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シナリオ詳細

<月没>陽出流ノ震

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●侵食の月
 其は《信仰》を顕わした。

 祓い給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え――

 《母》は神で在った。
 《母》は自らの命を雫と化し黄泉津を産み給うた。
 《母》の命により育まれし万物の命は心を宿し、生命の軌跡を紡ぐ。
 《父》は産み落とされた子らを育んだ。國の抱きし大地の癌に御身蝕まれようとも。

 第一の子は瑞と云ふ。
 神意の瑞兆は黄泉津の草木を茂らせ花啓く。
 枯れ泉は湧き出て蓮華は車輪が如く花咲かす。
 中天彩る天つ雲は揺蕩う流れに平穏の気配を宿す。
 其は神の愛し子。

 第二の子は五ツ柱なりて。
 神意に随ひ國を護る。其は守護者なる。
 土行司りし泰平の獣。
 木行司りし芽吹きの大樹。
 火行司りし炎帝の娘。
 水行司りし不死と生殖の翁。
 金行司りし白帝の獣。
 神意と共に歩み進む命脈を紡ぐ地を護りし《母》の子ら。

 常闇をも祓う神をも咒え、曙光を求めんとする者へと祝福を――

●『侵食』
 時は諦星15年。
 神霊の覚え宜しく、文明開化も目出度くも活気溢れる神咒曙光の高天御所にて頭を抱え項垂れるは君主、霞帝。
「……長胤よ」
「此度は我が愚弟が豊底姫のご尊顔に泥を塗ったのであろう。何と申せば良いか……。
 賀澄殿。奴は天香を名乗ることも許されますまい。蛍も嘆いておる。此れならば、姿眩ませたその際に捨て置けば良かった、と――」
 到底『現実世界』では口にされることのない言葉。義弟を溺愛していた天香長胤はつらつらと言葉を連ねては苦しげに息を吐く。
 彼は神光で多く信仰され、國産みの女神とさえ呼ばれる豊底比売を愚弄した義弟を極刑に処すべきだと進言しに来たのだ。
 建葉晴明は言葉ないと俯き、霞帝は涙を流しながらも遮那を殺すべきだと声を荒げる長胤を見下ろしている。
 其れだけ、神霊は――『豊底比売』はこの國にとっての宝で会ったという事だ。

(……いいや、違う。あれだけ義弟を溺愛していたではないですか。現実の天香大臣ならばこの様な――)

 その様子を眺めていた月ヶ瀬 庚(p3n000221)は窓の外を見詰めてから「中務卿」と囁いた。
「何事だ、陰陽頭」
「……月の面(かお)が変容しておるようです。見て参っても?」
「ああ。其れが貴殿の仕事だ。……主上、天香殿。陰陽頭が月の面が変容したと申しています。
 屹度此れこそが遮那が國産みの母を愚弄した結果なのでしょう。ですが、瑞神も黄龍も心配なさるなと申しておったではありませんか。
『天香遮那には悪しき夜妖(もののけ)が憑いている』――それさえ祓うことが出来れば救う事もできましょう」
「ああ、そうじゃったな……夜妖(もののけ)を祓い、豊底比女に謝罪させねばなるまい」
 長胤が穏やかに呟く声を背に、庚は急ぎ足で御所を後にした。

 違う。三人とも、正気ではない。
 霞帝はあの様なときに諦めるなと叱咤する男だ。長胤の弱音を吹き飛ばすほどの大嵐をもたらす男ではないか。
 中務卿とてそうだ。彼は熟考し、結論を急ぎやしない。物の怪に憑かれたなどと容易に言ってのけるか?
 天香とてどうだ。溺愛する義弟を容易に殺すなどと言う結論へと至るか。そんなわけがあるまい。

 システムメッセージ
 Misao_saeki:月ヶ瀬君。月が変容してのは此方のモニターからも確認出来た。どうやら数値が設定されている。

「数値ですか?」

 Misao_saeki:ああ――30……1、2……35か? 侵食度というパラメータが表示されている。其方にも表示転送しよう。

「……侵食度。ああ、そうか! 操殿、これは『神格による侵食』では?
 先程の霞帝も、天香大臣もそうだ。渾天儀【星読幻灯機】で見た四神様方もそうだ。『取り込まれる』危機がある」

 Misao_saeki :ああ、そうだろう。現時点では四神への影響は出て居れど人間には……。

「……天香大臣は影響を受けやすいのでしょうね」

 Misao_saeki :恐らくは。どうやら『帝都星読キネマ譚』はイベントが進行したらしい。新規クエストを攻略すれば侵食度も食い止められるのではないかと推測される。

「そうでしょうね。承知しました。ならばクエストを攻略し神格――『真性怪異』の侵食を食い止めましょう。
 幸い佐伯殿のお陰でヒイズルでの神使の立場も変わりました。いっそ、制服など揃えたい程度には良き立場でありました」

