PandoraPartyProject

シナリオ詳細

曙を彩るは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――あの時、何があったのだったか。
 私が海に落ちたのかも、突き出る岩に叩きつけられたのかも、それ以前に聞いてしまったのかもわからない。その辺りは酷くあいまいだった。
 少なくとも、翼を広げる暇などなくて、殺したいほどに悔しいと思って。それに『応えてくれる』声を聞いたのだ。

「帰るぞ」
「ほ、本当に……」
「今更ゴタゴタ言うんじゃねえ!!」
 萎縮する子分たちを叱責し、男は踵を返す。
 正直言って、男自身も未だ薄寒いものを感じていた。それは血塗られたような曙を見続けてしまったせいだろうが、なおさら気分の悪くなる場所に居続ける理由はない。
 町へ向かおうとする一同は、一瞬差した影にびくりと肩を跳ね上げた。鳥だろうか。いや、それにしては大きかった。
「キャハ♪」
 遥か頭上から聞こえた、女の声。
 ごろりと転がる、男の首。
「ヒィ……ッ!」
「お、おいあれ、」
 悲鳴をあげる者、腰を抜かす者、空を見上げる者。三者三様だが、タイミングの差あれど皆視線をあげる。
 男の首を刈り取った彼女は、歪に口元を歪めて愉しそうに笑っていた。血の色に染まった曙を背後に、空へ浮かぶ彼女を誰が呼んだか。
「曙の――悪魔」
「害悪の次は、悪魔?」
 くすくすと笑う。ああ、だって、こんなにも可笑しい。
 私に怯える彼らは、それでも私を傷つけようとする。普通の日々を送って、家族がいて、歳を重ねられる幸せだけでは物足りず、私を蹴落とすことで満足感を得ている。
 しかし、それも最早どうだって良い。

「――幸せなヤツラなんて、殺せばいいじゃない」

 少女は憎悪の炎に身を焦がし。
 平凡で在りたい願いを押し込めて。
 そうして、『曙の悪魔』アリスは生まれたのだ。



「焔さん! 見つかったのです!」
 ローレットへ飛び込んできた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)に炎堂 焔(p3p004727)は音を立てて立ち上がる。
「曙の悪魔の場所を突き止めたのです!」
「どこにいるの!?」
今しがた雑談していたテーブルのお菓子やら飲み物やらを『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が退けると、ユリーカの持っていた地図が代わりに広げられる。
「あたしも一緒に聞いていい?」
「フランさん! もちろんなのですよ」
 曙の悪魔と聞いたフラン・ヴィラネル(p3p006816)をそこへ交えて。ユリーカは一同の顔を見渡すと、小さく咳払いした。
「おほん。まず、曙の悪魔はまだあの町にいるのです」
「あの事件の後もいたんだね」
「見つかると思って隠れてたのかな? それとも……動けなかった?」
 焔とフランは少し前の事件を思い出す。魔種の手先や、その狂気に当てられたと思しき人間たち。あれらを使った騒動は魔種から気を逸らさせる陽動だったと見て間違い無いだろう。
 しかしそれもイレギュラーズたちによって鎮静化され、魔種は再びその周囲を嗅ぎ回られることとなった。そして今、見つかったということは――。
「魔種はあの町から逃げ出すつもりでしょう。恐らく力も戻っていて、魔物を沢山呼び集めているのです」
「そんな! それじゃあ、町の人も危険に……!」
 慌てて立ち上がろうとするフランを制し、ユリーカは「ボクはできる情報屋なのです」とドヤ顔する。
「避難誘導はもう始まっています。皆さんは魔種と、邪魔をしてくる魔物たちに注力して欲しいのです!」
 戻ってくる道中、町にはすでに報告したらしい。今頃自警団たちを中心として避難が始まっている筈だ。
「魔物はどの程度だ?」
「物凄くいて、正確な数は測れないのです。そこまで強くないとは思いますが、油断禁物です」
 魔物は使い捨ての駒だ。魔種が逃げ切るまでの時間稼ぎであり、それ以降はどうなるかもわからない。ここで散らすなら考える必要もないだろう。
「それじゃあ仲間を集めて、早く出発しなきゃ!」
「焦ると事を仕損じるぞ」
 焔をフレイムタンが諫め、ユリーカへと視線を向ける。彼女はわかったと大きく頷いた。
「ローレットで募集ですね! すぐに集めてくるのです!」



