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シナリオ詳細

大熊退治

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大熊の魔女
 森の奥には魔女がいました。
 魔女は普段は恐ろしい大熊の姿をしていて、月夜には美しい魔女の姿に変身することができました。
 熊の肉はとても美味で精がつくという話を聞いた猟師たちは、大熊の姿の魔女を狩ろうと我先に森へ向かいましたが、誰も森から帰ってきませんでした。
 やがて、ある月夜のこと。森の近くにあった猟師の村が炎に包まれました。
 生き残った村人は言いました。
 あれは、猟師が魔女の怒りを買ったに違いない、と。

 大熊が出る森の近くに、月夜にだけ現れる美女が現れたら気を付けなさい。
 それはきっと、あなたの家を灰にする魔女だから。
 石と杭と、火を灯したろうそくを常に備えなさい。
 魔女がまじないを唱える口に石を。
 炎を呼ぶ腕に杭を。空を飛ぶ足に杭を。
 杭にはろうそくをさして火を灯し、魔女から家を守りなさい。

●大熊退治
 幻想のある地域の村々に伝わる伝承を口にして、チャンドラは微笑んだ。
「伝承とは、その多くが後世に教訓を残すためのもの。その真相がどうであったのかは、さして重要ではないことも儘あるものです」
 例えば――この大熊の魔女は、本当に魔女であったのか、とか。
 大熊の魔女など本当はおらず、ただ余所者の女を排除するために作り上げられた創作ではないのか、とか。
「今回の依頼に関しても、それは同じこと。我(わたし)達は大熊退治以上のことはお願いされておりませんので。熊側の事情などは考える必要はないかと」
 チャンドラがイレギュラーズ達に紹介していたのは、次のような依頼だ。
 村の近くの森に人の背丈をゆうに超える巨大な大熊が出没し、村の猟師達では手に負えない凶暴さなのでイレギュラーズに退治してほしい、と。森に立ち入る者はもちろん、大熊は村にまで来て人を食い殺し帰っていくというのだ。
「伝承の大熊のように、その肉に効能があるのかは……これまでに打ち倒した猟師がおりませんので、何とも申し上げられないのですが。それほど強力であることだけは確かなのでしょう」
 よろしければご協力、お願い致します。
 そう締めくくられた依頼を聞いていた一人がアルヴァだったが、彼にはひとつ疑問があった。
「その熊……猟師の手に負えなかったってことは、狩猟銃にも強いのか?」
「銃に強い、と言うより……耐久力があるのでしょうね。その上、爆破の魔法を使うようですので」
 爆破の魔法――伝承の魔女とやらは、確か村を炎で包んだのではなかったのか。
 伝承の信憑性がやや増したところで、今度は別の女が問う。
「退治できたらその熊、食べていい? 気になっちゃって」
「禁じられてはおりませんし、肉を取ってこい、との依頼でもありませんので。どうぞご随意に。
 もしかすると、熊の形をした魔女の肉かもしれませんが……ええ、ええ。熊には違いありませんので」
 その返答は、どこか意地の悪さも感じられたかもしれない。しかし、彼はただ微笑むばかりだ。
「たとえ魔女であったとしても――ただ、熊として殺し糧とする。そのようなアイもあるのでしょうから」
 嬉しそうに答えるチャンドラ。疑問を解消できて満足した女は、先に話を聞いていたアルヴァの元へ近寄った。
「私はマルベート。そういうわけで、よろしく」
「俺はベツに一人でも大丈夫なんだが……」
「まあそう言わずに、愉しく仲良く行こうじゃないか。第一君、その腕で熊とやりあうの?」
 肘から先が失われたアルヴァの片腕に、マルベートが視線を向ける。
 アルヴァにとっては、『今も痛む』喪失の証であった。
「それに、食べていい熊なんて楽しみだからね!」
 マルベートの笑顔は、純粋な興味で満ちているように見えた。

