シナリオ詳細
あーっ! コテージにあの虫がぁーっ!
オープニング
●海辺のヴァカンス
暦の上では既に真夏を過ぎておれども、鉄帝人にとっての海洋の陽光は、今なお真夏と変わらず眩しく映る。
繰り返し打ち寄せる波の音。時折聞こえる海鳥の声。同じ大自然の恵みを愛する者として互いを認めあえればと『閃電の勇者』ヨハン=レーム(p3p001117)が嘆くのは、不凍港を求めて南下政策を取る祖国とそれに対抗するこの国の間に、幾度となく血塗られた歴史が築き上げられてきたからだろう――今彼らのいる風光明媚なグレイス・ヌレの島々の沖にも、三たびもの海戦の犠牲者たちが眠っている。
「『絶望の青』――いえ、今は『静寂の青』でしたか――を廻ってのぎこちない共闘関係が、このまま確かなものになればいいのですが」
「今からこのビーチは私が領有権を主張しますわーーーー!!!!!」
強い日差しとパラソルが作る色濃い日陰の中でヨハンが願った平和は、けれども今ひとりの過激派―― 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の目論見により、脆くも崩れ去るかもしれなかった。
「ご覧なさいまし! ほら、綺麗な魚が泳いでましたわ? きっと……この辺のお酒とよく合うツマミになるに違いありませんわー!」
「確かに、アワモリとかいうのを用立てはしたけどさ」
それを不安そうに眺める『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。近所でワンセット買って今日の宿泊施設である貸しコテージに運んでおいたのは、この中で最も力に長けた彼の役割だった。なんでこの場に持ってこなかったのかって? だって、そんなことしてしまったら……絶対、泥酔して海に入って溺れるやつがいるから……あ。突然現れた巨大肉食魚がヴァレーリヤに飛び掛かろうとしてる。
イグナートが力試しがてら巨大魚を仕留めて振り向いたなら、ヴァレーリヤはそろそろ辛抱堪らず、浜辺をコテージに向けて駆け出していた。
「あの。僕、もう少しゆっくりしてたいんですが」
精一杯の抗議も叶わず引きずられてゆくヨハン。仕方なく、イグナートもそれを追い、そこで彼が聞いたのは……。
●グレイスヌレナイトメアゴキブリ
「「で、出ました(わ)~~~!?!?」」
慌ててイグナートが駆け寄れば、そこにいたのは、しおらしく怯える二人の姿だった。
何が起こったのかはよくわからない。ただ、あまりに動転しているのでどうにか宥めて理由を聞いたなら……。
「コココ、コテージの中に、ゴゴゴ、ゴキブリが!」
「いやーっヨハン! その名前を口に出さないでくださいまし!?」
厳しい冬が幸いし、鉄帝ではあまり見かけることのない虫、G。ゆえに多くの鉄帝人は、初めて見た時の反応は「ぎゃっ、想像以上にキモい!」か「へぇ、これが噂のGなのか」という正反対のものになることだろう。
事実、二人の反応は前者だったわけだ。だが……冷静に考えればおかしくはないか? 鉄帝生まれの割に繊細なヨハンならともかく、ヴァレーリヤが虫けらに負けて酒の入手を断念するだって?
直後、コテージ内からガサゴソという音が聞こえて来、イグナート自身も身の毛のよだつ感覚に襲われるのだった。
このコテージには、何かヤバい虫がいる。
そしてその虫を排除しなければ、3人は、酒はともかく今日の寝床にも困る!
助けて、特異運命座標! どうにかしてあの虫を追い出して!!