(生まれ育った町なのに、何も出てきやしないのね)
 アリスは翼を羽ばたかせ、町の上空へと舞う。至って平凡な町。そう、曙の悪魔が『いた』こと以外は特筆する事もない。
 空が少しずつ白んでくる。人々がアリスに怯えながらも活動を始める時間帯だ。平民にとって灯りは貴重で、日中をできる限り使いたいものだから。
 以前は早朝に出歩く者も減っていたが、アリスが姿を隠していたことと、暴れていた魔物たちをイレギュラーズが対処したお陰で元の生活が戻りつつある。
「――好都合だわ」
 彼女の瞳が妖しく光る。空気がざわついて、嫌なものが埋め尽くしていく。
「さようなら。こんな町、もう要らないの」
 魔物たちに呑まれてしまえば多少はスッキリするだろうし、イレギュラーズたちに倒されてもそれはそれ。
 アリスにとって、町を『捨てる』時間があれば良いのだ。

GMコメント

●Danger!!
 このシナリオは『原罪の呼び声』が発生する可能性が有り得ます。
 純種のキャラクターは予めご了承の上、参加するようにお願い致します。

●成功条件
 魔種『アリス』の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報制度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●エネミー
・『曙の悪魔』アリス
 『明けの時間に人が死ぬのは、曙の悪魔に魅入られてしまったから』
 そんな噂の張本人。魔種です。元スカイウェザーです。忌まれ、崖から突き落とされた少女。その瞳は怒りに濁っています。
 彼女は先行して崖へと向かっていますが、まだ間に合う距離です。
 機動力・反応に特化していますが、全体的なステータスとしても高めです。また、基本的なスタイルは大鎌による範囲物理攻撃ですが、神秘的性も持っています。付随するBSは不明です。
 彼女は町の外の崖より飛び立ち、どこかへ去るつもりです。それを許せば足取りは掴めなくなるでしょう。

・魔物×???
 吸血蝙蝠、獰猛なる魔狼、凶暴化した動物など、アリスに使役された魔物たちです。小型・中型ほどで、アリスに比べたらそこまで強くありません。数が多いです。
 アリスへ至るまでの道中、およびアリスの周囲にいます。つまり、今回の戦闘において大体どこにでもいます。
 彼らの攻撃を受けると【出血】【足止】【呪い】等のBSにかかります。

●フィールド
 町から、町を出て少し歩いたところの崖まで。
 地面は歩きやすいよう整えられていますが、道中にはアリスの残していった魔物が待ち構えます。距離によっては崖まですぐに到達できませんので、分かれて戦う場合はご注意ください。
 崖は美しい日の出の名所として柵が設置されていますが、一部には存在していません。うっかり落ちると重傷待ったなしです。崖下には岩が突き出ています。


●NPC
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年です。近接アタッカー。イレギュラーズの指示に従いますが、特になければ魔物の掃討に回ります。
 世界(母)を脅かす魔種の存在を放っておくわけにはいかない、と魔種討伐には積極的な構えです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ここでアリスを逃せば見失うでしょう。なんとしてでも逃亡を阻止してください。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 曙を彩るはLv:20以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年09月17日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
鏡(p3p008705)

リプレイ

●おんなのこ

『いい名前だね! 髪も瞳も綺麗だよね、お友達になりたかったなぁ。あ、甘い物好き? 美味しいケーキ屋さん知って――』
『き、きれ……ともだちっ!? ああああ甘い物なんて食べたことないデスケド!?』

