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シナリオ詳細

渇き飢える女王。或いは、蛮族戦記…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●渇き飢える女王
 鉄帝。
 ヴィーザル地方、辺境を収める女領主・長谷部 朋子(p3p008321)にとって、戦いとは日常の延長線上にあるものだ。
 朝起きて、体操代わりに賊を数名打ちのめし、朝食後の腹ごなしに、領地を荒らす盗賊を狩る。
 昼食は野山で採った野草と、狩った獣に塩を振りかけたもので済まし、臭いに誘われやって来た魔獣と戦い、城へと帰る。
 この世界に来る前も、山に囲まれて育ち、自然と共に暮らしてきたのだ。
 野山を駆け回ることに、さしたる抵抗もない。
 また、相棒たる大石斧“原始刃 ネアンデルタール”に導かれ、戦場に長く身を置いたことで彼女の思考はすっかり蛮族のそれに染まり切っていた。
 つまるところ、弱ければ全てを失い、強ければ全てを得るという大自然のルールの中で彼女は生きているのである。
 その日も、彼女は“強”かった。
 そして、彼女の領土へ流れて来た盗賊たちは“弱”かった。
 だから、盗賊たちは金も、自由も、なけなしの財もすべてを朋子に奪われた。
 朋子の暮らす城の一室は、奪った財で溢れかえっているという噂さえあるほどに、此度の一戦もまた日常の一幕に過ぎない。
 ただ1つ、朋子の気を引いたものと言えば、盗賊たちが持っていた1枚の絵画の存在である。
 
 絵画に描かれているのは、豪華な衣装に身を包んだ痩せた女だ。
 その身なりからして、その女はきっとどこか……おそらくは、砂漠の国の女王なのだろう。
 女は幽鬼のような顔をして、力なく渇いた大地に座り込んでいる。
 げっそりとした、まるでミイラのような顔つきが特に印象深かった。
 飢えて、渇いた、今にも息絶えそうな女王の絵だ。
 その額縁の裏には“ゲルニカ”と、作者のサインがあった。
「うん? ゲルニカ? 確か、あちこち旅して自分の絵を回収して回ってるって言ってたっけか」
 両手で掲げ持った絵画に視線を向けて、朋子は暫し思案する。
 それから、彼女はいかにも女子高生らしい、快活かつ人好きのする笑みを浮かべた。
「それじゃ、届けてあげないとねー!」
 なんとはなしに、ちょっとした好奇心と善意から、彼女はそれを決めたのだ。
 それが此度巻き起こる、ある騒動の始まりだった。

 ゲルニカ。
 男とも女ともつかぬ中性的な顔つきをした画家である。
 以前、とある劇場にて朋子はゲルニカと逢っていた。
 その時、ゲルニカが回収した絵画の名は“業火に飲まれたルサールカ”。
 持ち主であった1人の若き踊り子は、絵画の影響により正気を失するとともに、火炎を発する能力を得ていた。
 そのように、ゲルニカの絵画は持ち主や周辺の人物に悪影響を与えるのである。
 危険な絵画を野放しには出来ないという想いから、ゲルニカは世に出回った自分の絵を回収してまわっているのだ。
 そのことを知っているからこそ、今回朋子はゲルニカのもとに絵を届けようと思い至ったのである。

