シナリオ詳細
どうか勝利を
オープニング
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――天義の騎士は常に正義の為に在る。
善きを助け、悪しきを挫く。
常に神の崇高なる意志と共に在る彼らはどこまでも誇り高く――
「はぁ、はぁ……おのれ、おのれ魔物ど、も……ぐ、ぼッ」
故に。彼らは命を賭してでも悪と戦うのだ。
――天義の北部、サザンナという山の麓には小さな村があった。
そこは平穏な時が過ぎるだけの場所……だった筈なのだが、最近に至って妙な影――
つまり魔物の様な存在が周囲で確認されるようになったのだという。
今の所村に具体的な被害が出ている訳ではないが不穏なりし影に不安は拭えず。故に騎士団に相談が持ち込まれ……では民を脅かす魔物の討伐にと、複数人の騎士が派遣された。
――しかしいざや討伐の為に行動を起こそうとした彼らを。
いや村そのものを襲ったのは――あまりにも膨大な数の魔物達であった。
圧倒的な数の差。如何に精強なる武具に身を包み戦いに心得のある騎士と言えど劣勢は免れなかった……しかも魔物達はゴブリンの様なオークの様な、ある程度人に通ずる姿を持ち、そしてなにより武装していた。
簡単な槍や斧を持っている程度だが知能があるという事か――
或いはもう少し数が少なければ話は別だったかもしれないが、見るだけでも二十、いや三十は超えている数を相手に五名程度の騎士ではやがて包まれ始めてしまった。
中央で治癒魔法をかけていた者が矢を受け倒れたのを皮切りに。
また一人、一人と打ち倒され――しかし。
「や、やめろ……何をする! よせ! ぐあ、あぁあ、あああああ――!!」
ソレで終わりではなかったのは――悪意の成せる業であったのだろうか。
魔物達は倒れた騎士に殺到すればその首に己が歯を突き立てた。
――食しているのだ。生きたままに、騎士達の生命の灯が絶えぬ内に。
否。それだけではない……治癒魔法をかけ続けていた騎士は鎧をはぎ取られ、一本の木に括り付けられ――そして弓矢の『練習台』にされている。
あえて頭を撃たぬ様にしながら。
肩や足を撃ち抜き、当たる度に悲鳴と歓声が同時に。
更に敵の猛攻を退け続けた屈強なる騎士は二の腕を落とされ、抵抗の力を削がれながら馬に紐で繋がれる。足を括られそして馬の尻を叩けば……村の中を引き摺り回される形。勢いあまって壁にぶつかれば激痛が襲ってこよう――
「ぐ、ぐふ……」
「ケキャ、キャ、キャ! イキテル! マダコロスナ! マダアソベ!」
そして騎士らを率いていた年長の者は既に幾つもの槍に体を貫かれ息も絶え絶えであった。幾体も魔物を切り伏せたが……
だが無念ではない。
「……愚かな、魔物、ども、め……勝ったのは、我ら……だ」
勝てぬ戦いに何故最後まで殉じたか。
それは勝つことが目的ではなかったからだ――
全ては、民の避難の時間を稼ぐ為。
死の兵となってもはたさねばならぬ……使命があった為。
「やが、やがて……お前達を討伐する、者が、改めて……現れよう……
お前達を……裁く……者達が……!」
「? キヒ? ナニイッテル? ワカンナーイ! ケヒャ! ケヒャ!!」
「アソボ! アソボ! サッカーシテ、アソボ!!」
彼らの奮戦は時を稼ぎ、民達が戦域から離れるに足る時間を稼いだ――
故に勝利だと騎士は言い。
半端に知識しか宿さぬ魔物達は理解不能な事を述べる騎士を嘲り笑いながら刃を振るう。
その首に。
サッカーをする為の『ボール』を作り出すための一刀を――振るった。
●
「はぁ、はぁ……くそ! やめろ、離せ! 私は隊長の言伝を、必ず街に……!」
同時刻。村から離れた森の中を走っていたのは騎士の一人だ。
村で戦っていた中の五名の中の最後の一人――だが、先の四名と比べれば随分と若い者だった。まだ十代程度だろうか、その者は先の四名と共に戦っていたのだが……劣勢を感じた隊長格が離脱させたのだ。
『街の方へ走れ――救援を呼んでくるのだ――!』
一度は拒否したが、経験浅いお前では役に立たぬと言われ……涙ながらに包囲を突破したのが少し前の話。それは年若い騎士を死なせまいとした彼らの配慮だったのだろう――
しかし数の多い魔物達は逃がさなかった。
騎士が逃げる方へと追撃を。矢を放ち、まるで兎狩りをするかのように追い立て続け。
背に一つ。二つ。足に一つ。腕に一つ――
そしてまた一つ、背に矢が突き立てられた所で遂に力尽きてしまった。
痛みが故もあるが――それ以上に腹の奥底から襲い掛かってくる吐き気と、脳髄を揺らすかのような眩暈と頭痛が原因であった。これは――毒か?
