PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神異>琥珀の月が廻り

完了

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夜空を赤く染める炎が段々と近づいて来る。
 荒れ狂う暴風の渦の中には朱雀を咥えた白虎が居た。虎の姿である。
 戦場となる色町の上空まで猛スピードで掛けてくる様は正しく武神の神霊。
 人々は恐怖に戦き、色町から逃げて行く。
 されど、残された花魁達は何処に行くことも出来ず窓の外を眺めるだけ。

 朱雀を街道の真ん中に落した白虎は辺りを見渡す。
 それを待ち構えていたように夜空に浮かぶ天香遮那を見つけ人の形に変幻した。
「やあやあ! 我は白虎! 武神の神霊白虎だよ! 汝が逆賊天香遮那だね! 成敗だよ!」
 白虎が遮那へと襲いかかれば空で爆音が響き渡る。
「煩いのう。なんじゃ~、妾はまだ眠いのじゃ~」
「そんな事言ってるとまた姫様に怒られますよ」
 地面でぐずる朱雀を拾い上げた星宿は濡れタオルで童女の顔を拭いた。
「仕方ないのう……妾もそろそろ本気を出さねばなるまい」
 うんと伸びをした朱雀が、空へ飛び立ち閉じていた目を開く。
 その瞬間場の空気が一気に熱せられ、息をすれば肺が焼かれるような感覚に陥った。
「全て燃やし尽くして、綺麗にしてやろう」
 空が灼熱の赤に燃え上がる。

 ――――
 ――

「朱雀の炎、白虎の雷。激しい戦いになりそうですね」
 正純は柊遊郭の窓から赤く染まる夜空を見上げた。眉を寄せ、拳を握りしめる正純。
 自分には戦闘力は無い。守られるだけの存在なのだ。その事実が悔しい。
 もっと自分に力があったなら。
「ええ、そうね。見てことしか出来ないなんて……」
 正純に寄り添うように窓の外を見上げた伽羅太夫は親友の肩を抱いた。

 一際大きく炎が煌めき、火の玉が柊遊郭に向かって飛んでくる。
 咄嗟に伽羅太夫を庇うように正純は窓に背を向けた。
「大丈夫! 瑠々にお任せ下さい!」
 窓の外から聞こえて来た幼い声。天香瑠々は雷を纏い、迫り来る赤火を打ち払う。
「よし……!」
 汗を拭い顔を上げた瑠々は次々と落ちてくる火球に眉を寄せた。
「瑠々だけの力で守り切れますでしょうか。ううん。やるしかない。遮那兄様の為に瑠々が此処で皆を守らないといけないんだ!」
 背後から迫り来る雷撃に一瞬出遅れた瑠々。痛みは承知でその雷を受けると決めた瞬間。
 横から美しい黒髪が流れ、太刀が空の赤を写し奇跡を描いた。
「助太刀致す!」
「――安奈殿!」
『楠安奈』という心強い仲間が現れ瑠々は僅かに安堵の溜息を吐く。

「本当に歯がゆいわ。何か手助け出来ないの?」
 伽羅太夫の言葉に朝顔は拳を握りしめた。
「此処で炎に焼かれて、足手まといになるのなら。私は同じ戦場に立ち遮那さんを支えたい!!」
 普段は声を荒らげる事の無い静かな朝顔が、天色の瞳に強い意思を宿している。
「分かりました。やりましょう! 私達に出来る事を」
 正純は意を決し。二人を連れて柊遊郭の外に飛び出した。

 ――――
 ――

『派手に暴れよるのう……我も一暴れしたくなったぞ』
 アーマデルの首元から這い出たクロウ・クルァクは人の形を取り屋根の上から赤い空を見上げる。
『そのままでは貴方の神気で依代が壊れますよ。クル』
『何だもう離れてきたのか。キリは準備が良いのう。まあ、確かに我が本気を出せばアーマデルは耐えきれぬわな』
 クロウ・クルァクの隣に白い光と共に姿を現したのは白鋼斬影。クロウ・クルァクと対を成す『真性怪異』だった。
『アーマデルよ。我はお主からしばし、離れる。必ず生き残れ。手足がもげても構わぬ。治してやるから命だけは繋げ。よいな』
「はい」
 身体中に渦巻いていたクロウ・クルァクの気配がアーマデルから抜けて行く。
 それは毛布を剥ぎ取られた冬朝のようで。すがすがしさと同時に温もりが無くなる寂しさがあった。

 飛び上がったクロウ・クルァクは口の端を上げて朱雀へと陣を形成する。
「――我、異邦の蛇神なれど」
 ヒイズルにとってクロウ・クルァクは異邦の神だ。この地において信仰は薄い。則ち朱雀や白虎に比べて神格も低いということになる。されど、クロウ・クルァクは吠える。
 クロウ・クルァクが天空に手を掲げれば、水蛇の陣が組み上がった。
「大地に廻る水流が途切れぬように。この地にも恵みの雨を願う心あり!」
 水という生きる上で無くてはならないものへの信仰。無意識下の祈りを集め。
「此処に水黒瀑布を顕現せしめたり――!』
 朱雀の神火で崩れていた五行の均衡が押し返される。
「あー、折角良い感じに赤く染まっておったのに~!」
 頬を膨らませた朱雀の頭上から雷塊が暴風を伴ってクロウ・クルァクへ飛来する。
「お前! 強いな!? さあ我と勝負だ!」
 白虎が色町の建物の上を走れば瓦が吹き飛び竜巻が起こった。
 爆砕する家屋と地割れのあと。白虎の爪痕。
「此方は私がやります」
 クロウ・クルァクの影から白鋼斬影の水閃が走る。
 ヒイズルの四神と異邦の神との戦い。空が裂けるような振動を響かせた。

 正純は神々の戦いを見上げ息を大きく吸い込む。
 クロウ・クルァク達は『時間稼ぎ』をしてくれているのだ。
 これから引く五行の布陣の為に。
 崩れた均衡を正常な形に戻す為に正純は『命』を削る覚悟をした。
 本来であれば場の五行を正す事は容易いだろう。されど、この柊遊郭の上空に流れるのは神気の相。
 人の身でそれを正すのならば、相応の犠牲が必要なのだ。
「では、行きますよ。皆さん! 生きて帰る為に!」
 正純はこれっぽっちも諦めてなどいない。命を削るのだとしても諦めるなんて出来ない。

「星よ来たれ――」
 正純の手から魔法陣が天空に広がり五芒星の陣を形成する。
「月よ来たれ――」
 伽羅太夫の手から開いた魔法陣が木行の色彩となり重なる。
「我が血、赤の苛烈に突き進み」
 遮那が切り開いた一閃に赤き火行の刀身が燃え上がる。
「大地を踏みしめ導となる」
 夫の剣を携え、朱雀の炎をはじき返す安奈の瞳は土行を宿し。
「轟け雷鳴。産声を上げろ、封縛解除――!」
 解き放たれた雷神の子瑠々は金行の雷を纏い吠える。
「朝露の雫、とこしえの涙となりて、全てを包み込む盾となれ――」
 天色の瞳は夜空に廻る術式を見上げ、水神の加護を賜る朝顔の指先から守護結界が展開する。


