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シナリオ詳細

小芝居しないと進めないダンジョン~青春編~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●小芝居しないと進めないダンジョン
 そこは幻想で最近発見されたダンジョン。
 奥には素晴らしい宝があるとされながらも、誰もクリアできないでいた。
 その理由は、そのダンジョンのギミックにあった。
 そして今……ダンジョンギミックをクリアできなかった敗者たちがダンジョンの外に射出されてくる。
「ぐあー!」
「うおおおお!」
 スパーン、とダンジョン外に怪我1つなく排出された男2人だが……悔しそうに地面を叩く。
「くそっ! そんなにたくさん青春小芝居なんか出てくるわけねえだろ!」
「そもそも青春してたらこんなダンジョンに来てねえしよう……!」
 中々苦労しているようだが、ダンジョンギミックはその辺りに忖度してはくれない。
 再挑戦するか、帰るか。2人に出来るのはそれだけなのだ。
「おい、ジョン。さっきのテンションでもう1回いけるか……?」
「無理っす。かなりゾーン入ってた気がしますし、さっきは」
「だよなあ……」
「次やったら白ける自信ありますぜ」
 2人の男達は顔を見合わせると、溜息をついて立ち上がる。
「……帰るか」
「ええ。もっとマトモなダンジョン探しましょう」
「つーか、前にも似たようなダンジョンあったよな」
「なんで来ようと思ったんすか」
「お前が止めねえから……」

●小芝居しろってことだよ、青春系の
「というわけでダンジョン探索の依頼です」
 チーサ・ナコックはそう言うとダンジョンの資料を取り出した。
 正式名称は不明。
 愛称は「小芝居しないと進めないダンジョン~青春編~」だ。
 前に「恋愛編」があったが似たようなギミックのダンジョンが本当にあったらしい。古代人怖い。
 ちなみにこのダンジョンの情報を掴んできたのはヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)だ。
「なんで見つけてきちゃったですか?」
 真面目な顔で問いかけるチーサから、ヴィクトールはスッと視線を逸らす。
 しかし、見つけてしまったものは仕方ない。
「ルールは簡単で、部屋に入った後に青春をテーマにした小芝居をする。2人1組でも3人1組でもいいらしいです」
 必要なのは芝居にかける「熱」……つまり演技だ。
 それを部屋の古代機械が判定し、クリアすれば次に進めるという仕組みだ。
「必要な芝居数は不明ですが……ま、前回を考えるに芝居の熱量次第だと思うです」
 芝居自体も難しいものではなく、本当に小芝居で良いらしい。
 青春をテーマにしてさえいれば友情でも恋愛でもスポーツでもなんでもいい。
 何気に「恋愛」も入る辺り危険な香りがするが、今回は青春なのでたぶん大丈夫だろう。たぶん。
 ただし、奥に進めば進むほど熱量の高い演技が必要になってくるだろう。
 恥ずかしがらずにそういう事を出来る度胸が大切ということだ。
 失敗したらダンジョンの外に射出されるが、再挑戦は可能だ。
 また熱量が足り無さそうだな……と思うなら演技の追加なども可能だ。
 これぞ青春と一撃で分かるような、そういうのである。
 無論、それは最後の手段ではあるだろうが……そういう手もあるということだ。
「無事に奥にある宝を手に入れれば完遂です。ま、頑張ってくるですよ」

GMコメント

まさか続編希望のアフターアクションがくるとは。
そんなわけでヴィクトール=エルステッド=アラステアさんのアフターアクションに伴うシナリオです。

そう、小芝居しないと進めないダンジョン~青春編~です。
チームを組んで青春系の小芝居を実施しましょう。
プレイング全部を内容と相手で埋めてOKです。
互いにNGシーンを打ち合わせてプレイングを決めると良いと思います。
なお、相手が見つからない悲しい子はチーサを拉致できます。ちゃんと適宜合わせてくれます。

