PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夏と媚薬とわたしの香水

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●来訪者
 香屋《ファム・ファタル》に香術師──いや、今はカウンセラー兼調香師がいるらしい。そんな話を気まぐれに立ち寄ったローレットで財産家のフィーネ・ルカーノ (p3n000079)は耳にする。だから、訪れた。静かな森の奥に佇む小さな館。膨らむ好奇心。扉をゆっくり開ければ、ふわりとラベンダーの香りが漂い、美しい人がフィーネに微笑んだ。
「初めまして、貴女がフィーネ・ルカーノ?」
 ジルーシャ・グレイ (p3p002246)が小首を傾げ、楽しそうに笑う。
「ええ、その通りよ。グレイさん」
 揺れるイヤリングを見つめながら、フィーネは笑顔を作った。
「あら、ジルでいいわよ!」
「そうね、貴方とは親しくなりたいもの。ね、ジルさん……あたくしはどんな香りを纏うべきかしら?」
「そうねぇ……と言いたいところだけどまだ、早いわね!! アタシはアンタと話をしなきゃ。ね、フィーネ。紅茶は好き? それと、甘いお菓子はどう?」
 ジルーシャは目を細めた。
「両方とも好きよ」
「それは良かったわ。じゃあ、キャンディと桃のチーズケーキを食べながら話しましょうか」
「いいわね。では、紅茶はストレートで」
 フィーネはにっこりと笑った。

 何度も紅茶をお代わりし、友人のように沢山のことを話した。
「フフ、アンタの話は何だか作り物のようでドキドキしちゃう! アタシは特に……えっ、何でアンタが此処にいるのよっ!?」
 目の前に現れた派手な男を指差し、ジルーシャは叫び声を上げた。
「何か? あら……」
 フィーネは微かに目を丸くし、王者の風格を漂わせた男を双眸に映し込んだ。
「フハハハハッ! 瑞香の弟子よ。わざわざ、この俺が出向いてやったことを、光栄に思うがいい」
 男はジルーシャを好意的に見つめ、一方、ジルーシャはうんざりした様子で男を睨みつけている。
(そうだ、この男は……)
 フィーネは笑った。
「どうして、ラサの貴方が此処に?」
 フィーネが【巌桂王】サイード・アル=バフールに声をかけた。
「ムゥ? ああ、そこにいるのはなんだ、黒色の財産家だな」
 サイードは椅子に尊大に座り、にっと笑った。サイードはジルーシャが元いた世界で三大香術師として名を馳せた一人であり、今はラサに住んでいる。
「どうやら、仕事とやらは閑古鳥が鳴いているらしい。今は、とても奇麗だからな」
 サイードは掌を上にしたまま人差し指でフィーネを差し、ハッと笑った。そう、フィーネは奇麗なのだ。傷一つない。
「ちょっと!? アンタ、フィーネに失礼じゃないの!!」
 騒ぐジルーシャをサイードは制し、「フハハハハッ! つまらぬ戯言を。事実だろう? 黒色の財産家?」
 サイードは目を細めた。殆どの者がフィーネの金の稼ぎ方を知っている。
「……どうかしらね。そんなことより、貴方の用事を知りたいのだけど」
 フィーネの言葉に一瞬だけサイードの顔色が変わる。
「ハッ! 貴様は面白いな! 何もかも理解しているのだろう?」
 サイードは手を叩いた。
「え? は? 用事? 用事って何よ? 何か、ラサであったわけ?」
 きょとんとするジルーシャ。
「ああ、これを見たまえ」
 サイードはムクゲの花に似せた透明な香水瓶を取り出し、ことりと机に置いてみせた。覗き込むジルーシャ。
「へぇ、香水! 素敵なデザインじゃない! どんな香りなのかしら?」
「こんなもの、香水とは言わぬのだ。紛い物であり、価値などありはしないわ」
 サイードは鼻を鳴らし、眉根を寄せる。
「へっ? 何よ、それ……もう! 話が見えないわよ、ちゃんと説明して頂戴な!!」
「……説明するのも口惜しいが、これはラサで最近出回り始めた香水と呼ばれるもの。これを纏えば意中の人と両想いなれると言われ、高値で取引されている。だが、実際はどうだろう? 中身は媚薬を真似たただの粗悪品。瑞香の弟子よ、分かるであろう? このまま放っておくのは香術師の名誉に関わることであると。それに、愚者どもの金儲けに付き合わされる哀れな民をそろそろ救ってやらねばならない」
 サイードは傲慢に笑った。聞けば、既に隠れ家を知っているようだ。
「……色々とツッコミたいことはあるけど良いわよ。そんな香水も、それを売ってる奴らもアタシは許せないもの! 存分に懲らしめてあげるわ! 香水も隠れ家も全部壊してやるんだから!!」
「フハハハハッ! 素晴らしい気迫。流石、俺が愛しただけのことはある! どうだ、今夜? 素晴らしき愛を与えてやろう」
「あ゛?」
 反射的にねめつけるジルーシャ。本当にサイードは厄介で面倒な男だ。

