PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<オンネリネン>その花の名は、

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●贈り物
 純白のドレスを揺らす娘があれば、艶やかなピンクの裾でふわりふわりと舞う娘もある。
 それぞれが自慢のドレスを見せ付けるように、風の紳士と戯れていた。そうして、人も獣もあまり入らぬ山間の野で、花たちは舞踏会に明け暮れる。
 だが今日ばかりは、そんな彼女たちの日常を破る訪問者の姿があった。
「わあ、綺麗! これ、マークスが好きって言ってたお花じゃない?」
 少女のひときわ大きな声に、少年少女は挙って花咲き乱れる野へ踏み入っていく。進むたび、花を飾る低木の枝葉が手足へ小さな傷をつけていくも、彼らは気に留めない。
 あっ、と不意に声を発した少年が、群がる低木の奥を指差す。
 ふわふわたなびく低木たちの間、無数に蠢く蔓状のものが、何体も人に近い形を取って、やってきた。しかも一本一本が意思を持っているかのように土へ突き刺さり、栄養という栄養を吸い上げては、引き抜いてゆらりと踊る。栄養を奪われている所為か、それの周囲の花は心なしか元気を失くしていて。
「魔物みつけた! 仕事終わらせちゃおー」
「そしたらマークスにこのお花、お土産にしようよ」
 ゴツ、と鈍い音と共に不意に石が投げつけられた。
 肩へ直撃されて少年が呻き、仲間たちが一斉に彼の元へ集う。
「トト、大丈夫!?」
「ガキども! くっちゃべってねぇで、とっとと倒して花石を持ってこい!」
 遠巻きに彼らを見守り、否、監視していた男が投げたものだ。思わず男へ詰め寄ろうとした一人を、トトと呼ばれた少年が制止する。今は我慢だ、と告げるトトの声音は苦しげだ。
「すぐ怒る。すぐぶつ。すぐ蹴る。これだからレム、外の大人はヤ」
「……しょうがない。おれらも稼いで戻らなきゃだし」
「うん、でないと、きょうだいたちを魔女狩りから逃れさせられない」
 こっそり言葉を交わし、彼らは剣や弓を手に魔物へ近づく。

 彼らの四肢が無残に引き裂かれる、少し前の出来事だった。

●情報屋
「おしごと」
 痩せこけた釣鐘形の花を一房、イシコ=ロボウ(p3n000130)はイレギュラーズへ差し出す。渡された側がまじまじと確かめずとも、花弁の殆どはすでに落ち、残っていたとしても小振りで萎れている、実に寂しい小枝だ。
「これと同じ花が群生する場所が、現場になる」
 いま手渡したものよりずっと多くの花を咲かせた、風光明媚な世界が出迎えてくれるという。
 ただし出迎えるのは花だけではない。
「アドラステイアの傭兵部隊、オンネリネンもいる。もう戦った人もいる、かな?」
 子どものみで構成された部隊だ。アドラステイアの色に芯まで染められた彼らは、同じ境遇の子どもたちを『家族』として見ている――皮肉なことにそれは、アドラステイアの教育の賜物だった。
 お金を稼げば、下層の家族をオンネリネンに入隊させることが叶う。
 オンネリネンに所属すれば、魔女狩りとは縁遠くなれる。
 だから彼らはアドラステイアの外へ出て、危険な仕事を引き受けて回っていた。
「その子たち、ベネ隊って自称してる」
 彼らを雇った盗賊が、立ち入りを禁じられている野原の情報をしつこく聞き回ったことから、芋づる式にベネ隊の存在も浮上した。
「賊が……? そこに何かあるのか?」
 イレギュラーズからの問いに、イシコはこくんと頷く。
「ん。その辺に出現した魔物が、花石を持ってる」
「カセキ?」
「綺麗な花の形をした石。魔力が集まって出来た物で、欲しがってる貴族や商人もいる」
 持てば裕福になれるとか、恋が成就するとかの理由で売り付けるのに適しているのだろう。
 水晶のような花石そのものに、芸術的な価値を見出だしている者も少なくない。
「盗賊が、傭兵の子どもたちにそれを取らせようとしてる、んだけど」
「魔物がいるから、子どもたちが危ないんですね?」
 察したイレギュラーズが先に口を開き、イシコも頷く。
「……アドラステイアの子を、助けられるというのか」
 輪にざわつきが伝播する中、イシコは続ける。
 ベネ隊はアドラステイアの子だが、さすがに生命の危機に瀕した所を助ければ、ある程度はこちらの話を聞いてくれるだろう、と。
「とにかく、魔物に殺されないよう、助けてあげて。お願い」
 イシコはぺこりと頭を下げ、イレギュラーズへ彼らの明日を託した。

