PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<大樹の嘆き>パンイチゴブリンと狂乱の精霊達

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●突然のイベント、そして突然の排除
「翡翠国封鎖!? おいおいおいおいおいマジか! 俺の全財産あそこにおきっぱなんだぞ!?」
 パンツ一丁でのけぞり、どころか首ブリッジ状態になったゴブリンがいた。
 ゴブリンっていうか、ROO世界におけるNPCキドーがいた。古式ゆかしき緑肌に長耳矮躯の盗賊風モンスターの、彼。
「いやオメー自業自得だろ。翡翠で競ロバ大会があるからって全額ぶっ込んだんだろうが」
「そう言う意味じゃ、あなたの財産じゃあないわよね?」
 平然とした顔でキドーに答えたのは金の槍とホルスアイの義眼をもつエジプト風の男ザイード。
 そして深い褐色に青い目をもつ宝石精霊の女性アズライトだ。豊かな胸元をした彼女はエールを飲み干すと、カップをテーブルにコトンと置いた。
「キドーの財産は見捨てるとして」
「見捨てんな!」
「翡翠国が急に国境を封鎖したのは奇妙よねえ」
 彼女たち砂嵐盗賊団は広大な砂漠地帯に縄張りをもつ巨大組織だ。
 隣国である翡翠国とは仲が良いとは言いがたいが、一部の人間とは交流があったし取引もしていた。ついでにいえば競ロバ大会への参加もした。
 小首をかしげるアズライト。
「あの辺の精霊たちが最近殺気立ってるけど、それが関係あるのかしら?」
「精霊サンが怒ったくらいで封鎖するかあ?」
 顔をしかめるザイードに、キドーがにょきっと立ち上がる。
「バカヤロウコノヤロウ考えてても仕方ねえ! 調べ行くぞ調べにぃ!」
 ザイードが呑んでいた黒ビールのカップを奪って一気飲みし、そして酒場の外へと走り出す。
 ザイードとアズライトは顔を見合わせ……。
「どうする? 追いかける?」
「パンイチのゴブリン一匹、放置するのも心苦しいってか?」
 二人は立ちあがり、そして酒場の外へと走り出す。
 仏頂面の店主が真っ黒な料理を運んできて……そして二度見した。食い逃げであった。

●大樹の嘆き
 ROO内にて緊急クエスト『大樹の嘆き』が発動した。
 翡翠国境線が封鎖され、翡翠内のサクラメントもすべて停止したというものである。
 この世界の歪みを調査することも大目標とされている(そう依頼されている)ローレットとしては、クエスト攻略によって得られるデータの重みは無視できない。
 早速己のアバターでログインし、クエストに手を付け始める。
「でェ? 今回のクエストはこのハンサムゴブリン(パンイチ)とツルんで国境線の調査に向かえって?」
 クシィ(p3x000244)は酒場でのんだくれながらもにやりと笑った。
 空中に開いたウィンドウ越しには現実世界(混沌世界)から通信している情報屋の顔が見える。
『厳密には、彼らが調査にあたってる迷宮森林に向かって欲しいんだ』
 迷宮森林はすなわち国境線。要するに森に入ったら翡翠国という線引きだ。
『このエリアには精霊達が住んでいるんだけど、彼らはみんな殺気だっていてよそ者を殺してでも排除しようとしてる。これまではこんなことなかったんだけど……』
 イベント発動によって強制的に凶暴化したと判断するのは、すこし早い。
 何か別の理由があるとみるのがまずは妥当だろう。
『実際、翡翠国では森に入った者を捕らえたり追い出したりしてるらしい。過激な所では処刑されるなんてことも――』
「ホアァアン!?」
 クシィが急に吼えた。そんなにパンイチゴブリンが大事だったのか? それともホルスアイの男か? はたまた宝石精霊のアズライトか?
「こうしちゃいられねえ! とーとい命を救うのも俺たちイレギュラーズの使命だぜ! 凶暴化した精霊に襲われてるかもしれねーゴブリン連中を救って、まずは秘密を探ろうじゃねえか! いこうぜ!」
 酒の入ったカップを飲み干し、酒場からダッシュで飛び出していく。黒焦げ料理を運んできた男が二度見する。そう、食い逃げであった。