「五行の陣の要である正純、朝顔、タイム、瑠々、安奈、遮那。一人でも倒れれば均衡が崩れます」
 テアドールは駆けつけたイレギュラーズにそう告げた。
「俺達がその均衡を崩してしまうのでは無いのか?」
 イズル(p3x008599)はテアドールと距離を起きながら問いかける。
 以前、四神の眷属に情報を流したのがこのテアドールではないかとイズルは考えているからだ。
 全ての情報を鵜呑みにする事は出来ないが、おそらく均衡が崩れるのは本当なのだろう。
「貴方達、神使は問題ありません。その五行の枠の中に収まらない。だからイレギュラーズ。特に貴方達が使う月閃はそれらを凌駕する力なのです」
 黄緑の光を放ちテアドールはイレギュラーズに手を差し出す。
「もし、五行の陣の誰かが倒れれば、わたし達が代わりになれるってこと?」
 タイム(p3x007854)はテアドールに向かって首を傾げた。
「はい。代わりになることができます。けれど、月閃は長く使う事は出来ないでしょう」
 月閃は夜妖の力を纏い膨大な力を手に入れる事が出来る。
「凄い代償があるんだったか?」
 桃花(p3x000016)の問いかけにシャナ(p3x008750)が首を横に振った。
「月閃の代償は太陽の侵食。陰陽の均衡が崩れることだったが、今は混沌側で大部分が堰き止められているらしい。完全では無いが影響を最小限まで抑えてくれているそうだ」
「ひよのさん達が頑張ってくれたんだよね」
 スイッチ(p3x008566)は月閃を使う事によって侵食度への影響は低いと頷く。

「でも、何だか怖いですね」
 入江・星(p3x008000)は湧き上がる不安に自らの腕を掴んだ。
 朱雀と白虎の襲来。この大きな流れはヒイズル側だけではない。
 これは『現実』と『虚構』の同時侵略であるのだろう。
 マザーのシステム障害が齎した現実世界の人々が感じた不安感。それを読み取ったネクスト側にも影響を及ぼし両世界に連動した『真性怪異』による同時侵食が開始されたのだ。
 急速に侵食されるヒイズル側の変化。それはNPCのデータが明確に敵対した。
 遮那にとっては『全てが敵になった』状態である。
 神霊の四神や朝廷――霞帝、その何方もが『神使』と遮那を逆賊として処刑宣言をした。
 全ては、神光に座する国産みの女神『豊底比売』が為。
 今まで一歩後手に回っていたのはイレギュラーズが真性怪異の『真名』を知らなかったから。
『豊底比売』も『ヒイズル』という名も希望ヶ浜にリンクさせるため。『再現性』古くからあった日出神社に寄せることで神格を偽装し少しずつ張り巡らせた。
 その真名こそ『神異』。夜に差す光を祓い、均衡を取り戻す。
 それがイレギュラーズの使命。

「朝顔さんの水神結界もそう長くは持たないでしょう。早急に倒さなければいけませんね」
 空に展開する魔法陣に視線を上げる星は小さく息を吐く。
「じゃあ空中戦になるのかな? わたし飛べないけど」
「問題無い」
 頭上から遮那の声が降り注ぎ、同時にタイムの身体がふわりと浮いた。
「わわ!?」
 浮き上がるタイムをシャナが掴み、地面に降ろす。
「緑柘榴の宝珠の力だ。自由に空が飛べる」
「では、何も心配する事は無いな。白虎と朱雀を倒せば良いのだろう?」
 ユリコ(p3x001385)は群青の瞳で赤き空を見上げた。

 ――――
 ――

 赤き刀身が夜空に火花を散らす。
「はっ……!」
「も~! うっとうしいのじゃ~!」
 朱雀のおっとりとした喋り方とは裏腹に、指先から放たれる苛烈なる炎は一瞬で人を灰にするものだ。
 遮那がそれを避け切れているのは妖刀廻姫――ヴェルグリーズの力があるから。
 神霊たる朱雀との剣檄は熱を帯び、ヴェルグリーズの刀身を真っ赤に染め上げた。
 されど、場に溢れた水を含んだ空気は熱せられた刀身を一気に冷やす。
 それが数度繰り返された時、遮那は刀身が軋むのを感じた。
「痛むか」
 ヴェルグリーズ自身も軋みを感じているのだろう。
 長く剣としてあった身。これまでの戦いでその刀身に何度も傷が入っていた。その度に打ち直され生まれ変わる。だから、ヴェルグリーズにとって平時と変わらない。戦いとはそういうものなのだ。
「いえ。まだ戦えます。この戦いが終わるまでは何としてもお側におります」
 人の形を取ったヴェルグリーズの腕には蘇芳の赤が滲む。
「おうおう、生き急ぐか小僧。折れ掛かったのを折角繋いでやったというのに」
 天空を翔るクロウ・クルァクが口の端を上げた。
 それは呪いだ。因果をねじ曲げられたのだから。
「お互い傷だらけだなヴェルグリーズ。だが、まだ折れるには早いだろう。共に行くぞ!」
「御意」
 再び剣となったヴェルグリーズを携え、遮那は空を駆け上がる。
 
 ――大丈夫ッスよ、遮那さん。僕が必ず君の命を守ります。
 胸の内に秘めた決意を噛みしめ。鹿ノ子は彼岸花の瞳で遮那の背を見つめた。

GMコメント

 もみじです。ヒイズル決戦。
 四神二柱との戦いです。

●目的
・朱雀と白虎を鎮める

●ロケーション
 遊郭が建ち並ぶ色町です。
 朝顔の水神結界で守られていますが、神霊たる朱雀の炎の前には長くは持ちません。
 早急に朱雀と白虎を鎮める必要があります。

 空中戦ですが、遮那の持つ『緑柘榴の宝珠』の力で全員に飛行能力が付与されています。
 もちろん、叩き落とされたり意識を失えば墜落します。

●敵
○『焔王』朱雀
 見た目は幼い童女の姿をしていますが苛烈なる焔王。四神の一柱。神霊です。
 ゆったりした口調で喋りますが遮那とイレギュラーズを倒せと命令されていますので容赦はありません。

・焼き尽くす:神遠単、死亡
 塵も残さず焼き尽くします。

・焔舞:神遠域:大ダメージ、火炎、業炎、炎獄、紅焔
・炎渦:神至域:極大ダメージ、紅焔

○『武神』白虎
 見た目は耳と尾を持つ少女の姿。四神の一柱。武神の神霊です。
 大気を司る大精霊であり、風や雷を操る他、大地にも干渉する。

・雷陣烈:神遠域:大ダメージ、痺れ、ショック、感電、雷陣
・風陣突:神遠域:大ダメージ、窒息、苦鳴、懊悩、無常
・裂爪:物至単:極大ダメージ、出血、流血、失血、滂沱

○煉獄火×20
 炎をまき散らします。

○風霊人×20
 暴風を起こし攻撃してきます。また、炎の威力を強めます。

●NPC
○天香遮那
 混沌では十五歳ほどの少年ですが、二十二歳。
 妖刀廻姫を携え戦場を駆けます。
 この国の未来を拓くという強い意思を胸に秘めています。

○妖刀廻姫(ヴェルグリーズ)
 遮那に憑いた夜妖です。
 激しい戦闘の最中、刀身に軋みが出ているようです。
 それでも主である遮那と共に戦場に立ち続けます。

○鹿ノ子
 遮那の恋人。遮那よりも月閃を上手く使いこなせます。
 危険な戦場に連れて行っては貰えませんでしたが、今回は一緒に居ます。

○隠岐奈朝顔
 遮那の婚約者であり水神の加護を賜る八百万。
 五行の陣の最も重要な要です。

○小金井正純
 星の巫女。天香の重要な巫女職です。
 神霊に対抗する五行の陣を敷くことは正純にとって命を削る行為です。

○伽羅太夫
 柊遊郭の最高級花魁。情報を遮那や正純に流して架け橋となっていました。
 親友や自分の居場所を守る為に祈り続けています。

○天香瑠々
 遮那の義妹。天を追われた雷神の子です。
 封縛解除をして本来の雷神の力を取り戻しています。

○楠安奈
 夫である忠継の意志を継ぎ、天香の為に戦場に来ました。
 本来であれば長胤や蛍の傍に居るはずの彼女が戦場に現れた真意は不明。
 もしかしたら『誰か』の願いの為かもしれません。

