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シナリオ詳細

幼き憧れは、色褪せないままで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●思い出の背中を追いかけて
 子供の頃、憧れていた人は居ただろうか。
 あんな人になりたい、とか。
 私もああいう仕事をしたい、とか。
 あるいは同じ場所に立ちたい、とか。
 その多くは色褪せて、いつか「良い思い出だったな」と笑うようなもの。
 けれど……憧れをそのままに、夢を叶えてしまうこともある。
 それは、きっと素晴らしいことなのだろう。
 誘拐犯から自分を助けてくれた、闘士の背中。
 その広くて大きい背中に憧れて。少女は、追いかけるように闘士になった。
 彼女はそのことを、1人の友人に話した。
 たまたま……ほんのちょっとしたことがあって友情に発展したその青年とのカフェでの会話のネタに、彼女は「その話」を選んだのだ。
「でも、その人らしき闘士とはまだ出会えてないんだ。あの人のことだから、今頃はA級闘士になってると思ったんだけど」
「エミルは、その人に会いたいと思っているのかい?」
 言われて、今はラド・バウで闘士をやっている少女……エミルは即答できなかった。
 憧れていた背中。
 いつか追いつきたいと思っていた「あの人」。
 けれど……どうだろうか?
 まだ、あの人に会いたいのだろうか?
「……分からない。なんでだろう、あんなに会いたいと思ってたのに」
「だろうね。僕だって君と同じ立場だったら、きっと不安になるさ」
「あはは、君が?」
「ああ、勿論さ。憧れの人には、いつまでも自分の届かない存在でいてほしい……そう思うのは、自然なことだろ?」
「そうかもしれないけど……名探偵の君にも『憧れの人』なんて居たんだ? 自分より優秀な奴なんていない、とか言うと思ってた」
「そう言ってくれるのは有難いけどね。探偵だからこそ、憧れよ永遠であれと願うものさ」
 そう、たとえば。その「彼」について……とか。

●堕ちた憧れ
「依頼です」
「どうも、イレギュラーズの皆さん。この辺りで探偵をやってるアレックスです」
 アレックスと名乗ったその男は少しくたびれたスーツを着込み、しかし清潔感を保った……まあ、10人中7人は色男と呼ぶような、そんな感じの男だった。
 年齢は20代前半だろうか? 探偵としては若手のように見える。
「実は皆さんに、ちょっと力を貸してほしい案件がありまして」
 そう言ってアレックスが差し出すのは、1枚の写真だった。
 そこに映っているのは40代ほどに見える男で、筋骨隆々の大男だった。
 だが……随分とやさぐれた様子だ。身体のあちこちにも、大きな傷があるのが見える。
「壊し屋ジェイク。かつてはラド・バウで闘士をやっていた男です。最近は違法な闘技場で用心棒のようなものをやっているようでしてね」
 その違法な闘技場は規模としてはそれほどではないが、かなりの残虐ファイトを売りにしているようだ。
 当然、相応に恨みも買うし……借金を抱えた者がなんだかんだと理由をつけて引きずり出されることもあるという。
 また、ちょっと人気の出てきた新人闘士を誘拐して無理矢理戦わせることもあるようだ。
 そうした際の誘拐などにもジェイクは手を貸しているようだ。
 ……そして、ラド・バウで最近ちょっと活躍し始めた少女エミルも、そのリストに載っているようだった。
「かつて自分を悪漢から助けた闘士が、悪漢となって襲ってくる……そんな悪夢、放ってはおけないでしょう?」
 リストのことを考えれば、違法闘技場自体を潰す必要もあるだろう。
 未来を見据える瞳には、薄汚い闇など見せる必要はない。
「幼き憧れは、色褪せないままで。つまりは、そういうことです」