(……あの時は普通の女の子みたいだった)
 もう、だいぶ前になるだろうか。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は初めて彼女に会った時の事を思い出していた。
 曙の悪魔という二つ名を持つ、魔種の少女。反転してしまう程に強く思うことがあったのだろう。そうでなければ幸せが憎いなどと、日常がなくなってしまえなどと言うはずもない。
「……焔」
「大丈夫」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)の気づかわしげな声に焔は凛としたそれで返した。惑わされることはない。『もしも』の可能性を辿っていたとて、まずは彼女を止める事が先決だ。
「敵のお出ましだね」
「負けないよ! アリスちゃんに追いつくんだ!」
 『女神の希望』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)に続いて焔の火炎弾が敵を吹き飛ばしにかかる。フレイムタンは夥しいほど周囲を埋め尽くす敵へ肉薄した。
「ここまで大量に引き連れているとは」
 彼の進む道を援護するように『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)のプラチナムインベルタが敵陣へ降り注ぐ。被弾確認、ダメージも入っている――が、あまりにも多い敵の壁は簡単に突破できなさそうだ。
(しかし、それでもやらねばならない)
 この先に魔種はいる。この町から脱するため、イレギュラーズから逃げる事に全力を注いでいるはず。なんとしても進路を切り拓き、阻止しなければ。
「どうも皆さん『悠久ーUQー』の伊達千尋です。よろしく。群れを突破するのには慣れたもんだ、任せとけ」
 魔導バイク『Maria』のエンジンを吹かせる『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)を『胸いっぱいの可能性を』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が気合ビンタする。ビンタの必要はあったのかわからない? 考えるな。感じろ。そういうことだ。
 『幻想の勇者』ヲルト・アドバライト(p3p008506)の聖骸闘衣も受けながら千尋は再びエンジンを吹かせ、敵の壁へ向けて突撃する。相手に通す気がないのなら強行突破だ!
「どけどけオラァ! 『悠久ーUQー』ナメんじゃねえぞ!!」
 次々と跳ね飛ばされていく魔物たち。イレギュラーズたちはその後続に続きながら迫ってくる敵と応戦する。
(流石に全く動かない、という訳にはいきませんねぇ)
 スタミナ温存の前に力尽きかねないと鏡(p3p008705)は敵を何体か斬り払う。全力は出していない。ここで目立ちたくはないのだから。
「そんなに受けちゃって大丈夫ですかぁ?」
「オレは少しくらい当たっておいた方が調子が上がるんだ」
 ちらりと視線を巡らせれば、多少の赤を滲ませたヲルトがそう切り返す。数の利に押されてはいるが、逆行でこそ本領発揮するタイプであるから嘘ではない。
 しかし、それはそれとしても。このまま受け続ければ、本命(アリス)へ辿り着く前に力尽きる可能性も否めない。
「抜けるぜ! この千尋サマに付いてきなァ!」
 バイクを走らせる先頭の千尋が壁を突破する。魔物たちがイレギュラーズの抜けた穴を塞ぐように群がり始めたが、それより早く『竜剣』シラス(p3p004421)は駆け抜けた。
「これで追いつける……!」
「皆、フルパワーでいくよー!」
 フランの激励を受け、小さくなっていく穴から次々とイレギュラーズたちが飛び出していく。その中で敢えて寛治は足を止めた。歩調を緩めたなどではなく、文字通りに立ち止まり、その場に棒立ちだ。その視線は冷ややかなれど、容易に倒せてしまいそうな――魔物たちにとって弱者、格好の獲物に見える。寛治と残る為、リウィルディア、そしてフレイムタンは仲間たちの背を見送った。
 その内の1人、焔が振り返る。フレイムタンはその視線を受けて頷いた。
「ここはお願い――!」
 その姿が敵の壁に阻まれる。焔もフレイムタンたちの姿が見えなくなり、敵の一部が自身らへ向けて動き出したことに気付くと仲間たちへ追いつくべく駆けだした。
(止めないと)
 これ以上酷いことをさせるわけにはいかない。そう決意する焔の後ろを、先行するイレギュラーズたちの後ろを、魔種へ追いつかせるものかと魔物たちが徐々に距離を詰めていく。
「……こちらも、時間をかけすぎず合流しましょう」
「うん。でもここで気を抜かないようにしないとね」
 寛治へ応えながら、リウィルディアは多数の小妖精を刹那に具現化させた。


●あの夜と、一緒
 すっかり弱まった月光。太陽の光が水平線の向こう側から覗こうとしている。
 空は白み、黄金に。やがて燃えるような赤色を見せるだろう。

 あの時と一緒。

 『私』はあの時死んでしまったの。
 『あたし』はあの時生まれたの。
 燃えるような赤に祝福されて、産声を上げた魔種(あたし)。旅立ちの日には丁度良い。
 町の奴らの赤を見られないのはちょっぴり、ううん、凄く残念だけれど。