GMコメント

旭吉です。
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。
リクエスト者以外の参加も可能となっておりますので、どなた様もお気軽にどうぞ。

●目標
 大熊を退治する

●状況
 幻想のとある森、夕方。村が近いので、簡単な物品なら現地調達も可能。
 森を奥へ進むと熊の方から近付いてきます。

●敵情報
 大熊×1
  全長5mほどにも育った巨熊。HP高め。
  爪や牙による攻撃には【飛】【失血】【崩れ】が。
  咆哮による爆破の魔法には【炎獄】の効果があります。
  
  その肉の効能や伝承の真偽は不明。
  退治後に調理などを試みることは可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 大熊退治完了
  • GM名旭吉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
※参加確定済み※
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
※参加確定済み※
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ

●魔女とは何かしら
 烏の声が響く夕暮れの森。
 赤い空に木々の影が浮かび上がり、黄昏の薄闇に木々のざわめきが満ちていた。
「お、大熊の、魔女……」
「いかにも伝承って感じっスね」
 少し複雑な様子の『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)の言葉に、率直な感想を続ける『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)。
「ま、ここ(混沌)だと割と現実に有り得る話な気もするな……あーホラ、女性の熊のブルーブラッドとか」
「なる、ほど……確かに……?」
「流石に夢がなさ過ぎる気もするけどな」
 メイメイが羊耳を僅かに立てる。
 近隣の人々に対して危害を与えている点が捨て置けないだけで、この魔女は本当にただの大熊のブルーブラッドである可能性もゼロとは言い切れない。少なくとも、『千殺万愛』チャンドラ・カトリ (p3n000142)から聞いた範囲では。
「同じ生活圏に暮らすと、なれば……この熊の怒りを招く、何かしらのきっかけ、はあったのかもしれません、ね」
 縄張りが近い野生動物と人間の間には、常にその問題が付き纏う。相手を害する目的でなくとも、ただ生きるために樹を切ったり。家畜を襲ったり。
 それさえ取り除ければ、あるいは。メイメイにはそのような思考も無かったわけでは無いが。
「既にヒトの味を覚えた、人里へ降りてくる熊。排除する理由はそれだけでも十分だ、魔女かどうかは置いといてな」
 『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が静かに断じる。
「野生動物にとって、ヒトは食いでのある生物ではないが。純粋な身体能力的に狩り易い生物ではあるからな」
 魔女が熊になったのか。熊が魔女になったのか。
 あるいは魔女ですらない、ただのブルーブラッドの女なのか。そもそも御伽噺に過ぎなかったのか。
