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シナリオ詳細

【水都風雲録】敗残の四天王、民を肉腫と為して

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鎮圧の命
「……それにしても、無様を晒したものよな。宮増」
「ははっ、申し訳のしようもございませぬ……!」
 豊穣風の建築に似合わぬ幻想風の玉座に傲然と座する男が、冷徹な声で眼前に平伏する老人、坂上 宮増(さかがみ みやます)に告げる。宮増はその声にただ恐懼し、平伏するしかなかった。
 宮増の横には三人の将が左右に分かれて立っており、宮増を軽蔑交じりの視線で見下ろしている。その視線を感じながら、宮増は屈辱にギリッ、と唇を噛んだ。切れた唇から、つう、と一筋紅い筋が流れ落ちる。
「水都(みなと)でしくじった貴様を許し、養生させたは、これまでの功を鑑みてよ。
 だが、その間に芽玄(めぐろ)で、我らに抗せんとする者共が蠢動しておる。
 ――その鎮圧、貴様に任せて良かろうな?」
「ははっ! 水都のようなしくじりは、二度と致しませぬ!」
 玉座の男の声に、背中に流れる汗を感じながら、宮増はさらに深く頭を下げた。

「芽玄の奴らめ、ようも儂の面子を潰しおって……貴様らがその気なら、儂も徹底的にやってやろう」
 芽玄は、かつて宮増が沙武の四天王として制圧し、そのまま支配を任されている地である。神使に敗れて深手を負い養生を余儀なくされた隙に、自らの支配地で抵抗の動きを起こされたとなれば、主である玉座の男に対しても軽蔑混じりに見下してきた他の四天王に対しても、面子は丸潰れと言うものだった。
 沙武(しゃぶ)の城を出た宮増は、服の上から胸の中央に埋め込まれた黒い宝珠に掌を当てて、昏い笑みを浮かべて独り言ちた。すると、宝珠からブワッと漆黒の、邪悪さを感じさせるオーラが立ち上って宮増の身体全体を包みこむ。
「沙武四天王に坂上 宮増ありと言うことを、存分に知らしめてやらねばのう」
 面子が潰されたなら、立て直すしかない。そのために、水都で敗れて以来新たに得たこの力は存分に役立つだろう。次にしくじれば後はないが、例え神使が現れようともそんなことはあり得ないと、この時の宮増はまだ楽観的に考えていた。

●迫る宮増と肉腫
 豊穣では霞帝による統治が始まったが、天香・長胤の壟断による混乱は残っており、地方では覇権を狙う領主同士の戦乱が始まっている所さえあった。沙武もその例に漏れず、宮増ら四天王と呼ばれる将を使い、周囲への侵攻を始めていた。
 そのうち東の水都では先代領主と言う犠牲を出しながらも、跡を継いだ娘の朝豊 翠(みどり)(p3n000207)が神使の力を借りて二度にわたる沙武の侵攻を退けていた。だが、他ではそうはいかず、南の芽玄、西の多賀谷瀬(たがやせ)、北の九樹森(くじゅしん)は沙武の支配下に置かれてしまっている。
 しかし、宮増が水都侵攻に失敗して沙武で養生せざるを得なくなった隙に、芽玄では領主の遺臣をはじめとした残党が結集。沙武の支配に対する抵抗を始めていた。