 高天京特務高等警察:月将七課。それが特異運命座標――神使が得た新たな立場だ。佐伯操によるシステム介入がネクストに承認され、八扇中務省所属で無くなった事で自身らで『何を信じるべきか』を選ぶことが出来る。
(……まさか、『ねっとげえむ』とやらで主上に仇なす可能性が滲むなどとは思っておりませんでしたが。今は遮那殿を信じる方が吉、でしょうね)
 高天京壱号映画館で待っていたイレギュラーズへと庚は言った。
「クエストを攻略しましょう。それで『真性怪異』とやらの神逐(かんやらい)が為せましょう。
 遮那殿より紹介のあった大妖《転輪穢奴》忌拿家・卑踏より得た夜妖の力も此方にはあります。
 此の地の和平が、『ねっとげえむ』であれど崩れるのは忍びない。それが本来ならば存在し得ない神の力によるものならば」
 そして、希望ヶ浜(げんじつ)にまで影響が及ぶというならば――やれることは、為さねばならない。
 この世界では死さえも超越している。現実よりも為せる事は多いはずなのだから。

●クエスト『陽出流ノ震』
 クエスト出現地点へと訪れたイレギュラーズの前に待ち受けていたのは白い霊犬であった。
 ふわふわとした毛並みのそれはイレギュラーズを鋭い目付きで見詰めて居る。本来ならば愛玩動物なのかもしれない。
「瑞様を傷付ける奴ですね! この白太郎が許しません!」
 尾をぶんぶんと振り回していた白太郎が吼えた。白太郎と名乗っているその犬は本来の名を白薬叉大将と言うらしい。
 口ぶりから黄泉津瑞神の眷属の一匹だ。
「……白薬叉、どうぞ落ち着いて下さい。忍が余り前線に出るべきではありませんが……『我々』も主上の命を受けたもの。
 あなた方が豊底のおひぃさまを害する事は解っております。お覚悟を――」
 黒ずくめに穏やかな深色が覗いている。その姿を見た庚は「お庭番衆『暦』」と呟いた。
「……『神無月』」
 小さく呟いたのは陽炎(p3x007949)であった。その背後に立っていた雛菊(p3x008367)も見慣れた姿に息を飲む。
「頭領さま、あれは神無月お兄ちゃんじゃ……」
 ロールプレイさえ忘れて雛菊は唇を震わせた。神無月と呼ばれた男の背後には『長月』と名乗る忍びが立っている。
 そして、雛菊には見覚えがある少女も神無月の傍には立っていた。
「困ったもんやな。俺等の事、知っとるんか。……まあ、ええわ。
『死んだら』何もかも覚えても意味あれへん事位――アホでも解るやろ? なあ!」
 手裏剣が至近へと迫る。ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は「どうする、庚!」と叫んだ。
「彼等を退ける事がクエストのようです。お任せしても?」
「ああ。どう見てもあの霊犬はポメ太郎だ。あれが暴れるならば俺にも責任がある。さて、お手並み拝見と往こうか――!」

GMコメント

 夏あかねです。イベント進行だ。
 帝都星読キネマ譚は<半影食>(希望ヶ浜)と<月没>(ヒイズル)で同時進行していくようです。

●クエストクリア条件
 白薬叉大将及びお庭番衆『暦』の撃退

●白薬叉大将(白太郎)
 ポメ太郎R.O.Oの姿。もふもふかわいいわんわん。の筈が、すらりとした姿になって襲い掛かってきます。
 黄泉津瑞神の眷属であり、その姿を模しているようです。通称白太郎。
 陽の力を駆使して戦い、焔による遠距離攻撃や噛み付きなどの近接攻撃を行います。
 倒しきる事は難しいでしょうが、瑞神より「疲れたら戻っておいで」と言いつかっているようです。
 瑞様を虐める悪い奴だとしてイレギュラーズを敵視しています。
 特筆して白太郎は『誰かの非戦闘スキルの発動を1種キャンセルする事ができる(3回まで)』そうです。神力の及ぶところでしょうか。

●お庭番衆『暦』
 霞帝の命令によりイレギュラーズを此れより先に通さぬ為のクエスト敵に登場しました。
 彼等は命を落とすような戦いは現時点では避けています。どうやら索敵も兼ねての敵襲です。
 イレギュラーズの出方を伺っているのでしょう。

 ・神無月
  忍集団『暦』神無月のR.O.Oの姿。現実と変わらず大月神社の神主を行っている八百万。
  神楽による味方への回復がメイン。また、白太郎への支援も行っている(式神指揮の亜種)。
  此度に関しては一行の頭脳を担っている様子。
 
 ・長月
  忍集団『暦』長月のR.O.Oの姿。現実と変わらず口と態度が悪い関西弁の忍だが根は善良かつ真面目で常識人。
  高命中による【怒り】の付与を行い、高回避で避けるいわゆる【回避盾】。
  小型手裏剣による手数の多さも売り。反対に耐久面や体力は低め。

 ・部下『大月 逢華』
  忍集団『暦』逢花さん(p3p008367)のR.O.Oの姿。現実と同じく神無月と共に行動中の八百万。
  医療班所属で有る為に回復支援が中心。

 ・部下 10名
  長月の連れている部下たち。白太郎の補佐及び攻撃を担っている様子。

●フィールドデータ
 高天京は高天京壱号映画館近く。高天京特務高等警察:月将七課の監視を行うために訪れた暦及び、お怒りの霊犬白太郎による敵襲クエストです。
 周辺一般人は存在せず、危険が無いことは渾天儀【星読幻灯機】でも確認されています。
 ただし、隠れやすい場所が存在し地の利は暦たちにあります。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、その代償は謎に包まれています。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

 それでは、侵食を食い止めるために。
 頑張って行ってらっしゃい!