ちなみにですが、無理矢理突破しようとした場合には古代ゴーレムが現れます。
無茶苦茶強いので、無理矢理突破はしない方が無難でしょう。
一応こんな感じです。

・無粋な奴をぶっ飛ばす古代ゴーレム
全長10Mの謎金属製の古代ゴーレム。
ゴーレムパンチと範囲攻撃のゴーレムビームを使います。
もうとんでもない強さです。

一番重要なのは「最後の部屋」なので、そこの担当はしっかり決めておいた方が良いでしょう。
なお、お宝は「各演技の激熱シーンを激写したクリスタル板」です。
破壊不能のすげーやつです。思い出は永遠に……。

それでは、皆様の熱い演技をお待ちしております!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 小芝居しないと進めないダンジョン~青春編~完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ
観音打 至東(p3p008495)
エーミール・アーベントロート(p3p009344)
夕焼けに立つヒト
緋翠 アルク(p3p009647)
知識が使えない元錬金術師

リプレイ

●ダンジョンを進め
 小芝居しないと進めないダンジョン~青春編~。
 これがダンジョンの名前である。マジである。
「改めて思うと参加する依頼間違ってたんじゃねぇかな……」
 そんな事を言うのは『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)だ。
「芝居なんてあんま経験はないんスけど、上手く出来んのかなー……このダンジョンを作ったヤツもマジで何考えてんだ。しゃーない、腹くくって行くっスか」
「また見つけてしまったダンジョンですし、青春というのもわかりませんがやってみましょうか、此度はチル様もいらっしゃいますし……卒業式、ですか。まあやってみましょうか」
『決死防盾』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は2度目ということもあり、かなり余裕があるようだ。
「ええ、学園モノが青春っぽいのではないかと。何事も挑戦ということで、とりあえず楽しむことにします」
「観音打至東、小芝居に燃えています! JKとか実は憧れでした!」
 ヴィクトールが卒業式……と言ったがなるほど、『夜空見上げて』クロエ・ブランシェット(p3p008486)の発言からして学園モノを青春として定義したようである。
『Anonym Animus』観音打 至東(p3p008495)も燃えているようだが……確かに希望ヶ浜学園の存在を思えば、JKに憧れる者がいるのも理解できる話ではあった。
 ちなみにクロエの腕にはチーサ・ナコックが抱えられている。どうやら配役として捕まったようであった。
「青春ねえ……本で読んだものでも良いです?」
(研究所の実験体みたいなものだから青春を謳歌したことはないんですけどね)
「青春。割と閉ざされた環境で生きてきたから、無縁でな。想像でなんとかカバーだ」
『夕焼けに立つヒト』エーミール・アーベントロート(p3p009344)が暗い雰囲気を纏えば、『知識が使えない元錬金術師』緋翠 アルク(p3p009647)も似たような雰囲気を漂わせる。色々と似た者同士なのかもしれない。
「うん、準備は良さそうですね」
「ああ。それじゃ……突入するか」
『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)に『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)が頷き、扉を開く。
 此処から先、要小芝居。それが……このダンジョンのルールである。