●荒野を進め
 ローレットを通じ、朋子はゲルニカに連絡を付けた。
 曰く、現在ゲルニカは鉄帝と幻想の境界付近にいるらしい。
「ってことでね、絵を持って行ってあげようと思ったんだけど」
 そう言って朋子は、自分の腕を頭上に掲げてゆらゆらと揺らす。
 見れば、朋子の右腕には血の滲んだ包帯が巻きつけられていた。
「道中、そりゃあもう膨大な数の盗賊から襲撃を受けてさ。慌てて領地に逃げ帰って来たってわけよ」
 困ったことだ、と朋子は朗らかに笑う。
 一方、集まったイレギュラーズの顔色は優れない。
 若いとはいえ、朋子は長く戦場に身を置いた戦士だ。
 そんな朋子が怪我をしたという事実から、今回の騒動が決して舐めてかかれるものではないと理解したのだ。
「襲って来た盗賊たちの様子は、なんだかおかしかったよね。っていうか、うちの領地に流れ着いた連中も、そう言えばどこか変だったかも」
 曰く、朋子の領地に流れ着いた盗賊たちは、誰もがガリガリに痩せていたという。
 まるでうわごとのように「欲しい、欲しい」と繰り返し、何度打ちのめされても、立ち上がって来たそうだ。
 当初、朋子はそんな盗賊たちを見て「随分気合が入っているな」とそう思っていたらしい。
「あれってたぶん、絵の影響を受けてしまっていたんだろうね。きっと“何か”が欲しくてたまらなくなるんだよ」
 絵画の影響を受ける範囲は、絵の持ち主や、絵の周辺にいた者たちか。
 朋子の領地を訪れた盗賊たちは「食料や住処」を欲していた。
 道中、朋子を襲った盗賊たちが欲していたのは「財」であろうか。
 朋子の運んでいた絵画の影響を受け、朋子の財を奪うべく襲い掛かったのだろう。
「しつこく襲い掛かって来るもんで、あたしもテンション上がっちゃってさ。ついついこんな怪我を負うまで戦い続けたってわけ」
 朋子を襲った盗賊たちは50名ほど。
 斧や槍、ショートボウなどで武装していた。
 大半は獣種や翼種で構成されており、フィジカルに優れているそうだ。
 過酷なヴィーザルで盗賊を生業としているだけあり、平均的な実力は高い。
「でも連携は今一だったかな。たぶんだけど、2つか3つの盗賊団が同時に襲い掛かって来たんだと思うよ。それと【失血】【崩落】【致命】【封印】辺りの状態異常を受けた気がするねー」
 そう言った状態異常を受けながら、1人で戦い続けた辺り、朋子はやはり朋子であった。
 最終的には腕を大きく負傷して、川に落下したことで戦闘不能に陥り、領地に引き返すことにしたらしいが……。
「国境までもう少しだったんだけどなぁ。渓谷にかかってる吊り橋を渡ってたところを襲われちゃ、こっちも斧を満足に振り回せなくってさ」
 渓谷の幅はおよそ60メートルと非常に長い。
 吊り橋が架かっているが、その幅は狭く人が2人も横に並べばそれだけで左右の移動が制限されるほどである。
 橋の手前は岩盤地帯。
 橋を渡った先には森がある。
 200メートルほどの森を抜けた先の宿屋にゲルニカは宿泊しているそうだ。
「盗賊たちを蹴散らしながら、宿屋にいるゲルニカに絵画を渡すこと。それが今回の仕事の内容だね」
 そう言って朋子は、腕に巻かれた包帯に手をかけた。
 力任せに包帯を引きちぎり、朋子は好戦的な笑みを浮かべて見せる。
「さぁ、戦ろうか! 盗賊たち相手なら、思う存分に暴れられるよね!」
 獣のような狂暴な笑みだ。
 それを見て、集まったイレギュラーズたちは悟る。
 朋子もまた、絵画の影響を受け「闘争」を欲していることを。

GMコメント

こちらのシナリオは「業火に飲まれるルサールカ。或いは、絵画に魅入られた少女…。」のアフターアクション・シナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5744


●ミッション
絵画「渇き飢える女王」をゲルニカの元へ届ける。

●ターゲット
・盗賊たち×30~50
渓谷付近を縄張りとしている盗賊たち。
渓谷を通りかかる者を獲物としている関係上、交戦は避けられないだろう。
また、彼らは非常に欲深いため、絵画の影響をよく受ける。
獣種や翼種が多く、武器として斧、剣、ショートボウを備えている。
その攻撃には【失血】【崩落】【致命】【封印】の状態異常が付与されている。


・『渇き飢える女王』
幽鬼のような顔をした、枯れた女王の描かれた絵画。
持ち主や周辺にいる者の欲望を暴走させる能力を持つ。
※全ての者が影響を受けるわけではないようだ。