もはや抵抗の為に振るう剣にも力を籠めれず。
「やめろおおおお!! 離せ、離せぇ――!!」
「ケヒャ! ナイタ! ナイタ!! ナキムシナキムシ!!」
奴らの囀りが憎い――己が力不足が憎い――
いやそれよりなにより――ここで己が助けを呼べねば何のために逃がされたのか。
何もかもが無意味になってしまう事が無念極まり。
それでも、もう。魔物が振り上げる刃を躱す力もなければ。
今ここに無意味に死する騎士の遺体が一つ――
「ギッ!!?」
生じる筈の定めはしかし、訪れなかった。
魔物が倒れる。周囲にいて弓矢を構えていた魔物らも次々と倒れる音がする――
ああ、もしや、これは。
「こ、これは……もしや、そこにどなたかいらっしゃいますか!!?
旅の方、お願いします! 街に、街に救援を!
ご、ほッ、街、街に、どうか、騎士団に、街に、うぐ、げぼッ」
正に神の思し召しかと若き騎士は思うものだ。
『誰』がそこにいるのかは分からない。けれど魔物ではない『誰』かがそこにいる。
――毒が回り始めた。もう眼が見えない。喉を焼くような痛みは声を枯らせて。
それでも。
「村、村に、この先、の村、村に、お願い、しま、あ、ぁ ぁ」
伝えねばならぬ事があるのだと。
最期の力を振り絞って意志を示す。
どうか――村を、村を襲っている魔物達を排除してくれと――
震える手。今まさに力尽きんとしているその手を。
『貴方』は握りしめた。
……同時。つい先日騎士の見習いになったばかりの――若き少女は命を落とした。
偶然にも目の前に訪れた……
『貴方達』に最期の依頼を託した後に。
- どうか勝利を完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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悪意の宴が始まっている。魔物共は勝利の美酒に酔っている――
「――見えた。警戒していないのかな、空から丸見えだ。
外周の孤立した敵から順次各個撃破。挟撃が完成したら村にいる残敵を強襲、だね」
「えぇえぇ、実に宜しいかと。喧しい害虫は――やはり潰すに限る」
その様子をマルク・シリング(p3p001309)は空より見据える。
鳥の使い魔――その視覚を共有し、場を把握しているのだ。幸いというべきか敵は油断しており、こちらの攻撃タイミングは自由に選べる……しかし村は荒れ騎士の方々も死亡となれば『影に潜む切っ先』バルガル・ミフィスト(p3p007978)の脳裏には『浮かぶ』ものだ。
――責は誰かと。どうして成せなかったのかと――
「全く以て気に入らん」
吐き捨てる様に彼は紡ぐ。
外野はいつも事態の枠の外でああだこうだとどうして囀るのか。
――しかしその感情は『奴ら』そのものに当てるとしようか。
「では予定通り二班に分かれて行動を開始するとしましょうか」
「ええ……ううん、悲しい話だけれど……そうね、お願されたんだもの」
頑張らなくちゃね、と『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は戦いの準備を行う『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)へと言の葉を投げかけるものだ。
手遅れになる前に駆けつけられなかったこと――もしかすれば、一歩何か間違えば戦の渦中に踏み込むことが出来たのではないか――コーデリアは心の奥底でどうしてもソレを考えてしまう。
しかし過去には戻れない。
どれ程悲しい物語だと嘆いても何も変わらない。
「だから」
「前だけ向いて――歩いていくしかないんでしょうね。
ボクたちが偶々ここを通りかかった……天の采配ってやつ? もあるんでしょうし」
ただ此処にて依頼を引き受ける事が出来た己らだけが進める道を辿るのだと『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は準備を完了する。
全く……命がけで縋られたら断るわけにもいかない。
あの切実なる願いを無下にする程――人が出来ていない訳でもないのだ。
「運が良いのか悪いのか、物好きなお人よしも揃っていたしね」
これよりは二つの班に分かれて行動しよう。