○アーマデル
 蛇巫女です。クロウ・クルァクが離れているため戦闘能力はそれ程高く在りません。
 しかし、膨大な魔力を有しています。五行の陣を補う役目を果たします。 

○クロウ・クルァクと白鋼斬影
 二柱とも神格を持つ真性怪異です。
 異邦の神なのでヒイズルでは朱雀や白虎の神格には及びません。
 ですが、どちらも蛇神なので水行の相を持ち、水神結界の効果を強めてくれます。

○『妖精』テアドール
 イレギュラーズの事を『外の世界』から来たと認識するNPC。
 バリアや回復でサポートしてくれますが、敵に情報を流したりと暗躍もしているようです。

●サクラメント
 戦場の近くにありますので、戦闘中に戻ってくる事ができます。

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、侵食度に微量の影響を与えます。

●重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

※本シナリオは運営スケジュールの都合により、納品日が予定よりも延長される可能性がございます。

  • <神異>琥珀の月が廻り完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月04日 22時05分
  • 参加人数15/15人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(15人)

桃花(p3x000016)
雷陣を纏い
那由他(p3x000375)
nayunayu
梨尾(p3x000561)
生まれたものに祝福を
リュート(p3x000684)
竜は誓約を違えず
ユリコ(p3x001385)
電子美少女
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)
女王候補
タイム(p3x007854)
月将
ベルンハルト(p3x007867)
空虚なる
入江・星(p3x008000)
神落し
星羅(p3x008330)
誰が為の器
スイッチ(p3x008566)
可能性の分岐点
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
シャナ(p3x008750)
爪紅のまじない

リプレイ


 赤き焔来たりて、紺青の空を染め上げる。
 吸い込んだ熱に喉の奥が焼けてしまいそうだと『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は髪を揺らした。
「やれやれ、R.O.Oのヒイズルにはあまり来ていなかったが、厄介なことになっているね」
 この世界のレインリリィは、人々の守護者だ。その為に戦う者だ。
 現実では貫けないような生き方をするために此処に立っている。
「詳しいこの国の事情には疎いが、人々を見捨てる理由はないさ。そうだろう?」
 レインリリィの視線の先、『爪紅のまじない』シャナ(p3x008750)が深く頷いた。
「敵が神だとしても……私は誰も死なせるつもりはない! その為の覚悟と痛みはいくらでも背負おう!」
 理想の果てに何があろうとも。誰も死なない奇跡が見たいから。
 琥珀色の瞳を上げてシャナは夜空を染める焔を見つめる。

 天空で戦う天香遮那に視線を流すのは『殲滅給仕』桃花(p3x000016)だ。
 これまでの遮那の行ってきた事。それが全て正しかったとは思わないと眉を寄せる桃花。
 一人で抱え込み、周りを置いていってしまう。それが、何れだけ大切な人達を心配させたのか。
 桃花はむず痒い胸の痛みに溜息を吐いた。
「あぁ、全く……」
 腹立たしさと同時に焦燥が桃花の腹に溜っていく。自分の友人達もこんな気持ちだったのだろうか。
 あの時、周りを置いて先走った自分と似ている遮那を見遣る。
「それでもダ」
 紡がれた縁は此処に結実したのだ。
 ならば、後は誰も死なずに勝ち鬨を上げ、ハッピーエンドを待つばかりなのだ。
 そうしなければならないのだと桃花は胸に光を灯す。
「人を守ると言いながらも犠牲は顧みぬか」
『電子美少女』ユリコ(p3x001385)は瓦の上から剣檄を聞いた。
 先陣を切る遮那が正にいま、空の上で戦っている。
「正しく狂うておる。だが、それ故に付け入る隙もあろう」
 ユリコの隣には『楠安奈』の姿があった。それを横目にユリコは口の端を上げる。
「貴女はよくよく人に託される星の元に生まれる様だ」
「我の事を知っているのか?」
「……失礼、初対面であったな。知り合いに似ていた故」
 腰に差した刀柄を握りユリコへと向き直る安奈。
「貴女が現れたのは長胤殿か蛍殿か……或いは別の方の願いであるのか。きっと貴女自身の願いでもあるのであろう、遮那殿は果報者であるな」
「ああそうだな。あの方は我にとって弟のようなもの。沢山の願いを背負っている。生きて欲しいと願う人達が居るのだ……忠継も」
 最後に小さく呟かれた名にユリコは僅かに目を伏せた。心の奥でザラリとした血流が脈打つ。以前では、気にも止めていなかった情動。それに気付かせてくれたのは、現実世界の安奈だったから。
「さて、決意のままにその力振るわれよ。吾は貴女の心の慰めになる事は出来ぬが……貴女の行く道を開けさせることは出来る! ……ゆくぞっ!」
「ああ!」
 この戦いが現実世界の安奈に恩を返す事にはならないけれど。今此処に居る安奈に『恩送り』が出来る。

「総力戦と言った感じですね。これは壮観です」
 光輝く空を見上げる『nayunayu』那由他(p3x000375)の鼓膜を雷音が揺らした。
 視界を横切っていく光は雷神の力を解放した瑠々だ。
「雷神ですか。ふむふむ、瑠々さんとは是非仲良くなりたいですね。色々とお話をしてみたいです」
 ふふふふと含み笑いをする那由他は迸る雷撃を放つ瑠々を見つめる。
「狙いは遮那さんや自分達だろうに。関係ない色町まで焼くとは……本気を見せるのではなく炎のコントロールができないだけでは?」
 辛辣な言葉を乗せる『燃え尽きぬ焔』梨尾(p3x000561)は挑発するように朱雀達を指差した。
「姫様姫様とぴーちくばーちく鳴くうちに頭が小鳥になりましたか? それとも今まで障害は全て焼き払ってきたと?」
「あっちの世界ではふんわりほわほわの火の鳥なのになー。こっちはアチアチっす。焼き鳥でもあんな感じにはならないっす」
 梨尾の隣にいる『食いしん坊ドラゴン』リュート(p3x000684)は仔竜の身体をコテンと傾げ朱雀を見遣った。このR.O.Oの世界でアバターである自分達が死んでも本当に生命が失われるわけではない。
 痛みは伴うがサクラメントで復活出来る。
「死亡は覚悟の上。軽率に焼けるのは嫌だが色街のまだ見ぬ美味しいご飯のために頑張る!!!
 あと、朱雀ちゃんはあんな頑張らない!!!!!」
 現実世界の朱雀はいつもぼんやりとしていて、眠そうだったから。
 頑張っている朱雀はらしくないとリュートは吠える。
「自分は四神をよく知りませんが、そんな乱暴者だったら、神光は既に焼け野原になってますよ……こちらを成敗する前に、自身が今してる事の被害を考えてください!
 同じように梨尾も朱雀に向かって飛び出していく。

「ここで頑張らないとR.O.Oごと崩壊するかもってホント?」
 戦場の風が『女王候補』アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)の金色の髪を揺らした。
 夜空を落とし込んだラピスラズリの瞳は、焔赤を広げる朱雀へと向けられる。
「神様相手に私情で悪いけど、リアルからの逃げ場を護るために戦わせて貰うわ!」
 せっかく見つけた自分の居場所を失わない為に、アンジェラは声を震わせた。
「駄目よ街を焼き払うなんて……!」
 胸元で手を握る『月将』タイム(p3x007854)は小さく首を振る。
 主神の眷属たる四神二柱が人々へ干渉を行えば、街の一区画などすぐに消滅するだろう。
 特に全てを焼き払う炎を纏いし朱雀と、荒れ狂う武神たる白虎の二柱だ。
 彼等が本気を出せば一瞬で辺りは灰になる。
「ネクストのわたし達が守りたいこの国。その願いと祈りを妨げる理由は何も無いわ」
「うん。この色街には今回の件に関係もない人も大勢いるのにこの凶暴さ。俺達が来なかったらどうなっていたかと思うと……ぞっとするね」
 タイムの背後に居た『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)が空を見上げ眉を寄せた。

