PandoraPartyProject

シナリオ詳細

もう居ない君に捧ぐセレナーデ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●廃墟に響くもの
 鉄帝の、とある廃屋で音楽が響く。
 そこはかつて裕福な商人の館であったらしいと人は言う。
 ならば、何故そこに誰も住んでいないのか。
 何故、その立派な館が廃屋になっているのか?
 その理由は、街の人間なら誰もが知っている。
 しかし、知らない者は館に入り込んだりする。
 たとえば、この場所をどうにかして利用しようとする者の雇った連中とか……だ。
「なあ、気のせいか……さっきから誰かがついてきてる気がするんだが」
「さっきも確認したじゃねえですか」
「そりゃそうだがよ」
 館の調査に来ていた男2人が、周囲を見回す。
 この館のある広大な土地を安く買い叩き、再生して高く売りたいとか……そういう事をぬかす商人の依頼で来ていたチンピラ2人だが、どうにも誰かに見られている気がしていた。
 もし館の中に誰か入り込んでいたら叩き出せと、そう言われて武器も持ってきているが、館の中には人の気配はするのに人の姿がない。
 一体どういうことなのか?
「兄貴ィ。やっぱり帰った方がいいんじゃ」
「ビビってんじゃねえよ。ゴーストの類がいたなら、それを報告すりゃ済だ」
 そう言ってズカズカと進む「兄貴」を追う男だが……そんな2人の耳に、何かが聞こえてくる。
「これって……」
「音楽? ピアノっすね」
「なーるほど。どうやら見えてきたな」
 よく分からないがそれが値打ちもので、しかし持ち出せないもんだから妙な脅しをかけているのだろう。
 そう脳内で結論付けた男は、ニヤニヤと笑う。
「よーし。そうと決まりゃ、ピアニスト様の顔を見に行くとすっか!」
「ダメ」
 その足が、何者かに掴まれて。
「ダメ」
「だめ」
「駄目」
「う、うわああああああああ!?」
 無数の手、手、手。
 そうして……彼等は、行方不明者リストに名を連ねた。

●廃墟の調査
「仕事なのです」
 チーサ・ナコックはそう言うと集まった面々の顔を見回した。
「とある廃墟で行方不明者が続出しているのです」
 それは、とある裕福な商人の館……だったもの、だ。
 3階建ての広い豪奢な館で、同様に広い中庭のついた……まあ、お屋敷と呼んでよい類のものだ。
 そこに住んでいたのは若くして大成功した商人の男で……そんな彼は、とある女性に恋をしていた。
 商人の男が成功する前から通っていた酒場で歌う歌手。
 歌姫と呼ばれるほどではないが、いずれそうなるかもしれない素質を秘めた、麗しい女性。
 しかし商人の男の愛の告白に、女性は決して頷かなかった。
 しかしそれが商人の男の恋心を燃え上がらせた。
 金の力は通じずとも、男はピアノを趣味にしていた。
 君に相応しい曲を贈ることができたら、お付き合いをしてほしいと。
 そんな事を女性に囁いて、働く合間に彼女に贈る、彼女の為だけの曲を……趣味のピアノを使い作曲していた。
 それはセレナーデ。
 商人の男の美しさも相まって、館から漏れ聞こえるピアノを聞きに門の外へ訪れる女性も多く居たそうだ。
 そして、1つの季節が過ぎて。
 忙しく女性に会えない日々が続く中、商人の男は商売敵に暗殺者を送られ殺されてしまった。
 それは奇しくも、歌手の女性が死んでいたという話が男に届いた次の日の夜のことだった。
 酔っ払いの喧嘩に巻き込まれ、殺されていたのだ。
 場末の酒場で働く歌手の女の事など、誰も気にはしない。
 だからこそ、男の耳には中々届かなくて。
 結果として、後を追うように男は死んだ。
 そして……その次の日から、館からセレナーデが響くようになったのだという。
 その不思議な旋律は死せるものを引き寄せるのか、いつの間にか館はゴースト漂う場所となり……侵入者が行方不明となる場所になった。
 彼等は館の外には決して出てこない。
 だからこそ、地元の人間はそれを語らず黙したままだ。
「しかし、それも限界にきているということです」
 死を吞み込み続ける館。
 そんなものがこれ以上死を積み重ねればどうなるのか。
 そんな不安を抱く者が出てきても当然だ。
「解決してきてほしいのです。出来れば……もっとも、穏便な形で」

