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シナリオ詳細

『鏖殺の爪牙』、または『崩壊する王国の話』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●自然の王国
 人が、その領土に秩序を求めるがごとく、自然もまた、その在り様に秩序を求める。
 弱肉強食。或いは適者生存。いずれにせよ、無秩序に思える自然にもまた秩序と言えるサイクルが存在し、確かな生態系を確立しているのである。
 幻想(レガド・イルシオン)国は、バルツァーレク領にほど近い森林地帯。この地にも自然の秩序と言うべきものは存在している。この森には、主と呼ばれる二匹の獣がいた。片や、巨大な大熊。片や、巨大な狼。地球世界では、狼と熊に神性を見、神として奉った文化もあるというが、それを思わせるほどに、この2匹は強く、賢かった。この二匹は、この森林地帯の食物連鎖の頂点として君臨しており、その一族と共に、この領土を長く外敵から守っていたのである。
 それは、人間のように、何らかの利によって守っていた、と言うものとは違う。ただ本能的に、自身の領土を守っていただけであったが、そこは自然の摂理とかみ合い、さながらこの地の守り神のように振る舞い、そしてそれ故にこの地には調和が保たれていた。
 ある月の晩である。その日は、とても月が大きく、そして赤く見えた。自然現象であったが、しかし不吉な何かを覚えるものもいたかもしれない。その日、二匹の王に、ある異変が訪れた。二匹は目を血走らせ、苦痛に咆哮する。体には激痛が走り、体の細胞一つ一つが書き換わる様な感覚を覚えた。さながら、何か魔の者に魅入られ、その悍ましき魔を注入されたがごとく。
 次第に、二匹の肉体は、悍ましくも肥大化していく。筋肉はそれまでの倍以上に巨大化し、毛の一つ一つは針のように固く、太く、鎧のように硬質化していった。その眼は狂気の色に染まり、変化の痛みに咆哮をあげるだけで、その声に秘められた魔によって、近くを飛ぶ鳥すら死に、落ち絶えた。やがてすっかりと変貌を遂げ終えたときに、その二匹はすでに獣ではなく、明確な、世界にあだなす魔となり果てていた。
 かつて王であった熊は――その両の腕が丸太のごとく肥大化し、爪は刃のごとく鋭く大きくなった。彼が腕を振るえば木々は薙ぎ倒され、同族である巨大な羆ですら、なますと切り刻まれた。
 かつて王であった狼は――その四肢を鋼のごとく硬化させ、牙は槍のように太く、遠吠えには魔の音色を得た。彼の足に追いつけるものは誰もおらず、同族であった狼たちは、その牙に貫かれ、次々と屍を晒していく。
 王は変貌した。森の秩序守護者であった王は、今や森を滅ぼす何か恐ろしいものへ。そうだろう、彼らを変えたのは、世界を蝕む悪意! 『滅びのアーク』によって変異した、世界の敵! 我々はそれを、『怪王種(アロンゲノム)』と呼ぶ!
 二匹の怪王により、森は瞬く間に荒廃していった。木々は薙ぎ倒され、動物たちは食い殺され、豊かであった秩序のそこは、僅かな期間の内に死の森へと姿を変えたのである。

