PandoraPartyProject

シナリオ詳細

後腐れも悔いも、まして罪悪感もなく人は死ぬ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●終わった娘の過去の話
 饐えた匂いと下卑た笑い声。炎の爆ぜる音とともに、少女――アトレ・ローゼヴァインは重たい瞼をうっすらと持ち上げた。
 重たいのは瞼だけではなかったし、その理由を思い出すのは余りに憚られるので意識の外に放り出したけれど。彼女は「ここはどこ?」と改めて問いを投げるほど愚鈍な娘ではなかった。
「貴方達のことは存じています。ローゼヴァイン領を騒がせる不届き者達が、わたくし如き末席の妾腹の娘に身代金など……面白い冗談を申しますのね?」
「さっきはあれだけ泣き叫んで、今は減らず口が回るとはな」
「お頭ァ、この娘もう一回痛い目に遭わせなきゃ口の利き方も分からねえみてぇですぜ? どうしやす?」
「やめとけ。噛みちぎられても知らねえぞ」
 呆れたようにアトレを眺める盗賊団の頭目と目される男は、憎々しいほどに美しい金髪をたたえていた。仮面で顔の殆どを隠しながら、しかし自分に似ている、と。場末の盗賊の頭目に己を重ねたことを、アトレは酷く恥じた。辱めを受けた時以上に、恥じた。
 彼女を産んで間もなく命を絶ったという母は、確か私の金髪を見てショックで気をやってしまったのだと聞いている。程なくして、婚約者だった男から半ば奪われる形でローゼヴァイン家に召し上げられた彼女は自らの父親が領主「であろうとされる」こと(父と目される領主、ハイセは女癖がこの上なく悪いのだ)、その証として美しい金髪を授かったのだということ、たとえ末席といえど領主の娘である以上は情けない姿を晒してはならないという自負心を持つこと――一介の町娘として生まれた自分には過当な要求を受けながらも、アトレはそれに応えるべく懸命に生きてきた。その筈だった。
「俺達は領主サマに『返してほしければ』とは伝えた。けどなお嬢ちゃん。俺達は無事に、とも生かして、とも言ってねえんだよ。分かるか? お嬢ちゃん。お前はもうどうなったっていいってコトだ」
「――――」
 アトレはその段になって、いよいよもって己の無学を恥じた。そして私生児同然の妾腹の娘が、貴族にとってどんな存在であるかを改めて理解した。こみ上げてきた実感と言う名の新たな知識の奔流は、そのまま彼女の足元をしとどに濡らす。汗となく涙となく流れ落ちた滂沱の如き体液は、不潔で饐えた洞窟の匂いに新たな染みを残していく。
「お、父様……お父様、は、そんな不義理を許さな」
「許さなくてもこの場所がわからないんじゃ一生お前とは会えねえだろうなあ。形だけでも父親してんだから、探し出してやりゃあいいのによ」
「で、でし、でしたら、お兄様、が」
 歯の根が噛み合わぬ震えた音を残しつつ、アトレは年の離れた兄を思った。
 非嫡出子でありながら、ハイセに大いに認められた年の離れた兄、ゼクセン。盗賊団を――人質は救えぬまでも――1人で壊滅させたという逸話持ちの彼であれば、きっと妹のことを助けてくれる。遠巻きにしか見たことのない彼の、花咲くような美貌を思えば。
「なあ、アトレ。愚鈍なお前は2つ、勘違いをしてる」
「へ、ぇ?」
 盗賊団の頭目は仮面を外すと、アトレと真っ直ぐに視線を合わせた。瞬間、彼女は眼前の事実を認めたくなかったのか、ショックなのか、眼球が裏返り痙攣を始めた。もはや聞く耳も持つまい。
「まず1つ。お前の『自慢のお兄様』はここにいる」
 呆れた顔をしつつも、頭目――ゼクセン・ローゼヴァインは胸に手を当て自慢気に言い切った。
「そしてもう1つ。お前は俺の――」
 続く言葉は、しかし自ら命を断つことを選んだ彼女には届かなかった。或いは、届かなかったのは幸運だったのかもしれないが……。

