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シナリオ詳細

名も無き浮き島。或いは、“銀鷲”アルコと空の旅…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海より広い
 窓の外に見える景色は一面の白。
 鋼鉄。
 都市から遠く離れたその渓谷は、この世界でも一等空の近い場所の一つであった。
 ごう、と風の唸る音。
 エンジンの稼働する振動。
 薄い木材を張り合わせた船室は、防音性能が低かった。
 操舵輪と操縦席。
 小さなテーブルと椅子、ほんの小さな食糧保管用の棚。
 狭い船室であるためか、内装はいたってシンプルだ。
「やぁ、空の旅はお楽しみいただけているかな」
 操舵輪を操りながら“空賊”アルコはそう問うた。
 アルコは白い髪をゴーグルで押し上げた、褐色肌の女性だ。
 その肩には、1羽の大鷲……アルコの相棒であるファルコが止まっている。
「うん、すっごく素敵だよぉ」
 アルコの問いにホワイティ(p3x008115)はそう返す。
 その視線は、窓の外に向いていた。
 見えるのは一面、白い雲ばかりの景色だ。
 アルコにとっては見慣れた空の景色だが、ホワイティにとってはそうではない。
「それで、目的のものは見えないかな?」
「こっちは駄目だねぇ。アルコさんの方も見当たらない?」
「うん。見えないね。見えないけど、この辺りのはずなんだよねぇ」
 なんて、そう言って。
 ホワイティは壁に立てかけていた、愛用の盾を手に取った。
「いざとなったら、わたしが守ってあげるからねぇ」
「あぁ、頼りにしてるよ、ホワイティ。これから向かう先に、何があるのか、どんな危険が待ち受けているのか、分からないからね」
 危険、とアルコは口にした。
 しかし、アルコの顔には隠し切れない喜色が滲んでいる。
「さぁ、冒険を始めよう」
 静かに、けれどはっきりと。
 そう告げたアルコは、飛空艇の舵を切る。
 遥かに西の空遠く、赤い夕陽が沈んでいくのが視界に映る。

●空に浮く島
 ――ANOTHER QUEST:“銀鷲”アルコと空の旅、発生――
 
 Rapid Origin Online
 それはもう一つの現実。
 それはもうひとつの混沌。
 それはもうひとつの世界。

『“銀鷲”アルコからの招待状が届きました』
 そんなシステムメッセージに誘われ、ホワイティはアルコのアジトを訪れた。
 アルコのアジトとはつまり、以前にホワイティや仲間たちが奪還した飛空艇のことだ。
 全体の形としてはラグビーボールのような楕円形をしている。
 丈夫な布を張り合わせて造られた胴体部分。
 中に詰まっているのは、空気よりも比重の軽いガスだろうか。
 その下部には、ゴンドラ状の操縦室、上部には甲板が取り付けられている。
 また、操縦室の後部にはプロペラが設置されており、それを回転させることで推進力を得ているのだろう。
「以前はゆっくり見ている時間は無かったよね。これが私の住処にして、我が“アルコ空団”の母船“ジファール”さ」
 すごいだろ、と。
 胸を張ってアルコは告げた。
 それからアルコは、ホワイティを船室へと招き入れると早速空の旅へと出かける。
「どこに行くの?」
 そう問うたホワイティに、アルコは答えた。
「実はね、君に相談したいことがあるんだ」
「……相談?」
「そう。相談。冒険についてのね」
「冒険!? 面白そうだねぇ」
「そう言ってくれると思ったよ。さて……私がこの渓谷に住んでいるのはね、ある島を冒険するためなんだ」
 ほら、と。
 アルコが指差した先には、渓谷に向けてゆっくりと迫る白く広大な雲だった。
「あの雲の上には島が1つ乗っているんだ。そして、あの雲は一定の周期でこの渓谷にやって来る」
 渓谷に差し掛かると、雲はどんどん高度を下げて、飛空艇でも乗り込めるようになるらしい。
 そのタイミングを見計らい、アルコはこれまで何度も島を探しに行った。
 ちなみに、島が上空に無い期間は他の空賊やならず者を狩って、活動資金としているそうだ。
「それで、島には乗り込めたのぉ?」
「それがね、雲の中には幽霊船がうろついてるんだ。それが邪魔で、島に辿り着くことは出来なかった」
 つまり、アルコの依頼とは島への到達補助である。
「島に到達したら、これを設置する」
 アルコが手にしたそれは、赤い石の嵌められた箱だ。
 どうやら発信機のようなものらしく、それを設置することでアルコは島の位置をある程度補足できるようになるという。
「島が渓谷の上に停滞している時間は短いからね。今回は、島に辿り着くまでとしようか」
「なるほどぉ。それで、幽霊船って言うのは、どんなのかなぁ?」
「あぁ、ボロボロの飛空艇だよ。それと、無人の僚機が10数機ほど」
 装備としては威力の高い機銃や大砲。
 直撃すれば【退化】【滂沱】【飛】の状態異常を受けるという。
 一方、ジファールには武器の類が備わっていない。
「私1人じゃ、操舵だけで精一杯だからね。あっても使えないんだよ」
 ジファール上部の甲板は、縦30メートル、横15メートルほどのスペースがある。
 その気になれば、そこに兵装の類を設置することも可能だろうか。
「まぁ、下手に装備を増やして機体を重くするより、戦力として人を乗せた方が効率的かもね」
 私は戦うのが苦手だけどね。
 そう言ってアルコは、おかしそうに笑うのだった。