GMコメント

鉄帝に存在する違法闘技場「ブルナック闘技場」を潰しましょう。
なお、後処理はアレックスに頼めば綺麗にやってくれます。
潜入捜査に必要な身分などがあれば、ある程度の簡単なものであれば偽造もしてくれます。
VIP扱いの身分偽造などは難しいでしょう。
ブルナック闘技場などは「裏」ではそれなりに有名であるようです。
観戦チケットも金次第で手に入るでしょう。
ジェイクを殺害し、ブルナック闘技場を壊滅させましょう。

【必要情報】
・ブルナック闘技場
残虐ファイトで有名な違法闘技場。コロセウム方式で、オーナー席やVIP席などもあります。
此処に居るのは大なり小なり悪人たちです。
・ブルナック
ブルナック闘技場のオーナー。全ての元凶。他人を信用しないタチのため、ブルナックをどうにかすればブルナック闘技場は自然崩壊するでしょう。
・ブルナックの護衛たち
闘士崩れが多いです。いわゆる用心棒。誘拐なども請け負う悪人の極み。
壊し屋ジェイクはそのリーダーをやっています。
様々な武器を所持しています。

・闘士エミル
ラド・バウの新人闘士。ちょっとだけ名前が売れてきました。
ブルナックに誘拐対象として狙われていますが、彼女に可能な限り「気付かせない」ことをアレックスは望んでいます。

・探偵アレックス
鉄帝で活動している2.5枚目な探偵。
受けた事件を謎のコネクションで情報を集め解決してくれる、知る人ぞ知る名探偵。
甘党で猫派。秘密結社フェチーズの一員。
「荒事は苦手なんで、よろしくお願いします」とのことです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 幼き憧れは、色褪せないままで完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月11日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)
生来必殺

