PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>水平線の先へ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 吹き付ける風は冷たく肌を突く。
 見渡す限りの海岸は美しくきらきらと陽光を反射していた。
 その光景に思いを馳せていた君は、ひとつ深呼吸する。
 天義の南、海を進めばやがて海洋の近海諸島へ到る海岸線の一角にその町はある。
 その町は海岸線の向こう側、そこにある海洋王国の近海諸島と手を組んで、海水浴場を開いていた。
 往時、天義においては不正義とまではいかぬものの睨まれていたこの町は、近年になってその人気を増しつつある。
 近年――あの大魔種との戦いの後、変革の時を迎えてからのことだ。
 町の中は活気に満ち溢れ、泳ぐことこそないものの、海辺はそれだけで観光スポットとして栄えつつあった。
 南国ならざる海辺だからこそ感じる、冷たさを帯びた冬場の海は、それはそれで心地よい。
「なかなか来られないけれど、海の景色もいいものね」
「ええ、キラキラと輝く水面が美しいですね」
 カップルらしき2人組が語り合っているのが横目に見える。
 天義の聖職者なのだろう。男の方は神官を思わせる雰囲気がある。
 幸せそうな2人に思わず微笑ましさを覚えながら、君はその場を後にした。


「きゃぁああ!?」
 波打ち際まで歩み寄っていた1人の少女がそんな悲鳴と共に腰を抜かす。
「アリアナ――! 逃げろぉ!」
 叫ぶのは、彼女の視線の先にいる青年だった。
 その背中は、嫌に巨大化した鰐のようにも見える生き物に食いつかれている。
 そのサイズは大きく、食いちぎられた彼が子供にみえるほど。
 何よりおそるべくは、そんなケモノがのたうつようにして食い散らかす海岸線が、瞬く間にモザイクへと移り変わっていく様である。
「ディノ――」
 少女が手を伸ばすその先で、青年がモザイクへ飲まれた直後――アリシアは別種の恐怖に表情を引きつらせた。
「化け物ぉぉ! た、助け――」
 先程の青年のことなど完全に失い、アリシアはこちらに向かってくる巨大な鰐のような化け物への恐怖で絶叫する。
 抜けた腰で慌てて動き出そうとした少女は――しかし、脚を食らいつかれ、引きずられてモザイクへと消えていく。
 強襲的に開始された海岸のモザイク化は、砂浜を覆いつくした後で停止する。
 塗り替えられた海辺――到着した正義の聖騎士たちは、『その目には何も見えぬように思える』海岸線に首をひねるばかりであった。

――――――
――――
――

 吹き付ける風は冷たく肌を突く。
 見渡す限りの海岸は醜くちらちらとモザイクに反射している。
 そう、ここは天義ならざる天義――ROO世界に再現された、小さな海辺の町。
「なかなか来られないけれど、海の景色もいいものね」
「ええ、キラキラと輝く水面が美しいですね」
 どこかで聞いたことのあるようなやり取りを聞きながら、君は海辺を睨む。
 静かに砂浜を打つのは、波の音。
 だが、眼を閉じて耳で愉しみ、眼を開ければ広がるのはモザイクのドームであった。
 美しき水平線はおろか、砂浜をも覆いつくした巨大なモザイクドーム。
 カップルたちには見えていないのであろうその光景は、まさしくもってワールドイーターに食い散らかされたそのものだ。

 美しき海は見渡す限りをモザイクに侵された。
 砂浜をも包み込んだこのモザイクは、近い将来、再び浸食を開始する。
 そうして、その時には今立つこの町そのものまで覆いつくす、巨大なドームへと変貌する。
 それが、『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』によって見出されたこの町の未来だった。
 ROOにおける天義こと『正義』は精強なる騎士団を抱えた大国。
 それを影ながらに浸食した災害じみた『ソレ』はワールドイーターと呼ばれる怪物たち。
 世界そのものを『食らい』塗りつぶしていく存在。
 幸いながら、彼らに塗りつぶされた世界は、『核』となるワールドイーターを撃てばこちら側に戻るという。

 ――『lost fragment』イベント開催中! お楽しみに!