 ――追いかけてくる目障りな人たちの事を考えれば、仕方ない。だって死にたくないもの。


●曙を前にして
 魔物の一団を突破したイレギュラーズたちは、その後も現れる魔物をいなし、少しとは言えぬ量であるが引き連れながら先へ先へと向かっていた。空のひらける気配にヲルトは時間へ干渉する。
 ほんの僅か。けれど確かに、ヲルトは『先』を行く。
「まさかここまで追ってくるなんて、執念深い人たち」
 その声と共にヲルトは力強く地を蹴った。空に浮かぶ少女へ向かって空を駆け、その動線を阻害せんとする。
「逃がすわけがないだろう、アリス。ここがお前の墓場だ」
「あら、ここを墓場とするのは過去のあたしだけで十分よ」
 ひらりと空を舞うアリス。その直下へ辿り着いたシラスはアリスへ向かって手を伸ばす。
「また会ったな。……そして、お別れだ」
 響くフィンガースナップ。音を媒介とした魔術がアリスの気に障ったか、それとも単純にシラスの言葉が気に入らなかったか。眉根を寄せた彼女は大鎌を構えた。
「そうね、お別れ。その胴を真っ二つにしてあげる」
「やれるものならやってみろよ。鼠みたいに日陰へ逃げ籠ってたようじゃ、無理だと思うけどな」
 わざと煽るシラスへ感情豊かに反応するアリス。その眼前へ再びヲルトが立ちはだかる。アリスは冷めた視線をくれながら、無情に大鎌を振り下ろした。

「――初めましてぇアリスちゃん、でよかったですよねぇ?」

 不意に横合いから発せられた声。咄嗟に身をよじったアリスにより、その斬撃は宙を切る。あらら、と残念そうに鏡は呟いた。
「避けられちゃいましたかぁ。まあ、よいでしょう」
 鏡はすたっと着地し、美しく笑う。
 アナタを殺しに来ました、と言いながら。
「アリスちゃん!」
 名を呼びながらフランは空へ飛び立つ。ヲルトへ芽吹の種を与えながら、フランは真っすぐアリスを見た。束の間交錯する視線――されど度重なる音がアリスを苛立たせる。
「ああ、もう! さっきからうるさいのよ!!」
 真下へ急降下したアリスはシラスへ向けて大鎌を振り上げる。その一挙一動が早い。
(だが、降りてきてくれればこっちのものだ!)
 彼女ばかりの世界から、地上へと引きずり下ろす。一撃目を受け止めたシラスの前へ、千尋が滑り込むとアリスへ向かって構えた。
「シラスくんをやるつもりなら、まずは俺をやるんだな!」
「日陰に隠れてるとか言いながら自分も他人の後ろへ隠れるのね? あたしと大して変わらないんじゃない?」
 アリスは千尋に目もくれず、シラスへ言葉を投げつける。勿論、一緒に大鎌の攻撃も――今度は千尋に防がれてしまうけれど。思わずといったように小さく舌打ちしたアリスへ炎の爆弾が投げ込まれた。
「アリスちゃん……ボクは、ボクたちはキミを止めないといけない。どこかに行かせるわけにはいかないんだ」
「勝手にすればいいわ。あたしはキミたちに屈しない! さあ、沢山相手してやりなさい!!」
 アリスの最後の言葉に、イレギュラーズたちを追いかけてきていた魔物たちが襲い掛かる。空が明らんでくる中、凶暴な姿を露わにした彼らにイレギュラーズたちは応戦を余儀なくされた。
 一方の足止め組もまた、こちらはこちらで多量の魔物を相手していた。
「構いません、多少の被害は必要経費です」
 敵を引き付けた寛治は、どこまでも魔物たちが追いかけてくるのを見て逃げるのを止める。そしてまだ自身へ十分に引き付けられていない敵集団へステッキ傘を向けた。フレイムタンが寛治の言うままに、彼ごと敵へ仕掛けていく合間にリウィルディアは回復を施す。
「リウィルディアさん、フレイムタンさん、もう少ししたら私たちも移動しましょう」
 幸いにして個々の強さはそれほどでもない。ただ数がいる為に、被弾数は増してしまう。
 しかしそれも敵視を持ってしまえば、あとは寛治の体力と殲滅速度の問題だ。そして彼の体力についてはリウィルディアが握っている。
 味方2人の活力を上げたリウィルディアは、寛治の言葉に小さく頷いた。