GMコメント

●シチュエーション
・成功条件:精霊達の撃破
・オプションA:ゴブリン一味の生存
・オプションB:ゴブリン一味との協力(ないしは友好)
・オプションC:国境封鎖の謎を調べる

 森林迷宮へと侵入し、凶暴化した妖精たちを撃退し秘密を探りましょう。
 現地には既にゴブリン一味(キドー、ザイード、アズライトの三人)が入り込んでおり、精霊達に襲われている最中のようです。

●エネミー
・狂暴な精霊達
 森にすまう精霊たちです。沢山います。
 主に四大元素由来の精霊で構成され、水、土、空気、火です。
 余談ですが火の精霊は立場がよわいようです。

・大精霊
 精霊達を一定以上撃破すると現れる強力な精霊です。
 四大元素をミックスした能力を持ち、ランプの魔神よろしく腰から下がしゅるっとしたボディをしています。
 強さもかなりのものなので、イレギュラーズたちにゴブリン一味の戦力を加えないとちょっと厳しいかもしれません。

●味方?NPC
・キドー
 コルボさんとこの盗賊団に所属するゴブリン一味の自称リーダー。
 ナイフを使った戦闘が得意。
 逃げ足の速さと鍵開けのウマさとギャンブルの才能があると自負している。あとこのまえギャンブルで全財産をスッた。(なので武装はナイフ一本しかない)

・ザイード
 神の目を持つ男。ホルスアイの義眼で自他への治癒能力を、黄金の槍で近~中距離の戦闘を扱う男。
 フィジカルが高く罠の発見やダンジョン攻略に優れる。

・アズライト
 宝石精霊の女。ブルーの宝石を作り出し雨のように降らせたり、壁にして防御したりとちょっと器用な魔法使いポジション。
 霊的な直感力に優れ、精霊疎通をはじめ複数の調査系非戦能力をもつ。

================================

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <大樹の嘆き>パンイチゴブリンと狂乱の精霊達完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クシィ(p3x000244)
大鴉を追うもの
シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
天魔殿ノロウ(p3x002087)
無法
ハーヴェイ(p3x006562)
心にゴリラ
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
ネコモ(p3x008783)
ニャンラトテップ
アズハ(p3x009471)
青き調和
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ


「え、何。このクシィちゃんを差し置いて?コルボの所に? 所属? はァ??」
 両目かっぴらいた『大鴉を追うもの』クシィ(p3x000244)がぐにゃんと首をかしげていた。全身をつかって90度を超えるほど傾いた顔から舌がだらんとさがる。
「義眼野郎はとにかく、予想外の別嬪さんとつるみやがってよォあぁん!? 無精髭のフリしてよォ! オラァァァァァンアアアアン!?」
 荒れ狂いに狂いまくったクシィを、誰も止められない。
 そこが警戒バリバリの国境線であったとしても。
 ここから一歩踏み込めば迷宮森林。話によればキドー率いるゴブリン一味はここから内部へと突入し、競ロバ場へと向かおうとしたらしい。なんで競ロバ場。
 クシィは口の中だけで『ちゃんと守れてんのかい?』とだけ囁くと、身体と首の位置を戻した。
「うわ……なんか嫌な感じがする、すごいビリビリくる、ぐえーってしてる……」
 森につま先をちょっと入れただけの『大樹の嘆きを知りし者』ルフラン・アントルメ(p3x006816)が、鳥肌をたててぶるぶるした。
 木々のもつ断片的な、そして濃厚なマイナスイメージを感じ取ったのだろう。
 小動物に至ってはリスの一匹すら見えないことが、その『ヤバさ』を際立たせる。
(妖精郷への道どころか国境そのものも閉鎖か…なんか深緑とは色々と逆を行っているな…精霊が妖精郷の情報を持っている可能性は低そうだが…国境を封鎖されたら妖精郷にたどり着けなくなる…何とかするためにもこの状況を何とかしないとな)
 などと内心で考えながら周囲をみはる『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)。
 『無法』天魔殿ノロウ(p3x002087)はといえば、『こんなゴブリンを見なかったか』とその辺のタンポポに絵を見せていた。無論ジョークである。なんかブリーフパンツ一丁のゴブリンが白目剥いてブリッジしてる絵だし。(そして案外脚色でなく本当にやってたし)
 そんな余裕のジョークを見せつつも、しっかりと足跡をはじめとするゴブリン一味が森へ入っていった痕跡を探り当てていた。
「つーか、最近は人の出入りが少ねーなァ。やっぱ国境封鎖の噂はマジなのかねぇ……」
「封鎖と言うから、巨大な壁でも立っているかとおもったが……そうではないんだな」
 森へと立ち入り、妙にざわつく感覚をおぼえながらも周囲の様子を観察する『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)。
「これではゴブリン一味も入り放題だし、なにより砂嵐盗賊団に対して無防備すぎないか?」
「うーん……どうでしょうねえ。砂嵐盗賊団ってあれで案外統率がとれてますし、森が国境線だって認識が共有されてるなら、そうおちおち入らないんじゃないですか?」
 『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)は『あっちとこっち』というジェスチャーをして言った。
「壁や柵は、入ることに対する物理的拒絶ですけど、それをたてずに素通りさせてるってことは……こう、アレですよ」
 途中から言葉にしづらくなったのかジェスチャーまでぐちゃぐちゃーっとし始める。
 言わんとすることを察した『俺だってもふもふだぜー!』ハーヴェイ(p3x006562)がウエエという顔をした。
 あの可愛い火ネズミフェイスでやるとたんに可愛いだけだが。
 混沌世界にも、まあまあ珍しくないトラブルだ。『入ってきたら、すんごい酷い目にあわせてやるぞ』という意思表示を相手側の簀巻き死体を国境線沿いに放り捨てていくことで示すというやつだ。
「けど、翡翠のひとたちも精霊たちもとりあえず襲ってきてるんだろ? 声明とか出さずに。やっぱ話きくしかないべ。ほら情報料も持ってきたから」
 そういって『猫に似てる石』をスッと出してくるハーヴェイ。
 『にゃーん』ネコモ(p3x008783)は反射的にそれをニャッていいながら叩き、そして我に返った。
「ともかく、今回のクエストは精霊と戦うってヤツにゃ。ゴブリンと組んで精霊を倒すって王道RPGとは真逆の展開にゃね」
 早速ゴブリンたちを追いかけよう、とネコモたちは更に森深くへと入っていった。