●アドラステイアにて
 褪せた灯りが卓上をまるく切り取り、向かい合うひとりの男と少年の手を照らす。
 栄養の行き届いたふくよかな指の持ち主、ファザー・ギエルは云った。
「ベネの子らに、何か頼んだのですか。マークス」
 問われた少年の細い指は、ファザー・ギエルと違って傷痕の無いところが、無い。 
「探してる花があるから、見つけたらくれって話はした」
「どうりで。随分浮かれて発ったものですから。しかし花とは、君らしくない」
「気になる? あんたに不都合なことはしないよ俺」
「ええ、わかっています」
 面差しこそ穏やかながら、男の声色はどこか冷えきっている。理由を紡がねば納得しないとばかりに。
 だからマークスは、橙色の髪をくしゃりと掻いて、いつもより少しだけ唇を尖らせる。
「同じ名前だから。次に会うとき、喜んでくれるかもって思うんだ」
「名前? ……その花の名は何というのですか」
 問われたマークスは、躊躇いなく優しい響きを口にする。
 エリカ、と――。

GMコメント

●成功条件
 ベネ隊の子ども7人以上の生存

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 舞台は、エリカ(低木)が咲き乱れる野原。エリカ以外に障害物はなし。
 子どもたちは魔物と戦闘中。到着時点で5人が魔物に捕われ、3人が負傷しています。
 負傷した3人は、身を寄せ合っています。足をやられた影響でまともに移動できません。
 後の2人は家族を助けだそうと、果敢に魔物へ立ち向かっています。
 放っておけば、真っ先に体を引き裂かれるのはこの2人です。

●敵
魔物×7体
 植物の太い蔓を寄せ集めたような、人型の魔物。常にうごうごしています。
 触手っぽい蔓を対象へ突き刺し、そこから生命力を奪うのが基本。
 ただ、生命力に溢れる生物をより好むため、対象を捕獲して、生命力を奪い続けることも。(捕われた子たちは、この状態)
 栄養摂取中に邪魔をされると、蔓でめった打ちにしたり、切り裂いたり、手足に巻き付いて引きちぎろうします。

●登場人物
トト
 ベネ隊のリーダー格の少年。15歳程。しょうがない、と割り切ろうとする性格。
 盗賊に石をぶつけられた肩は痛みますが、家族を救うため剣で魔物に立ち向かっています。

レム
 声の大きな少女。12歳程。明るく、思ったことをすぐ口に出すタイプです。
 魔物に捕われている内のひとり。トトを兄のように慕っています。

ベネ隊の隊員
 トトとレムを含めた10名がベネ隊です。
 どの子も、オープニングに出てきたファザー・ギエルやマークスとは顔見知り。

盗賊
 ベネ隊の雇い主で、花石(カセキ)を欲しがっている男。
 逃がしても構いませんし、とっちめても構いません。

※補足
 オープニングに登場したファザー・ギエルと少年マークスは、現場にいません。
 マークスは、オレンジ髪に赤ら顔の少年。シナリオ『ロージーフェイス』が初登場です。
 エリカは、シナリオ『惑乱の親心』に登場したマークスの昔馴染みの少女。
 よくマークスを心配してくれた子でしたが、現在マークスの傍にはいないようです。