 崩れ落ちたアトレをつまらなそうに見やったゼクセンは、部下たちが彼女をどうするかなど興味がなかった。
 あとは、そのボロ雑巾になるであろう死体と何人かの、忠誠の劣る部下の首を差し出せば、不幸な妹を助けられなかった領主の子としての体面が立つ。どう転んでも、彼が損することはない。
 ――本当に、世の中とは自分の都合の良い様に出来ている。
 ただ彼は、欲望と享楽にかまけたことでこの世界の大前提というものをすっかりと忘れてしまっていた。
 ……そう、混沌で悪事(ワルさ)を行えば、イレギュラーズが来襲(く)るという、ごくごく当たり前の事実に。

●つまらない連中を躊躇なく皆殺す話
「で、貴族のお嬢様を連れ帰ればよろしいのですね。そして、助けに行っているかもしれないそのお兄様も、連れ帰る対象」
 ライ・リューゲ・マンソンジュ (p3p008702)は依頼の内容を反芻しながら、盗賊達の根城と思しき洞窟へと向かっていた。その場にいるのは、鏡 (p3p008705)やコルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)といった、依頼の遂行の為なら常道を逸することを厭わない、寧ろ常道を外れてこそ己の価値とすら思っているイレギュラーズだ。
「でもぉ、『生かして連れ帰る』って必須じゃなかったですよねぇ?」
「『お兄様』共々、条件に入っちゃいないのだわ。……ま、身代金の要求内容にも生かしてとは一言も書いてなかったしそういうことでしょうねえ」
 鏡の問いかけに、コルネリアもその文面には興味がないかのように応じた。聞けば、どちらも私生児のようなもので領主としては娘可愛さもあるが、正直目の上の瘤ほどの価値しかないようでもある。
 だから、正直なところ「不幸なことにすでに両者とも命を落としていました」で済む話だ。
「それで、この洞窟……長い下り坂になっていて、一番奥が更に窪地のような構造なのですね」
「それがどうかしたのだわ?」
 ライが何かを思いついたように告げると、コルネリアは首をひねる。相手の表情がこの上なく「悪い顔」になっていたことには気付いていない。
「いえ。『使いどころのある』地形だなと」

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 殺しても呵責のない連中のために2000文字くらい費やしました。反省している。

●成功条件
・盗賊団の殲滅
・アトレ、ゼクセンの身柄確保(生死不問)
・(オプション)両者の死亡
・(オプション・マイナス要素)両者の死体の極度の欠損

●盗賊団一般団員×20~
 ローゼヴァイン領で長らく民心に恐怖を与えている盗賊達。
 彼らにさらわれた娘、奪われた資産は数しれず。
 まれに生きて帰ってくる娘もいるが、等しくその後自ら命を絶っている。
 溜め込んだ恨みは恐ろしいもので、殲滅しなければ今後も民進は静まらぬだろう。
 すべての武器に何らかのBSを及ぼす毒が塗り込まれている。遠距離武器は使わないが、魔術行使者数名を擁する。

●ゼクセン・ローゼヴァイン
 突入後にわかりますが、盗賊団の黒幕です。29歳。
 剣の腕に優れ、盗賊5名程度を向こうに回して一方的に惨殺出来る程度の実力はあります。
 それに加えて、幾つかの暗器も所持しています。
 身体欠損が起こらぬ程度になぶり殺しでいいんじゃないかな。部下を盾にしたり生存執着がすごいけど。

●アトレ・ローゼヴァイン
 死亡済み。ゼクセンがOPで言いかけた話は碌でもないので知らなくていいです。なお12歳。

●戦場;洞窟奥
 洞窟は先に行くにつれ下りになっており、最奥部が窪地です。
 悪巧みがいくらでもできそうだなあ。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 後腐れも悔いも、まして罪悪感もなく人は死ぬ完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る想いは
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
※参加確定済み※
鏡(p3p008705)

