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シナリオ詳細

<大樹の嘆き>黒曜の翼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「聞いた? 翡翠方面のサクラメント、一斉停止だって」
 大変だよね、なんて他人事に呟いた『踊り子』ローズマリー(p3y000032)はタピオカをストローでスポポポ、と飲む。美味しいのかと問えば、その弾力も味も現実のままだと返って来た。
「味は……なんとも思わないけど。此の弾力は面白いと思うよ」
 さて、と彼女はタピオカをしまって、手元に羊皮紙を数枚出した。最近のR.O.Oイベントの写しと思われるそれをプレイヤーたちへ渡し、彼女自身もその内の1枚へ視線を落とす。
 もともと翡翠は現実の深緑をベースにしているが、現実よりゲーム内の方がはるかに排他的で過激な性質を持っている。サクラメントを一斉停止させる、つまるところ鎖国している今の状況自体は不思議な事ではない。
「でも、あまりにも唐突なんだって。少しだけ取引のあったところにも断りをいれず、ね」
 故に彼らは理由を知りたがっている。そのためには砂嵐の国を越えられ、かつ翡翠でも十分な活動を行える者が向かわねばならない。
「レーヴェン・ルメス……NPCの方ね。彼女も取引があったらしくて向かったんだけれど、連絡が取れなくなった」
 砂嵐で大鴉傭兵団と激突の際、友軍になってくれたレーヴェン・ルメス。現実の彼女とは異なるが、近しい性格をしており、このR.O.Oでも行商人として各地を回っているようであった。その一部が突然鎖国したなどと聞かされれば――しかも、かの国とは関係ない場所から――真相を確かめに行くのは当然とも言えよう。
「多分、何かに巻き込まれたんだと思う」
 これを見て、と言われた視線の先には、とあるクエストの情報が載せられている。タイトルは『<大樹の嘆き>黒曜の翼』とされ、その成功条件は。

 ――NPC『レーヴェン・ルメス』の救出。



 自分の呼吸がやけに大きく聞こえて、必死に息を殺しながらなだめていく。
(ああ、全く、何だっていうのさ!)
 レーヴェン・ルメスは今、迷宮森林のただなかにいた。静かで、緑豊かな地。けれどどうしてか、この場が緊張感をはらんでいるようで安心できないと踏み込んだその瞬間から感じていた。
「い……っつぅ」
 立ち上がろうとすれば、攻撃を受けた翼が傷む。飛べるだろうが、速度は出ないだろう。単身でそのような事をすれば格好の的、良い様に撃ち落とされてしまうに違いない。
 元々翡翠の民は友好的とは程遠い。それでも伝承の民や自分のような行商人が細々と交易を果たせていたのである。突然このように攻撃的になったのには、何かわけがあるのだろう。
 視線を上げれば、空が茜色に染まっていた。もうすぐ宵の帳が降りてくる。彼らもさほど夜目が利くわけではないだろうが、自身も同じ。何か変わるだろうか。
(痕跡は、見えにくくなるかな……)
 匂い。音。それらはどうしようもない。少しでも逃げる時間を稼いで、誰か外の人間に出くわすことを祈るしかないだろう。
 目を閉じたレーヴェンの耳に、微かに入ってくる音。

 ――いたか?
 ――こっちにはいない。精霊様の御力を借りて……。

 せいれいさま、と口の動きだけでその言葉をなぞる。その御力とやらを借りられたなら、レーヴェンなどひとたまりもない。
(死ぬわけにはいかない。死にたく、ない)
 生を渇望するならば、ここで止まっている場合ではないようだ。

GMコメント

●成功条件
 NPC『レーヴェン・ルメス』の救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●フィールド
 翡翠の迷宮森林内。国境にほど近い場所です。夜のため、非常に薄暗いです。
 木々が生い茂り、獣も潜んでいるでしょう。また、レーヴェンを探す翡翠の民たちに遭遇する可能性があります。
 迷宮森林自体は広大ですが、レーヴェンからローズマリーへ、予め向かう集落を伝えられています。そこを中心に捜索することになるでしょう。
 どこかピリピリとした空気を纏っているのは、夜だからという理由のみではなさそうです。