それぞれをもってして強襲する。奴らを逃さず――殲滅する。
「依頼人は最期まで足掻き続けた、とびきりのイイ女。
んな奴が出したラブ・コール――こりゃ、完遂しなけりゃ紳士じゃねーよな?」
同時。『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は語る。
曇りなき心で此処にある。あの少女から力が失われた瞬間は決して忘れようものか。
――願いは果たす。繋がれた願いがあるのならば果たさずして何が男か。
闇夜に乗じて移動を行うイレギュラーズ達。闘志を身に、しかし発露させず進みて。
「今回学ぶべき教訓は、一人だけ逃がすくらいなら全員で少しずつ後退し逃げろ、ね。住民の避難があったにせよ、仕損じたのは事実。まったく――もう少し命を大事にしなさいよ」
そして。位置に着いた『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が空を見ながら呟いた。彼らの戦い方は――きっと無駄ではない。なぜならば生じる結果を己が認識し、そして覚えたのだから。
決して無意味ではなかったのだと――示す為に。
……始めましょう。
「神がそれを望まれる」
どうか勝利を。
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大きく見れば挟撃という形になるのかもしれない――イレギュラーズ達はそれぞれ反対の方向に布陣し、集団から外れている個体達に狙いを定めていた。イーリンが優れし感覚と共に索敵を行い、マルクはファミリアーの鳥をもう一班に預け、いざという時に伝令出来るように。
そしてコーデリアが周囲の敵に気取られていないかを探知しながら『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)と共に進んでいた。
「――それにしても、やはり醜悪という外ありませんね。この魔物達は」
「ギッ!?」
暗闇より奇襲。声を挙げさせる暇も与えず駆逐してやろう――
コーデリアは油断しているその背に、速度と共に往く。まずはとにかく気付かれぬ様に数を減らしていくのだ……迅速に片付け、余裕あらば遺体は見つからぬ様に隅の方へと落葉などで隠そう。
隠密は大事であるが、しかし攻撃をしていればやがては気付かれる。
――故に最優先は殲滅速度だ。奴らに気付かれる前に、ではなく気付く前に可能な限りの個体共を片付けていくのだとマルクは思考し。
「この家の中、いるわ。二、いや三体かしらね……
裏口があるみたいだし……そこの扉の方から踏み込みましょう」
「あぁ。どうにも酒でも飲んでいるのかな、酔いどれのままに冥府へと送ってやろう」
そしてイーリンが家の中の様子を透視して見れば、敵の存在を感知出来た。
故にマルクらと小声で意志を打ち合わせ――突入する。
内部からは充満する様な酒の匂い。これこそが魔物どもの油断の象徴とも言えるだろうか……完全に反応が出遅れた所へとマルクの、邪悪を裁く光が満ちる。短い悲鳴が挙がるも――そこから更なる大声はイーリンが出させない。
「神の御許にも許されないでしょうね、貴方達は」
動きが弱った個体へと紡がれるのは、彼女の魔眼だ。
イーリンの唇の動きが形成するのは発動の引き金――其は流星を追う影の一撃。
魔物が照らされればまるで魔力の刃に貫かれるが如く。
深く、静かに、水底へ堕ちるのみ。
犯した罪を数える間もなく――ただただ。
「よし。本隊とぶつかる前にもう少し行ける所でしょうか……向こうの方は無事で?」
「ちょっと確認してみよう――ああ、だがどうやら向こうも順調そうだ」
さすれば外へと騒ぎが伝わらなかったことをコーデリアが確認しつつ、マルクがファミリアー越しに向こうの班の様子へと集中――さすれば。
「じゃあ、始めよう狩りの時間だ……誰一人としてこの村からは出られないと思うといい」
ラムダの狩りが始まろうとしていた。
こちら側も気付かれぬ様に進みつつ、孤立した敵がいれば――容赦はしない。ラムダの死の舞踏が奴らの首筋に舞われると同時に、ヴァイスは忍ぶ足にて足音を極力消し悟られぬ様にと。
奴らの背後より接近し――手早く殺す。
