シナリオ詳細
<オンネリネン>天秤の皿の上
オープニング
●
「みんな、大丈夫か?」
森の中を、黒い装束を纏った一団が行く。どれも背が低いものだが、一つだけ背の高い影が後ろを行く背の低い影に声をかけた。
「大丈夫」
「カコ、赤毛がはみ出してる」
「……」
「だいじょうぶだよ~」
「チョウカイ、もっとしゃっきりして」
「もう、ナチはそうやっていっつも仕切りたがる!」
「俺はお前たちのお兄ちゃんなんだから、当然だろ」
背の高い影はあくまで冷静に言うけれども、子ども同士のやり取りだった。
彼らが普通の子ども達だったら、何も気にする事などないだろう。
けれど彼らは、普通ではない。これからこの領地を収める領主を殺しに行くのだ。
彼らを人は「オンネリネン」と呼ぶ。天義の郊外、アドラステイアで“仕立てられた”子どもたち。
其の内の一人がぽつり、呟いた。
「……オレ、知ってるもん。ナチが頑張れば弟を入隊させられるんだって」
「……誰から聞いたんだよ」
「本人」
「……」
沈黙が降りる。
「別に良いだろ。皆も兄妹だし、兄妹が増えるのは良い事だろ」
「贔屓はしないでね~」
「判ってるよ」
彼らは闇路を行く。
其れが死出の道と知らずに。
●
「オンネリネンが動き出した」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)が端的に述べる。其の言葉に集まったイレギュラーズは知らず身体を固くした。
――オンネリネン。其れは子どもたちのみで構成された傭兵集団の呼称である。
出身は天義、アドラステイア。薬物と脅迫によって育てられた彼らは。子どもながらの素直さで人を殺す術を得て、オンネリネンの一員となる。
あるものはご褒美の為に。
あるものは同じオンネリネンのきょうだいの為に。
あるものは実の兄弟の為に。
様々な理由はあれど、各国に散って彼らは殺戮・略奪活動を繰り返している。
「……だけど、今回は相手が悪い。シェフィ氏――標的の貴族は既にオンネリネンの存在に気付いていてね。有能な……まっとうな傭兵に“彼らを殺せ”と命令しているようなんだ」
オンネリネンの狙い自体はローレットに筒抜けだったらしい。
連絡員が警告と事前調査のために向かったところ、貴族からはそのような回答があったという。
「大人はクロスボウ使いや術師を中心にした遠距離型の傭兵集団だ。このままでは大人による子どもの蹂躙が始まってしまうのは想像に難くないよね。だから君たちには第三者として介入して欲しい」
――どちらを守ればよいのか?
其れは誰もの心に浮かぶ問いだった。
「どちらも」
そうしてグレモリーは、最も難しい答えを突きつける。
「どちらも容赦なく殺す気だ。大人の方の傭兵集団は相手がオンネリネンだと知っている。でも、君たちだってそっちに加勢して子どもを殺すの、嫌でしょ。僕も嫌。だからどっちも無力化するのが此処では正しい答えかと思うんだよね」
君たちなら出来るよね?
グレモリーは首を傾げてみせた。
- <オンネリネン>天秤の皿の上完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月14日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●内幕
「クリア」
「クリア」
1階。傭兵たちが視界に何の異常もない事を確認する。
「今日来るのは子どもだって? 少しやりにくいな」
「バカ、子どもだと侮ってたらやられるって何度繰り返せば気が済むんだ? お前、前にも子どもに情をかけて喉笛掻っ切られかけたばかりだろうが」
「そうだけどさ、……子どもは子どもだろう」
「今回の子どもは殺しのプロだ、お前もクライアントから聞いただろ」
「だけどよう……」
「其の通りだ。相手は子どもだけど殺しに優れている」
「!?」
「誰だ!」
そいつらは堂々と、正面の扉を開いてやってきた。
マルク・シリング(p3p001309)が凛と傭兵に頷いて見せる。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がふわり、と其の後ろで建物に保護結界を掛けた。
「……判ってるのよ、シェフィさんは正しいって」
「敵襲……違うな。アンタら、ローレットか」
傭兵たちが集まって来る。アーリアは判っている。これが一番厳しい道だって事は。でも、オンネリネンの子も、傭兵の人も、殺さないでいたい。其れが彼女の願いだった。
奪わなくても、殺さなくても良い。そんな道はきっとあるはずだから。だから、どちらもつかみ取ってみせる。
――私、我儘だもの!