※参加確定済み※
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
※参加確定済み※

リプレイ

●歓迎される狂気
「フフフ……フフフフフフフフ……! ご無沙汰ですねーこんなに沢山の脚が取り放題だなんてー」
「やれやれ、貴族というのは本当、誰もかれも……本当に"ワタクシ好み"の性質をしておいでで何よりです」
 『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)と『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)の狂気じみた喜びようは、傍目から見れば明らかに『ただ我欲を満たすために依頼を受けた連中』にしか見えない。事実としても、相違はない。
 だが、ただ悪事だけに手を染める暴徒・犯罪者の類と、状況に因りて人を助ける、世界救済を由とするイレギュラーズではまるで話が違ってくる。こと、ヴァイオレットは善性を示す事に躊躇しない質であるが、本質は『自業自得の不幸をどうしようもなく愛する』、という些か以上に歪んだ本性を有している。
 人は必ずしも、いい子なばかりではいられない。
「わかりやすいクズっつーか、馬鹿なもんだわ。過ぎた野心に足元掬われるからアタシ達みたいなのが来る事になる」
「アトレちゃんとゼクセン君を死体で回収、でしたっけぇ。ピリムちゃんにはお誂え向きの依頼ですねぇ」
「まあ、彼らの人間性も私には関係のない話です。明日の酒代になるだけの連中に、興味を持てとは厳しい話でしょう」
 『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)、鏡(p3p008705)の3人に至ってはもう、善とか悪とかを価値基準としていない。
 頭を空っぽにして殺せて、気兼ねなく報酬を使い捨てられる程度の、『つまらない』依頼でいい。そんな、どうしようもない食指に引っかかったのがローゼヴァインのお家騒動だった、というただそれだけの話なのだ。
「過度でなければ生死不明でも良いとは、依頼した方は良く分かっていらっしゃいます」
「オレにハナシが回ってくるあたり、色々ウラがありそーだが……悪事働いて金さえ貰えりゃオレはどーでもいいや!」
 『影に潜む切っ先』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は依頼主の『英断』に心からの賛同を示した。死ぬような状況、死んでも良い相手。助けたという体面を整えるためだけの依頼が、どうして真っ当であろうか? 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)がこの依頼を認知し得たのも、まさにそれが理由といえた。
「しかし、随分と恨みを買っているようだが、よく今までやってこれたものだ。よほど手練れなのか、あるいは……」
「誰かに守られてんじゃねーか、って? 『都合よく手を回す誰か』なんて1人しかいねーよなァ?」
 『黒一閃』黒星 一晃(p3p004679)が確信半ばの言葉を口にしかけ、ため息とともに打ち切る。瑣末事を捨て置いた彼の言葉を引き継いだのはことほぎだ。多分、潜入する前の段階で誰しもが気付き、口にしていなかった『都合が良すぎる可能性』がそこにはある。
「え、ゼクセン君が黒幕?」
「敵でも味方でも構いませんよー、どうせゼクセンたその脚は奪えないんですから。40本もの脚を用意してくれた事に感謝すべきです」
 ことほぎが敢えて言葉にしなかったことを、鏡はなんの躊躇もなく口にする。周りに聞く者がいなかったのは幸いだ。このテの『秘密』というものは、明かされぬことで効力を発揮する。そういう意味では、『使える秘密』を隠しておき、交渉の手札に使うのもひとつのやり方なのだ。
(もしそうだとしたら……いいえ、確証を得るまでは軽々に判断してはいけませんが……しかし)
 仲間のやり取りは、知らずヴァイオレットの口角を上げる一助となった。口布で隠れているのは、本当に幸いだった。確証を得る前に動いてしまいそうな、その愉悦を押し隠す意味でも。
「では、煙を焚きましょう。風も洞窟内に吹き込んでいますし、洞窟内は煙に巻かれるでしょう。……煙を吸わないように対策はしてありますか?」
 バルガルは火を焚き、濡れ布を用意しながら仲間に問いかける。互いに顔を見合わせた一同を見て、彼の作り物めいた笑顔が尚の事硬直したのは言うまでもないが……そんなものに頼る前に決着をつけるという意思の顕れと見れば、間違ってはいまい。

