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シナリオ詳細

大空の憧憬

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「いいか、フェリックス。俺達は自由なのさ。
 自由に空を渡り、いつか新天地で俺達だけの島で暮らすのさ!」
 この世に、満点の笑みがあるのだとしたら、きっとあの時に親父が浮かべていた顔なんだと思う。
 自信に満ちて、未来への希望を憧憬したこれ以上ないってくらいに、いい笑顔だった。
 だからこそ俺はその言葉に憧れたんだ。
 だからこそ俺は、その言葉が嫌いなんだ。
 眼を閉じれば思い出す。
 大空を駆って、あの絶望の青へと駆り出した親父の――親父たち、何でもなくなってしまった翼が波打ち際を揺蕩うのを見た時を。
 結局、運命に愛されなかった親父は行方不明になって――英雄たちが海を開いた。
 身の程知らずの馬鹿だって、笑ってしまえればどれだけ楽なんだろう。
 静寂に満ちたあの海へ、俺はまだいける気がしなかった。
 ――けれど。胸の奥が、本能が、どうしてもざわめくんだ。
「親父……お袋……俺、馬鹿になりたいんだ……」
 潮風の吹き付ける断崖の上、フェリックスはぽつりと言葉に漏らす。
 返事はない。ただ物を言わぬ石が2つ、静かに鎮座するばかり。
 この下に、誰もいないことは分かっている。
 でも――それでも、諦める事なんてできなかった。
 理性がまだ速いと制止する。
 本能が今すぐにでもと嗾ける。
 相反する自分の胸の奥が、ぎゅるぎゅるとお腹を痛めつける。
 そんな無駄な痛みなんて必要がないんだ。
「だから、俺も……行くよ、この空を越えたいんだ」
 丸まった地図を握る手に力が籠る。
 イレギュラーズによって開拓された絶望の青――もとい静寂の青。
 とはいえ、開拓され航路以外にも島々というのは存在しておかしくはない。
 神威神楽へのルートが確立されて以後も、小さな島々の開拓は一部によって続いている場所もある。
 フェリックスが握る地図は、そんな開拓者たちの1人から買い取った『まだ発見されただけの小島』の位置を示すものだった。


「大号令の英雄であるあんた達に、お願いがあるんだ。
 俺が、ここに行くまでの道中、一緒に来てほしい」
 告げたのは20代の半ばほどらしき青年だった。
 ツバメの飛行種であることは、その風貌がまるっきりツバメのような色合いをしていることからして明らかだった。
「俺は、ツバメの飛行種なんだけど……新しい土地へ行きたいんだ。
 だから……これ、この島はまだ『見つかっただけでまだ誰にも領有権が主張されてない小島』なんだ。
 俺、ここに自分の家を作りたいんだ」
 そう言う青年は地図を見下ろしながらひとつ深呼吸をして。
「静寂の青は、イレギュラーズの手で踏破されたけど、まだ危険であることには変わらない。
 それは頭じゃ分かってる。でも、俺の胸の奥が、行けって、そう言い続けてて。
 だから、お願いします! 船なら、ある。親父が遺してくれた、大型の商船だ。
 それならきっと、あんた達を連れても十分なはずなんだ」
 それは、渡り鳥ゆえの習性なのか、海辺の町に生まれ育った者の性なのか。
 真っすぐに君を見るフェリックスの瞳には、駄目なら一人で行くという意志さえ垣間見えた。


 海原をかける大型の商船の頭上を、フェリックスが飛翔し続ける。
 そこそこ速い速度で水面を滑る商船は、まだ目的地までかかりそうだ。
 揺れを感じさせぬ船の安定感は、この商船の質の高さを物語っていた。
 船旅を楽しむイレギュラーズの下へ、不意にフェリクスが下りてきた。
「……あれ、なんだと思う?」
 そう言うフェリクスの表情は少し険しい。
 既に近海から静寂の青に入っている。
 大なり小なりの問題は起こっているが、ここまでは問題なく潜り抜けている。
 言われるままにフェリックスの示す方を向いた。
 船の斜め前、よく見なければ分からなかったが、よく見ればそれは、『海の中から近付いてくる影』のように見えた。
 それは真っすぐに船の方へと海の中を疾走し――しぶきを上げて跳躍。
 確かな衝撃と共に、船体の上へと着地する。
「な――なんだ、あれ」
 それは化け物という他なかった。
 辛うじて顔のような物も見え、それは悲しげにも見える。
 面影程度には辛うじて『人型ないしは人魚』のようにも見えなくはないが、異形というべき怪物だった。
『ァ――ぁア――』
 全体的にオコゼを思わせ、身体は赤黒く。
 両手というよりも前のヒレのような部分や尾びれ、背びれの毒針は一般的なオコゼの身体との比率より長く。
 何より、濃密な殺意と、溢れ出る『呼び声』――
「――魔種……!」
 その姿に該当するものなど『それ』ぐらいのものだった。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 たった一人、大空への憧れに導かれた渡り鳥の背中をほんの少し押してあげましょう。