●王国の崩壊
「アロンゲノムの事件だねー」
 と、ローレットの出張所にて、『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069) は、イレギュラーズ達へとそう告げた。
 レライムの話によれば、近隣に住むきこりによって、アロンゲノムと思わしき怪物が発見されたのだという。
「きこりの人によると、元々は凄く自然豊かな森だったんだって。近くの村の人は、神様が住んでるんだ、なんて噂するくらいに。そこには、二匹の『森の王』って呼ばれてた動物がいて、それが今回、アロンゲノムになっちゃったみたい」
 アロンゲノム、怪王種とは、世界を蝕む『滅びのアーク』の影響で変貌した怪物である。いわば、『モンスターや動物版の反転現象』ともいわれており、この現象に見舞われた生物は、恐ろしいほどの戦闘能力と知恵を身に着けるとすら言われている。
「今は、ただ無目的に暴れてるだけだけど、このまま放置していたら、いずれ仲間を増やして強固な軍団を作り上げかねないんだ。アロンゲノムは、『自分の変化を他者にも伝播する』……つまり、周りの生き物もアロンゲノムにしちゃう可能性があるの。だから、今のうちに倒さなきゃダメなわけだね」
 そうでなくとも、このまま放置していては、周辺の村々へ到達し、人に被害を与えかねない。今ここで倒さねば、被害は拡大していくのだ。
「早速で悪いんだけど、現地にむかおう。あんまり時間をかけてると、本当に被害が広がりかねないからねー」
 レライムはそう言うと、現場への地図と移動手段を、皆に提示した――。

●王国の継承者
 死臭が森を包む。忌まわしき呪いのような咆哮が、花々を枯らす。
 その死地の真中に、二匹の獣はいた。
 未だ体の小さな、幼き熊と、狼である。
 彼らは、王の子であった。気高き森の次代の守護者となる存在であった。
 彼らは獣である。人のような知能は無い。だが、本能で――彼らは、自分たちが『森を守る存在である』と認識していた。
 故に。
 昨日まで父であった彼らを。
 今や、世界にあだなす魔となった彼らを。
 二匹は、討伐せねばならなかった。
 誰に言われたわけでもない。
 人間であれば、ただの思い込みであると一笑に付されるであろう、本能的なそれを。
 彼らは実行に移す。小さく、ひ弱な体に、精一杯の力を漲らせて。
 彼らは、魔に立ち向かわんと、咆哮をあげる。
 ――人の救世主が森へと現れたのは、まさにその瞬間であった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アロンゲノムが現れました。速やかにこれを討伐してください。

●成功条件
 『鏖殺の爪腕』と『鏖殺の牙顎』の討伐
  ――オプション・戦場にいる『子熊』と『子狼』の生存

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●状況
 かつて、森の王と呼ばれ、自然の秩序を維持していた二匹の気高き獣。
 滅びのアークは、そんな気高い彼らの魂を汚し、アロンゲノムと呼ばれる魔へと変貌させてしまいます。
 二匹は守るべき森を破壊し、守るべき動物たちを殺し、殺戮の下に魔王として君臨しています。
 皆さんは、この二匹の魔王をと罰すべく、森へとやってきました。
 この二匹を討伐し、森に平和を取り戻してください。
 作戦決行タイミングは昼。フィールドは森ですが、あたりの木々は薙ぎ倒され、草木も呪いによって枯れ果てているため、見晴らしや足場は悪くありません。戦闘や、移動に関するペナルティなどは発生しないものと考えてください。

●エネミーデータ
 『鏖殺の爪腕』 ×1
  元は森を守る一匹の羆でした。今は、破滅をもたらす皆殺しの怪物です。
  HPとEXF、物理攻撃力に長けたパワーファイターです。単純な膂力、そして鋭い爪に気を付けてください。
  『飛』や『ブレイク』を持つ攻撃に警戒してください。
  また、『溜X』属性を持つ非常に強烈な『至近』攻撃も使ってきます。

 『鏖殺の牙顎』 ×1
  元は森を守る心優しき狼の王でした。今は、呪詛をまき散らす破滅の魔王です。
  高いEXAと回避能力、機動力を持ち、走り回りながら呪詛と鋭い牙で攻撃してきます。
  攻撃には、『呪い』や『恍惚』、『呪殺』を付与する、神秘属性の遠吠えや、『出血系列』を付与する物理属性の牙での攻撃があります。