●夏は恋の季節でもある
「あっはー♡ クソ! 笑いが止まらねぇなぁ!!!! ほら、もっとわたしに金を!!! あっはー♡ ありがとー、キミはとても有能だ!!!」
 隠れ家に響く笑い声。ピンクのウサギの着ぐるみを着た胸板の厚い男(おじさん)が尻を振りながら奇妙なダンスを踊っている。多分、喜んでいるのであろう。
「……」
 その男の傍には椅子に座らされ、ぐったりしている男がいる。酸素供給装置のような機械からマスクを介して何かを吸わされているようだ。よく見れば、この男は調香師、ハニー・エインである。仕入れた媚薬(正品)を無理やり吸わされ、意識が混濁したまま、例の香水を作っている。
「ボス・ジョン! 新商品の件ですが……どちらがよろしいでしょうか?」
 トラの着ぐるみを着た若い男が声をかける。手には香水瓶が三つ。ちらりと椅子に座っている男を一瞥するトラの着ぐるみ男。
「え? あれ、今日、お休みだったよね?」
 ボス・ジョンは言った。
「ええと……すみません。ボス・ジョンに早くお見せしたくて……」
「も~~~う~~~!!! 駄目!!! ちゃんと休みんさい!! そーいうの駄目だぜ!」
「すみません」
「仕方ない……選ぼう! じゃあ、真ん中の青い瓶にしよ。形はねぇ~~~もう少しいい感じにしたいなぁ~~~!! このシズク型じゃなくて銃の形とかどう? あ、色ももっと濃いブルーがいいねぇ~~、その方がキレイだろ?」
「ええ、そうですね。分かりました」
「うん、パリティくん! お願いしたよ! あ、今日じゃなくてね?」
「はい。あの……」
「ん? どったの?」
「ボス・ジョン、ハニーさんのマスクが外れてます……」
 唖然とするパリティ。
「な、あっ!? なんだってえええええぇッ!? ぐわあああああッ!!! 待って!! 媚薬が充満しちゃう~~~~~~ん!!」
 咳き込むボス・ジョンとパリティくん、立ち上がり妖しい瞳を向けるハニー・エイン。どんどん満たされていく媚薬。そして、そんなこととはつゆ知らず、隠れ家に飛び込むとするローレット・イレギュラーズとサイード!!!! 果たして──ローレット・イレギュラーズの運命は!!

GMコメント

 青砥です。リクエストありがとうございます!! うんうん、夏は媚薬と恋の季節だね!!!(ドヤ顔) 
 
●目的
 媚薬が充満した中、隠れ家ごと香水の在庫を破壊。うん、めちゃくちゃに暴れてくださいってことですね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度は????です。
 不測の事態が起きる可能性があります。だって、媚薬ですし……(小声)

●場所
 ラサの隠れ家。媚薬が充満した平屋。時刻はお昼ご飯を食べた後くらい。入口に鍵はかかってません。何故なら、不用心だから。物が多く、色々とごちゃごちゃしています。積まれた段ボールに商品である香水が沢山入っています。香水瓶はガラス製。割れないように梱包されています。家の中は媚薬が充満しています(二回目)

●充満した媚薬
 酸素供給装置のような機械からしゅこしゅこ吹き出し続けています。吸った瞬間、トロンとし身体がかっと熱くなりやがて、へろんへろんになります。ちなみに無臭です。なので、気が付いた時にはもう……(個人差あり!)