リプレイ

●潜入、ブルナック闘技場
 ブルナック闘技場。それは無数の闘技場の中でも特に違法性の高い闘技場だ。
 言うなれば裏社会に近いところにある闇であり、それ故に小賢しく生き残った場所でもある。
 だが、生き残った理由はそれだけではない。
 鉄帝という場所にこれ以上なく合っている。
 それもまた、ブルナック闘技場がこれまで生き残ってきた理由でもあるだろう。
「正直ミーは違法だとか合法だとか、心底どーーーーーでもいいんだけどなぁ。だってやってる事は一緒だろ? なんか変なのかい、分かんねえなぁ、差がよぉ? 磨いた腕で目の前の相手をぶちのめす、それだけだろう? スポーツをやってるんじゃないんだ、鉄帝はそんな甘っちょろくないだろう、なぁ?」
 そんな『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)の言葉は、まさにそういう心情を代表するものであるだろう。
「ま、依頼は依頼だしな、潰せってんなら潰すぜ。なんたって、有ろうが無かろうが……どうでもいいんだからな、HAHAHAHAHA!」
「こういう悪党とその溜まり場を放っておくと、碌でもない事柄が際限無く広がる物です。だからここで叩き潰します。それで誰かの夢や幸せが守れるなら、尚更です」
 しかし、しかしだ。社会的正義に則れば『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が正しい。
 結局のところ、正しさなどその程度の揺らぎでしかない。
 ないが……天秤が排除に傾いたのは、それが多くの者の逆鱗に触れた。つまりはそういうことでしかない。
「やはり気に入らんな、この手合いは。かつての私を絶望の淵に追い込んだ「奴等」を彷彿とさせてやまない」
『紅い怨念』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)の言葉も、まさにその体現であると言える。
「力ずくで人を支配し、我が物顔で弄ぶ愚物には相応の天誅を下してやろう」
 人の自由を踏みにじり、欲望のために弄ぶ輩はイルマにとって滅ぼすべき不倶戴天の絶対悪である。
 そしてこれはイルマ自身の……かつての忌まわしき記憶との戦いである。
 ……無論、それとは別に今回のターゲットであるジェイクに想いを馳せる者もいる。
「……なんともまあ、やりきれぬことだ。彼の闘士はどこで道を違えたんだろうな」
 ケガからの借金にでも縛られたか、それとも誘惑に屈したか。
 それは『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)には分からない。
 分かったところで、今更どうしようもない。
 必要以上の同情はしないが、別の道もあったのだろうかと、エーレンは僅かな時間思いを馳せずにはいられない。
「憧れの人にはそのままで居てほしい……アレックスさんの考え、ボクもわかるゾ! ボクもエミル君と同じ口でラド・バウ闘士になったからね! いつかボクもあの人みたいにA級闘士になって…あの人が叶えられなかったS級闘士になるんだゾ!」
『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)のように、自身の体験から今回の依頼に関わった者もいる。
(……あの人はどうしているのかな……「不屈のサルバ」)
 元はラド・パウのA級闘士であり、幼少期の瑠璃がラド・バウ闘士に憧れ目指した切っ掛けの人物のことを瑠璃は思い出す。
 ……そして、魔種となったサルバのことを知らないという点でも瑠璃はエミルと非常に境遇が似ていると言えるだろう。
 もっとも、瑠璃の憧れの果てが何処に繋がるかは、今は誰にも分からないが……。
「そんな訳だからエミル君に共感出来る以上、ボクは彼女の憧れを守るために頑張るゾ! ……それが彼女の憧れを殺すことになろうとも」
 壊し屋ジェイク。エミルにとっての「憧れ」は、徹底的に堕ちた。
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の持つ写真には、そのかつて憧れられたであろう面影は何処にもない。
「では。その“ひと”はどうして、堕ちてしまったのでしょうね」
 答えはない。答えがあれば許されるのかといえば、答えは否ではあるのだが。
「かつての闘士の面影はなし、か……悲しいね。何が彼をここまで落ちぶれさせたのか……いや、今は考えても意味はない。ヴァリューシャ、私達に出来る事をしよう」
「闘士からの転落。理由は、想像がつきますわ。この国では珍しくもない話ですもの。行きましょうマリィ、皆。これ以上の被害が出ないようにするために」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)に『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)も頷き、そして作戦は開始される。
 闘士と、その売り込み役などとして行くのは貴道、エッダ、瑠璃、エーレンだ。
 主にエッダやイルマが貴道、瑠璃、エーレンを売り込むという形だ。
 貴道は見た目通りであるし、瑠璃はラド・バウD級闘士という、そして貴道にもラド・バウB級闘士という肩書がある。
 然程難しいことではないと思われたし、その他のメンバーはチケット代を含む怪しまれない程度の金を依頼人のアレックスから受け取っている。
 そして、エッダを先頭に進むと……闘技場の入り口で立っている男にエッダは「推薦だ」と告げる。
「あ?」
「推薦だと言った。二度言わせるな」
「ボク達そこそこ有名人だから闘士として参加したらこの闘技場に利益になると思うんだけど……どう?」
「細かい手続きなぞどうでもいい。俺と死合う奴はどこだ」
 瑠璃も一緒にそう問いかけ、エーレンもバトルジャンキーを装うと、男は全員の顔を見回し……やがて、エッダのところで視線が止まる。
「ああ、アンタは知ってる。有名人だ……売り込みをしたい奴がいるって話も聞いてる」
 なるほど、事前の準備が効いているらしい。それを逃さず、乗る方向でエッダは話を進めていく。
 わざわざ自分がエッダ・フロールリジであるということを隠すつもりもない。
「私とて手勢を無闇に遣うつもりはない……わかるな? 私が得する為に、私は貴様らが得することを考える。貴様らも、そうしろ」
 こういう場所で入り口を任されているのは、決して下っ端ではない。
 頭の回転が速く、計算ができるからこそ任されている。
 それを逆手に取り、エッダは此処にイレギュラーズを引き込み、話題性を産み、また巧妙に八百長を行うことによってオッズを操作し胴元の儲けを太くする……そんな誘いをしているのだと相手に誤認させるつもりで話しかけていた。
 裏向きの、相手にそれと読ませる為の考えがそれ。
 表向きはあくまで清廉であればこそ。
(……もしマージンとか入ってもこれは自分の取り分でありますからね!!)
 そんなことを考えているとは、瑠璃たちも思わなかっただろうが。悪は滅ぶものなので、後できっとしっぺ返しを食らうだろう。
 ともかく、そうして全員がそれぞれの形で作戦通りに潜入したのだった。