- あーっ! コテージにあの虫がぁーっ!完了
- GM名るう
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年09月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●惨劇のはじまり
「何か、何かいたのですよぉぉぉぉぉーー!!?」
どこからこんな大声を出したのかという『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の囀りが辺りの鳥たちを驚かせたのは、すっかり落ちるのが早くなった太陽が西の空に向けて駆け降りはじめた頃のことだった。
一瞬にして周囲に走った緊張の正体を掴めずに、「みなさん何をそんなに怖がってるのですよー? ほら、せっかくのバカンスでして!」などと皆を鼓舞しながら無防備にコテージ内を覗いてしまった少し前の自分が呪わしい。
その黒く小さな存在は、この世にあってはならぬ存在であった。
まるで全ての恐怖、不安、絶望を凝り固めたかのような圧倒的な存在感。決して関わってはならぬという直感だけが、生物を本能的に支配する。
無理無理無理無理、と『憎悪の澱』アクア・フィーリス(p3p006784)の後ろに隠れようとしたならば、アクアもルシアにしがみつき、決して今の位置から離れまいという頑なな態度でルシアが後ろに回ることを許さなかった。恐らくは、彼女の淀んだ心も揺さぶられ、助かりたいという願いを思い出したのであろう……とはいえその願いを果たす方法に、アクアは思い至れぬのであるが。
もっとも、そんな方法があったなら、とうの昔に『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)がどうにかしたはずなのだけど。今、何が出たんですって? 奴らと関わる度に碌でもない目に遭った記憶が、利香の手の中の魔剣に雷を纏わせる。今は人間形態にもかかわらず、苛立ちゆえ淫魔形態の時の口汚い本性の口調しか出てこない。金輪際奴らを見たくない、聞きたくない……滅殺の意思を固めた彼女の研ぎ澄まされた感覚が敵の幽かな足音を捉え……。
「ひいいいいっ!?」
コテージの中から放たれるプレッシャーたるや、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がこれまで相対してきた強敵を全て束ねたかのようだった。
「これがウワサのGなのか! ちなみにコレは食べられる系のムシなの? 違うタイプ?」
軽口なのか本気なのか定かでない台詞を口にしてみるも、うちひしがれる『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)を救うことは叶わない。
「うっうっ、まさか宿泊費が他より1ケタ安いだけの宿にこんな秘密があっただなんて……」
「どう考えてもそのせいであります」
ヴァレーリヤが嘆きを口にしたならば、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が冷ややかな目を向けた。が……直後コテージ内から羽音が響き、慄然たる感覚がエッダを襲う!
「冷や汗というか、この、背筋におぞぞぞっと走る生理的不快感は何でありますかこれ……」
「ふぅ……皆さん騒ぎすぎっスよー、Gとはいえ命という視点で見れば私たちと平ど……」
害も為さないのに嫌う必要もないと、騒がしい面々を眺めて聖女っぽいことを言おうとした『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)まで白目を剥く始末。
「……うわ、想像の300倍ぐらいきっしょいの出てきた」
うん。速やかに人間様の領域から消し去りましょう。美咲が拳を握ればヴァレーリヤも、力を合わせて難局を乗り越えるべしと説く。
「そうだそうだ!」
『閃電の勇者』ヨハン=レーム(p3p001117)が呼応する。
「でも異国の地で鉄騎種が出しゃばっても碌なことにはならないだろう! ならない! 今そう決めたちなみにヴァレーリヤ君及びエッダ君は例外だ! だからこの場は君たちが……」
「ヨハンも手伝いなさいまし!?」
●この世の地獄
醜い押しつけ合いが始まっていた。
貴重な男手として加勢したいのは山々なのだ――ヨハンが迫真の演技で涙を流してみせる。ああ、ここが海洋でさえなかったならば! ……いいや、仮に外交やら何やらの問題はクリアできるのだと仮定しても、もしも自分が立派な前衛型でさえあったなら!
「雨宮利香くん! きみの鉄壁の守備ならマヤコフスカヤのお嬢さんと良い連携が取れるはずさ!
雨宮利香くん! その鍛え抜かれた技術で奴を討ち取ってくれたまえ!」
「なんでオールドワンが半分いて私が盾役やる話になってんのよぉぉぉぉ!?!?!? あんたら王都の8割のGに群がられた事あるの!? ないでしょ! こういうのは持ち回りなの私はやらないの!」
爽やかな笑顔で押し出そうとするヨハンを利香は断固拒否。しかし、逃れようにも逃げる先には、決して逃げられぬよう首から足首までをロープで縛り上げた『俗物シスター』シスター・テレジア(p3n000102)を構えたヴァレーリヤがいる!
「ええい観念なさい! 盾役は皆を守るものと相場が決まっていますのよ!」
だがそんなヴァレーリヤの背へと……ひとつの影が忍び寄るのだ。
「何でこんな建物にしたのかな? 選んだ人、誰?」
Gに輪をかけてぞっとするような、昏い声。声は、そっかー、と不気味な猫なで声を作って、囁くようにヴァレーリヤとテレジアの名を呼んでいる。
大きく吸い込む息の音。アクアが壊れた心を繋ぐ唯一の魂――憎悪と復讐の力を解放させる。
「テメェらが責任取れよオラァ!」
全力で叩き込まれる憤怒の術式! たたらを踏んでこれ以上の敵への接近を拒まんとする元凶を……しかしエッダが手を引きバランスを崩させる!