『星が聞こえぬ代わりに』入江・星(p3x008000)は、こんな時に不謹慎だがと、己の心に浮かんだ感情に焦れた。天香に関わる様になってから初めての大戦。
 現実世界の戦いでは『正純』にとって天香は討つべき敵だった。
 戦いを終わらせる一矢を放ったのは自分だった。だからこそ。
 ネクストで立派になった遮那が居て、彼の周りに皆が居ることが嬉しかったのだ。
「であれば、負けてやる訳には行かないでしょう。入江・星、改め小金井・正純、天香の、ひいてはヒイズルの敵からこの国を守りましょう!」
「ああ! オレは陣を維持するために要になっている5人を守るね!」
 星の隣に走って来たのは『カニ』Ignat(p3x002377)だ。
 彼は赤い瞳を五行の陣を張っている朝顔へと向ける。
「朝顔、正純、伽羅を中心に守って、アーマデルにも注意を払うようにしよう」
「ええ。分かりました」
 Ignatは正純とタイムに声を掛け、自分達の役割が陣を張るNPCを守る事だと確認しあう。小さな言葉掛けが連携を生み出すのだ。
「皆が懸命に戦ってる姿を見ていると現実とこことの違いなんて些細なことだって思えて来るね。オレも負けてられないよ!」
 Ignatの声は『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)とアマルの耳にも届いた。
 お互いの姿を現実世界とは入替えたイズルとアマルの視線が、周囲を漂う『テアドール』へと注がれる。
 個別のチャットでイズルとアマルは会話をしていた。
『テアドールというNPCは、確かに怪しいね。動向には注意したほうがいい』
『ああ、『外』の存在を理解している時点で普通のNPCでは無いからな。管理側の権限を持ちとか……?』
『現状キミから聞いている情報ではそれを断定する事は出来ないね。もっと大きなメインストリーム用に組まれたAIかもしれないし』
 アマルの結論にイズルは確かにと納得した。
 何故、テアドールは蛇巫女を呼び寄せたのだろうとイズルは『アーマデル』を見遣る。
 蛇巫女というより、彼に憑いたクロウ・クルァクの力が必要だったからなのか。
 この場に現れた朱雀と白虎。対してこちらは優位な五行属性である水神を二柱も用意した。それもテアドールの思惑によってだ。四神側に勝って欲しいと思っているなら、クロウ・クルァクと白鋼斬影の二柱はこの場に居ない方が都合が良い。
『真性怪異同士をぶつけようとしたとしたら? 蛇神達の弱体化を狙っているとかね』
『その可能性も否定できないな。止めを刺されないように注意しよう』
 イズルとアマルは頷き合った。


「私は眷属達を相手取る」
 星屑の煌めきを纏い、夜空へ飛び上がる『貴方の笑顔を護る為』星羅(p3x008330)の視線は風霊人へと向けられている。
「彼等がいるだけで、炎の勢いが強くなるから」
 程よい風は焔を燃え上がらせる。そして延焼を誘発してしまうから。
 リボルバーから放たれる弾丸は風霊人を次々に貫いていく。
「痛くなくとも弾丸が当たるのはストレスでしょう、さあ、此方へいらっしゃい」
 戦場の隅へ誘導するように、敵を打ち続ける星羅。
「聡いならば気付くでしょう。でも」
 怒りに我を忘れた風霊人達は星羅を追いかけてくるのだ。
「……そう、それでいい。かかってきなさい」
 星羅が敵の注意を引くように挑発した。
「ここでどれだけ倒せるかで後が変わる。だからこそ1匹も逃すつもりはない」
 星羅はリボルバーを風霊人へ向ける。彼女の前方にはシャナの姿があった。
「NPC達を守る為にも眷属はすぐ倒すべきだ。それに私も遮那や朝顔……そして鹿ノ子を守りたい」
 星羅と共に、月の閃光を纏い。何度でも響けと声を上げる。
「響け! 私の歌声! 早く動け! 私の体! 私には行くべき所がある! 其方らだけに構ってる余裕はない!」
「あの人の笑顔をもう一度見るまでは、こんなところでなんか死んでいられないのよ」
 傷を負い、血だらけになりながらも星羅とシャナは攻撃の手を緩めない。
 たとえ、倒れたとしても。
「何度だって生き返ってやるわ。そうでなきゃ、私は私を許せない」
 迸る弾丸と剣の火花。

「”卿”らは、何故此処で戦う」
 朱き焔が視界を割って。『空虚なる』ベルンハルト(p3x007867)の声が朱雀の耳に届く。
「遮那を逆賊として討ち、國を守ると言うならば。今卿らが行っている行いは何だ」
 水神の加護に守られているとはいえ、色町には多くの花魁達が残っていた。
「逃げる事も出来ぬ女どもを犠牲にしてでも敵を討つ事が、”貴様”ら『國護りの神』が行う所業であると言うか!」
 ベルンハルトの声に朱雀は視線を色町に向ける。
 確かに、自分はこの国の繁栄を願い信仰される神だった。
 普段は内側から溢れる力を押さえる為に、浅い眠りを揺蕩っている。
 一度覚醒すれば、炎を司る者として『悪逆』を燃やし尽くすまで止まらぬ身。
「……」
 どうして、天香遮那を悪だと思っているのだろう。その動機が自分の中に見当たらない。
 僅かに動きの止まった朱雀を見てベルンハルトは眉を寄せた。
「忌々しい」
 その動揺がベルンハルトには手に取るように分かるからだ。
「自らの存在意義を忘れ、侵略されるがままに堕ちるなど」
 ベルンハルトは知っている。自身の存在は――自分が感じるこの『個』は誰かが作った紛い物。
 忘れられるなら楽なのだろう。関係無いと捨てられるなら苦痛は無い。
「だがそれは許されぬ。我が名はベルンハルト。この名が忌々しき現実に与えられた仮初めの名であったとしても。この名だけは地に墜とさぬ」
 それが自身が信じる『個』だから。自分自身を肯定するものだから。
 緑柘榴の加護を纏い、朱雀の元へ飛び上がったベルンハルトは狼の声で叫ぶ。
「思い出させてくれよう、貴様らの名を。意義を!」
 戦場に響き渡るベルンハルトの声。
「その光、俺が喰らう――」
 自らの行いに疑心を抱け、自らの思考に疑念を抱け、考えよ、自らに問え。
 月が閃き。朱雀の焔が大きく揺らいだ。

「朱雀、白虎、これ以上の狼藉許すまじ! 月閃の一刀の元に鎮まり給え!!」
 スイッチは夜空に軌跡を描きながら朱雀へと飛びかかる。
 剣尖が朱雀の炎盾に当たり弾かれた。
「周りを見て。たくさんの人達が怯えている。これがキミ達のやるべきことかな?」
 ベルンハルトも同じようなことを言っていたと朱雀は眉を寄せる。
 確かに人々の恐れを感じ取れるのだ。だが、覚醒した炎化身の前には大抵の人間は畏怖する。
 神と人間とは根本的に在り方が違うからだ。だからこそ慈しんで来た。
「本来のキミ達はこんな状況望まないはずだよ」
「その言い分は、まるで妾達がおかしくなったと言うようではないか?」
 自分がおかしくなってしまった事を否定するのは簡単だ。自分は正しいのだと思うのは生きとし生ける物全てにおいて正常な脳の働きだからだ。
「でも、否定出来ないでしょ?」
「ぬぅ……」
 眠って居る間に自分の中に自分では無い何かが入り込んでいるのを朱雀は感じていた。
 神というものは時と共に願いを受けて変容していく事も有る。だから、寛容であるのだ。
 されど、急速に侵食してくるような感覚は初めての事だった。これがベルンハルトやスイッチの言うものなのだとしたら、否定をするのが難しい。
「しかし、一度覚醒した炎は止まらぬ」
 使命を持って此処へやってきた朱雀達を止める事は出来ない。燃やし尽くすまで止まらない。
 それが朱雀の在り方だった。普段は眠そうにしているのは苛烈なる炎を押さえ込んでいるから。

