PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クラマ怪譚。或いは、我に戦を魅せてみよ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある暑い日の話
 夏の終わり。
 とはいえ未だ熱気の残る季節であった。
 ところは豊穣、海に面したツムギ湊の武家屋敷。
 広い庭では、諸肌晒した男たちが木刀を握り、日課の稽古に励んでいる。
 厳めしい面でそれを睥睨しているのは、ツムギ湊の領主を努める益荒男“ダンジョウ”。
 他のものよりふた周りは太く、長い木刀を肩に担いだ彼は、配下の武士たちへと絶え間なく檄を飛ばしていた。
「先だって不覚を取った者は、1度死んだものと思って性根を入れ替え稽古に励め!」
 怒声が響く。
 空気の唸る音がして、ダンジョウは大木刀を片手で振り下ろしてみせる。
「無論、不覚を取ったのは儂も同じ! ゆえに貴様らが100、木刀を振るのなら、儂は200振ってみせよう!」
 大上段に木刀を振り上げ、ダンジョウは叫ぶ。
 隆起した腕の筋肉には、隙間の無いほど汗が浮き上がっている。
 そんなダンジョウ、および配下の武士たちを、屋敷の奥から酒を片手に観る者が1人。
 絢爛豪華な着物を纏った、狐耳の美女である。
「あっははは! ダンジョウよ、いくら筋肉を鍛えたところで、頭が伴わなければ意味のないことよ。お主の手下どもは、真に良い的であったぞ?」
 なんて、嘲るようにそう言って女……クラマはひらりと腕を一閃させた。
 ごう、と魔力が吹き荒れて、放たれるは一条の火炎。
 まっすぐ、庭で稽古に励む武士へ目がけて飛ぶそれを、ダンジョウは素手で握りつぶして消火した。
「侮るでないわ! 無論、兵法も修めさせておる。近々、模擬合戦を行うでな……それを見て、同じ台詞が吐けるか見物よ」
 ぎろり、とクラマを睨み付け、ダンジョウはそんなことを言う。
「貴様のような不届き者がまた現れんとも限らんからな。鍛えに鍛えた皆どもは、次こそツムギ湊を守ってみせると猛っておるわ」
 ダンジョウが。
 主君がそう告げたのだ。
「「「応!!」」」
 主君に恥をかかせはしないと、野郎どもは声を重ねて吠えたのである。

 ダンジョウとクラマが初めて顔を合わせたのは、今からしばらく前のこと。
 ダンジョウの修める土地……より正しく言うのなら、港街という立地とその利便性。
 そこを拠点とすることで得られる物資の流通ルートや情報網を掌握するため、クラマが喧嘩を売ったのがその始まりだった。
 ダンジョウは決して、善良な領主ではなかった。
 そのため、クラマに与する領民も多く、2人の諍いは領地の存亡さえ脅かすほどに酷いものとなったのだ。
 しかし、現在はこのように“仲良く”とまではいかなくとも、言葉を交わす程度の関係に落ち着いている。
「ふむ……模擬合戦か。のぅダンジョウ。それ、あやつらも参加させては駄目かの?」
「……あぁ。連中か。貴様、ずいぶんと連中を気に入っておるな」
「ま、そりゃの。ここにこうして住んでおるのもそうじゃし、他にも色々、世話になっておる。“借り”もあるので、いずれ利子を付けて返すつもりよ」
 なんて、そういってクラマはどこか暗い笑みを浮かべた。
 かつて、ダンジョウとクラマの諍いを止めたのはイレギュラーズだ。
 以来、何かとクラマはイレギュラーズを利用し、ことあるごとにその実力を測ろうとしている。
 当然、ダンジョウもそんなクラマの動向を掴んでいるのだが……。
「しかし、そうだな。兵子どもにとって、よい刺激になるやもしれん」
「では、決まりか?」
「あぁ、片方の軍に連中を組み込むとしよう」
 なんて、ある晴れた日にそんな会話があったから。
 彼岸会 無量(p3p007169)をはじめとした数名が、ツムギ湊へ召集される運びとなった。