「総意とはいえ、真正面から行くとは。注目を引く必要がなくなってしまいました」
『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が淡々と述べる。
「アンタは確かに子どもだが、殺しのプロって感じじゃねえな」
「――外の騒ぎにはもう気付いているのか?」
「ああ。外はこっちより大変な騒ぎになっているだろうな」
気付けば静かだった屋敷は、喧噪に包まれていた。
傭兵のリーダーらしき男は冷静に言う。かといって屋外の援護に手を回す事もしない。『竜食い』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は其れを注意深く観察しながら、一同の前に出る。
「出来るだけ早く終わらせたい。“力づくでも犠牲を出させない”ために僕らは此処にいる。降伏してくれないか。外は僕らがなんとかする」
「……アンタらの気持ちは判る。だがな、俺は言ったばかりなんだよ。子どもだと思って油断したら喉笛を掻っ切られるってな。俺たちは外に増援に行かなきゃいかないんだ。判るだろ? 巡回中の仲間がやられてる。其れに俺らは金で雇われてる。裏切って職務放棄は出来ねえよ」
「じゃあ、協力してオンネリネンに対峙は出来ないのですか」
アッシュの問いに、出来ないね、と頭を振った。
「アンタらは誰も殺さないつもりなんだろ? 俺らは全員殺すつもりだ。もう其の時点で、アンタらとは意見が合わないんだ。……総員戦闘用意!」
すた、た、たん。
階段の手すりを飛び移る小さな影がある。其れはリーダーの声に合わせて集まろうとした傭兵の一人の首筋に蹴りで一撃を食らわせ、意識を吹っ飛ばした。
「ぐあ!」
運よく階段の踊り場に倒れ込み、イケダヤ宜しく階段落ちを免れる傭兵。杖がころん、と手から落ちた。其れを拾い上げるのは『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)。
「るる、るる。……だれもしなせないよ、ちからづくでも」
「戦闘開始、戦闘開始」
マルクの肩で、鳥のファミリアーが鳴いた。
●外幕
一方、外――シェフィ邸の庭では三つ巴になっていた。
「ヴァイスドラッヘ……は名誉に傷つくから。そうね、黒騎士参上と言っておきましょうか」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)がナイフを持って飛び掛かってきたオンネリネンの子どもに衝術の一撃を叩き込む。其れを受け止めたクロスボウ持ちの少年がぎらり、と敵意に輝く瞳を向けた。
「ナチ! こいつら、ローレットだ!」
「判ってる! なんでこいつら……!」
『もう一度貴女の隣で絵を』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が答えぬまま、“傭兵もオンネリネンも”巻き込む位置に閃光を迸らせる。子どもと男の悲鳴が閑静な夜に響き渡った。
「お前がナチか。……俺がお前らくらいの年のころは、絵が描きたい余りに無茶して、シスターに迷惑をかけたモンだ」
命懸けの毎日なんて過ごすもんじゃない。お前達はもっと、自分の為に我儘になっていいんだ。
穏やかに語るベルナルドは、あらゆる覚悟を決めている。即ち、“誰も殺さない”覚悟だ。
「うるさい!! アンタらはアタシ達の仲間を捉えて殺してるって聞いた! 先生がそう言ってた!! 悪魔め!! アタシが喉笛かっさばいてやる!!」
赤毛の少女が吼える。
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は悲し気に目を伏せ、しかし手を止める事はしない。己に攻撃の為の術を重ねて掛けながら、他のメンバーから少し距離を取る。
「――唱えませ。『心は消え、魂は静まり、全ては此処にあり』」
「私達は、シェフィさんには絶対に危害を加えません」
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が傭兵とオンネリネンのぎりぎりの拮抗ラインに立ち入って言う。傷付くことを恐れる者は、何も手にする事は出来ないから。
「ただ、オンネリネンの子も殺したくない……だから、私たちが来ました!」
「……副隊長」
傭兵の一人がウィズィに狙いを定めながら、後ろに構える壮年の男に問う。
