PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>Ruinae

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 正義国はすでに侵略されていた――

 それは『短期未来予測術式』『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』による星読みの結果によるものであった。
 大司教アストリアの観測結果は国土の大凡7割が虚空に飲まれているという痛ましい現実である。
 何故、それに気付かなかったのか。
 其れは単純明快だ。『ネクストの住民であるNPC達はバグをバグと認識できない』。認識できずに居た彼女たちがその事実へと行き当たったことだけでも称賛を捧げよう。だが、認識出来る人間もごく少数に限られ、彼らだけで対処は叶わないだろう。
「だからこそ、皆の助けを必要にしているんだ。ええと、正義国の騎士、イルだ。
 私には『おかしくなった国』が認識できている。けど……リンツァトルテ先輩達ごく少数を除いては隊の皆は誰もそうだと認識できてなかった」
 聖騎士団の一個小隊。その中でもそれに気づけた者はごく少数に限られるのだという。
 敵の名前はワールドイーター。世界のデータを喰らい、喰らったデータででたらめなバグの世界を生み出しているのだという。
「このままじゃ、この国は全て食べ尽くされてしまう。私の生まれ故郷も……誰かにとっての思い出も、全部だ。
 だから、手を貸して欲しい。モザイクが覆ったこんな場所、私たちにとっての『正義』じゃないんだ――!」
 イルは懇願するようにそう言った。
 この国を救うことが出来るのは『救世主』である彼らだけだ。
 クエストがリポップしている。
 イベントフィルターに掲載されている文字は『イベントlost fragment開催中です!』というなんともチンケなものである。
 成程、少女の悲痛な表情さえR.O.Oにとってはイベントの開始に他ならない。
 この地に生きる彼女たちにとっての、大切な者を救うために『救世主』よ、どうか力を貸して欲しい――


 ――ザ、ザザ。

 該当NPC『イル・フロッタ』の情報を取得。過去の『出来事』をダウンロードします。モニターに参照します。

 リインドームの村は、こじんまりとした穏やかな空気が流れる場所であった。
 普通の騎士達からすればこの場所は巡回で立ち寄るだけの場所だ。
 イル・フロッタにとっては聖騎士見習いとして騎士の試験に受かった頃から自身を見守ってくれる第二の故郷でもあった。
「イルちゃんや、おいで」
 そう手招いてくれる老婆マリアンがこっそりと分けてくれるアップルパイが好きだった。イルが巡回に訪れる時間を狙ったパイやパンを焼いて休憩をしようと誘ってくれるのだ。
「イル、またマリアンばあの所でサボってるのか?」
「さ、サボってなんか!」
「あはは、また剣の稽古付けてやるよ。セリカも寂しがってたぞ。ちょっとは顔を出してやれよ」
 マリアンの家の裏庭でパイを食べて居たイルへと声をかけたのは元騎士であったシュージだ。彼の妻セリカは最近双子の娘を出産したばかりである。
 可愛らしい双子に会いに行くのは休暇にすると約束をして、祝いの品をこっそりとマリアンに相談していた最中だったのだ。
「それじゃあ、ばあば、また明日」
「そうだねえ、イルちゃん。明日も気をつけておいで」

 ――それが、『イル・フロッタ』が最後に過ごしたリインドームでの時間だった。
 翌日、アストリアの観測結果を受けて、慌てて彼女はこの地へと駆け付けた。
 その相貌が映したのはモザイクに支配され、跡形もなくなったリインドーム。
『バグの原因を排除すれば』あの日常が戻ってくる、と。イベント概要に記載されていようとも彼女は其れを知る事は出来ない。
 故に、深き絶望を抱いて、イレギュラーズへと頼み込んだのだろう。
 大切な人たちと、あの穏やかな村リインドームを取り返して欲しい、と。