●御前試合
「……して、なぜ私を?」
 ツムギ湊郊外。
 遮るものの何もない平野には、急ごしらえで設えられた物見櫓や木柵が並ぶ。
 一段高い丘の上からそれを睥睨する無量は、隣に座るクラマへ問うた。
 クラマは丘に展開した大きな傘の日陰に座り、手酌で酒を煽っている。
 汗水たらして働く兵を肴に飲む酒は、果たして美味いものなのか。
「なに、お主がツムギ湊の防衛に関心を抱いておったのを思い出してな。気になるのなら、自ら試してみればよかろうて」
 なんて、言ってクラマは呵々と笑ってみせた。
 それから彼女は、平野の中央付近に流れる浅い川を指さし告げる。
「あの川を挟んで西側……ツムギ湊を背にする側に位置しているのが“鬼軍”である。今回、お主らの所属することになる“狐軍”が争う相手であるの」
 鬼軍の大将、および部隊指揮官を務めるのはダンジョウの腹心たちだ。
 彼らは【ショック】【体制不利】【必殺】の付与された剣術を修めた猪武者である。
 その数は4人。
 うち1人……ヒダカという名の男が総大将。
 そして残る3人が部隊長を。
 さらに、それぞれの副官が4人。
 都合8人が敵方の指揮官を務める。
「その下には50名の兵子が付く。弓兵10、歩兵25、騎馬隊10、斥候5……とのことである」
「相手の数は総勢58名ですか。それを私たちイレギュラーズで打ち破ってみせよ、と?」
「うん? 早とちりするでないよ。これは模擬合戦なのじゃからな」
 合戦とは、大人数でやるものだ。
 だからこそ、クラマとダンジョウはわざわざ領地の外れの平野にこのような陣を用意したのだろう。
「弓兵、歩兵、騎馬隊、斥候。それぞれ何名用意するかは任せるし、指揮権はお主らに預けてやる」
 ツムギ湊を護れるだけの軍略を見せてみせろ。
 そうクラマは言っているのだ。
 そして、その合戦の様子を、クラマとダンジョウは丘から見物するらしい。
「総大将を獲られた軍の敗北じゃからの。そこのところ、よくよく理解しておくれ」
 なんて。
 そんな風に言ってクラマは瞳を細め、くっくと肩を揺らすのだった。
「さぁ、見せておくれ。お主らの真価を、この我に」

GMコメント

※こちらのシナリオは「クラマ怪譚。或いは、呪術師“右近”のこと…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5917 

●ミッション
鬼軍大将、ヒダカの撃破

●鬼軍
・ヒダカ×1
ダンジョウ配下、鬼軍の大将。
ダンジョウの腹心の中で、最も武力に長けた益荒男。
赤い陣羽織と、鬼を模した兜をかぶる。

武技の求道:物近単に特大ダメージ、ショック、体制不利、必殺
 流した血と汗と涙は、いずれ力になるだろう。


・ダンジョウ配下×3
ダンジョウの配下であり、彼に心酔している武者たち。
鬼を模した鉢がねと、面頬を装着している。
刀や槍を獲物として扱う。

武技の求道:物近単に大ダメージ、ショック、体制不利、必殺
 流した血と汗と涙は、いずれ力になるだろう。


・副官×4
ダンジョウ配下の武士に従う副官たち。
指揮能力に長ける者が多い。

武技の求道:物近単に中ダメージ、ショック、体制不利
 流した血と汗と涙は、いずれ力になるだろう。


・兵子×50
弓兵10、歩兵25、騎馬隊10、斥候5。
弓兵は遠距離攻撃を得意とする。
歩兵は近接戦闘を得意とし、守りに長ける。
騎馬隊は機動力と攻撃力に優れる。
斥候は索敵に優れ、またBSを治療する薬を所持している。
また、兵子の攻撃には【出血】が付与される。

●狐軍
イレギュラーズが参加する陣営。
兵子×50が貸し与えられる。
以下2点についてあらかじめ決める必要がある。
①大将を誰が務めるか。
②弓兵、歩兵、騎馬隊、斥候をそれぞれ何名ずつに割り振るか。