GMコメント

こちらのシナリオは『アルバトロス空賊団。或いは、“銀鷲”アルコの飛空艇…。』のアフター・アクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5851 

●ミッション
雲の上の島への到達


●ターゲット
・ゴーストシップ×1
ジファールと同程度の大きさをした飛空艇。
かなりボロボロで、到底飛行できる状態では無いが、どういうわけか飛んでいる。
武器として大砲と機銃を備えている。

大砲:物遠範に大ダメージ、滂沱、飛

機銃:物遠単に中ダメージ、滂沱、退化


・ゴーストシップ(僚機)×13
1人乗りサイズの飛空艇。
速度と小回りに優れるが、耐久性は低い。
武器として機銃を備えている。

機銃:物遠単に中ダメージ、出血、ショック
 

●NPC
・アルコ&ファルコ
白い髪、褐色肌の女性。背には翼を持つが、怪我のため飛行能力は失われている。
そのため、相棒のファルコに騎乗し戦闘を行う。
基本的には一撃離脱の戦法を得意としている。。
サーベルを武器として用いるが戦闘能力は低い。
優れた視力を用いた索敵や、ヒット&アウェイを主とした戦闘を得意とする。
……が、今回はジファールの操縦を担当するため戦闘には参加できない。

・ジファール
アルコとファルコの住居兼移動手段。
全体としては楕円形。
ガスの詰まった胴体部分と、上部に甲板、下部に操縦室が備えられている。
甲板は縦30メートル、横15メートル幅。


●フィールド
鋼鉄。
都市から遠く離れた渓谷の上。
雲の中や雲の上。一面が真っ白な世界。
サクラメントはジファール、操縦室に設置されている。
戦闘はジファールの甲板上で行うことになるだろう。
飛行手段を有する場合は、ジファールから多少離れることも可能。
ジファールを警護しつつ、雲のどこかにある島を探すことになる。
※もちろん地上に落下すれば【死亡】する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 名も無き浮き島。或いは、“銀鷲”アルコと空の旅…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドウ(p3x000172)
物語の娘
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
花楓院萌火(p3x006098)
アルコ空団“風纏いの踊り子”
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
オルタニア(p3x008202)
砲撃上手
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用

リプレイ

●ジファール、雲の海を行く
 風に煽られた船体が、突然激しく、大きく揺れた。
 ここは空の上、白い雲の大海原。
 空賊“銀鷲”アルコの操る飛空艇・ジファールの甲板で『アルコ空団“蒼き刃の”』ドウ(p3x000172)は頭上へ視線を送る。
 一瞬、太陽の光を遮って小さな影が頭上を抜けた。
 鳥だろうか……否、それはボロボロの小型飛空艇である。翼には大きな穴が空き、船体も錆だらけといった有様ながら、辛うじてそれは飛んでいた。
「この幽霊船は何を求めているのでしょうね?」
 なんて、誰に向かって言うでもなくドウはそんな言葉を零す。