「――沙武より、坂上 宮増が肉腫を引き連れ襲来! しかも、我が領の民を取り込んで数を増やしつつあり!」
「……おのれ! 殿や同胞だけでなく、民までも肉腫とするか!」
 物見の報告に、残党の頭領である壮年の男はギリッと歯噛みする。かつて、敵を肉腫と変えて自軍に取り込む宮増の能力によって、芽玄は瞬く間に攻略されてしまった。領主一族も人として死ぬことは許されず、肉腫に変えられて残党狩りに従事させられた上、多大な犠牲を出した残党達に討たれている。
 それだけでは飽き足らず、今度は戦う力のない民達――その多くは、先の戦いに参加しなかった老人、女子供だ――までも肉腫にしてけしかけるのか! 憤怒に頭が沸騰しそうな頭領であったが、すぐに思考を切り替えて対処を指示した。
「ここは放棄する! 邪崩(じゃくずれ)平原に向かい、悠展寺(ゆうてんじ)を拠点とする!」
「ははっ!」
 邪崩平原とは、かつて芽玄が邪悪な存在の攻撃によって滅亡の危機に遭った際、平原に設けられた祭壇を中心に神聖な結界を展開して防衛戦を行うことで邪悪な存在を返り討ちにしたと言われる地だ。故に邪が崩れる地、即ち蛇崩と言う名が付けられ、結界を維持するために祭壇は悠展寺と言う寺にされて、結界は今日まで護られている。
 邪崩平原と悠展寺は、芽玄の人々にとって聖地だった。故に、今回も邪なる宮増と肉腫を退けてくれるのでは――と言う、半ば神頼みに近い頭領の思考ではあったが、少なくともその判断によって芽玄の残党達は強力な援軍を得ることになる。

 ――それは、対沙武で協力したいと言う頭領からの打診を受けた水都領主翠の依頼によって、芽玄の残党達を救援に向かっていたイレギュラーズ達だった。

GMコメント

 こんにちは、お久しぶりになってしまいました。緑城雄山です。
 【水都風雲録】の3本目は、水都ではなく水都と同様に沙武に攻撃されている芽玄が舞台となります。
 翠の依頼に応えて、宮増の攻撃から芽玄の残党達を守って下さい。

●成功条件
 坂上 宮増の討伐

●失敗条件
 以下の何れかの発生
 ・芽玄残党の兵達が半数以上戦闘不能に陥る
 ・悠展寺の中に侵入され、結界を破壊される

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 悠展寺を中心とする、邪崩平原。地形は平坦で、時間は昼間、天候は晴天。
 環境による戦闘へのペナルティーはありません。

●MAP(あくまでざっくりとしたイメージです)
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 ☆:悠展寺
 ◎:芽玄残党
 ★:宮増
 ▲:複製肉腫
 ▢:結界範囲内

●邪崩平原&悠展寺
 かつて祭壇を中心として神聖な結界が展開されたことで、邪悪な敵が退けられ芽玄が守られることとなった平原です。
 それを記念して結界を護るために祭壇は寺とされ、結界はこれまで維持され続けてきました。
 邪崩平原に展開されている結界の中では、以下の効果が発生します。
・【神気閃光】や聖剣の類など、神聖なる属性を持つと判断される攻撃には、ダメージにプラスの補正がかかります。
 また、この類の攻撃であれば、【不殺】や後述する手加減を用いなくても戦闘不能にした複製肉腫を殺めることはありません。
・複製肉腫からの肉腫の伝染が発生しません。
・複製肉腫の能力に、大きくデバフがかかります。

●坂上 宮増
 沙武四天王の一人にして、純正肉腫です。
 敵兵を複製肉腫に感染させて味方とすることで他領への侵攻を成功させてきましたが、
 水都への侵攻にはイレギュラーズ達の活躍によって失敗し、這々の体で逃げ帰りました。
 前回は術の攻撃力、生命力、特殊抵抗以外には戦闘力に見るべきものはありませんでしたが(それでも十分脅威ですが)、
 今回はさらに自前の防御技術と再生能力を得た上に、各スペックがパワーアップしています。
 もう「次は無い」とわかっているため、今回は追い詰められれば死に物狂いで戦ってきます。

・攻撃手段など
 式神乱舞 神/至~超/単~域 【弱点】【多重影】【崩落~崩れ※】
  幾多もの札から無数の式神を召喚し、手数で攻め立てます。距離、範囲を自在に使い分けてきます。
  ※攻撃範囲によってBSが変動します。範囲が単の時は【崩落】、範の時は【体勢不利】、域の時は【崩れ】となります。
 式神の盾 神自付 【副】【付与】
  式神を召喚して自分を庇わせます。ルール的には、防御技術を大幅に上昇させる付与として扱われます。
 【再生】
 【黒い宝珠】:宮増の胸に埋め込まれている、宮増を強化していると思われる宝珠です。
  宮増の生命力と連動しているため、宮増が死亡するまで破壊されることはありません。
  また、これはメタ情報になりますが、宮増を強化する以外にもある仕掛けがなされており、
  その仕掛けは宮増の死亡時に発動します。