・ゲルニカ
旅の画家。
長い髪を後ろでひとつに括っている。中性的な見た目をしており、性別不詳。
死と破滅、廃退、廃墟、終焉などをモチーフとした絵を得意とする。
つい昨今、各地でゲルニカの絵が“不幸を呼ぶ絵”として噂されはじめたことをきっかけに、回収の旅に出ることにした。
自身の絵によって不幸な目に遭う者がいるのなら看過できないというのがその理由である。
実際、持ち主の多くは行方不明になっていたり、既に死去していたりするらしい。
ともすると、ゲルニカの絵はある種の魔道具や呪いのアイテムになりかけているのかもしれない。
幻想と鉄帝の国境付近にある宿屋に滞在している。

●フィールド
鉄帝と幻想の国境付近にある渓谷。
谷幅およそ60メートル。
狭い吊り橋が架かっているほかに、橋を渡る術はない。
※谷に転落すると戦闘不能となる。


※↓およそ以下のような感じ

  岩盤地帯
―――――――――――
    l吊l
  渓 lりl 谷
    l橋l
    l l
―――――――――――
  
    森   森
   森 森 森 森

       宿
   

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 渇き飢える女王。或いは、蛮族戦記…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
一条 夢心地(p3p008344)
殿

リプレイ

●凍える地の蛮族
 鉄帝。
 ヴィーザル地方、辺境を収める女領主・『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)にとって、戦いとは日常の延長線上にあるものだ。
 ましてや、今の彼女……否、彼女たちは曰く付きの絵画を運搬しているのだから、道中にそれを狙う者たちが現れたとて何ら疑問を抱かない。
 邪魔をするなら、打ち倒す。
 単純な話だ。
 暴力を持って己の欲望を満たそうとするのなら、暴力によって己の欲望を断たれることも良しとするべきなのである。
「こないだは不覚を取ったけど、今回は頼りになる仲間がいるからね。蹴散らしてあげるよ!」
 射かけられた鉄の矢を、朋子は石の大斧で打ち落とす。ごう、と風が唸りをあげて隣を走る『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の黒い髪を躍らせた。
「ふむ? やはり吾を狙っているな。盗賊共の誘引剤になるのであればなんぞ有効な使い方も出来そうであるが……」
「……なんだかちょっと怖い絵という以外は、特に異常を感じないけれど」
 百合子が胸に抱いた絵画へ視線を向けて『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が首を傾げる。
 絵画の名は「飢え渇く砂漠の女王」。画家ゲルニカの描いた“呪われた”絵である。
 持ち主やその周辺人物を欲に暴走させるというそれの影響を受けた盗賊たちに、一行は襲われているというわけだ。
「これらをまともに相手していてはジリ貧です。火力で一気に道を開き、そのまま突破しましょう」
 そういって『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は進路を塞ぐ盗賊を1人斬り伏せる。そうして向かう先にあるのは吊り橋だ。
 吊り橋を突破しなければ、一行はゲルニカの元へ絵画を届けることが出来ない。
 当然、盗賊たちもそれを理解しているのだろう。
 吊り橋の入り口付近を封鎖するように、数名がそこに固まっている。
「まあ賊なんぞ、バッタバッタと斬り倒すだけじゃが……ここまで欲しがるとなると、その絵、実はえっちなやつなんじゃないのか? ん?」
 オリーブと並び『殿』一条 夢心地(p3p008344)も前へと駆ける。刀を構えたままの姿勢で、雪上を滑るように賊へと接近。
 どこかお道化た態度に反し、夢心地が放つかち上げ式の一閃は鋭く重たいものだった。
 盗賊が防御のために使った剣を半ばほどで断ち斬って、その胸部を深く斬り裂く。血飛沫が積もった雪に赤い斑の染みを作る。
「さぁ、行ってください!」
 盗賊の1人を体当たりで弾き飛ばしたオリーブは、後続の仲間たちへと向けてそう告げた。オリーブの開いた空間に、誰より先に駆け込んだのは『清楚にして不埒』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)だ。
「まず吊り橋の突破だね!」
 大きく揺れる足場の悪さをものともせずに、両手に剣を構えた彼女は姿勢を低く疾駆する。進路を塞ぐ盗賊の足元へと薙ぎ払いを打ち込めば、盗賊はおろかにも跳躍することでそれを回避した。
 不安定な姿勢のまま、盗賊は後に続く百合子へ向けて手にした剣を投擲するが……。
「おっと、結構揺れるね。ヴァリューシャ、落ちないように気を付けてね♪」
 空気の爆ぜる音とともに、赤雷……『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が跳んだ。空中で放つ回し蹴りが、飛来する剣を弾いて明後日の方向へと吹き飛ばす。
 橋から落ちたその剣が、川に落ちる音はマリアの耳に届きはしなかった。
「はぁ!? そんなんありかよ!」
 唖然と口を開いたまま、盗賊は悲鳴のような声をあげた。
「おい、進ませるぐらいなら橋を落としちまえ!」
「お、おぅ!」
 盗賊の1人が橋を落とすことを提案し、別の誰かが即座にそれに応と返した。当然、そんなことをすれば橋の上にいる彼らも川へと落下するのだが、どうにもこの場に集った彼らは冷静な判断力を失しているらしい。
 ただ目先の獲物から、絵や金品を奪い盗る。
 そのためならば、どんな犠牲も辞さない覚悟……否、欲に支配された思考のままに、橋を吊る太い縄へと剣をまっすぐ振り落とし……。
「あ?」
 ガツン、と。
 見えない何かに弾かれて、剣が縄を断ち斬ることは叶わない。
「さて、と……保護結界の準備はOKです。それじゃあ朋子さん、派手にやりましょうか!」
 最後尾を走る『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は、パンと両手を打ち鳴らした後、そう言った。
 吊り橋を抜ける準備は万端だ。
「皆、任せたよ。信じてるからね!!」
 石斧を肩に担いだ朋子は、一気呵成に橋へと駆けこんでいく。