GMコメント

 夏あかねです。新イベント『lost fragment』が開催ですね。純戦です。

●クエスト達成条件
 ワールドイーターを撃破して領土を取り戻すこと。

●フィールド情報
 正義。本来ならばその場所に『村』が存在しました。信心深い敬虔なる神の徒が多く住まう村です。
 村の名前は『リインドーム』。イルにとっては見回りなどでよく訪れた勝手知ったる村です。
 ですが、『バグを認識できないNPCの目』ではこの場所には普通の街道が広がっているだけのようです。
 一歩でも踏み入ることで、この空間は歪みバグの世界へと引き込まれます。
 また、バグの世界内のワールドイーターを倒すことで領土・領民を『何事も無かったかのように』取り戻すことが出来ます。

 ・バグの世界
 上下左右もちぐはぐ。範囲攻撃や単体攻撃なども『フィールド効果』で狂ってしまう不思議な空間です。
 左右何方にも同じオブジェクトが存在し、それほど広くはない空間が形成されています。
 その中にはワールドイーターとその配下が動き回っています。
 どうやらバグが認識できてしまった一般人が迷い込んでいるようです。イルは保護をしたいようですが……。

●敵エネミー
 ・ワールドイーター:Ruinae 2体
 知能が無くデータを食べるだけの暴食の獣。その姿は千差万別。皆さんの前に姿を現したのはただの食い続けるだけの個体のようです。
 巨躯であり黒々としたドラゴンを思わせます。耐久力がとても高いようです。

 ・配下エネミー 10体
 ワールドイーターの周りを飛び交っている配下エネミーです。バグで出来たモザイクの体をした小竜です。
 どうやら、侵入してきた存在を認識し、それらの思い出を食べようとするようです。

●味方NPC
 ・イル・フロッタ (p3n000094)※R.O.ONPC
 R.O.O内のNPCイルです。現実よりも堂々としており、はっきりと意見を言います。
 見習い騎士であるのは同じようですが、鍛練をかなり積んでいるのか其れなりに戦えそうです。
 リインドームにはいつもおやつをくれるおばあちゃんや優しい村人が多く、イルは気に入っている場所だったそうです。


※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <lost fragment>Ruinae完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

君塚ゲンム(p3x000021)
胡蝶の夢見人
セララ(p3x000273)
妖精勇者
♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)
薔薇を追う
夜乃幻(p3x000824)
夢現の奇術師
リースリット(p3x001984)
希望の穿光
デイジー・ベル(p3x008384)
Error Lady
Λ(p3x008609)
希望の穿光
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ


「ワールドイーターね。……こんなモノまで出て来るなんて、まるで世界が自壊したがってるみたいじゃないか」
『薔薇を追う』♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)は唇を吊り上げる。そのかんばせで表情を返ることさえも些か不愉快ではあると言葉をひた隠して。
 正義国のMAPを開けどもその場所はなんてこと無い街道が広がっている。♱✧REⅠNA✧♱の目には、否、イレギュラーズにはモザイクに塗れたその場所が存在しているのだが――成程、この世界に住まうNPC達にリインドームと呼ばれた村は存在しない事となっているのだろう。
「僕はゲームというものをROOしかしたことがないけれど、こんなバグを堂々とイベントになんてする運営は気が狂っているとしか言えないですね」
 嘆息した『夢現の奇術師』夜乃幻(p3x000824)はすらりとした手足を動かした。硝子の翅を揺らした彼は儚げな風貌に嫌悪の色を載せている。
「このゲームの中枢AI……つまりは『運営』の仕業らしいけれど、妹(クラリス)はこんなことを望んでいるとは思い難いですね。
 一方的な愛情でバグを作ってもイレギュラーズに打倒する機会を与えているようにしか――シスターコンプレックスでしかない。愛は一方通行じゃ駄目なのでございます」
 想い合う愛でなくてはいつかは破綻する。中枢自体が関わっているかは定かでは無いが、イベントが開始してしまったのは確かなことだ。むうと頬を膨らませて拗ねる『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)はモニターで鑑賞することが可能であったイル・フロッタの毎日の様子を思い出すでも怒りがふつふつと湧いてくるのだ。
「誰がここの国の担当かしらねーけど。ほんとーにロクな事をしねーんだな、あいつら!!」
「なんと、まぁ……目を覆いたくなるような惨状にして異常だな。文字通り世界を喰う者、か。
 放置したら正義どころか他の国まで食い荒らされるのではないか? 或いは、正義をピンポイントで狙う意図でもあるのか?」
 考えるのは他に任せて、バグであろうとなんであろうと撃ち抜くのみだと『胡蝶の夢見人』君塚ゲンム(p3x000021)は言った。
 これ以上の暴挙に出させないために自身等は此処にやってきたのだ。
「世界を食む者、ワールドイーター。なんとも奇怪な食性ですが、害悪ならば絶ちませんとね。どうか、何事も無く終わりますように」
 目を伏せた『絵空書き』デイジー・ベル(p3x008384)に『妖精勇者』セララ(p3x000273)は明るい笑みを浮かべる。
 対処方法は分っている。ならばそれに沿って『自分たち』がハッピーエンドを与えてやれば良いのだ。
「まさか街や村ごと食べられちゃってただなんて。でも敵を倒せば取り戻せるならなんとしても倒さないとね――目指すはハッピーエンド。妖精勇者セララ、出撃だよっ!」
 びしりと指さしたセララの前にはモザイクが蠢いている。まるで脈動だ。一歩踏み出すことを躊躇っているイルは「セララ」と彼女の名を呼んだ。
「どうしたの? イルちゃん」
「セララ、その……『私たちはちゃんとワールドイーターを倒せる』のか?」
 彼女にとっては自分こそが異質なのだ。周りの人間は皆、リインドーム等と呼ばれた場所は存在しなかったと口を揃える。
 イレギュラーズが訪れ、アストリアより彼らが味方である事を聞かされてやっと自身が狂っていないことを実感できる。嘘を吐いているわけではないのだと証明してくれる者も居れども彼女は不安だったのだろう。
「大丈夫だよ」
 イルの手をぎゅうと握ってセララは微笑んだ。そっと、イルの背を撫でたのはリースリット(p3x001984)。安心を与えるような優しい掌にイルの肩の力が抜けて行く。
「この光景を見ると、本当にそうなのだって実感も湧く……けれど」
 この世界が作り物ではないようなリアリティに覆われていても、嫌でも作り物だと実感させる。それでも、『この内部の人間は生きている』様に思えるのだから、イルにとっては此処がリアルだ。
「こんな訳もわからないものに襲われて消されるなんて、そんな事が許容できないのはイルさんだけじゃない。
 私達も同じ……あれを倒せば何とかなる筈。行きましょう、イルさん」
 心強いとイルは頷いた。モザイクの内部へと入り込めば天と地が狂ったような奇妙な感覚に襲われる。左右の感覚さえ分らず、飲み込むことの出来ないその空間に『黒麒』Λ(p3x008609)は「ええ」と呻いた。
「…アクティブソナー起動。あ~これはダメな奴だね。
 視覚情報と三次元的に測定解析して空間把握した情報を照らし合わせしようとしたら逆に混乱して訳が分からなくなるやつだ。
 ……なんて言えばいいのかな……妙に小難しいことに頼るよりは考えるな感じろ?
 素直に感覚なりに従ったほうが迷わなくて良い? みたいなっていうか妙に解析しようとしたせいでボクの頭はパニック寸前だよ」
 ――けれど、この中に迷った誰かを救い出して遣ることだけは『分っている』のだから。Λは行くよとそろそろと歩み出す。