●複製肉腫の兵 ✕多数
 宮増率いる複製肉腫です。元は、芽玄の民達でした。
 芽玄残党の方円陣の外からぐるりと一周、悠展寺を取り囲んでいます。
 能力傾向は攻撃力と生命力の高いパワー型ですが、邪崩平原に展開されている
 元が非戦闘員である老人や女子供である上に、結界によりデバフが入って能力が落ちているため、
 イレギュラーズ達に対しては敵たり得まません。芽玄残党の兵達と、大体1:1で互角に戦えるぐらいです。
 イレギュラーズ達と交戦した場合は戦闘判定を行うのではなく、回避や防御技術によって減算される
 軽微なダメージがイレギュラーズ達に自動的に入るものとして扱われます。防御面があまりに脆くない限り、
 複製肉腫達の攻撃だけで戦闘不能に陥ることはないでしょう。
 【不殺】もしくは後述する手加減以外の攻撃で戦闘不能となった場合、高確率で死亡します。
 また、【不殺】もしくは後述する手加減での攻撃で戦闘不能となった場合、確実に救出出来るものとします。

●芽玄残党の兵達
 宮増によって攻略された芽玄の兵達です。芽玄を攻略され方々に逃げ散っていましたが、
 イレギュラーズ達が水都で宮増に深手を負わせたことから、宮増の攻勢が止まったため
 小さいながらも勢力と言えるぐらいには数を集め、翠に対沙武での協力を打診してきました。
 結界内では1:1であれば複製肉腫と互角に戦うことが出来ます。
 今回の宮増の攻撃に対しては、悠展寺を中心とした方円陣を敷いて迎え撃とうとします。
 イレギュラーズ達は彼らを十~数十人単位で率いて、複製肉腫に当たることが出来ます。
 その場合、その行動を取ったイレギュラーズの人数に応じて、彼らの死傷率は軽減されます。

●朝豊 翠
 水都領主であり、今回の依頼人です。
 沙武と戦うにあたって、芽玄残党との協力は成立させたいと考えており、
 イレギュラーズ達に何とか芽玄残党を救出して欲しいと考えています。

●手加減
 このシナリオでは、「手加減」を宣言することによってその攻撃を【不殺】と同様にすることが出来ます。
 ただし、当たり所や威力を上手く見極めなければならないため、命中と攻撃力が半減されて判定されます。

●プレイングによるボーナス
 このシナリオでは、プレイングで以下の何れかを行うと、芽玄残党の兵達の死傷率が軽減されます。
・単騎で、あるいは芽玄残党の兵達を率いて、複製肉腫の対処に専念する
 (補正は大ですが、その分宮増に当たるイレギュラーズは減ることになります)。
・芽玄残党の兵達の士気を、何らかの手段によって鼓舞する。

●【水都風雲録】とは
 豊穣の地方では、各地の大名や豪族による覇権を巡っての争いが始まりました。
 【水都風雲録】は水都領を巡るそうした戦乱をテーマにした、不定期かつ継続的に運営していく予定の単発シナリオのシリーズとなります。
 単発シナリオのシリーズですから、前回をご存じない方もお気軽にご参加頂ければと思います。

・これまでの【水都風雲録】(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
 『【水都風雲録】悲嘆を越え、責を負い』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5350
 『【水都風雲録】敵は朝豊にあり!』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5958
 

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 【水都風雲録】敗残の四天王、民を肉腫と為してLv:25以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年09月21日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
陰陽 秘巫(p3p008761)
神使
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ

●許せざる所業
「普通の人まで肉腫にしたなんてね……落ちるところまで落ちたのか、それとも元からかしら」
「これは流石に外道というか、鬼畜の所業だよね!」
 邪崩平原に展開されている結界の中核たる祐天寺の本堂で、眉をひそめた『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)が嫌悪も露わに呟くと、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)も憤りを露わに同調した。
 イレギュラーズ達のいる悠展寺に迫らんとしている沙武軍の、兵力の多くが沙武に支配されている芽玄の民達――それも、本来ならばまともに戦うこともままならないような女子供や老人達ばかり――だと言うからだ。
 それを率いる沙武四天王、坂上 宮増が純正肉腫であり、敵兵を肉腫に変えることで自軍に取り込むことをティスルは知っていた。だが、それでも越えてはならぬ一線を宮増は越えたように、ティスルには思える。
 その認識は、アリアとて同様だった。いくら敵の領民を取り込むのが戦乱の中で用いられる策略の一つではあると言えど、まさかこのような取り込み方をしようとは!
「……民がいなければ、誰が産業を回すのか。それを徒に肉腫に変えるとは、都を治める素質がないと言わざるを得ないな」
 ティスルやアリアとは対照的に、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は努めて冷静に独り言ちた。
 領地の発展に、民衆は不可欠である。錬の言うように、民衆がいなければ農業も商業も立ち行かない。それを肉腫として使い捨ての兵にするところに、領主の配下たる将としての資質が根本的に欠如していると錬は見た。
「そんな輩をのさばらせるわけにはいかない。ここで、引導を渡してやらなくてはな」
 錬の言に、ティスルもアリアもこくりと深く頷いた。

「魔に転じたり肉腫に手を出したり……見過ごせない事態が多いッスね!」
「要は、沙武四天王の一人がボロ負けしちゃって、泣きの一回で性懲りもなくまたやって来たって事でしょ?
 それだけでダサいし、やり口も汚いし、その人プライドとかないのかなー」
「事情はよう知らんけどねぇ。自分が弱いんを、ようそこまで他人のせいにできはるなぁ。
 お顔だけは、頑丈そうでよろしおす」
 周囲への侵略を行う沙武に抗する水都からの依頼に、『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)が応じたのはこれで二度目である。だが、その二度とも相手は鹿ノ子に、そしてローレットに属するイレギュラーズ達にとって、捨て置けないものだった。何故なら、一度目の相手は魔種であり、今度の相手は純正肉腫だったのだから。
 宮増許すまじ。そう気色ばむ双子の姉の気分を和らげようとするかのように、『二律背反』カナメ(p3p007960)が敢えて軽い調子で言うと、そばで聞いていた『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)は皮肉交じりに嘆息する。
「確かに、面の皮は厚そうだよね。何度でも出てこないように、しっかり退治しないとね!」
「そやね、ここで終わりにしまひょか」
「そうッスね。遮那さんのためにも、頑張るッスよ!」
 秘巫の皮肉にうんうんと頷きながら、カナメが宮増の退治を口にすると、秘巫は静かに頷き、鹿ノ子は想い人のためにと意気込んでみせるのだった。

(お寺を中心に戦うのって、あまり良いイメージが無いよね……)
 悠展寺の本堂をぐるりと見回しながら、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はそんなことを考える。イナリの知る戦史において、寺を拠点とする戦いと言えば、反抗する宗教勢力が篭もる寺を大領主が焼き討ちした戦い、そしてその大領主が重心に謀反を起こされて宿泊している寺に拠って迎え撃った戦いであるが、いずれも寺を拠点とした方が無惨にも敗れている。
 だが、そうとばかりも言っていられない。イレギュラーズとして依頼を受けた以上は、敗れるわけにはいかないのだ。
「――まぁ、やりますか!」
 意気込む仲間達の姿を一瞥すると、イナリは気合いを入れるべくパァン! と両手を左右の頬に叩き付けて、それまでの思考を振り払った。
 