●敵
 多分、名乗ります、彼等。ただ、媚薬でヘロヘロなのでどんな行動をするのか分かりません。

 ボス・ジョン……ピンクのウサギの着ぐるみ胸板の厚い男(おじさん)本名・ジョン・マットネス 首謀者。一番、偉い人。かくれんぼと不意打ちを行う可能性あり。すばしっこい。

 パリティくん……ボス・ジョンの趣味によってトラの着ぐるみを着た若い男。喧嘩が誰よりも強いらしい。     

 調香師、ハニー・エイン……媚薬が一番、キマッテいる男。目が妖しい。呂律が回っていないが、自分で作った香水を誰よりも守ろうとする。何故か真剣を持っている。新しい香水を共同で作ろうとボス・ジョンに提案され、普通に騙されてしまった。

●《金木犀》【巌桂王】サイード・アル=バフール
 ジルーシャ・グレイ (p3p002246)さんの関係者
 ジルーシャが元いた世界で、《三大香術師》と呼ばれていた者のうちの一人。三大香木のひとつである《金木犀》にちなみ、【巌桂王】(がんけいおう)の二つ名を与えられている。混沌に召喚された現在は「空気が肌に合った」ラサに身を置いている模様。
 【詳細】
  https://rev1.reversion.jp/illust/illust/39210

【注意】フィーネ・ルカーノ (p3n000079)はリプレイに登場しません。

  • 夏と媚薬とわたしの香水完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年09月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
※参加確定済み※
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
白妙姫(p3p009627)
慈鬼
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ


 平屋は確かに存在した。
「案内してやったぞ。見ろ。あの大きさ、まるで犬小屋のようだな」
 サイードがハッと笑った。
「アンタねぇ。言い方ってものがあるでしょう? って、この手は何!? ちゃっかり、肩組んでるんじゃないわよ!」
 『ヘリオトロープの黄昏』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)がぶるりと震えながら、サイードを瞬く間に地面に投げ飛ばせば。
「元気じゃの!」
 『慈鬼』白妙姫(p3p009627)がたまらず笑い出す。
「べ、別にアタシは! もう、あの男が悪いのよ!」
 ジルーシャが頬を膨らませる。
「まぁまぁ、見よ。ドアが開いとる。まったく不用心が過ぎる。留守かの?」
 すぐに室内の音を念の為、確認する。
「ほぉーん、なるほどのう。微かな笑い声と空気を送りこむ音が世話しなく聞こえておるぞ。作業中かの」
「談笑しながら作業しているのかな。ただ、空気を送り込む音はなんだろうね、流石に隠れ家に致命的な罠とか仕掛けてあるとは考えづらいところではあるけれど、もしかしたらはあるかもしれないし、警戒しておいて損は無いよね!!」
 『空に願う』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が二頭のメカ子ロリババアの頭を撫で目を細める。
「うん……警戒して、ズルする人に、お仕置き、してやらないと、いけないの。あと、不良品も、全部壊すの」
 『憎悪の澱』アクア・フィーリス(p3p006784)が虚ろな目を平屋に向ける。
「それに、不良品を、使った、誰かが、いじめ、られている……かも」
 アクアの指摘に一同はハッとする。可能性は充分にあった。
「そうだね、早く壊してあげないと。辛いことが沢山起こったりするのは嫌だもんね!」
 ヴェルーリアは力強く頷き、アクアに笑顔を向ける。アクアの身体から絶え間なく噴き出す漆黒の炎が僅かに収まった。だが、ごうごうと空気を呑み込んでいくその音はアクアの苦悶の声に似ている。
「皆の話を聞いたらぶっ壊したい欲が増してきた。よくない品物を流通させて、調香師の信頼を裏切るような行為も、買った人を不幸にする香水なんて……許せるわけがない」
 『未来を、この手で』赤羽・大地(p3p004151)が拳を握りしめる。
「では、押し入るぞ!」
 白妙姫が扉の前に立った。
「ちょっと待って、ボクが先に行くよ! むしろ、ボクに行かせて!」
 白妙姫を制したのは『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)。見るからにヒィロは怒っている。紛い物の愛は愛なんかじゃない。愛は自然なものだ。香水なんかに惑わされるものなんかじゃない。それに誰かを大切に思って不幸になるなんて嫌だ。
「ボクは美咲さんのことが大好きだよ! だから、許せない……絶対にそのふざけた香水をぶち壊す!!」
 ヒィロはジャンピングキックでドアを蹴破り、室内に侵入する。左瞳に宿る緑の灯火がゆらゆらと揺れる。
「私もヒィロが大好きよ……」
 『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)が呟き、「私達が来たからにはもう終わり。観念なさいな!」
 飛び込んだ。美咲の視線の先には常にヒィロがいる。

