PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>The illusion of Fallen Angels

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 現実とは異なる事情の散見されるROO――虚構の世界の端っこに、現実の混沌には存在しない都市がある。
 『ある種の特異な魔術体系を有する魔術師達』によって築かれ、彼らがその技術を研究、発展させるにあたって創設された小さな都市であり私塾。
 それが私立Edelstein魔術学院である。
 伝承ことレジェンダリアと、正義ことジャスティスの国境線のある一部において、そのどちらにも属さぬ中立地帯として成立している。
 その本質は創設当初から変わることはなく、生徒という名の助手を教導する一方で、講師――ないしは教授ともいえる者達は己の研究に没頭している。
 ――いや、没頭していた、というべきか。

 何かによって食い散らかされたような形状から、ぐちゃぐちゃとした判然としない空間がそこにはある。
「うーん……ここもか」
 青を基調とした衣服を纏った女は、異形の左腕で触れるか触れないかぐらいのタッチで探りを入れていた。
「触れて大丈夫か?」
 女の隣、問いかけたのはバーテンダーやカフェのマスターとでもいうべき衣装を着た男である。
「どうだろ? でも、生徒や他の講師はここを気にせず歩いてるんだよね……まるで最初からなかったみたいに」
 そう言って、女は緩く手を離して笑みを零す。
「正直、私とは専門が似て非なる物だ。物質の破壊と再構築は錬金術にも通じるけど……」
「俺達以外、学院の連中はほとんどが『この現象の事を認識できてない』……そういった記憶操作まで内包しているなら、とんでもなく高度な魔術だな」
「そうだね……すごく、興味深い。魔術師として、血が騒ぐよ」
 やや酷薄にも見えなくもない妖艶な笑みを浮かべた女に、男は少しばかり呆れたようにも見える。
「……ルーキス」
「分かってる。ここまで高度な魔術を扱う相手だ、油断はできないよ。でも――お兄さん? 気になるでしょ」
 右手の人差し指を口元に寄せて、彼女は静かにウインクして見せた。

 しかし、そんな表情は直ぐに不機嫌な物へ変わっていく。
「――でも、『それ』がくるのは嫌だね……」
 嫌悪感を剥き出しにして、彼女が視線を空に向けているのを見たルナールが振り返れば、そこには3体の何かがいた。
 それらの背中にはそれぞれ2~3対の翼が生え、うち1体の掌に濃密な魔力が集束する。
「『天使体』なんて――」
 神の使徒、教会のシンボル。
 ルーキスの内側で、唾棄すべき嫌悪が渦を巻いているのを、ルナールは悟る。
 ――と、同時。
 1体の掌に集束していた魔力が光の槍に変質し、何本もの槍が学院めがけて降り注ぐ。
 ルナールはそれを見るや否や、跳躍して何本かの槍を相殺するが、漏れた幾つかが学院を貫き、蝕んでいく。
「……まずいな。直ぐにでも生徒たちと講師を集めて守りを固めるべきだ」
「そうだけど……背を向けたらいい的だよ?」
 その時だった。2人の視界に、新手が見える。
 表情を険しいものに変えそうだった2人の方へ――それは。


 ――『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』
 それは正義国のアストリア枢機卿が作り出したという、ヒイズルのそれを模して制作されたという『未来を見る秘儀を為す道具』である。
 それによって知り渡った『正義国を食い散らす虚無』――『ワールドイーター』の浸食は、『lost fragment』と呼ばれるイベントであった。
 ワールドイーター――世界を喰らう者の名の通り、彼らに『食われた』ものは、『もともとなかったことになる』という。
 そして、その浸食は『多くのNPC達では視認できなかった』。
 私立Edelstein魔術学院がワールドイーターたちの餌食になるのが確認されたのはつい今しがたのこと。
 今から急行すれば、君達が辿り着くのはちょうど交戦が始まった直後になるだろうということだった。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 こちら側のおふたりの住まう場所を取り返しましょう。

●オーダー
【1】ワールドイーター『過去の幻影』の討伐

●フィールド
 伝承=正義国境の中立地帯に存在する、私立Edelstein魔術学院と呼ばれる小さな学園都市風味の私塾です。
 中でも一応は正義寄りの一帯を中心に、徐々に『モザイク化』が進んでいます。
 食い散らかされ、モザイクで再構成された箇所は何か別の建物のようにも見えます。