「安心しなイルのねーちゃん。おれ達が必ず、ねーちゃんの想い出の街を取り戻してやるぜ!!」
 快活に笑ったルージュにイルはこくりと頷いた。上下左右もちぐはぐ。ゲンムはまずは試し撃ちをしたいと仲間達へと申し出る。
「こんな空間だ。攻撃が狂う可能性もある。少しでも狙った場所から着弾を外す可能性を考慮して起きたい」
「そうだね。イルちゃんのお友達を巻込んじゃうかも知れないしっ」
 セララは『バグ感知』を行いながらデータ量をチェックする。式神は長いロープをぎゅうと握って帰り道を示させた。
 どうにも文字化け、及びバグと呼ぶべきものはこの空間に多い。セララが狙うのは大元になったワールドイーター。検知中にゲンムが弾丸を発射し――「お?」
 かつん、と♱✧REⅠNA✧♱の前に弾丸が落ちる。成程、距離が離れれば離れるほどに空間が歪み狙いが外れるか。
「成程、よく出来た空間だね。上下左右のオブジェクトに落書きをしても……ううん、ちぐはぐだね。
 ふふ、そうだなぁ、適当に適当に土地の保有証明でも主張しておこうか! どうせ無くなるから今だけね!」
「土地の保有証明?」
 首を傾いだΛに♱✧REⅠNA✧♱は胸を張る。「張っておけば来た場所も見分けられるし、式神(あれ)を辿れなくなっても出口に近い場所が分るって算段さ」
「ついでに証明時間も記載しとけば完璧よ。喰われて消える可能性がある?
 ――それなら重畳。幾らでも作ってばら蒔いて行動を誘導しまくるぜ。イル・フロッタさん、君のお望みのために人を救う手立てになるかも知れないしね」
 微笑む♱✧REⅠNA✧♱に夜乃幻は「フロッタ様のお知り合いは必ず救うからね。そのためには『アレ』を止めなくてはならない」と頷いてみせる。ステッキ『星想蝶夢』は美しい硝子で出来ている。イルが「綺麗だな」と見遣るだけでも夜乃幻は喜ばしいと笑みを零す。
 その嫋やかな美貌で侮る勿れ。無数に仕込んである杖は胡蝶の夢。彼がセララが確認したワールドイーターに近づく中、リースリットはイルへと囁いた。
「この環境下です。危険ではありますが、一般人の方の誘導をお願いしても?」
「勿論。私は騎士だ。ふふ、リースリット。あなたに頼って貰えるのはなんだか嬉しいな。任せてくれ。
 デイジーもルージュもありがとう。あなた達が私たちを庇ってくれると思えば、安心できる。セララも式神ちゃんに頼らせて貰うな」
「はい。どうか無事に抜け出せますように」
 デイジーが頷けば、直ぐさまに夜乃幻がワールドイーターへと肉薄する。続くデイジーの荷電粒子砲は淡い光を湛えた。
「モザイクのモンスターから狙います。そちらをお任せしても?」
「勿論さ、レディ。……ワールドイーターもレディなら嬉しかったのだけれどね?」
 揶揄うように笑う夜乃幻の声を聞きながらデイジーは周辺に狂気(エラー)を放つ。エラーコードはポイズンと示され毒風が周囲へと吹き荒れた。
「生体反応を確認。イルさん、そちらへ」
「ありがとう! Λ!」
 Λと共にイルが座り込んだ老婆の元へと駆ける。リインドームから買い出しに出掛け、そのまま帰宅した時に『彼女はこの状況を認識できてしまった』のだろう。怯えて竦んだ老婆を庇うΛはイルにセララの式神を辿るように指示をする。
「イルのねーちゃん! これを!」
 ルージュが投げて寄越したのはレーザー。直進性の光を出す物体はルージュが『空間の挙動』を確認するために使っていたものだ。その光の屈折が、どのように曲がっているかを理解させる。一般人の元へと無事に辿り着けたのは彼女の一工夫に寄るところも大きいか。
「おれたちはアイツを抑えるからねーちゃんたちはばーちゃんを連れて外に出てくれよな!」
「了解」
 Λを見送ってルージュは愛の力をその手に宿す。『妹』は可憐に微笑んで、地を蹴った。ワールドイーターの顎をかち上げる勢いで愛の力が叩きつけられる。
「むぅ、おれの前に竜の姿であらわれるとか、ちょっと許せねーぜ」
 呟くルージュの攻撃に引き続くのはセララ。ワールドイーターの周囲に飛び交うモンスター達へと至近で叩きつけたのはギガセララブレイク。天雷を纏った聖剣チョコソードが光を帯びる。
「思い出がごちそうなんでしょ? なら、ボクの楽しかった思い出を聞いて言って!
 小さい頃のお誕生日パーティーとかね! 大きなケーキのいちごが美味しかったんだよ――!」
 素敵な思い出はバースディケーキのように甘く美味しい。メインディッシュのように飾られた大粒いちごをうっとりと思い出すセララへとワールドイーターの目がぎょろりと向いた。
 それらと共に進もうとするモンスターへとゲンムが放つのは収束連射。本来ならば散らばる照準は一点へ。視線を後方に投げかければイルが一生懸命にセララが用意していたロープを辿っていた。老婆を背負い上げる彼女がひいひいと息を漏らしている。
「イル・フロッタさん! 大丈夫?」
「大丈夫……! ♱✧REⅠNA✧♱も、すまない。もう少し耐えてくれ!」
「うーん、いやぁ、オレ打たれ弱いからさぁ! まあ、戦闘に入るなら仕方ないよね。」
 ♱✧REⅠNA✧♱の声音は七色に変化する。『嗤神』は降魔の杖でとん、と地を叩いた。
「おや、余所見とは冷たいね。ボクの奇術を特等席で見られるというのに。美しい思い出を君も抱くと言いさ。Ruinae?」
 夜乃幻のステッキから瞬くように夢が広がった。それは青く輝くスピカ。星墜ちるまでの刹那の夢。されど永劫にも近い時が甘い言葉を添えて届けられる。
「意思の疎通は難しいようですが……どうやら此方の言葉は理解しているのですね」
 リースリットが放つフレイオンは風に導かれるように炎を放つ。次いで、仲間達へと送るのはおおらかなる精霊の吐息。祝福の気配をアビながらデイジーはとん、と地を蹴った。
 イルが『領域』の中から姿を消した。どうやら一般人の避難が終えられたようだ。振り向けばΛが合図を送っている。彼女の補佐もあり、避難が完了したというならば――
 狂気が燃え始める。デイジーの背後に立ち上がったのは巨大なる骨の手。獄の蓋をも開いたかのようにずるりと現れた其れはワールドイーターを叩き潰すための激情。
「私は言うなればデータの産物です。それを暴食するというのなら、私の手で討ち壊す。――とくと味わえ、私のバグを!」
 拳が、ワールドイーターの口へと叩きつけられる。あんぐりと大口を開いていたワールドイーターは強かに地へと叩きつけられる。