●敵
・精霊『ルサールカ』×3
 緑色の長髪を持つ女性。水の精霊であり、翡翠の民に力を貸しています。
 外から来た者たちを毛嫌いしており、見つけたならば操る水で攻撃してくることでしょう。
 付与してくるBSは不明です。【反】を持っており、命中と防御技術が高いです。回避はそこまででもありません。

・翡翠の民×??
 レーヴェン・ルメスを捕らえんとしている翡翠の民たちです。そこそこの人数がいると思われますが、分散して捜索に当たっているため全容はわかりません。
 近接から遠距離まで様々な武器を持っています。また、神秘適性にも優れている者たちです。攻撃力が高いですが、反応にはやや欠けます。BSを付与する武器を持っている可能性があります。

・獣×??
 迷宮森林に住まう獣たちです。彼らの中には夜目の利くモノもいます。翡翠の民・イレギュラーズ分け隔てなく見つければ襲い掛かります。ただし、そこまで多くはありません。
 反応に優れていますが、防御技術はそうでもありません。爪や牙での攻撃や体全体を使ったのしかかり攻撃などをしてくるでしょう。

●レーヴェン・ルメス
 レーヴェン・ルメス(p3n000205)のR.O.OにおけるNPCです。本人ではありませんが、性格等は現実に似ています。
 現実と異なりそこそこ戦えますが、負傷しています。【飛行】が可能ですが、翼に傷を負っているためペナルティが課せられています。
 迷宮森林のどこかを逃げており、皆様が救出に向かっていることは知りません。彼女は灯りを持っていません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 闇に紛れた黒曜の翼を探しましょう。翡翠の国境をレーヴェンが越える事でクエストクリアとなります。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • <大樹の嘆き>黒曜の翼完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月23日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

すあま(p3x000271)
きうりキラー
スティア(p3x001034)
天真爛漫
マーク(p3x001309)
データの旅人
シラス(p3x004421)
竜空
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ


「レーヴェンってあのレーヴェンだよね」
 ね、と『CATLUTONNY』すあま(p3x000271)は傍らの大柄な全身鎧へ視線を向ける。このラダとは違うけれど、ラダのお友達の子だ。この世界のレーヴェンはあちらの世界の子と違うけれど、きっとラダなら助けたいと言うだろう。
「しかし……レーヴェンさんは翡翠に踏み込んだだけ、なのだろう?」
 それだけで救出クエストが発生するわけもない。『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は違和感、否、異常を感じていた。
「ああ。元々翡翠は交流が盛んな場所ではなかったと俺も聞いていたが、この状況はやはり異常だろう」
 『大樹の嘆きを知りし者』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は急ごうと皆を促す。長居するのは得策でない。助けられる者を助け、翡翠の情報を少しでも集めなければ。
(鎖国、行き過ぎた排他……それによる救出依頼か)
 深緑とはだいぶ違うな、と『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)は思う。かの国も排他的ではあったが、その性質は実に温厚だ。半面翡翠は過激的、小枝を折られたら腕の一本は覚悟しろ、みたいな所のある国である。しかし今の翡翠となると、それだけでは済まなそうだ。
「こんな状況で、たった1人で逃げ続けて……さぞ心細い事でしょう」
「少しでも早く助けられるように頑張らなきゃね!」
 『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)の言葉に『天真爛漫』スティア(p3x001034)は頷いて、サメの姿をした精霊を召喚した。翡翠の雰囲気にどこか怯えているような感じもするが、スティアが頑張ろうねと告げるとぴこぴこ頷く仕草をする。
「ここは相手のホームですが、負ける訳にはいきませんね」
「翡翠の民より先にレーヴェンさんを助けましょう」
 壱狐、アズハと一同は続いて森に入っていく。それに続きながら『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)は視線を伏せた。
(ログアウト不可のプレイヤーが出たことと、関係があるのだろうか)
 R.O.Oでの事態が大きく動き始めている。そんな感覚を覚えながらも、まずは救出をせねばと仲間の背中を追いかける。
 一同はまず近くの集落付近まで足を運び、そこから二手に分かれる作戦だった。クエスト内容によると、レーヴェンもそう遠くない箇所から翡翠へ踏み入ったと思われる。その集落の幻想種たちが彼女を追っているのだろう。
 サメ精霊の先行に続きながら暗視と気配察知を併用しながら進んでいたベネディクトは、遠くに見える灯りに足を止める。そろそろ手分けした方が良さそうだ。
「それではここで」
「何かあったらこれで連絡するよ」
 マークがaPhoneーalterを手に見せると、ベネディクトも同じようにして所持を確認する。あまりにも遠くへ行ってしまわなければ、これで逐一連絡が取れるだろう。
 8人を丁度半分に分け。イレギュラーズたちは一旦の別れを告げた。