「ローレットならやりかねんだろう。そういう勢力なのだ、あやつらは。隊長たちからの連絡がないという事は、中にも何人か入り込んだのだろう。――ローレットからの使者を名乗る君よ、我らは刺客を殺せと命令を受けている。」
「判っています」
「其れが我らの仕事だからだ。殺さなければ殺されるからだ。見よ、子らの目を。まるで今にも我らを引き裂かんとする獣のようだ。其れでも君らは、この事態に割り込むと?」
「其の通りですな! 骨身を削る思いで来ましたぞ! え? もう既に骨? ほほほ失礼しました」
すっぽ抜けるように明るい声で答えたのは『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)。ウィズィが傭兵の方を向くなら、自分はオンネリネンの方を向いて盾とならんと。
「傭兵のおじさん達は勿論、そちらのお子さんたちにも恨みはなし! ですが、此処は場を収めるために一旦ブチのめされて欲しいのですぞ!」
「う~ん、骨かあ。弓矢通じるかなあ」
「チョウカイ! のんびりしてる場合じゃないってば!」
「ほほほ! まあ兎にも角にも――」
「かかってこい。其れが全ての答えです!」
「……。宜しい、戦闘開始」
「皆! 全員殺すぞ!」
●
シューヴェルトが剣を構える。其れは抜いて斬る為ではない。己に課せられた呪いを武器に込め、呪詛の刃として相手に放つ。其れは見えぬ力。杖を持つ傭兵たちが防御の盾を貼ろうとも、切り裂いて確実に弓持つ傭兵にダメージを与える。
「ぐあっ……!」
「この場の不利は判っているはずだ……! 投降してくれ!」
「其れは出来ん! 俺たちは雇われた! 此処で何も出来ずにすごすご帰りました、じゃ済まされないんだよ!」
アーリアが踏み込む。術師相手には危ういレンジまで踏み込んで、飲み友達の小精霊を呼び出す。楽し気な声がぐらり、傭兵たちの感覚を狂わせる。クロスボウの狙いがぶれて、まるで酩酊したような気さえする。
入れ替わるように、彼女を護るようにマルクが閃光を瞬かせる。ぐらぐらする視界に閃光が迸り、傭兵たちの数名が其の場に倒れ込んだ。
「ん、しょ、ん、しょ」
最初に仕留めた(気絶した)傭兵を安全な場所に運び終えたリュコスが素早い動作で階段の手すりを駆け下り、跳躍して仲間の元へ戻る。ああ、倒れた人たちも安全な場所に運ばなくちゃ。
「……此れ以上は貴方がたにとって唯の損でしかありません。契約不適合の事態とも思えますが」
アッシュが冷静に戦況を分析して告げる。元々傭兵は内外合わせて13人。これを内7人、外6人に分けている。既に内側7人の内、数名が倒れている。ローレット側は5人。既に数の利も失われつつある。
隊長と何人かに指示を仰がれて、男が考える。
「……あんたの言う通りだよ、お嬢さん。だがな、だがお嬢さん。俺たちは此処から離れる訳にはいかない。お貴族様が狙われている状況はまだ続いているからだ。あんたらは俺たちに降伏を促して外に行きたい、そうだな?」
「そうです」
「だろうと思ったよ。……お前ら! 俺たちは“室内警備に戻る”ぞ!」
「隊長!?」
「ですが、外は! 副隊長たちは!?」
「6人+5人で11人だ、何とかなるだろ!」
「5人……? あ、」
はっと傭兵が振り返る。対峙しているイレギュラーズの数は――5人。
「……俺たちの最優先事項は“お貴族様の生存”だ。後は知らん」
「……! 良かったわぁ! お仕事だってお金だって、命あればこそだもの」
マルクくん、外の皆に伝えましょぉ! とアーリアが言う。
其れに頷いて、マルクはファミリアー越しにウィズィ達屋外組へと援護に行く旨を告げる。
「……ただ、一つだけ約束してくれ」
「何でしょう」
「“力づくでも犠牲を出させない”って言ったな。なら、最後まで貫いてみろ」
そういうと、隊長と呼ばれていた男は口元を覆っていた布を外し、笛を口に咥えた。
●
「ローレット! このっ……!」
「ホホホ! 結構痛いですな!」
赤毛の少女がナイフを振り回す。めくらめっぽうのようでいて、急所を的確に狙ってくる其の手腕は教育の賜物だろうか。
傷付いたヴェルミリオは超回復力で己の身体を癒しながら、カコ達数人の注意を引く。
「……貴方達の隊長は降伏しました。じき、私たちの仲間が来ます」
傭兵の気を引きつつファミリアーから報告を聞いたウィズィが傭兵たちに告げる。クロスボウを持っていた傭兵たちの狙いがブレる。
「副隊長」
指示を仰ごうと術師の傭兵が彼を見た瞬間だった。
――ピィーィィ……!