 それは地であったか。それとも天であったか。何方であるかは判別が着かずともルージュには分ることがある。
「ドラゴンの姿なのに、弱いんだな?」
『妹』は強大なるドラゴンを知っている。あの竜の領域を踏破して、友人が出来たのだ。彼らと比べれば、ワールドイーターはどれ程に弱いか。
「此処を取り戻したいのならこの程度の些事で泣き言は言えないね。アレを殲滅するまでの間護りきるとしようか……それが君の望みなんだろう?」
「うん……私も戦う。Λ、一緒に行こう!」
 イルにΛは頷いた。Λがワールドイーターの至近距離へと飛び込んだ。魔哭剣を自身により会うように改良したそのスキルは四肢より虚無の刃を生成する。
 舞い狂う幻刃がワールドイーターを切り裂いて行く。その背後よりデイジーが召喚する巨大な腕が立ち上る。
「随分とデカい図体だな。どこから削られたい? 手か? 脚か? 頭か? 胴か?」
 魔弾が雨となる。ゲンムが地を蹴り、ワールドイーターに迫れば、それは巨大な顎をぐぱりと開いた。
 暴食。そう思わせる獣を前にして、セララは「食いしん坊だね」と笑う。ドーナツを咥えたまま、距離を詰める。
 切り裂けど血潮は溢れない。だが、肉を立った感覚がその手には伝わった。
 腕が振り上げられる。大仰な動きであれば爪を避けることは易いか。セララが後方へと下がればルージュががら空きになった顎を狙う。
「こっちだぜ――!」
 一気にかち上げればその体勢が崩れた。至近で撃ち抜くΛの連撃がワールドイーターに風穴を開ける。
「――――――!」
 獣の慟哭。だが、其れだけ叫べるならば元気では無いかと大口へとデイジーが骨の拳を叩きつける。
 姿勢を崩した其れの動きに気を配りながらもリースリットは仲間達を支援した。この場で生き残ることこそが必要不可欠だ。
 モザイク等だけの空間が僅かに変化する。周辺を飛び交っていたモンスターの数も減ったか。
 破滅などと言う大仰な名前を付けられたワールドイーターはぐるぐると喉を鳴らす。夜乃幻はドラゴンを模したワールドイーターが幾ら堅牢であろうともその殻など越えて心へと訴え掛ける奇術を魅せ付ける。
「っと……世界が自壊しそうだな。ワールドイーターにダメージが蓄積したから?」
 ♱✧REⅠNA✧♱の問いかけにリースリットは「おそらくは」と頷いた。空が落ちてくるよう圧迫感。崩れて行く世界の中で、ワールドイーターは此処で負けて堪るものかと勢いよく飛び込んだ。
 その牙が狙うのはルージュ。小さな身体目がけて開いた大口に『妹』はにんまり笑う。
「ばーか!」
 まるで、兄弟げんかのような。揶揄うような声音と共にルージュが膝をつく。その頭上を通り抜けたのはゲンムの魔弾。
 雨の如く、それは降り荒む。弾丸によって押し込められるデイジーの拳は『彼女の狂気(エラー)』を食らい付くせと叫ぶように。
 衝撃と共に、エラーログが嵩んで行く。ダメージ表示が跳ね上がり、突如としてポップアップしたHP表示が狂い始める。
「……それでは、幕引きでございます」
 夜乃幻の囁きに、Λはじりじりと後退する。耐えきれぬと言った調子で蹲ったワールドイーターの身体がぶくりと膨れる。それは原形も止めぬような奇怪な動き。それは個体差もあるのだろうがその身のうちに全てを蓄えていたのか。
「暴飲暴食にはお気を付けて?」
 ドーナツを囓って笑ったセララの声音に応えるようにワールドイーターの身体がばちん、と爆ぜた。
「もしこれで全てが元通りになるというのであれば、俄かには信じがたいが……まぁ元に戻るなら何でもいいか」
 呟くゲンムにこれがゲームなのだとリースリットは言った。有り得ざる事が有り得てしまう。それがR.O.Oなのだ。

