シナリオ詳細
社交界の代理戦争
オープニング
●貴族達の祝杯
「やはりイレギュラーズに張った甲斐があったのだわさ」
ローレットギルドの祝勝会と称して貴族の間に開かれた社交場にて、やたら気取った様な仕草でワインを飲み干す女貴族。
国王の号令に端を発し、貴族の協力も得られた狂気のサーカス団『シルク・ドゥ・マントゥール』の討伐。それはイレギュラーズのほぼ完勝といっていい程の成果を挙げ、無事に成し遂げられた。
同時に、これはローレットを積極的に支援していた貴族にとっても非常に喜ばしい事である。思惑どうあれ、それらはこの幻想、ひいてはこの世界を救う一助となったのだ。その事実は彼らイレギュラーズと懇意していたかどうかの差で発言力に大きく影響が出るであろう、と幾らかの諸侯はこの女貴族ビューティの様にほくそ笑んでいる。
「フンッ、貴様一人の手柄の様に語るな。貴様の見栄えだけの私兵は、イレギュラーズの助けがなければ皆殺しにされていただろうに!」
傍で聞いていた男性貴族はいきり立ち、筋肉を見せびらかす様にポージングを取った。ナンデコノ男ハ上半身裸ナノダロウ……。
周囲にそれ自体を咎めるものは居ない。いつもの事だ。そんな風に眺めながらも、嫌味を言われた事にビューティはあからさまに眉を顰めている。
「ふん、鎧を捨てて上半身裸で戦っている貴方の兵士よりずっとずっと可憐な兵士達なのだわさ。それに、イレギュラーズ達が居なければ翻弄されてたのは貴方も同じではなくて?」
互いに、自分の手柄や相手への嫌味事を言い合う貴族二人。これもいつもの事だ。そんな風に、他の貴族は呆れ果てていた。
「あぁ、あの~……」
そんな二人を見て、傍で聞いていた青年貴族はオロオロと視線を泳がせていた。なんとか、宥めたいらしい。
フダンは黙っていろ!! 二人は同時にそう言い放つ。青年貴族はしゅん、と肩を落とした。これまたいつもの事だ。周囲の貴族は再びこれを気にせず流した。
他の貴族達を尻目に、言い争っている二人はこう大声をあげた。
「だったら、どっちが凄いイレギュラーズを”ご招待“出来るか次の社交場で見せつけてやろうじゃないのだわさ!!」
「やってやろうじゃないか!!!」
手につけていた手袋を投げ合う二人に対して、「また厄介な事になった――が、しかし面白いものが見られそうだ」と……そんな事を物語っている顔をしていた。
●代理戦争、あるいは代理決闘
「さて、我々の手元に幾らかのチケットが貴族から届きました」
気取った文体で書かれた便箋、あるいは無骨に書き殴られた紙切れ、そんな招待状をテーブルに並べ、『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020」は説明を始めた。
曰く、貴族同士の間で社交界で面子争いが生じたという。その貴族達は、どちらがより社交場で面白い振る舞いを出来るイレギュラーズを呼べるかと息巻いているらしい。
「現在は貴族が水面下で腹黒い事を企み、互いを蹴落とし合う時期にありません。ですが、彼らは見栄を失ったわけではありません。いえ、むしろ今が平和だからこそソレが必要なのでしょうか」
彼は無知な子供の様に首を傾げたのち、にやけた笑みを浮かべてもう一枚のおとなしい色合いの招待状を取り出してみせる。これは、どうにか穏便に事を済ませて欲しいという他の貴族から宛てられたものらしい。
「彼らの悩み事が尽きない様に、我々の仕事もまだまだ尽きないという事です。……ナニは踊れど、されど進まずってヤツですか?」
まぁ、今回の依頼は場に不相応な振る舞いをしなければ失敗する事もまず無いだろうから気楽にやって欲しい。そう少年は語る。
「中々無い機会ですし、これに肖ってたらふく飲み食いして来て下さいな。あ、よろしければ御土産も――」
- 社交界の代理戦争完了
- GM名稗田 ケロ子
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年07月22日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●美しきことは美徳なり
サーカス討伐の成功から数日経った夜、貴族達による宴と舞踏は再び始まった。
イレギュラーズ達は来るだろうか。どちらが面白いものを招待出来るだろうか。貴族達は落ち着いた様子でそんな事を口々に話し合い、または賭け事紛いの予想を立てていた。
「さぁ皆様、御覧あそばせ。イレギュラーズの御来場よ」
談笑を制する様にビューティが手をあげる。促されるまま入り口の方を見れば。イレギュラーズと思しき者達が従者に案内されて来訪していた。
落ち着きのあった貴族同士の会話は、やがて羨望のざわめきへと変わって来る。
『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250)――人形師の子供は、礼を述べる様に頭を下げた。傍らの二対の人形「レオンとカルラ」も同じ様に。
「まぁ、なんて可愛らしい」
妙齢の貴婦人が人形達を見てそう声を漏らした。その人形の中には、イレギュラーズの『軋むいのちと虚ろなこころ』はぐるま姫(p3p000123)も含められている。
ビューティはこれみよがしに彼女の前に歩み寄り、「よくぞ来てくださいました」と言葉にして自分の招待客である事を誇示する。
はぐるま姫は内心で相応しい振る舞いをせねばと意気込みながら、ちょこんと可愛らしくスカートを摘んで挨拶を述べた。
「お招きいただきましてありがとうございますビューティ様」
目の前に居るビューティに対して、上目遣いでそう言葉にした。その視線にビューティは一瞬我を忘れ、他の貴婦人と同じ様に「まぁ」と関心した様に声が漏れた。
――だってこんなに小さなからだなのだもの。上目遣いになってしまう方が、自然でしょう?
はぐるま姫はそう心の中で思いつつも、貴族達が自分のその振る舞いに好印象を抱いている事を認識する。
人形師の子供は、人形らに関心が注がれているのを好機と見て幾つかの操り人形を取り出した。そうして、糸のついた人形によるマリオネットダンスを披露し始める。年少の貴族が、喜んだ様に黄色い声と共に拍手を送った。
それらは大道芸として通用するだけの技術があり、社交界の場においても鑑賞するに値した。だが、この余興をよしとしない者がいる。
「フンッ、人形を普通に操るだけではないか」
遠巻きからそんな野次が飛んだ。もう一人の招待主、ライザップだ。ビューティの招待客が持て囃されるのはやはり面白くないらしい。
それを受けて人形師の子供は「いいえ、本番はここからです」と言わんばかりに、ハサミを取り出して人形らに繋がれた糸を切ってみせた。
そんな事をすれば人形は動かなくなってしまうのでは。そんな心配を余所に、自由になった人形はアレヤコレヤと自由に身振り手振りを始めたではあるまいか……。
「ああ、自由になったね。カルラ?」
『ええ、自由って素晴らしいわ。レオン』
ギフトだ。いずれかの貴族が、物珍しそうに口にした。レオンはご名答とばかりに、再び一礼をする。
「みんなも、そこのはぐるま姫の様に自由になれたかな?」
『これってとっても素敵だわ。さぁさ、皆さんここからが本番よ』
同じく人形であるはぐるま姫を交え、レオンとカルラは戯曲さながらテーブルの上で踊りを披露していくのである。
――まぁ。初めまして、可愛らしい人形さん達。私は……
――ビューティフォー! 彼女の招待客だけの事はある。是非とも貴方達の名を……
人形達の宴は上々。若い女性貴族を中心としてはぐるま姫やレオンとカルラ、そして人形師の子供に寄って集って自己紹介や質問を投げかけに向かったのであった。
●強きこともまた美徳なり
これが面白くないのが対抗者のライ・ザップだ。イイヤ、彼も一瞬生唾を飲んではぐるま姫の上目遣いに見とれていたが……ソレハソレトシテ。このままでは、自分の面子が丸潰れだ。
小躰の人形達から視線を外す様にぶるぶると首を振った後、白い歯を見せつける様にニカリと笑い、自分の招待客へと歩み寄った。
「フッ、お前達がオレ様の招待を受け取ってくれたイレギュラーズだな。ギルドより報せが届いている」
『flawless Diva』セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390)と『断罪の呪縛』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は、何故この人は上半身裸なのだろうと感じつつも礼儀正しく挨拶を述べた。
彼女らの挨拶に頷き返しながらも。ふと、ライ・ザップは首を傾げた。「もう一人招待したはずなのだが」と。『悪い人を狩る狐』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)を探しているらしい。
「ルルでしたらここに」
そう言って、ルルリアは柱の影から姿を現した。彼女はガードマンの目を掻い潜り先んじて忍び込んでいたらしい。
「成る程、隠密技術か」
周囲の貴族はそれに驚いた様だが、ライ・ザップ本人はその登場手段を気に入った様である。
他にも何か戦闘に使える技術はあるか。他の二人はどういう特技があるか。食い気味に聞いて来るライ・ザップやその取り巻きの貴族。
この様な質問攻めに困惑しかけたルルリアであったが、傍らに居たアンナが手慣れた様子で受け答えた。
「今から私の親友、ルルリア嬢との模擬戦を行います。ライ・ザップ様は勿論、他の皆様にも楽しんで頂ける戦いとなる事をお約束致しますわ」
「正面からの戦いは不得意ですが、皆さんを退屈させない模範戦になることをお約束いたしましょう」
ライ・ザップは模擬戦と聞いて嬉しく思うと同時に、目を丸くした。なにせ十五かそこいらの少女二人が模擬戦を行うというのである。彼女の様に年端も行かぬ者達もサーカス討伐の際に活躍したと話に聞いているとはいえ、いまいち想像が付かぬらしい。それはアンナから意味ありげな笑顔を向けられていたビューティも例外ではない。
模擬とはいえ怪我はせぬだろうかと貴族達は声をそばだてるが、セアラがそれを制する様に舞いを始めた。
「わたしは肉体派ではございませんが。カンナギ、神をこの身に降ろす肉体と申し上げればどのようなものか。少しは理解して頂けると信じております」
その動きを見てみれば、成る程。彼女もアンナやルルリアと同年齢ほどだが、その軽やかな動きからは戦いに慣れているという真実味はある。次第に、模擬戦を行う二人の動きも機敏に見えてきた。
「成る程、人は見た目で判断出来ぬという事か。お前もサーカス討伐で活躍したと聞いている」
鼻の下を伸ばしかけながらそう答えるライ・ザップ。ビューティに白い目を向けられているのに気づいて、誤魔化す様に咳払いをしたのち、模擬戦の合図を出した。
合図を出された瞬間、アンナが弾け飛ぶ様にして――イイヤ、「踊る様にして」といった方が正確か――距離を詰めた。そうして水晶剣が収められた鞘を横薙ぎに振るう。
ルルリアがこれを愛銃で受け流した。即座にもう片方の銃を交差させる様にして火炎の魔術を放ってみせる。アンナはすかさず黒い布を盾にする様にして遮断し、そのまま後ろに飛び跳ねる。紅い炎と黒い布が流麗に黒い弧(狐)を描いてみせた。
――あの娘。かなり速いぞ。
――いいや、あの狐の風体をした娘の方も中々……
二人の俊敏さは、模擬戦を期待していた貴族達の目を惹いてやまなかった。当人達の回避技術の高さもあるが、セアラが行った舞の効果も確実にある。
ルルリアとアンナ。実力が拮抗している為か一進一退。何合かの打ち合いで芯を捉える様な打撃はお互いに加えられなかった。
だがしかし、息もつく間もない攻防で徐々に疲労は蓄積していく。最中、アンナが刺突を繰り出す。
「くっ……!」
ルルリアは銃で受け止めようとするが、フェイントを交えた連続突きで調子を崩されてしまう。咄嗟に鉄糸を引いて先手を打とうとするが、その寸前にアンナの構えた鞘がルルリアの首筋をゆったりと撫でた。
勝負あり! 興が乗っていた貴族達は、まるで審判気取りで声を揃えた。
アンナは相手を称える様にして、ルルリアと握手を交わす。セアラもまた、舞を終えて二人に拍手を向けた。
「私は戦場においても強く美しく在りたいと研鑽しております。まだまだ未熟者ですが、その成果を感じて頂けたなら幸いに存じますわ」
「わたしたちは互いに協力しあうことで限界を超えた力を発揮できるのです」
その発言を受けて、ライ・ザップは納得した様に頷いた。
「正直な話、女だと見くびっていたが……イレギュラーズは仲間との連携を活用してサーカス団を討ったという事か」
三人が意図する所は多少伝わった様だが、それ以上話す暇もなく、他の貴族が自分達の顔を覚えてもらおうとルルリア達の元へひしめき合い、矢継ぎ早に会話を並べて来るのである。
対抗する相手が優位になって、やはり面白くなさそうにするビューティであった。
●優しき事は美徳なり
貴族同士の行うのはやはり、見栄の張り合いなのですね。
『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381) 。彼女はライ・ザップとビューティの啀み合いを横目で眺め、苦心めいた感情を抱いていた。
「どうか軽蔑なさらないで下さい。ボク達は見栄を張らねば生きていけない存在なのです」
Lumiliaを迎えに来た優柔のフダンは、そう口にする。意志薄弱な表情からみるにルミリアの心情を察したワケではなく、単なる言い訳めいた予防線なのだろうか。
「そんな事を仰られずに。皆様、歓迎して下さっているのが伝わりますわ」
仲間達の一部始終を見て率直な感想を述べる『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)。事実として、貴族達にはこの幻想を救った勇者に対する尊敬の意は確実にある。……だからこそ、イレギュラーズとの親交を持っている事実とその誇示は彼らにとって有効活用出来得る代物に映るのであろう。
Lumiliaはそれを承知した上で淑やかに振る舞おうと、フダンの言い訳に対して柔らかい笑みを浮かべた。
「御心配なさらず。民衆の上に立つ者として立派に振る舞う必要も理解しています」
そう言われたフダンは、心の荷が降りた様に苦笑いした。そうして二人を中央へ案内して行く。
「皆さん。えー……此方に居ますのが、彼のサーカス団員を討った白き渡鳥のルミリアさんと、牙付きの魔女エスラさんです!」
フダンが彼女達の功績を挙げた瞬間、会場の視線が一斉にそちらへ向いた。
羨望、嫉妬、好奇心。貴族によって様々だが、それらの多くは期待と野心に満ちている様にギラついている。それは白鳥や小鳥を愛でる眼差しではなく、まるで――そう、世にも珍しい御馳走(チキン)を目の前にしたソレである。おそらくは他のイレギュラーズ同様に、愉快な余興と有意義な親交を大いに望んでいるのだろう。
……ならば、自分達の意図する事も間違いではあるまい。Lumiliaとエスラは緊張を抱きながらも、改めて一切の妥協の無い『余興』を提供する事にした。
「私は私の得意なことをします。白銀のフルートの演奏をさせていただきます」
綺麗に丁寧に、荘厳に可憐に。白き渡鳥の名に相応しい振る舞いを心掛けながら、Lumiliaは師から受け継いだ横笛を構える。そうして、恋愛や英雄譚をテーマにした楽曲を奏で始めた。
……まぁ、ステキ。若い貴族からそんな声が漏れる。その類に憧憬を抱いている年代からしてみれば大変心地良いもので、隙あらば野次を飛ばそうと構えていたビューティやライ・ザップが清聴する以上の価値がその音色に備わっていた。
「良い音楽ね。さて、せっかくご招待いただいたのだからあなたもお歌を聞かせて差し上げないと」
貴族達から餓えた獣の様な眼光が失せたのを境に、エスラが喚び出した小鳥は演奏に合わせ囀った。恋愛譚に乗せる白い鳥の声は若い女貴族達の気持ちを尚更擽るのである。しかも、この時間帯に開花する予定の花でも選んできたのか――イレギュラーズが開場に運び込んだ花々が歌に合わせて開いていくのだから。その演奏が天使の囀るものと空想を重ねてしまうのは致し方無い事だ。
まずい、このままではフダンに全部持って行かれる……。ビューティとライ・ザップは流石にそう思ったのか、自分の招待したイレギュラーズに対して慌てた視線を投げた。どうにか食い止めろ、と。
だがこの状況で演奏を邪魔をするというのは、非常に無礼に当たる。下手に割り込めば非難轟々は間違いない。難しい話だ。
「くちゆく さんごの くずれるのがすき くじらの むくろの うたうのがすき ぼくの なまえは カタラァナ♪」
これに対して『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)は、招待主であるビューティの要望を汲む形で伴奏を重ねてみせた。――不思議な彼女の事だから、思惑はもっと別のところにあったのかもしれないが。
演奏者達の代理決闘を期待したのか、突然の乱入に貴族達は清聴を続け歓迎のムードである。それとは別に年少貴族達はカタラァナの目の前に浮いている鍵盤楽器を興味深げに眺めていた。オルガノ? ヴィオリーノ? それとも、もっとおかしな音? カタラァナは演奏を滞らせる事なく、年少貴族達の好奇心を満たす様に鍵盤楽器の音色を様変わりさせた。
Lumiliaはこの七変化紛いの伴奏に対して、即興にも関わらず器用に音色を合わせるのである。まるで互いの良さをそれぞれに高め合える事を主張している様に。
「あらら? 小鳥さん、急に袋に入ったと思ったらうさぎさんになっちゃったの?」
人形師の子供、はぐるま姫もそれに乗った。エスラが機転を利かせ小鳥と入れ替えで大きなウサギを喚び寄せ、人形達はそれを魔物に見立てイレギュラーズがサーカス団討伐を協力して討ったあらましを歌に合わせて貴族達に公演してみせる。
「まぁ、大きな魔物ね。レオン」
「そうだね、お姫様を守らなくちゃ。カルラ」
はぐるま姫を背にして、魔物の前に立ちはだかるレオンとカルラ。後ろでははぐるま姫がその小さな躰で、平穏を、そして彼らの活劇を目一杯の身振り手振りを交えて、紛う事なき姫君の様に語るのだから。たかが人形劇だとバカにするものなど既に居なかった。
「たかいとこから みおろして ひろいのはらをひくいという ふかい うみを みわたして たかいそらはとおいとなげく♪」
一方では芸術至上のビューティが、カタラァナ達の言わんとする事をヒシヒシと感じていた。協力し合えば良き結果になると言い含められたソレに対する共感と、無礼だと断じて止めに入ってしまいたい感情が彼女の胸中に渦巻いている。ライ・ザップとしても、先程の模擬戦の様子から似た様なものである。
無意識に親指の爪を歯噛みしたり、堅苦しく腕を組んでいる最中、アンナとルルリアの両名が自分ら貴族に向けて歌詞カードの様なものを配り始めていた。
「この幻想は大きな危機を乗り越え強い絆で結ばれました。その絆が末永く続くことを願いまして、皆さまも宜しければご参加ください」
演奏が落ち着いた合間を縫う様にして、差し込まれるセアラの言葉。各陣営の者達はこれを断る事も出来ず、はたまた、多くの貴族達は喜んで受け入れた。
セアラ・シズ・ラファティ。カタラァナ=コン=モスカ。彼女らは共に、友好と絆を讃えるものを歌い始めた。奇しくも、『歌声で感情を伝え、想いを動かす者』同士が。
「なんという事か……!」
フダンやライ・ザップでさえもその競演にひたすら喜びの感情が沸いて出た。それらがセアラとカタラァナの感情に由来するものか、はたまた彼ら自身の好奇心が満たされたものか。何にしても、年少貴族や女性貴族達は進んで彼らの歌声に沿う様にして斉唱を繰り広げていた。
アンナとルルリアはこの瞬間が好機と見て再び舞台に躍り出る。
「私は歌が不得手なので舞うのですが、皆様はよろしければこちらを。飛び入りで踊るのも歓迎しますわ」
「皆さんで踊れば、宴は大成功間違いなしです!」
二人にそう促されてしまうと、貴族達はついにその陣営問わずして次々に互いの手を取り始めた。彼らと同じ様に、これから共に踊りを楽しむ為である。
ライ・ザップとビューティは、これらの光景を見て暫く迷った表情をしたのち、決心した様に口を開いた。
「どうだろう。此処は彼らの意に従うのが一番有益ではなかろうか」
「あら、同じ事を考えるとは奇遇ね。汗臭い男は好みではないけれど……お互いの利益の為ならば喜んで」
そんな建前を立てつつも、皆の踊りに加わるのである。
益のない見栄の張り合いに興じるより、互いを認め合いつつ、互いに競い高めあう方が好ましい。Lumiliaは、事が上手く行ったのを確信して微笑んだ。