甲高い音。其れは笛の音。
傭兵たちの間で取り決められた、戦闘終了の合図だ。笛を持つのは隊長と副隊長だけ。これが吹かれるという事は――
「――皆! 無事か!」
ほどなくして、シューヴェルト達屋内組がやってくる。
「……屋内へ戻るぞ」
「副隊長!」
「戦闘不能者は担げ。――笛は鳴らされた。ならば俺たちは此れ以上クライアントに被害が出ないよう守りに回るだけだ」
「……ありがとうございます」
ウィズィが礼を言う。傭兵の副隊長は老いた瞳を彼女に向けた。
「覚えておくと良い。これが傭兵だと。金を積まれれば子どもも殺す。引けと言われれば友好的な誰かを置いて退く。そういう連中なのだと」
傭兵が去っていく。
大人は卑怯だ。そうナチは思う。傭兵とローレットは敵対している風には見えなかったのに。なのに、ローレットを置いて傭兵はのこのこと屋敷の中に戻るのか。
「……ッ、卑怯者……!!」
子どもゆえの怒りが燃える。珠緒は其れを押し留めながら、けれど確かに彼がリーダー格である事は頷けると思えた。
カコと呼ばれた子のように、真っ先に怒りに燃えるでもなく。チョウカイと呼ばれた子のようにのんびり構えるでもない。場を冷静に分析しながら、怒りを噛み殺す。彼は立派な戦士だと、故に憐れであると思った。
「大丈夫か」
傷付く彼女に、ベルナルドが駆け寄る。マルクに目配せして回復を珠緒に集中させ、其の傷を癒していく。
「大丈夫です。何とか、お役目は済んだようですから」
「――第一に、貴方達は敬虔な信徒である」
イーリンが言う。子どもたちがナイフを持って彼女に迫るけれども、ウィズィが割り込んで彼女を傷付けさせない。
「第二に、貴方達は勇敢な戦士である。――では、第三に?」
「こんな時になぞなぞ~?」
構えながらチョウカイが言う。彼はどうやら射出武器のリーダーらしく、戸惑っていた子どもたちが彼に合わせてあわてて構えた。
「第三に、僕らは……そうだな~。ただの子どもであるって、言わせたいのかな?」
矢が放たれる。ウィズィがナイフの子どもを押しのけながら受け止めて、低く呻いた。
恋人が傷付いている。しかし此処で動揺は出来ない。イーリンは表情を変えずに更に問いを重ねる。
「そう、其れで正しいわ。でもそれら全てを満たす最も大事な条件は何かしら」
「五月蠅いッ、五月蠅い五月蠅い!! ローレットなんかみんな死ね! 友達を殺す奴なんて皆死ね!!」
カコが耳に入る物すべてに反抗する。ヴェルミリオが超回復する、其処に割り込んだのはアッシュだった。雷光が煌めく。うあ、と悲鳴を上げてカコがたたらを踏み後退った、其れを他の子どもたちが受け止め、今度はまとめて向かって来る。
「おお! 感謝いたしますぞ~!」
「私こそ。貴方が耐えてくれたから何とかなりました。……こんな事をいつまで続ける気ですか?」
後半の言葉は、カコたちオンネリネンへ向けて。
「遅かれ早かれ、貴方達を本気で排除しようとする者が現れる筈です。貴方は其の時には無力な子どもに過ぎない」
「五月蠅い! 黙れ! アタシたちはそんな奴になんか屈しない! 其の為に先生に教わったんだ! アタシはずっと待ってた……この時を! ローレットに復讐する時を待ってた! 友達を無惨に殺した……ッ、悪魔に会う時を!」
「悪魔、ですか。其れはきっと……いえ。言葉が通じないのなら武力で。徹底的に邪魔させて頂きます。貴方がたを排除するだなんて終わりにはしたくないので」
「貴方は……」
ナチはナイフでシューヴェルトに斬りかかる。クロスボウを持った子どもたちが援護に回る。一方シューヴェルトの後ろにはアーリアが。白い指先がなぞる空間にぱかり、裂け目が出来たかと思うと、ナチの身体が急激に重くなる。ありとあらゆる災厄を其の身に受けたかのような身で、其れでもナチはナイフを振るった。シューヴェルトは其れを剣で受け止める。斬るつもりはないが、身を護らねばこちらがやられる、と闘争本能が告げたのだ。