あり得る筈だったもう一つの可能性を纏いつつ、あらゆる可能性を奪った理不尽なる魔物達に制裁を。暴風をもってして彼らの体力を、生命力を、その活力を――奪う。
「こっちはこれで大丈夫ね……あとは」
「お待ちを。そこの先……家の端先にどうやら『いる』様です」
であればと、周囲の確認をせんとしたヴァイスの眼前へバルガルがハンドサイン。
『敵がいる』と簡潔に示すのだ――彼の、暗闇をすら見通す目は決して逃さない。
息を殺し気配を殺してしかと確認。周囲の状況はどうか――? 屋根の上や地形の影に他に敵はいないか――? 篝火や松明などで照らされはしないだろうかと彼の集中力は全てを捉える。
「では『駆除』と参りましょう」
「ああ――一つ一つ確実にすり潰していくとするかね」
そしてアレを襲撃してもよさそうだと判断できればブライアンと共に。
――あくまでも冷静に。鼻息を荒げる事も、精神を高ぶらせる事もせず――冷静に。
ブライアンは情動に身を任せて強くなる道理は無いと知っている。それは魂を燃え盛らせても目を曇らせるから。だから――これは、そう。只のビジネスだ。
一人の少女から託されただけの、ただのビジネス。
「よぉ景気がいいねぇ――あの世でやってな」
だから唯々淡々と潰す。
軽口で語り掛ける様にしながら、彼の穿つ拳が魔物の顔へと一閃――さすれば直後に背後より至ったバルガルが魔物の頭を掴みて、首の骨が『鳴る』様に。刹那の動作と共に小気味よい音を弾かせて、瞬時に絶命させてやった。
「刃を用いてもよいのですが……血の匂いがすると面倒ですからねぇ」
他にも鎖で絞め殺すなどの方法もあるかと思考して。
遺体を即座には見つからぬ隠せば――更に奥へと進んでいく。
中央の騒がしい気配の渦に気付かれぬ様に。
少しずつ、少しずつイレギュラーズ達は死の包囲の輪を狭めていけば。
「……さて、この辺りが流石に限度かな」
ラムダは気付いた。後に残っているのは中央で宴をしている連中だけであると。
――はぐれ共の狩りはここまでか。
であればマルクとファミリアー越しに連絡を取るものだ。向こうの方もどうやらそろそろ隠密重視で倒していくには『はぐれ』がいなくて限界が来ているらしい……つまり丁度良いい頃合いという事だ。
「さあ。お願いを叶えに行きましょうか」
故にヴァイスは思考する。あの騎士の願いを果たしに、と。
正式な依頼と呼べるかも分からぬ突発的な事態、だけれども。
「最後のお願いくらい、叶えてあげたいでしょう?」
だって。
「――神に願わず私たちを頼ったのだから」
●
魔物どもがイレギュラーズの襲撃に気付かなかったのは、油断も大きいが――しかしイレギュラーズ達の隠密行動が巧みであったのもあるだろう。それぞれが役目を分担し、攻撃に索敵にと効率的に動いた結果……本格的な戦闘に移る前に敵の数を削ぐことが出来た。
死を弄ぶ醜悪なる魔物共よ――
「キミ達みたいな連中にはとっておきの術があるんだ。恐怖と狂気におぼれて自滅してろ」
では、死ねと。
往くはラムダだ。敵が集合している地点にまずもって叩き込むのは――精神に呼応する術。
汝、咎人懺悔せよ。不吉の月は登りて、天秤が振り下ろされる。
――奴らに冷静に態勢を整える暇など与えてやらない。狂乱のままに朽ち果てよ。
「ギィ!? テキ! テキ! テキガ、イル!!」
「ドコ!? ドコダ!? 奴ラノ、仲間カ!?」
「仲間――ではないけれど、見せてあげるわ。『仕損じない戦い』というのを、ね」
さすれば武器を手に取り周囲の状況を確認せんとする魔物達だ、が。
イーリンの戦場に瞬く一撃が――全てを薙いだ。
髪は紫苑へ、精気は幽世へ。瞳だけが紅玉の輝きを湛え、光の尾を引くは彼女の足跡。
――刮目せよ魔物共。これがお前達の死を辿る道筋。
「総員突撃するわよ――敵は混乱している! 一気に趨勢を持っていくわッ!」
「逃がしませんよ、一匹たりともね。
――民の安寧を脅かす者どもには、ここで一切消えていただきましょう」
それこそが彼女の願いでもあるでしょうからと、イーリンの号令に続いてコーデリアも奴らを包囲するように攻撃を畳みかけるものだ――全身の力を収束させ、爆裂する一撃を此処に。反撃しようと槍を構えた魔物どもを纏めて吹き飛ばしてやらん。
「さて、ごめんなさいね。私たちは敵同士、人に仇為すならばオシオキが必要よね?