(肉体は魂を入れる器だが、ひとたび収まれば、魂もまた肉体の影響を受ける。
 永く獣として過ごしたのなら、それは)
 いずれにせよ――『魔女』は、既に『ヒト』ではなくなってしまったのだろうから。
「人食いぐまはもはや生かしておけぬ。そちらが腹に収めるつもりなら、逆に我らが腹に収めてくれようぞ」
 自信に満ちてころころと笑う『慈鬼』白妙姫(p3p009627)に、葵は少しだけ気乗りがしなかった。白妙姫その人に、ではない。
「倒すのはともかく、食うんスか? マジで」
「精が付くとの話じゃからのう。きっと美味じゃ。珍味じゃ」
「珍味を料理できるなんて、腕が鳴るね。刀の錆にして、ついでにおいしいごはんに変えてやるよ」
「おお、珍味を美味として食えるのか! これはますます楽しみじゃのう」
 『若木』秋宮・史之(p3p002233)が自信を持って拳を握ってみせると、白妙姫は更に期待を寄せた。
「本当に楽しみだね。料理でも構わないけど……魔法を使う熊、しかも正体が魔女なんて。やっぱり、死んだ直後の心臓をぺろりといきたいよね……」
「いやいやいや、やめとけお前。野生動物生で食ったら腹壊すぞ!?」
 うっとりと想像する『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)を慌てて窘める『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)。そんな忠告もマルベートは何処吹く風だ。
「あれ、私のギフトの話してなかったねそう言えば。『噛み砕けるなら何でも大丈夫』なんだよ私」
「そうなのか……? だとしても熊は……」
「まあ、取らぬ狸の何とか、とも言うし。まずはちゃんと倒すことを考えるとしようか」
 史之が料理の話から討伐の話へ戻すと、こちらに関してもアルヴァは些かの不満があったようだ。
「デカい熊の狩猟だろ? 俺は山暮らしだから一人でも慣れっこだってのに」
「へえ? 君の山は、魔法を使う熊が、慣れるほど出てくる山なんだ」
「アンタな……」
 アルヴァの反応を楽しむように、面白そうに笑うマルベート。
「……」
 微笑ましくも見えるそんなやり取りを、何を言うでもなくただ眺めていたのは『汚い魔法少女』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)である。
 彼女の頭にあった感情は、ただ――『ズルい』だけだった。
 大熊の魔女が、ズルい。
(魔女ってとこには親近感あるんだけど、こっちは拳銃で死んだのに猟銃に耐えるとかズルいじゃない?)
 『魔術を扱える女』を『魔女』と定義するのであれば、元の世界にいた頃からメリーも『魔女』ではあったのかもしれない。そしてメリーは、紆余曲折の果てに拳銃で射殺された。
 だというのに、大熊の魔女は拳銃どころか猟銃にも耐えうるらしい。
 これは明確に不公平であると思った。自分だけが一方的に惨めではないか。ついでに、一方的なのは共産主義に反しているとも思う。
(だから、ちゃんと死んでもらいましょうか。じゃないと、わたしがかわいそうでしょ?)
 皆が揃って惨めなら、自分も頑張らなくていい。彼女にとっての共産主義とは、そのような利己主義が大前提のものだ。
 『そういう設定』は――何かと都合がいいから。