●包囲、物ともせず
 やがて、悠展寺に迫る芽玄の残党を鎮圧するべく、複製肉腫を多数引き連れた宮増が邪崩平原に姿を現した。
「おう、見た事ある面だと思ったら、あん時のあいつか。
 逃げ帰った後に何してるのかと思ったら、今度はここで悪い事してんだな」
「――今回の仕事は、奴さんを打ち倒すことだ。そうすれば、ここでそれも終わる」
 『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は、その姿を悠展寺から遠目に眺めると、呆れながら苦笑いを浮かべる。その横に並んで同じ敵を眺めながら、『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)が獅門に応じた。
「ああ、そのとおりだな……今度は、逃がさねぇぞ。絶対に仕留めてやるぜ!」
「その意気だ。気張っていこうじゃねえか」
 牙を剥いて、攻撃的な笑みを浮かべる獅門の背中を、義弘がポンと叩いて激励する。ギラギラとした闘志を漲らせる巨漢である獅門と、それよりは小柄で静かでありながらも全身に溢れんばかりの気迫を宿している義弘のそのやりとりに、複製肉腫との戦闘に臨む芽玄残党の兵達は強固な信頼感を覚え、大いに勇気づけられた。

 宮増の軍は、悠展寺を包囲し圧し潰しにかかる。それを迎え撃つべく、芽玄残党は悠展寺を中心とする方円陣を敷いた。その中でイレギュラーズ達は、直接宮増に対峙する組と、芽玄残党の兵を率いて複製肉腫に対処する組に分かれた。
 宮増に対峙する組の一人である『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)は、以前とは違う、ただ純正肉腫と言うだけではない禍々しさを感じながら、一息に宮増への距離を詰めた。その縮地の如きスピードは、宮増が式神を喚び盾とすることさえ許さない。
「お主も懲りぬ……と言いたい所だが、此度は一味違う様で御座るな」
 虹のように七色に輝く刃が袈裟がけに振り下ろされると、宮増の服と、その下の肉がざっくりと斬り裂かれた。幻介の一閃によって斬られた宮増の服がハラリとめくれ落ちると、宮増の胸の中央に埋め込まれた漆黒の宝珠が露わになる。
「……この気配の源は、胸元の『それ』か?」
「如何にも左様……儂は、力を得たのだ。これまでの儂と、同じと思うでないぞ?」
 幻介の問いに、ニタリと笑みを浮かべ答える宮増。
「下らぬで御座るな……所詮貴様には、心を肉種の業で無理矢理に従えさせることしか出来ぬ!
 背に守るべき者や、信頼する仲間達がいる者の強さ……貴様に分かるものかよ!」
 幻介の刃は、攻めに特化している。故に守りに入れば脆いのだが、仲間達の助けや守るべき者達の存在に、幻介は助けられてきた。そんな幻介からすれば、如何に力を得ようとも宮増の本質は独りでしかない。
 共に戦う芽玄の者達、仲間達のためにも負けられないという意志を込めて、幻介は振り下ろしたばかりの刃を逆袈裟に斬り上げる。負わされたばかりの傷を抉るように斬られ、宮増は流石に痛苦に顔を歪めた。
「――澱んだ魔性を使えるのは、貴方達だけじゃないのよ?」
「うぬっ!」
 幻介の斬撃から立ち直る暇を与えまいと、その身に受けた呪詛により髪を黒く変じたティスルが、銀の太刀『メルクリウス・ブランド』の刀身を宮増の腹部に深々と突き立てた。そう見えた次の瞬間には、ティスルは既に『メルクリウス・ブランド』を引き抜き、怒濤の勢いで剣閃を繰り出して攻め立てて、宮増の身体に無数の傷を刻んでいった。
「宮増さん、だっけ? 二度目の敗北ご苦労様!」
「おじさん、何必死になってるのー? オトナのくせに慌てちゃって、だっさー♪
 ざぁーこ、一度負けたくせに♪ ただの死に損ない、ゴミ虫以下♪」
 さらに畳みかけるように、アリアとカナメが、挑発を交えつつ左右から宮増に仕掛けた。
 アリアはあらん限りの魔力を収束させた掌を、宮増の左脇腹に全力で叩き込む。そしてカナメは、妖刀『緋桜【紅雀】』による血のように赤黒い一閃を
宮増の右脇腹に刻み込んだ。
「ぐおっ……! この、小娘共があっ!」
 身体の両側に受けた痛撃はもちろんだが、それ以上に痛いところを突いてきた挑発に、宮増は呻き、憤激の声をあげた。
 既に一敗している宮増に、もう後はない。次に敗れれば、例えその場を生き存えたとしても、敗戦の責を命で取らされることになるだろう。漆黒の宝珠による強化もあって今はまだイレギュラーズ達を甘く見ているところはあるが、宮増は必死にならざるを得ない立場なのだった。
「……久しぶりだな。おまえさんは、此処に居ちゃいけねぇよ」
「おぐぶうっ!?」
 怒り心頭の宮増がアリアとカナメに気を取られている隙に、宮増のすぐ前まで踏み込んできた義弘が、『気』を込めた掌打を宮増の鳩尾に叩き込んだ。漆黒の宝珠によって強化された防御も存在しないかのように貫く掌打を受けて、宮増はたまらず身体をくの字に折り曲げながらよろよろと後ずさる。
 義弘の言う『此処』とは、此岸と、邪崩平原の二つを意味していた。純正肉腫の存在を許しておけないのは無論であるが、得体の知れない漆黒の宝珠を埋め込んでいる宮増を邪崩平原の結界の中に居続けさせるのは避けたいところであった。
 よろめきながら後ずさった宮増は、何とか体勢を立て直そうとする。だが、精神を集中し眼力を高めていた鹿ノ子が、その隙を見逃すはずもない。
「遮那さんのおわすこの豊穣に、乱あるを許さず……鹿ノ子、抜刀!」
 宮増の懐に飛び込んだ鹿ノ子が、『白妙刀【忍冬】』の白く透き通った刀身を幾度も振るう。艶やかささえ感じさせる軽妙な剣閃は、宮増を此処から押し出したいと言う意志に支えられ、止まることなく続く。しかも、その一撃一撃が、宮増の急所を着実に斬り、あるいは貫いていた。
「うふふ、今は妾に付き合うてな。余所見はあかんよ?」
 義弘の重い一撃と、鹿ノ子の軽やかな連撃に押された宮増が再び前に進まんとしたところで、秘巫がその前に立ちはだかって微笑みかけた。幽世へと誘う、妖しく艶やかな笑みに、宮増の注意は強制的に釘付けとなる。
「……ええい! 貴様ら、盾となって、儂を守るのだ!」
「いや、その必要は無い! それよりも、寺の結界を破壊するのだ! 邪魔する者共を、数を以て蹂躙せよ!」
 何にしても、周囲の複製肉腫を盾とせねば危ない。宮増はそのための命令を下したが、ギフトによって声を模したアリアに命令を重ねられる。全く同じ声で下された矛盾する命令に、周囲の複製肉腫達はどちらが正しいのか混乱し、その場に棒立ちになってしまった。
「敵をも自在に使いこなすのが歴史上の名将だよ? 覚えておいて……って、その必要も無いか」
「ぐぬぬぅ……おのれ、小癪なぁっ!」
 自慢げに講釈するアリアに、宮増は悔しげに唸り、そして叫んだ。