 踏み込んだその場所は、清潔な香りがする。
「見たところ、倉庫兼ミニ工場って感じだね。それっぽいものはどんどん壊していくね!」
 ヴェルーリアが香水を探しながらいるはずの首魁の姿を警戒する。隠れているのだろうか。ヴェルーリアはすぐさま窓を開ける。
「毒みたいなのがもし、撒いてあったら悲しいからね。あれ? ジルーシャさん!」
 ヴェルーリアは酸素供給装置のような機械を指差す。しゅこしゅこと音が鳴っている。
「妖しいわ、まずはあれを壊しましょ!」
 ジルーシャは竪琴で精霊を呼び出し、機械の破壊をお願いする。精霊が部品を取り外し、ヴェルーリアとジルーシャの黒き獣──リドルが機械をどうにか破壊する。
「早く出てきなさい! どこの誰の仕業か知らないけど、お説教してやるわよ!」
 心を作り変えてしまう香りは《禁忌》となる。だが、それでも。
(好きな人に好きになってもらいたいものよね)
「……って、気合い入れすぎかしら……何だか体が熱いわね……?」
 
「沢山あるのう」
 白妙姫は見上げる。段ボールが山のように積まれている。意中の人と両想いなれる香水。効果以上に自分の身体に香水を振り撒いたらへろんへろんになってしまわないのだろうか。不思議でたまらない。
「むっ。うむっ? 体が、少しおかしい……なんじゃ、この感覚は」
(血が沸き立つようでいて、力が抜けるようじゃ。それにどうも……「はら」が、熱い……も、もしや……あの音は作業などではなく……)
 白妙姫は振り返った。壊したはずの機械から何かが漏れだす音が小さく聞こえる。
「惚れ薬の類をばらまいておったのか!? くっ、してやられた! ととと、とにかく換気じゃ。窓を開けい、窓を。って、開いておったの!! それなのに!」
 ゾッとする。
「惚れ薬!?」
 ヒィロが目を見開く。
(うまく考えられなくて……体の敏感なトコがじゅんじゅんしてきちゃってるのは惚れ薬のせいってコト……!?)
 狐耳をぴんと立て尾を世話しなく振るヒィロ。その顔は挑発的に赤い。
(……!? ちょっと……なにこれ……無臭で即効とか周到な待ち伏せ……)
 美咲は緊張の面持ちで辺りを見渡したが、そこには仲間の姿しか見つけられなかった。
(……でもないな。ばかなの?)
 虚無顔で美咲は敵を罵った。ただ、気がかりなのは。
「ヒィロ! 吸い過ぎるとまず……!!」
(あっ、対応順ミスった☆)
 ふふと笑う美咲。媚薬を吸わぬよう離脱すべきだったが声掛けで普通に吸引してしまった。
「えっ!? あっ、だだだだいじょーぶ! きっと気のせいだから……美咲さんそんな魅惑的な目でボクを見詰めないで……! らめだってばぁ……じゅんじゅんしちゃうからぁ!」
 ヒィロの悲鳴が響き渡る。
「え、なんだ、あの声……? んっ、あっ……! え? おい、赤羽は大丈夫か?」
 大地が困惑の表情を見せる。変だ。いつからだろう。身体が猛烈に熱く、ビクビクしてしまう。
「一体何がどうなってやがル……!? 罠なのカ!? いやそんなものハ、何処にもなかったゾ」
「だな。なんだこれ……めちゃくちゃ、あちぃし変な気分になる……んっ、んんっ……!」
 大地は真っ赤な顔で、香水に使うのだろうか、ビーカーを壊しまくる。
「大地、壁を破壊するんダ……!」
「わーかってる!! 空気をなんとか入れ換える……!」
 大地は汗を乱暴に拭い、壁に狙いを定めた。
(しかしなんだ……? この、胸の痛みと高鳴りは……)
「……?」
 『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は不思議な心持だ。何もないはずなのに、妙に心が沸き立つ。例えるなら、そう。甘い果物を前にした時の高揚感に感覚が似ている。
「アクア、どうされましたか?」
 サルヴェナーズは眠たげなアクアに声をかけた。
「何か、頭が、ふわふわ……する……体、あつい……すごく、変な、気持ち……」
 アクアの耳と尾がひくひくと動き、半開きの口から濡れた舌が見える。
「ええ、私もそのような気持ちになっています。よく分かりませんが、この建物の中で何かが起こっているのは確かなようですね。気を付けて進みましょう」
「……?」
 理解できないアクア。頭の中はもうぐちゃぐちゃで両足に力が入らない。
「アクア?」
「どうしよ……」
「はい?」
「服、脱ぎたい………」
 アクアの顔は真っ赤で、誘うような荒い息遣い。これは、疑似発情期のサイン。
「え? あの、此処では駄目ですよ。進みましょう。このままではどこにも行けませんよ……」
 サルヴェナーズはアクアの腕を必死に引っ張って前に進もうとする。