●誰も生きていてはならぬ
「なあ、ちょっと……煙くないか?」
「こんなところで焚き火なんてするからだろ?」
「でもその煙は後ろから抜けて……ゲホッ、なん、おかしいぞ!」
 暫くして、洞窟最奥部。
 流れ込んできた煙の量に、文字通り目を白黒させて慌てふためく盗賊たちはしかし、ゼクセンの低い声の前に緊張の色を濃くした。
「煙なんてほっときゃ抜ける。何のための通風孔だと思ってる? それより、このわざとらしい煙幕……!」
「彼らの魂を神の元へ……贖罪し救われる最後の道を……」
 苛立ち混じりに剣を抜いたゼクセンは、視界の隅から突っ切ってきたライの『祈り』を盗賊の1人に隠れ躱す。
「ゼクセンたそ、ここで武器を構えてるってことは予想通りってことでいいんですかねー」
「ああ、俺もこいつ等相手に手間取っ――」
「大した大根役者ですー」
 ピリムは煙のなかを泳ぐようにゼクセンに近付き、速力をそのままに脚で突き込み、続いて斬撃を叩き込む。四肢を裂く一撃を胴に向け、欠損を抑えようとした末の策だったが……それによって胴を半ば以上裂かれたのは、ゼクセンではなく件の部下だった。彼女の反応速度に対応した、というよりは『最初から備えていた』とみるべきか。胴がばっくりと割れた事実に「しまった」と一瞬顔を歪めたピリムもこれには(企図の外だが)ニッコリである。
「チッ、見張りの連中は何してやがった! ここまで入り込まれるなんて冗談じゃねえ!」
「こいつら一体何なんだよ、どうすんだよボス!? このままじゃ……!」
(……なんて、ね。ゼクセン氏の威圧で統率が取れている程度なら、混乱もひとしおでしょう。私としては都合がいい)
 盗賊達の混乱する声は煙の中でもなお反響する。バルガルは仲間とゼクセンの接敵の空気を感じ取りながら、盗賊の1人を装いつつ声をあげた。それにノセられる者達の混乱は心地よくもある。
「っけほ、アトレちゃん居ましたかぁ?」
 バルガルが足元に転がった無惨な遺体……アトレのそれに気付くより早く、手で煙を払いながらゆらりと鏡が歩いてくる。無防備なその仕草は、煙越しでも盗賊達に『獲物』だと認識させた。だが彼等は、奪う立場にあったばかりに自分達が奪われるという想定ができていない。
「ッヒヒ、格好のエ……エッ……?」
「エ、何でしょうねぇ。互いに見える距離なら私のほうが速いですよぉ」
「弱い相手と斬り合い鍔迫り合いをする趣味はない。矜持のない連中なら尚更な」
「気が合いますねぇ。私も斬れればそれでいいのでぇ」
 鏡が切りつけた男は、己の傷の深さを認識するよりも早く一晃の斬撃によって追加で膾にされ、それきり動かなくなった。親近感を持ったような鏡の声は、しかし喜ぶでもない平坦なトーンで投げかけれれた。本心、ではないのだろう。一晃はそう判断して無言で次の敵に得物を向ける。
「こんな煙にまかれて正気でいるのは辛いんじゃねえか? 手伝ってやるよ!」
 ことほぎは心から楽しそうに、監獄魔術を行使する。白い闇のなかに唐突に向けられたそれは、しかし仲間を巻き込むこと無く盗賊達を狙い撃ち、近場にいた者同士を同士討ちの憂き目にあわせ、そうでなければ自傷行為に走らせた。
「馬鹿共が。もう少し、ゲホッ、待てばいいだろうに」
「馬鹿はアンタだよ。家族まで不幸にしといて自分はケジメもつけずトンズラかい? それともそこの娘の死体とこいつらの死体持って悲劇の主人公気取りか? 馬鹿言ってんじゃないよ」
 ゼクセンは何度か攻撃を避けるのに使った死体を放り投げ、剣で以て反撃に転じようとした。したのだが、振り上げる動作が恐ろしく遅い。踏み出す足が果てしなく重く、銃を構えた影への距離がどこまでも、遠い。知らず受けていた攻撃の正体を理解出来ぬまま、彼はコルネリアの放った弾丸をマトモに受けた。
(彼が殺されても仕方ない相手なのはわかっていますが、それにしても……楽しいですねえ……!)
 先程までは懐疑的だったゼクセンの主犯疑惑が確信に変わったのを、そして彼に徹底して行動阻害の一撃を小刻みに与え続けたことで生まれた結果に、ヴァイオレットは極めて深く、昏い愉悦を感じていた。
 善性ばかりでは息が詰まる。悪性であれと己に言い聞かせ、そのとおりに振る舞ってもいい場所。ことほぎの手により同士討ちで果てる盗賊。ピリムに脚を切断された死体。切り結ぶ暇も実力もないままに鏡に、そして一晃に両断される者達。密かにアトレの死体を回収し、音を立てず(死体を引きずっているにもかかわらず!)洞窟から退いていくバルガルの姿などは相手の目論見が潰れる様を見る意味でも、彼女にとって最高のショウであったに違いない。
「私らの狙いはゼクセンたそだけなので、皆様はどーぞご勝手に逃げてくださいましー」
「ぼ、ボスだぁ?」
「ハハ、マジかよ……!」
 煙の向こうでゼクセンが遭っている目を知らなければ、彼等は実力者であるリーダーだけを狙いに来た、不幸すぎる冒険者だとでも思ったことだろう。だからこそ、見逃されたのだと喜べる。
「気が変わりました、やっぱり一人残らず全員私のコレクションになってくださいましー」
 当然、そんなものはフェイクでしかなく。それを知っている者達は、盗賊達の末路をただ耳にすることしかできないのだが。