●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。

 それでは、いってらっしゃいませ。

  • <オンネリネン>その花の名は、完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵

リプレイ

●救
 助けて、という訴えと。
 痛い、嫌だ、と拒む悲鳴と。
 勇気を振り絞った雄叫びがこだまするその場所は、エリカの花が咲き揃った野。
 佳景に溶け込んだ魔物が、場に不釣り合いな声と音を撒き散らしていたものだから。
 朱燈る眼光を踊らせて、『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は指揮杖を回し掲げた。
「ご機嫌麗しゅう魔物諸君! お食事中失礼いたしますよ、致しますとも!」
 指揮杖で宙を掻きながらの挨拶に、眼なき眼で魔物たちが頭部を傾ける。
「いやはや、目玉が無いと目線を釘付けにしているのか解りかねますなあ」
 カタカタと骨を鳴らして笑う間に、ぶわりと風が駆けた。
 風は、花咲く野に吹くものとは違う色とにおいを孕んでいる。風を起こした主『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の姿は、瞬く間に敵の眼前へ飛び込む。家族を救おうとしていた少年――トトたちが、突風に逢ったかのようにぎょっとするも、当のサンディは眼もくれず魔物をねめつけて。
「飯を食うのはいいけどさ、マナーがなってないな」
 サンディは戦嵐を連れて片頬を上げた。
「なんなら俺で食事のルールを学んでみるか? 味は保証しねーけど」
 口上もまた彼と同じぐらい軽やかに紡がれ、そして蔦めいた植物たちの先端を知る。
 生命力という名の水分を欲して乾いた蔓が、サンディを捕捉すると同時に、かちゃり、と足枷が歌った。
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)と、並び立つように動いた『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)の細足が野を渡り、ベネ隊の前へ飛び込む。待って、とリュコスはトトたちの眼前で腕を広げ、すべてを遮った。
「ケガしてるのに、あぶないよ!」
 トトの肩口を見やってからリュコスが発言すれば、痛めた本人は固まるしかない。
 どうして、と今にも尋ねそうなトトを一瞥したステラは、花も子も見据えて唇を引き結ぶ。
「あの子たちを助けるのが先です!」
 宝石めいた二色の眼差しで射られ、トトたちの瞳も揺れた。
 家族を救おうと必死なトトたちへ、リュコスは頷いてみせる。
「絶対たすけるから。そっちにつれてくから。ケガしてる子たちを守って……お願い」
 お願いだよ、と繰り返す銀糸はくすみ、今にも泣き出さんばかりに揺れる。
 ――怪我をしている子たち。
 リュコスとステラの話にハッとして、トトともう一人は漸く周囲を見回す余裕を得た。