 遭遇しハッとする一同。
「誰です、あなた達は……? 僕はパリティ。ボス・ジョンの大切な人ですよ!!」
 トラの着ぐるみを着た若い男、パリティが綺麗な千鳥足で飛び込んできた。
「わたひはぁっ……あんたらひ! こーしゅいはわたしゃん……!」
 ハニーが唾を飛ばし、真剣で襲いかかってきた。
(ぐひひ、この場所は絶対にバレないよ~?)
 トイレからの奇襲を試みるボス・ジョン。
「見つけたぞ!」
 真っ赤な顔をした白妙姫がバンとトイレのドアを開けた。
「え、なんで?」
「カサカサ音がしてたからの!」
 抜刀し、ハートのエフェクトとともにボス・ジョンを斬りつける。
「早く終わらせねばわしが持たぬ……このままでは薄い本のような展開に……」
 白妙姫は息を吐きだした。しかしながら、薄い本のような行為がこの平屋で行われていたのだ。
「美咲さん……♡ ね、触って? ボク、美咲さんに触って欲しい……」 
 ああ、媚薬に堕ちたしヒィロ。火照った身体を美咲にすり寄せ、上目遣い。
「ヒィロ……勿論よ……」
 ヒィロの爆発的な可愛さに美咲の理性が崩れ落ちた。腕を身体に絡ませ、指先を丁寧にヒィロが求める先へと伸ばせば、ヒィロの甘くて耳の中にねっとりと残る声が美咲を昂らせる。ちなみに美咲とヒィロの名誉の為に言うが、これは媚薬のせいだ。本来、きちんとした作戦が(以下省略)
「みんなを元に戻さないと」
 クェーサーアナライズを噴射し回復を試みるヴェルーリア。その背にはバックパック。
(どうにかしなきゃ……平常心、平常心)
 そう思うヴェルーリアもまた、へろんへろんだった。
「百合の花が咲き始めているのか?」
 大地が攻撃をしながらぼそり。
「馬鹿なことを言うナ!! やレ、あいつ等を撃ちまくレ!!」
 赤羽が叫ぶ。
「嫌だ、頭がどうにかなりそうで……助けて、赤羽……!」
「くそったれガ!!」
 赤羽が吠え、飛び込んできたパリティを投げ飛ばし喘いだ。
「おかしいゾ! 黒猫根付、ウェヌスの嘲笑があるんだから精神面は耐えられル、筈だロ!? まさカ、媚薬の効きは別だっタ? そんな馬鹿ナ……!」
 呆然とする赤羽。サルヴェナーズが一歩前に進み、顎を引く。
「此処は私に任せてください。さぁ? どうされましたか、そこの方。私と一緒に、こちらで休んで行かれますか?」
 サルヴェナーズが胸元を強調させながら煽るような色っぽいポーズでハニーを惹きつける。
「貴方もですよ?」
 パリティを見つめるサルヴェナーズ。
「「……」」
 パリティとハニーの瞳にサルヴェナーズは映ってはいない。それぞれが強く惹き付けられる者の姿となり、惑わす。
「どんどん行きましょう」
 サルヴェナーズの身体に裂傷が生まれる。途端にパリティとハニーの顔が歪み、悪夢を見始める。うねりその身に絡みつく大蛇の群れ。
「くびが、しまっ……!!」
 ハニーがその場でもがき苦しむ。
「来るな、くそ蛇どもがぁ!!」
 パリティが自らの身体を殴りつける。サルヴェナーズはハニーを突き飛ばし、パリティを見た。
「苦しいですか?」
 サルヴェナーズは息を吐いた。正直、身体が重い。
「助けて……助けてください!」
 半狂乱のパリティ。サルヴェナーズは左右にかぶりを振った。
「!!」
 パリティに繰り出されるサルヴェナーズの格闘術。斬りかかってきたハニーの攻撃をいなし、サルヴェナーズは駆けだす。