●NPC
 『子熊』 ×1
 『子狼』 ×1
  皆さんが戦場に到達したとき、なぜか戦場には小さな子熊と子狼がいます。彼(彼女?)らは、なぜか二匹のアロンゲノムに攻撃を仕掛けようとしているようですが……。
  戦力としては全く当てになりません。放置していれば、数回くらいなら攻撃を引き付けてくれるでしょう。もちろん、その場合二匹の命の保証はありませんが。
  心を込めて言葉をかければ、言う事を聞いてくれるかもしれません。

●味方NPC
 レライム ×1
  『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)が同行します。神秘属性の攻撃と回復支援を行うバランス型ファイターです。ご指示いただければ、それに従います。特に指示が無くても、一生懸命戦うので邪魔になることはありません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 『鏖殺の爪牙』、または『崩壊する王国の話』完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

サポートNPC一覧(1人)

レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)
ぷるぷるぼでぃ

リプレイ


「森ってのはさ……結構不思議なもんでな。俺には道理なんてよくわからないが、無くなったら上手くいかなくなるものっては、確かにあるみたいだ」
 あの美しい精霊鹿を思い出しながら、『竜剣』シラス(p3p004421)は言う。主を失った森はどうなっただろうか? まぁ、ふと思い出しただけで、さほど興味はないが。
「それは例えば、王とか主みたいな動物だったりするわけだな」
「おっと、自然主義に鞍替えか?」
 『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が茶化すように言うのへ、シラスは肩をすくめた。
「まさか。ただ、ここは幻想の領地だ。ただ腐っていくのを放置するのは気に入らない」
 シラスが踏みしめる地は、ほんの数日前は豊かな実りをもたらす盛だった。だが今は、その大半が枯れ、或いは刈り取られた荒れ地となっている。
「そう言えば、数年前に悪性ゲノム事件なんてのあったな。あれの関係か?」
 サンディが言うのへ、『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)が頷いた。
「資料を見た限りだけど、そのゲノム事件で関わった研究者が発見したのが、怪王種、ってことらしいね」
「へぇ、繋がってるもんだなぁ」
 サンディが頷く。
「それより……さすがに緊張するよ。確かにこんなことをできる動物は、まともじゃない」
 辺りを見回すシャルティエ。前述したとおり、まるで暴風でも荒れ狂ったかのような光景が、あちこちで見受けられる。
「ええ。『滅びのアーク』……やはり危険ですわ。それに、元はこの森の王であった者達ですわ。如何に魔に堕ちたといっても、この様に守るべきものを傷つけることなど、望んではいないでしょう」
 『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)が言った。元は気高き王。その心の奥底では苦しんでいるのかもしれない。
「だったら、すぐにでも止めて差し上げるべきです! さぁ、皆さん参りましょう! 必ず解決して、森に平穏を取り戻しますわ!」
 それは仲間達も想いを同じくするところだろう。かくして森の奥へと、一行は進む。奥へと進めば進むほど、木々や大地は荒れ、呪詛めいた空気が重く体にのしかかる。
 と――。
「……! この禍々しい気配……!」
 『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)が思わす声をあげた。一行の前には、一段と荒れ果てた地がある。あるいはそこは森の深奥、最も清廉なる地であったかもしれなかったが、今は踏み荒らされて無残な姿をさらけ出すのみとなっている。
 その大地の中央に、二匹の獣がいた。いや、それはもはや獣と言うカテゴリからは逸脱している。まさに魔。相対するだけで、ステラたちにはわかった。
「……アロンゲノム! 世界の敵……!」
 ステラがそう言って、思わず構える。シャルティエも構えながら、静かに二匹の間を睨みつける。
「あれが怪王種……野放しにするには危険すぎる、よね」
「止めてあげましょう」
 『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)が静かに言った。
「守りたかったものを粉々にして、呪いを振りまきながら生きていくなんて、彼らもきっと望んでいないでしょうから」
 その言葉に応じるかのように、二匹の魔はこちらに気づいたように視線をやる。いや、元から気づいていたのか。
「ふっ……森に君臨した魔王……ねぇ」
 『廻世紅皇・唯我の一刀』皇 刺幻(p3p007840)は、いつもの調子を崩さぬままに言った。
「暴虐のままに破壊した森の王の末には、その忌み名はまだまだ重いだろうに。いいだろう、私がその名を喰らって生きてやる」
 ゆっくりと、一歩を踏み出す。二匹の魔は、魔王にあだなす化のように、ぐるる、と唸った。一般人ならば、その唸りだけでも著しい恐怖を感じるだろう。それほどの、生物としてのランクの違い。だが、ここにいるのは、そんな怪物たちを幾度となく屠ってきた勇者――ローレットのイレギュラーズたちだ。
「森の守護者までもこんな姿に変えてしまうなんて……」
 その腕には二つのブレスレット。そのブレスレットに魔力を込め、ほのかな光を瞬かせつつ、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は声をあげた。目の前の魔に、かつての獣の面影はない。かろうじて、そのシルエットが元の熊と狼である事を想像させる程度だろうか。不気味に肥大化した腕や足は、生命の軌跡を侮辱するかのような形にねじ曲がり、その眼は闇すら飲み込むほどに昏い。
 まさに、魔。森の王たる彼らすら、破滅の魔にはあらがえなかったのか。口惜しさと悲しさが、アレクシア、そして仲間達の胸に浮かぶ。
「……戻すことができないのなら、せめてあなたたちが守ってきたものだけは傷つけさせない!」
 その言葉を合図に、仲間達は戦闘態勢に入る。応じる二匹の魔が、咆哮をあげた――が。戦場に突如として割って入ってきた、小さな影があった。それは、小さな子熊と、子狼だった。