 彼らはそこで知る。囚われの家族を救おうとする、数人の姿を。

 疾く駆け出していた『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は、少女レムを覆った蔓の束へ、切っ先を差し込んでいた。
「たす……け……」
 不意に、狭間から漏れた声。あえかなそれにジェイクはぎりと歯を噛んで。
「っ、もう大丈夫だ、待ってろ!」
 そうとだけ云うと意志の刃で、しぶとい蔓草の塊を裂き分かつ。
 二重にも三重にもレムを捕獲していた食欲に、ぱっくりと傷を付ければ、あとは。
「さっさとその子を離せ、微塵切りにされたくなかったらなッ!」
 傷口へ両の手を突き入れ、左右へと押し開くだけ。
 触手が彼を鞭打とうと構わない。引きずり出した少女を抱えるや、ジェイクは魔物を蹴飛ばして、後ろへ転がった。食事を奪われた魔物が尚も追い縋れば、それをひどく冷たい闇がくるむ。闇を流した『廻世紅皇・唯我の一刀』皇 刺幻(p3p007840)はくつくつと喉で笑うだけ。
 なんと世界は広く、そして狭いことだろう。
 その考えに到った事実もまた、刺幻を愉快にさせる要因だ。
 だから紅玉の右眼で青々と茂る魔物を認め、子連れのジェイクの離脱を助けながら闇を伝わせていき。
「おい賊」
 突き刺す口振りで、刺幻が盗賊を呼ぶ。
「安全な依頼はいい物だな、だが逃げたらその首掻き斬りに地の果てまで追うぞ」
「ひっ……!?」
「死にたくなければそこでじっとしてろ」
 突然の加勢にぽかんとしていた賊も、刺幻に脅かされてやっと我に返った。
 そのとき戦場へ響いたのは。
「ほら、わたしの方が美味しいでしょ!」
 生命力が漲る自分の腕へ、把持した蔓を突き刺した『善性のタンドレス』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の声。
 視界は霞めど、しかと子どもの姿を映す。
 福音の夢を紡ぎながら、子に取り付いていた葛を細腕で引き剥がす。生じた隙間からするりと子が抜け落ち、支えたい気持ちがココロに沸き起こる。けれど彼女の手は今この瞬間の判断を誤らず、蔦を握ったまま放さない。
「ゲホッ、ゴホ、な、何……誰?」
 虚ろなまなこがココロを仰ぎ見た。
「ッ、今のうちに離れてッ!」
 蔦をむんずと掴み、己へと突き刺す彼女の勇姿を眼前で目撃した子は、瞠目してやまない。しかし朦朧とした意識が戻りつつあった子は、すぐさま肯い、ココロの元を離れる。
 聞き入れてもらえて、ほっとしたのも束の間。彼女の四肢をねぶり、命を吸う蔓が骨をも軋ませる。
「くっ、この……いい加減満腹になりなさい!」
 傷つき、痛もうとココロは諦めない。

 一瞬なのに長く感じられる皆の戦いを目にしたトトたちは、リュコスとステラを振り返った。
「ね?」
 笑みを湛えたステラの表情に促され、トトたちは戸惑いつつも、傷に苦しむ家族の元へ走り出す。
 二人分の背を見送って、ステラはくるりと踵を返す。
「……さあ、拙も務めを果たすとしましょうか」
 両方の手に、同じ赤と青を握り締めて――突っ込んだ。
 その間、素直に退いたトトの様子を『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はじっと見守っていた。
 懸念を抱いていたのは、彼だけではない。だから万全を尽くした。
(……ローレットと知れれば、揉めるし長引きそうだ)
 ひとつ短い息を吐いて、アーマデルも捕縛された子の側へ跳ぶ。
 魂をも見透かすようなアーマデルの眼差しが、敵を射る。明けの空に滲む陽か、暮れ方の夢か。いずれにせよ、かの金色は誰に囚われるでもなく野を駆け、抵抗の蔓草を巧みな体捌きで躱し、引っ掴む。
 そして葛の束を切り開き、餌となっていた子を剥がす。
 ぐったりと凭れかかった少年を肩へ抱き上げ、アーマデルは襲いくる蔦を咄嗟に切り払い、そして。
(手放すな)
 己を言い聞かせる。たとえ足が縺れても、腕が痺れても。
 ここで放してはならないと。