●曙の最中
 燃えるように赤くて。
 太陽を照らす水面も赤くて。
 それはまるで――大きな大きな血だまりのようで。

 世界を塗りつぶすような赤色は、次は『あたし』を殺すのだろうか? ……なんて。


●影が伸びる
「もうアナタは終わってるんですよ。私たちが来たのだから。彼女たちが、アナタを討つと決めたのだから」
 鏡の一太刀がアリスの身を掠める。この精度で掠める程度なんて、と苦笑いもしたくなるが、そのダメージはただの得物が掠めただけとは大違いだ。
「あのね、アリスちゃん! あたし、ハーモニアでね、すんごい長生きなの。あ、焔先輩も神様だからきっと長生き!」
 緑の魔力で仲間を優しく包みながら、フランはアリスへ叫ぶ。どうかこの想いが、心が届きますように、叶わぬなら何度だって。
「アリスちゃんが生まれ変わった頃にもきっとあたし達は生きてるよ。だから、その時は見つけてみせるから――今度は絶対、お友達になろうよ!」
「そうだよ! ボクも、フランちゃんも、アリスちゃんのこと待ってるよ!」
 だからどうか、行かないで。魔種として欲望に呑まれてしまわないで。
 2人の叫びはしかし無情に、「それで?」と返された。
「だから、あたしに、死ねって? その来世のあたしは、『あたし』じゃないでしょ?」
 濁った瞳がフランと焔を射抜く。息を詰めた2人へ魔物が襲い掛かった。その様子を横目に見ながらシラスはフィンガースナップで再び注意を引く。
(魔物を操る力は、テレパスの類じゃないみたいだ)
 そうでなければ。シラスのジャミングによって伝えたい意志は阻害され、上手く伝わらないはずなのだから。
「っと、本当にキリがないな!」
 固まっている魔物たちの足元へ魔法陣が幾重にも展開される。魔物がそれへ視線を向ける間に発動したそれは、拘束の呪を周囲へとばらまいた。魔法を展開する彼を千尋がアリスから庇い続け、ヲルトがその動きを少しでも阻害するように立ちはだかる。
「不幸を他人に押し付けたところで、自分が報われることはない。それに、オレは他人の日常を壊すような奴に容赦するつもりは無いぞ」
「なら、あたしの日常を壊した奴らから殺しなさいよ」
 誰が彼女の日常を壊したのか、ヲルトは知らない。知っているのは彼女が魔種であり、これからも多数の人間の日常を壊そうとしている事だけだ。これ以上同じことを繰り返させるわけにはいかない。
「わからない犯人をどうにかするより、目の前の殺人犯を倒すのが先だろう。……さあ、そろそろ償いの時間だ」
「旅立ちの時間って言ってくれる?」
 アリスの大鎌が一閃される。受けた千尋は「焔ちゃん!」と声を上げた。
「任せて!」
 焔が千尋の前へ立ち、千尋が離脱する。彼の身体が温まってきた頃合いなのだ。焔はシラスを庇いながら、隙を見てアリスへ攻撃を仕掛けていく。彼女を福音で癒しながらフランは目を細めた。
(いい名前だって、髪も瞳も綺麗だって思って。……小さい頃に会っていれば、お友達になってて)
 魔種にならなかった未来だって、きっと。けれどそれは幻想で、実際に目の前にいる彼女は魔種なのだ。
 世界の敵として、放っておくわけにはいかない。