●見敵必殺
 冷たい風を切り裂いて、百合子へ迫る1本の鉄矢。
 吊り橋の外、空の上からそれを射たのは翼を広げた翼種の男だ。
 しかし、男の放った矢が百合子を撃ち抜くことはなかった。
「飛ばれるのはちと厄介じゃな。麿がこやつらの相手を担う事としよう」
 手にした刀を傾けて、夢心地が矢を弾いたのである。
 周囲をチラと見回せば、百合子を狙う翼種たちは都合6名ほどだろうか。
「この程度の数なら、睨みを効かせておけば良いかの」
 なんて。
 そう呟いた夢心地は、刀を握った腕を首の前に構えて見せた。
 顎を突き出すように顔を僅かに傾けて、周囲を囲む翼種たちを睥睨する。どこかふざけたような顔だが、おそらく挑発しているのだろう。
 自身の首に手刀でも打ち込んでいるかのような……或いは、右手で掴んだ刀の刃を左の肩に担ぐかのような独特の姿勢だ。
 見る者が見れば、それが一世を風靡したある伝説的な構えであると理解できることだろう。えんやこらやっ、と一言気勢を吐いた殿は、僅かな動作で横から迫る矢を刀の腹で弾く。
「殿、後ろ後ろ!」
 夢心地の背後へ、1人の翼種が回り込む。手にした剣を大上段に振り上げて、渾身の一撃を彼へと見舞うつもりだろう。
 しかし、朋子の警告は賊の剣より速かった。
「だいじょぶじゃ」
 くるり、と少ない動きで体を回転させると、横一線に刀を振り抜く。
 ごう、と渦巻く黒き魔力は斬撃と化し、翼種の男を斬り裂いた。