  • <月没>陽出流ノ震完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月14日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヨハンナ(p3x000394)
アガットの赤を求め
ハウメア(p3x001981)
恋焔
タイム(p3x007854)
希望の穿光
陽炎(p3x007949)
影絵舞台
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
星羅(p3x008330)
誰が為の器
雛菊(p3x008367)
『自分』殺し
名も無き泥の詩人(p3x008376)
■■■
エイラ(p3x008595)
水底に揺蕩う月の花
Λ(p3x008609)
希望の穿光

リプレイ


 諦星15年。霞帝の治政は、神々の加護を受け安泰の世であった。
 急成長した国の在り方は早くに邂逅した航海(セイラー)より伝播した文化によるものも多い。
 輝かんばかりの治政。神格による急成長にこの国は目も瞠るほどの強豪になるだろうと言伝えられ――

「『神格による侵食』か」
 さて、と呟いたのは『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)。ヨハンナにとっても知らぬ国ではない神威神楽のR.O.O『ネクスト』世界の在り方は大きく違っていた。何処か安穏たる空気さえも感じさせた古めかしい生活様式が一転した近代のかほり。急成長を経たヒイズルはソレだけならば愉快なイベントでしか無かっただろう。
 だが、事態はそうも簡単ではない。ヒイズルが安定した治政を収めて急成長する一方で、存在し得ないはずの神格が希望ヶ浜の神々と交わった。ソレはバグの如く、互いに交わる事の無かったピースが上手く当てはまり仮想世界が現実世界に沁み出した。それこそが『侵食』――『架空』と『仮想』の交わる時である。
「……なかなか厄介な事態になったものですね。向こうの『真性怪異』へは予防策こそ講じてきたとはいえ、それもいつまで効果があるのか……
 今はまだ直接手を出す事が出来ない以上、このイベントを通して機会を窺うしかないですね」
 肩を竦めた ​ハウメア(p3x001981)にヨハンナも頷いた。神々より発された強き光。本来ならば国の許容範囲となるはずのそれが、交わる事で強大に膨れ上がった――故に、現実世界まで喰らい尽すというならば。
「現実まで影響を受けるのは、捨て置けねぇなァ。闇を以て光を討つ……良いじゃねぇか、乗ってやるよ」
 夜妖の力であるはずの、その闇に身を委ねるのも悪くはない。それが『仮想』で出来る唯一の対抗策だ。
 対抗するならば『対抗される勢力』も存在しているのは仕方が無い。クエスト『陽出流ノ震』のクリアで侵食を打ち止めるが為に地点へと訪れた『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は驚愕したようにまじまじとそれを見張った。
 真白のふわふわとした毛並みに焔の気配を纏った犬。ベネディクトがそれを見紛う筈が無い。
「……驚いた、まさかポメ太郎もNPCとしてこの世界に存在しているとはな」
「えつ!?」
 ベネディクトの言葉に目を剥いたのは『月将』タイム(p3x007854)であった。ポメ太郎と言えばベネディクトのファミリアー兼飼い犬のポメラニアンではなかっただろうか。あの小さくてふわふわで食いしん坊の犬がヒイズルでは巨大な霊犬となって此方に立ちはだかるというのか。
「ベネディクトさん、あれポメ太郎!? 違うの?」
「いや、あれはポメ太郎だ。……何時もよりでかくて真面目そうだが、ポメ太郎だ」
「白太郎です! 白太郎という立派な名前があるのです!」
 尾をぶんぶんと振って抗議する白太郎の背後から「……白薬叉、どうぞ落ち着いて下さい」と穏やかに声を掛けたのは諦星の世に暗躍する霞帝のお庭番衆――『暦』の名で知られた忍集団の一人、神無月である。
 そのかんばせを眺めた『No.01』陽炎(p3x007949)が神無月と小さな声音で呟いた。陽炎の側で息を飲んだのは『恵まれている』雛菊(p3x008367)である。「おにいちゃん」と呟いた雛菊は直ぐに『演じるように』頭を振って。
「ちょっと取り乱してしまったわね、ごめんなさい。きっちり仕事はするから安心して頂戴」
「取り乱しても仕方がありませんでしょう。まさか……彼らが敵として立ちはだかるとは些かやりづらいですね」
 陽炎と雛菊の躊躇いを知る由も無く、神無月の後方には長月が降り立った。その背後では逢華が敵影の存在を視認して悔しげに眉を寄せている。
(戦いたくないって気配かしら? ええ、そうでしょうね。大切な『お兄ちゃん』が傷付くかも知れないものね)
 雛菊は『逢華』の思考が手に取るように理解出来ていた。ソレは勿論、自身であるからというのもあるが――その表情は雄弁すぎるようにも思えたのだ。自分よりも、仮想世界の彼女は随分と甘やかされて愛されて育ったようにも見えて仕方が無い。
「内輪揉めしてる暇もあれへんで。奴さんは『暦』を知ってる見たいやから。なあ?」
 問い掛けるように声を投げかけた長月に星羅(p3x008330)は舌を打つ。
『長月先生』の。『神無月先生』の。『逢華』の。其々の顔をした敵がいる。ならば、現実世界をしる星羅が行う事など単純では内科。
 ――三人を『ちゃんと』傷付けること。同じ顔をしているから何だというのか。偽物であることは変わりない。
 師走の弟子として可愛がってくれる長月と神無月の瞳も、幼い鈴鳴るような愛らしい逢華の声も。
「……そっくりだけれど。私の家族は、お前達ではないわ」
 三人の様子を眺めて、タイムは「えっ!?」ともう一度驚いた様に目を瞠った。
「それに鬼灯さんの知り合いも!? 現実じゃないといっても見知った人達が敵として現れるなんてやりにくいなあ……!」
 彼女達の仲間を、家族を傷付ける事を厭うようにタイムはうう、と呟いた。だが、ソレだけ悠長に事を構えられるのは『あちら』を知っているが故だ。奇襲に備えるスキルは多く持ち合わせている。
 陽炎は言った。二人の『部下』に告げるように。――敵となった彼らと闘えるなど現実では決して体験できません。
「……戦闘アンドロイド、陽炎起動致します。そして――此方の暦の実力、存分に見せて頂きましょう!!」