「厄介なものだね」
 在り方を変えるのは難しいとイズルはスイッチの傷を癒しながら朱雀を見上げる。
 火炎と電撃を無効化するバフを仲間へと効率よく掛けていくイズル。
 朱雀と白虎の戦いにおいて、この効果はとても有効だ。
 イズルは視線を上げて遮那が振るう妖刀廻姫を見遣る。
「廻姫のその刀身もまた身体ならば、回復は効かないだろうか?」
「見るに、あのひび割れは一つ一つが『重傷』となるものだろうね」
 イズルの問いかけにアマルが目を細めた。
「なるほど。深度が高いのか」
「でも、軽微な傷は効果があるようだね。回復は続けた方が良い」
 軽微といえど積み重ねれば『重傷』となりうる。それを防ぐのは我々の役目だろうとアマルはイズルに視線を送った。勝敗を左右するのは、命を繋ぐのは、その一つの傷の有無かもしれないから。
 イズルは仲間へと回復を絶やさない。

 梨尾とリュートは小さな身体で上空を駆け抜ける。
「すれ違いアタック上等、スーサイドアタッカーの意地を見せるッス!」
 朱雀の懐に飛び込んでいくリュートをフォローする形で梨尾が炎の礫を盾で受け止めた。
 じりじりと熱を帯びる盾に梨尾は眉を寄せる。
「やっぱりすごく強いですね」
「――我が焔、悪しき者を滅する再生の灯火」
 朱雀の瞳が輝きを増したのを梨尾は見逃さなかった。
 されど、盾で弾いた炎礫からのリターンモーションが終わっていない。
 避け得ぬ射線に息を飲んだ梨尾。
「梨尾、どくッス!!!!」
 降り注ぐ言葉と共に、勢い良く肩が押され、背中に炎の熱が伝わる。
 梨尾が即座に振り向いた時にはリュートは跡形も無く消え去り、消滅エフェクトだけが残っていた。
「リュートさん!?」
『あー、大丈夫ッスよ! サクラメントで復活したッスから、すぐ戻るから踏ん張って欲しいッス!』
 パーティチャットに表示されるリュートの言葉に胸を撫で下ろす梨尾。
「一筋縄じゃいかないですね。すぐ帰ってきてください、リュートさん!」
『任せるッス! すーぐ飛んで行くッスよ!』
 きっと自分が燃えたとしても、リュートと同じようにすぐに帰還するだろうと梨尾は朱雀を見遣る。
「何度死んでも心は絶対に燃え尽きない!」
 ネクストの住人を死なせない為なら自身の屍を積み上げるのだと梨尾は雄叫びを上げた。
 自身も家族と死に別れたから。その辛さがよく分かるから。
 現実世界で分かたれた遮那と長胤の兄弟が、この世界では一緒に暮らせるようにしたいと梨尾は瞳に強い光を宿す。
「――待たせたッス!」
 大きな黒竜が梨尾の目の前に現れた。
「リュートさん! その姿は……月閃?」
「そうッス! これでも『神』を名乗ってるんだ! 気持ちで負けるわけにはいかないッス! さあ、梨尾、行くッスよ!」
「はい!」
 何度でも。何度だって。立ち上がってみせるから。
 梨尾とリュートの思いは夜空へと解き放たれる。
「貴女が名高き朱雀であるか。相手にとって不足なし! いざ参る!」
 ユリコの声が戦場に響き渡った。
 短期決戦の為、月閃を身に纏わせたユリコが己の拳を開いて指を折る。
「……これが、噂に聞く力か」
 内側から溢れ出す力。されど、侵食されそうな自分が自分で無くなってしまうような気持ち悪さがある。
「しかしこれも目的の為とあらば受け入れよう。現実世界のように動けぬのが歯がゆいが……それでも似たような動きは出来る」
 叩きつける拳に乗せる矜持。戦いの中で咲き誇る花なれば。
 世界が違い、能力が違えども。振るう拳と気持ちは同じなのだ。


 スイッチはリュートを焼き尽くした朱雀の行動を分析していた。
 流石は炎の化身。本来の姿を取れば詠唱など不要なのだろう。
 戻った順に焼き尽くされぬよう細心の注意を払うスイッチ。
 視線は遮那が振るう妖刀廻姫に注がれる。
「廻姫、ヴェルグリーズ、体が軋んでも主の力になろうとするその気持ちよく分かるよ。俺達は主の為に在るものだからね」
 此処が最後の戦場になるにせよ。そうでないにせよ。
「相手は神霊、相手としては一切の不足なし。全力を持って戦おうじゃないか」
 それが剣の精霊たるヴェルグリーズの矜持だ。
「遮那殿も彼を存分に振るって上げてほしい。それが彼の為だから」
 小さく呟かれた言葉は剣檄の音に掻き消されてしまったけれど、きっと遮那は以前より理解している。
「最悪の場合、クロウ・クルァク殿の力があれば、また繋ぎ直せるのではと思ったりもするけれど……そこは主である遮那殿の意思次第……かな」
「まあ、其れを望めば直してやることも可能だが」
 スイッチの声にクロウ・クルァクが応える。

「こんな、民草を巻き込むような戦い方は本意じゃないだろうに……!」
 他の仲間が朱雀へと集中攻撃を仕掛ける間、レインリリィは白虎に対峙していた。
「人々を暴威に晒す前に、どうか鎮まってくれ!」
「汝は強い。我も強い。だから、戦うのじゃ!」
 白虎の言葉を聞いたレインリリィは唇を噛みしめる。これ程までに侵食されてしまったのだろうか。
「思う所があるのかもしれぬ。だが、結局の所信念を貫く者は強い。其れを示せぬようでは、我を倒せぬようでは――この先の神は倒せぬ」
 己の信念をぶつけ合い。ぶつかり合った先に、分かり合えるのだと白虎は笑う。
 侵食されようとされまいと、きっと武神白虎は戦いを選ぶのだろうとレインリリィは思った。
「仕方ない。勝負だ!」
「おう! 受けて立つぞ!」
 レインリリィと白虎が剣檄の音を響かせる。
「長い事戦うのは無理があるからな。一気にぶちのめすぜ!」
 桃花は遮那へと振り向いた。その隣には鹿ノ子の姿もある。
「死ぬなよ二人共。ここまで来てソイツは笑えねえゼ」
「……」
「長胤も蛍も待ってる。ここにいるみんなが待ってるんだ」
 桃花の言葉にヴェルグリーズを握り絞める遮那。適当に頷いてしまえば薄れる決意。何れだけ在り方を変えようとも本質的な所は変わらないのだと桃花は目を細めた。
 背負う咎を他人に渡せないのだ。死を賭して戦う覚悟に半端な嘘が吐けない。
「この決戦に勝利して直ぐ平和になると其方は思うのか?」
 遮那が応えぬのに痺れを切らしたシャナが叫ぶ。
「其方に罪があるというのなら生きて償え! 最期まで守る、じゃない。最後まで守り”続けろ”! それに約束しただろう? 私は星影 向日葵。其方に笑顔を取り戻すと! 死に逃げは許さぬ!」
「遮那さんは一人で覚悟を決めたのね。でも、ここに来るまでの道のりは決して一人ではたどり着けなかったでしょう?」
 タイムは琥珀色の瞳を揺らす遮那に語りかける。
「残される辛さややるせなさを知っているのならどうかその命を散らさないで。運命を呼び寄せる為にわたしはここにいるんだから」
「……分かっておる。この戦場で死ぬつもりは無い」
 だからこそ戦い抜くのだ。未来の道を開くために。