「くそっ、何だあのちびっこは!?」
 シラスが叫ぶ。同時、動き出した魔狼、『鏖殺の牙顎』が、呪詛の遠吠えを叫ぶ。呪いがイレギュラーズ達の身体を蝕み、内部から痛みを発生させる。まるで腐るかのような痛み。
「ちっ、どうする!? このままだと巻き込まれるぞ!?」
 二匹の子動物たちは、まるでこちらを守るかのように、そして二匹の怪物に立ち向かうかのように、四肢を力強く立っている。雰囲気だけなら頼もしいが――。
「あのまま放っておいては死んでしまうよ!」
 シャルティエが叫ぶ。
「ミニヒーロー達が勢いよく立ち上がっちゃってんのか!? この森の生き残りか?」
「分かりません……が、とにかく危険ですわ!」
 サンディの声に、フィリーネが応える。
「サンディさん、お手伝いをお願いしますわ! あの子たちをここから避難させるよう、説得いたしましょう!」
「了解だ! その間、戦闘、頼む!」
 サンディが声をあげるのへ、
「まかせて! 気づいて! 助けに来たよ! 君たちと、この森を!」
 アレクシアは声をあげ、子動物に届くようにと言葉を紡いだ。そのまま戦場を駆けるや、『鏖殺の爪腕』の前へと立ちはだかる。
「さぁ、君の相手は私だよ。皆! クマ君は私が抑えるから、その間にオオカミ君の方をお願い!」
「分かりました! ご無理はなさらないでください!」
 ステラが叫び、その手を掲げる。自身の周囲に展開する茨の結界が、するりと蔦を伸ばしてステラを守る様に踊る。
「先に行かせてもらうぜ!」
 シラスの眼が、牙顎を捉える。途端、突き出したその手から放たれるは『閃光』。光の刃が宙を疾駆し、牙顎に迫る――が、牙顎は跳躍! その刃を回避!
「だ、ろうな! 見た目通りにすばしっこい! けどな」
 その程度は織り込み済みだ。シラスはにぃ、と笑うと、すぐに身をかかがめる。その後ろから飛び出したのは、刺幻だ。跳躍し、身動きのとりづらくなった牙顎へ、刺幻は手を突き出す。
「狩りってやつは群れでやるもんだぜ」
「と、言う事だ。せめて、魔王に立ち向かった王として逝くがいい」
 刺幻はその手を強く握りしめる。途端、魔力が電磁パルスのようにはじけ飛び、牙顎の身体を激しく打ち叩いた! いわば、これは魔力版のECM。相手の魔力を阻害し、妨害する一手!
「魔の塊だ、これはよく効くだろうよ!」
 刺幻の言葉に、牙顎は吠えた! 体を魔力パルスで焼かれながら、しかしその動きは衰えない。否、確かに刺幻の攻撃は牙顎の動きを阻害させていたが、それでもなお、素の能力が高かったとみるべきだろう。
 牙顎が吠える。力強く足を踏み込むと、突進! 並のサーベルよりははるかに鋭い牙で、刺幻を切り裂きにかかる――が!
「まあ――貴方の今宵のお相手は、私ですよ」
 その間に飛び込んできたのはサルヴェナーズだ! サルヴェナーズは光輝の冠を自身の眼前に移動させると、それで牙顎の牙を逸らした。すぐさま、その眼帯を取り払うと、緑の瞳が怪しく輝き、牙顎の視線を捉える。その魅了の光は、さながらイブリースの囁き――。