「わぁ~酷いお顔ですねぇ。折角の可愛い顔が台無しですよぉ、まだ直せますかねぇ」
「無理でしょう。せめて瞼を閉じてあげられるくらいが私達に出来る精一杯です」
 バルガルが洞窟から脱出してほどなくして、状況をみてとった鏡が続いて脱出し、倒れたアトレの顔をぐにっと掴む。体液だの血だのに塗れた顔は、死因が舌を噛み切ったことと心因性ショックの何れかで考えられよう。
 何れにせよ『酷い』ものだ。この死体は、すこし整えてやらねば厳しいのではないか? バルガルは僅かに懸念を顔に浮かべた。
「ああっ、クソ、畜生……!」
「あれ、お兄ちゃんですかぁ? なんで1人で? というかそことそこの弾痕は私の仲間の銃ですよねぇ? ……もしかして、アトレちゃんが見た『嫌なモノ』?」
 そんなところに傷だらけのゼクセンが這々の体で現れれば、嫌でも思い至るものがある。どころか、先程まで戦闘に混じって会話が聞こえたはずで。鏡の白々しい、間延びした声に苛立ち紛れに睨みつけたゼクセンの姿は哀れ極まりない。
「どうしましょう、アナタも一緒に連れ帰るのが私達の仕事なんですけど……捕まってくれ、ないですよねぇ」
(…………)
 白々しいついでに、ゼクセンに「どうぞ」と傍らから逃げるよう促す鏡の姿に、バルガルは無言で視線を向けた。よもやここで、いつでも斬れる相手を見逃しはすまい。彼は無粋な男ではないので、コトの推移を見守った。
「有り難え話だぜ、そしてお前、本当におめでてぇ頭」
「あ、でも」
 去り際に毒の一つでも吐こうとしたゼクセンはしかし、数歩進んで、それから糸が切れたように倒れた。鏡が、背に致命打を叩き込んだのだ。
「『生死不問』でしたねぇ。背中の逃げ傷なら言い訳も立つでしょう」
「おい、鏡。壊し過ぎちゃいねぇよな?」
「大丈夫ですよぉ、私も依頼は大事ですからぁ」
 洞窟の奥からコルネリアの声が響く。どうやら、こうなることを見越して敢えてゼクセンを歩かせたらしい。趣味が悪いといえばそのとおりだが、明確な意図があるのだろう。
「あーあ、綺麗な顔が台無しだぜ。ま、テメェの不運を恨みな。ケジメは付けたし、あとは別々の場所に逝くだけだ」
「……しかし、矜持も何も無い雑兵をただ斬るだけというのはつまらんな」
「まー、領主サマにこの2人の死体渡したらあとは何やってもいいんだし、ピリムにゃちょうど良かったんじゃねえの?」
 コルネリアが気遣わし気にアトレの頬を撫でる後ろで、一晃が退屈な顛末に首を振る。ことほぎはこれから会う相手のことを考え、にたりと笑い……ピリムは丁寧に回収した脚を手に、一足先にその場を後にする。
(それにしても……脚を切られ炎に焼かれるあの絶望の顔は最高でした。しばらくは退屈しませんね、ヒヒヒ……)