 七人のイレギュラーズと宮増が戦っている間に、悠展寺を取り囲む複製肉腫と芽玄残党の兵達の戦闘も始まっていた。数には劣る芽玄残党の兵達ではあったが、獅門と義弘の背中、アリアの「戦え、だが必ず生きよ」と言う檄、そして時折聞こえてくるティスルの歌う救済の音色によって、その士気は高いものとなっている。
「ここで、民の肉腫もお前たちも死なせずに宮増を倒す! それが、あいつらと戦う上で最大の勝利だ!」
 悠展寺から出撃する前に、自らの率いる兵にそう声をかけて隊の士気をさらに鼓舞した錬は、上空から見下ろすような第二の視点を用いて圧されている場所に救援を送りつつ、予め用意しておいた式神に戦闘不能者を後送させた。
 さらに自身は、陰陽術によって迫り来る複製肉腫を拘束することで、複製肉腫を殺すことなく無力化していく。その有言実行と言うべき姿は、芽玄残党の兵達に「錬に従えば自分も味方も、民も死ぬことはない」と言う強烈な信頼を抱かせた。それによって、錬の率いる兵達は、ますます錬の思いどおりに動くようになり、崩れかけている味方の窮地を救っていった。
 悠展寺を挟んだ反対側では、獅門がやはり芽玄残党の兵達を率いている。
「一番危険なところは俺が受け持つからよ、後の事は頼んだぜ!」
 錬のような俯瞰ではなく、戦好きの独特の嗅覚で危険な場所を嗅ぎ当てると、獅門はそこに飛び込んで大太刀『破竜刀』をぶうん、ぶうんと振り回す。もちろん、複製肉腫達を殺めないように峰を用いた上で加減はしているのだが、複製肉腫達の方も邪崩平原の結界によって弱体化していることもあって、暴風とも言える獅門の攻撃に巻き込まれた複製肉腫達は、バタバタと倒れて戦闘不能に追い込まれていった。
 自ら率先して危険な場所に飛び込んでいく獅門の武勇は、錬とは違った形で芽玄残党の兵達を勢いづけた。そのため、獅門の率いる兵達は獅門が駆けつけるまで複製肉腫を抑えたり、倒された複製肉腫を確りと悠展寺へと運ぶなど、こちらもよく奮戦した。
「包囲されたといっても、弱兵達による薄い包囲網。一部を切り崩せば、穴を塞ぐ事は出来ないはず!
 層の薄い包囲網なんて、紙風船の如く穴だらけにしてあげるわ!」
 さらにイナリが、異界の神の力によって毒酒の霧を発生させて複製肉腫を包み込む。これも当然、複製肉腫を殺めないように手加減はしているものの、複製肉腫達からすれば辺り一帯を覆う霧からなど逃れようがなかった。毒酒の霧を吸い込み、ある者は倒れ、ある者は同士討ちを演じ、兵として機能しなくなっていく。
 そしてイナリは、一カ所に毒酒の霧を発生させたかと思うと、また別の場所に転移して毒酒の霧を発生させるのを、繰り返していく。戦場を俯瞰する錬からすれば、複製肉腫の包囲網に時計回りに次々と穴を開けたように見えただろう。
 その穴に芽玄残党の兵達が殺到すると、イナリの言うとおり、複製肉腫達はもう穴を塞ぐことが出来なくなっていた。