「あら、ご自分の縄張りを守るのではなかったのですか? グズグズしていたら、私の泥が飲み込んでしまいますよ」
 サルヴェナーズは誘うようにステップを踏むと、優雅にその手を翻した。同時、汚穢の檻は変質し鋭い槍となり、優雅なその手の動きは殺戮の刺突と化す。槍は牙顎を貫き、牙顎が苦しみの声をあげる!
 GARRRRRR! 牙顎が痛みと怒りと共に吠える! 牙顎が鋭く振り上げた前足を、サルヴェナーズは後方に跳躍することで回避――入れ替わる様に飛び込んだシャルティエ、その刃に雷が纏い、振り下ろす斬撃が、稲妻と共に牙顎を切り裂く!
「これで――!」
 確かな斬撃、手ごたえ――だが、牙顎は止まらない! 血を流しながらも、シャルティエにタックル! シャルティエはとっさに身をよじって回避するが、敵のタックルの勢いだけでも体勢を崩すほどに激しい!
「くっ……森の王の名に違わない……。けど、退く訳には!」
 地に手をつきつつ、態勢を整えると再度の斬撃。牙顎に二度目の雷が振り下ろされ、牙顎が苦痛に叫ぶ!
「拙が足を止めます! お覚悟を!」
 ステラが手を突き出すと、その手に茨の蔦が絡みつき、魔力を編み上げる。途端撃ちだした赤の魔弾は、茨の毒を含んで牙顎の前脚を貫く!
 一方、子熊と子狼が動き出そうとするのへ、サンディはその前に立ちはだかる。
「ちょっとまてそこのルーキー? まて、ステイ、ビークール」
 ぐるる、と子供達が唸る。サンディは手をひらひらとさせて、続ける。
「びりびり感じてるだろ? あいつは強い。間違いなく強い。
 でも倒さなきゃいけない! そうだろう? こいつ等は、そのために来た、そうだな?」
「ええ、間違いなく!」
 フィリーネが頷いた。
「お二方、聞いてくほしいのですわ。わたくしたちは、この森を救いにやってきましたの。それは、ここに生きるあなた達も同様。わたくしたちに任せてはくれませんの?」
 二匹の子供がぐるる、と泣いた。
「オーケイ、わかった。どうしてもやらなきゃならない。気持ちはわかる。
 だが、適材適所ってのもまた事実だ。だからさ、こうしようぜ。
 俺たち人間が今この場は時間を稼ぐ。お前たちは森にいるほかの仲間たちに知らせて回れ。
 母親たちは安全な場所に逃がして、増援を集めろ。
 群れで戦えば、確実に仕留められる。その方が安心だろ?」
 それは、嘘だった。ここで彼らを逃がし、自分たちだけで二匹の魔を仕留めるつもりだ。
「……わたくし達はとても強いから、不安にならなくても大丈夫ですわ」
 やさしく、二匹の頭を撫でてやる。二人の想いを、二匹は然りと理解したのだろう。がう、と二匹、託すように声をあげて、木の影へと去っていく。
「分かってくれましたのね。賢い子」
 フィリーネが柔らく微笑む。
「さぁ、サンディさん。遅れた分を取り戻しますわよ!」
「ああ、これで負けたら、あいつらに笑われちまうからな!」
 二人は牙顎へと攻撃すべく走り出す。
 勇者たちと、魔の戦い。
 それを、二匹の王子が見つめていた。