●これが僕らの小芝居
 スポットライトが、葵と至東に当たる。
 配役としてはプロ選手を目指すため無茶をする弟の葵と、それを見守る至東って感じであるらしい。

 毎日夜遅くまで練習する葵を心配しながらも、至東には遠くの木陰から見守ることしか出来てはいない。
「夢のためって、知ってるから……」
 だから、至東は葵を強くは止められない。
 見守ることくらいしか、出来ないのだ。
「せめて……練習の手伝いはできなくても、そばにいてあげたい。苦しさをぜんぶ、理解してあげたい……」
 葵が自分を鬱陶しがっているのも、当然知っていた。
 けれど、自分の気持ちに嘘をつくことも……葵にはできなかったのだ。
 そして……当然だが、葵も至東が自分を見守っていることを知っている。
「心配はすんなっていつも言ってるのに、それでも木陰からコソコソ見てきやがる」
 練習の手を止めて、葵は軽く汗を拭く。
「さすがにもう我慢出来ん、今日は強めに言ってやる」
 とはいえ、今すぐではない。
 部活終わりに姉貴と二人きりになったら話を切り出してやる、と。そう決意する。
 あー緊張してきた……などと呟くが、それは如何なる感情がもたらすものなのか?
 ……そして、部活の終了後。葵は至東に詰め寄っていた。
「葵君? ……ひゃっ!」
 ドンと、木に突かれる手。至東は、自然と葵に追い詰められていた。
「今日も見てたろ、友達からきいたぞ……マジでいい加減うっとおしいんだよ姉貴!」
「そ、わた、私そんな、葵君を困らせるつもりじゃ……」
「自己管理くれぇ出来るから心配いらねぇって何度も言ってるだろうが!」
 オロオロした様子を見せながらも、至東は葵の目をちらりと見る。
 そして、こう思うのだ。
 ……自己管理。うん、できてないなあ葵君。
 人が見ていない所だけど、『おねえちゃん』に『八つ当たりし/甘え』てくれるなんて。
 それがわかって、少し安心します。でも、これは口には出してはいけないこと。
 男の子だもんね、葵君。
 そう、だからこそ……至東は葵には触れない。
 ちょっとだけ背伸びして、葵の頬に手を触れて。
「葵君の夢は、私の夢だもん。誰に何を言われたって、私は見守るよ? ぜったいに。そんな自分を止められないのは、葵君も一緒でしょ? それでも葵君が、止めてほしいって言うなら……」
 そう微笑む至東に、葵は何も言えはしない。
 分かってはいたのだ。自分が言ったのは相手のことを考えずに自分の気持ちだけ押し付けた、ただの子供のワガママじみた暴言だということを。
 本当は感謝の一つも口にすべきであることも、葵は分かっている。
 だから姉貴の……至東の熱意に押されて、葵は折れる。
「もーいい、オレは知らん好きにしろ……ありがとな」
 そして……至東も、自分のソレが卑怯な物言いと知りつつ、弱みを見せてくれた葵に応えます。
 頬に触れていた手は、もう少し背伸びして頭に。
 いつかしたように、軽いなでなでを。
 仲の良い姉弟の、そんなちょっと素直になれない姿が……そこには、あったのだ。
 パンパカパーン、と。部屋全体が明るくなると同時に扉が開く。
 そして当然のように、そこには舞台が存在する。
 向かうのは……エーミールとアルク。2人の設定は学生。そして此処は購買である。
 その購買に並んでいるのは、焼きそばパン。
 ソースでたっぷり味付けした焼きそばに紅ショウガを乗っけて、パンに挟んだ……まあ、そんな代物だ。
 大抵の学生には好評な代物で、この学園でも当然のように大人気だ。
 しかしどうやら、その焼きそばパンを巡り、ひと悶着あったようである。
「炭水化物を炭水化物で挟んだものが美味いわけがないだろ」
「何言ってるんですか!? こんな夢みたいな食べ物なのに!」
 そう、アルクには焼きそばパンの魅力が理解できない。
「いや、思ったことを言っただけなんだがな」
 どうも癇に障ったらしい、と歩くは困惑する。
 しかしエーミールにはどうにも許せない。
 食べたことがないけれども、こんなに人気でこんなに素敵な食べ物なのに。
 なのに、アルクは全く歩み寄る気配を見せないのだ。