●オーダー
【1】フェリックスを無人島へ送り届ける。
【2】船体への損害を出来る限り防ぐ。

【2】は努力条件とします。

●フィールドデータ
 フェリックスが所有する商船です。
 船体は広く戦場として充分な広さがありますが、
 超遠に関しては射線の確保が難しい場合もあります。

●エネミーデータ
・『揺蕩う不幸』ノエリア
 元はオコゼの海種らしき魔種です。
 どこか悲しそうに見えなくもない顔をしており、
 面影程度に女性体の人魚を思わせますが、基本的に知性を感じない怪物です。

 オコゼらしく異様に長い尾びれや手、背びれなどに毒針を有しています。
 オコゼの性質らしく、【毒】系列、【麻痺】、【痺れ】系列、【窒息】系列のBSを持ち、パッシブに【反】があります。
 毒針を射出しての中~遠単、接近状態での毒針を用いての近単、自域、近扇などの範囲スキルを持ちます。

●NPCデータ
・フェリックス
 ツバメの飛行種の青年。歳は20代半ば。
 両親を大号令以前に失っており、父は自分と同じツバメの飛行種、母はオコゼの海種であったとのこと。
 渡り鳥の気質かどこか遠くへと旅がしたい本能に誘われ、遠洋へと旅に出ようとしています。
 イレギュラーズではなく、自衛程度には武術の心得もはありますが、皆さんに及びません。
 基本は空を飛んで旅をしますが、休憩が必要な時用に船を連れており、皆さんはその船に乗っています。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 大空の憧憬完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy

リプレイ


 突如として姿を見せた魔種は、意味の分からぬ声を上げながらゆらゆらと動いている。
(鳥、という種族にひとところに留まる、帰り着く先を求める気質のイメージはあまりありませんでしたが。
 彼らにもそういった悲願は、確かにあるのですね……)
 あるいは、それは彼個人の感情や、渡り鳥の性質がより濃く出ているだけなのかもしれないが。
 それでも、眼を見て頼まれた仕事だ。
(もちろん、全力で叶えましょう……とはいうものの)
「この手の護衛依頼には狂王種が付きものと思ってたのですが、……もしかして、思った以上にハードなやつなのです?」
 思わず声に漏らす『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は、目の前に姿を見せた首を傾げ――刹那に加速。
 それは燃え上がる炎の如く、一気に肉薄してスパーク爆ぜる雷球を叩きつけた。
『クゥ――――ル、――ォォォ』
 与えた攻撃へ反射的な反応を示すように、オコゼの針がクーアにも傷を生む。
(両親が行方不明なんてのはよくある話で、死体が見つからんのも珍しくもねぇ事だ)
 目の前に姿を見せたそれを見止め、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は思わず口に出そうになったモノを抑え込み。
(だが――行方のわからねぇ母親と『同じ』オコゼの海種らしい魔種に出くわすってのは……どれだけあり得るモンなのかね)
 それは偶然ならばそれでいい。いや、いっそ考えすぎであると笑えれば最高だ。
「……まあ、わざわざ開発もされてねぇような島に住みたいって気持ちは俺には分からんが、あんな本気の眼をされちゃ水を差す気もねぇ」
 剣を抜いて緩やかに構えつつ、縁は依頼人の方へ声をかける。
「空からの見張りを頼めるか」
 それは本当に見張りを求めるのではなく、彼を魔種から遠ざけるための処置に過ぎないが。
 翼の旗履きを聞きながら、縁は握る刀が赤と黒の魔力を纏い、刃を振り抜いた。
 2つの魔力が刃となり、鮮やかなる赤は熱を生み、塗りつぶすような黒が毒を刻み込む。
 反撃とばかりに射出された毒針がチクリと縁の身体に突き刺さる。
『絶望……否、静寂の青にこぎ出そうと言うならば、我が祝福を授けぬわけにはいくまい。
 心せよ。お主がこれから行くのは、かつて前人未踏であった海。
 そして前人未踏である、かもしれぬ島じゃ。常に海を畏れ、敬え』
 出発の際に告げた『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)の言葉に、確かに彼は頷いていた。
 その目を脳裏に思い浮かべながら、クレマァダは静かに歌うたう。

