PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>猫の忍者に狙われる。或いは、黒い猫に誘われ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●猫の忍者に襲われる
 真っ赤な空。
 四方から突き刺さる猫の視線。
「ふふふふ~ん♪」
 ショートパンツに肩掛け鞄。
 白金色に染めたショートの髪型に、猫のようなアーモンド形の瞳。
 視線をキョロキョロ右へ左へ動かしながら、通りを進む彼女の名は“小桜・芳子”。
 希望ヶ浜の大学に通うぴちぴちの女子大生である。
「迷子の迷子の野良猫ちゃん、貴女のおうちはどこですか……っと」
 芳子の足元には1匹の黒猫がいた。
 にゃぁ、と黒猫は小さく鳴いて、芳子を先導するように尻尾をくねりと揺らすのだった。

『貴女は猫の忍者に狙われてる』
 ある日、大学から家に帰るその途中。
 芳子の前に現れた黒猫が、突然そんなことを言う。
 自分の耳か、それとも頭か、或いは世界がおかしくなったと芳子は思った。
 猫のような眼を見開いて、硬直する芳子へ向けて慌てた様子で黒猫は言う。
『言っておくけれど、貴女は妄想癖でも総合失調症でも病気でもなんでもない。笑わないで聞いてくれよ。これはガチだ』
 ボクは君を救けに来たんだ。
 黒猫はそう言ったが、そう簡単にしゃべる黒猫の存在なんてものを芳子は認められなかった。
 だから、逃げた。
 悲鳴をあげて、逃げ出した。
 ほかにどうすればいいのか、分からなかったから。
 右へ、左へ。
 適当に走って、走って、走りまくって、気づけば芳子は知らない街の大通りに立っていた。
 否、思えば黒猫に声をかけられた時から、芳子は知らない通りを歩いていたのではないか。
「なぁに、ここ?」
 空は赤い。
 昼でも夜でもない、赤い世界。
 右も左もパステルカラーの建物が並ぶ。
 道路の素材も、よくよく見ればアスファルトではない。
 段ボールに似ているが……。
「つ、爪とぎのあれだ、これ」
 さらに、道路の端には草むら。
 時折、草むらが揺れ、猫の姿が垣間見える。
「なに、ここ?」
 視線を感じる。
 猫だ。
 草むらに潜む、大量の猫。
 否、建物の窓からも猫、猫、猫、猫の群れ。
 普段見ている猫よりも、どういうわけか少し大きい。
 鳴き声の1つもあげず、ただそこにいるだけ。
 見張られているみたいだ。
 そう認識した瞬間、芳子の背筋に震えが走る。
『にゃぁ』
 そんな彼女の目の前に、1匹の黒猫が現れた。
 それは、芳子に声をかけた黒猫だ。
 しかし、あの時と違って黒猫は喋らない。
『にゃぁ』
 付いてこい。
 そう言うようにひと声鳴いて、黒猫は通りを歩み始めた。
「……猫の忍者に狙われてる、だっけか」
 猫の忍者がどういうものかは分からない。
 けれど、この猫だらけの世界で1人取り残されるのは嫌だった。
 だから、彼女は藁にも縋る思いでもって、黒猫の後を追いかけた。

●赤い世界のロシアンブルー
 希望ヶ浜のある公園。
 その脇にある小さな石碑が、異世界への入り口だ。
 おそらく、芳子はそこから異世界へと迷い込んでしまったのだろう。
「芳子ちゃんをこっちの世界に連れ戻してきてほしいのです」
 そう言って『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はイレギュラーズに1つの鈴を手渡した。
 “音呂木の鈴”と呼ばれるそれの音色を、真性怪異は嫌うのだという。
「芳子ちゃんが辿り着いた世界は、右も左も猫だらけといった奇妙なものです」
 多くの猫は、ただ気まぐれにそこで生活しているだけ。
 しかし、芳子を狙うという“猫の忍者”という夜妖だけは明確に人間に対し敵意を抱いていることが確認されている。
 現在、芳子と黒猫は上手く忍者との交戦を回避しているようだが……果たしていつまで続くだろうか。
「猫の忍者についての情報は残念ながら少ししか得られませんでしたが……」
 ぺこり、と頭をさげてユリーカは眉尻を下げた。
 ユリーカの事前調査で得られた情報は以下の通り。
 猫の忍者はロシアンブルーという品種に酷似している。
 猫の忍者は、普通の猫より1.5~2倍ほどの体躯を誇る。
 仕草は人間のようで、犬みたいに匂い嗅いでるような動作を行っていることが多い。
 時折、姿の見えない何者かに報告をしているような仕草を取る。
 黒い忍装束を身に纏い、ギザギザの刃が付いた武器を巧みに操る。
 猫の忍者の仕事は速い。
 急所に【必殺】の一撃を叩き込み、その刃には【致死毒】を塗布しているらしい。
「それと……これらは全て噂なのです。噂の出所は不明ですが、多くの人が見たことも無い“猫の忍者”を知っている状態」
 夜妖を見た誰かが噂を広めたのか。
 それとも、人々の噂より生じた夜妖なのか。
「とにかく、警戒を怠らないでほしいのです」
 どこか疲れた顔をして、ユリーカは言う。
 雑多な噂話から、必要な情報をピックするという作業のせいだ。