 水、土、空気、火。四種の精霊たちが大量に現れ、光の弾のような形状で宙へと浮かぶ。
 そして彼らは力の弾丸を発射しはじめた。一体につき一発ずつではあるが、その数が膨大であるがゆえに恐ろしい物量となる。
 対して宝石精霊種アズライトは大地にトンと足を踏みならすと地面から石の壁を形成。水や風の弾を弾き飛ばす。一方で神の目を持つザイードは壁の裏から滑るように飛び出し、槍を回転させ土の弾を防御。
「おいキドー、歓迎されちゃあいないみたいだぜ? どーせオマエがまたなんかやったんだろ」
「うるせー知るか! 心当たりが多すぎてわっかんねーよ!」
 キドーは『妖精のいたずら』と呼ばれるとげとげした木の実に火を付けるとアズライトの壁越しに精霊たちへと投げつける。
 ボッとあがる火に精霊たちが狂ったように暴れた。慌てて風の精霊が飛び退き、水と土の精霊が覆い被さって火を消し始める。アズライトがその様子をみて息をつく。
「ほおらまた恨みが増えた」
「うるっせ! かかる火の粉は払うモンだろが!」
 そう語るキドーの背後、ぶわりとあがる火の精霊。
 尻に火がついたことでキドーは慌てて飛び退き……そして取り囲まれたことに気がついた。
「やべっ! おいおめーら何が望みだ! 俺ぁパンツしか持ってねえぞ! 欲しいのか!? 欲しいのかよぉ!?」
「欲しいわけあるかボケ!」
 クシィのドロップキックが炸裂した。
 ほぐあと叫んでぶっ倒れるキドー。
「なにすんだテメーこのやろ翡翠のモン――あっ違えな」
 クシィのいでたちというか雰囲気を見て、キドーは秒で理解したらしかった。何かを。
「おらー! パンイチの旦那を狙ってないで俺達の話を聞いてくれー!!」
 そこへ突っ込んでいくハーヴェイ。
 全身から炎をあげると、水精霊へと体当たりをしかけた。
 ボゴッと音を立てて気化し、状態を保てずに弾ける水精霊。
 これが人間だったらエグい死に方だが、どうやらここの精霊はすっごいちっちゃい精霊の意志がめっちゃ集合して意志を統合したものであるらしい。散ったら散ったで意志が分断されるだけで特に死んだりはしないようだ。
 なるほどそれならと言いつつも、シフルハンマが不殺効果のある範囲攻撃を発動。素早く飛び退いたハーヴェイの居た場所へスタングレネードを投げ込む。
(生存最優先だ、死んでしまったら精霊と交渉ができなくなるからな……)
 その一方でリロードヒールを使って味方を回復しつつ、状況を観察した。
「皆さん、手を貸します! お困りのようですし」
 飛び込んできたフィーネが両手の五指と五指を優しく合わせるような構えをとると、既に(ドロップキックされる前から)傷ついていたキドーに治癒の魔法をかけてやる。
「あら、話の通じそうな子が来たじゃない」
 石による防御を続けながら振り返るアズライトに、フィーネがぴったりよりそう形で立ち止まった。
「精霊さんたちはなんと?」
「『でていけ』『ころすぞ』『このやろう』ってとこかしら。言語化できないくらいの弱い思念でね」
 そう聞いて、浜辺の蟹の群れが一斉に威嚇の姿勢をとったさまをフィーネは想像した。
 最初からわかってはいたが、話してわかってもらう段階ではなさそうだ。そもそも言葉自体を理解できてるかどうかあやしい。
「会話が通じる相手って安心するわ」
「あ、ですよね……」
「普段コレとコレだもの」
 そういってザイードとキドーを指さすアズライト。そっち!? と二度見するフィーネ。
「普段、そうなのか……? ちゃんと言語は使った方がいいぞ?」
 短剣で精霊をスパッと切り裂き相手の力を吸い上げると、天魔殿ノロウがザイードにちょっと同情的な視線を送った。
「俺までゴブリンと一緒にするんじゃあねえ! 俺はマットーな人間だぞ」
「俺も真っ当なゴブリンだっつーの!」
 キシャアと威嚇みたいな顔でにらみ合うザイードとキドー。どうやら戦うなかでの余裕は失っていないらしい。
 天魔殿ノロウは短剣をぽいっと投げて回転させると、逆手にキャッチし握りこむ。にらみつけた精霊が天魔殿ノロウめがけて突っ込んでくるが、それをナイフで受け流すように打ち払う。
 そうしている間にアズハがザイードのそばに寄ってきて、狙撃銃で遠くから打ち続けている精霊をスナイプしはじめる。
「そこのゴブリン、全財産を翡翠に置き去りにしちゃったんだって? 災難だな」
「なんだアンタ? 詳しいな」
「ここは協力しよう。俺たちも翡翠の現状を知りたい」
「ほおん……」
 ザイードは小さく頷いた。親切心で寄ってくるひとは信じないけど取引なら信用するといったところだろう。
 アズハは取引成立だなと呟くと、精霊に向けて射撃。
 いつの間にか木の枝にのっていたネコモがぴょんと飛び降り、精霊めがけ空中回転踵落としをたたき込んだ。
「ハナシは纏まったにゃ? バトルは任せろにゃー!」
 カラテっぽい構えをとるネコモ。
 無数の精霊たちが四方八方から迫るが、跳躍し竜巻のような連続回転蹴りを繰り出すことで精霊達を吹き飛ばした。
「あっ、よけてよけて! でっかいのいくから!」
 ルフランがアップルパイ型の杖を振りかざし、『ボンボン・ドゥース!』と唱えて振り下ろした。
 光の弾が木の幹に着弾し、周囲に甘いキャンディの散弾となってまき散らされる。
「へいへーい! 財産も大事だけど命あってこそだよ!」
「ばっきゃろ金は命より大事なときあるだろ!」
「自分の?」
「他人のォ!」
 ふせて魔法をよけていたキドーが起き上がる。
 そして今更ながらパンイチなことに気がついたようで、ぶるりと震えた。
「風邪ひくよ。マントあげる」
「おっサンキュー」
 ルフランがなげたマント(お菓子の柄)を羽織り、キドーはちょっと満足げだった。
 誰だってパンイチよりはマント一枚あったほうがマシなものである。全財産も失ってるし。
「コレで精霊は片づいたか? この辺で精霊が襲ってくるなんてことなかったんだけどなあ」
「えー? どうかな……」
 ルフランは嫌な予感を覚えて周囲を見回した。
 先ほどから、下級精霊とは比べものにならない程の『意志』を感じるのだ。
 これだけ強い意志をぶつけてくるのは結構に高位な精霊のみ。存在として稀だが、迷宮森林内であればそう珍しくもないのだろうか。……ともかく。
「「皆、避けて!」」
 ルフランとアズライトが、ほぼ同時に叫んだ。