●フィールド
豊穣。
海に面した港町、ツムギ湊。
街の外にある平野を使用する。
視界、足場に問題はない。
スタート地点は平野の東側。
距離にして300メートルほど先に鬼軍の陣が張られている。
鬼軍、狐軍両陣営の中間地点には浅く狭い川が流れている。
また、両軍の陣営には幾らかの木柵と物見櫓が設置されている。

・クラマとダンジョウ
クラマは獣種の妖術師。
ダンジョウはツムギ湊の領主である武器マニアの巨漢。
今回は平野の端にある丘から、模擬合戦を観戦している。
ダンジョウは自身の部下たちがどれだけ強くなったのかを確認したい。
一方クラマは、イレギュラーズが戦に介入した場合、どのように動くかを見たがっているようだ。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • クラマ怪譚。或いは、我に戦を魅せてみよ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

彼岸会 空観(p3p007169)
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
藪蛇 華魂(p3p009350)
殺した数>生かした数

リプレイ

●ほら貝の鳴る頃に
 平野を見下ろす高台に2人。
 片や黒い鎧を纏った大男。
 片や絢爛豪華な着物を纏う獣種の女。
 紫煙を燻らし、にたり顔の女とは正反対に、鎧男の表情は厳めしい。
 2人の視線の先には、小川を挟んで対峙する兵士たちの姿があった。
「連中、戦には不慣れと思ったが、なかなかどうして考えておる。クラマ、貴様の入れ知恵か?」
「戯けたことを言うでない、ダンジョウよ。我とて驚いておるのさ。あの女武者め、良い仲間を持っておる」
 ダンジョウと呼ばれた大男、そして狐の獣種クラマの視線は1人の女へ向いていた。
 女の名は『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)。此度の模擬合戦に参加するようクラマの要請を受けたイレギュラーズの剣士である。
「騎馬隊を率いるつもりか。数が少ないのは、あくまで攪乱が目的だからかの?」
「早計に過ぎるな、クラマよ。それならば、ほれ……あの金髪の武士が率いる斥候部隊にやらせればいいだろう」
 そう言ってダンジョウが指差した先には、本隊から幾らか離れた位置に待機する斥候部隊。その先頭に立つ『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は得物の大ナイフを肩に担いで、欠伸など零していた。
「剛毅なものよな。ただでさえ目立つというのに、緊張している風でもない。よほどに戦慣れしておるか」
 それから、とダンジョウは視線を少しだけずらす。
 そこにはピンクと緑の髪色をした小柄な女が立っている。
「……目立つと言えばあの髪色よ」
 ウィズィの隣に立つ『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)を見て、彼は言った。
「身のこなしは野山を駆ける鹿のようであったが……あの体躯で刀を振れるのか?」
「分からんの。分からんと言えば、ほれ……本陣の奥におるあの男。あれは、どうだ? 戦えるのか?」
 ふぅ、と紫煙を吐きながらクラマが示した先に居たのは『殺した数>生かした数』藪蛇 華魂(p3p009350)である。どこか仄暗い気配を纏ったその男、血色は悪く、身体も細い。
「戦えるのではないか? 大将の女が気安げに言葉を交わしておる辺り、頼りにはなるのだろう。医者か軍師か……それにしても、その……でかくないか?」
「隠岐奈か……まぁでかいのぅ。八尺は超えておるだろうよ」
「もしやあ奴か? 最近、街人どもが噂しておる“八尺様”とか言うのは」
「いや、違うんじゃないかの?」
 大将を務める『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)を指し、2人はひそひそと言葉を交わす。
「大将が大きく目立つのは良い。風格のある者の下についておると思えばこそ、兵子どもの士気も高くなる」
「良い的だがの。ちょっとやそっとでは動じぬ胆力も必要じゃろ。取り乱せば、戦場のどこからでも分かる。そうなれば戦線は瓦解するぞ?」
「そうさせんための護衛だろう。見よ。まだまだ小僧だが、大将にも劣らぬ巨躯と鍛え抜かれた身体をしておる」
「たしか『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)と言ったかの? 見るからに屈強そうじゃが……ダンジョウ、あちらはどうだ? ほれ、あの銀髪の」
「む……あの女か。言動や戦い方からして農村の生まれとは思うが。あれも良い腕をしておる」
「斬られておったからな、お主」
「次はあの角へし折ってくれるわ」
 騎馬隊に混ざった『馬には蹴られぬ』不動 狂歌(p3p008820)を見て、ダンジョウは渋い顔をした。
「歩兵にも騎馬隊にも猛者がいるな。どちらが主戦力か」
 顎に手をあてダンジョウは呟く。
 そんな彼の横で、クラマは呵々と笑い声をあげた。
「案外、意表をついてくるかもしれん。弓兵隊を率いておるのは綾姫じゃ。あの飛ぶ斬撃……魔力の砲は見物だぞ」
 クラマが視線を向けた先には10名ほどの旧兵部隊。
 その中に1人、見知った顔を見つけたクラマはさも愉しそうに拍手を送る。女の名は『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)。弓兵に混ざった彼女の得物は機械の剣だが、その斬撃が遠くまで届くことをクラマは知っていた。
「あぁ、楽しくなってきたの。個々の実力が高いことは知っておるが、合戦ならどうじゃ?」
 なんて、戦場を睥睨しながらクラマは言った。
 こうして、時間は過ぎていき……戦場に法螺貝の音が鳴り響く。
「時間だ。では双方、準備は良いな! 開戦!」
 腰から下げた幅広の刀をまっすぐに掲げ、ダンジョウは怒鳴る。
 その大音声を合図とし、合戦の幕は開けたのだった。