――ふんぐるい
  むぐるうなふ
  くつるぅ
  るる=りぇ
  うがふなぐる
  ふたぐん

 真価に至らぬ歌が魔種の脳髄を揺さぶれば、絶叫した魔種の毒針がクレマァダの身体を穿つ。
「うっふ、夢や未来を追いかける途中で障害にぶつかるのはお約束ってね!」
 姿を見せた魔種に視線を注ぐまま、『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は後ろに控えるフェリックスへ声をかける。
 そのまま、続けとばかりに走り出す。
(フェリックス君も、フェリックス君の決意を乗せたこの船も、どちらも絶対無事に届けるんだ!)
 胸の奥、沸き上がる闘志を燃やして魔種へと身を晒す。
 威風堂々、食って掛からんばかりに存在をアピールすれば、魔種の声にもならぬ音が鳴る。
『ア――ァ――』
 声とも音ともつかぬ何かを発して、魔種が震えだす。
 魔種は手に相当するであろうヒレの毒針を鋭く手刀のように束ねて振り抜いた。
 それをひょい、と躱したヒィロめがけ、もう一度撃ち込んだ毒針も又、ヒィロには届かない。
「……来ても狂王種の類だと読んでたのだけど、外したわ」
 思わず目の前の敵を思う『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)の魔眼は魔種の性質を既に見抜いている。
(ひとまず、準備は良さそうね。島に到着、けど帰る足はありません……なんてごめんだもの)
 今までしていたのは、船体保護のための保護結界の作成だった。
 それが終わった今、やるべきことは、ヒィロへの補助のみ。
「――【略紫】」
 据えるは魔種。
 魔眼がうずき、紫の濃い部分がその身の精神性を削り取る。
 反撃に打ち据えられた魔種の毒針が目に当たらぬように躱しつつ、一部は身体に浅く突き立つ。
「遠くへ行きたい……フェリックスさんの想いを受け止めてここまで来たけど」
 『若木』秋宮・史之(p3p002233)は真っすぐに魔種を見据えた。
 その指に輝く指輪が魔力を帯びて淡く輝きを放ち始めた。
 敵は、何も言わない。どこか悲しげにも見える表情だが、震わせる声帯は意味をなさず、知性のようなものは感じ取れない。
「……なんで現れたんだよ、今いいところなのにさあ!」
 その言葉に籠められた感情は、少しばかり重い。
 魔力を籠めた史之の声が戦場を包む。
 その言葉が祝福を以ってクーアの身体の傷を癒していく。
(……空に憧れるか。いや。憧れたのは空と海の向こう側か。
 私もそうだった。そして、相応に払う物こそあったが、得る物もあった。
 ……この翼を得たことに、後悔はない)
 『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)は、彼を庇うようにしてフェリックスと共に飛翔する。
「……いいかフェリックス。
 例えどんな声が聞こえたとしても、例え目の前で何が起こったとしても。
 お前はお前の理想を貫き通せ」
 背中越しにフェリックスに告げて、翼の機構から爆弾を射出。
 ごく小さな爆弾は煙を上げて真っすぐに魔種めがけて飛んでいく。
 粘着性の強い爆弾が炸裂した魔種の身動きを制限する。
「――運命はこの心次第で決まる」
 それはかつて牧の夫が良く言っていたこと。
 破秀滅吉を握った『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)は魔種の背中側へと布陣、太刀を振り抜いた。
 斬撃は魔種の身体を切り刻みながらも、変幻自在にして邪道なる軌跡を残していく。
 残された軌跡はそのまま魔種の身体を縛り上げる。
「落ち着いて。これは人間のように見えて人間ではありません。なにも関係ない。別物です」
 縛り上げた魔種から視線をフェリックスへと移した牧は、それだけ告げて、再び魔種に視線を向けた。