 爆発、ととるに相応しい衝撃が走った。
 非常に硬質化した土の塊のなかで液体が急速に膨張し、気化したものが更に暴れたことで瞬間的な爆発がおきたのだ。いや、実際構造だけ見れば爆弾そのものである。
 咄嗟に防御を固めたルフランとアズライトも、その衝撃に吹き飛ばされる。
 ふとみれば、爆発の中心には半透明な人型の実体があった。おそらく精霊が集合してできあがった高位の大精霊だろう。
 シフルハンマは素早くリロードヒールで回復をはかり、スタングレネードを放った。
 空気と土の層を幾重にも連ねた盾でそれを防ぐと、大精霊は空気を熱っしてできた塊を弾幕に変えて解き放つ。
 槍で防御しようにもすりぬけ、直撃をくらうザイード。
「やべ、滅茶苦茶強えぞこいつ」
「調査のためにはまず、この大精霊を何とかしないとだな!」
 アズハはまとめて攻撃されないように散ると、木々をある程度盾にしながら大精霊を射撃した。
 レバーを操作し空薬莢を放り出すと、地面にそのまま落として素早くリロード。次の狙いをつけて撃つのとほぼ同時にフィーネが治癒効果の高い魔法を送り出した。
 大精霊めがけて突っ込む天魔殿ノロウへとである。
「こういう手合いにゃBSが通じづらいのはセオリーだからな、手数で行かせて貰うぜ!」
 ナイフを素早く繰り出し、斬り付けまくる天魔殿ノロウ。
 援護するように石の弾幕をはるアズライトにあわせ、ルフランはクシィとキドーへと視線を向けた。
「援護するよ、飛び込んで」
「「俺が!?」」
「「あれに!?」」
 全く同時に全く同じリアクションとジェスチャーをする二人。
 直後へんに気まずそうな視線を向けあったあと、しゃあねえと言って二人同時に突っ込んだ。
 それを吹き飛ばそうと力を集中させる大精霊。
 だが、ハーヴェイとネコモが両サイドからそれを阻んだ。
「いっくよー! 火光獣ぱわー!」
 すぅーーっと大きく息を吸ったハーヴェイが炎の渦を吐き出す。
 その反対側からはネコモがカットインが入るくらいの気合いで猫パワーを溜め込み、真空猫道拳を放った。
 咄嗟に両サイドに力の盾を形成する大精霊。
 そうした隙へ、クシィとキドーはそれぞれのナイフを鋭く繰り出した。
 交差した斬撃に、大精霊がパッとはじけ飛ぶ。
 そしてそれ以上、再生する気配はなかった。