見事な剣捌きだった。袈裟懸けからの切り上げ、突き、其れを避けて後退すれば仕込みクロスボウの一撃。成る程、リーダーとして立てられるだけある。
「……説得しないんだな、俺達を」
「君たちに説得して、其れで応じてくれるなら言葉を尽くそう」
「……判っているんだな、俺達の事を」
そう、説得など通じない。
だから傭兵とは違って、武力で制圧するしかない。
おかしいよね。本当なら、逆であるべきだった。子どもたちを言葉でねじ伏せられたら、どれだけ良かっただろう。
けれど、この子どもたちは育ちからして違うのだ。刃のように鋭く在れと研がれて研がれて、外の世界を知らぬまま刃となってしまった子どもたち。
アーリアが小精霊でナチの動きを留める。ぐらり、と揺れる視界。だけれどナチの眸はちいとも鈍ったりなんかしなかった。
シューヴェルトの呪いの刃を受け、吹き飛ばされて。起き上がったところに更に回復を終えたマルクから閃光を浴びて、大地に叩き付けられても。……動けなくなっても、其れでも、彼の眸のナイフは衰えもしない。
「ナチ!」
「隙、ですな」
リーダーが倒れた事はオンネリネンの子どもたちに大きなショックを与えた。カコは思わず振り返ってしまった。其の隙をヴェルミリオは見逃しはしない。聖なる光がカコを捉え、カバーしようとした子どもたちをアッシュの電光が貫いていく。あくまで殺さず、けれど徹底的に。オンネリネンの子らの旗は、敗色が濃くなっていた。
「お姉さん、そういえばさっきの答え。聞いてないね~」
残すはクロスボウ部隊のみとなっていた。チョウカイが真っ直ぐにイーリンとウィズィにボウを向けて問う。ああ、とイーリンは頷いて。
「もう判ってるでしょ、生きる事よ。死んだら家族も、何もかもおしまい」
「……僕らの兄妹を終わらせてきた人が、其れを言うの?」
「其れは違うわ。真実は貴方達の目で確かめなきゃ駄目よ。考えなさい、自分の頭で」
チョウカイは周囲を見回す。
ナチは倒れた。カコも駄目だ。子どもたちは拘束されていく。……彼らを棄てて逃げる? 冗談じゃない、僕は傭兵のおじさん達とは違うんだ。
「……みんな、武器を下ろして」
「チョウカイ?」
「ナチがやられちゃったからね~。僕らが此処で最期まで戦っても、被害はちょっとだろうし。何よりナチが望まないよ、そんな事~」
「……」
子どもたちがクロスボウを下ろす。
誰ともなく、ほう、と吐息を吐いた。安堵の吐息だった。
●
「其れで? 拷問でもするのか」
武器を取り上げられたナチは座り、全てを受け入れる姿勢だった。
いいえ、と言ったのはウィズィ。
「君も、君の家族も不幸にはしない」
「そうよぉ。私たち、結構強いんだから! 置いてきた何かがあるなら、私たちに依頼して頂戴な」
アーリアが言う。
「そうですな。まあ、戻りたいと言われましても其れは叶えかねるのですが……」
ヴェルミリオがかちかちと頭蓋を鳴らしながら言う。
「――かぞくが心配なきもちは、わかるよ」
リュコスが子どもたちの前で三角座りしながら言う。自分も転移した時に「きょうだい」を置いてきてしまったのだと。
「でも、ナチとナチのおとうとは同じせかいにいるよね。名前は?」
「……」
「みためは? どんなこ? ぼくがかわりにつれてくよ」
「……そんな事、出来っこない」
「できるよ! ぼくらはイレギュラーズだもん」
「……。 ……。名前は、アシガラ。小さくて、……もう少しで、入隊だった」
「あしがら。うん、おぼえた!」
「子どもはシェヴァリエ家が責任をもって預かろう。なに、ヴィーグリーズ会戦でも奴隷をかなりの数預かっているからな。少し増えるくらいどうという事はないさ」
「俺も一人か二人なら、……絵画だらけの家が平気な子に限るが」
「絵? 絵なら僕好きだよ~」