 傷の数は多い。
 衝動的に暴れる魔種の行動は中々読めず、イレギュラーズがわの傷も増えている。
「海の上ならいざ知らず、船の上なら私(ねこ)の独壇場。
 泥仕合さえも制すのです!」
 神速を以って駆け抜け、魔種へと肉薄するクーアは、その両の手に炎と雷を纏う。
「我が理想を描く焔と雷の業。これが私の空中戦なのです!」
 肉薄からの踏み込み。
 放つ掌底に構築された術式が、魔種の身体を上空へ撃ちあげる。
 それを追うようにして、クーア自身も跳ねるように飛べば、連続の打撃を叩きつけ――最後の一拍と共に撃ち落とす。
『アァ――ァ――ァア』
 声が上がる。それは魔種の悲鳴。
 それは魔種の慟哭。
 そして、誘う言の葉。
 視線が空を見ているように感じれば空から呻く声がする。
『――どうして、私達を捨てるの
 あぁ、私を捨てるの?
 なんて嫉ましい。なんて恨めしい
 母を捨てる必要がありますか
 貴方は、私の子――どうか、1人で行かないで
 私と一緒に、水底に揺蕩いましょう。
 あなたの父も、それを望むのだから』
 醜き声が、誰にも聞こえずただ引きずり落とすためだけに、少年の耳を打つ。
 縁には、『それ』がどういうものか痛いほどわかるのだ。
 脳を直接焼かれているような、刻み付けられる声から意識が逸らせない。
 刻み、締め付け、誘う悍ましく心地よい終わりからの呼び声。
「あぁぁああ!!」
 声がする。フェリックスが絶叫して、地面へと降りてくる。
「……お前さんは自由なんだろ? なら、海に心を囚われなさんな。好きなだけ馬鹿に生きりゃぁいい。
 呼ばれてやる必要なんざない」
 甲板に打ち付けられた音がするのを聞いて、縁は思わず声を上げた。
 同時に、刀に魔力を籠める。
 美しい魔力が層を巻き、膨張を繰り返す。
 振り抜いた斬撃が咢を露わに魔種に痛撃を叩き込む。
「フェリックス、気を確かにせよ。
 良いか。あれはお主の母御ではない。
 仮に元がそうだったかも知れぬとて、もはやもう、違うものじゃ」
 身体を崩して船に落ちてきたフェリックスへ、クレマァダは声をかける。
 それは叱咤ともとれる言葉であったが。
「我はな、人間の在り様とは心じゃと思うておる。
 心が違えばそれはもう別の人間なのじゃ。
 お主の母御はここでお主を海の底に引きずり込むような人間か?
 お主の夢を妨げて共にまどろむことを喜ぶような人間だったか?」
 呻き、頭を抱える少年へ、この言葉が今も届いているだろうかと、思いながらも。
「――違うじゃろう!!
 お主は燕。迅く長く飛ぶ者。
 そんな呼び声に縛られず、風を切れ!!!」
 黄金に輝く瞳で、全身全霊と共に撃ち抜くは神威。
 限定的に再現された『海嘯』は、海を操り、海水を撃ちあげる。
 海水は鋭く魔種を中心とする領域めがけて叩きつけられる。
「そう、これは君の乗り越えるべき障害なんだよ。
 だから、負けちゃだめだよ!」
 魔種に肉薄した状態で、ヒィロは声をあげた。
 突き刺さるように繰り出される魔種の毒針を受け流し、あるいは躱しながら、その猛攻に耐えている。
 闘志は折れることはなく、自分の可能性すら引き出して最大限の力を保持している。
 堅い守りに遮られる魔種の攻撃は躱すことの出来てはいるものの、やはり掠りにでもしたら傷は深い。
『アァ――』
 魔種が再び震えだす。
 直後――全身に映えた毒針が、一斉に爆ぜた。
 射出された毒針は全方位に伸びて周囲にいたイレギュラーズを貫かんと襲い掛かる。
 対比を試みたヒィロの身体に、幾らかの毒針が突き刺さる。
 美咲はその瞬間には魔眼を発動していた。
 流れるように行使されたのは、大天使がもたらす祝福を術式に落とした高位魔術。
 温かい光を伴い紡がれる術式は、ヒィロの身体に刻まれた傷を癒すと共に、毒素を解毒して治癒を施していく。
「魔種だろうと何だろうと、私たちはこの連携で打ち砕いてきたんだ。
 こんなところで、終わらせない!」
 ずきずきと、眼が痛む。そんなもの知った事かと、美咲は深呼吸する。
「立て、フェリックス。
 言っただろう、お前はお前の理想を貫き通せ。
 生きろ。生きていれば、後悔もできる。次もある。
 無事に送り届けて見せる。必ず」
 フェリックスの横へと降り立ったルクトの言葉に、フェリックスが視線を向ける。
 ルクトはその視線を浴びながら、義肢に着けてあるミサイルポッドから一斉に砲弾を放つ。
 それは有害物質を含んだ断頭となり、着弾と共に魔種の身体を焼いて、猛毒と炎を同時に齎した。
「去れ! 誰もおまえを歓迎しちゃいない、おまえは滅びるべき存在だ!」
 握りしめた愛刀と共に、史之は魔種めがけて吶喊する。
 愛刀は魔力を帯びて輝き、滑らかに動いた剣先は、風を纏って戦場を駆ける。
 鋭く振り払われた斬撃は、魔種の身体へと大きな傷を作り出す。
「母親だというのなら、彼の旅路を祝福すべきじゃないのか!」
 その言葉は、魔種に届いているかは分からない――それでも史之は愛刀を魔種へ向け続ける。
「志半ばにして倒れても、あるいは失敗であろうと、
 未来を自分で決めて開いていく決断の価値は些かも損なわれないのです。
 フェリックス。あなたも運命を自分で決めましょう。
 あれにあなた自身の運命を台無しにされてもいいのですか」
 声を振り払おうとするフェリックスへ牧もそれだけ告げて、愛刀に力を籠める。
 目前の、意味ある言葉を紡がぬ怪物が本当に彼の母だとして。
 フェリックスの未来を閉ざす理由にはならないのだと。
 踏み込む。それは牧の間合いとして考えてもあまりにも深い。
 だからといって、関係はない。
 無理矢理にでも振り下ろす斬撃は美しささえ帯びた軌跡を描く。
 真っすぐな太刀筋が魔種の肉体を大きく刻み、反撃の棘が一斉にまきの身体を貫いていく。


 イレギュラーズの呼びかけもあって、呼び声を振り払ったフェリックスが再び空へ退避した後も戦いは継続していた。
 フェリックスから教えられた魔種の名前、ノエリアの傷は深く、追い詰めているのは明らかだった。
 反撃に撃ち込まれる魔種の毒針により、イレギュラーズ側も少なくない傷を負ったものが多い。
「――見えた」
 美咲は思わず声を上げていた。
「ヒィロ!」
「――うん、任せて、美咲さん! これが美咲さんとボクで繋ぐ、未来への夢の架け橋だ!」
 ヒィロは自らを奮い立たせると、踏み込むようにして、再びノエリアの前に。
 堂々と身を晒したヒィロはその場で踊るような動作を見せてノエリアの注意を引きつけた。
「ありがとう! それじゃあ、詰めといこうか……ぶっ飛ばす!!」
 それは過労からか、眼球を抉るような鋭い痛みが走る。
 それを振り払うように、その瞳に七色を宿した。
 それは、視界に映る者へ破滅的な魔眼の魔力を与える大魔術。
 刹那の内に、魔種の身体が一部ながら吹き飛んだ。
 そこへと跳びこんだのは史之。
「さようなら、せめて安らかに眠れるように――」
 踏み込む。一度鞘へと戻した刀に魔力を籠める。
 収束する魔力は覇竜を冠する斬撃へと姿を変える。
 渾身の力を込めた居合式の斬撃は、夢想を穿ち幻想を撃つ。
 鋭い軌跡を生み、残像を以って斬り伏せれば、ノエリアの身体が深く削れていく。
それらの猛攻を見下ろすような形で、ルクトは静かに視線をノエリアに向けていた。
「……フェリックス、私達を恨むことになろうと、眼をそらすな。
 あれがお前の母ならなおさらだ」
 両翼と義肢より放たれるミサイルが、一斉にノエリアめがけて駆け抜ける。
 複雑な軌道を描き、尾を引きながら突き進んだミサイル群は、ノエリアの身体に次々に突き立っては傷を作り出していく。
 ノエリアの悲痛な叫び声らしき物を聴きながら、牧は刀を再び握りしめた。
「――いくらでも、刺してきなさい!」
 啖呵を切った牧の身体には、複数の毒針の後が痛々しく残っている。
 もたらされた毒の影響は仲間の治療によって殆どない。
 あとは終わらせた後でいい。
 振り抜いた斬撃が闘気の糸を以って魔種を縛り上げれば、残心の勢いを残して次へ。
 再度の踏み込みと共に叩きつけた斬撃はノエリアの身体に強烈な傷と毒を齎し――その身体が崩れ落ちていった。


 魔種が死のうと、旅路は終わらない。
 旅をつづけたイレギュラーズは、その後、他には別の問題も特になく件の島へとたどり着いていた。
「……おやすみ」
 史之は墓前にて手を合わせていた。
 浜辺近くの見晴らしのいい場所に墓石だけで作った小さなものだ。
「静かにお眠り。そうして、安らかに……次の生を待つのじゃ」
 同じように目を閉じたクレマァダの言葉も風に誘われていく。
「ざっと見た感じ、他には誰もいなさそうね……帰りましょうか」
 島への道中、後半をほぼ目を休めるのに使った美咲は島の様子を軽く見渡している。
 見た限りでは、外部から入った者は殆どいないように見えた。
 ちらりと船をみる。
 美咲の保護結界以外の要因で多少壊れていた部分を牧が修理した船が、波と共に静かに浮かんでいた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヒィロ=エヒト(p3p002503)[重傷]
瑠璃の刃

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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