GMコメント

幽霊屋敷となり果てた館の探索です。
館は3階建て、無数の部屋があります。
その何処かにピアノも置いてあるでしょうが……そこに向かう者を、セレナーデに惹かれて集まった女性ゴーストたちが素直に通してはくれないでしょう。
特に定期的に響くセレナーデの間は、邪魔する者を殺す勢いです。この状態ではあらゆる精神的干渉を受けません。
また、殺された侵入者たちの死体はアンデッドと化しています。
こちらは殺す気満々で襲ってきます。様々な武器を持っているので、それで襲い掛かってきます。

なお、商人の青年の名前はアウロ。
歌姫の女性の名前はミレイユです。
この情報に関しては調べればすぐに出てきます。

●今回の依頼について
探索&心情系シナリオです。
アウロの幽霊に関しては、会う事さえできれば説得は難しくありません。
ありませんが……むしろ女性ゴースト達のほうが難題であると思われます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • もう居ない君に捧ぐセレナーデ完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)
想い、花ひらく
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

●幽霊屋敷の探索
 古い扉がギイイ……という寂しげな音をたてて開かれる。
 幽霊屋敷となり果てた屋敷の中は昼間だというにに薄暗く、如何にも「何かが出そう」という雰囲気を醸し出している。
「しめっぽいでありますねえ……換気が必要でありますな。色々と」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はそう言うと、屋敷の中を見回していく。
 此処に来る前、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)を中心に青年アウロや歌姫ミレイユについてはある程度の調査がされていた。
 しかし、エッダは更に詳細な情報を求めた。
「ちょっとした知り合い」であるニコライ・グリゴリエヴィチ・ロマノフスキーに依頼し、今回の鍵となるアウロやミレイユについての情報を得ていたのだ。
「で、元室長殿。イレギュラーズ(ごっこあそび)は楽しんでいますか?」
「それなりにな。思わず自分の素姓を忘れてしまいそうになるほどだ」
 そんな何処となく不穏な会話を交わしながらも、ニコライは得た情報をエッダへと話していく。
 調査を依頼した内容は2人の外見や普段の生活、死の瞬間の様子まで。
 彼女が彼に頷かなかった理由が判れば、彼がいまだピアノを弾き続けている理由もわかるのではないか、と噂方面の情報に強い元部下、ニコライの力を借りることにしたのだが……結果としてはあまり面白くないことが分かっただけだった。
 ミレイユは、自分がこんなところで終わる人間ではないと信じていたのだ。
 事実、貴族の男からのアプローチもあり、アウロのことはいわゆる「キープ」でしかなかった。
 まあ、結果としてミレイユは死んでしまったが……その辺りが、セレナーデを引き続けるアウロの下にミレイユが現れて……といった結末にならない理由なのだろう。
 しかし、なるほど。それならば……それは必要のない事実だろうとエッダは思う。
 此処で握り潰してしまってよいものだ。
 だから、エッダは必要なことだけを仲間に伝える。
「商人は今でも彼女に贈る為に作曲し続け、その結果……霊魂を引き付けるパワースポットと化してしまったのかもしれませんね。ならばその原因と思われる商人の問題を解決すればこの幽霊屋敷の問題も解決するかもしれませんね」
『陽色に沈む』金枝 繁茂(p3p008917)はそんな事実に限りなく近いであろう推察をする。
「わたしには恋焦がれるとかいうのは遠い言葉。でも、好きな人の為に曲を送るのは素敵ですよね」
 プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)は頷きながら、この悲恋のことを想う。
 結果としては悲しい結末に終わってしまったが、ロマンチックな話ではある。
「うーん、ヘルちゃんは恋とかした事ないから「恋愛」という意味ではよくわからないけど……好きな相手と一緒にいたいとか好きな人に曲を贈りたい気持ちはわかるのだ!」
 一方、ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)は、少し違う方向からの理解を示していた。
「だからアウロちゃんのセレナーデ、何とかミレイユちゃんに伝えてあげたいのだ。死者の願いを聞き、死出の旅路を導くのも「ニヴルヘイム」の務めなのだぞ!」
 それに、とヘルミーネは続ける。
「それに幽霊ちゃん達がいっぱいならその子達も導いてあげないといけないだ!」
「……ま、色々あったみたいですけど、こうなってしまっては対処しないといけませんね。剣で斬れなさそうな奴の相手は得意ではありませんが、何とかやってみましょう」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)もヘルミーネに頷き、今回の事件の概要を思い返す。
 話合いできるかもしれない女性のゴーストと、話し合いなど望めないアンデッドたち。
 後者は剣でどうにでもできるが……まあ、その辺りは得意不得意の問題ではあるだろう。
「おばけか……あまり得意ではないけど、出来ることをしよう! ヴァリューシャも注意してね!」
「ええ、勿論ですわ! さあ、行きましょう!」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)に『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)も答え、そうして2チームに分かれて屋敷の中を進んでいく。
 A班はイズマ、ヴァレーリヤ、エッダ、プラハ。
 B班はマリア、オリーブ、ヘルミーネ、繁茂。
(この依頼……死者しかいないな。死者蘇生は不可能だと言うが、それを補って余りあるくらい死者が雄弁だ。依頼の解決はもちろんだが、俺はセレナーデを聴いてみたくて来たんだ。どんな曲なんだろう?)
 そんなイズマの望みに応えようとしたわけではないだろうが……セレナーデが、何処か遠くから響く。
 その音は、届くべき人に届かない悲しみを奏でているかのようでもあった。