 ――形式が、戻って行く。マップに『リインドーム』の文字が躍る。
 街道しか無かった――モザイクに覆われた空間――が消え失せていく。
 急激に引き戻されるような気がして、イルは息を呑んだ。イルさんと呼ぶリースリットの声に慌てて立ち上がったイルは上下左右の判断が未だにつかぬまま尻餅をついた。
 尻餅をついたイルを支えたセララは「大丈夫?」と問いかける。
「だいじょ――」
「おやあ……イルちゃん? 今日はお友達も一緒?」
「ばあば……?」
 セララとイルの前に立っていたのはマリアンと呼ばれるリインドームの村の老婆であった。そこはどうやらマリアンの裏庭か。
「お邪魔しています」と頭を下げたリースリットに倣いゲンムも頭を下げる。
「お友達を連れてくるなんて初めてだねえ」
 微笑んだマリアンの様子を見て、夜乃幻は『取り戻せた』事を実感した。
「パイでも如何? 折角だから美味しいものを用意しようねえ」
 微笑むマリアンにΛは驚いたように振り返るがイルは何時も通りの様子なのだとどこか嬉しそうに彼女の手を握り「食べる!」と微笑んだ。
「ならば、レディ達に奇術を疲労しても? 心を癒やす一時をご覧に入れよう」
 微笑む夜乃幻にマリアンは「イルちゃん、皆を呼んできて!」と声を掛ける。走って行く少女の後ろ姿を眺めながらリースリットはほっと胸を撫で下ろした。
 これにて穏やかな日常がこの村には戻ったのだろう。
「……ですが、この害はこの国の七割にも及んでいる――と」
 取り戻すためには、害の根本からの排除が必要か。デイジーの呟きを乗せた風は取り戻されたリインドームを爽やかに通り過ぎていった。

成否

成功

MVP

セララ(p3x000273)
妖精勇者

状態異常

♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)[死亡]
薔薇を追う

あとがき

 お疲れ様でした。
 無事に街を取り戻すことが出来てイルもほっと一安心しています。
 MVPは一工夫のあなたへ!

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