 盗賊たちの怒声が響く。
 鉄の矢が風を切り裂く音が鳴る。
 後方より撃ち込まれるそれを、朋子は体を張って防いだ。その引き締まった細い背に、矢が深々と突き刺さるが、彼女はそれを気にもとめずに斧を頭上へ持ち上げる。
「全速力で駆け抜けて! 吊り橋から脱出するんだ!」
 足を止めた朋子が叫ぶ。
 橋の出口にいる賊たちは、きっとミルヴィが斬って捨ててくれるだろう。
 ならば、自分の役割は背後から追いすがって来る盗賊たちを橋の上で食い止めることだ。
 狭く、満足に動けない橋の上で挟み撃ちなど喰らってはたまらない。
「うむ! 任せた朋子よ! 素晴らしき美少女働きであるぞ!」
 後ろを振り返ることもなく、百合子は朋子へ賞賛を送った。
 短い言葉だ。
 しかし、この場においてそれは限りなく正解に近い賛美であろう。
 朋子の身を案じる言葉は、すなわち彼女へ対する侮辱だ。
 不安に歩調を緩めることは、彼女の想いに唾を吐きかけ踏みにじることと同義であろう。
 ただ、任せる。
 朋子に絵画を託された、百合子に出来る精一杯の支援がそれだ。
 しかし、幾らかの不安は残る。
 なにしろ以前、朋子は橋の上で襲撃を受け、撤退を余儀なくされたのだから。
「まったく、朋子さんってば相変わらず無茶しますねぇ……」
 だがしかし、今回の朋子は1人ではない。
 淡い蒼光を纏った剣を構えたリディアが、朋子のすぐ後ろに立った。その視線は、まっすぐに追随して来る盗賊たちへ向いている。
 賊の先陣を切るのは、2人の獣種の男であった。
 肩や狼、もう片方は豹であろうか。
 ともに鋭く、そして荒々しい動きである。練度は未熟ではあるが、天性の運動能力が高いのか、奔る速度はなかなか速い。
「皆さん、後はお願いしますね……!」
 盗賊2人が手斧を構えるのと同時、リディアは仲間たちへと告げた。
 跳躍し、弾丸のような速さで迫る狼男は朋子の斧で顔面をぐちゃりと潰された。
 低く、這うように駆ける豹の獣種はリディアの薙ぎ払いを受け、姿勢を大きく崩してよろける。
「「次!!」」
 橋から落下していく2人の賊へはチラとも視線をくれず、朋子とリディアは声を揃えてそう告げた。

 盗賊たちの動きはひどく単調だ。
 目の前の敵へと襲い掛かる。手にした得物で斬り付ける。
 思慮に欠けた振舞だが、絵画の影響下にあるため仕方がない。そして、絵画の影響下にあることで、盗賊たちの心からは恐怖の感情も薄れているのだ。
 斬られても、殴られても、意識がある限りターゲットへと立ち向かう。血塗れになって、白目を剥いて、それでも吠える盗賊たちの有様はまるで戦に魅入られた蛮族のようでさえあった。
「っ!?」
 盗賊の猛攻を受け、ミルヴィがその場に倒れ込む。
 その隙に、と盗賊たちの数名が橋へと雪崩れ込んでいった。飛行できる賊たちに、先を越されてなるものか……そんな思考であるのだろう。橋が揺れることも構わず、押し合い圧し合いしながら駆ける盗賊たちが、イレギュラーズの進路を塞ぐ。
 先頭を走る獣種の男が、鋭い爪をマリアへ向けて振り下ろす。
 しかし、彼の爪が斬り裂いたのはマリアの造った幻影だ。ゆらり、と陽炎のように揺らいだマリアの姿は空に溶けて消えていく。
「はぁ?
 目を見開いて足を止めた男の顔に、マリアの膝が突き刺さる。