GMコメント

●Danger!(狂気)
 当シナリオでは『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●ミッション
小桜・芳子の救出

●ターゲット
・猫の忍者(夜妖)×?
忍装束を身に纏った猫の忍者。
ロシアンブルーに似た品種。
普通の猫より1.5~2倍ほどの体躯を誇る。
仕草は人間のようで、犬みたいに匂い嗅いでるような動作を行っていることが多い。
また、何かに報告をあげるような動作を取ることも。リーダーがいるのかもしれない。
ギザギザの刃が付いたナイフか短刀のような武器を巧みに操る。

忍びの極意:物至単に大ダメージ、必殺
 急所狙いの一撃。

忍びの仕事:神遠範に中ダメージ、致死毒
 毒を用いた攻撃。毒を投与する手段は多様。


・小桜芳子
ショートパンツに肩掛け鞄。
白金色に染めたショートの髪型に、猫のようなアーモンド形の瞳。
年齢、20歳前後の女子大生。
「猫の忍者に狙われている」
ある日突然、黒猫にそう声をかけられ、異世界へと迷い込んだ。
現在、黒猫と一緒に異世界を放浪中。


・黒猫
芳子の前に現れ、彼女を導く奇妙な黒猫。
おそらく夜妖。
芳子を守っているのか、それとも…。


●フィールド
異世界。
公園脇の小さな石碑がその入り口。
向かった先は、一見すると繁華街のようにも見える。
しかし、空は赤く、道路の素材は猫の爪とぎ、家屋やビルはすべてパステルカラーといった奇妙なものだ。
歩道にあたる部分には雑草が生い茂っており、その中を何匹もの猫が行き来している。
そのような世界を探索し、小桜・芳子を連れ帰るのが今回の目的となる。


●『音呂木の鈴』
 音呂木神社のおまもりの鈴。その浄い音色を真性怪異は嫌っているそうです。
 この鈴を置きに行く理由は『一先ず怪異の力を弱めるため』だそうです。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <半影食>猫の忍者に狙われる。或いは、黒い猫に誘われ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月26日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
流星(p3p008041)
水無月の名代
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔

リプレイ

●猫の世界
 赤い空。
 パステルカラーの建物に、爪とぎ素材の道路が続く。
 歩道に当たる部分は草むら。
 時折、猫の影が横切る、そんな異世界。
 どこか遠くで、にゃぁ、と猫の鳴く声がした。
 草の影に身を潜め、猫たちはじぃと“異物”へ視線を注いでいる。
 猫たちの住むこの世界において異物とは、つまりは“人”のことを指す。