「チョウカイはなんでそんなのんびりなんだよ…… ……アタシは…他の子がいるところが良い。アンタ達が殺してないって証拠を見せろ」
イレギュラーズは子どもたち15人の行き先を相談していた。子どもたちは離れ離れに保護される事自体には異論はないようだ。
そんな中、疲労か緊張でか気を失った子たちを介抱する珠緒に、マルクが歩み寄る。
「大丈夫?」
「ええ。……ただ、この後がどうなるのかと」
「……」
「そうですね」
アッシュが加わる。彼女もまた柳眉を寄せ、これからを案じていた。
「人は追い詰められるほど、手を選ばなくなりますから」
「はい。……このような刹那主義の運用では、訓練が追い付かなくなるのは目に見えています。……子どもを使った非人道攻撃が行われてもおかしくない」
「自体は一刻を争う、という事かな。僕らはいつも後手だ。何とも歯痒い話だね」
「……」
ウィズィは東を見詰めていた。この夜が明ければ朝が来て、子どもたちの処遇が決まるだろう。誰の元へ誰が引き取られるのかは判らないが。
「……貴方には無茶させてしまったわね」
其の傍にイーリンが寄る。静かに、夜のとばりのように寄り添う。
「ううん。……護るのが私の役目だし、……イーリンに怪我があったら、其れこそ私は舌を噛みかねない」
するりと腰に回る手を、イーリンは無情にもつねって。
「あいてて」
「全く。……傭兵にね、子どもの死体は運び出したと言おうとしてたのよ」
「……言わなくて良かったね」
「言えなくなってしまったわ」
二人は東の空を見る。夜明け前、一番暗い時間帯。
やがて明けるのだろうか。今日という日は来る。けれども、明日は? 明後日は?
オンネリネンという闇は、アドラステイアという暗闇は、暁によって払われるのだろうか?
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
傭兵には傭兵の流儀があって。
子どもたちには、子どもたちなりの情があった。
というお話でした。
子どもたちの扱いはイレギュラーズの皆さんにお任せします。
チョウカイとカコの希望はリプレイ内に記載した通りです。
ナチは特にこだわりはないようです。
ご参加ありがとうございました!
MVPは矢面に立つと見事に言ってみせた貴方へ。
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
子どもたちと善良な貴族が、天秤の両皿に乗っています。
●目標
傭兵集団を無力化せよ
●立地
幻想貴族街にあるシェフィ家です。
従者やシェフィ氏本人は地下室で待機しているので避難などの必要はありません。
室外・室内には大人の傭兵たちが待機しています。クロスボウや杖を持った者が多いです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●エネミー
大人の傭兵(クロスボウ)x10
大人の傭兵(術師)x3
★オンネリネン(ナチ)x1
オンネリネン(ナイフ)x7
オンネリネン(クロスボウ)x7
数が非常に多いです。
侯爵に説明に行く時間はありません。突っ込んですぐ戦闘になります。
何処から無力化するか、オンネリネンの子どもたちをどうするかはイレギュラーズの皆さんにお任せします。
★ナチはリーダーで、ナイフと仕込みクロスボウを持っています。戦闘能力がかなり高い、黒髪の少年です。他のオンネリネンとは一線を画した強さを持っています(其の強さでリーダーに選ばれました)
●オンネリネン構成員
ナチ(リーダー)
チョウカイ(のんびりやさん)
カコ(赤毛。ちょっと抜けてる)
他数名
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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