●エネミーデータ
・過去の幻影×3
 バグにより生み出された怪物で、その姿は千差万別。
 今回の敵は悪魔ないしは天使のように見える翼の生えた蛇眼の存在です。
 魔力を光や闇の槍のように変えて投擲する中~超遠の遠距離個体
 シンプルに近接魔術をかましてくる近接個体
 何かしらのバフやデバフをばらまく補助個体
 以上の3種類がいます。
 それぞれ特徴は異なりますが、共通して回避を低めに取り攻撃に偏らせたバランス型です。

 それぞれが自域相当の範囲に対して、徐々に『モザイク浸食』を行なっているようです。
 皆さんの眼には徐々に立っている部分がモザイク化する様子が見える一方、
 範囲内に入るとNPC達には皆さんが消えたようにも見える不思議な絵面になると思われます。

・子飼いの影×9
 ワールドイーターの周囲や付近に存在する配下エネミーです。
 使い魔のような存在と思われ、それぞれの主の補佐を行なう他、周囲を喰らってモザイク浸食の速度をあげています。
 遠距離個体の周囲に蛇っぽいもの、
 近接個体の周囲に狼っぽいもの、
 補助個体の周囲に鳥っぽいものがいます。


●味方NPC
・ルーキス・グリムゲルデ
 ROONPCのルーキスさんです。
 私立Edelstein魔術学院の講師です。
 現実よりも教導者の側面が強調されている点を除くと現実とさほど変わりません。
 リプレイ中では主に『学院への被害』を抑えるための防戦に集中しています。

・ルナール・グリムゲルデ
 ROONPCのルナールさんです。
 私立Edelstein魔術学院にあるカフェのマスターをしています。
 現実とさほど変わりません。
 リプレイ中では主に『学院への被害』を抑えるための防戦に集中しています。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <lost fragment>The illusion of Fallen Angels完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月05日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ(p3x000394)
アガットの赤を求め
夜乃幻(p3x000824)
夢現の奇術師
メレム(p3x002535)
黒ノ翼
グラシア(p3x002562)
黒翼の守護者
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
スキャット・セプテット(p3x002941)
切れぬ絆と拭えぬ声音
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)
逧 蛻コ蟷サのアバター