●花
 うねる蔓が纏わり付いて離れない。名乗りをあげ続けたサンディやヴェルミリオから、活き活きと息衝くものが絶えぬ限り。こうして上手く運んだ事実に、サンディは頬をもたげた。
「ここは『いいオトナ』のお手本を見せてやらねーとな」
 小柄ながら怯まず、踏み込む足取りに迷いのないサンディの勇姿は、目撃者たる子らにとっても衝撃的で。
「すげえ……」
 思いのほか無邪気そうな声が、花に触れた。
 一方、ヴェルミリオの硬く骨張った身を撫でるのもまた植物の蔓。
「このスケさんであれば、どこまでもお相手いたしますぞ!」
 骸骨兵は永久に不滅なり。
 それを体言するかの如く、ヴェルミリオが修復速度を敵陣へ披露した。
 彼らが花に囲まれる中、ジェイクは思考に痛んだ額をくしゃりと掻く。
(……ふざけんじゃねーぞ)
 蔓植物に取り付かれていた四人目の元へ、呼吸を整えるのも忘れ急いだ。仲間が囮になってくれている、僅かな時間を無駄にはできない。少年少女を捕えた張本人から、何度妨害されようとも。
 まもなく彼の腕は、子どもを世界へ呼び戻した。
「アーマデル、いけるか!?」
 刹那の悪夢を刻み込んでいたアーマデルもまた、子を担いだのちに首肯する。
「任せてくれ。ここからは走り抜けるのみだ」
 こうして救出と運び手を担う二人は、子どもと共に死と花のにおいが濃い戦場から脱する。
「サンディ、スケ! いい囮っぷりだぜ」
 疾駆の最中、佳良なる動きをかたちで示した仲間へ、ジェイクが口の端で笑ってみせた。
 うおほん、とヴェルミリオは胸を張って。
「こちら骸骨ではありますが、活きの良さには定評がございますぞ!」
「後は倒すだけだな、よし」
 ヴェルミリオに続いてサンディも、方向転換を始める。
 同じ頃、救出の光景をちらと捉え、リュコスは腹の底まで吸い込んだ意志を輝きに換えていた。
(ぼくだって、みんなたすけたい!)
 星よ花よと歌うエトワール。
 色褪せた日々を知らぬかのように、光輝を点した指先で敵を示すと。
 天翔ける彗星は青く、蒼く――無数の蔦を、魂を焼き切る時の色彩も、冴えるようにアオかった。
 近くでは、たたらを踏みつつ腕の蔓から逃れたココロがいて。
「はぁ、は……食後のデザートぐらいは、あげましょうか!」
 ぐっと引いた拳を突き出しての、ほたてぱんち。非力ながらも華麗な拳と美しい足で、魔物を吹き飛ばす。
 エリカの寝台へ転がった魔物が、のたうち回り死にゆく傍で、刺幻が指先で魔力を編む。
「うねうねと面妖な奴だ、燃やしてしまって構わんだろ」
 言い終えると同時の着火――魔曲が鳴り響くけば、花の世界へと炎が踊り出す。
 けれど燃やすのは花でも命の彩りでもなく、生へ牙を剥いた愚かな存在。
「所詮は野生の命、か」
 ふ、と浅い呼気で笑って刺幻は朽ちゆく魔から顔を逸らす。見届けるつもりなど、持たぬがゆえに。
 そして――。
 誰かが見たなら、これこそ燎原の火だと信じるだろう。
 誰かが気付けば、あれこそ終端を飾る凍星と謳うだろう。
 そんな二彩で以て、ステラは葛を切り落とし、断ち崩しては次なる蔓草へと挑み続けていた。
 刃向かう触手を、魔性の黒顎で握り潰せば。周りの魔物がどよめいたように思えて。
「拙の力、味わっていただけましたか?」
 ステラはただただ、微笑んだ。