「隙だらけよのう?」
 躍り出た白妙姫がボス・ジョンの急所をぐさり。
「は、早いうちに降伏したほうがよいぞ。わしはもともと未熟故、峰打ちなんぞ期待できんぞ。それに、体が……いうことを効かんでの。ますます加減ができぬぞ」
 笑う白妙姫。その身からお香めいた甘い香りがする。
「窓、開いてる……? だめ、そとのひとに、めぃわく、かかる、の……」
 アクアは換気の為に開けた窓をせっせと閉めていく。
「アクア! 何故ダ、何故窓を閉めル!?」
 赤羽がクェーサーアナライズでアクアを正気に引き戻そうとする。
「そう、だ……お仕事、お仕事……」
 アクアは赤羽の言葉で責務を思い出した。中衛に立ち、ボス・ジョンに焦点を合わせる。
(着ぐるみ着てるから悪そうに見えないけど、首謀者って言ってたからきっと悪い人なの……やっつけないと……)
 アクアは攻撃を仕掛けた。吹き飛ぶ段ボールの山とボス・ジョン。香水が割れ、足元に散らばる。アクアは息を吐き、ボス・ジョンを火だるまにする。同時にアクアの身に傷が生まれた。
「あれ、どうしよ、抑え、られない……体が、さっきより、あつくて、むずむずして……あふ……暴れて、気を紛らわせないと、おちつか、ない、の……襲わせて……早く、襲わせ、て……!」
 脱いでしまったアクア。香水の中身が業火によって一気に気化したようだ。縞パン姿で濡れた瞳にハートが浮かんでいる。
「落ち着きなさい」
 ジルーシャが誰かの外套をアクアに羽織らせる。
「血の、匂い……」
 とろとろもじもじのアクア。
「そうよ、この痛みがアタシを救ってくれるのよね」
 ジルーシャの拳から真っ赤な液体が零れていく。香水瓶の破片を握り締め、痛みで正気を保とうとする。
「瑞香の弟子、手を貸せ」
 半裸のサイードが現れ、ジルーシャの手をぐるぐる巻きにする。その横でメカ子ロリババア達が真顔でひっくり返っていた。
「え、ありがと」
「有難く受け取ってくれ、俺の布だ」
「え? いや、何処の布よ!!」
 サイードの尻を蹴り飛ばすジルーシャ。
「無条件で蹴る予定だったのに……アタシったら!」
 息を吐き、風の精霊たちに語りかければ精霊たちは換気扇を回し始める。
(媚薬の効果を和らげられる香り……ペパーミントはどうかしら)
 手を震わせ、調香を始める。サルヴェナーズのお陰で攻撃される心配がないのだ。
「は……っ、熱っつ……まったく、この……アタシを甘く見るんじゃないわよ……!」
 ぎりぎりと奥歯を噛み締める。