●剣戟が響く
 先行したのは斥候部隊だ。
「さあ、Step on it! 勝ちますよ!」
 先頭で指揮を取るウィズィは、空へ向けて何かを飛ばした。
 それは一羽の鳥である。
「上空から物見する気か? あの鳥を射よ!」
 そう叫んだのは、物見櫓の上に陣取る兵士であった。
 流石、訓練を積んでいるだけあって判断が早い。戦場において、脅威足り得ぬ1匹の鳥を何らかの策の一環であると見抜いたのだ。
 放置すれば後々面倒なことになる。
 そのような直観からか、命令に従い無数の矢が小鳥目掛けて飛んでいく。
「む? 物見櫓の兵や弓兵連中は随分と目がいいですね」
「弓兵は全部、柵の向こうに配置されているっすね」
「そのようです。斥候は茂みに隠れて、後方の兵へ即座にこちらの動きを伝える役目のようです」
 鹿ノ子へ言葉を返しながら、ウィズィは敵の斥候部隊へ意識を向けた。
 鳥は囮だ。
 本命は、つい先だって送り出した1匹の鼠。召喚した鼠の見た光景は、即座にウィズィも把握できるというわけだ。
「無量さんの騎馬隊も、先手を取られては櫓に辿り着く前にその数を減らしてしまいかねません」
「だったら、まずは相手の斥候や隠れているであろう弓兵を減らしていくッスよ!」
「承知!」
 鹿ノ子および斥候が2名、隊列を離れ近くの茂みへ散会していく。
 そこに潜んだ敵の斥候を打つためだ。
 先陣を切った鹿ノ子は、流れるような三連撃を茂みへ向けて打ち込んだ。狙うは眉間、喉、腹の3ヶ所。眉間を狙った斬撃こそ防がれたが、残る2撃をまともに受けて鬼軍斥候は意識を失い地に伏した。
「次は弓兵を狙います!」
 タン、と。
 軽い音を鳴らしてウィズィは跳んだ。
 迎撃のために射掛けられた矢を打ち払いながら、彼女は脱兎のごとき速度で敵陣へ向けかけていく。
 一閃。
 踏み込みと共に降り抜かれた大ナイフが、木柵を2つに引き裂いた。

 無量の率いる騎馬は5騎。
 槍を構えた偉丈夫たちを引き連れて、ウィズィの倒した木柵の上を駆け抜ける。
「うぉ!?」
 うち1人が悲鳴をあげて地面に落ちた。
 見れば肩には矢が刺さっている。櫓の上から射られたものか、速度も狙いも申し分ない。
 鬼軍の用意した弓兵の数は10。
 うち半数ほどが騎馬隊を射程範囲に収めているのが現状だ。
 次々、射掛けられる矢を無量は太刀で払いのける。全てを防ぐことは叶わず、額を掠めた矢によってその顔は赤く濡れていた。
 傷は浅いが、出血量はそれなりだ。
 乱暴に顔を濡らす血を拭い、無量は馬の速度を上げた。
 足を止めてはいい的だ。
「我々の果たすべき使命は生き延びる事に非ず。後発の為の礎となりましょう」
 向かう先には物見櫓。
 敵勢力の観測や、弓兵の狙撃場所として活用される此度の戦の要である。
「歩兵が邪魔ですね。総員、散開! 引っかき回してください!」
「「「「委細承知!!」」」」
 威勢のよい返事とともに、兵子たちは四方へ散っていく。