 だからこそ……気付けば、胸倉を掴んで殴り掛かっていた。
「わからずや!」
 殴られたのだとアルクが気付いたのは、殴られたあと。
 よろけて……そして、当然のように殴り返す。
 購買前はアルクとエーミール、2人の殴り合いの場と化して。
 しかし……そのうち理由すら忘れて、気が付いた頃には互いに肩を並べうずくまっていた。
 殴り合いの勝敗は、ついていない。
 けれど、殴り合っていたら……自然と馬鹿らしくなってしまったのだ。
 だからこそ、どちらともなく笑いだして。
 他の人が逃げてしまった購買で、アルクとエーミールは仲良く焼きそばパンを購入して。
 そして、早速エーミールがかぶりつく。
「んん……炭水化物と炭水化物の暴力……最高!」
 エーミールの表情は、とても幸せそうで。
 その様子を見ながら、アルクも焼きそばパンにかぶりつく。
 その味は、想像していたよりも美味しくて。
「なんだよ……案外いけるもんだな。焼きそばパン」
 アルクの感想に、エーミールが笑って。
 アルクも自然と笑いだす。
 いつかこの日の事を思い出す時も、きっと笑うのだろう。
 そんな……青春の、1ページ。
 パンパカパーン、と。再びファンファーレが鳴り響き扉が開く。
 ちょっとまだエーミールが焼きそばパンを食べ終わっていないが、次のステージである。
 そして3つ目。禁断の恋編と名付けられたそれを演じるは、ヴィクトールと未散だ。
 舞台は、教室。
 今日この日は、卒業式だ。
 朝の爽やかな風が、ヴィクトールと未散の二人きりの教室に吹き渡っていく。
「ヴィクトールせんせ、今日でぼく卒業ですけど――……一年生の夏の合宿の時、仰って下さった事。覚えていますか?」
 そう、それは遠い……けれど、今も色あせない未散の思い出だ。
『好きです、せんせーが。ぼくの事お嫁さんにしてくれませんか』
『では、其の気持ちが卒業まで持続するなら。考えましょうか』
 交わされた、そんな言葉。
「あれはまだ有効で? ぼくの気持ちは、結局何ら変わらなかったから」
 此れでもぼく、結構モテたんですけどねえ、と未散は笑う。
「入学式の時一目惚れして。ずっと。ずーっとせんせーが好きだったの」
 勿論、ヴィクトールも覚えている。
 学生がかかる「はしか」のような気持ちとは違う、その真摯な目を。
「あの頃の約束、ですか……そうですね、あの時ボクがキミに言ったのでしたね――卒業するまでに変わらなかったら、って」
 考え込むような仕草をヴィクトールは見せる。
(そう。卒業までといったのはボクでしたね……)
「でも、キミは大学に進学するでしょう?」
「……え? まあ進学しますけど」
 そう、だからとヴィクトールは言う。
「ボクは“卒業”としか言ってませんし、十代の子の未来を約束できるような大人でもありません。だから、大学に行くのならちゃぁんと大学を“卒業”するまで、気持ちが変わらなかったらということで」
 言いながら、自分はズルい大人だとヴィクトールは思う。
 本気であると知っていて。
 先延ばししといて。
 それでも、こんなことを言うのだから。
「ふふ、そうですか。あと4年待てと」
 なんとなく、そんな答えが返ってくるだろうな……と未散は気付いていた。
 ヴィクトールは、ズルい大人だから。
「ずるいですか? ええそうです、おとなってとってもずるいんです……ご褒美がほしい、というのでしたらこれで」
 ヴィクトールが未散にあげたご褒美は、指1つを挟んだキス。
 最後の一線「だけ」を越えない、そんなズルいご褒美。
「構いやしませんよ、どーせ、どーせ。ぼくは好きな儘なんだ」
 そう微笑んで。そして、未散の表情はどんどん緩んでいきそうになってしまう。
「でも、ご褒美位くれたっ――……!!」
 頬までが熱い。
(屹度今のぼくは、級友には見せられない程にみっともない顔をしているに違いない。おとなに成るのは怖いけど此のお人の横にありたいなって、思ったの)
「えへへ、いけないんだぁ、ヴィクトールせんせ。生徒に手を出すなんて。だって式はまだですもん」