「ハイ・ルールには従うであります!!」
「大丈夫っス! 仮にGが襲ってきても、反応の高い私と連鎖行動すれば逃げられるっスから!」
ヴァレーリヤと自己犠牲の精神を発揮して彼女をコテージに放り込んだエッダを尻目に、美咲が脱兎の如くコテージから距離を取り高みの見物を目論んでいると……唐突にそのぽっちゃりボディが何者かによって急制動させられた。
「誰っスか私の機動力8に追いついて来たのは」
「あんなの、怖くて気持ち悪くて無理でして! みなさんでどうにかしないと退治できないのですよー!?」
かくして必死にしがみつくルシアの献身により、美咲までコテージ送りの刑に処される始末なのだった。今、冷静でありつづけることができているのは、おそらくはイグナートだけであったことだろう。
(この感覚、このアタリに棲むグレイスヌレナイトメアゴキブリのシワザかな)
目を閉じて、深く息を吸う。
(気配がヤバイだけで本当は素早いだけのムシなんだから、心の眼を見開いて気配を捉えれば……!)
……ぽとっ。
カサカサ。
「ナニかが……頭に降ってきた……? ミンナ、ちょっと取ってくれないかな!?」
「ひょおおお!? い、今なら他の部屋は安全だという証拠ですわ!!!」
エッダをイグナートのほうへと突き飛ばし、ヴァレーリヤが脱兎の如く部屋から出ていった。続いて……バタン!
「逃がすかっ……痛ぁっ!?」
扉を閉めさせじと美咲が挟んだ腕を、勢いよく扉を閉じたヴァレーリヤは気にした素振りすら見せしない!
「一人ぼっちはょくなぃって……美咲ゎ……ぉもって……がんばった……」
挟まれた腕が段々と青くなり、美咲の瞳が焦点を失う。
「美咲とヴァレは……ズッ友だょ……!」
うわ言のように呟きつづける美咲。ああ、彼女はなんと酷い仕打ちをするのであろう? ねえヴィーシャ、嘘ですよね? 不安げに呼びかけるエッダに対し、彼女は……。
「貴女たちのことは忘れませんわ……ほろり」
「いやあーーーーー!!!」
エッダ怒りの扉への突進が、扉に辛うじて僅かな隙間を作った。ようやく、美咲は腕を引き抜けど、ヴァレーリヤの裏切りが彼女に与えた心の傷は大きい。
「ダンボールはいい……路上生活(※任務で)をしていた時もその暖かさで私を包んでくれました……」
隙間風吹き込む壁に段ボールを貼り保温。しかし。
「……待つであります。あの油虫風情を部屋から追い出してから目張りすれば、むしろこの部屋ばかりが安全になるのでは?」
素晴らしい事実に気付いてしまったエッダ。Gを誰がどのようにして部屋から追い出すのかさえ解決できればそれは完璧な作戦だったが……、
「あれっ? 『ナニか』がどこかに行った?」
首を傾げたイグナートの悲鳴が次の瞬間コテージ内に響いた。
「あっ! 襟から中に入って来た! ヤバイ! これヤバイって!!!」
考え込んでいたルシアがぱっと表情を明るく変えて、そしてすぐさま申し訳なさそうになり再び顔に希望を満ちさせて。
「はやく……イグナートさんがピンチなのですよ! たとえば食べ物を置いて服の外におびき出すとか……でも、それだと時間がかかってダメで……もっと早く倒すには……倒す? もうこんなコテージごと破式魔砲で吹き飛ばせば全部丸ごと解決でして?」
だからそんな彼女の脳裏から、イグナートは明後日の解決法を拭い去らねばならない!
「ジッサイのところ、ワナはいい手だから早く! Gはアルコールに惹かれるし、ほら、ちょうどあそこにアワモリが」
「そうね……あそこにはおつまみもあるし、仕掛ければきっと出てくるの……!」
だがアクアが早速行動に移ろうととしたその瞬間……あれほど固く閉ざされていた扉が勢いよく開き、何かが彼女へと絡みついて自由を奪った!