 鬼軍本陣。
 ヒダカは膝を叩いて笑った。
 陣幕の内より戦場を眺め、傷だらけの斥候が持ち帰った情報に彼は耳を傾ける。
「狐軍は斥候、および弓兵の撃破を優先に動いている模様。弓兵は半数ほどがやられました」
「ふむ。どうやら連中、泥沼の斬り合いがお好みらしい。直に戦線を押し上げてくるだろうが……主戦力は後方に控えた騎馬隊であろうな」
 地図に視線を落としたヒダカはそう告げた。
 周囲にはヒダカと似た風格を備えた男が他に3人。彼らはダンジョウ腹心の部下であり、また剣術の弟子でもある猛者たちだ。
「どうするのだ、ヒダカ」
 と、武者の1人がそう告げた。
 直後、大音声と共に櫓から粉塵があがる。どうやら櫓の脚を破壊されたようである。
 それを確認し、ヒダカは唸った。
「ジリ貧だな。よし、2人ばかり歩兵と騎兵を率いて前へ出よ。お手並み拝見と思い守りを重視したが、下策であったわ」
「失態だな、ヒダカよ」
「だな。まぁ、俺の失態はお前たりが取り返してくれ」
 なんて。
 軽く言葉を交わした後に、武者2人が本陣を離れていった。
 不利と見れば即座に策を転換し、迅速に行動できる辺り、単なる猪武者ではないということだ。

 騎馬隊、そして歩兵が左右へ広がった。
 ウィズィや鹿ノ子を避けながら、狐軍本陣へ攻め込んでくる心算だ。
 少しずつ前に出ていた弓兵隊が足を止める。
「どうします?」
 綾姫の問いに朝顔は僅かに思案する。
「ンフフ。これは自陣を護るだけでなく彼らを満足させる必要がありますが……さて、どう戦いを魅せましょうか」
 華魂は血濡れたメスを白衣の裾で拭いながら笑みを零した。
 先ほどまで、傷ついた兵子の治療を行っていたのだ。その頬に着いた血を舐めとって「あぁ」と思い出したようにポケットの中から輸血パックを1つ取り出す。
 暫し思案した朝顔は、双方の兵士の数を数えて告げた。
「速攻で片をつけましょう。ただし防御が手薄になったことを悟られたくはありません」
「んじゃ、どうすんだ? 攻め込むなら守りが薄くなるが……迎撃して、全部片してから進行するか?」
 朝顔の指示を聞いた獅門が首を捻った。
 彼が率いる歩兵の数は15。
 綾姫のいる弓兵隊が前に出ている以上、そこに獅門と華魂を加えた17枚が朝顔の盾の数となる。
「いいえ。守りは最低限に、歩兵たちは周囲を警戒している風を出しながら前進してください。戦線を前に押し上げます」
「……騎馬隊が来るぞ? 大丈夫なのか?」
「先輩方が私を信じて大将に選んでくれたんです! どんな敵が来ても、相手でも絶対に倒れませんよ!」
 そう言って朝顔は笑う。
 なるほど、と獅門は背負った刀を引き抜くと、くるりと踵を返して前へ。
「さーて、そんじゃ進むとするか! 行きがけの駄賃だ、野郎ども。兵士の数人は斬って行くぞ!」