「成程、成程……出る杭は打たれるってやつかな?
 でもね……出すぎた杭は打たれないとも言うからね~敢えて言うけど其方も覚悟はOK?」
 基本方針は敵戦力を削って撤退に追い込む。そう掲げる​『汎用人型機動兵器』Λ(p3x008609)は魔導装甲に身を包む。彼等は本来の敵ではない――ヒイズルという此の地では何方が『逆賊』であるかは分かりきっている。
「勝てば官軍ともいうけど、そうも行かないのが歯痒いけどね。
 ……とはいえ此方も其れなりに本気を見せなければ向こうも退く状況にはならないことは明白……ギリギリのライン見極めが大切だね」
 R.O.Oでは此方が死亡すれども『復活』は可能だ。サクラメントは丁度クエストの近くにも見える。だが、NPCはそうも行くまい。
 見極めると決めるΛの側でぷかりと浮上がっていた『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)も頷いた。
「できる限りぃ命を奪わないんだよぉ。
 まだ侵食されてない方々にぃエイラたちがぁ積極的に敵対したいわけではないのぉ感じてもらえるならぁ無駄じゃないかもだしねぇ」
 侵食によって、その信仰心が高められているならば――エイラ達『されていない側』が助けの手を伸ばすのは何ら間違いは無い。
 敵対したいわけではない。そもそも、天香 遮那とて国家転覆を狙ったわけではない。彼とイレギュラーズの『意見』が合致したのは確かだが、其れ等が手を組んでヒイズルを暗澹たる夜に浸らせたいと願うわけではない。
「それにねぇ、主のためを想い命をかけて果てるのなら、本望かもだけぉ。
 ……その主の心が、別の誰かに侵食されたものであり、そのことに気付きもせずに死ぬというのは、無念だろうから」
 そう――彼らの主上。霞帝と呼ばれた天子やその側付きである天香長胤や建葉晴明とてこの世界では神に心を侵食されている。
 この国では神の化身とされている統治者である。霞帝は数ある神霊と心を通わすことが出来ているらしい。ならば――『侵食の火胤』とも声を、言葉を交すことが出来ていると考えられよう。それらの指示であれば、暦は遮那の命を奪う事も、イレギュラーズを人知れず討つ事も厭わないだろう。
 リスポーン地点を確認した『■■■』名も無き泥の詩人(p3x008376)はやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「万事うらぶれるは世の常なれど、それが人事を尽くした末に歪んだ天命が落としたものであるならば、そんな神を気取る何者かの掌の上に収まる物語なんてものは俺にとって猿の見る夢と変わらん。物語は施されるものではない、人が紡ぐものだ」
 ふるさとは遠きに有りて――さて、その様に歌い尽すよりも先に、お庭番衆は此方の命を奪う事を狙うだろうか。
 ならば、と挨拶代わりに名も無き泥の詩人は、その名を『仮の名としてマッダラーと呼ぶとして』、自身に設定されていたアクティブスキルを打ち込んだ。
「話相手になってもらえるかな」
 煌めく四大水晶が紅に、蒼に、金に翠にと色味を変えて。きらりと舞い往かん。マッダラーの挨拶に「お兄ちゃん、来たよ!」と鋭い声を上げたのは大月逢華。
「ええ、逢華は下がっていてください。良いですね、此度の戦は支えるが肝要――誰一人として命を落とす事が無きように」
「はい!」
 実に澄んだ挨拶であると雛菊は囁いた。その目で見た神無月は現実とは変わらない。少しばかり『色眼鏡』が入っているかと言われれば走かも知れないが――大凡知っている彼は技術は然る事ながら知恵にも長けている。集団戦闘の中から排除したい一人だ。
「……私はともかく神無月兄様とは戦いたくはないわね。技術もさることながら、頭もキレるし、敵に回したくなかったタイプなのよねぇ。まぁこちらの霜月兄様が来てないだけましか」
 長距離からの援護が必要か。矢にはハッキングプログラムを仕込んである。長月の部下達を狙うように息を潜める。大事なのは一撃で『当て』て置くことだ。雛菊の『本命』は彼等ではない。自分と、神無月。その二人だ。地の利は彼等にあるのは確かだ。だが『クエストがノーマル難易度』と示したならばそれに随い戦闘を行うだけである。
「下がっている。それを是とするのか? よく知らなくともその関係性は一目で理解出来ように。
 お前の師は仲間が傷付いているのに見ているだけか。癒し手というものは後方で『傷付く』仲間を支えるだけ。傍観者だろうに」
 星羅は酷く醒めた声音でそう言った。心理戦を仕掛けるならば逢華がいい。それは、現実で彼女を知るが故であった。
 と、言えども神無月を罵倒することなどしたくはない。四の五の言っては居られない。尽す言葉多く、そして仮面をかぶった心はかんばせなど見せることはない。
 嗚呼、けれど。星羅は気にしていた。
 先生と呼んだ彼等がいる。だと言うのに。『私』はどこにいるというのか。
「……お兄ちゃん、あの人……」
 ――顔を出せ、尻尾を出せ、怒れ、動揺しろ、私が顔を晒しているのは、敵(おまえ)の隙を見逃さないため。
 逢華が不安げな顔をした。その顔に心が痛まぬ訳ではない。
 混沌では盾だ。剣たるあの人の側で盾としてその身を犠牲とする覚悟は疾うに出来ていた。だが、今回ばかりは剣である。
 その顔に困惑する逢華や暦に、『其の儘の自分でよかった』と安堵を覚えるのは確かだ。
「……そうですね。貴女の名は『せら』ではないですか? どうにも厭らしい。
 叛逆者は我らが友人の――主上が手にしている『聖鞘』のかんばせまで借りるというのですか」
 神無月は酷く冷ややかな声音でそう言った。星羅の瞳が僅かに見開かれる。だが、動揺している暇はない。
「余所見はあかんやろ?」
 勢いよく飛び込んできた長月に気付いたか陽炎の影がぐんと伸び上がった。無数の影鎖がその行く手を阻まんと伸び上がって絡み付く。
「影の触手はお嫌いですか? 長月様」
「触手好きな奴おるか?」
 戦闘時には似合わぬテンポで。そう笑った長月の言葉に陽炎の脳内に過ったのは――