 アルコを初めとした“アルコ空団”の面々は、ジファールに搭乗し空の上にいた。
 一塊の白い雲。そのどこかにある、空飛ぶ島を目指しているのだ。
 しかし、それは容易な航行ではない。
 雲の中には、幽霊船とその僚機が待ち構えているのだから。
「頑張りましょう。ね、クマさん」
 甲板前方、仁王立ちする『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)は両の腕を顔の横へと掲げた威嚇のポーズを取った。
 それに合わせ、ハルツフィーネの頭に乗ったテディベアも全く同じ動作を行う。
 直後、見た目の可憐さからは想像も出来ぬ威圧が放たれ、接近する僚機の幾つかは思わず進路をジファールから逸らしたでは無いか。
 その様たるや、まるで肉食の獣に出会った、哀れな兎のようでさえある。
「来たねゴーストシップ! たくさんいる僚機が厄介そうだからまずは僚機を減らしていくんだね?」
「援護射撃は任せて! 威力的に援護を超えてるかもだけど!」
 船体後方へ回った僚機を迎え撃つべく『ダンサー』花楓院萌火(p3x006098)が駆けていく。空の高くに吹く風に、長い黒髪が跳ねるように揺れていた。
 一方『半魔眼の姫』オルタニア(p3x008202)は、腰に下げたホルスターに手を添えて、その場で僅かに腰を落とした。
 油断なく周囲に視線を走らせ、クイックドロウの要領で僚機を狙い撃っていく。
 しかし僚機も空での戦いは慣れたもの。僅かに機体を傾けて、オルタニアの射撃を回避し、一気にジファールへと迫る。
 そんな寮に前に、銀に輝く翼を備えた『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)が飛びあがる。
「この空で俺と心中して戴けますか?」
 機銃の掃射を浴びながら、ツルギは加速し僚機のコクピットへと取りついた。

 同時刻、ジファール船室。
 操舵輪を握るアルコへ向けて『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は問いを投げかける。
「アルコはあの島には何があると考えて居るんだ?」
 空のどこかにあるという浮き島。
 雲の海を行く幽霊船は、まるで浮島を守るように近づく者へと襲い掛かるのだという。事実、ジファールが進むにつれて襲って来る僚機の数も増していた。
「んー? どうだろうねぇ……彼らの隠した財宝でもあるのかもね」
 死してなお、宝に執着する怨霊。
 それがゴーストシップの正体であり、浮島の存在意義であるとアルコは予想しているようだ。
「そうか。それなら……あ」
 ベネディクトの視線の先で、機銃に撃たれたツルギが落下していった。
「そ、それじゃあ、操縦は任せたからねぇ。その分護衛は任されたよぉ!」
 ツルギが復帰するまで、幾らか時間が必要だろう。その間のカバーを務めるべく『アルコ空団“白き盾持ち”』ホワイティ(p3x008115)は、甲板へ向けて駆けていく。
「油断は禁物ですよ。嫌な予感がします」
 ホワイティを牽引しながら走る『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)は告げた。
 先ほどから、黒子の脳裏でアラートが鳴り響いているのだ。
「船体周辺を旋回している僚機の軌道や、攻撃の頻度、その配置から判断するに……来ますね」
 甲板へ続く扉を押し開けると同時、ごう、と空気の震える音が鳴り響く。
 