 怒号と剣戟、砂埃の舞う戦場を一気呵成に駆けるは騎馬隊だ。
 進路を塞ぐべく、鬼軍の歩兵が壁を作った。竹槍を前へかざした槍衾。まっすぐに突っ込めば馬がやられて脚が止まる。
 けれど、狂歌は「俺に続け!!」と叫んで馬に鞭を打つ。
「訓練だからって腑抜けた真似したら後で俺がその性根を叩きのめしてやるから覚悟しておけよ! 走れ、走れぇ!」
「「応!!」」
 率いられる10の騎馬隊は、怒号をあげて狂歌に続く。
 直後、ひゅんと風を切る音。
 どこまでも澄んだその音色は、けれど直後、悲鳴に代わる。
 騎馬隊の横や頭上を抜ける無数の矢と不可視の斬撃。
 それが槍衾を飲み込んだのだ。
「流石だな、綾姫! 助かった!」
「油断はせぬよう。強者の気配が近くにあります……とはいえしかし、遠距離攻撃こそ戦場の主役。存分に射ってやりましょう!」
 狂歌に応えた綾姫は、弓兵隊を2つに分けると左右へ射線を向けさせた。
 そこには大きく迂回しながらこちらへ迫る敵の襲撃隊がある。射撃の姿勢を見せていれば、歩兵や騎馬隊の脚も鈍るだろう。
 しかし、問題が無いわけでもない。
「騎馬が2つ落とされましたね。あれは……なるほど、強敵です」
 ぞくり、と背筋を走る悪寒に視線をあげる。
 そこにいたのは、大太刀担いだ鬼面の武者。ダンジョウ直下の武者である。

 空気が唸る。
 斬撃が狂歌の腕から肩にかけてを斬り裂いた。
 馬事転倒した狂歌の前には、鬼面の武者。その様相には見覚えがある。
「……ダンジョウの部下なら弱い事もないだろうな。面白くなりそうだ」
 騎馬隊を先に走らせ、狂歌は刀を構えなおした。
 それに応じ、武者もまた大上段に刀をあげる。
「いいのか。騎馬隊が先に進んだぜ?」
「統率する者がいてこそよ。お主を本陣には近づけさせん」
 なんて。
 交わした言葉はごく短い。
 裂帛の気合と共に、2人は前へと駆け出した。

 騎馬兵2人を斬り倒し、獅門は額の血を拭う。
 数人、歩兵が先へ進んだが、今の彼には朝顔の援護へ向かう余裕はない。
「大した胆力だ。馬がすっかり参ってしまった」
 馬を降りた鬼武者は、槍から刀へと得物を持ち替え獅門へ向き合う。
 地面に転がる槍の先は折れていた。獅門の額を裂いた拍子に、角とぶつかり刃が欠けたのだ。
「将を射んとすればまず馬からってな。真っ向勝負だ! 倒せるもんなら倒してみろ!」
「うん? 将を射んとするなら、さっさと将を射ればいいだろう?」
 まぁ良い。
 そう言って武者は担ぐように刀を高く振り上げる。

 歩兵が4人、朝顔の前に辿り着いた。
 四方を囲む歩兵たちの顔を見やって朝顔は腰から刀を抜く。
「歩兵は私が倒れないよう、お守り下さい!」
 1人。
 正面より斬りかかった歩兵の刀を受けながら朝顔は告げた。
 それから、歩兵の腹に前蹴りを入れて距離を離すと、腰を低く沈めて刀を横に構える。
「疾!」
 短く呼気を零しながら、放つは横薙ぎの一閃。
 左右より迫る歩兵2人を斬りつけて、朝顔は再び刀を構えなおした。
「あー……」
 それを遠目に眺めながら、華魂はぽんと小さく手を鳴らす。
「小生のことなど眼中にないと? ははぁ? 馬を射ずして将を射んとしますか」
 どろり、と。
 華魂の影から滲むように、少女が1人、現れた。どこか華魂に似た容貌の彼女の名は藪蛇蓮華。華魂の娘である。
 彼女は自身を召喚した華魂を一瞥すると、その腹部へ手刀を放つ。
 ぞぶ、と指の中ほどまでが皮膚を裂いて、肉を抉った。
「おや? 召喚酔いで敵を見誤りましたか? ほら、敵はあちらですよ?」
「……クソ親父」
 華魂が血を吐いたのを見て、蓮華はくるりと踵を返す。
 そうして1人、背を向けていた兵士を背後から襲うと、その意識を刈り取った。
「……不意打ちとは、卑怯な」
「えーと……可愛い愛娘による攻撃なので小生ではございませんよ?」
 口元を濡らす血を拭い、困ったように華魂は笑う。