 シフルハンマやアズライトたちが残存する精霊に話しかけてみたが、精霊からのまともな反応はなかった。無視されたようなものである。
 こちらに対して好意的になってはくれないようで、未だにちょっと攻撃的な意志が向けられているのがわかる。
「ここに残り続けるのはヤバそうだなァ……一旦退こうぜ?」
 天魔殿ノロウの提案に、アズハもこくりと頷く。
 そして彼らは追撃への警戒を続けながら、迷宮森林から脱出したのだった。

 場面は変わって、酒場。
 なんかどす黒い謎の料理をスッてパスしあいながら彼らはテーブルを囲んでいた。
「あの森、どうも……こう、変な感じがしましたね。『ヘン』ということしかわかりませんでしたが……」
「あんたもか」
 フィーネの言葉に、ザイードが小さく唸る。
 ネコモがふと『この子は不具合感知っていう能力があったにゃあ』と思い出しながらちびちびミルクにくちをつける。
 ハーヴェイがふとアズライトとルフランに顔を向けた。
「それで、精霊から得られた情報は?」
「そうねぇ……」
 アズライトが『話してあげて』という顔でルフランを見てきたので、ルフランはコップを置いて(どす黒い料理を他人にパスして)顔をあげた。
「キドーさんたちだけじゃなくて、私達にも攻撃的な意志を向けてきたよね。イレギュラーズとか砂嵐盗賊団とか、そういう区別がついてるかどうかは分からないけど……少なくとも外から来たひと全般に対して攻撃的な姿勢を堅持してるみたい」
 ふむ、と頷く態度をみせるシフルハンマ。
 クシィが紙巻煙草を一本取り出すと、キドーへと突き出した。
「そういや、そろそろヤニが欲しくなる頃か……一本どうだい?」
「…………」
 それを黙って手に取ると、キドーはカチカチと火打ち石で煙草に火を付ける。
 煙をすって、すって、肩をおろしながら吐く。鼻からも。
「競ロバ場は、翡翠ンなかでもグレーなところでよ。あんま外のモンをいれない翡翠民の割にはそこそこ立ち入りを許してたんだわ。金が好きな奴はどこにでもいるってこったな」
「へえ……」
 ルフランが目を光らせ、そしてハーヴェイがこくんと頷いた。
「じゃあ、精霊が出てくるあのエリアをあるていどクリアしたなら、そこまで行って話を聞くくらいはできるかもしれないね」
 金で動く人間がいるというのは、なかなかイイ話だ。問題はそこまでたどり着くのが難しいことだが……それに関しては地道にやっていけば大丈夫だろう。土にスコップで深い穴を掘るようなものだ。
 この先に希望を見いだしつつ、彼らはスッと席を立った。
 食い逃げは……今回はしない。

成否

成功

MVP

ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花

状態異常

ルフラン・アントルメ(p3x006816)[死亡]
決死の優花

あとがき

 ――クエストクリア!

PAGETOPPAGEBOTTOM