「そうですね、まあ……それもご愛嬌、ってことで。おとなになったら、この指を外してあげますから」
 そう言って、ヴィクトールは人差し指を自分の口元に持っていく。
 その動きは、実に「大人」で。
 ああ、やっぱり大人はズルいと。そんなことを、未散は思っていた。
 パンパカパーン、と。響くファンファーレが大人な青春劇の終わりを告げて。
「うおおおお! ヴィクトールさま! ちょっと! ぼくの中の少女がときめいたんですけど!」
「チル様がお嫌でしたら、後でゆすいでくださると嬉しいです」
「口? すすぎませんよ別に」
 何やら終わったのにヴィクトールと未散が青春しているが、さておこう。
 そして開いた扉のその先。向かうはクロエとチーサ。
 舞台設定は……学園祭である。
 そう、時は文化祭。
 様々なイベントが行われるが……クロエが参加するのは学生たちが行うライブイベント。
 その舞台裏で、クロエは順番を前にして「超」がつくほど緊張してしまっていた。
「うわーん、いっぱい人が集まってるよぅ。どうしよう……」
「何言ってるですか。そのあがり症を克服するんでしょう?」
「うう、でも……」
「練習してるのを見てきたです。クロエの歌は完璧、ならあとは度胸だけなのです」
 完璧。そうとまで言ってくれる友人のチーサに、クロエは今までの練習の日々を思い出す。
 そう、クロエは今日この日の為に練習してきた。
 でも、でも。もし失敗したら。
 弱気で涙目になりかけるクロエの口の両端を、指で持ち上げて笑顔の形を作る。
「大事なのは気持ちと笑顔です。それさえあれば、どうにでもなるです」
「気持ちと、笑顔……」
 無理矢理作られた笑顔は、しかしクロエの気持ちに火を灯す。
(そうです。私は! あがり症を克服するんです!)
「ありがとうチーサさん、勇気が出てきました。やるだけやってみます……!」
 手の平に人人人と文字を書いて飲み込んで、クロエはチーサと共にステージへ。
 そこには無数の観客と期待の目。
(みみみみみ見られてるよぅ。何か言わないと……! ええとええと)
 大事なのは、気持ちと笑顔。
 だから、クロエは目一杯の笑顔を作る。
「私立PPP学園校歌『トキメキ!ケイオス☆ハイスクール!』う、歌っちゃいま~す!」
 響くメロディに合わせて、クロエは持ち前の歌唱技術で一生懸命声を張り上げ歌う。
(大切なのは……気持ちと笑顔!)
 失敗とか、成功とか。そんなのは後から「そうだったね」と笑えばいい。
 だからこそ、クロエは「今」に全力を籠める。
 それが「勇気」の答えである事を、今は知らないままに。
 クロエの歌が学園祭という舞台で響いていく。
 確かな、青春のメロディと共に……。
 そして……開いた扉の先。一際立派な扉が現れる。
 これが最後の扉だと。誰もがそう気づいて……大地が進み出る。
「よし、俺の出番だな!」
 ここまでの演技もしっかりと見届けて、大地のキャラづくりの為のテンションも最高潮だ。
「じゃ、私は帰るです」と去ろうとしたチーサが、再びクロエに捕獲されて。
 テーマは、卒業式。校長たる赤羽・大地による此処までの一連の小芝居の集大成にしてフィナーレが、始まるのだ。
 ……そう、卒業式。
 青春の日々も過ぎ去り、されど新たな青春へと旅立とうとする輝きを、校長たる大地は見つめていた。
 1人1人舞台に呼ばれ、卒業証書を渡されるこの儀式。
 翼を得て飛び立つ為の、その証でもある。
 卒業生たちはクロエやチーサといった在校生に花のコサージュを贈られ、今日という日を迎える準備をする。
 歌い終わって機材のコードに躓きずっこけたとかそんなこともあったとクロエは思い出しながら、花のコサージュをアルクの胸につける。
「おめでとうございます」
 それは、贈る言葉。
 そうして、卒業式は始まるのだ。
「卒業証書授与!」という、エーミールの進行の言葉と共に。
「2021年度、卒業式。只今より、卒業証書を授与します」
 大地校長の声が、体育館に響き渡る。
「3年A組、日向 葵君!」
 卒業生と在校生、保護者たちの見守る中……至東は、思う。