●幼き憧れは、色褪せないままで
「ミーは一応ラドバウB級闘士としての地位はあるが、怪しまれる程じゃねえだろ。戦えりゃいいと思われてそうだしな、実際ほとんど合ってる!」
 部屋を用意された貴道は、そう言って笑う。
 やはりラド・バウB級闘士という肩書はあまりにもビッグネームであったらしい。
 フルーツ盛りまで用意されている歓迎っぷりだ。
「堂々としてりゃあバレるこたぁねえさ、下手に演技するよりミーだったら素のままの方が良いだろう? 嘘じゃない、ミーは本当に闘志も漲っている。なんなら試合だってやっても良いぜ、ミーは一向に構わねえ」
 なんたって対戦相手ごと、この場全てをぶち壊してやりゃあ良いだけの話だからなぁ! と狂暴な笑みを貴道は浮かべる。
 この辺りの性格が怪しまれないのに役立ったのかもしれない。
「ま、流石にビッグネームすぎて調整に大わらわのようであります。あとは味方の仕込みを待つだけ」
「そうだね。監視もないみたいだし……警備も穴だらけなんだゾ」
 すでにある程度の確認も済ませた瑠璃がそう言って、エーレンも静かに頷く。
「このあとはマリアとヴァレーリヤが激励名目で控室にやってきたところで一緒に行動開始……だったな」
 普通の闘技場では満足できない、ダーティファイトをも実戦的として肯定するカムイグラの戦狂い、という設定という設定で売り込んだエーレンも、一緒の部屋に放り込まれているのは暴れても貴道が抑えてくれるだろうという期待でもあるのだろうか。
 どの道、好都合でしかない。合図を待つエッダたちとは別に、チケットを購入して闘技場に入ったイルマたちは、周囲の確認を兼ねターゲット……ジェイクの位置を探る。
 元々用心棒なのだ。主催者の近くに居るだろうとVIP席の辺りを探せば……いる。写真通りの顔の男が、主催者のブルナックの近くに立っているのが見えた。
 狙われているエミルについては、すでに貴道とヴァレーリヤが適当なホラを吹いて遠ざけている。あまり時間をかけなければ安心だろう。
 VIP席に入れずとも、近づくことはできる。
 オリーブは適当なことを言いながらVIP席に近づいていき……イルマも別方向からVIP席に近づいていく。
 逃がしはしない。その意思は、非常に固い。
 そして、マリアとヴァレーリヤは差し入れのカゴを持ちながら「知人の闘士の激励」ということで控室へと向かっていた。
 この辺り、鉄帝でかなり有名な2人であるだけにほぼフリーパスだったのだが……。
「警備、ザルだね……」
「助かりますけど、今までよく無事でしたわね……」
 そう言いながら、見張りの1人もいない控室のドアを開ける。それが、始まりの合図。
「……だいたいこんな殴り合いの巷で何か美しい利益を期待するのが間違いであります。我慢はもう良いでありますか? なら、行くでありますよ」
 エッダが、そう言って控室の全員に合図をして。
 ドガン、と。破壊の音が響く。何事かという問いの答えは、貴道を見ればすぐに出てくるだろう。
「突破力の大蛇、制圧連打の八岐だ、どいつもこいつも消し飛ばす! 死にたい奴から掛かってきな、HAHAHA!」
 大蛇槍、八岐蛇槍。どちらも相当な威力を誇る貴道の技だ。文字通り消し飛ばされかねないその攻撃に、しかし近くに居た用心棒たちは向かっていく。
「雷速必中の砲撃! 受けるがいい!」
 対神攻性鎧『雷装深紅』を纏ったマリアの白雷式電磁投射砲・「雷閃葬華」が炸裂し、ヴァレーリヤが残った敵を吹き飛ばす。
「少しやり過ぎましたわね。貴方達も、力ある者だけが全てを手にするこの国のシステムの犠牲者……罪もない人々に被害を出さなければ、見逃してあげることもできたのだけれど」