 もんどり打って倒れた男の背後から、伸びた剣がマリアの脇を斬り裂いた。
 一瞬、怯んだマリアの脚に倒れた男がしがみつく。姿勢を崩したマリアへ向けて、繰り出されるのはあまりに未熟な斬り下ろし。しかし、不安定な体勢ではそれを回避することもままならず、マリアは迫る衝撃に備え歯を食いしばる。
 だが、マリアの頭を剣が抉ることはなかった。
「立ち止まらずに、前へ! 前へ! 前に進む以外の選択肢は放棄です!」
 盗賊の剣を受け止めたのはオリーブだ。
 身体ごとぶつかるように、1歩前へと踏み出して、盗賊の身体を押し返す。
 オリーブと切り結ぶ盗賊の身体が壁となって、後続からの攻勢は暫し止んでいた。その隙こそが、オリーブの求めていたものだ。
「ぉぉおおおおお!!」
 雄たけびを上げ、前へと進むオリーブが盗賊たちを数名纏めて転倒させる。
 道は開いた。
 夢心地を伴い、百合子は空いた空間へと身を躍らせる。
 しかし、代償は大きい。
 バランスを崩したオリーブが、盗賊たちともつれるように橋の外へと落ちたのだ。
「ちょっ、とぉ!?」
 慌てた様子のヴァレーリヤが、咄嗟にオリーブの腕を掴んだ。
 ギシ、と筋の軋む音。
 メイスを自在に振り回すほどの力を備えたヴァレーリヤだが、不安定な姿勢のままでオリーブを引き上げることは出来ないらしい。
「お、重い…誰か手伝って下さいまし!」
 そうしている間に、ヴァレーリヤの眼前へとふわり、降り立つ人影が1つ。
 それは黒い翼を備えた賊である。
 その手に握る錆びた槍を、賊は無言で繰り出した。
「っ! ヴァリューシャ! 手を離しても大丈夫!」
 マリアの指示に従い、ヴァレーリヤはオリーブの腕から手を離す。後ろへ転がるようにして槍を回避。避けきれずに、腹から肩にかけてを深く抉られた。
 一方、マリアはメカとらぁ君へ「走れ!」と短く指示を出す。
 うぉん、と一声鳴いたメカとらぁ君は力強く疾走を開始。その胴にはロープが結びつけられていた。
 ロープの先に繋がっているのはオリーブだ。
 オリーブの身体を橋の上へと引き上げたメカとらぁ君だが、なんとそのまま引き摺りながら疾走を続ける。
 走れ、と指示は受けたけれど、止まれとは命令されていないのだ。

「どっせぇぇーーーい!!」
 聞き慣れた怒号はヴァレーリヤの放ったものか。
 大上段より振り落とされた鋼のメイスが、槍を手にした翼種の男の肩を打つ。骨は木ッと砕けただろう。翼を動かす筋も潰れたに違いない。
 川へと落下していく男を一瞥し、ヴァレーリヤはこう告げた。
「マリィ、貴女も落ちないように気を付けて頂戴ね」
 
 白い地面に血飛沫が散る。
 倒れ伏した賊たちと、その真ん中で鮮血散らして跳ねるように、舞うように、両手に握った剣を振るう褐色肌の女性が1人。
 ミルヴィの傷は浅くない。
 しかし、動きは止まらない。
「いよいしょ!」
 一閃。
 曲刀・イシュラークが盗賊を1人斬り伏せる。
 倒れた男の頭のうえを、百合子が跳び越え駆け抜けていく。
「こっちは任せて!」
 百合子の背へと声をかければ、返って来るのは短い返事。
「その意気や、善し!」
 正面より射られた鉄の矢は、上体を大きく仰け反らせることで回避。即座に体勢を立て直すと、振り返ることもなく森へ向けて走り出す。
「姐さん! 清楚にかけて任せるよ!」
 血に濡れた顔でミルヴィは笑う。
 百合子が橋を抜けたのなら、依頼は成功したも同然。賊の足止めに加わった夢心地と共に、集まって来る男たちへ殺気を飛ばす。
「ちょっ! とっ! 道を開けてください!」
 メカとらぁ君に引き摺られながら、オリーブが戦場に加わった。