●もう居ない君に捧ぐセレナーデ
 今回の件を事前に調べるにあたって、イズマは様々なことを調査していた。
 特に歌姫のことを知りたい、と。そう考えていた。
 彼女がどんな人だったのか、彼の告白を断り続けたのは何故か、彼女はどんな歌を歌ったのか。
(彼が恋い焦がれた人のことを知るのは、セレナーデに込められた想いを理解するのに必要だった。何故ならセレナーデは親しい相手……例えば恋人のために演奏する曲だから)
 しかし、その裏に潜んでいたのは残酷な真実だった。
 死んでも尚奏でられるセレナーデは、きっと永遠に彼女に届くことはない。
 集まってきた女性ゴーストの中に歌姫がいないのが、何よりの証拠であるだろう。
 その事実を頭から振り払い、イズマは広域俯瞰で周囲をしっかりと確認する。
 セレナーデが響いている間は女性ゴーストたちは聞き入っているようで、目の前をふよふよと漂っている女性ゴーストの姿もあった。
 そして、聞き入っている彼女たちの邪魔をするわけにはいかない。
 セレナーデが止まるタイミングまで待つと、ヴァレーリヤは女性ゴーストに霊魂疎通で話しかけてみる。
「よかったら教えてほしいのですけれど……アウロさんの居場所をご存じかしら?」
「あの人? どうして?」
 此処で下手なことを言えば彼女が敵に回るかもしれない。
 それが分かっているからこそ、ヴァレーリヤは言葉を選ぶ。
「もっと近くで聞いてみたいと思ったんですの」
「んー……」
 女性ゴーストは考えるような様子を見せると「自分で探すべきよ」と言って何処かに飛び去っていく。
「うーむ。まあ、そう上手くはいかんでありますか」
「仕方ないのかもしれませんね」
 エッダにプラハもそう頷き返す。
 元々アウロのピアノに惹かれて集まってきたゴーストたちだ。
 新顔がそう簡単に「良い席」につくことを許容しないのは当たり前といえば当たり前。
 しかし、今の様子から見て邪魔はしてこない……つまり正しい対応を出来ているのも明らかだった。
 そしてプラハはハイセンスによる超聴力で、先程のセレナーデの聞こえてきた方向を探っていた。
(ピアノはたぶんセレナーデの聞こえる方。怖くはありますが、セレナーデが響く間が目的の場所を突きとめるチャンスだと思います。わたしの超聴力で音源をおいかけます……!)
 守ってくれるというエッダから離れないようにして歩いているプラハではあるが、思う事もある。
「女性のゴースト達はなぜ邪魔をするのでしょう。嫉妬? それともピアノの曲が聞こえなくなるのを恐れている? いいえ、違いますよね。きっと……彼の邪魔をさせたくないのですね」
 それは、今のゴーストの態度からも明らかだ。
「女性ゴーストはセレナーデを邪魔してほしくない、と。それは間違いないだろうな」
 イズマもそう頷く。それさえ分かっていれば、この先の対応も大分決まってくる。
「マリィ、そちらは如何ですこと? こちらは、今のところまあまあ、ですわね。概ね予想通りですわ」
 マリアのギフト、紅雷「蒼穹白虎装・恋歌」でマリアと会話しているヴァレーリヤの肩を、エッダがツンとつつく。
「……なんですの?」
「こういう時こそ尼さんの出番でありますよ。なんかスゲー聖水とかそういうのでこう。あるでありましょう?」
「何でも祓う聖水? ええい、そんな便利なものがあるはずないでしょう! あったらとっくの昔に使ってございますわ!」
 そんな掛け合いが始まるA班とは少し離れた場所……そこにB班は居た。