●森の大熊
 森を進むうちに更に西へ傾いた太陽は、高い木々の影の向こうからイレギュラーズ達の足元を照らすには心許なくなっていた。
「そろそろ……でしょう、か」
 持参していたライトでメイメイが周囲を照らすと、薄闇に木立と下草が浮き上がる。
 ファミリアーの小鳥を先に飛ばしているが、未だ熊の発見には至っていない。できればあちらに見つかるより先に、十分な戦闘場所も確保したい。
「不安定な足場で戦闘になるのは勘弁っスね。見通しが利けばなおベターだけど、森だしな」
「魔法を扱うとはいえ相手は熊一頭。対してこちらは八人。となれば、やることなぞ決まっていよう」
 周囲の地形を確認する葵に、白妙姫はくすりと笑む。
 即ち――囲んで叩く。これに尽きると。
「こっちから熊の縄張りに近付いてるんだ。その内向こうから追い払いに来そうだよな」
「ならば、探す手間もなさそうじゃのう」
「地の利もあっちにあるんだがな」
 過去の狩猟の経験から、白妙姫と言葉を交わしつつも警戒を怠らないアルヴァ。来るのは前か後ろか、右か――
「ひ、左……っ!」
 瞬間、小鳥の視界越しに映った景色にメイメイの声が跳ねる。
 短く告げられた左側の茂みが揺れたのを捉えると、まず葵が後ろへ退いて広く間合いを取った。
 入れ違うように史之が刀を手に前へ出ると、迎え撃つ姿勢を取る。 
(あの距離であの得物なら、火力に自信ありか? それならオレは――)
 やがて唸り声をあげて見上げる程の大熊が姿を現すと同時、その鼻先目がけて葵がシルバーのサッカーボールをシュートする。図体に比べれば小さなボールだが、鼻への先制攻撃は効いたようで文字通り出鼻を挫かれていた。
「一線を越えちゃった人食い熊。理由はそれで十分だよ」
 動けずにいる大熊へ一歩踏み込み、史之はその胴体へ覇竜穿撃の一撃を刻む。更に返す刃でもう一撃を加えれば、大熊は早くもその図体をその場へ沈めた。まだ唸っているところをみると、仕留めたわけでは無さそうだ。
(正面は十分そうか。それなら)
 起き上がろうとする大熊の側面へ回り込むアーマデル。未だ体勢が整わない隙に英霊の怨嗟を響かせれば、大熊は更に地を這うように転がる。
(……もし、魔女だったら)
 メイメイは、わかっていても考えてしまう。
 声をあげて苦しんでいる大熊が、そのまま人間の女性だったらと。
 こんなことをせずとも済む道が、もしかしたら。
(……いいえ、でも)
 そうはならなかったのだから、向き合わないと。
 心に決めて、体の底から呼び醒ました力で不可視の刃を飛ばした。
「ふふふ……君はどんな味がするんだろうね……」
 一方で、蠱惑的なまでの笑みを浮かべて体に魔力を巡らせるマルベート。早く『この命を愛したくて』堪らないのだ。
「俺も腕が幻肢痛で痛む前に片付けたいのは確かだけどな……。まあいい、自分より大きな獣を狩るのはこれが初めてじゃなくてね」
 アルヴァが魔導狙撃銃を構えようとした、その時だった。
「来るよ!」
『――――!!』
 絶えず大熊の思考を読んでいたメリーが声を上げた一瞬の後。その目を凶悪な形相で見開いた大熊が上を向いて、口を開こうとした。
「魔法か! 喉を狙えば止められるかもっス!」
「喉ごと口を潰せたらもっといいよなぁ!?」
 爆破魔法の兆候を警戒していた葵もすかさず警告するが、軽やかに飛んで大熊の頭上へ到ったアルヴァは隻腕ながら銃を構えた。爆破の魔法が口から発動する前に口内へ閉じ込めてしまえたら。あるいは暴発を誘えるのでは――その望みをかけて、神鳴神威をその頭蓋へ撃ち込む。
 直後、音と炎が爆ぜる。
 体勢を崩しながらも炎は発せられたが、イレギュラーズ達の多くがいる場所とは大きく外れた方向へ放たれたのだ。
「ほほぉーう、これが話に聞く。元々熊は火に強いというし、自分への影響は少ないのかの」
 唯一人、その場所で木々に隠れていたのが白妙姫であった。魔法が飛んでくる瞬間に高枝へ跳んだため、こうして今死角から見下ろすことができている。
 そして。
「せえい!!」
 その刃を、五月雨の如く見舞う。振り下ろし、斬り上げ、手首を返して三連、と斬り込もうとしたところで大熊が間合いから外れた。
(……やっぱり難しいかしらね)
 一方的に傷が増えていく大熊を見て、メリーは思う。彼女にはある思惑があったが、それが極めて個人的なものであり、自分以外の誰の得にもならないと自覚していた。ゆえに、仲間の誰に公言することもなく、達成できなければそれも致し方なしと割り切ってもいたのだ。
 メリーは、この大熊を殺したくなかったのである。
 『このままでは』、殺したくなかったのである。
「たくさん、苦しんで」
 黒いキューブへ檻のように閉じ込めて、更に神気閃光で苦しめる。気力と体力を徐々に削りながら、決して殺さなかった。