●ゴーストシップ
 雲の中に身を潜めていた幽霊船が大砲を放つ。
 雲は吹き飛び、空気は震え、大質量の砲弾が一直線にジファールへと迫った。顕わになった幽霊船はボロボロだ。船体には無数の穴が空き、所々は部品や装甲が脱落している。
 しかしそれは、どういうわけか飛んでいた。
 明確な意思を持ち、侵入者へと襲い掛かる……まるで縄張りを守る獣のようではないか。
「甲板を抉りながら、船尾のプロペラを撃ち抜くつもりのようですね」
「させないよぉ! "白き盾持ち"の力を見せてあげる」
 萌火やオルタニアが回避行動に移る中、ホワイティは大盾を構えて甲板中央へと走る。
 腰を低くし、両の脚を床板に押し付けた。身体の前面に翳した大盾に、肩と額を押し付けるようにして、その時に備える。
「皆もジファールも守ってみせるよぉ!」
 甲板の板を砕きながら迫る砲弾を、ホワイティが受け止めた。
 衝撃がホワイティの全身を叩く。
 内臓が、筋肉が、骨が軋む。しかし、ホワイティの脚が床板に沈んだ。
 砕けた木っ端がホワイティの頬を裂く。
「んぃぃ、ぎぃっ!!」
 強引に、ホワイティは砲弾を後方へと弾く。僅かだが、砲弾の軌道は上方へと逸らされた。それによりジファールが大きなダメージを負うことは無かったが、引き換えにホワイティの体が後方へと飛ばされた。
 砲弾が彼方へ飛び去った瞬間、離れていた僚機がジファールへ迫った。永く……それこそ、幽霊船になる以前から同じ組織として活動を続けていたのだ。幽霊船本隊と僚機の連携は抜群である。
「うぉっと、危ない。やはり、まずは僚機の数を減らすべきでしょうね」
 甲板を転がっていくホワイティの手を掴み、黒子は彼女の転落を防止。そうしながらも、素早く周囲へ視線を走らせ、僚機の位置を確認する。
 前方に4機、左右にそれぞれ2機ずつが配置。ジファールの後方には僚機がいない。
「……また撃って来るつもりですね」
 大砲に巻き込まれないための配置だ。
 しかし、おかげでカバーする範囲が幾らか狭くて済む。
「少なくとも3機は落としてください。ジファールの動ける範囲を広くします」
「おっけー! じゃぁ、こんなのはどうかな?」
 甲板に機銃を打ち込む僚機へ向けて、オルタニアが銃弾を放つ。展開された銃口へ、狙いすました一撃が命中。小規模な爆発が起き、僚機は大きく高度を下げた。
「っ……まだ飛べるの? なら、落ちなければ何発でも!」
 再度、僚機へ狙いを定めるオルタニア。しかし、別の僚機がオルタニアへ向け掃射を開始した。悲鳴をあげながら、   甲板をジグザグに走って逃げるオルタニアを横目に、ベネディクトが前へ出る。
「やはり相手の方が空の戦いにおいて優位にあるか……!」
 彼の手にしたその刀は、不気味なほどに白かった。 
 淡く光るような刀身を傾ければ、陽光を反射しきらりと光る。それを大上段に構えたベネディクトは、高度を下げた僚機へ向けて刀を疾く一閃させた。
 放たれるオーラはまるで竜の爪のごとく。
 空を疾駆し、飛ぶ斬撃が僚機の片翼を抉り砕いた。
「っ!?」
 僚機を落としたベネディクトを脅威と見たのか、敵の狙いはそちらへ移る。
 前方および右方向から迫る銃弾の雨を、回避するのは困難だろう。
「右は私が」
 ベネディクトを庇うようにドウが甲板を疾駆する。滑るように移動しながら、上方へ向け剣を振るった。放たれる蒼い斬撃が、機銃と翼を斬り裂いた。
「蒼刃……そう名前を付けました」
 “蒼き刃”の異名に違わぬその斬撃は、まるで空を自在に舞う鳥だ。
 猛禽のごとき蒼き刃に狙われた僚機は、翼を失い大きく傾ぐ。
 ふらふらと機体を揺らしながらも、僚機はどうにか高度を維持し続けるが……。
「連携を取られちゃ困っちゃうよね。私が戦線をかき乱すぞー!」
 タン、と。
 軽いステップで、萌火が舞った。
 弾むように、流れるように。
 魔力の残滓を散らしながら、舞う萌火に惑わされ、僚機の軌道が大きく乱れた。甲板へと接近しすぎたその機体を、ドウとベネディクトの放つ斬撃が抉る。
 翼と胴とコクピット、3つに解体された機体は甲板を転がり、空へと落下していった。
「下からも2機……操縦室を狙うつもりですか」
 甲板を駆けまわりながら、黒子は状況把握に努める。
 ホワイティやハルツフィーネの奮闘により、ジファールのダメージは最小限に抑えられている。しかし、操縦室を狙い撃たれては、船体のダメージを抑えたところでどうしようもない。
「私が行った方がいいですか? 飛行手段を用意していますが」
「……いや、問題なさそうです」
 ドウを制止し、黒子は一つ安堵の溜め息を吐いた。
 操縦席の屋根に立つ、ツルギの姿を見たからだ。