リプレイ


 3体の有翼の存在が地上へと降り立つ。
 魔力の矢が降り注ぎ、建物を破砕、モザイクへと変質させていく。
 三対の翼を持って空を舞うそれらのうちの一。
「まずは手近なお前から――ぶっ潰してやるよ、"クソ野郎共"」
 補助型へ『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は言い捨てた。
 ハンドガン型のスキル発動器『Castor』の銃口を補助型へ固定。
 同時、銃口にて術式が構築され、大気中からクォークを抽出していく。
 引き金を弾いて放たれた弾丸に刻み込まれる。
 それは遮られることなく補助型の肉体へと着弾。
 刹那、弾丸に刻まれた術式が起動し、円形の領域を形成。
 取り巻きごと補助型を内へ閉じ込めた。
 内側にあるはクォークで構成された既にこことは異なる何かへ変じた世界。
 急激な変化を受けた補助型が軋みを上げた。
「随分センスのない介入をしてくれたものだ。
 ゲームに沿っていれば駒として踊ってやったものを、自ら放棄とは。全く滑稽だねぇ……
 所詮、模造のプログラムというわけだ。私のいた世界の私の仕事と比べたら、あまりに粗末で反吐が出る」
 Tethの先制攻撃へ続くように飛び出した『逧 蛻コ蟷サのアバター』ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)が紅を引きながら駆け抜ける。
 強靭なる刃となった紅の結晶を、叩きつければ、近くにいた鳥型の取り巻きを巻き込みながら補助型の身体を貫いた。
 そのまま魔力データを吸い上げていく。
「そのままお二人で防戦をお願い致します。俺達は厄の元凶を断ちます!」
 防戦中のNPCであるルーキスとルナールから見れば突如の新手に違いない自分達が敵ではないことを示すためにも、『特異運命座標』九重ツルギ(p3x007105)は声を上げた。
「天使の様な姿をとっている俺としては、風評被害を被る前に速やかに退散戴きたいですね」
 手を払うようにして射出された弾丸が近接型と補助型を巻き込む位置へと疎らに撃ち込まれていく。
 それは威力こそ高くなくとも、命中精度とヘイトコントロールを兼ねた業。
 こちらへと向いた敵の様子を見ながら、ツルギは思う。
(少しばかり気合を入れていきましょうか、娘の前で無様な姿は見せられません)
 動き出した近接型の個体が、ツルギめがけて突撃をかける。
 その手にいつの間にか握っていた光で出来た剣がツルギめがけて振り下ろされる。
 ツルギはそれを細剣で防いでその勢いの殆どを削り落と――そうとして、その剣が細剣をすり抜ける。
(【弱点】付きですか……それでも問題はありませんが)
 咄嗟に蹴り飛ばして芯に受けずに済んだが、多少傷を受けてしまう。
 イレギュラーズの猛攻を受ける補助型の身体がいきなり淡く輝いた。
 輝きはオーラとなって補助型の身体を守るように揺蕩いそれ以上の変化はない。
 恐らくは防技や抵抗への補助スキルなのだろう。
(まさか本当に学園なんてモノが存在しているとは。
 無論興味はあるしなんなら散策したいところだけど……)
 視線の先には、ROOで生きる文字通りの『自分』――『黒ノ翼』メレム(p3x002535)はその姿を少しばかり見る。
「しっかし『私』であって『私』じゃない誰かかぁ……うーんこれぞドッペルゲンガー」
 思わずつぶやいた言葉が聞こえたわけではあるまいが。
 けしかけられた風味の狼型の取り巻きを押し返したルーキスがこちらを見て少し笑った――気もする。
「やあやあ、お二人さん、加勢に来たよ」
 ひとまずはそれだけ告げれば、2人は再び降ってきた魔力の槍の雨を魔術で押し返していく。
「んーテリトリーに無断で入り込んで荒らすとか害悪だな!」
 トン、と片足だけで地面を蹴り飛ばす。
 刹那、その衝撃でも生まれたかの如く、補助型の足元の影が補助型の懐目掛けて伸びた。
 硬質化して刃となった影が補助型の身体を一部削る。
(見慣れた自分の顔が動き回っているっていうのは違和感凄いなこれ)
 一方の『黒翼の守護者』グラシア(p3x002562)もルナールの方を見つつ。
「さて、仕事だ仕事。学園がどうこうっていうのに興味は無いが『俺達二人』が奮闘してるんだ。
 手位は貸さないとな」
 意識的に仕事へ集中して足を踏みしめ――一瞬の肉薄。
「こっちのルーキスが嫌いなモノはうちのメレムも大嫌いだ。
 ――さっさと倒させてもらおう」
 手刀に束ねた掌にエフェクトが迸る。
 叩きつけた手刀は補助型の守りなどつゆほどのにも解さず、その内側へと痛みを刻み付け、その生命力を貪り喰らう。
「どうあれ、此方でのルナール(父上)とルーキス(母上)が事件に巻き込まれてるンなら、助太刀する以外の選択肢は無い」
 蒼天の瞳に二組の親たちを映し出して、『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)は己が血の一滴を陣へとたらす。
 陣へと落ちた雫は浸透し、紅蓮を呼び起こす。
 握るは緋色の殺意。大槍を静かに引き抜き構えれば、そのまま振り抜いた。
 螺旋を描きながら放たれた紅蓮の焔は緋色の軌跡を描き天へと産声を上げる。
 それはやがて、まっすぐに狙った場所めがけて落ちていく。
 それの着弾を待つことなく、既にヨハンナの手には『次』がある。
 再び撃ち抜かれる禁忌の大槍は、補助型の周囲にいた取り巻き2羽を一気に炎上、吹き飛ばす。
「デバッガーなんてつまらない作業は全く御免被る。
 御免被るが、ゲームの中の人というのも、僕にとっては人に変わりないのだよ」
 緩やかにステッキを構えて微笑むのは『夢現の奇術師』夜乃幻(p3x000824)である。
 ガラス製のステッキを握り、トン、と地面に触れて音を立てる。
 割れること無きガラスのステッキは繊細な音を立てて奇術を魅せる。
 音は波紋となり補助型とその前にいた最後の1羽の鳥の取り巻きをデータの藻屑へと消し飛ばす。
 それは一時の夢。瞬くうちにして永遠の如き死の夢である。
「悪魔はまだしも、天使まで襲って来るなんて!
 まっとうに正義の信仰に身を浸してる人間から見たら腰を抜かしそうな光景だな」
 絵筆を握る『蒼穹画家』スキャット・セプテット(p3x002941)の言葉は一縷の迷いもない。
「生憎、私は現実で不整脈の烙印を押された者でね。とどのつまり――躊躇わずにブッ飛ばせるという事ッ!」
 空に線を描き、紡ぐ絵が術式へと姿を変える。
 描かれた術式がスキャットの身体に天運を託す。
「惑いの灰色、私の敵を狂気で満たせ!」
 続けるように空に描くは灰色の鎖。
 それは空より降りて補助型と射撃型の取り巻きを絡めとり、縛り上げる。
 それだけにとどまらず、縛り上げた鎖は内側に潜む狂気を敵へと浸透させていく。