『師走! ……えっ、なんかすっごい慣れてる感出てるんだが? えっ、なに?』
『実は……』
『51番目の元カノが身体からぬめぬめ粘液出してたから慣れてる?? えっ、貴殿の元カノ遍歴どうなってんの?』

 ――現実世界で与太(あそ)んだ海での記憶であった。りりちゃんの事を思い出せばアンドロイドも思わず破顔しそうになるのであった。


「だが、我々にも果たさねばならぬ目的がある。この騒動とてこれから始まる諍いの始まりに過ぎんだろう。
 故に、この世界のお前達がどれだけの力を持ち得ているのか……この刃にて確かめさせて貰う!」
「はい!!!!」
 ベネディクトの口上に尾っぽをぶんぶんと振ったポメ太郎が突進しながら返事をした。良すぎる返事にタイムが吹きだしたが仕方在るまい。犬は何処まで行っても犬だった。だが、犬だと侮ること勿れ。
「どう見てもポメ太郎なンだがなァ。手強いわ、ありゃ」
 非戦闘スキルが封じられたとヨハンナは肩を竦めた。五感を共有して居た筈の蝙蝠との連絡が途絶えた。『ぶつん』と途切れた感覚を覚えさせられれば行動のキャンセルで手が一つ減ったという何とも言えない喪失感を覚える。
「僕には立派な白薬叉大将という名前があるほどですから! 簡単には負けません!
 瑞様のお邪魔をする駄目な人たちはがぶっといって、わんしますよ!!」
 尾をぶんぶんとぶん回してお怒りの白薬叉大将――白太郎から眩い紅色の光が飛び出した。焔の如くベネディクトへと迫るそれには構っては居られない。
 白太郎の炎に気を取られたイレギュラーズを狙おうと何ものかが此方を眺めて居るのだ。達士を駆使しベネディクトは周囲を探る。野生の勘は敵の位置を把握し続ける。此方を狙っている気配を感じながら長月の下へと飛び込み自らの腕に竜の力を宿して、オーラで穿つ。竜の一撃が如く鋭さに長月は「やるやん」と楽しげに声音を弾ませた。
「ベネディクト様、何人を察知されましたか?」
「3だ」
「……同じ意見で御座います。それで隠れたおつもりでございますか? 帝の懐刀が聞いて呆れますね」
 嘆息する陽炎は隠れ場所が多く忍とって利があるこの場所では奇襲を行おうと姿を隠す者が増えていることに気付く。
 敵対心を探れば、その数は明確だ。悔しげに姿を現した忍と共に白太郎が勢いよく飛び込もうとし――
「よーし、わたしが相手よ、おいで!」
 おいでおいでと微笑んだタイム。ポメ太郎、ではなく、『はくたろー』を放置しておく訳にはいくまい。それならば、犬の相手は慣れていると言わんばかりに必殺の格闘術で呼び寄せた。
 行動がキャンセルされる可能性がない。それは翻って言えば、タイムが白太郎の相手に似合っているという事だ。コマンド入力、そして鋭くぱんち。
 続き、コマンド入力。すごいぱんち。殺さずに撤退して欲しい為、後半は見せることの亡くなる凄いぱんちを勢いよく放ち続ける。
「どうして邪魔するんですか!」
 ぷんぷんとお怒りの白太郎。そんな姿も愛らしく思えてしまってついついタイムは笑みを浮かべた。
「そんなに怒らないで、とっても強い『白狼』さん」
「えっ……えへへ、そうです。僕はとってもつよい『白狼』で……って違うんですよ! 僕は瑞様のお邪魔をする皆さんをめっってしなくっちゃ、あ、でも、白狼として凄いのは本当で、えへへ……」
 元々がポメ太郎で有る以上、なんとなくチョロい気配を感じてタイムはふふ、と小さく笑うのだった。
 可愛らしい犬とタイムの戯れを眺めながらハウメアは的の密集地帯に奈落の紫焔の魔矢を降らせ続けた。燎原焼き尽くす火の如し。
 後衛で見定める以上は陽炎やベネディクトが危惧した『奇襲』にも対応できるだろう。
「どうしようもない位に物陰が多いのは『そうした場所を狙った』と見るのが良さそうですね。
 忍で有る以上、忍んで此方の様子を確認しているとでも――」
 そう囁くハウメアの声にエイラは「かくれんぼがぁ得意なのかもぉ」とふんわりと微笑んだ。風に乗って彷徨うくらげ型の火の玉を追いかけて、ちくりと冴えた海月の毒を身に纏って居たエイラはアイギス・オリジンを手に神無月の下へと接敵する。
「お兄ちゃん!」
「大丈夫です。良いですか、サポートを忘れるべからず」
 堂々とエイラを受け止めた神無月。回復役である彼らを巻き込み、くらげの炎が揺らいでいる。できるだけ早く、行動を制限しておきたい。
「うん、エイラもぉ、回避盾だからぁ。戦い方やぁされたらやなことはぁ分かるんだよぉ?」
 そんな風に嘯いて『暦』の面々の意識を向けさせたかった。エイラを先に落す事を狙ってくれさえすれば味方を守りやすい。
 だが、彼等は『長月』という身近な例が居るためにエイラを敢て狙わぬ選択肢をとったのだろうか。
「成程、中々頭が冴えている」
 そんな風に笑ったΛにエイラは「もぉ~」と拗ねたように呟いた。
 Λの至近距離に、隙有りとでも言うように長月が飛び込んだ。刹那、「殺気が鈍いぞお庭番衆」と囁いたのはマッダラー。
 アクティブスキルに敢て名を与える事はない。攻撃は所詮は攻撃。歌い上げたならばそこに大きな違いは無く。
 特務高等警察手帳を手に、戦いを挑んでくる『叛逆者』を彼等はどの様な目で見ているのだろうか。
 ベネディクトはタイムに向かって突進する白太郎をちらりと見遣った。
「聞いても?」
「僕ですか!?」
「……いや、忍の皆にだ」
 肩の力が抜けるほどの朗らかさを有しているところが矢張りポメ太郎の此方での姿だという事か。
 ベネディクトの問い掛けに神無月は「何でしょう」と低く返した。
「豊底の姫、とやらについてだ」
 ぴくり、と神無月の指先が揺れ動く。神主で在ると言う彼はベネディクトの問いに警戒をしたのだろう。
「俺達はその姫とやらの事を見た事も無い。情報を得られるならそれに越した事は無いのだ。
 どの様な性格なのか、どの様な事をこの世界で為しているのか。彼らから見てどの様に思われているのか――俺達はソレを知らぬままこの戦乱に巻き込まれている」
「……何も知らぬ儘とはよく申したもの。主神はこの国を作り上げた、最も尊きお方。
 害し、そして傷付けんとする天香の養い子に力を貸したのは皆様方ではありませんか――!」
 酷く感情的な言葉であった。神無月らしからぬと陽炎が感じたのは違いない。何処か心酔した様子で神無月は声を張り上げる。
「彼のお方を愚弄するなど天の罰さえも生温く――この国の尊き神を愚弄しているならば、命脈動することさえ許して置けぬでしょう」
 ベネディクトは話にならないか、と感じた。実体のない女神。それに心酔する人々は――果たして彼だけではあるまい。