 青い髪をした痩身の男が、aphone片手に右へ左へ弾んだ歩調で行ったり来たり。
『忍者のコスプレした猫だって〜可愛いじゃん! aphoneで記念撮影しとこーよ』
 へらっ、と表情を緩めた笑顔を顔に貼り付けて『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は猫と家屋へカメラを向ける。
 しかし直後、Starsの表情が呆れたような者へと変わった。
「お前は緊張感が無さすぎる! やれやれ溜息しか出ないな。何故こうも真逆なんだ俺達は」
『今更過ぎね? っても、小桜ちゃんが心配だね、どこに行っちゃったんだろ』
 コロコロと変わる表情と口調。
 Starsは所謂二重人格というものだろうか。パシャ、とカメラに映した景色を覗き込み、近くの猫へと視線を向ける。
 Starsの視線の先にいるのは、ごく普通の白猫だ。
 すんすんと鼻を鳴らして、Starsへと近づいて来る。彼に興味を抱いたのか? 否、彼の所持するまたたびの臭いを嗅ぎつけたのだ。
 Starsの目線を追いかけながら『神異の楔』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は呟いた。
「猫か。今回の敵は猫の忍者というわけだが……相手がどのくらいの規模なのかは想像がつかないな」
 その手は油断なく、腰の刀へと伸びている。
 いつ、どこから、何者が襲って来るか分からないのだ。警戒をして、し過ぎということはないだろう。
「芳子さんは、どうして猫の忍者に狙われているのかな? ねぇ、シューヴェルトさんは何か聞こえた?」
「いや、駄目だな。耳を澄ますと、怖気が走る。悪いが、僕のギフトは此処じゃ使えそうにない。芳子くんが無事だといいが」
『空に願う』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の問いかけに、渋面を作ったシューヴェルトは答えを返す。
「そっか。早く探して連れ帰ってあげたいね……ウィズィさんの方は?」
 この異世界を彷徨っている芳子の身が心配なのだろう。不安そうに目を曇らせてフォルトゥナリアはそう言った。
 視界に映る範囲に芳子や猫の忍者の姿はない。
 ならば、空からならどうか。
 小鳥を使役し、辺りを観察しているはずの『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はしかし浮かない顔をしていた。
「た……食べられました。猫を舐めていたかもしれません」
 猫は1日の大半を寝て過ごす生き物だ。
 しかし、だからといって怠け者というわけではない。むしろその逆。いざ動かねばならないときに、最大限の瞬発力を発揮できるよう、消耗を抑えるために眠って過ごしているのである。
 実際、ウィズィの飛ばした小鳥は猫の集団に追い回されて捕食された。
「とりあえず手あたり次第に見て回るしかないでしょうか。『通常よりも大きな体躯』の猫を見かけたら要注意ですよ」
 愛用の巨大な銀ナイフを肩に担いで、はぁ、と大きなため息を零す。

 ピンク色の看板に、後光を背負った猫のイラストが描かれている。
 看板に描かれている文字は『娘娘猫』。
 それが店名なのだろうか。
 どこか民族的な意匠の目立つ外観をしたビルだ。その屋上で、黒い影が交差する。
「猫の忍者。その噂の真偽と実力を見極めねばなるまい」
 直刀を逆手に構えた『黒き断頭台』流星(p3p008041)が、看板の上に着地する。一般的な太刀よりも幾分刀身が短いのは、リーチを犠牲に携行性と取り回しの良さを重視しているためだ。
 一方、ビルの屋上には黒装束に身を包んだ猫がいた。
 その手に握る鋸刃の刀には、血と肉とが付着している。
 頬を伝う血を拭い、流星と猫は同時に空へと跳躍した。

 ほんの僅かにタイミングをずらした連続攻撃。
 3匹の忍者が振るう刃が『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)の胴を抉った。
 たたらを踏んで転んだジョーイの頭部へ向けて、猫が刀を繰り出した。
「うぉぉおっ!?」
 ヘルメットのバイザー部分に『((;゚ロ゚)』焦ったような顔文字が浮いた。
 レガシーゼロの特性ゆえか、猫の攻撃はジョーイに向いているようだ。
「んっ……にゃっ!!」
 刃がジョーイの頭部を貫くその直前、横合いから割り込む『淡き白糖のシュネーバル』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)の拳がその側頭部を狙って穿つ。
 咄嗟に身を捻った猫は、祝音の拳を回避した。タタン、と地面を数度蹴って、素早く後方へと退避。
(猫さん沢山。可愛い……けど、依頼と人命が第一)
 油断なく拳を構える祝音に対し、3匹の猫は弧を描くような歩調で周囲を取り囲む。一定の距離を保ったまま、迂闊に攻めてこない辺りが、いかにも忍らしいではないか。
「助かりましたぞ。しかし……これで芳子殿は逃げられたでしょうか?」
 立ち上がったジョーイの腹から、金属片が零れ落ちた。
 ピクリ、と猫の肩が跳ねる。
 一見してジョーイは隙だらけ。
 その機を逃さず、攻め立てる気か……。
 否、猫はしかし動かない。
 チラ、と一瞬視線を交わすと、踵を返して逃げ出した。