 頬を引き攣らせながら、しかしアルコは操舵輪から手を離さない。
 その肩に止まった大鷲ファルコが「ケェ!!」と甲高く鳴く。
 操縦席のフロントガラスに2機の僚機が映っていた。その銃口は、まっすぐアルコの方を向いているけれど、不思議なことにその銃撃が操縦席を撃ち抜くことはない。
「さあ、魂の対話を始めましょう」
 ばら撒かれる銃弾を一身に受けながら、ツルギは告げた。
 銀光を背に負うその立ち姿からは、ある種の神々しささえ感じる。
 或いは、死者を導く天使と呼称すべきだろうか。どちらにせよ、そう易々と落とせる壁で無いことは確定的である。
 ならば、とばかりに僚機はジファールとの距離を詰め……その選択が悪手であったと知るのである。
 ザクリ、と。
 鋭い爪が、僚機を穿つ。
 ハルツフィーネの操るテディベアの爪だ。
 1機、機関部を貫かれた僚機は黒煙を噴きながら地上へと落下していくのだった。
「私のクマさんは、そんじょそこらのスナイパーには負けないくらいに器用なので」
 そう告げるハルツフィーネは、どこか浮かない顔をしている。
「在るべき進路へ舵を取りなさい。安らかなる眠りあれ」
 静かな声音で、祈るようにツルギは言った。
 どれだけの間、彼らは空を泳いでいたのか。
 そこに意思が存在するかさえも不明ではあるが、せめて安らかなる眠りを祈らずにはいられない。

 幽霊船本体の放つ砲弾と、僚機のばら撒く散弾を浴びてホワイティとハルツフィーネが姿勢を崩した。
 その瞬間を幽霊船は窺い続けていたのだろう。
 空気が震え、衝撃を散らし、再び大砲が放たれた。どうにか立ち上がったホワイティは、不安定な姿勢のままに盾を構える。
 その盾を支えるように、ハルツフィーネのテディベアが立ちはだかるが、大質量を受けきるには足りない。
 援護のために前へ出ていた黒子を巻き込み、砲弾は甲板へと命中。
 甲板の一部が大砲により吹き飛ばされた。
 衝撃派を受け、脱力した黒子とホワイティが落下していく。【死亡】判定は免れないだろうか。
「救助に向かいます!」
 そう告げたハルツフィーネのテディベアが甲板を駆ける。
「待て!」
 伏せていたベネディクトが呼び止めるも間に合わない。立ち上がったテディベアは、僚機の放つ機銃の掃射を一身に浴び、引き裂かれた。
 綿と布が飛び散った瞬間、ハルツフィーネは【死亡】した。。

●空に浮く島
 くるりと萌火が手を振れば、きらりと煌めくクリスタルの矢が僚機へ向けて放たれた。
 ガキン、と鳴り響いた音は、思いのほかに軽かった。長い年月が経過するうちに、僚機の装甲は劣化していたのだろう。
 コクピット及び機関を射貫かれた僚機は、その機能を停止した。残る僚機の数は4。攻撃頻度も格段に減少した今ならば、本体への攻撃も通りやすくなっただろうか。
「ごめんねっ、ここからはヒーラー役にシフトするよー!」
「よろしく! 本体の方は任せて!」
 ロックオン! と一声上げて、オルタニアは甲板の手すりに片腕をかけた。そうして身体を固定しながら、もう片手では銃を操り、幽霊船の砲口へと銃口を向けた。
「狙い撃つよ!」
 火薬の爆ぜる音がした。
 針の穴を通すような精密射撃は、砲口を射貫き内部の砲弾へと着弾。
 爆炎を上げた砲身がひび割れ、幽霊船は大きく姿勢を揺らがせた。