●静かな森を行く女
 吊り橋を抜けたところに並ぶ女の影2つ。
 石斧担いだ朋子は口へ、薬の瓶を運んで中身を一息のうちに飲み干した。負った傷が癒えたところで、彼女はにぃと獣のような笑みを浮かべる。
「さぁ、まだまだ敵は多いから、全員ここで食い止めるよ」
「えぇ。でも、もしも共に倒れるような状況になった場合は……川に身を投げましょうか」
 蒼剣構えたリディアは応え、額に伝う血を拭う。
 近づいて来る盗賊たちへ視線を向けて、リディアは姿勢を低くした。
 直後、森の中で轟音が響く。
 衝撃と共に吹き抜けるのは、熱気を孕んだ風だった。
 それを合図に、朋子とリディアは盗賊たちへと斬りかかる。

 樹上から、百合子へ目掛け矢が飛んだ。
「いかせませんわ!」
 それを庇ったヴァレーリヤが、百合子の代わりに矢を受ける。
「やはり待ち伏せ……しかし、を止めた分だけ不利になります」
「でしたら敵の居ない道を切り開けばいいだけですのよ!」
 樹上に控えた射手へ向け、オリーブは悔し気な視線を向けた。遠い位置にいる敵には、彼の剣は届かないのだ。
 一方、ヴァレーリヤはメイスを掲げ、静かに聖句を唱えている。
 静かな、夜闇に染み入るようなその声が呼び起こすのは業火であった。ごう、とまるで小さな太陽さながらに、彼女のメイスは燃え盛る。

 地面を抉り、解き放たれた業火と破壊の衝撃が、木々を幾つかなぎ倒す。
 粉塵が舞い、視界も定かでない中を百合子は駆けた。
「ぐ……」
「だ、大丈夫かい?」
「問題ない!」
 マリアの問いに答えを返すが、百合子の精神はギリギリだ。
 絵画の呪いか。先ほどから、胸中より湧き上がる激しい戦意に抗い続けることはかなりの負担であった。
 戦い、奪え、何もかもを。
 そんな言葉が脳裏に響く。
 歯を食いしばり、百合子はそれに抗った。
 噛み締めた唇が裂け血が零れる。
 しかし、この程度で音をあげるわけにはいかないのだ。今だって、ミルヴィや夢心地は百合子を先に進ませるために駆けまわっているのだから。
「行こう。敵がいたら教えてくれ」
 そう言って、マリアを伴い百合子は森を奥へと進む。

 ミルヴィの剣と夢心地の刀が交差する。
 茂みに隠れた男が、手にしていたボーガンがそれだけで2つに断たれて地面に落ちた。
 悲鳴をあげる暇もなく、意識を失い男は倒れる。
 ミルヴィと夢心地は無言のままに視線を交わし、それからすぐに左右へ分かれて駆けていく。
 森の中に潜んだ敵が、百合子の道を阻むことが無いように。

 寂れた宿屋のロビーにて。
 古いソファーに腰かけて、待っていたのは1人の画家だ。
 無言のまま、数時間。
 夜もすっかり深くなったころ、こんこん、と扉をノックする音が鳴り響く。
「美少女宅急便である!」
 返事も待たずに扉を開けて、そう告げたのは百合子であった。
 汗と埃と血に塗れた、戦場帰りのような有様。しかし、その美しさは微塵も損なわれてはいない。
 威風堂々とは、まさに彼女のために存在する言葉だろう。
「受け取りのサインは要らぬ故、こちらを確認されたし!」
 百合子の掲げたそれは、布に包まれた1枚の絵画だ。
 画家……ゲルニカはすぐさまそれが、自身の絵であることを知る。
「……確かに。それは自分の絵だ」
 ありがとう。
 絵を受け取ったゲルニカは、礼を述べて頭を下げる。
 それを見た百合子は、満足そうに笑うのだった。

成否

成功

MVP

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

状態異常

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)[重傷]
剣閃飛鳥

あとがき

おつかれさまです。
無事に絵画はゲルニカのもとへ運ばれました。
また、道中邪魔をしたきた盗賊の大半を捕縛。
領地にいくらかの平和が取り戻されました。

依頼は成功となります。

縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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