「く、くそっ! 襲撃だ! 他の連中も連れてこい!」
 逃げようとする者も、しかし瑠璃が逃がさない。
 一旦闇の帳で隠れて敵が逃げ出さないように退路を断つようにしている瑠璃は、簡単に逃がすほど甘くないからだ。
 そして「他の連中」……たとえばジェイクたちも、簡単には応援に来られない。何故ならば。
「逃がしません。此処で仕留めます」
 必ず討ち取るという意思を見せるオリーブに、ジェイクが舌打ちをしブルナックが悲鳴を上げる。
「な、なんとかしろジェイク! こういう時の為の用心棒だろう!」
「わあってるよ! だが、こいつ等……くそっ!」
「こちらを甘く見積もっていたようだが残念だったな。我々は全力で貴様を抹殺する。生きて帰れると思うな」
 イルマの射撃がジェイク達用心棒の動きを抑え込み、オリーブが仕留める。
 その動きはまるで冷徹な軍人のようで……イルマの冷たい視線が、ジェイク達を捉える。
「腕っ節だけが実力だと思い上がるな。真の実力者を名乗っていいのは『甘さ』を捨てた奴だけだ」
「んなこたあ、分かってんだよ! 腕っぷしが全部だったらこんな場所が出来るかよ!」
 叫ぶジェイクが何を考えてこの場所に堕ちたのかは分からない。
 分からないが……おおよその抵抗勢力を倒し終わり辿り着いたヴァレーリヤは、一縷の望みを込めてジェイクへと呼びかける。
「エミルという名に覚えはありまして? 過去に貴方が助けた子の名前ですの。ずっと憧れていた貴方に会って感謝を伝えたいと言って、貴方を探していますのよ」
「知ってるさ。それがどうした」
「……どうかしら。昔持っていた夢、理想、少しは思い出しまして? 今ならまだ引き返せますわ。戻りましょう。彼女の憧れだった、ジェイクという男に」
 ヴァレーリヤのその問いに、ジェイクはただ嘲笑う。
「戻ると思うか? 堕ちたら二度と戻れねえ。此処はそういう国だ……上れねえなら、落ちるしかねえんだよ!」
「そうか。なら堕ちた闘士よ! 少女の憧れのまま逝ってくれ!」
「ラド・バウ闘士の風上にも置けない奴め……せめて綺麗な思い出、憧れのままの状態で……死ね」
 マリアと瑠璃の攻撃で、ジェイクは死に……ブルナックがいよいよ悲鳴を隠さなくなる。
「な、なんなんだ! お前等、なんなんだ!?」
「俺たちはギルド・ローレット。鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。この闘技場を潰しにきた」
 そんなエーレンの言葉にブルナックは魂が抜けたようにへたり込んで。
 やがて、事前に決めた合図とともにアレックスの手配した人員が手早く証拠の類などを片付けていく。
 恐らくは何もかも「なかったこと」として片づけられるのだろう。
 後日エミルがこの闘技場の存在に気付いても、何も痕跡は残っていないだろう。
「ヴァリューシャ……これで良かったのかな……? 私には分からない……」
 進んでいく隠蔽作業を見ながら、マリアがそう呟くが……ヴァレーリヤも、誰も答えを持ってはいない。
 ただ、言える事があるとすれば。
 幼き憧れは、色褪せないままで。
 それだけが、未来へと繋がる……今日この日守った、確かな希望の鍵なのだろう。

成否

成功

MVP

溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
見事に事件を解決しました!

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