●闘
 最後の救出対象を家族へ送り届け、ジェイクがやおら向き直る。勿論向き直った相手は、異形の魔。
(よりにもよって、殺そうとしたのが子どもだからな)
 ジェイクにとって赦されざる所業だ。
 だからこそ動こうとした魔物めがけ、二挺の銃で連ねて贈るはラフィング・ピリオド。
「覚悟しな」
 死神が嘲笑いながら発した狙撃により、まるで弾力をもったかのような挙動で、魔物の総身が橈む。
 その後ろでは、ココロが子どもたちの手当へ回っていて。
 彼女を喰らおうとした蔓草は、ヴェルミリオが巨壁となって受け止める。
「ぬおおおっ!? ここはお任せくだされ!」
 ヴェルミリオのどこか気の抜けた雄叫びを耳にしながら、ベネ隊の子たちはココロからの癒しを浴びていた。
「動かないでね。全員すぐ治してあげますから」
「え、お姉ちゃんから治さないの? 痛くないの?」
 ココロが家族を救う場面を目の当たりにしたからこそ、集いから質問が飛ぶ。
「大丈夫よ、お姉さんは強いから」
 ココロは微笑みかける。少しばかりの痛みを抱えたまま。
 子どもたちから苦痛が拭われていく頃、前線では炎がたなびく。刺幻が艶やかな身のこなしで蔓草を払い、根へ爪を立てたのだ。ぎち、と食い破る音がしたかと思えば次の瞬間、空ごと刺幻の爪が蔦を切断する。
 矢継ぎ早、アーマデルの翳した二色の得物が、人の型を模った魔物を抉るために世をゆく。
「そろそろ終わりにするぞ。長引かせるものでもないだろう」
 紡ぎながら彼は蛇銃と蛇鞭、二振りの剣を風切りの音に乗せた。同時に呪術回路から創り出された弾が、苦しみに苦しみぬいた居場所なき者へ、死を与えた。
 声を持たぬ魔物の悲鳴が、聞こえたようで。
 けれどリュコスは叫びたがる心を止めない。流星を想起させる速さで、影が魔物へ食らいついた刹那。
「ステラ……!」
 呼んだリュコスの音が、ぽおんと弾む。
 応じたステラが、蠢く蔦という蔦を荒々しく切り払ってゆくものだから、残った魔物はたじろいだ。
「ふふ、たっぷり召し上がっていただきませんと。力には少しばかり自信がありますので」
 口許へ指を添え、微かに頭を傾けての微笑み。
 それに晒されて萎れた触手はしかし、逃れることも許されない。
 目を矯めたサンディは、逃れたい一心で手足にじゃれついてきた魔物の一部を、がしっと掴む。
「もう充分食ったろ?」
 自分の再生力に執着した、忌まわしき緑へ不敵に笑いかけて。サンディの双眸に射抜かれた途端、人を模した無数の蔓がざわつく。ぎちぎちと軋みに似た音が散らばる。だが音の源は、サンディの身体でも心でもなく――。
「このスケさんの勇姿、見ていてくだされ!」
 鼻があれば鼻息も荒かったであろうと思えるぐらいに、揚々と告げたヴェルミリオの駆け寄る音。
 かれは陽気な言を出し尽くすより早く、魔物の蔦をがっしり掴んだ。
「逆再生しますぞ!」
 触れた先から逆転させるのは、再生能力。注ぎ込まれた力に耐え兼ねた魔物は、為す術なく爆ぜた。
 葛から解放され、ほんの僅かよろめいたサンディを、仲間たちが支える。
「ッへ、やったな」
 顔色こそ青白くとも、彼の面差しは常より変わらない。
 こうして自然は蘇る。少しだけあたたかく、涼しい風がイレギュラーズを労い、撫でていった。