「ところでこの2人、親子ぐらいの年齢差はあるよなァ」
「君の理屈でいけば、アトレと私では孫か曾孫かという年齢差だがね。話はそれだけかな?」
 ことほぎが2つの死体袋をハイセの前に下ろし、どこか意味ありげな笑みで問いかける。ハイセはといえば、彼女が暗に言いたいことを理解しつつも、知った風ではないと首を振る。冗談に更なる冗談で返すその表情は、狸よりもなお狡猾だ。
「貴様がどれほど無能でも、領民を脅かすような野盗を永らく放置しておく理屈が分からんな。盗品など、買い手がつかなければただの荷物だ。『盗品だと知らなかった』と嘯く買い手でもいなければ、な。……そういえば、略奪したものは一体どこへ行くのだろうな?」
 一晃はふと脳裏に過った『たとえ話』を『なんとはなしに』ハイセに投げかける。正鵠を射ていれば何らかの反応が見られるだろうが、もとより彼には興味のない話でもある。返答は、無表情。たとえ話とはいえ愚弄されたことすら、ハイセは興味がなさそうだった。
「例えば、よくある貴族の邸内の不義で生まれた庶子がいたとしよう。その息子が、武芸に秀でた出来息子だと知り、貴族が長用したとしよう。当然、庶子を世継ぎになど考えん。だが、庶子であることを民に隠せばそこには『貴族の顔を立て功労を示す出来息子』が現れる」
「…………」
 一晃はハイセの口から流れ出たたとえ話に僅かに眉を寄せた。おそらく、それに続く話も、敏い彼なら気付いているか。
「彼が盗賊をつぶした功労があり、それで話が終わればよかった。……それが17歳の冬、巷間で盗賊の再興と珍しい髪色の娘が現れさえしなければな」
 今日まで足かけ15年ほど。我が子を殺すなど出来はしない、生まれた子供を死なせたくはない。信じたかったという願いは間違いなのだろうか?
 そんなふうに続けたハイセの言葉に、一同は返す言葉を持たなかった。15年、放置した結果というものがあったはずだ。それだけの間に生まれた不幸など、考えるまでもないだろう。
 だが、ならば無慈悲に殺せただろうか。息子を、そして身元もわからぬ、血を分けたとだけ理解できる子を。それは、向き合った者のみに語れる葛藤だ。
「……はい! 終わり終わり! アタシ達は報酬貰えればそれでいいのだわ! この2人はちゃんと五体満足! これでいいわよねぇ?!」
「ええ、この2人は天に召されました。わたくし達はそれに見合った功を認めていただければ、それ以上も頂きませんしそれ以下は許せません」
 コルネリアとライは、この辺りで話を打ち切ろうと割って入る。ライは半ば脅しのようなものになっているが、それはそれだ。
「ああ、久々に胸のすく思いだった。感謝しよう」
 ハイセは深く息を吐くと、手を打って従者に報酬を持ってこさせた。気持ち多く見えるが、気のせいだろう。
「君達とは良い関係が築けたと思っている。今度は、真っ当な機会に巡り会いたいものだ」
 もう二度と御免だと思った者はおそらくいまい。殆どの者の意見は、次に放たれたことほぎの言葉に帰結するだろう。
「お疲れさん。また汚れ仕事でもあったらよろしくな! オレは汚れてようが仕事ができてカネが貰えりゃそれでいーや!」

成否

成功

MVP

黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃

状態異常

なし

あとがき

 一晃さんの推察の成否がどうあれ、「事実を一同が知っており」「何らかの推察ができる知識量があり」「それを相手に投げかける事に躊躇がない」ということは、ハイセにとって滅茶苦茶重い事実であることは間違いなかったと思われます。
 銃は、相手に命中することも、打ったのが実包かも問題ではなく、相手を狙って撃った事実こそが相手を恐怖させるのと同じことです。
 それはそれとして躊躇のない殺戮劇は楽しいですね。かなりの人数が咳き込みながら戦ってる想像図はそれなり楽しめましたが。

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