「神主でありながら、神無月でございますか。面白い」
 神無月は聡い。故に、彼に撤退を促すのが一番だ。だが、それでは『引かない』か。
 どうやら此方の出方をしっかりと最後まで見極めたいかのようである。
 星羅から放ったテレパスが『無為』になる。白太郎のキャンセルが働いたのだろう。だが、それも『ハッタリ』である。
「中々どうして……しぶといのですね」
「えらいですから!」
 ハウメアの呟きに白太郎が自慢げに尾をぶんぶんと振り続ける。タイムが倒されれば、ヨハンナとハウメアはそのカバーに。そして、戦線復帰したタイムが「ひどい!」と怒れば自慢げに白太郎がもふもふとした胸毛をアピールするまでが一連の流れである。
「これ以上やりあうのはお互い得じゃないと思うの」
 余裕を見せ付ける。幾重でも戦線復帰をする神使と比べれば、彼等の消耗も激しいだろう。
「そうですよ。これ以上は無意味です。……それとも他に何か目的が?」
「僕ですか!?」
「いえ、忍びの方に聞いてます」
 理知的な会話は神無月と行うが良いだろう。白太郎が会話には介入してくるが余りに不向きだ。
 ハウメアが首を振れば白太郎は「ええー」と拗ねたように尾をしょんぼりとさせてタイムへと体当たりをした。
「ふぎゃっ!?」
「……案外、鋭いんだよな、その体当たり……」
 どうにもこうにも、と呟いたヨハンナにΛは「犬ながら天晴れだよね」と囁いた。
「犬を褒めている場合でもないのですが――ええ、『仮想の世界のもう一人』はこうも違うか」
 マッダラーの言葉に居心地の悪くなる飼い主ベネディクトが嬉しいやら困ったやらで肩を竦めた。
「んん~。でも、そろそろこっちも追い詰められてるのかなぁ。
 消耗戦ってあんまりしたくないよねぇ。『むこう』にも目的があるなら、早く知りたいけどぉ……」
「目的――んー、情報収集よね。何が知りたいの? 遮那さんの居場所?
 そんなの、お庭番衆ならとっくに掴んでると思うけど。それとも、神使のこと?」
 問うたタイムに神無月の肩がぴくりと揺れた。ハウメアは「そうですね」とちらりと視線を向ける。
「どうやら、遮那さんではなく『神使』についての情報収集が行いたかった様子に見えます」
「……あと、犬の散歩か?」
 揶揄うように笑ったヨハンナは元気良さそうに走り回っている白太郎に視線を送っていた。
 ふんふんと鼻を鳴らして走り回るその小さな犬はマッダラーやエイラの目で見ても『元気が有り余っている』
 それが神霊の眷属なのだ。主神と呼ばれている豊底が愚弄されたと黄泉津瑞神が悲しんでいるならば、勿論こうして走り回ってギャンギャンと吼えたいという事か。
「だが――そろそろ、こっちもキビしいな」
 そうヨハンナは呟いた。頷いたタイムは「はくたろー!」と呼び掛ける。手を伸ばし、闇を掴むように抱き込んだ。
「遮那さんも扱ったこの力、わたしだって使いこなせなきゃね……!」
 ざあ、と周囲の景色が色褪せたように感じた。タイムは恐ろしいその『感覚』の中でも息を吐く。
 正気さえ保っていれば、恐れることは何もない。ゲームであれど、身を包んだ恐怖は――リアルのものだ。
 大丈夫だと目を伏せる。黒き闇は濁流の如く肢体を包み込んでいった。
「仕方がないボクも魅せるとしよう……一応忠告はするけど……手加減できないから願わくば逃げてくれても良いんだよ?」
 息を吐いたΛが月閃を宣言する。その身に纏う夜妖の気配は遍く光をも打ち消すように広がった。