「よし、それじゃあ行こう!」
 スティアは持ってきていた明かりを手に、もう一方のチームが進んだのと反対方向を示す。その方向を確認した『竜空』シラス(p3x004421)は頷くと一同の先を進み始めた。
(レーヴェンが飛べないなら、足跡が残っている筈)
 森林の地面は土だ。人や獣が踏み入らないような場所を選んで進んでいるなら、踏み固められていない土に足跡が残るはず。現地の者と履物が異なれば見分けもつくだろう。
「レーヴェン、声聞こえてるかなー? 助けに来たよーでも危ないから隠れててねー!」
「こっちから行くからねー!」
 松明を持ったすあまとスティアがレーヴェンへ届くようにと声を張る。翡翠の民にも見つかりやすいが、それはそれでレーヴェンの見つかる可能性が下がるだろう。
 2人が探している間に、サメ精霊は隠れられそうな場所をひょこりと除く。残念、何も居なかった。ならば次へとぷかぷか浮きながら別の場所を探し出す。
(匂いは……緑の匂いがいっぱい!)
 すあまはすぅ、と肺いっぱいに翡翠の空気を吸い込む。森林の匂いというのは本来落ち着くものなのだが、如何せん今の雰囲気では落ち着けない。そこに血の匂いが混ざっていないことを確認し、一同は更に先へ進んでいく。
 もう一方は逆に灯りをつけず、大きな声も上げず淡々と捜索を開始していた。アズハは音を頼りに誰かいないか、助けを求める声が聞こえないかと感じ取る。
 その後方で壱狐を装備したマークはマップを確認し、併せて二値化で視覚情報を変化させる。木々の密集している部分は見通しずらいが、木の洞があれくらいならわかるだろう。
「うーん」
 辺りを見渡したツルギは困ったなと眉尻を下げる。協力的な精霊がいれば目撃情報が聞けるかと思ったが、全くもって見つからない。様子を窺っているような気配はするが、姿を見せない辺り、協力してもらうのは難しいだろうか。
 しかし諦める訳にはいかない。仲間について行っていたツルギは、足元に黒い羽根を見つけた。
「これは……?」
「レーヴェンさんの羽根かな」
 手にしたツルギへアズハが呟く。そこらの野鳥が落としたと言う可能性もあるが、ツルギはその羽根に右手で触れてみた。残留思念を探るのに、今回はそう長い時間を必要としない。
「――レーヴェンさんですね。あちらの方向へ向かったようです」
 ツルギが示した先を一同は見る。進んでいた向きより8時の方向。少しばかり戻ることになりそうだ。
 暗闇を進みながら壱狐とアズハは耳を良く澄ませる。レーヴェンの向かった方向ならば、幻想種もまた――。
「止まって。後ろから誰か来ているみたいだ。どこかに隠れよう」
 不意にアズハが皆へ告げる。こちらを付けてきたという足音ではないが、『探しもの』をしているような音だ。
「きっと暗視の手段があると思う。影になる場所へ散らばろう」
 マークの言葉に一同はばらけ、木陰などへ身を隠す。暫くしてその足音は大きくなり、その声もまた聞き取れた。
「全く、時間をかけさせる。そう遠くには行っていないだろうが……」
「早く仕留めなければいけませんね」
 恐らくレーヴェンの事だろう。完全に過ぎ去ったのを確かめると、一同は影から出て来て集まった。
「追いかけよう」
 彼らにレーヴェンを渡すわけにはいかない。一同は先ほどの幻想種たちに気付かれない距離を保ちながら、追跡を開始した。