 イレギュラーズの強襲により、猛攻を受けた補助型のワールドイーターは多少ながらしぶとかった。
 バフを山ほど盛って自身の守りに転用された結果、遅延せざるを得なくなったという他ない。
 とはいえ、そんな後手後手の対応は長続きせず、じきに補助型は消滅した。
 その間に多少はワールドイーターに一部を食われてもいるが、それでも誤差の範囲内と言える。
 攻め手の多いチームであるが故の力押しが成功していつつあった。
「――汝、命を喰らう者なり」
 ヨハンナの詠唱と共に、掌に紡いだ陣が熱を帯びる。
 己が血によって構築された魔方陣より溢れ出す紅蓮の焔。
 それはまるで、怒り狂う憤怒の化身のように、煌々と輝き、囂々と音を立てる。
 身体を焼く痛みが襲い掛かるが、不死の王は死なず。
「――いざ獲物を呑み込め」
 叩きつけるように射撃型のワールドイーターめがけて射出。
 炎の塊はちりちりと音を立て、周囲を溶かしながら突っ切り、射撃型を丸呑みにする。
「貫け、青き旋風」
 スキャットはさらりと空に風を描く。
 滑らかなタッチで描かれた青色の風は、空に透けるようにして描かれ真っすぐに戦場を突っ切っていく。
 視認性が著しく悪化した空色の風が取り巻きを切り裂き、射撃型を切り裂く。
 当たり所が悪かったらしい射撃型の視線がスキャットの方を向く。
 自身の切り刻んだ敵の腕に魔力が集束していく。
 集束の後、禍々しい漆黒を帯びた光の大槍がスキャットめがけて飛来する。
 直線を貫くであろう高密度の魔力の塊だった。
 大槍の反動からか撃ちだした腕が自壊して落下する。
「さぁ、お客様! これがあなた方の見ることが出来る最後の奇術だ。
 どうぞごゆっくり、存分にお楽しみあれ――」
 ガラス製のステッキを片手でくるりと振るった幻が戦場を走り抜ける。
 ステッキの先端が淡い輝きを放つ。
 走り抜けたその間にいる取り巻きと、砲撃を撃ちだした直後の、こちらに視線を向けたままの射撃型。
 彼らを誘うは夢の中へ。
 きらりと輝く一等星。青く強く。誰よりも輝く春の夜の輝きが、堕ちる。
「――星を堕とすのは神様だけじゃないのさ」
 少しばかりキザっぽかっただろうか。
 口元に笑みを零して告げる宣告と共に、魅せられた者達の身体に傷が生まれていく。
 Tethは両手に握るふたご座の神器を一時的に外すと、真っすぐに射線を確認する。
「――面倒なのがいなくなりゃ、後は磨り潰すだけってな。纏めて昇天しくさりやがれ!」
 変わって召喚されるのは、二基一対のマイクロロケットランチャー。
 照準を固定し、敵を射撃型、それに加えてその取り巻きにロックすると、静かにスキルを発動する。
 直後、白煙と橙炎を零しながら、多量のペンシルロケットが射出される。
 それらは疎らに散りながら、取り巻きを打ち倒し、射撃型に炸裂していく。
 体勢を崩した射撃型は、そのまま弾頭に組み込まれていた電子冷却術式に体の一部を凍らせながら地面へ叩きつけられた。
「足掻け。残されたその虚構で、せめて踊るがいい。」
 酷薄とも映る嘲笑を浮かべてヴラノスは一気に駆け抜ける。
 地面へと堕ちた天使を屠ることなど容易いこと。
 深紅に輝く両の爪は敵に残る生命力を、魔力をどんどんと削っていく。
 その終焉、全力を腕一本に集束。
 さながら槍のようにも形成された結晶を、起き上がろうとする射撃型の心臓部辺り目掛けて淡々と振り下ろす。
 貫通の手応えと同時、荒れ狂う結晶が射撃型を内側から貪り喰らった。
「――さあ、導かれるまま刃をふるいなさい。俺が全て受け入れて差し上げましょう」
 両手に光の槍と闇の槍の二槍流を握る近接型が反応するように突っ込んでくる。
 一歩踏み込んだ直後――次の瞬間には敵の顔がツルギの眼前にあった。
 二本の槍が堅牢な防御を無視してツルギの身体を蝕んでいく。
 何度か受けた技だった。故に、最早対応も慣れたものだ。
「――この時を、待っていました」
 全身に溢れる力は、時が来た証。
 復讐を誓う神の使徒、死に魅入られた故の、背水のタガが外れた。
 細剣に魔力が集束し続けていく。
「本来はこの距離で撃つ者ではありませんが」
 薄く笑ったツルギが細剣を近接型へ突き立てた瞬間――内側から美しくも鋭い白の翼が近接型を刺し抉る。
「よーし、君達で最後みたいだよ」
 そう言って愉しそうに笑ったメレムの身体が、一瞬で姿を消す――否、正しくは影に溶けた。
 直後、彼女が姿を見せたのは近接型の懐。
 刹那に切り結ぶ斬撃は、半透明の深い赤。
 いつの間にか握られた双剣は音もなく弧を描き、狼を巻き込んで近接型を切り裂いた。
「意外としぶといなー」
 後退して体勢を起こそうとする近接型に呟いた――その身を痛みが走る。
「あら?」
 見れば、腕に狼が食らいついていた。
「突っ走りすぎだ!」
 グラシアが声を上げて手刀を閃かせれば、狼の首を打った。
 餓狼の閃きが容易く狼の首を落とす。
 そのまま懐に仕込んでいた薬をメレムの方へ放り投げた。
「焼け石に水だが無いよりマシだろ」
「わぁい、ありがとうグラシア先生」
 受け取ったメレムはそれを傷口に注ぐと、全く間に傷が癒えていく。
「……前衛で回復もやるとか俺の器用貧乏さがどんどん酷くなっているような気がするな? ま、構わんが」
 周囲の警戒と共に傷を癒しているメレムを見ながら、グラシアは思わず呟いた。