●漆黒の宝珠、その仕掛け
「くっ……貴様ら、とことん鬱陶しいわ!」
 宮増が苛立ち紛れに呪符を辺り一面にばら撒けば、それは瞬く間に無数の式神に変わり、周囲にいるイレギュラーズ達に襲い掛かる。だが、式神達は宮増の望む戦果を挙げられないでいた。
「全然効かないねー☆ 自慢の術も、ただの見せかけだけなんでしょ?
 あはは♪ 悔しかったらぁ、術でカナを倒して見せてよ♪ まさかそれすらも出来ないなんて言わないよねぇー?」
 破邪の結界を展開したカナメが、宮増の敵意を煽る。しかし、式神達が結界を突破出来ず、初撃以降はカナメに全く傷を負わせられていないのは事実だった。
「おぉ、痛い痛い。酷いことするわぁ……でもな、再生するんは、汝(あんた)だけやないんよ」
 一方、式神に深手を負わされた秘巫は、何度も戦闘不能に陥ったと思われたにも関わらず、その都度起ち上がり戦闘に復帰してくる。
 しかも、カナメは鹿ノ子を、秘巫はその時々で傷の深い者を庇い盾となるものだから、如何に周囲一帯に式神を出現させたとしても、一度に傷つけられるイレギュラーズは少数に限られた。
 少数とは言え式神に傷を負わされる者が出ており、ティスルやアリアの回復も追いつかなくなってはいる。だが、それ以上に宮増の生命力は削り取られていた。
 ヒットアンドアウェイで繰り出される幻介の不可視の剣閃、化された守りを物ともせぬ義弘の掌打、急所を確実に斬る鹿ノ子の連撃。複製肉腫の包囲が壊滅すると、さらに式神の盾を霧散させる錬の樹槍、生命力だけでなく気力も同時に削るイナリの直撃、巨躯から繰り出される獅門の剛剣が加わった。
 こうなると、もう宮増に勝利の目は無い。後が無いだけに半狂乱で必死になるも、無駄な足掻きにしかならなかった。