●明日へ
「フシンシャ……」
 リュコスの大きなまなこで、穴があくぐらい見つめられ、賊も身動きが侭ならずにいたが。
「子どもたちを囮にした不届き者にはお仕置きですな!」
 やる気満々のヴェルミリオの発言に、男が怯えた。
 ぎょっとした男を瞥見して、サンディは眉間を押さえる。
「とりあえず全部置いてけ」
「は、はいッわかりました!!」
 魔物を倒した若者たちに四囲されて恐ろしかったのか、賊は情けない悲鳴をあげながら逃げ出した。
 子どもたちから離れた所で、賊と接していた仲間がいる一方。
 刺幻は魔物の遺した花石を、ほらよ、とベネ隊へと差し出して。
「依頼主も要らないんだとよ」
「えっ、でも……じゃあアンタたちに……」
「拙らは充分な報酬を頂いていますから、大丈夫ですよ」
 そっと口端をあげたステラが答えた。
「代わりに、お話を聞いてくださいね」
「う、うん」
 既に武装も解除した自分たちの正体を、ステラは囁く。
「申し遅れましたが、皆、イレギュラーズなのです」
 俄にベネ隊がざわつき、顔色が変わる子もいた。だが。
「……そうじゃないかって思ってた。強いから」
 リーダー格のトトは、ぽつりと告げる。窺うような目つきでイレギュラーズを認めてはいたが、拒む気配はない。
 あの、とここで思いきって口を開いたのは、ココロだ。
「トト、わたしの所の港に、皆で住んでみません?」
 港、という響きを繰り返したトトたちが顔を見合わせる。
「力仕事と計算の仕事は常にあります。診療所で働けば、医学も覚えられます」
「そんなにいろいろできるの?」
「……傭兵とあまり変わらなさそうだけど」
 ぐらぐらと揺れる子どもらへ、ココロは笑みを寄せた。
「港ですから豊富な魚介類はタダ同然。ご飯には困らないですよ」
「! お魚、食べられる!?」
 唐突にレムが身を乗り出したものだから、仲間たちも思わず瞬いだ。
 もちろんと頷いたココロが、怯えさせないようトトの手へ触れる。
「知識や技術も身につけられたら、もらえるお金も増えますし。どう?」
 小さく首を傾けて問うと、澄んだ青に覗き込まれたトトの頬がぼっと赤くなった。
 一部始終を凝視していたレムが、不意に声をあげる。
「あーっ、トト、相手美人さんだからってー!」
「ちっ……ちが……」
「トト、そういうとこあるよね」
「違うって!」
 賑わい出した様子を見て、イレギュラーズは胸を撫で下ろす。
「……傭兵とは言うが、子どもだな」
 ジェイクも意識せず、頬が緩むのを感じていた。
「子は子ということですな!」
 ふむふむ、とヴェルミリオは顎を撫でて、広がる光景を記憶に留めていく。
 朗らかな風が吹き抜けた跡、アーマデルは目を眇め、ベネ隊の前へ屈む。
「お前たちの『きょうだい』を助け出す、その手助けをしてくれないか」
「助けたいよ、そのためにお金稼いでるんだから」
 トトたちの想いは変わらない。きょうだいをオンネリネンへ入れるため、必要な金を得ること。
 アドラステイアの教育の成果ゆえ、根付いた思想もすぐには変化しないのかもしれない。ただ一点、イレギュラーズに命を救われ、やさしくしてもらったという事実も、彼らにとっては『変わらない』もので。
 それなら、とアーマデルも誘致を決める。
「うちの領地にも出向に来てくれていいぞ。仕事なら山ほどある」
「……仕事あるなら、いってみたい」
「この人たちのいるトコなら、平気そうだもんね」
 救出を優先した皆の行動は、確かにかれらの胸へ届いた。
 だからか、サンディは月夜に似た青褪めた眸を伏せる。
(天義で暮らすよりひどい扱いを受けているって、気付いてくれりゃぁいーんだが)
 きっと、いつか。
 そんな、薄いとも濃いとも言えぬ期待と予感を、それぞれが覚えつつ。
「ここのお花、もって帰りたいな」
 レムの独り言を、リュコスがふんわり掬いとった。
「お花、すきなんだね?」
「んー。好きだけど、知り合いがね、エリカのお花、欲しがってたの」
 リュコスがぱちりと瞬いだ。
「エリカ? なんだか、人のなまえみたい……」
 続けて何気ない感想を口にしたからか、だよね、とレムが楽しげに睫毛を揺らす。
「やっぱりマークス、エリカって子、好きなんじゃないかなあ」
 少女の声は、野を分けていく強い秋風に浚われ、溶けていった。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした!
 オンネリネンの子どもたち、無事全員の救出が叶いましたこと、有り難く思います。
 ご参加いただき、誠にありがとうございました!
 またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。

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