「お待ちなさい!? それだけは……それだけは承知しませんわよ!?!?」
「邪魔しないで……今はアレの退治に使うの、使わなきゃいけないからヴァレーリヤちゃん……!」
「ヴィーシャは自分が羽交い締めにしておくでありますさあ早く!」
……などとあまりにも進展しない状況に、利香の堪忍袋の緒が切れた。
「アイツの回避力だと私のチャームも当たらないんだからいい加減にしなさいな当てる気もないけど!! 特にそこのヨハンちゃん!」
「くっ雨宮利香くんでさえ対処できないとは恐ろしいモンスターだ……魔種かもしれない僕は司令塔として慎重に状況把握に注力し」
「他人を自然なノリで持ち上げつつ自分だけトラブル回避してるんじゃないわよ! 尻尾引きちぎるわよヨハネスブルクちゃん! ……ってひぎいいい何で近付いてくるのよ誰もチャームしてないでしょ!!!」
「心を強く持つんだ雨宮利香くん! 僕たちは必ず生きて帰る。たとえ足が竦もうと、最後まで諦めずに戦おうじゃないか! そうだろう雨宮利香くん!」
「誰があんたなんて信じるかあああああ!!!」
●大いなる探索の終わり
ある者は段ボールに接着剤を塗って粘着罠を作ったり。
「誰かをくっつけて遊ぼうと思って持ってきた練達製接着剤が、こんなところで役立つとは思いませんでしてよ!」
「これでキッチンとバスルームにはワナを置けたし、Gがいないコトを確認できたから安全カクホ成功ってトコかな」
またある者は敵を建物の外におびき出すために泡盛とおつまみを設置しようとし。
「待って……! ほらあそこ、いるいる……いたぁ! うわあああああ!!!」
「お落ち着きになってアクア様!? わたくしはヴァレーリヤ様と違ってお酒の一滴に命を賭けるほどお酒命ではないので動転なさって泡盛を室内にバラ撒かれることに関してはそこまで文句は言わないのですけれど、そこで撒かれると縛られて転がされたままのわたくしの顔に泡盛がかかってわたくし逃げられないままGと熱烈なキスをする羽目になりますわ!?」
それでも懸命に段ボールを壁の隙間に貼り付ける美咲らの尽力により、遂に西日が島影に隠れて涼しい風が悪戦苦闘で火照った肌を冷ます頃には、コテージ内からすっかり消え失せてしまったように思えた。
「クリアリングは完璧であります。さあ、皆様こちらへ」
騎士(メイド)らしく恭しく、エッダが他の8人を寝室へと招く。彼女の執拗な安全確保は誰もが目撃していたところで、その証言に不安はない。
……嘘。
「待って!? 今、ムシの足音がしたような気がする!」
イグナートがその一言を発するや否や、エッダは寝室の扉を閉めてその前に仁王立つ!
「エッダ君! まさか裏切ったなどとは言わないでくれたまえよ?」
散々他人に指示ばかりして任せきりで具体的なことは何もせず仕舞いだった自分のことを棚上げして非難するヨハンに対し……だがエッダの首は哀しげに横に振られ、瞳には「最後くらいは自分だけ楽はさせない」の意思が宿るのだ!
ふと窓を見ればその表面に、禍々しい名状し難い存在感を発する、体長4センチほどの黒い虫がいた。あたかも安全地帯で一休みしようとした途端、ワンダリング冠位魔種と鉢合わせしてしまった時のような切迫感。
「いやあああ!!!!」
遂に耐えきれなくなったルシアの悲鳴が、本当の悲劇の始まりの合図であった。
「もう、こんなコテージ壊れても惜しくないのです!!」
小さな体に集ってゆく魔力! それが何を意味するものなのか……恐らくは、その場にいた者はつい先程彼女本人から恐慌状態に陥ると何をしでかすのかを聞かされたイグナートに限らずとも察しがついたろう。
「魔砲はちょっとマズいから! ちょ、ま! マド! マドに!」
身を以ってルシアからコテージを庇おうとしたイグナートの体が浮いて、窓というか壁ごと突き破って遥か森の中へと消えていった。肝心のGは……しかし直前で飛び立って、別の壁へと付着する。
「惜しかったのですよ……でもこれは、ルシアにしか出来ないことでして……!」
そんなGへともう一発……流石にこれはアクアが制止にかかる。
「これ以上はダメ……。寒いから、お外で眠るのだけは、イヤなの……! ……だからやめろって言ってんだろうがぁ!!」
懇願の末にこちらもまたしても心のタガが外れて、全力のフルルーンブラスターをルシアにお見舞いするアクア! でも……それでも、ルシアは止まらない! 翼は折れ、立つのもやっとの満身創痍の状態からの、またもや別の壁に逃げたGへの3発め!