 二匹の魔は強力だ。故に、イレギュラーズ達は戦力を集中し、一匹を全力で、素早く仕留める戦法をとる。果たしてその戦い方は功を奏し、牙顎の狼は瞬く間にその生命力を減らしていた。が、一方、爪腕を相手取るアレクシアの負担は非常に大きい。例えば今も、その剛腕はアレクシアへと迫る。わずかなアレクシアの隙をついて、その業物の刃のように鋭い爪が、アレクシアの衣服と、その下の柔肌を切り裂いた。
「――っ!」
 鋭い痛みに、アレクシアがたまらず声をあげる。
「アレクシアッ!」
 シラスが叫ぶのへ、アレクシアは笑って返した。
「まだまだ大丈夫だよ! それよりも、そっちは気を付けて――」
 アレクシアの言葉を、爪腕が遮る。魔術障壁を展開して受け止めたその一撃。しかし衝撃が身体を駆け巡り、僅かに足がブレる。
(……ちょっときついかな? ううん、でもみんな頑張ってるんだから!)
 アレクシアは決意のこもった瞳で、爪腕を見据える。一方で、牙顎との闘いは佳境へ。
「刺幻、もう一回だ!」
「心得た!」
 シラスが叫ぶのへ、刺幻が頷く。放たれる、閃光の刃。鮮やかな光が駆け、牙顎を狙う。今度は、疲労が蓄積した牙顎に命中。がくり、と体勢を崩した牙顎へ、接近した刺幻が四重の魔術を展開、一気に解き放つ!
「穿てよ!」
 放たれた魔術が、周囲を巻き込んで爆発を起こす! 吠える牙顎、あちこちを火炎のやけどにさらし、死にかけになりながらも、魔は倒れない。鋭い牙による咬撃を放つ牙顎。サルヴェナーズがそれを受け止めるが、必殺の一撃が、サルヴェナーズの防御をかいくぐり、痛恨の一撃を与える。可能性を昇華して無理矢理意識を繋ぎとめると、
「サルヴェナーズさん!」
 シャルティエが叫び、前に立つ。
「大丈夫です、けれど――」
「いったん下がってください! あとは僕が……!」
 シャルティエが、再びその刃に雷撃をまとわりつかせる。明滅する雷と共に切りつける刃。肉を焼く一撃が、牙顎の胴をないだ。
「サルヴェナーズさん、こちらへ! 治療を施しますわ!」
 フィリーネが白銀のレイピアを掲げると、その先端から神聖な魔力が迸り、祝福となって降り注ぐ。その白の魔力が、サルヴェナーズの傷をふさいでいった。
「ありがとうございます……!」
「ふふ、子供たちと約束致しましたから、恥ずかしい所は見せられませんわね!」
 ウインク一つ。一方、飛び込むサンディが、至近距離から矢を放つ。放たれたのは、禍々しき闇と呪いを帯びた一撃。呪いの矢は牙顎に突き刺さり、牙顎は最後の遠吠えと共に絶命する。
「こっちはOkだ! クマの方に――」
 サンディが叫んだ瞬間、アレクシアが痛恨の一撃を受けて吹き飛ばされた。ステラが慌てて飛び込み、その身体を優しく抱き留めたまま地を滑る。
「大丈夫ですか!?」
「ごめん、ちょっとドジっちゃった……!」
 アレクシアはそれでも立ち上がるが、流石に疲労の色が濃い。
「ここからは引き受けるよ!」
 シャルティエが立ちあがり、刃を掲げる。同時、振り下ろされた爪腕が、シャルティエに重くのしかかった。
「くっ……皆! お願い!」
「分かってる!」
 シラスが叫び、その手に魔力をまとわりつかせた。その四肢を魔力で強化し、鋭利な武器とする戦闘方法。シラスの必勝の闘法! 鋭く振るわれた拳が、さながらナイフのようになって、爪腕の目を切り裂いた。続く刺幻の魔術ECMが爆発、爪腕を足止めした。
「サンディさん、フィリーネさん! アレクシアさんの治療を!」
 ステラがアレクシアを抱きつつ叫ぶのへ、
「分かった! 任せろ!」
「アレクシアさんの傷はしっかり治しますわよ!」
 二人が頷き、治療術式を編み上げる。一方、シャルティエの横に立ちながら、サルヴェナーズは汚穢の一撃を、爪腕へお見舞いする!
「サルヴェナーズさん、無茶は……!」
 心配するシャルティエに、
「大丈夫です。さぁ、もう一息です。彼を、眠らせてあげましょう」
 優しく笑う。シャルティエは頷き、再びその剣を構え、振り下ろす。その刃が肉を切り裂いたと同時に、剣に取り付けられたトリガを引いた。途端、巻き起こる爆炎が、内部から爪腕を叩く!
「ステラさん! 止めを!」
 シャルティエが叫び、
「森の王よ、どうか、安らかに――!」
 再び掲げたその手、茨の蔦が仄かに輝き、赤の魔術弾を生じて撃ちだす。シャルティエのブチ開けた傷口から、ステラの魔術弾が内部に侵入し、その呪を内部でぶちまけた! 内側から叩かれる衝撃に、爪腕が悲鳴をあげる。やがてその悲鳴が聞こえなくなった瞬間、爪腕はその巨体を大地へと横たえた。ぐ、と一度だけと息を吐いて、そのまま動かなくなったのだった――。