「ヴァリューシャかい? こっちは今の所収穫なしだね! 何かあれば連絡する! そっちもよろしくね!」
 ギフトでの通話を終えたマリアは、状況が概ね予想通りであったことに頷く。
 こちらは襲ってきたアンデッドを撃破していたが……予想通りゴーストたちはセレナーデが流れているときは聞き入っているし、アンデッドを排除したマリアたちをどちらかというと好意的な目で見ているのが実に印象的だった。
「中々に肝が冷える探索だね……。可能な限り静かに行こう」
「アンデッドだけでも厄介なのに、ゴーストにまで襲い掛かられては大変ですからね」
 オリーブもマリアに静かに同意する。ゴーストたちが敵に回らないのは、本当に助かることだ。
 どうやら話も通じるようだし、理性的でもある。それはオリーブにとって、本当に素晴らしいことだった。
 館の構造を「瞬間記憶」で把握し、セレナーデが響いてきた時は「聞き耳」で大体の位置を推測する。
 そういった、先導役としての仕事に集中しやすいということなのだから。
 とはいえ、一歩間違えればゴーストたちも敵に回る。
 それを考えると今マリアが言った通り、肝の冷える探索であることは間違いない。
「時間をかけてあなた達を弔いたかった。だが私にも守りたい仲間がいるのです、どうか手荒な事をお許しください」
 倒したアンデッドの霊魂を三途渡守で成仏させながら、繁茂はそう祈る。
 繁茂もまた、今回の件についてはイズマと共に調べ真実を知っていた。
 アウロが曲を弾き続けたように、歌姫ミレイユも待っていると……そう思っていたのだ。
 しかし、真実は違った。死後もきっと、2人は結ばれない。
 あるいはヘルミーネがそうしたいと思ったようにアウロのセレナーデがミレイユに届けば違ったのかもしれないが……。
 事前に調べた限りでは、ミレイユの霊は何処にもいなかった。
 もしかすると、この屋敷にいるのかもという一縷の希望もあったが……それもなさそうだった。
 だから、ヘルミーネは……そのことを正直にアウロに告げるつもりだった。
 届けたいものが届かない辛さを、これ以上味わわせるべきではないと。そう考えていたからだ。
 4人は進みながら、聞こえてくるセレナーデを辿り……ついに、その部屋の前に辿り着いた。
「マリィ!」
「ヴァリューシャ!」
 そこにはA班の姿もあり、どうやらセレナーデが終わるのを待っているのだと知れた。
 そうして、セレナーデが再び終わると……頷きあい、マリアとヴァレーリヤがタイミングを合わせて扉を開く。
 其処には何人かの女性ゴーストと……ピアノに向かい合う、1人の青年ゴーストの姿があった。
「……貴方達は? どうやら、生きている人のようだけれど」
 話が通じる。それをしっかりと確認すると、まずはヴァレーリヤが口を開く。
「貴方のお話、聞きましてよ。どれ程悲しく無念であったか、お察し致しますわ。それを晴らすために何かをしてあげることは、もうできないけれど……でも、そろそろ迎えに行ってあげてもいいのではありませんこと? 練習はもう十分なはず。貴方の想い、きっと彼女に伝わりますわ」
 それは、ヴァレーリヤの偽りのない想いだった。
 たとえ、生きている間に利用されていただけだったのだとしても。
 死んでからも、彼女は此処に来なかったのだとしても。
 此処でセレナーデを引き続けたアウロの真実の愛は、きっと伝わっているはずだ。
「ここで鍵盤を叩いていても想い人に会えはしないでしょう。そろそろ行くべきなのでは?」