「ルシア氏、流石にこれ以上はヤバいって!」
寝床が! それからイグナートまで消える! ルシアを羽交い締めにしようとした美咲が背中の翼と激しい大暴れによる抵抗に阻まれている間にも4発め! それと……
「おうふ」
……偶然レバーに入ったルシアの足。
「くれぐれもコテージまでは壊さないようにしてくれたまえよ」
おろおろするヨハンのそんな指示は、今となっては何の意味も為してはいなかった。
「ほろ酔い気分でビーチでくつろぐ、私のセレブなバカンスはどうなりますの!?」
このままでは野宿になりますわよと血相を変えるヴァレーリヤの言葉も、決して今のルシアには届かず。
中には利香やエッダのようにもっとやれとけしかける者もいたせいで、もはや対物破壊兵器と化していたルシアを止められる者は誰もいなくなっていた。
「これで奴の息の根を止められるなら安いものだわ。私が許可する。どんな犠牲を払ってでも完膚なきまでに奴を滅ぼしなさい」
Gへの憎悪に駆られるあまり、とんでもないことを言い出しながらルシアを止めようとする者たちを妨害する利香。損害賠償? そんなのローレットが出してくれるでしょ。ダメでも全部テレジアに押しつければいいし。
「ハイルール違反に認定されては困るので何がとは言わないでありますけれど、もし瓦礫の山が出来上がったら面白いでありますね。何がとは言わないでありますけれど」
誰がどう聞いても欺瞞でしかない予防線を二度も張りながら、壊れてゆくコテージを高みの見物するエッダ。
●大自然の営みは悠久と流れ
「やっぱり魔砲を全てを解決してくれるのでして! だから、だから……コテージごと消えていなくなるのですよおおおおお!!!!!」
かくして彼らのオンボロコテージは……必殺の鉄帝びんたや鉄帝アームロックを利香にことごとく妨害され、捨て台詞のように改めて僕は最初から碌なことにならないって忠告してたんだからなと主張してワンチャン免責を目論むヨハンの目の前で、綺麗に瓦礫の山へと変化していったのであった。
「正直……コテージだけなら良かったんですわ……。でも、私のお酒が、お酒が……」
瓦礫の前で愕然と項垂れるヴァレーリヤに。
「どうして……イヤだって言ったのに……」
寒さと厳しい世間に震えるアクア。美咲の教える『温かい段ボールハウスの作り方』によって、彼女は少しでも救いを得たのだろうか?
いつしか橙色から藍色に、藍色から深い黒へと変わってゆく空は、喜劇も、悲劇も、おしなべて夜の帳へと包んでいった。
人たちが、熾した野火を拠り所に互いに寄り添い合う元コテージ前広場。その端を……一匹のグレイスヌレナイトメアゴキブリは、まるで何事もなかったかのように本来の住処である森の中へと帰っていった。
成否
大失敗
MVP
状態異常
あとがき
防衛対象のコテージごと吹っ飛ばしておいて大失敗以外の結果になるわけないだろ!!
……でも流石に野宿の上に報酬1/4は可哀想なのでレベルによる補正分以外は補填しておきますね(あと監視もすぐ解除されると思います)。
GMコメント
本シナリオはリクエストシナリオですが、難易度はあたかもNIGHTMAREであるかのように見えます(実際はNORMAL程度)。
何故なら……今回の敵は、以下に示すようなやつだからです! 無事にGを追い出して、コテージの安全を確保してください!!
●敵:グレイスヌレナイトメアゴキブリ×1
グレイス・ヌレ海域に生息するゴキブリの一種で、普段は周囲の森で暮らす無害な昆虫です。体長4センチ。回避がとんでもなく高い。
見た者や足音を聞いた者に難易度:NIGHTMARE級の強烈な忌避感や恐怖を与える能力を持っており、彼がいる間は恐ろしくてコテージを使用できません。
自然知識の持ち主であれば恐怖がこの虫の能力に過ぎない可能性に気づけますが……それでも「もし推理が間違っていて、本当にNIGHTMARE級の危険な虫だったらどうしよう」という不安は常に付き纏うことでしょう。
●舞台:コテージ
ベッドや鏡台などのある寝室、中央にテーブルのあるリビング、調理器具や食器棚の揃ったキッチン、バスルームからなる貸別荘です。
もっとも、少しでも多く酒代を捻出したかったヴァレーリヤと少しでも手配手数料を多く取りたかった『俗物シスター』シスター・テレジア(p3n000102)のせいで、予約されたのは壁と床の間には虫が自由に出入りできる程度の隙間が多数ある古い建物でした……つまり、Gは自由自在に部屋を移動できるってわけですね。
本シナリオで重要なのは、安全かつ確実なクリアリングです。Gに妨害されることなく『確実にここにはGがいない』という領域を作り広げてゆくために、皆様が望むのであれば予約した張本人であるテレジアを引きずり出して強制労働させてもかまいません。上手く扱わないと失敗要因にしかならないでしょうが……。
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