 動かなくなった魔。二匹の王。その近くに、二匹の子供達が、涙をこらえるように佇んでいる。
「こいつ等は……もしや、あの二匹の子供か」
 顔をしかめる刺幻に、フィリーネは頷いた。
「ええ、どうやら、そのようですわ……」
 子供達の背には、悲しみが見えた。辛いだろう。親を……偉大なる王を亡くしたのだ。フィリーネは、二匹を抱き上げると、優しく抱きしめた。子供たちは、その優しさを理解して、抵抗することはなかった。
「この子達は……お父さんを止めようとしたんだね。自分たちの使命に真っすぐに……なんて、強い子達なんだろう」
 シャルティエが言う。きっと、この後、この森を収めるのは、この子供たちなのだろう。ならばきっと、この森も元の神聖な姿を取り戻すに違いないと、シャルティエは思った。
「彼の王たちに、花を捧げましょう」
 サルヴェナーズが言った。
「それ位は……許されるでしょう?」
「そうだな。弔ってやるとしよう」
 刺幻が頷く。
「では、この森で……眠らせてあげましょう。この子達が守りたかった、この森で」
 ステラが言う。
「そうだな。最期くらいは……」
 サンディが頷いた。
「……あなた達の想いは、きっとこの子達が受け継いでくれるから。だから……お休み」
 アレクシアが、祈るようにそう言った。
「ま、頑張れよ」
 シラスが言った。その言葉に頷くみたいに、二匹の子供たちは、くう、とだけ鳴いた。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 森は救われ、二匹の王子もまた、その命を救われました。
 二匹はやがて、この森を治める王となるのでしょう。

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