 魔法の再発を防ごうと葵は喉を狙い続け、史之は主力となって肉迫しての竜撃を重ねた。大熊に積み重ねられる不調は、アーマデルの呪殺の刃をより鋭く研ぎ澄ませてゆく。
 それでも大熊は倒れない。決してイレギュラーズが弱いのではない。耐久力が桁違いなのだ。
 それでもイレギュラーズの被害は増えない。なぜなら。
「マルベートさま、大丈夫です、か」
 メイメイが驚きを込めて呼びかける。マルベートは大熊の怒りを自分へ集中させ、自分は攻撃を躱し続けることで皆の盾となっていたのだ。
「心配無用だよ。私は討伐後の楽しみの前に、刻み削がれる肉や魂をじっくり味見しておきたいのさ」
「は、はあ」
「要は肉を食いたいだけじゃないか!」
 雷陣の一撃を撃ち込んだ振り返りざまにアルヴァに突っ込まれると、マルベートは愉しそうに笑う。
「ではその楽しみ、この一撃を以て――!」
 一、二、三。枝から飛び移った白妙姫が、白蛇の軌道を残して熊の項に白刃を突き立てた。
『――! ――、――』
 大熊は断末魔の声を上げて倒れる。再び立ち上がることはなかった。

(…………)
 その様子を、メリーは少し残念そうに眺めていたのだった。

●命の愛し方
 大熊の死体は、アーマデルとアルヴァが二人がかりで飛んでどうにか森から運び出した。時間は少しかかったものの、歩いて運ぶよりは速かったはずだ。
「冬に向け太り始めるには時期が少々早そうだが、それなりに肉のついている時期ではあるだろうな」
 この熊が狙われるようになった大本の理由は、その肉の効能である。今回参加したイレギュラーズ達も、その多くが様々な観点から興味を持っていた。
 横たわる熊の図体を改めて観察するアーマデル。その傍では、追い付いたメイメイが未だ振り払えない魔女のイメージに何とも言えない顔をしていた。
「この個体は置いといて、種としての熊は草食傾向の強い雑食だったか。肉食の獣の肉は臭いと言われるが、草食でも癖の強いものがいる。まあ、生食は勧めないな。
 特に内臓は寄生虫だのの類が巣食ってることが多いし、ヒトを食った熊でもある」
「鍋や焼肉にして火を通しちまえば大丈夫だろ。これだけ大物なんだ。村の人間たちも呼んで、今日は宴会といこう!」
 アーマデルの懸念は、アルヴァの提案により解決されることとなった。無事に脅威も取り除かれた上で振る舞われる伝承の熊の肉は、さぞかし賑やかな大宴会をもたらしてくれるだろう。
「鍋には食べられる野草も摘み入れてみようか。大自然の恵みを皆で分け合おうじゃないか」
「臭み消しの薬味や、濃いめの味付けで肉の癖を抑えれば食べやすくなるだろうな」
 マルベートの提案も実によく、頷かざるを得ないアーマデル。
「いざとなれば、まあ……消し炭寸前まで火を通せば大抵のものはなんとかなると、保護者から聞いている」
「そんなに火を通したら食べられなくなっちゃうよ!?」
 流石に聞き逃せなかった史之。ここまで現実的に意見を述べていた彼に、一体どんな保護者がそんな料理への冒涜を。
「ところで、せっかくだからこの熊の心臓でハツの薄造りを作ってみたいんだけど……確か、君は生の心臓を食べたいと言っていたね?」
 史之が振り返ったのはマルベート。戦闘前に彼女が呟いていたのを覚えていたようだ。
「何が何でも絶対に、ってほどではないけどさ。他はともかく、やっぱり『直前まで生きてた心臓』って格別じゃないか」
「ああ、何となくわかるかもしれない。なんていうの? 弱肉強食? 食物連鎖の勝者の特権? なんかこう、命そのものを食ってる感じがすごくおいしく感じるよねえ」
「うんうん、それもあるね!」
 臓器を生食できるギフトを持つほどのマルベートと、臓器すら調理する腕を持つ史之。生食と料理で結論は違っていても、『心臓』に対する特別感だけは妙に一致した。そういうことであればと、心臓は二人で分けることにする。
「食物連鎖とかはどうでもいいけど……捌く時にまず血抜きはするんだろ? じゃあその血は出る分オレが貰うっス!」
 今度は葵からだった。
「肉じゃなくて、血だけなのかい?」
「熊肉はやっぱり正直怖ぇっス……」
 得意の槍で熊を捌こうとしていたマルベートは、不思議そうに首を傾げた。
 いよいよイレギュラーズ達の衛生観念が謎めいてくるが、実は葵が血を求めるのもまたギフトに依るものだ。
 『インテイクブラッド』。血液を安全に美味しく飲むことが可能なギフトであり、このギフトのお陰で彼にとっては血液こそが最も安全な飲料ですらある。ちなみに味はほぼオレンジジュースのようなものらしい。
「戦闘中にも随分血を流してたから、どれだけあるかはわからないよ?」
「両断したわけじゃないから、そこそこあるんじゃないかな。できるだけ捨てずに残しておくね」
 マルベートと史之の話に、大満足の葵。
 後に器いっぱいに集められた中からコップに掬って飲んだ時、やはり戦闘後の一杯は格別だと再認識するに到ったようだった。