「猫の世界で猫が忍者になって会長達を襲ってくる……意味わかんないね」
 そう言って『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は、仲間たちの顔を見まわす。
 ぱっ、と飛び散る燐光が、流星とジョーイの傷を癒した。
 一行が猫の忍者と相対したのは、今から十分ほど前のことだ。
 猫の忍者に追われている黒猫と小桜・芳子を発見し、助けに割って入ったのだ。イレギュラーズが猫の忍者と戦っているその隙に、芳子と黒猫は既にどこかへ逃げていた。
「まぁ、異世界はどこも意味わかんないし、考えるのは切り上げて早く芳子くんを助けてあげないとね」
 芳子を狙う猫の忍者も、先導している黒猫も、どちらも目的が不明である。
 一刻も早く、仕事を終えて帰還するべく茄子子は肩に止まった小鳥へ現在位置を告げるのだった。

●猫の忍者
 りん、と微かな鈴の音がした。
 少しずつ、街の外れに近づいていく。
 歩道に蔓延る猫草も、幾らか丈が伸びていた。
「ねぇぇ? どこ行くの? ってか、さっき誰かいなかった? 気のせい?」
 先を歩く黒猫へ、小桜・芳子はそう問いかける。見知らぬ空間、猫だらけの世界、先にはついに猫の忍者に襲撃された。
 そんな状況におかれてなお、良くも悪くも芳子は普段通りのままだ。
 生来のお気楽さを発揮し、何の疑いもなく黒猫について歩くのである。
「んん? どったの?」
 ピタリ、と芳子は脚を止めた。
 その足元では、尻尾の毛を膨らませ黒猫が低く唸っている。
「何……ぁ?」
 黒猫の視線を追って前を見やった芳子は気づいた。
 そこかしこの草むらや、建物の影から、何かの影が覗いているのだ。
 その数は10を超えるだろうか。
 揃いの黒い装束を着た、猫の忍者がそこにいた。
  
 黒猫は言葉をしゃべらない。
 否、しゃべれないのだろう。
 この異世界は、猫だけの世界だ。人の言葉を発することなく、猫同士でなら意思の疎通が可能な世界だ。
 だからだろうか。黒猫はひと声「にゃぁお」と鳴いて、駆け出した。
 これまでそうして来たように、黒猫は芳子の前を走る。

 飛来する細く長い針。
 千本という名の忍具である。
 四方より迫る千本を、黒猫は身体を張って受け止める。
 血に濡れた黒猫がその場に倒れた。
 慌てて駆け寄る芳子へ向けて「にゃぁ」と黒猫はひと声鳴いた。
 それからゆっくり震える脚で立ち上がり、再び黒猫は駆けていく。
「黒猫さん……っ!!」
 芳子は泣いた。
 血だらけの黒猫を案じてのことだ。
 見た目ほどに傷は深くないようだが、怪我をしていることに変わりはない。
 事実、先ほどよりも動きはだいぶ鈍くなっている。
 忍者たちにとって、黒猫は既に脅威ではないのだ。嬲るように、弄ぶように、忍者たちはゆっくりと距離を詰めてくる。
「今度は、私が助けてあげる」
 よろけた黒猫を抱き上げるべく、芳子は腕を伸ばして……。
 しかし、その手が黒猫に触れるその寸前、辺りにひらりと淡い燐光が降り注ぐ。
「やっと追いついた。それじゃあ、こんな場所とは早くおさらばしよう! 会長猫得意じゃないんだよ!」
 通りの角から猛スピードで駆け出しながら、そう言ったのは茄子子であった。

「草むらに4匹。ビルの上に2匹、ビルの間に4匹、進行方向に3匹だ。進行方向にいる猫は俺達が惹き付ける!」
 素早く猫の潜伏位置を仲間へ伝え、Starsは脱兎と駆け出した。
『この匂いで釣られない奴は居ないっしょ! ねこまっしぐらに違いない!!』
 取り出したのは“またたび”の粉末が詰まった布の袋だ。それを破って自身に振りかけたStarsへ、刀を手にした猫が迫る。
「っぐ⁉」
 3匹の繰り出す斬撃を、咄嗟に刀で受け止める。
 急所への直撃は回避した。
 けれど裂かれた肩や腕から、鮮血がぱっと噴き出す。

 巨大なナイフで猫の忍者を牽制しつつ、ウィズィは通りを先へと進む。
「そこな黒猫! 芳子さんから離れて」
 ここまで芳子を導いてきたのは黒猫だ。けれど、芳子を異世界へ誘ったのもまた、黒猫なのだ。
 黒猫が夜妖である以上、信を置くことは出来ない。
 瞳を細めた黒猫は、警戒するように1歩、芳子から距離を取る。
『にゃぁ』
 黒猫が鳴いた。
 直後、ウィズィ目掛けて10を超える“千本”が放たれる。
 舌打ちを零し、ウィズィはナイフを旋回させた。
 唸った風が金の髪を躍らせる。
 カキン、と軽い音を立て、千本が地面に散らばって……。
「あ、こら! 勝手に逃げないでください!」
 その隙に、とばかりに黒猫は芳子を伴い通りの先へと駆けていく。