「こちらですよ。どうか私を捕まえて下さい。捕まえてくれたら、何でもして差し上げますからーーね?」
 サルヴェナーズは微笑み、甘い香りを発する。ハニーとパリティは喉を鳴らし幻影に溺れ、足元を覆う泥から蛇や蠍や羽虫が幾匹も湧き出る。ジルーシャが手に巻いてあった布を外し、ハニーを指差す。
「そろそろ、目を覚ましなさい! アンタが命がけで守ろうとした香水は金儲けの道具になってるのよ!」
 より、流れていく血液。獣に似た何かが真横に振るったハニーの真剣に攻撃を与えれば、衝撃でハニーが吹っ飛んだ。
「それに、悔しいじゃない……香水を手にした誰かを、幸せに出来ないなんて!」
 ジルーシャが顔をしかめる。
「グウ、身体が熱いのは気の所為、ムシャクシャするのは連中が巫山戯てるせいダ……!」
 怒り狂った赤羽がパリティを転倒させる。
「私もお手伝いするからね!」
 赤羽を援護するヴェルーリア。ハニーとパリティを立ち上がらせない。

「んっ、ヒィロかわいい……」
「あっ、はっ……美咲さん……♡」
 イチャイチャタイムの真っ最中。だが、悪いな。とーってもイイ雰囲気の中、ボーリング大会のようにハニーとパリティが真横を転がっていく。
「ああもう、煩いっ……!!」
 今、いいところなのに。パリティをねめつけ、怒りをぶつけるヒィロ。顔だけはパリティを見ていたが身体は美咲にゾッコンである。
「んだから、邪魔、すんな!」
 美咲が邪魔者を僅かに睨みつければ、虹の魔眼がパリティを弾いた。ちなみに攻撃のタイミングで止めていた美咲の手はすぐに動き出す。
「……ヒィロ」
「美咲さん」
 しばらくの間、ハートマークが飛び交っていたが、換気や香り、声掛けによって媚薬の効果が薄まっていく。精霊たちが広げたペパーミントの爽快な香りを吸い込みながら、ヒィロは慌てて醜態を晒した恥ずかしさを誤魔化すように激しい攻撃を仕掛け、美咲はテンションが下がっているのかチベットスナギツネ顔で淡々と仕事をこなす。


「「すみませんでしたぁ」」
 傷だらけのパリティとボス・ジョンが頭を下げる。
「もう、こんなことは止めてくださいね?」
 サルヴェナーズの言葉に悲鳴を上げるパリティとボス・ジョン。心の傷はとても深い。
「さっさと香水を破壊して回ろう。確か隠れ家ごとこわすんじゃったの。あばれてしまうぞ!」
 白妙姫の言葉にも悲鳴を上げる。
「はぁ……うぅ……やぁ、ひとりに、しないでぇ……」
 涙目のアクア(服は着ました)がヴェルーリアに抱き着く。ヴェルーリアはハニーの傷を癒しているところだった。
「大丈夫、一緒にいようね!」
 ヴェルーリアが笑顔を見せる。

「雑に処理しちゃったけど、ごめん、早めに戻るわ……ヒィロ、いこ」
「うん……して欲しいな」
 美咲におねだりするヒィロ。そそくさとどっかの宿に向かう。そう、色々と中途半端だったし場所が場所だったしね!
 
「よいっしょっと……なあ、ジルーシャ」
 大地が無水エタノールを抱え、目を細めた。
「ハニーさんは勿論、ここに集まった材料にも罪はない……なにか良い香水を作れないかなあ」
「サイードに作り変えて貰おうかしら。香りの処方箋をほら、見つけたの。好きな人と両想いまでは無理だけれど、いつもよりほんの少しだけ自分を魅力的に見せてくれる香水、なら恋のお守りにぴったりでしょ?」
 ジルーシャの言葉に嫌そうな顔をするサイード。
「出来るだろ? 才に恵まれた者なら。リコリスの力も貸してやるからさ?」
「ホラ、大地もこう言ってるんだし、頼んだわよ【巌桂王】!」

 数週間後──件の香水から《真夏の夜の夢》が出来上がったのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ふぅ、お疲れ様でした。媚薬ってコワイナー!!!!

PAGETOPPAGEBOTTOM