 何度見てもおちょくったような、その文言に抗うように君達は戦わない手はないのである。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 海辺の町を救いましょう。

●オーダー
【1】『コキュートスの影』の討伐


●フィールド
 一面が凍結した海です。
 一応、かなりの分厚さを持っているようですが、
 あまり強く暴れすぎると割れてしまうかもしれません。
 もしも氷が砕けた海の中に落ちてしまった場合、【泥沼】【凍結】のBSを受けてしまいます。

●エネミーデータ
・コキュートスの影
 真っ黒の身体の所々がモザイクに侵されたような、5~6mはありそうな鰐っぽい化け物です。
 非常に素早く、強靭な顎と硬いうろこに覆われ、その口からは凍気が漏れています。
 尻尾や体、顎を使っての物理攻撃の他、
 口から凍気を吐き出して扇状に広がり【凍結】系のBSをもたらす攻撃も行います。

・凍土の幻影×6
 空を飛ぶシャチのような謎の生物です。コキュートスの幻影配下のエネミー。
 コキュートスが消滅するとこちらも消滅します。
 非常に高い物攻を持ち、強靭な顎を用いてかみ砕くような攻撃を行ないます。
 また、意図的に氷に向かって体当たりを行なう個体もいます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <lost fragment>水平線の先へ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
シャドウウォーカー(p3x000366)
不可視の狩人
ヨハンナ(p3x000394)
アガットの赤を求め
グレイ(p3x000395)
自称モブ
マーク(p3x001309)
データの旅人
エイラ(p3x008595)
水底に揺蕩う月の花
Λ(p3x008609)
希望の穿光
アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ

リプレイ


 モザイクを越えて足を踏み入れたそこには、一面の氷があった。
 水平線のずっと向こうまで広がる凍てついた大地――そうとしか見えない凍結した海が、陽光に反射してちりちりと光を生む。
 呼吸が白く染まる凍土に染められた海。
 それがモザイクの向こう側に広がる今回の戦場だった。
 『ソレ』は絶えず口から冷気を零し、その冷気が海を瞬く間に凍らせていく。
『ゴギャァァァ!!!!』
 こちらを視認すれば、ソレは天に雄叫びをあげて己が強靭な顎を海へと叩きつける。
『キュゥゥゥ』
『キュィィィィ』
 それを聞きつけたかのように、空を泳ぐシャチのような生物が互いに鳴き、意思疎通しているような様子を見せる。
(んー、ぺんぎんさんならぬぅくらげさんだけどぉ。
 中々にホラーなことになってるようだからねぇ。
 恐怖にはぁお引取り願うんだよぉ)
 その光景を見てのんびりと揺蕩うように『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)は動き出す。
 それでもその動きと対称的にその動きは戦場で最速。
 ぽ、ぽ、ぽ――エイラの周りに幾つも浮かぶ小さなくらげ型の火の玉が、戦場を飛ぶ。
 それはまるでゆらゆらと彷徨うように進むそれは、その速度と雰囲気からは想像できぬ速度で空を泳ぐ。
 同様に空を泳ぐように進んでいるシャチめがけて、火の玉が炸裂する。
 速度と雰囲気の異なる火の玉は感覚をバグらせ、シャチたちに混乱を呼び起こす。
『キュィキュィ』
 攻撃を受けた2体のシャチが鳴きあって、海を泳ぐようにエイラへと近づいていく。
「すご……海がずっと向こうまで凍ってる、っと関心してる場合じゃなかった」
 広がる光景に思わず関心を寄せた『不可視の狩人』シャドウウォーカー(p3x000366)は我に返るとダガーを抜いて。
「見るからに気持ちの悪いモザイクだね、せっかくの景観が台無しだよ。
 あんな奴らにこれ以上何も食わせたりしない」
 インビジブルで自身の気配を極限まで落とし込み、電流を帯びるダガーと共に走り出す。
 影を置き去る幻影の如き速度で、漆黒の身体をモザイクに冒されたワニのような化け物――『コキュートスの幻影』の横に回るように。
 片手のダガーをシースに収めると同時に抜いた小型拳銃の引き金を弾いた。
 連続で撃ちだされた弾丸が、幾度にも渡ってコキュートスの身体へと食い込んでいく。
 思ったほどにダメージを受けたように見えないのは、その硬い鱗のせいか。
『ゲェゲェ』
 叫ぶコキュートスの身体が揺れて、黒がシャドウウォーカーの視界を覆う。
 横からの尋常じゃない衝撃を感じて、尻尾で薙ぎ払われたのを理解した。
「……本来なら此処はさぞかし絶景なのだろうけど……いやはや見るに堪えない状態だね此れは。
 再浸食が始まる前にワールドイーターとやらにはご退場願わないとね~」
 空を走り行く『黒麒』Λ(p3x008609)はワールドイーターの横へ付けるように進んでいく。
「このサイズはちょっとした怪獣よね~」
 敵のサイズの関係上、ほぼ視線と交差する位置に目があった。
「まぁ、でも……先にあっちをどうにかしようかな」
 視線を滑るように横へ。
 こちらへ近づいてくるのは、エイラが引き付ける位置にいなかった4体のシャチのうちの2匹。
 悠々と海を泳ぎながらこちらへ移動するその敵へ、腕を伸ばす。
 黒鉄の掌に開く射出口。
 放たれた弾頭は煙を上げながらシャチの片方へと炸裂――爆発を起こす。
 爆風と炸裂した弾子がもう片方のシャチをも巻き込み、内側に秘めた呪印を2匹へともたらした。
『キュキュイ!』
 体勢を崩した2匹が、動きを鈍らせながらもΛの身体に食らいつく。
「海が凍るだけならまだ風情がありますがこのようなモザイクがかかっていてはとても景色を楽しんだり出来そうにありませんね」
 戦場の景色を眺めて、『アイス・ローズ』アイシス(p3x008820)は呟いた。