 近接型を倒すのに時間はさほどかからなかった。
「いやーありがとう。助かったよ。私達だけでやってたら流石にちょっと危なかったかもね」
 全てを終わらせた後、ルーキスが君達の方に笑いかけながら近づいてきた。
 言っている割に、意外と余裕そうに見えるのは、生来の気質なのだろう。
 実際、命の危険こそなかったものの、彼女の身体には一部、傷がある。
「まあ、でも、父上と母上が無事で良かった」
 ほっと安堵するヨハンナに、不思議そうに笑みを浮かべつつも首をかしげる。
「そっちは大丈夫だった……みたいだな」
 辺りの様子を見てきたというルナールが声をかけてくる。
 スキャットはふぅ、と一息ついた。
 その手にはスケッチブック。
 中には覚え書きかつ落書きレベルでさっと描いたモザイクで再構成された建物の絵がある。
「ルーキスさん、ルナールさん、改めまして。九重ツルギと申します。
 今回の件について、何かご存知でしょうか?」
 今回のエネミーは『過去の幻影』だった。そんな名前である以上、『過去』に原点となる物があると見るべき、というのがツルギの考えだ。
 故にこそ、ここの講師であり、噂では創設から関わっているともいう彼女ならば何か知っているのではないか、と。
「さぁ、私達は良く分からないけど……あぁ、でも。
 他の所は知らないけど、あいつらが作り変えたところは、見覚えがあるよ?」
 少しばかり考えていたルーキスがスキャットの描いていたスケッチを見て、ゆるりと言う。
「へー見覚えがあるんだ? どこで?」
 メレムの問いかけに、物おじされないことに少しばかり驚いたようにも見えつつも、彼女は楽しそうに答えてくる。
「どこで――というか、うん。さっきのやつ等に限っては『住み慣れた場所の色がした』んだよね」
「それって、そういうこと?」
「ふふ、お姉さん、私と似た匂いがするから、さらっと言っちゃうけど、そうだよ。
 ――私がいた世界の感じがしたんだよね」
 それは、イコールでメレムの出身世界と言い換えられる。
 そうだとして、ワールドイーターがメレム――もといルーキスの世界を知っている理由が今のところない。
「そんなことはないと思うから、あるとしたら似たような世界が趣味の奴だったのかもね。
 本当にあそこだとしたら、それはそれで面白いんだけどね」
 意味深に、彼女はそうとだけ笑っていた。
(出し惜しみするような性格じゃない。恐らく『本当に知らないけど、そうだと面白くていいな』とか思ってるんだろうな……)
 彼女の微笑にグラシアは静かに頭を抱えるのだった。
 視線をメレムにやると、受け取ったらしいスケッチを見て、少しばかり驚いているようにも見えた。

成否

成功

MVP

九重ツルギ(p3x007105)
殉教者

状態異常

メレム(p3x002535)[死亡]
黒ノ翼
スキャット・セプテット(p3x002941)[死亡]
切れぬ絆と拭えぬ声音

あとがき

お待たせしました、イレギュラーズ。
<lost fragment>はたしてどうなっていくのやら、ですね。

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