 オリーブもそう告げ……アウロは寂しそうに笑う。
 その様子を見て、エッダは思う。
 もしかしてピアノは釣り餌で、誰かに弾かされているのではとも思っていた。
 しかしこの様子なら、そういうこともなさそうだ。
 ならば……全ては、この説得の結果にかかっている。
「アウロ君……きっと凄まじく無念だったことだろう……でも……ここで君が曲を弾き続けても彼女とは会えない……」
 マリアも、自分に出来る言葉でアウロに呼びかける。
「私には何も出来ないし、死後の世界が存在するのかどうかも分からない……しかし霊というものが現実に存在している以上、きっと死後の世界もあると信じたい……私は君に愛すると人と再会して欲しいと心から願う。だからもう眠ろう……」
 そして、イズマも続く。
「素敵なピアノだった。大切な人への想いの強さがよく解る。それにこの曲は彼女の歌にとても合うと思う。だけどそろそろ終わりにしないか? もう想いは溢れてる。これ以上は……惹き付けすぎてしまう」
 それはアウロとて分かっているはずだ。
 彼の周囲の女性ゴーストの存在が、何よりもの証明なのだから。
「もし心残りがあるなら、最期にアンコールしようか? お邪魔でなければ俺も合わせるよ、教えてもらった彼女の旋律を取り入れて。アウロさんの想いはきっとミレイユさんに届く。ここにいる全員が証人になる。どうか穏やかに眠ってくれ」
「ミレイユさんに会わせてあげることはできませんが……それでも、わたしもそうするべきだと思います。あなたの想いもピアノも、伝えていきますから」
 プラハが、そう続けて。
「そう、そのセレナーデをここで奏でてもミレイユちゃんには聞かせてあげられないのだ……あの世で聞かせてあげるのだ」
 ヘルミーネもそう伝えた、その時。
 ようやくアウロが口を開く。
「そうだね。ミレイユはきっと、もう死後の国に旅立ったんだろう。僕の想いは此処では彼女に届かない。むしろ……迷惑をかけていたみたいだね?」
 アウロは立ち上がり、ゆっくりとヘルミーネたちの顔を見回す。
「ありがとう。死者でしかない僕に、向き合ってくれて。このピアノも、楽譜も……好きにしてくれていい。僕は遠い場所へ行こう」
「死出の旅路の先で皆幸せになるのだぞ!」
 ヘルミーネがギフト「死出の番人≪ニヴルヘイム≫」を使って鎮魂歌を歌う。
 それは、この場に集まってきたアウロを含むゴーストたちを成仏させていく。
 ありがとう、と。そう言って消えていくアウロたちを見送り、繁茂は思う。
(死後結ばれるのならばそれは幸せだったのでしょうか、もしそうならば私は……)
 その答えは、今は見えていない。
 しかし……それはいつか繁茂自身が出さなければいけない答えだ。
 プラハもまた、思う。
 このピアノを保護結界で包んで運び出そうと。
 中まできれいに掃除して、集会所にでも置いてもらうよう街の偉い人に頼もうと、そう考えていたのだ。
 お金なら今回の依頼の報酬もある。そして、託された楽譜もある。
 誰でも弾けるようにしておけば、またあの曲が聴けるかもしれない。
 そうすればきっと、贈る相手失ったセレナーデも……いつか、その本来の役目を果たすかもしれない。
 それは……いつかアウロが望んだような、素晴らしい未来に繋がるはずだから。

成否

成功

MVP

ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
アウロやゴーストたちを成仏させました!

PAGETOPPAGEBOTTOM