(葵君は努力が叶って春からはプロの道へ。私のことは、もう見ている暇もないのかもしれない――)
 葵に贈られる拍手には、熱っぽいものも含まれている。
 そのたくさんの努力を、至東も知っている。
 葵がこれから飛び立つであろう未来も、きっと無限だ。
 だからこそ。
(――これは私の、葵君からの卒業式。今までのように側には居られないから)
 卒業証書を貰い、万雷の拍手に包まれる葵に……至東は涙の笑顔で、別れを告げる。
「行ってらっしゃい、私の青春をかけた家族(ひと)――」
 そう、これもまた青春の光と影。
 本当にそうなるかは、至東をチラリと振り返る葵の視線からは、分からないけれども……。
「3年C組、緋翠 アルク君!」
 素行の悪い学生として過ごしたアルクではあったが……卒業式もなんやかんやでちゃんと出席はしていた。
 座り方や表情からガラの悪さは出ているが、行事そのものにはしっかりと臨んでいる
 普段の改造学ランにボンタンから標準制服に着替え、釘バットの代わりに卒業証書の筒を持って。
「俺が卒業式に来ちゃ悪いか? いいじゃねぇか、最後くらい真面目にやらせてくれや」
「いいや。おめでとう、緋翠くん」
「おう……ありがとうございました」
 大地校長にそう答えて、アルクは一礼する。
 卒業証書授与が終われば、思い出の言葉の時間になる。
 エーミールが指揮をとり、見事な唱和がされていく。
「みんなで行った!!」「ROO!!」
「思い出に残った!!」「イベシナの数々!!」
「散ったGold!!」「闇市消化!!!」
 ちょっと唱和の内容に怪しい部分がある気がするが、とりあえずさておいて。
「オレは! みんなとの出会いを! 一生忘れないからな!」
 感極まってきた葵が、男泣きしながらそう叫ぶ。
 それもまた、卒業式の光景。
 それを微笑ましい表情で見守りながら、大地校長はゆっくりと答辞を述べる。
「本日卒業される125名の皆様、改めて、ご卒業おめでとうございます。青春を駆け抜けた先に待っているゴール。君達が一歩一歩階段を踏みしめてたどり着いた扉。これが、『卒業』です」
 大地校長の言葉は、体育館に静かに行き渡っていく。
「しかし、これが終わりではありません。マラソン選手が、一つのレースを終えたら、次なる試合に向けてまた身体を調整していくように。蛹から出てきた蝶が、生きるために花々を渡り飛ぶように、君達の道は、これからまだまだ続くのです」
 そう、青春は終わらない。
 そうであると、本人が決めない限りは。
「けれど、与えられた道を、誰よりも早く駆け抜ける人だけが偉いのではありません。疲れたら、どうぞ足を止めて休んでください。素晴らしい風景を見つけたら、どうかじっくり見ていってください。誰も知らない道を見つけたならば、そこをゆくべきか存分に悩んでください。それこそが、君達の人生の彩になる事でしょう」
 そう、急ぐばかりが青春ではない。
 急ぐのも、青春ではあるけども。
「私からの話は、以上になります。卒業、本当におめでとうございます」
 そして、未散の指揮で校歌斉唱が始まっていく。
 流れていく声は、広がる想いは……間違いなく、青春そのもので。
 そうして、ファンファーレと共に最後の扉が開く。
「ずるいですか? ええそうです、おとなってとってもずるいんです」
 響くヴィクトールの声は、どうやら「お宝」でクリスタル板から出てきていて
「はぁー……芝居ってこんなにしんどいんスね。緊張するわ恥ずかしいわ……二度と来るかこんなトコ」
 自分の分のクリスタル板を分厚い布でくるんだ葵が、そう呟く。
 青春は永遠に。
 このクリスタル板も破壊不能のすごいやつだ。
 思い出も、永遠に。
 クリスタル板に記録された名シーンは演技かもしれないけれども。
 今日のこの日だって、間違いなく青春の1ページなのだ。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
見事な演技を披露しました!
良い青春でした!

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