 ――やだなぁ、本当に。


(い~い感じに温まって来たぜェ)
 拳を握りしめる千尋。こちらも消耗しているが、あちらとて無傷ではない。疲労の色だって見える。ガツンとかますにはうってつけだ。
「アリスちゃん! 少しは! 話を! 聞きなさい!!」
 放たれる冠位殺し。またの名をアルバニアキラー。冠位魔種を屠ったあの時の感覚を思い出しながら放つ魔拳。吹っ飛ばされるアリスへヲルトは血を媒介に魔術を発動した。シラスへ向けられた大鎌に巻き込まれ、いい感じに危機を覚えている。ここで逆境を覆せるか――否、覆すのだ。
(どんな生い立ちだったのかなんて知らない。だが同情だけはしてやらない。オレだったら、それは望まないから……いや、望まなかったから)
「お前はこの町で死ぬんだよ」
 かの魔術がアリスへと伸びていく。しかし彼女はそれをひらりと躱すと、残っていた魔物を一手に集めてイレギュラーズへぶつけた。
「誰も彼も死ね死ねって……うるさいうるさいうるさい!! 自分が死にそうになったら情けなく死にたくないなんて言うくせに!!! みんなみんな、みんな――」
 放たれた負の感情が力を得て広がった。そして魔物ごとイレギュラーズを斬り払わんと、容赦なく大鎌が振るわれる。その場へ駆けつけた寛治は咄嗟にステッキ傘を構え、敵のみを的確に撃ちぬいた。
「! アリスが、」
 リウィルディアは空を仰ぐ。一直線に飛び上がったアリスを追うように空へ舞った彼女は、自らを蝕む2頭の悪性を呼び出した。
「ぐっ……」
 小さく呻きながらも放たれたそれは真っすぐにアリスへ伸びる。続いてパキ、と繊細な何かが割れる音がして。
「駄目です、離れませんよぉ」
 鏡の刀がアリスの翼へ伸びた。徹頭徹尾の全力。それでもアリスに逃げられるとするならば――。
「――逃がさない!」
 アリスへフランが飛び掛かる。彼女が大鎌を振り上げるより早く、フランはその身を抱きしめた。
「……っ!? は? え、何!?」
「今のうちに、あたしごとやって!」
 一瞬混乱を見せたアリスは、しかし羽交い絞めにされていると気づいて彼女へ魔法攻撃を撃ち始める。緑の魔力を自身に纏わせながら叫んだフランに、寛治は迷いなくステッキ傘を向けた。
「何なの、友達になりたいとか言ったくせに!! 自分が死んででもあたしを殺したい!?」
「ごめんね」
 フランを引きはがさんとするアリスへ、彼女は困ったように笑う。
「次に会ったら攻撃できるかな、って悩んで……やっぱり出来なくて」
 だって、最初に会った時の反応を思い出してしまうから。やっぱり友達になりたいのだと、思ってしまうから。
「あたしはずるいから、これしかできないの」
「っ……くだらない!!」
 イレギュラーズたちの攻撃を受けながら、アリスは大鎌を振りかぶる。その切っ先は吸い込まれるように――アリス自身へも傷を残しながら、フランを背中から貫いた。
「……ぁ、」
 けほ、と咳込んだら、喉の奥から鉄錆の味がした。乱暴に引きはがされて、投げ捨てられて、何かにぶつかって。
「これはまずいですねぇ」
 ぶつかった先から、そんな声が聞こえた。
 フランの肢体が鏡へ投げつけられたのは、彼女の追い上げを警戒しての事か。シラスがアリスへ手を伸ばすと同時、目の前で赤髪が揺れる。
「シラスくん、ごめん……っ」
 はっと視線を向けると、焔の身体がゆっくりと崩れ落ちた。その向こう側から迫る敵にシラスは歯噛みする。
「くそっ……」
 アリスが完全に逃げる方向へとシフトしてしまったら、逃げ始めてしまったら、それを追う手段はない。手負いの仲間がいるのなら――なおさらだ。


「フランちゃんは……」
「ひとまずは、大丈夫」
 リウィルディアの言葉に、意識を取り戻した焔はほっと息をつく。自身とて安静第一だが、彼女の方が大怪我だろうから。
 回復手が少なくなった以上、魔物たちの攻撃を無視もできない。イレギュラーズがあらかた殲滅する頃には、魔種の姿は当然なくなっていた。魔物をけしかけた隙に逃げ去ったのだから、彼女とて余裕綽綽というわけではなかっただろうが、それでも逃亡を許してしまったのは事実である。
「では、私は先に失礼しますよぉ」
「鏡さん、どちらへ?」
 寛治の言葉に鏡は振り返り、にんまりと笑みを浮かべる。
「頭がいなくなったとはいえ、魔物はまだいるのでしょう?」
 魔種の狙った町。彼女の事なんて何も知らないが、その望みを叶えたくない。全て断ってしまいたい。

「だって――あのまま勝ち誇られるの、ムカつくじゃないですか」

成否

失敗

MVP

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

状態異常

炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
フラン・ヴィラネル(p3p006816)[重傷]
ノームの愛娘
伊達 千尋(p3p007569)[重傷]
Go To HeLL!

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 また、どこかで。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM