
「大凡に時間は経ったな。中々……スリリングだ」
嘆息した汰磨羈にシラスが「本当にね」と呟いた。オバケを倒せないと何度も呟いた彼は時間稼ぎになれと物理的な妨害を行う事と決めていた。
愛無は事前にタイマーをセットした。土壇場に最後の悪あがきをされては堪ったモノではない。
あと二時間も逃げなくてはならないのか。無事に合流した定と猫鬼を前に汰磨羈はふと呟いた。
「ところで、猫鬼よ。御主は、あれの気配に対して敏感だったりしないのか?」
「どうして?」
「助力してくれたら、後で飯でも奢るぞ。それに定を安全な方向へと導いただろう。だから屹度と思ってな」
「えへへ」
どうやらそれはビンゴだ。気配に敏感なのは互いに同じ。ならば、猫鬼を囮にすることも出来れば、猫鬼の感覚を活かして逃げ切ることも出来るはずだ。
愛無は「何にせよチャレンジか」と呟いた。再度、迫り来る狂乱のかんばせは引き摺り込まんとしているかのようである。
――あ――あ―――――
何か、言葉が吐き出されている。それが何であるかを聞き取るこは出来ない。猫鬼の耳がぴょこりと揺れて、鬼ごっこの再度のスタートだ。
班を分け、互いに休息を取り合いながら走り続ける。こんな奇怪な鬼ごっこを行う事になるとは考えては居なかったと呟いた虚に稔は『可愛い女の子じゃない!』と叫んだ。何とも可哀想な状況ではあるが――さて、大盛り上がりの鬼ごっこもそろそろ仕舞いか。
aPhoneを覗き込めば制限時間がお目見えしている。外を見ればうっすらとした明かりが漏れ出でているのは気のせいか。期待によるものだろうか。
朝日が昇る気配。日の出の時間が近づいてきた。――と、言うことは。
『盛り上がって来たみたいだぜ』
ニコラスが通話口に告げれば「らしいね」と定が返す。シラスは「大人しくしてて欲しいものだけど」と嘆息した。
あちらも形振り構っては居られない。少しばかり朝が近づいたはずなのに、世界はどっぷりといきなり闇に包まれた。何かの足音が木霊し続ける。
た、た、た。
リズミカルな其れは走っている音だろうか。徐々に近づいてくる。
その気配が前後左右、無数に存在している。一方は飛行して『足音』に惑わされぬ位置に、もう一方は。
「右」
猫鬼の気配だけを頼りに走り出す。
「下」
その指示だけを聞いて愛無は気配が近いことに気付いてくるりと振り返った。握るのは鏡。
「何をするんだい?」
「何。相手が自分の顔を見たらどうかと思っただけだ」
定は愛無が構えた鏡に『うしろのおんなのこ』が映り込んだ事に気付く。
構えた鏡が光を帯びた。愛無はぴたりと足を止めた『うしろのおんなのこ』が呻いていることに気付き其の儘走り出す。
「――好奇心猫を殺すともいうが。消滅までの時間稼ぎになれば良し。効果が無ければ6時までラストスパートといこう」
タイムリミットまであと少し、飛行していたブライアンが一度降り立ち「こっちだ!」と叫べば茄子子が仲間達、皆に翼を与えてくれる。
「朝日と時間が今回のクリア条件ならよ。
最後の最後に逃げ込むなら、建物の上階みてーに高い場所へ行けば地上よりはほんの少しだけ早く陽の光とご対面出来るかもなァ?」
笑った彼の声に「良い案だな」と愛無は頷いた。迫り来るうしろのおんなのこ。目を見開いた其れが、ニコラスの瞳とぶつかった。
「ッ――くそ!」
「しっかりして!ㅤ足だけでも動かして!!」
急いで、と『地上から飛ぶ』事の出来る場所を目指す。脚を動かせないならば、と無理矢理にニコラスの体を押したシラスは「疲れてきた!」とぼやいた。
愛無が突然投げ込んだのはアンモニア。ブランデーはまずいだろうと準備していたものに「うっ」とニコラスは呻いた。
「はは、疲れただろ。なら、無事逃げ切れたらラーメンでも食いに行きてぇな。走り回って腹も減ったしよ。みんなもどうよ。一緒に行かね?」
「会長それ知ってるよ。フラグってやつだ!」
「違う!」
ニコラスの言葉に軽く返した茄子子へと汰磨羈は笑みを滲ませて飛び上がった。
「生憎だが。時間に追いつかれたようだな、怪異の欠片よ」
朝日だ――朝の光が滲んでいる。
気付けば世界の姿は様変わり、先程までの陰鬱とした空間は消え失せる。小鳥のさえずりが身を包み、公営団地の屋上でやっとだとへたり込んだ稔(虚がこの時ばかりは疲労を告げて居たのだろう)は疲労を吐き捨てた。
「よし終わった……!ㅤ脇腹ないなった……!ㅤ生きてる?ㅤ会長生きてる?ㅤねぇなじみくん会長足ついてる?」
そろそろとなじみへとしがみついた茄子子に『猫鬼』は「大丈夫大丈夫」と優しく撫で付けた。どうにも、なじみと猫鬼が似ている気がして定は妙な心地に陥ってしまう。
「私達で真性怪異の欠片に対応できた事は、不幸中の幸いと言うべきかもしれんが。
……猫鬼よ。御主、さてはあの欠片が怒るのを承知の上で"出てきた"な?」
嘆息した汰磨羈に猫鬼はにんまりと笑う。言葉が無くともその笑顔で答えなど分りやすいとでもいうものだ。
「……全く、イイ度胸――いや、イイ性格をしているものだ。
私達の事をそれだけ信頼しているのか。私達すら巻き込んで遊んでいるのか。――或いは、その両方か。
まぁ、どっちでもいい。御主のお陰で定となじみが助かったのは事実だしな。あのままでは二人共が餌食だった」
「まあ『私』も獲物を捕られたくなかっただけだから」
にこりと笑った猫鬼に汰磨羈は肩を竦めただけだった。
彼女の事は底知れない。だが、一つの『怪異』のかけらが消滅したのだ。
此れにて一件落着と汰磨羈は「ほれ、飯を食いに行くぞ。腹が空いて仕方がない」と仲間達へと手を差し伸べた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。はいぱー鬼ごっこでした。
よくあるホラーゲームみたいに何も出来ないけど逃げまくるのが好きです。
GMコメント
夏あかねです。猫鬼さんの目は金色に光る。
●成功条件
『うしろのおんなのこ』から逃げ切る
●『希望ヶ浜県東浦区白真砂通りの鬼ごっこ』
うしろのおんなのこは、<半影食>の残滓です。
つまりは、真性怪異の欠片である為に武力でなんとかできないと同じく夜妖である猫鬼は語ります。
対処方法は捕まることなく朝まで逃げ切ることです。現在時刻2時。日の昇る6時がクリアライン。
6時になると、全てが何事もなかったように消え去ります。『うしろのおんなのこ』最後の力を振り絞って皆さんを連れて行こうと頑張ります。
希望ヶ浜県東浦区白真砂通りにある公営団地。なじみにとっては幼い頃からの友人が沢山住んでいたご近所さん。
どうやらそこが全て『うしろのおんなのこ』の空間に変質してしまったようです。
限られた空間の端に辿り着けば、固く外に出ることが出来ません。
公営団地(9Fまである)が3つ。児童公園が1つ。広いフィールド内で怪異との鬼ごっこをしましょう。
●『うしろのおんなのこ』
そう呼ばれている都市伝説です。徐々に徐々に近づいてくる怪異です。捕まらないように逃れるためには誰かに噂を話さねばなりません。
ちなみに、今回追いかけてくる理由は猫鬼が居たせいです。其れは自分の獲物だとお怒りになっています。
スキルを当てる事でその動きは僅かに止まります――が、倒せません。
彼女の影響か、残っていた欠片達が活性化するのか様々な怪異が驚かしてきます。
希望ヶ浜の一区画を使った盛大な肝試しみたいなものだとお考え下さい。殴ったら怪異も怯みます。
『うしろのおんなのこ』は顔を見てはなりません。途轍もなく恐ろしい表情をしているために。見ると脚が必ず竦みます。
ただし、『うしろのおんなのこ』が近くに居る場合は『嫌な気配』がしますので、察知することが可能です。
●同行NPC:綾敷なじみ(猫鬼)
猫鬼と呼ばれる悪性怪異:夜妖<ヨル>が取憑いている所謂、『夜妖憑き』の少女。
その代償は言葉を喰われること。なじみは衝動的に言葉を口にする少女ですが、その言葉を猫鬼は喰らって糧にして居るようです。
なじみと猫鬼は共存し、『ある意味』仲良しのようです。なじみの意志を汲み猫鬼も皆さんの味方です。
一度限り、うしろのおんなのこに捕まっても猫鬼が助けてくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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