 ――チン!
 戦場に、鍔の鳴る音が響いた。すると、ズルリ、と宮増の頭が首から滑り落ちていく。抜刀から納刀までが不可視の、一撃必殺の抜刀術によって、幻介が宮増の首を断ったのだ。
 宮増は、自分に何が起こったのか理解し得ぬまま死んだ。だが、宮増の頭が首からずれた瞬間、その身体中から胸の宝珠へと邪悪なエネルギーが集中し、濃密に凝縮していく。
(――まずい!)
 誰もが、直感的にそう思った。ある者は宮増の遺体を遠くへと運び去ろうとし、ある者は仲間を庇う盾となろうとする。だが、一人を除いて間に合わなかった。
 その間に合った一人、鹿ノ子は、未だ立ったままの宮増の遺体を体当たりして地に倒し、その上に覆い被さる。そんな鹿ノ子の下で、漆黒の宝珠は爆ぜた。
「うっ! これは、キツいッスね……」
「お姉ちゃん! 全く、無茶をして!」
 爆発の衝撃を一身に受け止めた鹿ノ子が、口からゴポリと血を吐きながら、よろりと起ち上がる。その振動で、黒焦げに炭化していた宮増の遺体は、ボロボロと崩れ落ちていった。本来なら、鹿ノ子も同じようになっていたはずだ。だが、鹿ノ子は可能性の力で耐えきったのだ。
 鹿ノ子を庇うつもりであったカナメは、目に涙を溜めながら双子の姉に駆け寄り、ふらつく身体を抱き留めた。
「今回の仕事は終わったな。だが……」
「まさか、こんな仕掛けをしてやがるとはな」
 粉々になり風に吹かれて飛び散った宮増の遺体と、既に戦闘の後始末に入っている悠展寺の周囲を見やり、義弘はふぅ、と息を吐いた。だが、釈然としないと言わんばかりにその先を言いかけた義弘の言葉を、獅門が引き継ぐ。
「四天王ってことは、残り三人?」
「……その上に、領主もいるわね」
 アリアとティスルは、すかさず鹿ノ子に癒やしを施しながら、そんな会話を交わしあう。
「自ら望んでか、領主に強いられたのか……いずれにしろ、沙武というのは、思った以上にロクでもなさそうだな」
 皆が感じていた空気を代表するかのように、錬が静かに言葉を紡いだ。
「何よ、暗いわね! どんな敵が来ても、退けるだけよ! そうでしょ!」
 だが、その空気をイナリの強気な一言が吹き飛ばす。確かにそのとおりだと、イレギュラーズ達は頷き合った。

 そして、悠展寺に戻ったイレギュラーズ達を、朗報が待っていた。芽玄残党の兵達も、複製肉腫とされた民達も、死者は皆無であると言うのだ。さらに、民達は複製肉腫とされた期間が短いこともあってか、問題なく元に戻れるだろうと言う。
 沙武とは、これからも戦い続けることになるだろう。だが、力を尽くせば今回のような最良の結果をもたらせるはずだ。朗報に喜ぶイレギュラーズ達は、改めてそう信じるのであった。

成否

成功

MVP

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
ティスル ティル(p3p006151)[重傷]
銀すずめ
鹿ノ子(p3p007279)[重傷]
琥珀のとなり
陰陽 秘巫(p3p008761)[重傷]
神使
幻夢桜・獅門(p3p009000)[重傷]
竜驤劍鬼

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。かくして宮増は討たれ、芽玄の残党と民達は守られました。
 芽黒は今後、水都と協力して沙武に当たっていくことになるでしょう。これも、皆さんの活躍があってこそです。

 MVPは、【黒い宝珠】の仕掛けによる被害を『アトラスの守護』で自分一人に食い止めた鹿ノ子さんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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