「イベントとか詳しいことは分かりませんが、
 私に出来ること歌うことである以上、この海に私の歌を響かせてみせますわ」
 そう言うアイシスの周囲がパキパキと音を立てながらその姿を変えていく。
 一面を覆いつくす数多の氷が姿を変えて、アイシスのステージへと変質を遂げる。
「では、アイシスの生ライブ――オンステージですわ。
 さぁ、私の歌を聞いて行きなさいな」
 それは聞いた者の背中を押す歌。
 美しいBGMがどこからともなく響き、あたかも特殊ステージへと組み替えられたように、美しき歌が戦場を包み込む。
 踊るシャチが空を泳ぎ、突っ込んで行く。
『キュゥァ! キュキュゥ』
 自らの身体を用いた大胆な体当たりが、ちょうど動き出そうとしていた『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)へと叩きつけられる。
「どうやら、まずはうぬらのようだな」
 巨体による体当たりと身体への噛みつきを受け、ヴァリフィルドの瞳が感情を見せる。
「ガァァァァ!!!!」
 咆哮が氷を割らんばかりに響き渡る。
 その咆哮は食らいついたシャチと、体当たりの後に悠々とヴァリフィルドの周囲を泳いでいたシャチの感覚を揺さぶったようだ。
『キュゥキュゥ――キュゥウゥ』
 2匹は苦しむように鳴き声を上げれば、その意識をよりヴァリフィルドへと向ける。
「無かった事にされる、忘却される。
 ある意味二度目の死を与える存在は本当に恐ろしい……
 仮想世界ではあるけど、目の前のリアルは放っておけない」
 幸いにして、ワールドイーターを打ち倒せば、食われた者達は戻ってくるという――が。
 『ハンドルネームは』グレイ(p3x000395)は滑るように戦場を走り出す。
 尾を薙ぎ払って雄叫びを上げるワールドイーターの顔の正面へ。
「よっ……!」
 踏み込み、跳躍して、コキュートスの下あご辺り目掛けて突撃。
 突き刺さるように蹴りを叩きつけてから、そのままそこを足場に元の場所へと戻っていく。
 まだ無傷の今はまだ感触が鈍い――だが。
『ガァ! ガァ!』
「……早くかかってこいよ、オイ」
 叫び、こちらを睨むようなコキュートスの姿を見れば、それで十分だ。
「海そのものが、ワールドイーターになってしまったようにも見えるね」
 パキパキと凍てつく大地に『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)は、思わず呟く。
(きっとこれもピエロ達の仕業なのだろうけど……今は一つずつ、発見されたワールドイーターを倒していくしか無いか…!)
 コキュートスの周囲へと近づいていく。
 黒い身体は鱗に覆われて非常に頑丈なことは仲間達の攻撃を見て充分理解していた。
 踏み込み、振り下ろした斬撃がコキュートスの鱗を削りながらその柔らかい肉へと刃を立てる。
 綺麗に撃ち込んだ斬撃は容易くその切っ先を肉に入れるが、無傷の今ではまだその真価を持たない。
(ワールドイーター…世界を喰らう者、か。
 俺は美しい物語が好きなンだ。モザイクだらけの悪趣味な光景は好きじゃない)
 ゆらゆらと輝く炎を空気に靡かせながら『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)は術式に己の血を垂らす。
「だからまァ、助太刀する理由は──それだけで十分だろ?
 ――バッドエンドは御免だ」
 滴る血が一雫。
 立ちのぼるは憤怒。煌々と燃え盛る炎はその身に宿る血を食らい、痛みを宿す。
「お前が世界を喰らうなら、俺はお前の命を喰らうだけだ――」
 たなびく焔はヨハンナの青い瞳を赤く染めて、戦場を飛翔する。
 放物線を引きながら、コキュートスの身体を焼きはらう。
 堅牢な鱗を焼き払い、柔らかな肉へとダメージを加えれば、痛みからかコキュートスの動きが鈍る。