 その刹那に、神無月が「月(よる)の力を――」と呟く。
 小さく頷いたハウメアとて、黒き矢を生み出した。白太郎を野放しにはしていられまい。上空へと飛び上がった堕天使は、黒い羽をはらりと散らせ続ける。
「矢張り、主上の申していた事は本当であったのですね。ああ、なんと嘆かわしい……!」
 嘆かわしいとは如何した事か。だが、その『嘆いた理由』とは別に気がかりなことも無数にあった。
 マッダラーは夜妖をその身に纏い、偵察役として陣営を違えた位置居た逢華の体を抱え上げた。「え、」と声を上げたのは『どちら』か。
「この感覚は、まるで濁流だな」
 回復役を逃しておきたい。ならば――と逢華を狙えば神無月が攻込んだ。
 雛菊は羨ましい事だと息を吐く。マッダラーより逢華を受け取って、その心を揺さぶるように眺めている。
「ふふっ、やっぱり。ここを偵察に来るのは一番身軽で、こちらの兄様たちが一番傷ついてほしくない、カワイイ妹なあなたの仕事よね? あそこで優秀だった貴方がこれだと笑えて来るわね」
 雛菊と見つめ合って逢華は「どういう意味なの?」と睨め付けてくる。そのかんばせも幾分か大人びて見えたのは、R.O.Oでの経験の賜物か――だが、雛菊は『本来の彼女』を知っているとでも言うように目を細める。
「大月逢華……。良い名ね。でもそれはきっとあなたの名前じゃないでしょう?
 本名はコードネームのデイジー? 私と同じ雛菊? それとも、潜入名の瑠璃かしら? 貴方は愛しい人たちへあの過去を話したのかしら?」
 ひ、と。息を飲んだ逢華の表情が見る見るうちに蒼く染まり往く。驚愕に震えた彼女の動きが止る。
「虐めちゃだめです!」
 突進しようとするポメ太郎に気付き、嘆息したヨハンナは仕方ないと呟いた。
「――俺の命は他が為に。リスクは承知だ。だが、不幸な結末はこの俺が赦さねぇ。運命に介入する!!」
 運命をも諧謔する馬鹿らしい力。そう称するにはあまりにも『強すぎる』
 白太郎を受け止め、そして食い止めた。
「むう!」と頬をぎゅむりとさせて押し込もうとするその体を力を込めて受け止め続ける。
 ヨハンナはもふもふとしたソレから発された紅の気配が『光』であると気づき、神の化身たるものはこうしたところでも己等と相反するのだと感じていた。
「逢華」と呼ぶ神無月の声をも遮るように星羅がするりと滑り込んだ。
「おっと、無視せんといてや」
 笑う長月が星羅へと追い縋る。彼の前では分が悪い。幾らR.O.Oの世界に身を委ねようとも『決意』が鈍る。幾ら、心に仮面を据えようとも――腕が震えてくる。
 ならば、と夜妖の力をその身に手繰り寄せた。表情など、こころなど、そこには必要ないとでも言うように。
「――先生。師走先生に宜しくお伝えくださいな」
 せせら笑った。貴方の愛弟子は強くなっていると。そう伝えて欲しいと。
 役目は倒すことではない。
 誰かが、力を手繰り寄せて彼により鋭い一撃を叩き付ける。
 煌めく火花が、瞬く閃光が、弾ける。疾風の如く、長月を逃しやしない。
「――なっ!?」
 頭領とは呼ばなかった。
「正直な話、使いたくはありませんでした」
 呼ばずとも、彼は此方に気付いている。アンドロイドのその姿に影の触手が生えた。
 Dangerous! の文字が浮かんだパネルがぐるりと周り危険性を示唆している。
 一時的に身体能力が飛躍する。その感覚が濁流のように押し寄せた。自身が育てた暦だ。故に、其れ等の実力は自分が一番分かっている。