「新たな侵入者め、許さん!」
「わわ! 勝手に入ってごめんねっ!」
 敵の攻撃を受け止め、すあまは素早く爪で横に薙ぐ。相手は幻想種……と、獣か。どうやらお互いに威嚇しあっていた場所へ、彼女たちの声が聞こえてしまったらしい。
(これでレーヴェンが安全になるんだし、仕方ない!)
「こちら、交戦に入る」
 ベネディクトは短くマークとのやり取りを終え、竜の力を腕に宿す。相手の矢を防具で弾き、ベネディクトはそのオーラを獣へと放った。
「聞いてくれ、我々の仕事は目的の人物の保護だ。それさえ終わればこの翡翠から引こう」
「俺達は仲間を連れ戻しに来ただけだ、戦う気はない」
「信じる根拠がないな」
 翡翠の民は敵対心を隠そうともせず、ベネディクトとシラスの言葉を一蹴して再び矢を番える。その前へスティアは割り込むと、花弁とともに流れるような連撃を加えた。
「それなら悪いけど、力づくでも通してもらうよ!」
 スティアに続き、シラスの放つ雷の息が幻想種を襲う。交戦の音に他の気配が寄ってきているようだが、まずはいなさなければ話にならなそうだった。



 いくらかの負傷があったものの、幻想種たちを撃退させることに成功したすあまたちは再びレーヴェンを探し歩いていた。
「さっきの人たち、撤退してくれてよかったね」
「ああ。怪我をした者も治療を受ければ大したことはないだろう」
 元々手加減して戦っていたが、それでも傷を負うことはある。放っておかないなら致命傷にはならないはずだ。
「……ん?」
 ふとすあまが辺りの匂いを嗅ぎ始める。くんくん、くんくん。こっちかな?
 自らの姿を変化させて木々の狭い所を潜り抜けたすあまは、ぽふんと草や土ではない感触に触れた。ふわふわしている。それから、その先には呼吸の音。
「いた!」
 ぽん、と音を立てて元の姿に戻るすあま。それにびくりと肩を跳ねさせた相手――レーヴェン・ルメスは、すあまの声に次々やってくる人影に体を強張らせたものの、ハーモニアばかりでないと知って強張りを解いた。
「キミたち、翡翠の人たちじゃない……よね?」
「ああ。依頼で君を助けに来た」
「もう大丈夫、大船に乗ったつもりで任せておいて!」
 ハーモニアの姿をしたスティアも敵ではないと知り、ほうとレーヴェンが息をつく。それから足と翼を負傷してしまって長く移動できないのだと告げた。
「それならラダに抱っこしてもらって! ラダ、よろしくね!」
「ああ、それなら任せようか。俺が背負っていたら戦いの時に危ないかもしれないしね」
 すあまの提案にシラスが頷く。レーヴェンはすあまの後ろからやって来た全身鎧に抱き上げられ、よろしくねと声をかけた。
「あちらもこれから合流するそうだ」
 aPhoneーalterでもう一方の班に連絡を取ったベネディクトが一同へ共有する。追っていたと思しき幻想種たちも違う方向へ行ったそうで、鉢合わせずに合流できそうだ。
 ――ほどなくして。マーク達の班もまた、スティアとすあまの持つ灯りを目印に合流を果たす。壱狐とアズハは早速周囲に何者かがいないか視線を巡らせた。
「クエストクリアのアナウンスを聞くまで気は抜けませんからね」
「そうだね。でも、大丈夫。必ずここから連れて帰るよ」
 マークの前半の言葉は壱狐へ。後半の言葉はレーヴェンへと向けられている。レーヴェンはまだ辺りへの警戒心が抜けないながらも頷いた。
「応急処置をしても大丈夫ですか?」
 ツルギは救急箱を出し、翼と足の傷に手当てを施す。そしてお守りですとペリドットのアンクレットを彼女へ結んだ。
「今は一旦ここを出よう」
 事が済んだと見たアズハが仲間たちへ声をかける。『レーヴェンの保護』という半分の目的は達せられた。あとは翡翠の外に出るだけだ。
 灯りと、音と、匂い。それらを頼りに一同は外の方向へ向かっていく。方向はシラスがいるから間違いない。このまま進めば最短距離で国境付近まで出られる筈――だったのだが。
「……多いな」
 いる、とアズハが幻想種たちの音を感じ取る。他にも聞いたことのないこれは……精霊だろうか?
 迂回するには規模が大きく、見つかってしまうかもしれない。一同はダメ元で大きく迂回を始めた。ゆっくりと、静かに、気配を殺して。あと、もう少し。

「――何者だ!」

 厳しい誰何が飛び、敵意の塊が浴びせられる。すあまはいち早く躍り出て近くの相手を一掃し始める。
「余所者だ!」
「殺せ!」
『森への不届き者め!』
 アズハは自身の能力を向上させ、その中にいる緑髪の乙女へ攻撃を仕掛ける。いかにも厄介そうな敵だ。攻撃と共に周囲の大気へ含まれる水分が針のようにとがり、チクチクと肌を刺す。
「本性(なかみ)を暴くまでもない。無抵抗の人を傷つける貴方がたに大義はありません!」
「ああ。騎士として、僕は守るべきものを守ろう」
 ツルギの声に敵視が集まる。続いたマークにも視線が分散する中、流れるような剣閃が幾人かの視線を奪った。
「レーヴェンさんをどうにかしたいなら、先ずは私たちが相手だよ」
「っ皆、やってしまえ! たかが9人だ! ルサールカ、御力をお貸しください!」
 1人の声に相手側の士気が上がる。そこへ壱狐は飛び込むと、ルサールカへ向けて最大の一撃を叩き込んだ。肌を刺す水気。それでも、敵対するなら放置はできない。
「たかが9人? 後悔するなよ」
 シラスの放つ雷の息が相手を襲う。竜の鱗に覆われた身だ、そう易々と倒れてやるつもりはない。
 退路を断たんとする幻想種へ竜のオーラを放ちながら、ベネディクトは声を上げる。自分たちは翡翠の地から離れようとしている。追い出したいのならばここで戦う必要はない筈だ。
「争う事が目的じゃない、退かせては貰えぬか」
「行かせるものか!」
「そうとも! 余所者め、お前たちに相応しい裁きを下してやる!」
 そうだ、そうだ、そうだ、そうだ!!
 幻想種たちの敵意が膨れ上がる。外の者を嫌うことは知っていたが、ここまでなのか。
「それでも、重ねて頼みたい」
「ベネディクト! これはもう、仕方がない」
 尚言葉を重ねようとするベネディクトにシラスは首を振った。たった1人の言葉さえも届かないほどのものが満ちている。この空間に今、翡翠に住まうモノで同調してくれる者はいない。
「無理にでも惜し通るしかないね」
 マークの魔法剣が横に薙がれ、数人が倒れる。しかしやはり、ルサールカは精霊とあって簡単にはいかないようだ。
「もしかして美味しいのかな……? いただきまーす!」
 そんなルサールカにすあまはがぶり。何だろうなあ、意外と水っぽい。まずいってことはないけれど、特段美味しくもなかった。水っぽいって言うか、水だ。
 そこへツルギが最後の一押しを食らわせ、ルサールカがただの水へと還る。びしゃりとすあまにそれがかかって、彼女はふるふると体を震わせた。
 自身の体力を回復させたシラスは、より自身の姿を強調するために翼を広げる。群がってくる幻想種たちへスティアは攻撃を叩き込む。間髪入れず、アズハの攻撃が幻想種たちを絡めとった。
「さあ、退いて頂きます!」
 壱狐の一太刀が辺りの幻想種たちをまとめて後方へと飛ばし、両者の間にわずかばかりの隙間が生じる。

 ――今だ!

 イレギュラーズたちは再び国境へと向かって走り出した。レーヴェンはすあまの連れているラダが抱えているから問題ない。アズハは呪縛攻撃を重ねてかけなおし、それでも追随してくる敵をツルギが迎撃する。
「手出しはさせないよ!」
 あわやレーヴェンへ届きそうになった矢も、マークが自身の身体で受け止める。何度だって立ち上がろう。彼女はNPCだ。守れなければ、失ってしまうのだから。
 ベネディクトの放つオーラが木々の間を飛んでいき、スティアが相手を峰撃ちで昏倒させる。すあまも殺してしまわないよう、爪を引っ込めて敵を殴り倒した。引っ掻いて死んじゃったら余計に煽り立てそうである。
「ほらほらそこ! 怪我してる人いるよ! その人お医者さんとこ連れてってねー! わたし達もう出てくから、退いて退いてーー!!!!」
 すあまの声が良く響く。諦めることなく追ってきて来た幻想種たちも徐々にその数を減らし、国境を越える頃には無事に抜ける事ができたのだった。

成否

成功

MVP

壱狐(p3x008364)
神刀付喪

状態異常

シラス(p3x004421)[死亡]
竜空

あとがき

 お疲れさまでした。レーヴェンは無事に救出されました。
 またその内、元気な姿でお会いできるでしょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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