「陰(かげ)と陽(ひ)よ、転じて廻れ――魔哭天焦『月閃』!」

「虎の姿かと思ったら、少女なんですね。うん、とても良いです」
 那由他は二刀を構え、不敵な笑みを浮かべる。
「さあ、楽しく愛しあおうじゃないですか! くふ、くふふふ」
 三日月の唇に朱が走り、緑瞳が細められた。
「色んな華に目移りしてしまうでしょうけれど、私のことも見てください」
「うむ、行くぞ!」
 那由他の剣に重くのし掛る白虎の爪。余りにも強大な力に那由他の腕が軋む。
「んふ。攻撃から貴女の思いが伝わってきます。こんなに意識してくれるなんて嬉しいです」
 唇が触れられそうな程、顔を白虎に近づけた那由他は愉しそうに微笑んだ。
「さて、これで全力が出せそうですね。私の愛をもっとその身で感じてください、ね?」
 那由他の身体を這う薔薇の文様が赤く光り、月閃が彼女を変容させる。
 蔦が白虎に絡みつき離すまいと締め上げた。
「二人でお喋りして、一緒に傷つけ合って、こうやって遊んで。私達ってとっても仲良しですね」
 高らかに声を上げた那由他。締め上げられた白虎の皮膚を棘が刺し、アガットの赤が流れて行く。
「アハハハ! 例え神であろうと、罪を犯せば糺されます。自らが庇護する民を暴力で従わせようとした時点であなた達は間違ったのです」
 白虎の頬を掴んで片方の剣を振るう那由他。
「ここで自らを省みて正気を取り戻してください」
「ぎぁ……ッ!」
 割かれた胴を押さえ、那由他から距離を取る白虎。
「神様に私のことを認めてもらえればこっちに留まる理由も生まれるかもしれないし」
 白虎の前に躍り出たアンジェラは桃花を横目で見遣る。
 彼女のダメージの蓄積によって、この身を盾とするのだ。
 決して倒れぬ不屈の身体。アンジェラは桃花が受ける傷をその身で受け止める。

 ――――
 ――

「二柱は他の人に任せ陣を張るわたし達を護る。護られる存在のわたし達っていうのもムズムズするわね」
 短期決戦の折、五行の陣を張る朝顔たちを守るのは星とタイム、それにIgnatだ。
「同じ顔のよしみで護られてくれると助かるわ。ね、正純さん!」
「……え、ええ。そうですね。こちらは時が経てば経つほど苦しくなるでしょうし」
 タイムの含んだ微笑みに相づちを討つ星。おそらく、タイムはおどけてみせる事で自分自身を奮い立たせているのだ。自分の足が竦んでしまわないように。

「流石にこの陣が要だって分からない程におバカではないと思うのよ」
「そうですね。腐っても四神二柱です。範囲攻撃に巻き込む可能性も高い」
 タイムと星の言葉にIgnatが頷く。
「命を懸けて神と正対しようって連中が居る! この姿を見て本気にならないなんてゼシュテルとしちゃウソだね!」
 この色町を四神の脅威から守りたいと思う人達が居る。この国を守りたいと思う人々がいる。
 Ignatが拳を掲げる理由なんて其れだけで良い。
 仲間が貫かんとする正義のために。己も拳を振るうのだ。
 飛んでくる火の礫を軽やかに飛び上がって叩き落とすIgnat。
「決戦って感じがして盛り上がって来たじゃないか! 陣の要はやらせないよ! FIRE IN THE HOLE!!」
 注意深く朱雀の動向を鋭いIgnatの視線が射貫く。
「特にヤバイのはあのリュートを消し炭にした攻撃だね!」
「ええ。あれをこの子達が受けると、本当に消えてしまう」
 アバターである自分達であれば、サクラメントから復帰できるけれど。
 この世界の住人である朝顔や伽羅太夫、正純、アーマデルは死んでしまうだろう。
「其れだけでは無いですよ。周りの眷属達も厄介です」
 シャナや星羅が引きつけてくれているにせよ数が多い。此方にも迫ってくる勢いだ。
「大丈夫! まかせてよ! オレ達が全部やっつけてやるからさ!」
 Ignatの力強い言葉にNPC達も頷く。自分達イレギュラーズが弱気になっていては彼女達も不安だろう。
「いざとなれば、代わりますので。陣の維持に集中してください」
 星の言葉に正純が頷く。
「闇よ、護る為の力となれ――!」
 誰が欠けても嫌だから。タイムは敵を打ち払うために月を纏う。
「私は先に眷属達を打ち払うわ!」
「はい。任せました」
 守り切るためなら敵を先に打ち倒せばいいいだけのこと。
 誰かが欠けた時の事を案じて出し惜しみはしたくない。
 不安がタイムの瞳に滲む。月閃を纏っても自分に出来る事はほんの少しだと実感してしまうから。
「クロウ・クァルク!」
「何だ、小娘。気安く神の名を呼ぶとは」
 呼び声に傍に現れたクロウ・クルァクへ視線を向けるタイム。
「あなたも神でしょ! もっと働いてよ! みんなを死なせずに済んだら何でもするから!」
「クロウ・クルァクと白鋼斬影は水行を張り巡らせて援護をお願いする。テアドールもな。色街の住民が炎に巻き込まれそうになった場合は助けてやってくれ」
 ベルンハルトは真性怪異と妖精に指示を下す。
「言われなくとも元よりそのつもりだ。まあ知らぬ人間を助けるかはその時次第だがな。確約はできぬぞ」
「私達は依代を選びます。壊れてしまっては困りますからね」
「ああ、それで構わない」
 もし彼等が助けられない状況なのだとしたら、自分が動くとベルンハルトは口の端を上げる。
 真性怪異達は朱雀達に相対する理由があるのだろう。しかし、テアドールはどうだろうか。
 回復でのサポートをしてくれるようだが、用心するに越した事は無いと星は考えを廻らせた。


 戦況は苛烈を極め、膨れ上がるデスペナにイズルが悔しげに拳を握った。
 朱雀の炎――特に全てを焼き尽くす焔は一瞬にして目の前で仲間を消し去るのだ。
「イズル。悔しいけど其れに囚われるな」
「……アマル」
 的確に回復を施し、バフを掛けていくイズルの機転がなければ戦況はもっと酷く惨たらしいものになっていただろう。それは隣で見て居たアマルがよく分かっている。
「大丈夫。よくやっている。だから、躊躇わず前を向いて回復し続けろ」
 派手に前線で傷を負う彼等の為に。その背を支えているのは自分だと自負せよとアマルは告げる。
 イズルはパーティにとって必要不可欠の存在なのだから。

「オイ! そいつは星羅に使わせナ!」
 桃花は遮那に妖刀廻姫を渡せと叫んだ。
 普通であれば戦いの最中に所有者が変更される事は無い。
 ヴェルグリーズは主を選ぶ。偶々掴んでいる者が所有者になるような代物ではないのだ。
「だがソイツだけは特別だ! 悲劇の縁も本日で店仕舞って事サ!」
「……だがッ!」
 遮那は躊躇っていた。ヴェルグリーズを手放す事を。
 所有者から離れられないという制約とは別の『何か』を酷く嫌がるように。
「遮那さん、僕は大丈夫ッス。この戦いに負けてしまえば同じ事ッスから」
 鹿ノ子の言葉に振り向いた遮那は歯を食いしばる。
 今にも泣き出しそうな切ない視線を鹿ノ子に向けたあと、遮那はしっかりと前を向いた。
「分かった廻姫は星羅に任せる」
「ありがとうございます。彼は私が護ります」
 星羅は遮那に言いたい文句が沢山あった。ヴェルグリーズをこんなになるまで酷使したのだから。
「でも。貴方が見つけてくれなかったら、私達は廻り逢うことは叶わなかった。だから、どうかご武運を」
 彼の主は、遮那ただ一人なのだからと星羅は青き瞳を向けた。
 遮那は震える手で桃花に刀を寄越せと合図する。
「ああ、これを使いナ。妖刀『無限廻廊』って言うんだ。何か似たようなモンだろ。桃花チャンの専門はコッチだから問題ねえ」
 拳を握った桃花に背を預け遮那は黒い翼を広げた。