「――さあ、空繰舞台の幕を上げようか」

 囁く声に合わさるようにベネディクトも長月を狙った。食い止めたその体を弾き飛ばす。
 龍の咆哮の如く響かせたのは鋭き気配であった。
「ざまあみろ」
 星羅の残した言葉に、長月はくそと呻く。茫然と座り込んだ逢華に雛菊はわざとらしく笑って、そう言った。

「――所詮裏切者。あなたはそこにいてほんとにいいの?」


 茫然と立ち竦んだ少女を担ぎ上げるように神無月が後退を促した。倒れ伏した部下は一先ず『後程に回収』するのだろう。
 苛立ったような長月を半ば無理矢理と言った調子で撤退するその背後をぽてぽてと白太郎が走ってついて行く。
「待って下さい!」と慌てるその背中はどうにも、力が抜けてしまう感覚がした。
「索敵は十分でしょう。これ以上の消耗は暦に、帝にとって痛手ではありませんか?」
 そう囁けば、側より何かが飛び立つ音がした。陽炎はその影を一瞥してから目を伏せる。
 霞帝は此方の出方を確認したかったのだろうか。クエストクリアのBGMが聞こえ、クエストが終了した事を確認してから後方を一瞥する。
「……お疲れ様です」
 其処に立っていたのは月ヶ瀬 庚であった。彼は困り顔で一連の流れを眺めて居たに違いは無い。
「ああ、お疲れ様。何か、分かることがあっただろうか?」
 庚は「どうにも、豊底比女の影響は強大に思えます。霞帝もそうですが、皆さんが心酔しているように思えて仕方が無い」と。
「……ああ、そうだろうな。歪められている。これではまるで、洗脳だ」
 ベネディクトが肩を竦めれば庚は大きく頷いた。
 だが、それ以上に――此度、身に付けた夜妖の力は『飲まれてしまいそう』な程であった。
「今回はこれで済んだけど、次はどうかな……ゲームの影響で現実のみんなの人格が変わってくるなんてこと、ないよね? ね?」
 問うたタイムにヨハンナも気がかりだと呟く。そうだ、遮那が容易に使いこなして見せている月閃――その代償とは何か。
「……俺が気になるのは、月閃の代償だ。巨大な力には重い代償が付き物だからな。俺の右半身の術式もそうだ。
 それが『可視化』されてないのも問題だ。ゲームの説明文章にはコマンドの他にヌケがあっても仕方ない、だが――」
 その代償がゲームにのみ影響を及ぼさなければ?
 ハウメアは「どのような代償があるのかは分かりませんが、それも含めて身をもって知っておく必要はある筈だと使いましたが……あまり、分かりませんでしたね」と呟いた。
 リスクがなく、これではないだろう。何らかのリスクがそこに生じているのは確かなはずだ。
 ベネディクトは「さて、今回はこの『力』で退けれたが――願わくば、次は戦場で出会いたくはないものだな」と小さな声で呟いて。
「……これからも見知った人達が敵として現れるんだろうね……神逐なかなかに難儀なことになりそうだよ」
 嘆息するΛが見上げれば皓々たる月が先程よりも覗いた気がしている。晴れた空に浮かんだ虚無の穴。月のかたち。
 その姿が変じたのは何故なのか――まだ、知る由も無く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヨハンナ(p3x000394)[死亡]
アガットの赤を求め
タイム(p3x007854)[死亡×2]
希望の穿光
陽炎(p3x007949)[死亡]
影絵舞台
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)[死亡]
災禍の竜血
雛菊(p3x008367)[死亡]
『自分』殺し
Λ(p3x008609)[死亡]
希望の穿光

あとがき

 お疲れ様でした。
 侵食度、怖いですねえ……。

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