『ゴギャアア!!!!』
 化け物が雄叫びを上げて、その巨体をぐるりと一周させた。
 接近していたイレギュラーズ全てへ一斉にその黒い尾を叩きつけ、破壊的な物量で攻撃を加えた直後、その大きな顎がヴァリフィルドめがけて開かれる。
 強靭な顎の一撃がヴァリフィルドの強靭な肉体を貫通して傷を刻む。
「体躯自体が武器ってコワイコワイ」
 苦笑していたΛの表情がすぅ、と真顔に戻る。
「まぁ、でも。ボクもそうなんだけど」
 四肢に纏うは虚無の刃。
 空を蹴り、切り裂くように、滑るように走り抜けて進路上に『ある』コキュートスを切り刻む。
 それは舞い、狂うように踊る高速の連撃。
 その身に刻まれた傷の分を力に変えて、敵の生命力と精神力を食らい、鱗を粗削りして肉体を切り刻む。
 アイシスは2度目の氷雪乱舞を歌い終えた後、呼吸を一つ。
 戦場を作り変えた彼女のライブ会場は絢爛そのもの。
 氷上のステージはそれゆえに、敵の領域を自分の物にした。
「さぁ――アンコールを戴いたところですし、まだまだ盛り上げていきますよ!」
 アイシスの視線の先には、6匹のシャチと踊るエイラの姿。
 その身体はシャチたちの猛攻によって削られつつある。
 エイラの持つ強靭な生命力と防御性能をもってしても、サポートなしでは沈んでいるだろう。
 歌うのは癒しをもたらす穏やかに包み込むような優しい歌。
 聞いたものの疲れを取り除き、優しく導くような歌に、エイラの身体に刻まれた傷が癒えていくのが見える。
「先はよくも……我を食らうとは身の程を知るがいい」
 食らいつかれた身体を見下ろして、ヴァリフィルドはコキュートスを見た。
 音を立てる暴食の竜は、その強靭な顎を以ってコキュートスへと食らいつき、犀利な牙を以って切り裂く。
 バキバキと食らいつきコキュートスの身体を貪れば、大きな隙が生み出される。
 その隙を見逃す愚かなヴァリフィルドではなく、追撃とばかりにもう一度喰らいついた。
 巨大な鰐と竜が食らいあう様は、さながら怪獣決戦のようですらある。
 聖剣カサンドラの輝きが鮮やかに輝いている。
 グレイはカサンドラを構えるや、一気に走り出す。
 コキュートスの顎の下、跳躍して、思いっきり殴りつけるようにカサンドラを振り下ろす。
 打ち込まれた斬撃はかがやく聖剣の光を以ってその威力を増し、強烈な一撃となってその肉体を抉り払う。
 勢いを殺すことなく着地と同時、グレイは先程の傷口めがけてカサンドラを投擲する。
 刃が真っすぐにコキュートスの肉に突き立つのと同時にそれを引っこ抜いて元の位置へ。
「……これぐらい減ってくればそろそろ痛くなってくるんじゃない?」
 そういうグレイのHPゲージは赤く染まり、ミリを見る。
「今の僕は訣別の騎士だ。守護の剣を振るう聖騎士だ。
 だから――そう『らしく』やってみせる」
 盾を一度手放して――マークは剣を握る。
 両手で握りしめた剣が美しくも禍々しいオーラを抱き、刃がキレを増す。
 跳びこむようにして突っ込むマークの身体の傷は深い。
 その光は受けた傷。その光は守護を為せた数。
 踏み込み、鮮やかに光り輝く剣を振り抜いた。
 真っすぐに振り下ろす動作は幾度となく繰り返したがゆえに洗練され、切り刻んだ鱗の奥まで浸透して削り落とす。
「そろそろ終わりか?」
 描き出された魔方陣を前に、ヨハンナは静かにコキュートスを見る。
 堅牢な防御性能を物ともせず、絶大な火力を以って撃ち込まれる連撃に、コキュートスの身体は傷が多く。
 表示されているHPゲージは既に10分の1程度まで落ちている。
 陣へと垂らした血が浸透して輝きを放ち、緋色に色を取る。
 溢れ出す焔は2つ。
「――汝、命を喰らう者なり。いざ獲物を呑み込め」
 憤怒が2つ。
 放たれた炎弾は互いに交差するように渦を巻きながら空を舞い飛翔する。
 1つ目の炎がコキュートスの守りを貫通して焼き払い隙を生んだ直後、間髪入れずにその隙を2つ目の炎が焼き付ける。
 連撃が再び大きな隙を作り出す。
「うーん……さすがに6匹もいるとぉけっこういたいねぇ」
 ふわふわとうかぶエイラの傷は深い。
 もしもアイシスの歌による支援が無ければ、今頃落ちていてもおかしくはない。
 聞こえてくる歌はエイラの傷を癒してくれる。
「でもぉ……エイラぁお仕事重大ぃ……がんばろぉ」
 青の印象が強いエイラの身体が紅に輝き、その身を傷を負うよりも前の状態へと引き戻していく。
 クラゲ火をシャチたちへ叩きつけながらも、ふわふわと踊る。
 攻撃を受けたシャチたちが、一斉にエイラを喰らわんと襲い掛かれば、食らいつかれた部分から電気を流す。
 バチリとなる電気が鮮烈に輝き、エイラとシャチで構成された空間そのものが眩く輝いたようにさえ見える。
「図体がデカいからって、切り裂けないと……思わないでよねっ!」
 シャドウウォーカーはコキュートスのHPゲージが赤く染まっているのを見て、一気に加速する。
 右手に握るダガーが禍々しく紫色のオーラを纏う。
 それは毒性を帯びたSw固有武器。
 最短最速の挙動から生み出される継続ダメージが高い安定性を持つ長年に渡って親しまれた脅威の武装。
 踏み込みと共に斬撃を撃ち込み、駄目押しの毒をコキュートスへと撃ち込み。
「リーパーズ――フィンガー!」
 それは逃れられぬ断絶、一撃離脱を為す神速の斬撃。
 必中を以って、堅牢なる防御を掻い潜り死をもたらす神速斬撃。
『グガァァァア!!』
 おたけびをあげたコキュートスが口に冷気を集めていく。
 吐き出された冷気が戦場を扇状に広がり凍てつかせなおし、同時に撃ち込まれた物の身体を凍り付かせていく。
 しかし、凍気への耐性でイレギュラーズはそれに耐えきった。
「サクッと終わらせてしまおう」
 呻くコキュートスへ、Λが動く。
 両の腕を前へ突き出し、合わせるようにすれば、そこへ砲口が姿を見せる。
 そこへ魔力素がグルグルと渦を巻きながら集束、砲身へ形成された弾頭へ収斂。
 飽和を果たした瞬間――砲撃が戦場を疾走、砲撃がコキュートスの身体を貫いた。
「よし――いける」
 いよいよ危険域と呼べる辺りまで減少したコキュートスのHPゲージを見ながら、マークは剣を握りなおす。
 深呼吸して気持ちを落ち着ける。
 自分が出来ることなど、たった一つに過ぎぬ。
 仲間を守り、攻める時はただ剣を持って、ただ剣を振り抜くだけ。
 それだけで十分なのだ。
 振り抜いた剣閃が、静かにコキュートスの尾を切り落とす。
「うぬの負けだ」
 ヴァリフィルドは短く告げ、口のデータを収束させる。
 食らい続け、ため込んだ膨大なデータを口の中で圧縮を繰り返し、コキュートスへと食らいついた。
 噛みつきと同時、圧縮され続けたデータが暴発――コキュートスの身体をクラッシュさせ――復帰することなくその身体が分裂、崩壊していく。

 ――ドームが晴れていく。
 本物の空が顔を覗かせ、足元が母なる海へと戻っていく。
 シャチたちはその場で動きを止めると、モザイクに分裂して消滅していく。
 声がして振り返れば、砂浜に人々が帰ってきていた。

成否

成功

MVP

アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPは支援能力と共に敵へのある種のメタを持っていた貴女へ。

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