●本陣強襲
 朝顔を狙う弓兵が1人。
 小川に身体を半分沈めた姿勢で弓を引き絞る。
 しかし、その矢が放たれることは無い。
 プツン、と弦が断ち切られ、兵士の頭部を刀の峰が殴打した。
「なるほど。川に踏み込み脚が鈍ったところを狙うつもりだったっスね。良い経験をさせていただくいたッス!」
 なんて、そう呟いた鹿ノ子はふと背後を振り返る。
「さあ来い命知らず共! 女子とて侮るなよ!」
 そこでは歩兵数人を相手に、勇ましく吠えるウィズィの姿。
 疲労に身体はふらついているが、戦意は未だ衰えていない。大ナイフを引き摺るように前へと駆けて、歩兵目掛けて下方向から斬り付けた。
 その暴れぶりを見て、戦場の各所から兵子がウィズィの元へと集まっているようだ。
「うぅん」
 思案した時間はほんの一瞬。
 鹿ノ子はウィズィの援護へと向かうことにした。

 ヒダカの護衛に残った武者を斬り倒し、無量はその場に膝を突く。
 率いて来た5騎の騎馬隊は、既にヒダカや歩兵たちに倒された後だ。鬼軍の本陣で戦果を挙げたのは無量1人。そして、無量もまた既に1度【パンドラ】を消費してしまっている。
 限界が近い。
 血と泥に塗れた無量は、しかし戦意を失ってはいない。
 そんな無量の前に立ち、ヒダカは告げた。
「こちらも多くを学ばせてもらった。俺の同僚が2人、討ち取られたぞ……もっともそちらの指揮官も、軽傷では済まなかったようだがな」
 そう言ってヒダカは刀を正眼に構える。
「騎馬隊、歩兵、共に半数以上が脱落……弓兵、斥候はお主ら先鋒にやられた」
 しかし、幸いなことにヒダカはまだ戦える。
 狐軍の大将、朝顔は華魂を伴い前線へと上がっているようだ。
 大将自らの出陣に、狐軍の士気は高い。けれど、それは諸刃の戦術。ヒダカがその手で、大将を討ち取る機会を得たということだからだ。
 急ごう。
 呟くように言葉を零し、ヒダカは刀を振り上げる。
 まっすぐ、速く、力強く。
 無量目掛けて打ち込まれた一撃は、しかし彼女を斬ることは無かった。
「……は?」
 見ればヒダカの刀は半ばで折れている。
 否、折れているのではない……斬られているのだ。
「今、ですね」
 ヒダカが困惑した一瞬の隙を突き、無量はヒダカの脚を取る。大太刀を投げ捨て、ヒダカを地面に押し倒し、両腕を使えぬように膝で抑えて身動きを封じた。
「ぬ、ぉぉお!」
「模擬と言えど戦は戦……最後まで楽しませていただきましょう」
 なんて。
 拳を振り上げ、無量は静かにそう告げた。

 戦はこれでお終いだ。
 じきに無量が勝鬨をあげるはずだろう。
「どうにか射程に入れましたが……ギリギリでしたね」
 なんて、剣を鞘に納めつつ綾姫はそう呟いた。
 ヒダカの刀をへし折ったのは、綾姫の放った斬撃だ。弓兵隊を朝顔の護衛として残し、彼女は1人、騒乱に紛れ最前線まで上がっていたのだ。
「それにしても、一体何を考えて、私たちに戦をさせたのでしょうね」
 そう言って綾姫は高台に立つクラマを見やる。
 紫煙を燻らすクラマの顔には、狐のような不気味な笑みが張り付いていた。

成否

成功

MVP

彼岸会 空観(p3p007169)

状態異常

彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌
不動 狂歌(p3p008820)[重傷]
斬竜刀
幻夢桜・獅門(p3p009000)[重傷]
竜驤劍鬼

あとがき

お疲れ様です。
模擬合戦は狐軍の勝利で終わりました。
依頼は成功です。

クラマも満足そうに笑っていましたね。
この度はご参加ありがとうございます。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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