 はじめに異変に気が付いたのは、高い位置にいた流星だった。
 ビルの屋上で猫の忍者と交戦しながら、黒猫と芳子の動きを目で追っていた。一見すると、黒猫は猫の忍者から、芳子を逃がすために移動しているようにも見える。
 だが、違う……猫の忍者たちは、本気で黒猫や芳子を仕留める気はないように思われた。千本の狙いは甘く、どちらかと言えば追いすがるウィズィや茄子子の進路を妨害することに注力しているようにも見える。
「芳子殿が標的なのであればその進路の先に何かがある筈だが……さて」
 跳びかかる猫の忍者の胸部へ向けて、素早く2連の斬撃を放つ。
「貴様らの目的は、彼女を狙う理由は何だ?」
 たん、と軽く地面を蹴って流星は跳んだ。
 重力から解放されたかのように、ふわりと彼女の体が浮かぶ。

 急接近。
 から繰り出される鋭い斬撃。
 それを刀で弾きつつ、シューヴェルトは声を張り上げた。
「誰か!! 手が空いている者がいれば、黒猫と芳子を追ってくれ!」
 あまり離れられてしまえば、芳子を庇うことも出来ない。 
 ウィズィやジョーイと共に、次々迫る猫の忍者を相手にしているシューヴェルトには、芳子を追う余裕が無いのだ。
 猫の忍者の振るった刀が、シューヴェルトの頬や膝を斬り裂いた。散った鮮血が灰色の髪を斑に濡らす。
 ウィズィやStars、ジョーイにしても似たような状態だ。
「っと、すぐにそっち回復するよ!」
 4人の間に位置する茄子子は、右へ左へ駆けずりながら次々に治療を施していく。
 だが、ジリ貧だ。
 猫の忍者も心得た者で、ダメージを与えることより、イレギュラーズを進ませぬことを優先している節がある。
 それは離れた位置で戦う流星にしても同じこと。
 このままでは芳子と黒猫を見失ってしまうだろう。
「せめて道を切り開ければ……」
「ならば吾輩にお任せを! 一時、壁を引き受けますぞー!!」
「っ⁉ ジョーイ!?」
 ほんの一瞬。
 猫の忍者が後ろへ下がった瞬間に、ジョーイは地面を蹴り飛ばす。
 低い姿勢で、弾丸のような勢いで。
 芳子たちの方へと向かって駆けるジョーイの眼前に、猫の忍者が素早く身体を割り込ませた。
 千本がジョーイの背中に突き刺さる。
 頭部や肩を、鋸刃が削る。
 ヘルメットのバイザーへ、しなやかな蹴りが突き刺さり、ジョーイの身体は顔から地面に叩きつけられた。
 ぐしゃり。
 倒れたジョーイは、手を伸ばし猫の忍者の脚を掴む。
 瞬間、ジョーイの左右を抜けて駆ける小さな影が2つ。
 フォルトゥナリアと祝音の2人だ。
「やっぱりあの黒猫、怪しいよね?」
 フォルトゥナリアが腕を振るえば、白い光が瞬いた。
 一瞬、視界が真白に染まる。
 猫の忍者が怯んだ隙に、2人は先へと駆けていく。
「ここは吾輩たちに任せるでありますよ! 後ろから狙われるリスクは避けたいでありますからな!」
 そう叫んだジョーイの背中へ、猫の忍者が鋸刃の刀を突き刺した。

●黒猫に連れられて
 【パンドラ】を消費し、立ち上がったジョーイの身体を燐光が包む。
 罅割れたバイザーには『ι(`ロ´)ノ』の顔文字。どうやら怒っているらしい。
 ジョーイの治療を終えた茄子子は、急ぎ足で後ろへ下がる。そうしながらも、右へ、左へ視線を泳がせ、仲間たちの負ったダメージを確認していた。
 少しずつ。
 ジョーイの左右へ、ウィズィ、シューヴェルト、Starsが移動し、道を塞いだ。
 やっとだ。
 多大なダメージを負いながら、やっと配置が完了した。
 猫の忍者をこれ以上先へ進ませないための布陣の完成である。
『にゃっ』
 4人を回避するように、猫が1匹、大きく迂回しビルの壁面へと跳んだ。
 けれどそれは、回り込んだ流星によって阻まれる。
 