それになにより――ちょっと貴方達はやりすぎたわ」
そしてヴァイスも同様に全力を初手から叩き込んでやるものだ。
全てを見通す視座が彼女の力をここまで温存していた事もある……ヴァイスには隠密活動を経た上でもなお余裕があり、そして彼女の紡ぐ暴風はもはや潜む必要もなくなったとなれば――何を気にすることもなく投じられるものだ。
別に殲滅など趣味ではないが、しかし彼らは人の敵。
そしてわざわざ残虐なりし殺し方を用いた……『やりすぎた』者達だ。
「加減は、出来ないわね」
人の。彼らの発したかった嘆きを此処に。
――振るう力に容赦はなく。それはまるで弔いの様に。
「ギィィ!? テキ、何人イル!? 殺セ! 殺セ! 武器ヲ剥イデ、殺セ!」
「やってごらんなさい。人様に迷惑をかけ、尊厳を踏みにじる虫に斯様な事が出来るなら」
更に次いでバルガルが行く。放たれた矢を躱し、潜り抜ける様に戦場を駆け抜け。
この場に至って影の様に殺してやることなどしない――
構えたナイフ。乱撃をもってして纏めて鏖殺してやるとしよう。
――その、途中。
ちぐはぐに騎士の鎧を身に着けていた魔物の個体があら、ば。
「似合いませんねえ――そんな大層な物は」
全霊の一撃を此処に。天国へ通ずる七光が――鎧の間を貫きその命を一閃。
「逃げる個体を優先して潰そう。ブライアン! 右の方から抜けていく個体を頼めるかい!」
「任せときな。ダンスの途中で逃げ出すようなマナー知らず共はぶちのめしてやるさ」
そして、マルクは使い魔越しに、混乱の最中から逃げ出さんとしていた個体を発見する。
さすればその視界を通じてブライアンに伝令を――思念を伝えるテレパスの術であれば喧噪の最中であっても彼に届こう。総力・最大火力を叩き込んでいる殲滅の輪から逃がしなどはしない……
「クソモンスターどもの命の灯火で。
死んでいった騎士達が昇る天国への階段を、明るくデコレートしてやるぜ。
俺らからの手向けさ。安心して天使に先導されな」
邪魔をする個体の頬を拳で殴り飛ばし、マルクより伝えられた逃げんとする個体の背を捉え。
――穿つ。その背を、その命を。
無為に命を奪っておいて今更逃げれるなどと思うなよ。お前達は――ここまでなのだ。
「グルル……! 落チ付ケ! 数ハコッチガ上ダ!」
ただ、やはりと言うべきか圧倒――とまで簡単ではなかった。
奇襲して潰した上でもそれなりの数が控えているのだ――矢が投じられ、槍が突き出され。会話できる程度の知性が状況を持ち直さんと連携の意志を見せる――
さすればイレギュラーズ達の身にも少なからず傷は発生するもの。
毒が蝕めば痛み、ああこれが騎士達の命を奪ったのか。
騎士達はこの痛みに常に抗い続けていたのか。
「なら、僕達が倒れる訳には――いかないよね」
ならばと、逆に奮い立つものだ。
マルクは討つ。己が眼前に立ち塞がった、少しばかり巨大な個体へと――魔術を紡いで。
それは彼における全力全霊。破壊の権化たる魔術の一端であり、敵を圧倒するもの。
「ギィィィ!?」
「押し込もう! 敵が怯み始めている……あと一歩だ!」
「ええ無論。慈悲を掛ける必要もありません。彼らの犯した罪はあまりにも深いのですから」
更にコーデリアの一撃も敵の中枢へ。再度なる爆裂の一撃が、敵陣を吹き飛ばす――
段々と敵の数が明確に減りつつあった。
逃亡せんとする者も時折出たりするものだが、しかし逃がさない。マルクの目が見据え、コーデリアの警戒もあらば飛翔する斬撃がその足を穿つものだ――ブライアンがぶちのめし、万が一に備えてバルガルの眼も行き届いていれば彼らに逃れる術はない。
或いは数がいるうちに一斉に逃げ出そうとでもすれば話は別だったかもしれないが、数の優位がある、勝てると思っている相手がそのような手など取る筈もなく。
「援軍はないわよ。周りは全部既にあの世に行ってるから、ね」
「怖いかい? 他人をどれだけ殺しても、自分が嬲り殺されるのは」
そう、イーリンの言う通り最初に少しずつ奇襲で倒していた効果がここに来て出ているのだ。そしてイーリンやラムダの状況を立て直す号令が響けばイレギュラーズ達に戦う活力が満たされる――