ナニは踊れど、されど進まず。互いに歩み寄らないその状況を、彼の国王を説得して貴族間を協力させた時の様に、イレギュラーズはまた一つ変えてみせた瞬間であった、
「あぁ、誰を誘おうかなぁ……人形姫もステキだし。ディープシーの歌姫達や白き渡鳥も……イイヤ、人形師の子もよく見てみれば……」
――名は体を現す。優柔のフダンがイレギュラーズの女性陣(一人女性といえるかどうか不明だが)の誰を誘おうかと、妙に長い時間迷っていたのは余談でえある。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
GMの稗田ケロ子です。祝勝会お疲れ様でした。
イレギュラーズの選択によっては、全力で勝ち負けを競う事やどれかの陣営を優遇する未来も有り得ましたが、社交界の場においても皆様の行動によって、再び貴族間で協力意識も芽生えた様です。あとがきで各陣営の優劣を語る事は、もはや野暮なのかもしれません。
皆様スキルに関して、貴族らの注文に適ったものが数多く揃っていて、GM自身とても驚きました。
フレーバー的な余談でございますが、芸術を生業としている方々はこれから貴族達から個人的な公演依頼が度々届いてくる事でしょう。その公演依頼はロールプレイ材料の一つとして、どういう対応をしていくかは皆様各自にお任せします。
また、以下の方々には貴族達からの呼び名(あだ名)という体で称号が付与されます。
称号:
『軋むいのちと虚ろなこころ』はぐるま姫(p3p000123) ⇒『儚き花の』
『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250) ⇒『名無しの人形師と』
『flawless Diva』セアラ・シズ・ラファティ(p3p000390) ⇒『神和ぎの歌姫』
『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390) ⇒『ディープワンの歌姫』
GMコメント
GMの稗田 ケロ子です。今回は分かりやすい貴族同士の見栄の戦いを一つ。
成功条件:
1.『招待客として滞りなく振る舞う事』
社交界を敢えて台無しにするなどの行為がなければ、依頼上は成功となります。
ただ、ある程度の貴族間の拮抗が保たれてないと敗北を喫した貴族は不機嫌になるでしょう。たとえいずれかが勝ち負けするとしても、彼らの面目は保つ必要性は見受けられます。
NPC情報:
『美を重んじる貴族 ビューティ』
美学を重んじる意識高い系女性貴族。19歳。
彼女は、イレギュラーズに見栄えや物珍しさなどを期待しておる様です。例をあげればダンスや会話などで他の貴族を魅了したり、などがあります。
主に話術関連や魅力・見た目に関する事などの非戦スキル、ギフトなどを使いこなすと喜ばれるかもしれません。
『筋肉主義のライ・ザッブ』
クッッッッッ…………ッソ、暑苦しい戦闘好きなマッチョ貴族。筋肉バカ。36歳。
戦闘関連のパッシブ、肉体美を魅せられる非戦、あるいはイレギュラーズ同士の模擬戦闘を期待している様です。純粋に戦闘能力が高い者同士が模擬戦闘を行うと喜ばれるかと思います。
(模擬戦闘を行った場合はあくまで簡易的な模擬という事で殺傷能力のある武器は用いませんが、システム上ステータスの値は結構忠実に参照されます)
『優柔のフダン』
柔らかい物腰ながらも、消極的な態度が目立つ青年貴族。21歳。
彼はなるべく社交場が穏やかである事を望んでおり、料理や歌唱など、それら社交場に出せる演目を望んでいる様です。
他の二人の事はともかく、自身が招いたイレギュラーズが自分達を楽しませて欲しい。あわよくば、ボクも見栄を張りたい。それが彼の希望です。
補足:
行動やスキルの使い方によっては、明記されている情報以外にも有効なものがあるかもしれません。
また、上記の通りよほどの事が無ければ失敗扱いにはならない為、敢えてどの貴族を優遇・不遇にするかについてもある程度気楽にやっていただいて構いません。
あと龍之介君はお留守番です。
Tweet