「廻姫様……いいえ、ヴェルグリーズ様。此処からは貴方の鞘たる私がお守りいたします。ですからどうか、ご安心ください」
 傷だらけのヴェルグリーズは、手を星羅に差し出す。
「……主が貴女に仮にでも所有を許したのであれば、それに従う他ないでしょう。よろしくお願いします」
「さぁ、行きましょう……大丈夫、私がついていますから。……貴方にしか無幻を止めることはできないのです」
 盾である自分も、鞘である『自分』もヴェルグリーズを大切に思う事には変わりは無い。
 ――貴方が私の名前を呼んでくれるから、私は貴方を護れるよう強くなりたいと思ったの。
 自身のリボルバーを敵に向け弾丸を放つ星羅。
 朱雀の炎は星羅の身を焼き、身体中の痛みに表情を歪める。折れそうになる足を叱咤して踏み留まった。
「駄目……あの子と同じ私の前で折れるなんて許さない!!」
 空っぽだった自分。何も無い自分。それなのに、ヴェルグリーズは星羅の手を取ってくれた。
 きっと、それは廻姫と無幻も同じなのだろう。
「でも、ね。貴方を護るのは、私だけがいいから……混沌で待っていて……ヴェルグリーズ」

 ――――
 ――

「フォローする!金生水ってヤツだから、オレのここでの鋼の身体は水の結界を補助するには悪くないはずだよ!」
 陣を張るNPC達にIgnatは声を掛ける。
 難しい事は解らないが、五行のことなら何となく分かるのだと身体を揺らす。
「ありがとうございます! まだやれます!」
「そう! ならオレはこっちを相手だ!」
 朝顔たちが頑張るというのなら、その意志は尊重したいとIgnatは思った。だから、自分に出来る事を選び実行する。スマートかつ効率的なゼシュテル流の思考法。
「……はっぁ」
 苦しげに眉を寄せる正純の肩を掴む星。
「代わります」
「いえ……遮那様が戦ってるのに」
 星の巫女という点においては、星の方が適しているのだろう。抵抗されるのは想定済み。けれど、体力が限界に達しているのは確かなのだ。
「大人しく休んでなさい、こちらの私。そして見守ってなさい。天香のために尽くしたいのは、貴女だけじゃあないんですよ」
 月纏い。星は結界の基点にその身を置く。
「ここを必ず守りきります!」
 星の声はアンジェラの耳にも届いた。桃花の代わりに傷を受け月閃を乗せた身体。
 女王候補に相応しい大柄で健康的な美人になったアンジェラは白虎の攻撃を耐えていた。
「ねえ、あなたたちすごい神様なんでしょ、誰かに私たちを倒すように命令されてるってホント?」
 武神白虎は豊底比売の命によりこの場に来襲した。
「すごい神様なのに誰かの命令に従って戦って傷つくなんておかしいわ……それとも本当は命令なんてただの建前で、私たちと戦いたいだけだったり?」
「そうだの! 覚醒した朱雀は分からんが、我は強い者が好きじゃ! 汝は強いな! 戦うのは楽しいと思うぞ!」
「やっぱり、戦いたいのね。じゃあ好きなだけ私を攻撃してもいいのよ! 私は中々強いでしょ?」
「うむ! 強い! 楽しい!」
 自分を攻撃する事に夢中になっている白虎にアンジェラは微笑む。
 言わばこれは生贄を捧げるという儀式だ。満足するまで戦ったら矛先を収めて欲しいという願い。
 信仰を集める神ならば、無視出来ないものだろう。
「よし! もっとじゃ~!」
 武神たる白虎の一撃を食らいながら、それでも立ち上がるアンジェラ。
 彼女のバイタリティには目を見張るものがある。
 何度でも立ち上がってくるアンジェラに白虎は大層喜んだ。執拗に追い回し爪を立て切り裂いたのだ。
 その横から那由他が二刀を振るい、桃花が拳を叩き込む。

 リュートはボロボロになりながらも朱雀達から決して目は離さない。
 自ら『神』を名乗るなら、間違った『神』に『リュート』は負けてはいけないからだ。
「夜に包まれ安らかに眠れる日を思い出せ。昼と夜があるからこそ、世界は幸せなのだ!」
 梨尾もリュートと共に焔傘を振るう。同じ志を持ち、仲間と共に夜空を駆けるのだ。
「光が強くなれば闇は濃くなり、陽も月夜に喰われるのが世の道理」
 リュートの傍に現れる水の神。麗しき水竜様の声が戦場に木霊した。
「貴様は調和された世界を乱す愚か者か? 自らの意思を捨て傀儡のような貴様が四『神』?
 神を名乗るのも烏滸がましいわ。その鋭き鳥の目で正しく物事を見よ」
 深い海の底で神として崇められた水竜様の声は朱雀と白虎の耳にも届いただろう。
「あの傑物は果たして何者だ? 今の世は燃やし尽くすべき終末か? 仕えるべき『神』は果たして貴様の『神』か?」
 静かな波の音の様な凜とした声。
 神だって穢れを孕み過ちを犯すことだってある。けれど世の中をよくしたいという思いは在るはず。
 それをリュートは知っているから。

 シャナは朱雀と白虎を交互に見遣り、現実世界で教えて貰った言葉を思い出す。
『最愛を求むのならばゆっくりと育むのじゃ』『心に寄り添い、苦難を支えよ』と彼女達は告げた。
「現実で私にそう助言をしたのは、其方達だ! なのに早急に事を成す事も、人の心に寄り添わぬ事も其方達らしくない!」
 剣檄が激しく火花を散らし、闇夜に迸る。
「見よ、この街に住まう者達の絶望に染まる瞳を。彼女らの目に貴様らは護国の神と映っているのか!」
 ベルンハルトの雄叫びが朱雀の鼓膜を震わせる。
「目映き光の所為で一寸先も見えぬと言うのであれば、その様な目は最早要らぬであろう」
 炎の化身に牙を突き立て、貪り喰らうベルンハルト。食い散らかし口元を赤く染めるは狼そのもの。
「――新たに見える目を、闇を以て私がくれてやろう」
 ベルンハルトの牙が月を反射する。

「此処には何の関係もない無辜の民も多く居るが、その力本当にここで振るってよいのか?」
 水行に傾いたこの場では朱雀の炎が弱くなってきているのにユリコは気付いた。
 だからこそ、このタイミングで周りを見るように言葉を掛ける
「貴女はもっと犠牲の出ぬ方法を選べたはずだ。なのに如何してその矛盾が分からぬ!」
 五行の陣が無ければ、色町は焼け野原となっていただろう。
 されど、自ら発した言葉は自分自身にも突き刺さるものだ。
「吾もかつてはそうであった。……人々を本当にどうでもいいものと思って居れば丸ごと燃やした方が早いと考えるだろう。難しい事を思考せず、ただ力を振るっていた。だが貴殿等はそうではないのだろう? 人を慈しみ守護する四神! その一柱なのだから!」
 ユリコの拳が朱雀を穿つ――!
 地面を転がった朱雀は赤い瞳を上げる。
 轟々と燃えていた炎が頼りなさげに小さくなっていく。

「妾は……間違っておったのか?」
 ベルンハルトやユリコが叫んだ言葉が胸に突き刺さる。
 人々を慈しむ神が、脅威となっていたというのだ。
 朱雀の大きな瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
 信じて居たものが正しくなかった。何処か変容し侵食されていたのだ。
「すまぬ……」
 手を伸ばすユリコにしがみ付いて、朱雀は己の間違いを認め、謝罪したのだ。


 泣き疲れて眠りに落ちた朱雀を、アンジェラ達と『戯れ』て満足した白虎が咥える。
 神使達と剣を交えた事で、四神二柱の中に掬っていた『光の侵食』が祓われたのだろう。
 この戦いそのものに、儀式的な意味合いがあったのだ。
 誰も死ぬ事無く、四神との戦いは終わった。

 星は五行の陣を敷き疲れ果てて座り込んでいる正純に手を差し出す。
「大切なもののために生命を削るなんて、実に私らしくて呆れますね」
「ふふ、そうでしょうとも」
「とはいえ、遮那さんや天香をきっちりとお支え出来ているようでなにより、ポジションで言えば烏滸がましいですが姉……」
 姉という言葉に視線を逸らす正純。
「ちょっと待ちなさい。なんですかその反応! もしかして何かあるんですか! ねぇ!!」
「いえ何でもありませんよ?」
 正純と星のやり取りに目を細めるタイム。その隣には伽羅太夫が居た。
「ねえ、遮那さんを、友人を、皆を想ってくれてありがとう」
「それはこっちの台詞よ。この街を、居場所を守ってくれてありがとう」
 大変な戦いだったけれど、生き延びる事が出来た。今はそれを祝おうではないか。
 タイムと伽羅太夫はお互いの肩を寄せて夜空を見上げた。

「侵食で捩れてしまったが……ヒトと神霊の関わり方のひとつの形がここにはあるのかもしれない」
 イズルはアーマデルとクロウ・クルァクの元へ歩み寄る。
 友人である燈堂の家もこの世界にはあるのだろう。本来で在れば蛇神を奉っている彼等はこの世界では何を守っているのだろうか。
「蛇巫女、アーマデル、キミはどうしたい?」
 ネクストでは蛇巫女の故郷ハージェスはまだ健在だが、蛇神が戻らねば他の魔物により滅ぶかもしれないとイズルは危惧したのだ。現実世界ではそうだったから。されど、自分はアバター。彼等の行く末に責任を持てるわけではない。『自分』に蛇神への隔意が薄いのは直接は関係が無いからだ。ならば、深く関わった蛇巫女はどう思っているだろうかとイズルは気になった。
「そうだな。まだ遮那殿との契約は破棄されていないからな」
「我はアーマデルが居る所に居るぞ。巫女を看取るのもまた神の務めだからな」
 蛇神と巫女は寿命が尽きるまで共にあると誓うのだという。
 イズルはクロウ・クルァクを見つめ口の端を上げた。こちらの蛇神は孤独ではなさそうだと。
 胸を撫で下ろしたイズルは回復を手伝ってくれていた妖精の姿を探す。
 遮那を見上げるテアドールは無表情で冷たい目をしていた。
「テアドールさん、最近、龍成さんを見なかった?」
「龍成さん?」
 考え込むように首を傾げたテアドール。暫くしてから首を横に振る。
「……『私』は存じ上げませんね」
 行方不明になっている澄原龍成の所在を知らないとテアドールは言った。
「ふむ」
 嘘を吐いているのか。それとも。
 イズルが踵を返した所でテアドールの手から光が溢れる。

 小さな光は槍の形となり、照準は遮那に向けられた。
 テアドールに背を向けている遮那では気付きようのない死角。
 光槍が一直線に飛んだ――

 その槍の前に飛び出したのは鹿ノ子だ。
 予想されていたように彼女はその身を光槍の射線に曝け出した。
 鹿ノ子は微笑みを浮かべる。
 されど、それを許せぬ『シャナ』が自らの刀を投げ軌道を逸らしたのだ――

 テアドールの光槍は弾かれ地に落ちた。
 輝きを失い霧散する光をテアドールは僅かに驚きの表情を浮かべる。
「何故……」
 予見されていた道筋から外れたシャナの行動。
 シャナは鹿ノ子を救うために己の刀を投げた。

「鹿ノ子先輩は何処の世界でも変わらない。夢見先輩と同じく平気で自分の命を晒して! 皆、そんな貴女達を褒めて、愛して! 遮那君だってそうだ」
 シャナは琥珀色の瞳で、心の内を吐露する。
「私が死んだって、彼はすぐ、過去にして乗り越えてしまうだろうに! 貴女が死ねば、一生の傷を負うことになる! 隠岐奈朝顔が幾ら彼を愛そうが、彼の中に貴女を失った悲しみが残り続けるの!」
 だからと、腹の底から吠えた。
「死んで遮那君の永遠になろうなんて絶対に許さない! だから何が何でも貴女の死も防ぐ!」
 シャナの言葉に鹿ノ子は眉を下げる。
「……ふふ、優しいッスね。シャナさんは」
 恋人と同じ顔をしたシャナに微笑みを向ける鹿ノ子。

「アンタには恩がある。それに……私は貴女の事、結構好きなんだ」
 それは桃花というアバターを通した『ルル家』の言葉だ。
 遮那だけがルル家の瞳に映っているわけではない。
 彼を好きでいてくれる、彼を笑顔にさせてくれる温かな人達全てが、ルル家にとっての大切なもの。
「皆が好き。だから誰も殺させない! 遮那くんも! 鹿ノ子ちゃんも!」
 全員を笑顔で帰す。その為に――
「皆の力を貸して!」
 朱雀と白虎を退けた今、遮那に攻撃を仕掛けたテアドールは排除すべき脅威だ。
 防がれた『思惑』を取り戻すかのように、妖精は次の光槍を取り出す。
 それは何処か、AIが軌道修正プログラムを実行しているような感覚を桃花は覚えた。
 ネクストのNPCなら正しい動きなのかもしれない。だが違和感が拭えない。
 されど、これはチャンスだった。軌道修正をしているタイムラグに打って出る事が出来る。

「瑠々! 私に雷を!」
 この一撃に全てを賭けて。
「ええ、行きますよ! 全身全霊の雷神の力!」
 桃花は瑠々の雷を己に宿した。暗雲渦巻く天から、黒き雷を重ね。
「――砕けろ! 呪われし宿縁!!!!」
 重なる黒雷は天を駆け抜け、光槍ごとテアドールへ命中した。
 金光の粒子をまき散らせながら、妖精は霧散する。
 それはネクストのNPCが命を散らすエフェクトとは違う『アバター』によく似た色を放っていた。

 テアドールが消えた空に、落ちかけた月が浮かんでいる。
 遮那はほんの少しだけ肩の力を抜き、小さく息を吐いたのだ。
 もうすぐ夜明けがやってくる――


成否

成功

MVP

星羅(p3x008330)
誰が為の器

状態異常

桃花(p3x000016)[死亡×3]
雷陣を纏い
那由他(p3x000375)[死亡]
nayunayu
梨尾(p3x000561)[死亡×2]
生まれたものに祝福を
リュート(p3x000684)[死亡×3]
竜は誓約を違えず
ユリコ(p3x001385)[死亡]
電子美少女
レインリリィ(p3x002101)[死亡×3]
朝霧に舞う花
Ignat(p3x002377)[死亡×2]
アンジャネーヤ
ベルンハルト(p3x007867)[死亡×3]
空虚なる
星羅(p3x008330)[死亡×3]
誰が為の器
スイッチ(p3x008566)[死亡×2]
可能性の分岐点
シャナ(p3x008750)[死亡×3]
爪紅のまじない

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 無事に四神を鎮め街を救うことができました。
 舞台は決戦へと続いて行きます。
 MVPは盾として大切な人を守り抜いたあなたへ。

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