負の要素が祓われ、全開の彼ら。片や数も少なく逃げれもしない魔物共。
「グガ、ガ! ドウシテ、ドウシテコンナ……!」
「どうしてだぁ――? 分からねぇならよ」
既に決した趨勢。直後に行くブライアンが、最後の拳を振り上げれば。
「地獄でずっと考えてな、クソモンスター」
全てを打ち砕かんばかりに籠めた力で――魔物の頭を打ち抜いてやった。
●
戦いは終わった。最早息をしている魔物はなく、これで全てが終わったのだ。
「騎士たちの遺留品ぐらいは――まだ残ってるだろう。
出来る限り回収して……首都に届ければ、遺族の下には届くかもしれない」
「そうだね。うん……それから騎士の遺体もある筈だ。埋葬もしてあげようか。
村を護った立派な騎士達だ――残された家族にも伝えておくべきだと思う」
終わった――が。ラムダは村を護り散っていった騎士らの遺留品を集めんとして、マルクもまた騎士達の遺体を探せば埋葬の用意を線とする。依頼の内ではないが、しかし誰もそういった行動に異論を挟む事はなく。
「――願わくば、神の御下で安らぎを得んことを」
むしろコーデリアも彼らの遺体に祈りを捧げる程だ。
勇敢なる騎士よ。どうか安らかに……
「全く……もう少し生き汚い戦い方を教えてやりなさいよ。
正義に殉ずる心ばかりじゃ、いつかみーんないなくなっちゃうわ」
「……命を拾ってあげられなくって、ごめんなさいね」
強い子達であったと。十字を切ってイーリンは瞼を閉じれば、ヴァイスもまた遺留品がないかと確保へ。
「えぇ――それから、こんな死体だらけでは住民が帰っても来づらいですね。
少しばかり片しておくとしましょうか」
「なら俺は避難してる村人ってのを探してみるか。伝えてやらねぇとな――」
そしてバルガルは戦闘により損傷した家の損壊や死骸の清掃を行わんと行動を開始する。あらゆる意味で汚れてしまった村だが、綺麗にするのはきっと可能であるからと。そしてブライアンは煙草に火を点け一服し。
「見てるか――? よぉ、依頼は果たしたぜ」
そして――まだ長いソレを戦場に堕とす。
いつかは消える赤い炎と、しかし立ち昇って消えていく煙が。
この世から失われた騎士たちに届きますようにと――願いながら。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
きっとこの戦勝の報は、天にいる騎士達にも届いた事でしょう――
ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
全ての魔物の討滅。
●フィールド
天義の北部、サザンナという山の麓にある小さな村です。
時刻は夜。ここは今、大量の魔物達に占拠されています。
騎士達は嬲り殺しにされ、はぎ取られた鎧や武器は一部の魔物が装備しています。また皆さんが到着した段階では村の家に食料などが無いか略奪したり、中央でキャンプファイアーの様な事をしている様です。
魔物達は完全に油断しています。奇襲する絶好のチャンスと言えるでしょう。
村民は騎士達が時間を稼いだのでなんとか避難できている様です。
つまり一般人の類を気にする必要はありません。全力を投じて殲滅しましょう。
●魔物達×30~
その姿はゴブリンの様なオークの様な……そんな人型魔物ばかりです。
ある程度の知性を有しているのか、簡単な会話ぐらいはします。
そして彼らは簡単な構造の槍や弓矢などを所持しています。
いずれの武器にも『毒』が塗られている様で、攻撃を受けた場合は毒系列のBSが付与される事があります。稀に『致命』か『不吉』のBSを付与する事もあるようです。
武器以外の身体的性質としては、体格が大柄な個体はHPや攻撃力が高い傾向にはあるようですが、基本的には能力はさほど高くはありません。ただやはり数が多いので取り囲まれたりしない様には注意した方が良いでしょう。
正確な数は不明ですが30体は少なくともいます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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