 マルベートと半分に分けた残りの心臓は、塩とごま油を混ぜた調味料と共に薄造りとして。
 他の内臓は開いた上で、焼き肉や熊鍋として皆に振る舞われていった。
 ちなみに調理した史之は、熊の正体について『魔女だったとしても今は熊なのだから』と、特に気にはしていなかったようだ。
「うう……あんまり、こんがりしていて。美味しそうな匂いで……熊さん、頂いてしまいました……」
「何かあったら胃薬はある。安心していいぞ」
 しっかり食欲に負けてしまったメイメイはその後、解体の際に出た熊の毛皮を村の井戸水で洗っていた。あの大熊から出た毛皮である。戦闘で傷は付いてしまっているが、遺された家族に渡せばいくらか生活の助けにはなるだろうと思ってのことだ。
「アーマデルさま、それは」
「開いた内臓から出たものだ。人を喰ったなら、消化しきれなかった遺品でも残っているかと思って」
 誰のものともわからないが、せめて弔いだけでもできればと考えたのがアーマデルだった。数は少なかったが、服の一部のような布きれがいくつかと、指輪のようなものを見付けることができた。
(せめて……死後は安らかに)

 一方、熊肉にも犠牲者にも興味が無かった唯一人がメリーだった。
「もっと苦しんでから死んで欲しかったなー……お腹いっぱい、食べさせてから」
 メリーの思惑とは、『人を喰った大熊に生きたまま自分自身の肉を食わせる』ことであった。そこに深い因縁などはなく、ただ純粋に『そうしたかった』。そのためだけに殺したくなかったのだ。
「ま、ここじゃあワガママ通りにくいのはわかってたけど。次はうまくやりたいわね」
 戦いの終わった森に向かって伸びをして、何事も無かったようにメリーは村へ戻っていった。

「どうだ悪魔サマ、楽しみにしてた魔女の肉は」
「ふふふ。正体が何だったにせよ、必死に生きたその命には敬意を表するよ。私の血肉となって共に生きて貰って、もっと沢山の命を喰いにいきたいね」
 戦っていた時と、処理していた時を思い出しながら、食肉となった熊を口に運びアルヴァに答えるマルベート。
「しかし、君は結構大胆な(戦い方をする)んだね。これは今後も愉しめそうかな」
「だから一人で大丈夫だって言ってるだろ!」
 この依頼が初顔合わせとは思えないほど馴れ馴れしい彼女との今後を思うと、腕の他に頭も痛くなりそうな予感がするアルヴァであった。

成否

成功

MVP

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

状態異常

なし

あとがき

リクエスト、並びにご参加ありがとうございました。
また、リプレイを大変長らくお待たせして申し訳御座いません。
今後はこのような遅延が発生しないよう努めます。

判定中は思ったより熊の攻撃が強く一時はどうなるかと思いましたが、致命も積もれば山となっていきました。これがイレギュラーズ。
最終的にクリティカルすればいいのです。
魔女の伝承の真相については――さて。

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