 破損した砲身で、大砲を撃つことは出来ない。
 しかし、機銃は健在だ。
 復帰した黒子とホワイティ、ハルツフィーネが防御に回る。
 僚機を威嚇し、機銃の掃射を盾で受け、傷ついた仲間を黒子が癒す。その間にジファールは加速し、ついに幽霊船へと並んだ。
『浮島が見えたよ! 皆、もう少しだけ耐えておくれ!』
 アルコの声が響き渡った。
 目的地まであと僅か。しかし、それを邪魔するように、幽霊船はジファールへと体当たりを慣行した。

 空中では、ほんの僅かなベクトルの変化も致命的な隙となる。
 事実、激しく傾き、揺れるジファールの甲板で立っていられるものは少ない。転倒した萌火は、ハルツフィーネを巻き込み甲板を滑って行った。ベネディクトは慌てて2人を支えるが、手を離さないだけで精一杯である。
 そんな中、動き始めた影は2つ。
 銀光を纏い、ジファールの前に立ちはだかったツルギと、揺れる甲板上を自在に駆けるドウである。
「財宝か、それとも別の何かか……よほどに奪われたくないと見えますね」
「死者は大人しくこの世を去るべきです。残した物は、後の誰かが引き継いでくれるでしょうからね」
 幽霊船をこの世界へと繋ぐ想いは、尽きることのない欲望と、そして宝への執着。
 寿命か、それとも事故や病でこの世を去った幽霊船の船員たちは、よほどに強い未練を残して逝ったと見える。
 知ってしまえば、無視することは出来ない。
 彼らの未練を断つためには、言い訳もきかない絶対的な敗北を刻んでやるしかないのだろう。
 一閃。
 ドウの放った蒼い刃が幽霊船の翼を深く斬り裂いた。
  
 飛ぶ斬撃が、銃弾が、鋭いテディベアの爪が、クリスタルの矢が、次々と幽霊船を撃ち抜いていく。
 抉られ、裂かれ、ボロボロになって。
 防御も回避も投げ捨てて、幽霊船はジファールへと攻撃を仕掛け続けた。よほどにジファールを、浮島へ近づけたくないのだろう。
「ですが、そろそろ限界のようですね。聞こえますか、アルコさん! 高度を上げて島へ向かってください」
 蒼い刃が機関部を裂いたことにより、幽霊船は次第に高度を下げている。
 交差するように、ジファールは幽霊船の上を取り……。
「志半ばであったとしても、いつかはこの世を去るものだ。お前たちも、俺も……残した想いは後の者に託すんだ。悔しいだろうが、それで良しとしておけよ」
 ベネディクトの放つ、竜の爪に似た斬撃が船体に大きな穴を穿った。
 黒煙を噴き、落ちていく幽霊船。
 剥離した装甲が空に散らばる。
「虚ろなる船よ。貴方がたの未練、俺達が背負います。どうか安らかに」
 落ちていく幽霊船へと向けて、ツルギは静かにそう告げた。

 浮島の端には、朽ちかけた船着き場があった。
 おそらく、幽霊船はここに停泊していたのだろう。
 傍らに立つボロ小屋には、掠れた文字が刻まれていた。
 汚い字だが辛うじて『バビロン』と書かれているのが読み取れる。
「……高度が上がって来ているね。今回は、ここまでかな」
 ボロ小屋の隅に赤い宝石の収まる箱を設置して、アルコは言った。
 ジファールに乗り込むアルコ空団の一行は、最後にひと目、白い雲海を眺めた。
 雄大で、そして美しい。
「何かの無念でここにいたんだとしたら、出来ることをしてあげたいなぁ」
「空の者なりの冥福の祈り方などはあるのか?」
 ホワイティとベネディクトは、アルコへとそう問いかける。
 アルコは少し思案した後、静かに首を横に振る。
「空賊だからね。空の上で命を落としたのだから、祈りなんていらないよ」
 そういうものさ、と。
 そう言い残し船へと戻るアルコの背中は、ほんの少しだけ寂しそうに見えたのだった。

成否

成功

MVP

オルタニア(p3x008202)
砲撃上手

状態異常

ハルツフィーネ(p3x001701)[死亡]
闘神
ホワイティ(p3x008115)[死亡]
アルコ空団“白き盾持ち”
黒子(p3x008597)[死亡]
書類作業缶詰用

あとがき

お疲れ様です。
幽霊船の防衛網を突破し、アルコ空団は無事に浮島へと到達しました。
依頼は達成となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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