 そこは寂れた公園だった。
 パステルカラーの異世界の中で、明らかにそこだけ浮いている。
 公園の入り口には石碑が1つ。
 それより先は、空気が重く、薄暗い。
 本能的な恐怖を感じ、芳子は思わず足を止めた。
 そんな彼女を振り返り、黒猫は『にゃぁ』と一声鳴いた。
 こっちへおいで。
 まるでそう言っているみたいだ。

「待って!」

 フォルトゥナリアの声が響いて、芳子は肩を跳ねさせた。
「あ、貴女たち……そういえば、さっきも」
「私たちは、芳子さんを救出に来たの。ねぇ、私達が守るから一緒に元の世界に戻ろう?」
「えっと、でも」
 ここまで導いてくれた黒猫か、それとも突然、そこに現れた人間か。
 どちらの言葉を信じるべきか、芳子は迷っているようだ。
 猫と人とを同じ秤に乗せるほど、彼女は参っているらしい。
 ここまでずっと、猫の忍者に狙われ続けていたのだから、そのストレスは果たしていかほどのものだっただろう。
『にゃぁ』
 こてん、と。
 黒猫は小首を傾げて見せた。
 可愛らしい仕草だ。
 いかにも猫らしい。
「黒猫さん、可愛い……少し、気になるけど」
 ポツリ、と祝音がそう呟いた。
  
 祝音が腰に下げた鈴が、りぃんと微かな音が鳴る。
 その音を耳にした瞬間、黒猫は全身の毛を逆立てた。
 ぞわり、と。
 黒猫の纏う雰囲気が変わった。

 ゆっくりと、黒猫の姿が変わる。
 そこにいたのは、忍装束を纏った2足歩行の猫だ。
 姿勢を低くし、黒猫が駆ける。
 振り抜かれた鋸刃の刀。
 狙うは芳子の足首だ。
 黒猫の目的は、芳子をこの場へ導くことか。
 否、考えるのは後だ。
 咄嗟に跳んだフォルトゥナリアが、芳子を庇い傷を負う。
 額から胸にかけてを斬り裂かれ、上半身は血塗れだ。
「私達が守るって言ったからね」
 顔面を濡らす血を拭い、フォルトゥナリアが立ち上がる。
 そんな彼女を、淡い光の膜が覆った。
「猫さんに、皆はやらせないから……!」
 祝音の支援を受けながら、フォルトゥナリアは手を翳す。その手に渦巻く黒い影が、怨嗟の声を響かせながら黒猫を襲う。
「え? え? な、え……?」
「……こっち」
 困惑している芳子の手を取り、祝音はくるりと踵を返した。
 りぃん、と2人を導くように鈴が鳴る。
 公園の端、石碑の付近で景色が歪む。
 歪んだ景色の向こう側には、見慣れた灰色の建物が見えた。
「ちゃんと……小桜さんを元の世界に送り返すよ」
 一瞬、背後を見やった祝音はほんの少しだけ眉をしかめた。
 黒猫の攻撃を受け続けているフォルトゥナリアが心配なのだ。
 しかし、フォルトゥナリアは祝音へ向け笑顔を送った。心配するな、と彼女の視線はそう言っていた。
 だから、祝音はそれっきり後ろを振り返ることを止める。
 そして、彼は芳子を連れて現実世界へ帰還した。

 祝音と芳子が異世界から帰還してから十数分後、フォルトゥナリアや仲間たちも無事に現実世界へ戻って来ていた。
 あの後、猫の忍者は撤退していったらしい。
「これ……あのまま黒猫についていったら、私はどうなってたんだろう?」
 ぽつり、と芳子はそう呟いた。
「……さぁ?」
 猫の忍者に狙われた人が、最後にどんな目に逢うのかなんて、きっと誰にも分からない。
 何故ならそれは、そういう類の怪異だから。
 少なくとも、その結末を知ったうえで、生還した者はいないのだ。
「は、はは。なんか、疲れたや」
 なんて。
 後は心ここにあらずといった様子で、芳子はそう呟いた。
『にゃぁお』
 どこか遠くで、猫が小さく鳴き声をあげた。

成否

成功

MVP

フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔

状態異常

フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)[重傷]
挫けぬ笑顔

あとがき

結末の分からない怪談って、なんだかぞわぞわしますよね。
お疲れ様です、病み月です。
異世界に囚われていた芳子さんは、無事に救出されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。

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